「アレがうま味無し・妨害上等の敵、0P敵。大したサプライズだ」
「クソっ、残ってる敵を倒しに行きてぇけどアイツの通り道だ。妨害もさっきのガトリングの比じゃない筈だ!」
超大型仮想敵。ビルをも超えるその巨体故影で見えない部分もあるが、ガトリングの砲門は少なくとも8つ。そうした飛び道具を抜きにしてもその巨体の一動作の余波を受けるだけで相当なダメージとタイムロスにつながることは誰の目にも明らかだ。
「こんなとこいられるかよ!」
「他の通りの方が点数稼げるよな⁉」
「稼げなくてもここいるよりマシだろ‼」
そう言って学生らは一目散にこの通りから、あの大型仮想敵から逃げ出していく。
いくら道中に獲物が転がっていようとその行き着く先が終末であるなら、そんな道は選ばない。
それが極めて正常な、常人の判断。
けれど英寿は彼らとは真逆の方向へと、大型仮想敵目掛け駆け出した。
「お、おい⁉ どうすんだよお前!」
「あいつを倒す!」
「はぁ⁉」
切島も思わず走り出し、ギーツの後を追う。両者とも走る傍らで仮想敵に向けて銃撃や打撃を繰り返す。そうして仮想敵を打破していきつつも、バリケードのように仮想敵が道を塞ぐ場で二人の足は止まった。
「なんだ、お前も参加するか? ラスボス撃破の大一番に」
「っ……なんでアイツに向かっていけるんだよ⁉ 何の意味も無いのにあんな馬鹿デケぇ……めちゃめちゃに怖い奴にさ!」
「意味ならあるさ、競わずポイントを稼げるっていうな。それに逃げ遅れた奴らもいるからな」
ギーツの指さす方を切島を見る。そこは大型仮想敵から僅か10メートル程の距離、瓦礫に足を取られ身動きの取れない者の姿があった。
「恐怖は生き物が持つ当然の感情だ。無いなんてありえない。けど、ヒーローってのは大抵自己犠牲の上に成り立ってる。人や願い……何かの為に恐怖を押し殺して向かっていくもんなのさ」
「……」
「とはいえ中学生相手のこの試験にはそこまでは求められちゃいない。大衆の流れに身を任せるか、それとも狐に化かされるか。好きな方を選びな」
そう言うと切島を置いてギーツは再び駆け出し、マグナムシューターと腕付随の銃口をバリケードのように連なる仮想敵に向ける。
当然黙ってやられてくれるわけもなく、仮想敵らもギーツに向けて銃口を向けた。
障害物はなく、射線は通り切っている。
「10対1……いいね、上等だ!」
ギーツが引き金を引いたと同時に仮想敵もゴム弾を10方向から連射する。先の戦いの倍の敵を前にギーツは怯むことなく負けじと連射し、1体また1体と撃破していく。
「ッ、流石に何発かは貰うか」
マグナムフォームのスピードはプロのアスリートレベル。ゴム弾とはいえガトリング砲台から撃たれる弾丸のスピードを前にしては、全弾避ける等不可能だ。
自傷覚悟の弾丸の雨、その撃ち合い。その雨もギーツの奮闘で次第に止み、残る仮想敵は2体にまでなっていた。
「こいつで決めてやるよ!」
砂と埃に塗れた姿でギーツはマグナムシューターの砲身を伸ばすと、シューター後部のトリガーを引いた。
<CHARGE───TACTICAL SHOOT>
「ハァッ‼」
銃口が火花を散らすほどの勢いで弾丸が放たれる。その数は1発、けれど先ほどまでの弾丸の何倍ものスピードで宙を進み仮想敵の装甲を簡単に貫いた。
『……』
「……ふぅ」
撃ちぬかれた仮想敵は音声を発することも許されず、その場で沈黙する。その光景を見て銃を下ろしギーツは一息つく
その一息ついた瞬間を狙ったかのように撃ち漏らした一体がギーツの背後を取った。
『ブッコロス!』
「なッ……」
撃ち漏らしを倒さんとギーツが振り返る。けれど後ろの正面にいた仮想敵の胴体はジャンクの如くズタボロに、地に膝を付いていた。
『ブッ……コロ……』
「お前……」
背後を取った敵は既に打破され、その残骸の上には切島が立っている。その顔にはもう迷いはなかった。
「やってやろうじゃねぇか! 俺はもう絶対逃げねぇって決めたんだ!」
「いいのか? 後悔するかもしれないぜ?」
「かもな! でも後悔するならきっと……漢らしい後悔の方が100倍マシだからな!」
「ハッ、いいね。お前みたいな奴は嫌いじゃない。……残る敵は後少しだ、行くぞ!」
仮面の内側でギーツは微笑むと駆け出した。今度は1人ではなく、切島と2人で。
「デカブツは動きが遅い。今のうちに雑魚を散らすぞ!」
「おうよ! 左の奴らは任せろ‼」
切島は大通りの左方に、ギーツは右方に駆け残る仮想敵を打ち砕いていく。
残る敵の数は手で数えられるレベル。それらの仮想敵に向かうのはギーツと切島。勢いづいた2人の猛攻を止められるわけはなかった。
通りの仮想敵は一掃。残った敵は大型仮想敵の足元で瓦礫で身動きが取れない学生らを囲み追い込もうとする仮想敵数体のみだった。
「残りはあいつらだけだ!」
「ああ。隙は作ってやるからそのまま進んでいけ」
「ああ、信じてるからな狐男!」
ギーツの指示通り切島は馬鹿正直に真っすぐ、仮想敵に突っ込んでいく。人の大きさなどノミレベルな大型仮想敵の足元で、踏みつぶされるかもしれないという恐怖を抑え走れるのは一重に彼の勇気によるものだった。
『危険レベル向上』
『ターゲット変更、排除スル』
危険レベルが高い者を優先して狙っているのか、身動きが取れない学生のいる瓦礫の方から突っ込んでいく切島の方へと180度方向を転換した。
無防備で武装も準備中。そのタイミングをギーツは逃さなかった。
「伏せろ!」
ギーツはその場で大きく跳躍し、マグナムシューター後部のトリガーを引っ張る。僅かに赤く光ったその銃口は地に立つ敵に向けられた。
<BULLET CHARGE>
「ハァッ!」
ハンドガンの銃口からさみだれのように放たれた弾丸は立ち塞がる複数の仮想敵の装甲や駆動系を打ち抜く。装甲が脆い敵は黒い煙を吐き、厚い敵は駆動に支障を来しその場で動きを停止する。
「今だ、瓦礫の下の奴らを!」
「おうよ任せとけ!」
仮想敵が動けない隙を狙い切島は瓦礫を破壊し、瓦礫下の学生を救い出す。幸い足を軽く痛めただけでそこまで酷い怪我ではないように見える。
「救出完了! こっちは終わったぞ!」
「そりゃ上々。そこで倒れ掛かってる仮想敵倒して離脱しとけ」
「へ? こいつらはお前が攻撃して止まってるんだぞ? お前がポイント貰うべきじゃ……」
「メインディッシュは俺が貰うし、学生救出クエストの報酬みたいなもんだ。気にせず受け取っとけ」
「……悪ぃな。健闘を祈っている!」
切島は頭をさげると動きを止めていた仮想敵を打ち砕き、大型仮想敵から離れるように走って行く。こうしてポイント有の仮想敵は全部戦闘不能。0P敵までの道は完全に切り開かれた。
「これで後はお前だけだな、Mr0P。俺がどこまでやれるのか……試させてもらおうか」
ギーツは大型仮想敵に目を向ける。それと同時に日差しが遮られ、自分の立つ場所にだけ影が生まれたことに気付いた。
「急に曇って来たのか……?」
違和を感じたギーツは頭上を見上げる。
空には雲一つない。そこにあるのは光に照らされ嫌に黒光りする、大型仮想敵から打ち出された「ミサイル」だった。
「マジかよ⁉」
流石のギーツも焦りつつもミサイルの直撃をすんでのところで躱す。ミサイルは地面に直撃し、その爆風でギーツの身体は数メートル後ろまで吹き飛ばされた。
ギーツは相応の衝撃を受けつつも、身体に付いた砂汚れをはたき落としながら立ち上がった。
「いてて、爆風が派手なだけでダメージはほぼ無し……PTA対策もバッチリだな」
ミサイルへの愚痴も飛ばしつつ、ギーツは銃撃を大型仮想敵に放つ。けれど返ってくるのはカンカンと弾丸が弾かれた音ばかりだった。
「銃もほぼ効果ナシ。流石はラスボス、どうしたもんか……いたッ」
次の策を考えあぐねているギーツの頭にゴツンと衝撃が走る。頭をさすりながら落ちてきたものを手に取る。それはマグナムバックルを持ってきた
箱を開くとそこにはバイクのハンドルのような柄に、車の装甲のように輝く深い赤のパーツで彩られたバックル───『ブーストバックル』が入っていた。
「待ちくたびれたよ───これで決める」
ギーツは取り出したバックルに軽く口づけするとドライバーの空いている方にバックルを差し込んだ。
<SET>
バックルの認識と共に無機質な待機音が流れ始め、マグナムを差し込んだ際と同じくギーツの左方に人の胴程ありそうなシルエットが現れる。今回現れたのはシリンダーではなく赤いスピードメーター。その中心には『BOOST』の文字が浮かんでいた。
ギーツがバックルから伸びるハンドルを回すとエンジンのふかす音と共に火がドライバーから巻き起こる。
<DUAL ON>
その火炎は宙に浮かぶ『BOOST』の文字を包み込むとマグナムフォームとは真逆の紅の鎧へと姿を変え、スライドされるかのようにギーツの脚部装甲となった。
<GET READY FOR───BOOST&MAGNUM >
「残り時間も1分足らず……これで決めようか」
大型仮想敵と視線を交わすと、ギーツはシリンダーとハンドルを回す。それは必殺の合図であり、間もなくしてドライバーが虹色に発光し始める。
<BOOST TIME>
「ハッ!」
ギーツの跳躍に呼応するかのように紅の鎧の所々から飛び出したマフラーから火が噴出し、跳躍の勢いを何倍にも強める。その勢いを受けたギーツの跳躍は建物を越え眼前の大型仮想敵の背を越える程だった。敵を眼中に抑えギーツはハンドルをもう一回転させる。
<MAGNUM BOOST GRAND VICTORY>
ドライバーの音に呼応するようにギーツの周囲に火の渦が生まれ、その全てがギーツの身体に集約した。
「ハァッ!!」
その火炎を纏いつつ渾身の一蹴りを繰り出す。その蹴りは空を隕石のように突き進んでいく。
そのスピ―ド・衝撃はこれまでの比ではなく、火炎を纏った蹴り───『ライダーキック』は弾丸をも突き返した大型仮想敵の装甲をいともたやすく突き破り、大型仮想敵に大きな穴を開けた。
『ゴ……ゴ……』
大穴を開けられて尚動こうとした大型仮想敵も限界を迎え、姿勢を崩し地震を伴いその場に倒れる。
周囲の建物を巻き込むほどの大爆発を起こし、その場に転がる残骸の一つとなった。
「これでゲームクリアだ」
『試験終了ォーーーーー!!』
プレゼント・マイクの告げる終了のゴングが却って静寂となった会場に響き渡る。
こうして雄英高校の入学試験は幕を閉じた。
英寿は変身を解除すると、試験会場の扉をくぐり外へと出る。会場の外、入り口前の広場には試験を終えた学生がわんさかいた。
皆喜び・失意・興奮と浮かべる表情は様々で、良くも悪くも今日の出来事は記憶に残ったことだろう。
広場の傍らには怪我人用のテントが幾つか設営されている。怪我人を寝かせる場所というよりも、臨時診療所といったところだろうか。
テント付近に切島の姿を見つけた英寿はテントの方へと足を運び、切島に声を掛けた。
「よう、あの後怪我はなかったか?」
「?その声……あ、お前が狐の野郎か! 誰かと思ったぜ」
「こっちの姿が化けてる方かもな。それで、運んだ奴の様子はどうだ?」
「ああ、あの子なら怪我も軽かったみたいで無事治って帰っていったよ。次の試験があるから長居出来なかったみたいで、アンタにはいつかどこかで必ずお礼するってさ」
「へぇ、楽しみが一つ増えたな。助けた甲斐があるってもんだ。じゃ」
「ちょっ……待ってくれよ!」
それじゃあと広場を後にしようとする英寿の道を、切島は先回りして立ち塞がる。
互いに伝えるべきことがまたあるだろう、と。
「俺の名前は切島鋭児郎! アンタの名前は?」
「英寿、浮世英寿だ。お前とはきっとまた会うさ。そう遠くない内にな」
「よろしくな英寿!」
「ああ」
互いの名を伝え、互いに笑みを浮かべた。
変身中における地の文の名称
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『英寿』はパンチを~
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『ギーツ』はパンチを~