空は酷く澄んでいる   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

軽いジャブです

ではどうぞ


太陽に手を伸ばした(バッドエンド1)

 

 

 

 空を飛ぶ。高く、高く、何処までも、誰にも止められることなく飛び続ける。

 

 

 

 

 手を伸ばす。遠く、遠く、何処までも、()()()を遮るように。

 

 

 

 

 

 白い翼は燃え尽きて、白い角は砕け散って、爆炎がこの身を焦がす。左腕は千切れ、熱波が肺を潰し、衝撃は内臓をグチャグチャにする。

 

 

「護れた……護れたよ、私…………。あなたに託された人達を……みんなを……」

 

 

 無事な古聖堂を見届け、重くなった瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「ハッ……ハァ……ハァ……」

 

 早朝の公園で竹刀を振っていた時、また勝手に発動した能力の反動に頭を抑える。嫌な汗が服とくっついて不快感が襲いかかってくる。

 

「クソっ……」

 

 二度目の能力の暴発。何時、何処で起きることなのかはわからない。得られた情報は自分が爆発に巻き込まれて死ぬことだけ。一体何処にあんなミサイルがあったのか。

 

(アリウス……)

 

 エデン条約、トリニティ総合学園、ゲヘナ学園、実態の不明なアリウス分校の憎悪……。

 サクラコが共有してくれた情報からも、アリウスに()()がある可能性は高い。自分の居ない間に、あそこがどうなったのか。自分は知らない。

 

(エデン条約調印式は……明日……)

 

 恐らくミサイルが飛んで来るのは調印式当日。ゲヘナとトリニティのトップが集った時だろう。主犯はアリウス、目的はエデン条約を乗っ取ること、次いでゲヘナとトリニティの消滅……。

 

 

 日課の鍛錬を終えて、シャワーを浴びてからシャーレに向かう。白い制服を着て、白い愛銃と箱を持ったのを確認して家を出る。自分でも白一色な姿だと理解してるけど、何故か白色の必需品ばかり巡り会ってしまう。これも運命ですか……。

 

 

――――――――――

 

 

「おはようございます」

“おはようソレア”

「朝食を用意しますから、シャワーでも浴びて待ってて下さい」

 

 先生はかなりの仕事人だ。昨日も遅くまで仕事をして寝落ちしたのだろう。髪はボサボサで、硬い机で寝たから身体が痛そうだ。

 慣れた手つきで買ってきた食材を調理していく。今日の朝食は具沢山のポトフ。

 

“ソレア~。良い香り~”

「ではいただきましょうか」

 

 

 先生が仕事を忘れられるよう休憩室で手を合わせる。うん、これは傑作だ。美食研究会も黙らせられる自信がある。

 

“今日も美味しかったよ。ありがとうソレア”

「お粗末さまでした」

 

 食器を片付けて、執務室に戻って仕事を始める。先生も新しい環境に少しづつ慣れてきたのか、ペースがだんだんと速くなっている。自分としてはありがたいけど、また仕事にのめり込んでしまいそうで心配でもある。

 

 

「…………」

“…………”

 

 

 ペンが紙の上を走る音だけが部屋に響く。自分は当番の子と違いシャーレ専属の部員だから、毎日此処に通っている。何時もシャーレに居ると、久しい友人との再会の機会が多い。やれ何をしていただの、やれ何処に行っていただの、自分が愛されていることを感じて照れくさくなる。

 

 

(相談、すべきだよね……)

 

 

 今日、能力で得た古聖堂にミサイルが降ってくる情報は絶対共有した方がいい。そうすれば被害を減らしたり……

 

(相談……して良いのだろうか?)

 

 自分の《未来》は確定した。なら他の人は? 自分が軽々しく未来のことを広めて大丈夫なのだろうか? バタフライエフェクトのように歯車が狂って、もっと悲惨な結末が訪れるのではないのだろうか?

 

 

 

 

 

「ねえ、先生……」

“? どうしたのソレア?”

 

 無意識に声を出してた。ハッとして口を閉じる。先生の優しい視線に貫かれながら、自分は恐る恐る聞く。

 

「先生は……たとえ死ぬとわかってても生徒の為なら危険の中に飛び込める?」

 

 先生は少し考えた後、微笑んで答えてくれた。

 

“うん。私は先生だから、生徒達の為なら喜んで飛び込むと思うよ”

「………………そっか」

 

 良い大人、狂人、有能指揮官、人たらし、変態、変質者、性犯罪者予備軍、このキヴォトスでの先生の呼び名は日を増す事に増殖するが、自分から先生に対する評価は何一つ変わらない。

 

「先生は何があっても先生なんだね」

“そりゃ先生だからね”

「ふふ、そうだったね先生」

 

 揺るぎない信念を持った強い人。本性は何があっても善性であり、()()()()()()()()自分とは違う。

 

「じゃあ…………はい」

“これは?”

 

 だから自分は縋ってしまった。結局、怖かったんだ。どうしようもないと分かっていても、それでもと可能性を捨てきれなかった。

 

「私の羽根です。御守りにどうぞ」

“ありがとう。とても綺麗だね”

()()()をかけたんです。この世に二つと無い一点物ですよ」

 

 貼り付けた笑顔で先生に笑う。するべきことは決まった。

 

「用事があるのでこれで失礼します」

“うん、お疲れ様”

 

 執務室の扉は、いつもより固かった。

 

 

――――――――――

 

 

『ねえセイア。貴女の未来予知と私の未来感知、何が違うのかな?』

 

 昔、セイアとそんなことを話したことがある。

 

『ふむ……。どちらも未来を知る、という点に置いては共通している。私が予知夢、夢として未来のことを知るのに対して、君のそれは能動的なものだ』

『ねー。試したことは無いけど、私の《未来》とセイアの未来は同一のものなのかな?』

『私もソレアも狙った未来を見れないから難しいな』

 

 未来を語る宿命の二人。自分とセイアだけの秘密だった。真実を確かめる前にお別れがあって、それからセイアの顔は見てない。

 

 

 

 

「止まれ! ここら辺はワタシらのナワバリだ!」

「その制服……連邦生徒会!?」

 

 ゲヘナの自治区に入った途端、スケバン共に取り囲まれた。治安の悪さは相変わらずである。ヒナの仕事は未だに忙しそうだ。

 銃を抜いて構えると、複数の足音が近付いてきた。新手かと思ったが、知り合いの声に構えを解く。

 

 

「…………ソレア?」

「久しぶり、ヒナ」

 

 ゲヘナの治安維持に尽力する風紀委員会の長。自分の旧友の一人、空崎ヒナがいた。

 

「遊びに来ぐふぇ!」

 

 ……久しぶりの挨拶が過激なタックルとは、たまげたなあ。

 

 

――――――

 

 

「凄い仕事量だね。シャーレとそんな変わんないや」

 

 

 案内された風紀委員会の部室で、ヒナの机の上の書類を見て呟く。

 

 

「…………急に消えたと思ったら、急に現れて、何の用?」

「冷たいなー。さっきは熱烈なハグをしてきたのにこの変わりよう……。プライベートの時に来なかったのは謝るよ。休み時間を貰ったとでも思って許してくれない?」

「ちょっとあなた、委員長に対して馴れ馴れしくないですか?!」

 

 

 因みに、ヒナは自分の横っていうか真横っていうか……、密着して座っている。どっちかっていうと馴れ馴れしいのはヒナの方だと思うが。彼女は確か………………あ、行政官の天雨アコか。

 

「私はシャーレ所属の白故ソレア。本日は特に用事も無く、ただ遊びに来ただけですよ」

「はぁ……、用がないなら帰ってくれない? まだ仕事があるから……」

 

 自分に引っ付いてる人の発言とは思えない。あの、力強いですヒナさん。

 

「ヒナは気にならないの? 私が今まで何をしてたのか……とか?」

「……気になる」

 

 出された紅茶を一口飲んで、ムムっとなったヒナを見る。やっぱりヒナも昔と何一つ変わらない。一昔前は、よく二人で不良を制圧して回ったもんだ。

 

「長くなるよ~」

「やっぱりいい」

「そう、あれは今から36日……いや、もっと昔の出来事……」

「……聞きなさいよ」

 

 

~~~~~

 

 

「シャーレ所属ってことは、調印式には顔を出すの?」

「うん。先生の護衛として随伴する予定だよ」

「あなたが先生の護衛なら安心ね。さっきも見たけど、昔よりだいぶ強くなったみたいじゃない」

「ふふ、私がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたと思ってるの?」

 

 他愛ない会話が今は何よりも幸福で、自分を納得させるだけの理由になった。

 

「……ねえヒナ。人は、何処まで飛んでいけると思う?」

「どういうこと? まあでも、飛べる翼を持つあなたなら何処まででも飛べるんじゃないの?」

「…………そうだね」

 

 もう下は見ない。自分は、上に飛び続けるだけ。ヒナのお陰で覚悟が出来た。

 

「じゃあそろそろ失礼するよ。明日に支障が出たら嫌だからね。ヒナも帰ってすぐにでも寝るんだよ。仕事なんて後からでも出来るからね」

「はいはい。早く帰って」

「つれないなあ」

 

 ソファから腰を上げて、制服を正す。

 

「じゃあ、またね」

 

 自分に次は無いと知っていても、明日があると求めずにはいられなかった。

 

「うん。またね」

 

 どうか願っていておくれ、何時かと信じておくれ。《未来》の中の真実から、希望の結末を望んでおくれ……。

 

 

 

――――――――――

 

 

“暇だ……”

「こういった大事な式典は始めるのに時間が必要なんですよ」

“ソレアが居てくれて良かったよ”

 

 

 調印式当日。身軽な先生は少し早めに会場入りし、場の最悪な空気から逃げるように古聖堂に移動した。あんなのは絶対平和条約を結ぶ空気じゃない。まさに一触即発、きっかけ一つでいつ戦闘が起きてもおかしくない。

 

“ソレア…………”

 

 先生は朝から難しい顔をしている。何か思い悩むような、決断に困っているような様子で自分に話しかける。

 でも、自分に会話している余裕は無い。能力を使って《未来》を見ても、何も変わってはいなかった。

 

“昨日言ったことだけど……”

「すみません先生」

“ソレア……?”

 

 

 ……タイムリミットだ。

 

 窓から外に出て屋根に登る。能力を使いながら翼を大きく広げ、空を翔る。碧天の美しさに包まれながら、高度をひたすら上げていく。

 

「権限認証、パージ!」

 

 白い箱が空中で分解される。中から現れたのは背丈をゆうに超える大太刀。銘は乖白刀(かいはくとう)()()()が別れ際にくれたオーバーテクノロジーウェポンだ。白い刀身は幽霊みたいに透明なのに、覗き込めば自分の顔が写るくらい光を反射している。それを両手でしっかりと握りながら、まだ高度を上げる。

 

(5……4……3……2……)

 

 《未来》と今が重なっていく。

 

(1……)

 

 彼方から光が迫ってくる。ステルス性を有しているのか、視認しづらい。

 

(……今!!)

 

 全力の一振が空を斬る。手応えが伝わってきた瞬間に身体を捻って大太刀を穿つ。

 

「はあああああああああああ!!!!!」

 

 これは《未来》を知ることによって辿り着く《未来》。このミサイルが何処から飛んできたのかなんて自分には関係ない。これが調印式に集まった全員に危害をもたらすことだけが解ればいい。

 

 

 

 

『“先生”を、支えてあげてください』

 

 

 

 ()()()に頼まれた。みんなを任せると、護ってとお願いされた。

 

 

(だから私は……)

 

 

 ミサイルに張り付くだけで精一杯だ。左腕に力を込めて突き出す。左腕はミサイルの表面を貫き、鋼鉄の板とより密着する。

 

 

(皆を、先生を…………)

 

 

「護…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

“はぁ……はぁ……”

「そんなに慌ててどうしたの先生?」

“ヒナ! ソレア見なかった?”

「見てないけど。どうし……」

 

──ドゴォォォォォォォ!!!

 

“うわっ!”

「先生!」

 

 轟音と共に古聖堂が大きく揺れる。突然の襲撃に、場は騒然となる。

 

 

「何が起きた!」

「きゃあ!」

「戦闘態勢をとれ!」

 

 周りの生徒達も慌ただしく走り回る。事態の対応に追われる生徒達を尻目にヒナは先生に駆け寄る。

 

 

 

「先生、大丈夫?!」

“う、うん。ヒナは?”

「私は大丈夫。それよりソレアは……」

“そうだ、ソレアが!”

「ソレアがどうしたの?」

 

 

 

「あ……あれは?」

 

 トリニティとゲヘナの生徒が入り乱れる中、その声に二人が窓の外を見る。

 紅く燃えたミサイルの破片……いや、もっと見覚えのあるもの。

 

 

“ソレア……?”

 

 先生の呟きにヒナは一瞬聞き間違いだと思いたかった。

 

「先生……ソレアってどういうこと?」

“ソレア!!”

「待って先生!」

 

 

~~~~~

 

 

 外に出た二人が見たのは、燃え焦げた何かが大きなクレーターを作っている景色だった。

 

「先生…………嘘よね?」

“ソ……レア……?”

 

 ヒナが穴の最深部に飛び込む。不安定な瓦礫を降りると鉄臭さと肉の焦げた臭いに眉を顰める。そっと赤黒い何かを抱き上げると、白い瞳がヒナを映した。

 

「あ……ヒナ……」

 

 左腕は断面もグチャグチャになるほど千切れ、美しかった白い翼は右翼が根元から先が無くなって、左翼がボロボロと焦げ落ちている。

 

「……!? 何があったの?! 敵は何処!?」

「すぐ……そこ……」

 

 ソレアの指した方向を見れば、ガスマスクを着けたアリウス生徒の大群がこちらに接近している。ヘイローがぎこちなく動くのを見て、ヒナは焦燥する。

 

「ヒナ……」

「喋らないで!! 今救急医学部を呼んだから、きっと治るから無理しないで!」

「ありがとう……」

「急に現れて、仲良くなったと思ったら急に消えて、また現れたと思ったら……死にかけてるなんて、いい加減にしてよ!!」

「はは……何も言い返せないや」

 

 

 

 

─ピシッ

 

 

 

「あ…………」

 

 ソレアのヘイローは時が止まったように動かなくて。ヘイローの円に亀裂が入る。

 

「先生……、駄目だよ」

“ッ!? ソレア!”

「そのカードは使っちゃ駄目」

“でも……”

「うん。私の道はここが終点。先生……私はあなたの生徒だよね?」

“もちろん”

「ふふ、嬉しいなあ。……ねえ先生、皆を護れたよ。あなたの生徒として……誇っていいよね?」

“ソレア?”

()()()との約束。ちゃんと果たせて良かった……」

 

“ソレア!!!”

 

 

「嫌……嫌嫌嫌嫌…………嫌だ!! 目を開けてよソレア! ソレアぁ!!!」

 

 目の光は無くなって、ヘイローも無くなって、左腕も無くなって、白い翼も角も脚も……。

 

 ヒナが抱き上げているのは、もう何者でもない焼死体だった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 キヴォトスは救われた。




1
最期に会いたかった旧友の手の中で最後の言葉を告げる。
大切だから……護りたい。
産まれるはずのなかった私に愛を教えてくれてありがとう。


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