白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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後編です。
この頃、野球が恋しく感じる……って、これ元々は野球ゲームだよね?(すっとぼけ)


第十一話 たった一日、されど一日【後編】

「嫌ぁぁぁああああああああああ!!」

 

 

時刻は昨日の夜まで戻る。

中華系の女性に攫われそうになる千羽矢、千羽矢はもう駄目だと思っていた。

しかし触れられる直前に女性はどこからともなく放たれた蹴りの一発に、頭から海へと落ちる。

 

千羽矢は驚きと恐怖を混ぜ合わせた表情で、蹴りが放たれた場所を見る。

そこには黒い羽衣と白いマフラーを纏った正義の味方、芹沢が姿を見せていた。手には音楽に使われるチューナーに似た小型機械が握られており、芹沢は千羽矢の存在を気にも止めずに海を見た。

 

 

「誰かと思えば……ブラックさんではありませんか」

 

 

そこには『海に立っている』女性の姿があった。フワフワと波に揺られるように上下に動く女性の名を芹沢は言った。「“巫紅虎(ウ・ホンフー)”」

 

 

「…………大企業“九百龍(チャンパイオン)”から何のよう……?」

 

「ふふっ……私は暗殺者ですよ?」

 

 

「嘘はやめて」と言って、芹沢は一気に海へと落ちる。

ホンフーに蹴りを与えようと空中で一回転したが、ホンフーは海を走ってかわす。

叩き込まれようとしていた回し蹴りは、海へと衝突して激しい水しぶきをあげる。海は一時的に二つに割れ、大波が岸を襲う。近くにあった高い岩場を飲み込みながら岸は波へと紛れた。

人間業ではない威力に千羽矢は驚くも、すぐさま芹沢はホンフーを追う。

岸に人がいなかったのが幸いだが、いたら大変なことになっていた。今度は加減しようと思いつつも芹沢は水中から、走り続けるホンフーへと接近するのやめはしない。

 

 

「少しはゆっくり争いましょうよ。砂場で血を流す……時代の先取りですね」

 

「…………お断り」

 

 

芹沢は水中から浮上、そのまま落下の勢いを利用して殴打。ホンフーを水上に叩きつけるが、まだ芹沢の追撃は終わらない。

倒れたホンフー目掛けて全体重を乗せたエルボー、肘は見事に胸部にめり込んで二人を青の世界へと誘う。

続いて芹沢は顔を持ち上げて、ホンフーをもう一度水上へと上げて水中に叩き込む。それを幾度か繰り返すと、ホンフーは芹沢の腕を握った。

 

 

「今のは効きましたよ……。ですがここからは私の番です!」

 

 

ホンフー「“ダークスピア”」と言うと、芹沢の両手をホールドする。誰もが聞いたことがある『ニュートン力学』、人は下に向かって落ちるの説通り、泳ぎの手段を絶った二人は海へと沈んで行くかと思うだろう。

しかし『ニュートン力学』は実際は下に行くとは言ってはいない。正確には『ニュートン力学』にある数多くの方式の一つ『万有引力の法則』にて、物体は『重力の方向に落ちる』という説を唱えたのだ。

それは事実であり、人は、物は、海は、そのすべては『重力』さえあれば『上に落ちる』ことも可能なのだ。

 

 

「『重力は我にとりて縛りにあらず』……自分は自分と認識してるものをどこにでも『落とす』超能力、実に便利ですね。あなたのお仲間の能力は」

 

 

ホンフーの言葉通り、捕縛されている芹沢とホンフーは少しずつ加速しながら、上へ上へと上がる。いや、空に向かって『落ちていく』

 

 

「…………真似っこするだけの能力。猿みたい」

 

 

芹沢のが言う真似っこの能力。それがホンフーの超能力だ。

あらゆる方向に落ちるわけでも、千羽矢使った言葉とは逆のことさせるでもない。その本質は『他人の能力を使う』という超能力だ。

先に上げた二つは元々はホンフーの物ではない。“ダークスピア”の宣言と共に使われた能力は、ホンフーの言葉通り、芹沢の仲間が使う超能力。もう片方の超能力はまた別の人の超能力だ。

 

 

「猿ですか。でしたら私は差し詰め“ハヌマーン”と言ったところでしょう」

 

 

まだまだ空に落ち続ける二人。時々減速するのは、落下の加速で空気の壁に潰されないようにするためだろう。

いつしか兵庫の地域が点となったところで、ホンフーは嫌らしい笑顔を浮かべて言った。「紐無しバンジーは得意ですか?」

 

 

「もしくはギネス認定するための高飛びにしましょうか?どちらせよ、あなたにはここから海に落ちていただきますよ」

 

「…………楽しそう」

 

「でしょうね、人類初体験になりますから。一応説明しますと、ここから落ちれば海での衝撃はコンクリートと同じですが……あなたなら『死にはしない』でしょう」

 

 

「マオでもありますからね、綺麗に着地してくださいよ」と言うホンフーに、芹沢は片手に今まで持ってた機械を突きつける。

 

 

「…………『ESPジャマー』を私は持っている。どうする?……ただのお猿とちょっと特別な猫、どっちが死ぬ?」

 

「私はハヌマーンであっても、“孫悟空”ではありませんからね。謹んで降ろさせますよ」

 

 

今度は楽しそうな笑顔を浮かべて、ホンフーは地上へと落ちていく。今でも蚊帳の外のように放って置かれる千羽矢だが、天空にいる二人の存在が大きくなることに気づく。

いったい空に行ってたのに、すぐさま戻ってくるのに対して「何してきたんだ」と声を荒げて言いたい気分になるが、口と足は未だ恐怖に縛られている。

 

 

「さて、そろそろつきますが……どうします?『ESPジャマー』を使った生身の殴り合いですか?それとも超能力を使ってバトルアニメにでもします?」

 

「…………前者」

 

 

先ほど大波が襲った岸へと両者が足を置いた瞬間、芹沢は手に握られた『ESPジャマー』を起動した。

『ESPジャマー』、その力は凄まじいものだ。何故なら、五分の間だけ範囲50メートルのあらゆる『超能力』が無効にされるのだ。難しい理屈で成り立ってるらしいが、芹沢はそれをよく知らない。

しかし効力だけは単純明快。『超能力』を封じる、という部分さえ知っていれば後は知らなくていいし、知る必要はない。

『超能力』が封じられた今、二人にある力は己の拳のみ。

 

 

「五分間……それで私を倒せますかね?」

 

「…………充分」

 

 

二人の発想は同じ、接近戦で相手を倒す。シンプルな考えの元に両者は互いの拳を、蹴りを混じり合わせる。

芹沢が拳を振るえば、ホンフーも拳を振るう。芹沢が蹴りを入れれば、ホンフーも蹴りを入れる。

ホンフーがかわせば芹沢もまたかわす。激しい攻撃の応酬は、徐々に岸である砂浜に数え切れない足跡を作る。

途端、ホンフーの視界から芹沢の姿は消えた。一瞬の隙が生まれ、そこを芹沢は見逃さない。

隙をついた渾身のエルボーを起点に芹沢の猛攻撃は続く。ジョブからアッパー、ショルダータックルからの腹部への強烈な踵落とし。倒れさせて地面に背中に着いてからは、馬乗りしての顔面ラッシュ。

容赦のない拳の弾幕が、ホンフーの意思を確実に持っていく。早くて重い拳、銃で例えるならばサブマシンガン並みに連射できるショットガンというところだろう。

 

まだ終わらない。戦いの主導権を握った芹沢の拳は止まること知らない。『ESPジャマー』を起動してから、ようやく一分。芹沢の拳の連射は二十秒は越える。だが、まだホンフーは気を失わない。

ここでわざわざ隙を作ったほうが負ける。時間は残り三分へと迫るも、拳の豪雨は止まない。。

しかし、ホンフーは気を失わない。むしろ、顔中が血と痣だらけになろうと笑みを浮かび続ける。

 

終わらない。芹沢の拳も、ホンフーの笑みも逆に時が止まったのではないかと思わせるほど、同じ行動を繰り返す。『ESPジャマー』の残り時間は半分を超えた。

芹沢は無表情だが、心の中では次第に焦りが募る。このまま五分が過ぎれば、多種多様な『超能力』をホンフーは駆使して芹沢を圧倒してくるだろう。それまでに勝負をつけなければ、芹沢は負ける。

このままでは埒が明かないと考えた芹沢は、砂を巻き上げるようにホンフーから離れる。そしてそのまま姿を再び消した。

 

 

「ジャマーが働いている状況で超能力……!?」

 

 

姿が消えてホンフーは驚くが、無理もない。『ESPジャマー』はあらゆる『超能力』を無効にするのに、どういうわけか芹沢はその影響を受けていない。驚くな、という方が無理な状況だろう。

 

芹沢は走る。加速した足をそのまま跳躍力に変え、その落下と全体重を蹴りに乗せる必殺技『暗黒イズナ流星落し』へと移る。

今まででどこよりも高く、早く跳んだ。今の彼女は誰よりも近くに空にいる。そんな気を起こさせるほど、芹沢の滞空状況は美しいものを描く。

月を背に流星は舞う。流星は鋭く円を描くと、そのままホンフーへと落ちた。

 

時は巻き戻る。

 

 

 

………

……

 

 

 

「おっと、そこまでですよ」

 

「誰っ!?」

 

 

埼玉アリーナの外、電話越しから芹沢のことを話していたトモの傍に一人の人物が姿を見せる。

中華系の顔立ちに、白い拳法着。芹沢が相手をしたホンフーがそこにいた。

 

 

『トモ!どうしたの!?』

 

「ドゥームチェンジ“グレムリン”……『全ては小鬼の思うがまま』」

 

 

ホンフーの宣言と共に、トモの携帯が電源を落とした。何度付け直そうとしても、携帯はトモの操作にうんともすんとも言わない。

ホンフーが使う『超能力』の力。それは『超能力のコピー』だ。その中の一つ、グレムリンは『一定範囲の機械の発動を止める』という恐ろしいもの。

 

連絡手段から銃の使用、そのすべてを無効にする『超能力』は『ESPジャマー』と似たように、強制的に武装する相手を肉弾戦に持ちかけるものだ。

 

 

「すいませんねぇ、ちょっと頼まれごとで……早急にあなたの口を止めましょう。ドゥームチェンジ“デスマス”『何人たりとも我が言葉には従えず』……存分に『私のことを』ーー」

 

「言わせると思ってるんとちゃうか?」

 

 

突如として背後からホンフーより大きな女性が、ホンフーの口を塞いだ。身長はざっと見て2メートル前後はあるのがわかり、仰天してみるトモとは頭一つ分以上に背が大きい。

何より一番目立つのは手に持っている槍だ。長さは3メートル以上はあり、柄の部分だけがどこまでも黒く、まさに漆黒の言葉が似合う色合いだ。

 

 

「さぁさぁ、嬢ちゃんはアリーナへと入れ。ウチは……こいつと話をつける」

 

 

よく聞けば関西弁を使う女性だが、今はそれを気にしてるほどトモには余裕がなかった。トモは感謝の言葉を言って、すぐに埼玉アリーナ内にいるシルバーの元へと向かう。

 

 

「……リーダーや可愛いバケモンちゃんも、全部そいつの能力に掛かったけどなぁ、ウチには無駄や。対処法は既に心得てる」

 

「まさかあなたまで来ますとはね……“ダークスピア”!」

 

 

そこでホンフーはダークスピアと呼んだ関西弁女性からの拘束を解き、三歩飛び跳ねてダークスピアから離れた。

その距離、実に4メートル。ダークスピアが持つ槍には届かない間合いだ。

幸せそうに笑うホンフーを見て、ダークスピアは「何がおかしい」と威圧を込めて見下ろした。

 

 

「好敵手……とは、このことでしょう。私はあなたと戦えるのが嬉しい」

 

「……暗殺者とは思えへん口振りや」

 

 

「冗談ですがね」とホンフーは笑いながら構えた。腕や足を伸ばして隙のない型に。中国拳法の構えをダークスピアに見せる。

それにダークスピアも答えて、槍を構えた。人回して間合いを取ると、槍の柄を両手で掴む。

 

 

「ウチが心配するのは難やけどな、あんたが攫った場所……バレへんとちゃう?」

 

「いいえ。構いませんよ」

 

 

「だって」と言うと、そこでようやくホンフーは笑みを消した。

 

 

「みんな殺しちゃいますから」

 

「……三流になって恥ずかしくないんか!!」

 

 

 

………

……

 

 

 

時を同じく埼玉アリーナ内。息が絶え絶えながらも、トモはシルバーと合流していた。

シルバーは「どうしたの」と尋ねるが、トモは「大丈夫」と言って芹沢を見た。

 

 

「ブラックさん。今から私の能力で記憶を再び確認させていただきます」

 

「…………お願い」

 

 

意識を集中させてトモは芹沢の記憶を覗く。

千羽矢の誘拐から、ホンフーと戦うまでにあった芹沢が伝えたいこと。それがトモの今ある使命。

 

時は再び遡る。




【補足コーナー】


Q.中華系の女性の読み方。
A.こうやって読みます。


Q.ホンフーの『超能力』が酷い。
A.パワポケスタッフがそういう風に使ったからね。


Q.ニュートン力学。
A.実際の話、よう知らん。七割間違えてると思う。


Q.ハヌマーンって?
A.自分の記憶が正しければ、色んなものに変身する猿の妖怪。


Q.オッス、オラ孫悟空。
A.西遊記のほうの孫悟空、こちらも猿。冥府から帰ってきた強者。


Q.ホンフー「マオでもありますし」
A.マオは日本語に訳すと猫。猫は高いところから落ちても体をひねって上手く着地するので、ホンフーはそれを言っている。落ちるにしても限度がありますが。


Q.芹沢、拳の弾幕。
A.ジョジョのオラオラを彷彿させますが、個人的には幽白の浦飯幽助が戸愚呂をボコ殴りするシーンを参考にしました。


Q.“ダークスピア”登場!
A.千本槍の称号はどこ行ったんですかね?


Q.場面動きすぎぃ!!
A.こうでもしなきゃ気持ち良く進行できないんだよ!(逆ギレ)読者には読みづらいだろうけどさぁ!(八つ当たり)


Q.後編ですよね?
A.後編ですが、まだ続きます。



【雑談コーナー】

まだまだ続きます。超能力対決、今度は上編として。
しかし今日で前半と後半の二本を同時投稿したので、明日の投稿は休ませていただきます。
それだけです。明後日も読みづらい文章にお付き合いくださいませ。


【おまけ】

こういうバトルものを書く時、BGMに『戦っちゃいますか?』『未来と魔球とジンルイ』『ワタクシドモノタタカヒ』を聴きながら書きます。
『ガッツだー!』は聴きません。逆に集中できないので。
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