……投稿の、間隔と進捗は?
わ、わかんなピギィ!
ではどうぞ
「おや? おやおや……。こんにちは先生」
気が付けばまたここに戻ってきていた。黒いだけの空間、私は力無く項垂れる。
“(また……救えなかった)”
ソレアはまた死んだ。私のせいで死んだ。
「おや? その様子……。貴女とワタシは初めましてではないですね? 見ていましたよ、貴女の選択全てを」
両腕を掲げ、ドクトゥスは舞台演技のように大袈裟にリアクションをとる。
「それで……。どうでした?」
“……どういう意味?”
「ワタシの推測では、貴女は二度目の先生ですよね? どうでしたか? 白故ソレアの二度目の死に方は。貴女の選択の結果として、満足する終着点でしたか?」
“そんな訳ない!”
声を荒らげてドクトゥスの胸倉を掴む。どんなに睨みつけてもドクトゥスの表情は変わらない。そもそも、こいつに表情なんてものはないが。
“……お前は一体何がしたい。なにが目的だ?”
「おや? おやおや……。先生、解釈違いがあります」
私に掴まれた体勢のまま、ドクトゥスは言う。
「貴女の目標は白故ソレアの死亡を防ぎ、まだ辿り着いていないエピローグを目指すこと。ワタシはその
“……”
「ですが、貴女が欲しい情報を話すことは出来ます。ワタシは知者、観測者、予測者、記録者、記憶者。今、聞きたいことはありますか?」
こいつはゲマトリアだが、恐らく敵対してる訳ではない。でも決して味方と思ってはいけない。絶対的第三者、こいつと私の間に契約や信頼は無い。なら……
“ソレアを助ける方法は?”
「白故ソレアを助ける方法……ですか。申し上げましょう」
生徒を……ソレアを助ける為なら。私は先生として、大人として、頭を下げる。ドクトゥスは一呼吸置いた後、無慈悲に私に言った。
「知りません」
“……は?”
「
“…………”
「だから手を貸すのです、先生。貴女の唯一の叶えられない望み。白故ソレアの生存する物語に辿り着いて下さい。ワタシはそれを楽しみにしています。それはもう大いに」
ドクトゥスの動きが鈍くなる。時間の合図だ。
「おや? おやおや……。時間切れです、先生。また貴女に会えるのを、ワタシは楽しみにしています。それはもう大いに」
――――――――――
“……ハッ!”
シャーレの執務で目が覚める。急いで日付を確認すると、エデン条約調印式の日。また……繰り返されてる。
─コンコン。
「失礼します」
扉が開いてソレアが入ってくる。昨日も会ったのに、酷く懐かしく感じる。
「おはようございます。先生」
“おはよう、ソレア”
数秒ソレアの顔を見ていると、ソレアはムスッとした顔になって、私の机の上の物を片付け始めた。
「また寝落ちしたんですか? 朝食作っときますからシャワー浴びてきて下さい」
“う、うん。ありがとうソレア”
また、一日が始まる。
――――――――――
あれから、何度もあの日を繰り返した。
ソレアが巡航ミサイルを防ぐのを止めても、止めなくても。ソレアは死んだ。
巡航ミサイル、アリウススクワッド、
私は、ソレア自身を止めることもできなかった。
「先生、おはようございます」
「先生、顔色が優れませんね。今日は休みましょう」
「先生、今日の朝食は自信作ですよ」
「先生、おかわりありますから」
「先生、そろそろ行きましょう」
「先生……」
先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生………………。繰り返す。
「先生、暇そうですね」
時間まで予定の無い私は、椅子にもたれて天井を仰ぎ見る。初めて来たのに……もう見慣れた光景だ。
“ソレア”
「はい、どうしました先生?」
“私はソレアに生きて欲しい”
「……《未来》を知ったんですね。でも、止めないで下さい」
“ッ! ソレア!”
ソレアの手を掴む。振り向いたソレアの顔は、無表情だった。
「先生。貴女が何度目かは知りません。でも、そんな上辺だけの言葉を使わないで下さい。正直、今の先生は先生であっても私達の先生じゃない」
止められなかった。
「そんな中身の無い発言を先生がしないで下さい」
「先生……止める気がないなら最初から何もしないで下さい」
「押し付けないで下さい。先生らしくないです」
「軽々しく言わないでください!」
「……お願いです先生」
助けられなかった。
「後は頼みます……」
「先生と過ごした日々は……楽しかったです」
「皆には……先生が必要なんです……」
「今まで、ありがとうございました……」
「さようなら……先生」
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す。
「おはようございます、先生」
そして今日が始まる。感覚が狂っているのか、それとも前からなのか、身体が重たい。
“……ソレア”
「なんですか先生?」
“逃げよう。何処か遠くに……”
数えるのを辞めてから何度目かの朝。私はソレアの肩を掴んで詰め寄る。
“そうすれば……ソレアは……”
「駄目ですよ。先生」
ソレアの声が頭の中に入ると自然と心が落ち着く。ソレアは少し困った顔で、私の手に手を重ねる。何度この手の温かさと冷たさを感じたんだろう。
「貴女は先生です。大人としての責任があります。何より、救いを求めている生徒がこのキヴォトスには溢れています」
“でも……”
「まだ終わりが来た訳じゃないですよ。まだ……続いているんです。先生、『あなたにしかできない選択の数々』。『そこに繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです』」
瞳の中の光は眩しくて。和やかに笑う君は何処か儚くて。そこに居るはずなのに、手の届かない空の向こうに居る気がして。全てを悟った様子でソレアは私の手を離す。
「さ、朝食にしましょう、先生。今日はポトフですよ」
いつだってそうだ。中途半端な私は、言葉だけで……ソレアを止められない。
――――――――――
「おや? おやおや……。こんにちは、先生。その様子……。ワタシと先生は初めましてではないですね? どうやらかなり参ってしまっている様子。此処に来たということは、また選択なさるのですね。このドクトゥス、貴女を敬服します。それはもう大いに。何か聞きたいことはありますか? 手を貸しますよ、先生」
“…………”
「おや? どうやら限界が近い様子。……ええ、手を貸します、先生。気付いてらっしゃらないようなので、白故ソレアの心情をお話ししましょう」
“?”
「先生が白故ソレアを止めようとした時、貴女の“生徒の為なら死に飛び込める”発言が引っかかっていたようです」
“!!!”
ドクトゥスの発言に顔を上げる。…………確かに自分はそのようなことをソレアに言った。“先生”として、“大人“として、その時はそう答えたはずだ。
「生徒の為なら死をも恐れない貴女の姿勢が、白故ソレアの覚悟を作っていたようです」
“私の……”
「ああ、勘違いなさらないで下さい。貴女のその姿勢を否定するものじゃありません。白故ソレアはその姿勢を美しく感じているようです。それ故に、白故ソレアは貴女の言葉では止まらないのでしょう」
息が苦しくなって膝から崩れ落ちる。私にとってその推測は、これまでの行いが全て無駄なものと言ってるようなものだ。私にソレアを止めることはできない。
“じゃあ、どうしようもないの?”
“ソレアは死ぬしかないの……?”
心が折れそうだ。数え切れない程のあの日を過ごし、ソレアを殺し、見捨て、庇われ。私の精神は限界を迎えていた。
「貴女の“選択”ですよ。“先生”として、“大人”として、ソレアが本当に期待している言葉は貴女の中にのみ存在します。おや? ……そろそろ時間です、先生。ワタシは貴女の物語を楽しみにしています。それはもう大いに……」
そして、私の意識は落ちた。
――――――――――
朝日が優しく包み込む執務室の机で、私は眠気から目を背けた。ゆっくりと背もたれに体重を掛けると、キシキシと音を鳴らす。傍から見れば、清らかな目覚めのように見えるだろう。
確かに、重たかった体は何故か軽い。思考もクリアになっている。この一日は、何処か違っていた。
─コン、コン。
この穏やかな朝に、いつものノック音が響く。硝子のような声と共に扉が開かれる。白い連邦生徒会の制服を着こなし、上品な佇まいで部屋の中に入ってくるソレア。どうしてか、私は今見ている光景を美しいと思えた。
「先生、おはようございます。寝覚めは良さそうですね」
ソレアは机の上の書類を整理しながら微笑む。その一挙一動が、今日は何だかよく見える。
「今日は調子が良さそうですね。さ、シャワー浴びて来てください」
シャワーを浴びて、休憩室でポトフを食べる。このポトフも飽きるほど食べたのに、しっかり美味しい。
ソレアが私に求めている言葉……。シャワーを浴びている時から考えてるけど見当もつかない。
「……顔に何か付いてます? そんなに見つめて、どうしたんですか?」
目を逸らして少し恥じらいながらソレアはスプーンを置く。ソレアは大人びてるけど、偶にこうして幼い所を見せてくる。そしてこう思う、この子はちゃんと私の生徒なんだって。
“……ソレア”
「はい」
“いつの日か、君に言ったよね。生徒の為なら死ぬとわかっていても危険に飛び込むって”
「昨日のことですよ。はい、確かに先生は言いました」
昨日のことか。自分の感覚が狂っていることに苦笑いする。頭は回らない、ただ思ったことを口にする。
“もし、ソレアが死ぬとわかってて危険に飛び込むなら。私は止める”
「……何故ですか? もし、私が危険に飛び込むとして。同じことをする先生に止める権利がありますか?」
“あるよ”
間もなく答えるとソレアが顔を歪ませる。その目は、理解できないって言っている。限界な私の精神では、ソレアの言動にどうこう思考する余裕は無い。無理矢理でも自分のペースで口を動かす。
“私は先生だから。生徒が危険に飛び込むと知っていて、それを見逃す訳にはいかない”
「……無茶苦茶ですね。知ったなら理解したはずです。私の《未来》を、辿り着く運命を」
“知ってる。それはもう嫌なほどに”
「なら」
“でも!!”
何度諦めようとしたか。もう十分頑張った、もう終わりでいいと何度思ったか。
“でも、私は望み続けたい。ソレアがこれからも生きていく《未来》を!”
「ッ!」
ソレアの手を掴む。目線が定まらず、狼狽えるソレア。私は真っ直ぐにソレアを見る。白と蒼のオッドアイ、キヴォトスでも珍しいその瞳に自分の顔だけを写すくらい。次第に落ち着きを取り戻したソレアはゆっくりと瞬きをして、寂しげに、何処か期待の眼差しで私を見た。
「私が生きる《未来》……。ありますかね、そんなの」
“私はあると
「……ふふ。
“……変だった?
「いえ、先生らしくていいです」
ニコリと笑った満足気な顔で、ソレアは食器を片付けて立ち上がる。
「さ、そろそろ行く準備しないと遅刻しますよ」
今のソレアに感じていた危うい雰囲気はもう無い。これが《未来》にどう影響しているかは分からない。私は安堵しながら同じく立ち上がる。
“時間あるんだから、ゆっくり行ってもいいんじゃない?”
軽口を言えるくらいまでは、今日は順調だった。
――――――――――
古聖堂にて、今回の選択の時が来た。
「先生、行ってきます」
その大きな白い翼を広げてソレアは窓辺に手をかける。ソレアが向かおうとしているのは、ここ古聖堂目掛けて発射された巡航ミサイル。ヘイローを持つソレアでも簡単に命を落とす威力を有した兵器だ。今回こそ私は……
「信じて」
何か言おうとして、ソレアの言葉に止められる。
「信じてください。私が戻ってくると」
白と蒼の瞳が私を見る。そこには覚悟があった。
“(信じる……)”
思い返せば、私はソレアの行動をどうにかしようと一辺倒に説得していた。ソレアにはソレアの考え、覚悟があるはずだ。“先生”として、“大人”として、私は……
“いってらっしゃい”
それでも精一杯の想いを、私はソレアに伝えたい。
「いってきます」
陶器のように艶やかな白い翼が、キヴォトスの空へと羽ばたいた。
次回から次章に入る……かも?