白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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書きたいことあり過ぎて今回も走り気味だと前回の後書きで説明しましたが、少しでもわかりやすくしようと自分でも落ち着けるよう前編と後編にわけました。

さらに言えばこれは前置き。後編が本編だったりする。

……おかげで5000文字手前しかありません。
後々修正したいと思います。


第十話 たった一日、されど一日【前編】

クックドゥードゥードゥー。

何故だか聞こえた鶏の声に小波は目を覚ました。

 

時刻はデジタル時計から午前六時だとわかる。

今日はどの試合も放送されないオフの日だが、明日の午前から“西武ライオンズ”との試合があるので、今から東京に移動しなければならない。

 

気怠いまま荷物をスポーツバッグに詰め込む。昨日の楽天2戦目は勝利に終わったものの、小波の機嫌は過去最高に悪いと言っても過言ではない。

千羽矢が行方不明になったせいで、小波は優輝と冴花から質問責めに合わされたのだ。「どうして千羽矢の傍にいなかった」だの「あなたが隠したわけじゃないよね?」と疑われたりと散々だった。それは小波も気にしているのだから寝ようにも寝れない、気分展開に映画を見たが気分が晴れることはなかった。

いつしか「不眠症とはこんなものだろうか」と思ったところでようやく熟睡。その時の時刻は午前五時、睡眠時間は一時間未満だ。

 

 

「すごいクマだよ……」

 

「千羽矢がどこにいるかわからないまま移動だぞ……寝付けるわけないだろう」

 

「やっぱり監督に言って、しばらく残ってたほうが……」

 

 

新幹線を使って東京、そこから電車で埼玉へ向かう中、煌びやかな景色とは裏腹に恐ろしいほど深いクマを雨崎に見せる小波。

バイオハザードもビックリの目力に怯むしかない雨崎。野球以外では気弱なそういう部分が、義理の妹に雨崎がチワワと言われるのだ。

 

 

「俺が残ったところで何になる。ここは警察に任して、俺らはただ待つしかないさ」

 

 

小波の言ったことは本音半分、忠告半分の悦列な言葉だった。

元々自分の力で探すのは不可能だと思ってたし、何よりも芹沢とミーナが普通ではない現場で千羽矢がいなくなったのだから警察に頼るだけ無駄という結論が昨日出た。

 

それに人探しだけなら、警察よりも頼りになる仲間がいると芹沢は言っていた。その日はアルバイトでいなかったらしく、自分達で『ヒーロー』やら『正義の味方』とか言っておきながら避けられない現実に、小波は軽くショックを覚えたがそこは今はどうでもいい。

ともかく、そいつに任せれば千羽矢は見つかるかもしれないというを小波は聞いた。

 

だが、小波はその仲間の成果に期待してはいない。

最も重要で濃密な関係を持つであろう、ある人物が千羽矢の事と何かしらの関係があるかもしれないからだ。

小波は敵意を悟られぬように、ポーカーフェイスをしながら真横にいる銀髪の女性を見た。

 

 

「大丈夫、シルバー?」

 

「いや……昨日、変な音楽が遠くから聞こえてからずっと気持ち悪くて……」

 

 

それはシルバーだ。シルバーなのだが、どうも調子を崩してるらしく、専属トレーナーのトモが酔い止めやら吐き気止めやらの多種多様の錠剤を勧める。

 

 

「もう少しで東京だよ、小波」

 

「…………元気だねぇ、優輝は。千羽矢のことが心配じゃないのか?」

 

「……心配じゃないと言えば嘘になるね。でも、千羽矢が並大抵なことで挫ける奴じゃないのはわかってるし。誘拐だったら今頃逃げてるじゃないかな」

 

 

雨崎の信頼は、思わず小波を笑わせた。確かに千羽矢なら脱走してる図が安易に想像できる。

だが、それは逆の感情も増幅させた。千羽矢がいなくなったの普通とはかけ離れた何かがあると。

 

 

「(……芹沢に任せるしかないよな)」

 

 

 

………

……

 

 

 

時刻は午後十時、人の足も我が家へと帰る時間帯。中には帰らない人物がいるが、そういうのは大抵ろくでもない連中だと相場が決まっている。

 

 

「…………シルバー、私はブラック」

 

 

例えばヒーローを名乗る女性とか。

 

 

「あなたがブラック……私達の敵ということね」

 

 

例えば銀の名を冠するプロ野球選手とか。

 

 

「シルバー……本当にやっちゃうの?」

 

 

例えばオトモな専属トレーナーとか。

埼玉スーパーアリーナの前で、芹沢とシルバーの二人が睨み合う。威圧感を剥き出しにするシルバーは、野球をする時とは違う殺意を見せる。野球をするシルバーが虎だとすれば、今のシルバーはサメだ。サメが血の匂いを追うように、シルバーの目は戦いを追い求めている。

対する芹沢は無表情のまま見つめており、どこか戦いということに余裕と冷静さがある。

 

 

「“ジャジメント”から言われたでしょ。ブラックを始末しろって……」

 

「…………話を聞いて」

 

「問答無用!!」

 

 

シルバーが吠えると、彼女の牙が芹沢へと向けられた。

銀色に輝く鉄の塊、黒光りする直径10ミリの穴。大きさは片手に収まるほど小さいが、その重量感と恐怖は大きくブラックに押しかかる。

途端に発砲音。芹沢の横をすり抜けて着弾、埼玉アリーナの鉄鋼具に傷と火薬の臭いをつけた。

 

 

「…………拳銃。しかもワルサーP38……」

 

「あら、意外と趣味が合いそうじゃない。私は友人にロマンチストとか言われがちでね〜……こういう銃とかに興味が湧いちゃうのよ!」

 

 

次に取り出したのは黒いリボルバー拳銃。

さっきよりも重い発砲音と共に、シルバーは芹沢を狙う。

シルバーが使った二つの銃、一見似てるようで中身と使用用途はまるで違う。リボルバー拳銃とピストルの大きな違い。それは装填できる弾数が違う。

リボルバーは予め六発の弾数を装填することで発砲もしく早く連射するが、ピストルは一発ずつしか薬室に詰め込めないので連射も効きづらい。

ここまでならリボルバー拳銃のほうが圧倒的に実用性があるに見えるだろう。しかし、リボルバー銃は単品で使うと大きな弱点がある。

 

 

「(…………六発目!)」

 

 

リボルバ銃が六発目を発砲した瞬間、芹沢は音も霧もなく姿を消した。焦ったシルバーはピストルを構えながらもリボルバー銃の装填を急ぐ。

これが弱点だ。代表的なリボルバー銃のほとんどが六発装填であり、銃を知っているものなら必ず弱点になる大きな欠点。装填しようにも、そのデザインゆえに入れるのが少々難であり、そこが大きな隙を生む。

 

シルバーがリボルバーに手早く四発目の装填を終えた時、どこからともなく芹沢は姿を現して走り出した。

加速する速さをそのまま跳躍力に変え、跳躍によってできる高さからの落下をそのまま脚力に加える芹沢の必殺技。

ヒーローのネーミングで考えた必殺技の名は『暗黒イズナ流星落し』と少々ダークサイドなものだが、その威力は間違いなく誇るべきものだ。

直撃したシルバーは大きく吹っ飛んで、埼玉アリーナの壁を物ともせず中へと飛ばされて行く。崩れた瓦礫の中にシルバーは埋まるが、数秒とせずに這い出て来て芹沢を睨む。

 

 

「調子にのるなよ、この野郎っ!!」

 

 

シルバーの怒り狂った声と共に、芹沢の足元は爆発を起こした。大きく広がるようにできたクレーター。立ち込める爆煙と、燃え盛る火花と共に散る芹沢のシャツ。普通なら死んでいるだろう、普通なら。

だが、まだ死んではいない。それがわかっているシルバーは目を凝らして爆煙の中を見た。

 

 

「…………ブラック参上」

 

 

爆煙、火炎、火花。それらすべてを払いのけて、クレーターに佇む影が一つ。影の正体はどこまでも黒い仮面をつけたヒーローがだった。

 

 

「やっぱりか……」

 

 

苦虫を潰したような顔でシルバーは言う。

だいだいの予測だが、シルバーには芹沢こと、今は黒い仮面ヒーローとなっているブラックの能力がわかっている。

いつでも放てるよう構えたのに、自分がまるで反応できずに不意打ちを食らったのから考えて、ブラックの能力は『透明化』の一言に尽きる。

 

 

「だったら……攻略の仕方は簡単。透明、つまり『見えなくなる』だけだから、私の能力とは相性が悪いからね」

 

 

攻略法を思いついたシルバーはピストルの弾を一発だけ放つと、すぐに埼玉アリーナ内へと走っていく。

シルバーの推測通り『透明化』しかできないブラックには、近接攻撃以外での攻撃がないので、銃相手では不利だと感じつつもシルバーの後を追った。

 

一瞬で荒れ果てた埼玉アリーナの外から、静かに眺めるトモ。戦いの行方には興味がなくただ待ち続ける。

その間はトモは、今日あったことを追いかけるように思い出した。

 

 

「(……これで本当にいいの、デウエス?)」

 

 

時は遡る。

 

 

 

………

……

 

 

 

「うえ〜……まだ気持ち悪い」

 

 

午後一時。トモとシルバーは阪神軍とはひと時の別れを告げて、ネットカフェで休養をとっていた。一つの大きなスペースを借り、シルバーの介護もしながらトモは電話をする。

 

 

「すみません。“森友子”ですけど……」

 

 

トモは何故だか自分のことを“森友子”と名乗り、電話の相手へと連絡をする。表記される電話相手の名前は“ジャジメント”の名称。

 

 

『……中央窓口かと思ったか?』

 

「……!?誰ですか?」

 

 

本来出るべきだったはずの人物が電話から出ず、逆に聞き覚えのない声に驚きを隠せないトモ。

電話相手の口調から考えて女性っぽいが、声が機械などで加工された耳障りなものになっており、実際の声の高さはわからない。

それが見えてるとでも言うのか、電話の相手は『驚くのは無理ないが』と意地悪そうに笑う。

 

 

『焦るな。私の名前は“デウエス”……知ってはいるだろう』

 

 

驚愕の電話相手に、トモは今時お古い携帯電話を投げ飛ばしそうになった。

“デウエス”ーーそれは“ジャジメント”本社の経理部の代表的な立ち位置にいる世界一の実業家の頭脳である。

まるで予測してたように株の売買を手伝い、瞬く間に世界中に“ジャジメント”の権力を知らしめた者だ。

誰もその姿を見たものはいなく、見たものは死ぬとすら言われるほど表では姿を見せない。

そんなデウエスが声だけといえ、トモに話しかけてくることは奇跡に近い。もちろん悪い意味での奇跡だが。

 

 

『なに、少し面白い話があってな。小杉優作を見つけた。だが、その場所はあまりにも規格外なところだ』

 

「それでどこにいたんですか、その小杉というのは」

 

『日本にいる。しかも東京にな』

 

 

デウエスの発言はトモをまた驚かす。

今まで何年も行方不明だったプロ野球選手にして史上最強の伝説スラッガー“小杉優作”、ひと昔前の野球ファンなら誰もがその名前を知っているであろう。

 

 

『ですが……今のままでは私がいても無理でしょう。そこでトモにはある事をしてもらいたい』

 

「はぁ……」

 

 

絶対面倒なことだろうと確信していたトモだったが、デウエスは珍しく真剣味のある声で言った。『ブラックと会ってもらいます』

 

 

「はぁ……!?」

 

 

今度は驚きだけでなく呆れも出てくる。

デウエスの言うブラック。それはそのまま芹沢真央のことを指している。

 

 

「あの、彼女と会うのは……さすが無駄と言いましょうか、何と言いましょうか……」

 

『では頑張ってくれ、ジャジメント工作隊より“森友子”さん』

 

「……わかりました。白瀬にも伝えておきます」

 

 

時は巻き戻る。

 

 

 

………

……

 

 

 

「さぁ、どうする!?今の私はハリネズミよぉー!!」

 

 

埼玉アリーナの関係者通路にて、絶え間なき乱射音が耳にノイズをかけようと乱れ狂う。

シルバーの両手には先ほどのピストルとリボルバーではなく、どこからともなく取り出したサブマシンガンの二刀流。

それを狙いを定めずに八方すべてに打ち続け、その弾薬となる薬莢が通路に転がる。そしてその内一つが不自然に動いた。

 

 

「そこかぁっ!!」

 

 

持っていたサブマシンガン一つを腰にかけ、シルバーはピストルを二発連続で発砲する。銃弾は壁に着弾する前に、何もないとこで不自然に反射した。

 

 

「普通に姿を見せなさい……やるだけ無駄よ」

 

 

シルバーの言葉に、空間は歪んでそこから一人の黒いヒーローが現れる。ライダースーツには銃弾が当たったと見られる深い溝があり、ブラックは痛みから耐えようと声を漏らした。

 

 

「さて、ここなら他人に話は聞かれない。ある程度の事情は聞いてるから」

 

 

手に持っていたサブマシンガンを捨てると、シルバーはもう片手に持つピストルを捨て、生身のままブラックへと近づく。

しばらく二人は無言のままだったが、シルバーに敵意が演技だとわかると、ブラックは元の姿である芹沢へと戻った。

 

 

「何故だか、伝えたいことが伝えられないのも知ってる。……だからトモにお願いして、あなたの記憶を見させて貰ってた」

 

「…………ありがとう」

 

「小波を危険から遠ざけるため、わざと私の名前をミーナから出させた真意……聞かせてもらいましょうか」

 

 

そこでシルバーは携帯を取り出して電話番号を入れた。電話の相手はトモ、スピーカーをオンにしてシルバーはブラックの前へと翳した。

 

時は遡る。




【補足コーナー】


Q.クックドゥードゥードゥー。
A.鶏の鳴き声。外国にはこう聞こえるらしい。


Q.シルバー、謎の体調不良。
A.実は前々回にあった話が原因。あることのせいで体調不良になっている。


Q.ワルサーP38って?
A.ルパン三世愛用の銃。リボルバーはジゲンが愛用してるもの。シルバーは銃オタ。


Q.『暗黒イズナ流星落し』
A.ネーミングはパワポケスタッフです。


Q.埼玉スーパーアリーナェ……。
A.辛くないです……阪神が好きだから。


Q.今回の補足少ない。
A.ギャグシーンを入れるほどの余裕と空気がなかった。



では、後半へ続く。
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