頑張りました。現場からは以上となります。
「ソレア先輩、それはダメ」
「どけシロコ。今殺す、絶対に殺す」
ゆっくりと目を開けると、もう一人の自分が血眼になって刀を手に剣先を自分に向けている。自分を庇ってるのは……多分シロコ。黒いドレスを着てこっちのよりスタイル抜群だけど、シロコだ。彼女の頭の上に浮かぶヘイローは変色して欠けている。変色は反転、欠けたのは《色彩》と触れた影響だろう。
「おい起きたぞ。殺す」
「ん、絶対にダメ」
もう一人の自分が起きたのに気付いて大太刀を振りかぶる。もう一人の自分が自分を殺そうとするのは分かる。でも恐怖のシロコが自分を庇うのは何故だ?
「シロコ、なんで私を庇ってるの?」
「……この状況で私に聞くの?」
「私が私を殺そうとするのは分かるからね」
そう、
「変な先輩……」
「どけシロコ。殺すから」
「殺し合う? キヴォトス救った後ならいいよ」
乖白刀を手に立ち上がると、自分が斬り掛かる。もう一人の自分が持ってる黒い大太刀はやっぱり乖白刀の色違いじゃない。書に記された、言わば空想の武器。
「待てもできないの?」
「先生とシロコだけは……絶対に守る!」
「は?」
鍔迫り合いから距離を取り、刀を降ろす。終焉が《色彩》であるのは確定している。どうしてそこで先生が……。いや、
「先生が嚮導者……なの?」
「…………」
「…………」
二人の沈黙はそうだ、と言っている。戦意も消え、興も乗らない自分は腰を下ろし、二人を見る。
「話してくれない?」
――――――――――
意外にも会話は成立して、シロコらはここまでの経緯を教えてくれた。
何をかけ違えたのだろう。その結末が正しいものなのかはどうでもいいが、《色彩》が自分だけでなくシロコも接触していたのが理解できない。
「私は本来此処にいるはずのない存在だ。本来此処に立つのはシロコだけのはずだったんだ」
「……なるほど」
つまり、自分が今まで
「私のせいで……ごめん、ソレア先輩……」
「謝らないでシロコ。シロコが銃を取るなら私が撃つ前に斬るから。みんな居なくなっても私だけは……私と先生だけは何時までも一緒だよ。最期まで一緒に居て」
「……二人の関係は?」
二人の距離の近さに気になったことを聞く。こっちのシロコとは知り合い程度の関係だが、あっちの自分はかなり親密のようだ。
「私に残った最後の大切な人」
「終わりまでの共犯者」
もう一人の自分のシロコに対する感情の重さに若干引く。自分がこんなにクソ重感情を持てるんだという発見と、自分は重くないという謎の自己防衛を経て、話をまとめる。
「事情は分かった。存在のパラドックスを避ける為に私を殺す。でも此処は多元解釈が機能するアトラ・ハシースの箱舟なんでしょ? こっちのシロコも連れて来てるみたいだし、まだ大丈夫でしょ」
「先生が何とかする……って?」
「まあそうだね。言葉にするまでも無い」
「駄目だ、
黒い炎からこれまた空想の中に存在した銃を生み出したもう一人の自分は銃口を自分の顔に向ける。自分同士に余計な言葉は要らない。乖白刀とカエルムを構える。
「なら、やることは一つ」
「シロコは侵入者に備えて。横槍は不要だ」
「「此方と其方、生存を賭けた戦いだ」」
二つの銃口から放たれた弾丸は、両者の間で混じり、潰れ、弾けた。
――――――――――
多くの生徒たちの手を借りて、アトラ・ハシースの箱舟まで来た。シロコを見つけて、ウトナピシュティムをハッキングしている場所にシロコと向かう。
“私とシロコがハッキングを止めてみる。後のことは、お願い”
通信先から驚く声、安全を心配する声、私を信じてる声が聞こえる。まだ、ソレアは見つかってない。シロコに聞いても見ていないと言うけど、絶対にここに居るって分かる。生きているとも思ってる。リンちゃんに聞いた話じゃ刀で胸を貫かれたらしいけど、それを聞いても私の心は冷静だった。私しか知らないけど、
悔しそうにソレアの羽を握るリンちゃんを元気付けて、アリウススクワッドやSRT、今まで紡いできたことが折り重なるように辿り着いた管制室。私は
『“……我々は望む、ジェリコの嘆きを”』
『“……我々は覚えている、七つの古則を”』
引き金を引いたシロコの銃弾は一つも命中することは無かった。奴が持っているタブレットは……まさか……。
“下がってシロコ”
『先生の生体認証、完了。この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS──A.R.O.N.A、命令待機中』
“アロナ……?”
パスワードを唱えた後、アロナに瓜二つな少女が現れる。タブレットの中の存在であるはずのシステム管理者が実体化しているのは、何かしらの難しい事象が起きているからだ。
「定められた運命に抗うことはできない。キヴォトスは終焉を迎える」
「あれは……私?」
嚮導者の空間からシロコが出てくる。もう一人の自分にシロコは驚いた空いた口も塞がらない。
──ドゴォン!
轟音と共に管制室の壁が砕かれ、黒い影が反対側の壁に衝突した。
「あれ? 先生」
砕かれた方の壁から砂煙を払いながら白故ソレアが室内に入ってくる。埃一つ無い真っ白な制服に大太刀と拳銃。本気の臨戦態勢だ。
“無事でよかった”
「いやあ、心配させて申し訳ありません」
「……ハァ!」
こっちを見たまま、ソレアは自身に迫る凶刃を大太刀で防ぐ。刀を振ったのはシロコと同じようによく似た黒いソレア。リンちゃんから聞いた通り本当にそっくり……いや本人なのか。
私はシロコが攫われるのも、《色彩》が襲いかかるのも
「何故……何でお前はこんなに強い?」
「■■■に扱かれたからかな。
「連邦生徒会会長が? 巫山戯るな! 私達を救わなかったくせに……そっちでは私を扱いていただと?」
「少し……ほんの少しだけ何かが違ってただけなんだよ」
「その
剣戟が鳴り響いて、二人はそれぞれの“先生”側に傍まで離れる。
「先輩……」
「シロコ、彼奴は私が殺す。あっちのシロコは任せる」
「えっと……」
「先生、指揮を。シロコを軸に食らいついて来て下さい」
黒いソレアは炎からハルペーとスコヴヌングを生み出し、白いソレアは両手で乖白刀を構えて待ち受ける。ソレアの駆け出しと共にシロコ同士も戦闘を開始する。
「第二ラウンドだ」
「いや、最終戦だ」
キヴォトスでは珍しい近接武器が火花を散らし、目では追えない駆け引きの数々が行われる。黒いソレアはダインスレイヴやティルウィングと次々に剣を生み出してはソレアの乖白刀に砕かれる。
~~~~~
シロコ同士の戦いは黒いシロコが、ソレア同士の戦いは白いソレアがそれぞれ相手を鎮静化させた。黒いシロコと白いソレアはお互い戦う気はないみたいで、戦闘は一時停止の状態となる。
「そういえば聞いてなかった。ねえ私、どうしてそっちでは《崇高》が二つ存在できたの?」
「ハア……ハア……」
息も絶え絶えに黒いソレアは私を睨みながら舌打ちすると、ゆっくりと喋り始めた。
「知ってる通り、世界を終焉に導く《崇高》は一つの世界に一つまでしか存在できない。二つ目以降は、世界が強度を保てずにすぐさま消滅するが、既に終焉の《崇高》だった私が無理矢理に恐怖に反転した。《生きてるはずがなかった私》と《これから世界を滅ぼすシロコ》の二つの《崇高》が私の世界に存在する前に、《恐怖に堕ちた私》と《世界を滅ぼす運命を奪われたシロコ》に変えた」
「驚いた。神秘を全て反転させるなんて、下手すれば即死だぞ。巻き込まれて反転したんじゃなかったのか」
「私がシロコを独りにする訳ないだろ。避けられない運命なら……一緒に背負おうと決めたんだ」
「そっか。……そっちのシロコはどうして私を撃たないの?」
「撃てる……わけが無い。別の時間軸だとしても、先輩は先輩……だから」
『……警告。「アトラ・ハシースの箱舟」の「自爆シーケンス」が準備中。当該シーケンスが起動した場合、爆発後の船内における生存確率は0.0003%以下です。砂狼シロコ、砂狼シロコ、白故ソレア、白故ソレア、先生。全員死亡と予測します。至急、対処法の設計が必要──』
A.R.O.N.Aが無機質な声で告げたことに私と白いシロコ以外が驚愕する。みんなは上手くやってくれたようだ。追い詰めたぞ、プレナパテス。
「……そっか。そう……時間稼ぎ。──みんながやり遂げるって信じてたんだ」
“みんなを信じてるからね”
「そう、私が勝てなくても構わない。
「……え? じ、自爆? 待って待って先生、自爆シーケンスって何ですか?」
「シロコ? え? 何それ知らなかったんだけどシロコさん?」
置いてけぼりのソレア(白黒)が私とシロコに詰め寄る。頼りになるのに、こういう一面があるから守ってあげたくなるんだよな、と思いながら一連の流れを簡潔に説明する。
「先輩がずっと戦ってる間に私が頑張った。先生を始末すれば、何度でもまたやり直せる」
「……分かった。
『……指示を確認。「シッテムの箱」の演算支援を中止。戦闘支援モードに切り替えます』
場所が切り替わり、風景がガラリと変わる。最終決戦だ。私が“カード”を取り出すと、プレナパテスも“カード”を取り出す。
“さあ、どちらの「カード」が勝つか勝負だ”
「私も応戦します。先生、指揮を」
黒いソレアは動く気配が無い。完全に戦闘不能になっている。シロコとプレナパテスを止めて、キヴォトスの終焉を退ける。シグヌスとカエルムを構えたソレアが先手必勝とばかりに発砲した。
“聞かせてもらうよ。そっちで「何が」あったのかを”
曇らせは少ないと言ったな。あれは嘘だ。
次から2連続で曇らせになります。
書く気なかったけどハッピーエンドいる?
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いる
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いらない