白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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まさか登校二日目で実力テストとはなぁ……たまげたなぁ。


※補足コーナー追加しました。


第十五話 伝説最強!その裏に潜む笑み

一時間の打ち合わせを終えて、ついに神高グループと紫杏率いる“ヒーローズ”の試合が幕を開けた。

ユニフォームは無いとして、スパイクとヘルメットとバットは神高からのお借りもの。細工でもされてないかと危惧したが、桃井が「大丈夫」の一言で判断して、みんな砂糖を見つけた蟻のように野球道具を借りた。この時、小波は再び桃井の能力はつくづく便利だと感じた。

などがあったが、試合は始まって一回表は“神高グループ”からの攻撃。結果だけ言えば小波はアウトをすべて三振でとった。しかし、問題は一回表での電光掲示板に表示される得点にあった。

 

 

「6-0……」

 

 

初回大炎上、普通なら何をやってるんだと誰もが起こるだろう。

しかし相手が相手のうえに、こちらの守備は最良の選択をしたはしたものの、それでもプロと比べれば天と地ほどの差があるのは明白だ。

一番の福本がヒットを打てば、続いて二番の松井稼頭央、三番イチローと続いて、四番は世界のホームラン王の名を持つ王貞治だ。そこまでノーアウト満塁でグランドスラム。続く五番の長嶋茂雄もヒット、六番落合でようやく始めての三振でアウトをとるが、七番のゴジラ松井に特大ツーランホームラン。八番野村は、お得意のデータ野球といきたいがところだが、小波の詳細なデータがない彼には、それが仇となり全くバットに当てることができずに三振。九番の江夏には粘られたものの、何とか三振で抑えて終えたのだった。

 

 

「ごめん、私の……その、リード?っての悪くて」

 

「大丈夫。逆に充分すぎる」

 

 

申し訳なさそうに言う友子に、小波はお世辞なしに本音を言った。

今回が野球が初めてだと言うのに、リードは完璧なものだった。ボールを受けれないのは多々あったが、それはプロでもあることだし、気にしたら逆に繊細すぎるプレイに調子を崩す。盗塁を刺せないのはちょっとキツイが、盗塁してくる相手なんて福本、稼頭央、イチローだろう。トップクラスの盗塁にはいくら何でも雨崎でも難しいだろうし、元々カバーも知らない白瀬のこともあり、盗塁は今回は大目に見る。

なにより最高球速で投げても大丈夫だということに小波は驚いた。これさえあればまだ抑えられる自信が沸くものだ。

 

 

「先頭打者はブラックだ、頼むぞ」

 

「…………了解」

 

 

紫杏の指を指すと同時、芹沢はやる気のなさそうな顔でバッターボックスに立った。

ヒーローズの打線はこうだ。一番芹沢、二番桃井、三番浜野、四番和那、五番レッド、六番白瀬、七番甲斐、八番小波、九番友子。言い方は悪いが、監督混じって満場一致で友子は打撃では使えないので、はなから戦力として考えずに打線を考慮した結果だ。

そうこうしてるうちに江夏の三振まで後一球の三球目。芹沢は辛うじてバットに当てて、三塁線ボテボテの内野ゴロ。しかし、芹沢は走る。夜に光る雷のように早く走り、頭から滑り込む。長嶋の送球と同時にベースを触り、判定はセーフ。芹沢は内野安打を記録する。

 

 

「おおっ、メチャクチャ早い」

 

「ウチのリーダーは俊敏性はピカイチ、あんなゴロゴロの投げにくいのまともに間に合うわけないやん」

 

 

和那が不貞腐れて顔を沈ませる中、桃井は元気にバットを持ってバッターボックスに立つ。

そして小波はそこでふと思い出した。桃井は感覚を超強化している。ということはもしかしなくても、江夏の投球が桃井にも見えているかもしれない。

 

 

「はい、ゴメンなさいね〜!ツーラン貰っちゃいましたぁ!」

 

 

非常に憎たらしい声と共に、桃井は初球をホームランした。ルンルン気分でスキップしながらダイヤモンドを一周する姿は野球選手を侮辱する行為そのものだが、今はそれに気にしてる場合ではないので小波は寛容な心で受け入れる。

そして桃井がホームインして6-2。あっという間に二点を取り返した。どうやらこのチーム、打点を取るだけならそこらの野球選手よりもありそうだ。

打点不足で乏しい阪神には是非欲しい要素であり、小波は今度こういう人来ないものかと考えながら、続く三番の浜野のバッティングに視線を送る。

 

 

「ボール球振ってストライクか……」

 

 

ツーツーと追い込まれていた浜野に、小波はベンチから「ドンマイ」と声をかける。

ボール球なんて振って当たり前だ。浜野や他の未経験者もどこからどこまでボールなのかは知っていない。ボールがあるというルールは知っているが、クサイところボール気味がきたら範囲がわからない彼女らは振るに決まっている。

嫌なところを気づかれた、と思う小波だったが、さすがの浜野も元ソフトボールをやったことは伊達ではないようで、同じところの速球を見送りボール。これでフルカウント。

バッティングのタイミング間に合っている、ただ体のバランスがおかしいのとアウトコースの球にはドアスイングなので、このままだと凡打に終わる確率も高い。

 

模造した伝説選手とはいえ、その実力だけは本物だ。江夏は前打者二人の嫌味な攻撃に動揺せず、浜野の対して渾身の直球をぶち込む。

反応する前に白球はキャッチャーミットに吸い込まれて三振。ど真ん中ストレートという、あまりの勝負強さと度胸に小波は武者震いをしてるのがわかる。

 

この勝負、一体どう動くのか。期待と不安が込み上げた小波だったが、四番打者の和那の『超能力』を行使してのバントホームランに一気に煮え滾った心が凍りついた。

 

 

 

 

 

電光掲示板が6-3と表示される頃、犬井はたった一人で広い球場を駆けていた。どこの扉も回ったが、力づくで開けようとしてもビクともしない。

持っていた重金属の刀から放つ抜刀でも切り開くことはない。犬井の抜刀術はガードマンとしては極限の領域にまで達しており、そこだけ見ればホンフーと渡り合っていた芹沢と和那よりも強い。

刃は空を割くことを忘れはしないが、どうやっても扉の向こうには行けない。ここで犬井は今まで疑問が、すべて確信へと昇華した。

 

和那が「普通ではない」と言っていたが、それは常識的な意味ではなく、能力的な意味だ。ゆえにこの状況は能力としては異常なのだ。

和那や桃井、芹沢に能力があるように、犬井にも能力がある。より正確に言えば、生まれた時から授かれた『呪い』なのだが。

呪いは刀に宿しており、その効力は『存在するものならすべて殺せる』という非常に漠然としたものだが、またそれを対象とするものも漠然としている。

目に見えてるものは例外なく切り倒した。しかし、その中で犬井には『呪い』で斬れないものの対象が一つわかった。

 

それは『概念』だ。犬井の能力で存在されると思われるものは、それが何であれ殺すことができる。しかし『概念』は斬り殺すができない。

つまり扉を殺せないのはこれが既に『概念』としてその口を閉じてるせいだ。どうやって『概念』にしたのかはわからないが、そんな不思議なことができる人物は一人しかない。

 

 

「……デウエス」

 

『ふふっ……やはりあなたにはわかりますか』

 

 

犬井の呟きは、自らが持つスマフォが答えた。

 

 

「……お前の能力は『ゲームとして受けるならば、あらゆるルールをゲームに作る』のだったな」

 

『正確には違いますが、概ねそう言ったところでしょう』

 

 

サングラスの奥から冷静な目つきで犬井は自分のスマフォを睨む。そこには黒人よりも深い肌色、気持ち悪いほど青い髪、そして顔のない女性と思わしき人物が映っていた。

 

 

『ヒーロー達には警戒されて、携帯をちょくちょく破壊されましたが、あなた達“紫杏派”とヒーローをコンタクトさせることでここまで上手く行くとは……』

 

 

デウエスであろう人物は、機械音混じりの笑い声をあげて犬井を見た。『どうでしょう?』

 

 

『外国人助っ人の情報操作、トモと接触してのヒーロー達との接触……それにホンフーによるここまでの誘導。おかげで必要なサンプルはすべてここにあります』

 

「……何が言いたい」

 

『察しのいいあなたならわかるでしょう。小杉という超人的スペック……レッド、ブラック、ピンクのオカルト……トモの記憶閲覧……完璧なアンドロイドサイボーグ白瀬と、そのコピーに成功した甲斐。カリスマ性に溢れる紫杏、唯一無二『呪い』のあなた……。さらには“神高グループ”が持つ歴代選手すべてのDNA、それを完全再現する施設……そして細胞レベルで操作する千羽矢と絶望的な怪我から復帰してきた小波……』

 

 

『ここまであるなら逆に神高には手に余る』とデウエスは笑い続け、なにも無い顔に赤い目を覗かせた。

 

 

「……あらゆる方面で最強のアンドロイドを作る気か」

 

『ええ、それも神高が言ってたような朽ぬ体ではない。進化し続ける最高傑作をこの手に収める!』

 

「……くだらないな」

 

 

一閃、犬井はデウエスが映るスマフォを刀で二つに裂いた。しかし声は止むことなく『無駄無駄』とデウエスは言う。

 

 

『今の攻撃で私はもうすぐ死にますが……私は電脳体、0と1の世界には私のバックアップはあり、数分後には私は復活する』

 

「……悪いがお前は勝てないぞ」

 

 

『精々言っておきなさい』とデウエスは言って、その姿を消した。彼女の説明通りならデウエスは今死んでいるということになる。

犬井は刀を逆手で持つと、長い廊下を走り抜けた。

 

 

 

 

 

8-4、それが三回表の状況だ。小波は必死の投球で二回の攻撃を二点で抑えたものの、二回裏は得点には恵まれず。一回裏でとったヒーロー達の四点を大事にしようとマウンドを蹴った。

 

気合を込めた一球目。150キロ越えの直球は、内閣低めを貫いてストライク。ゴジラ松井は反応せずに球を見る。

果たしてこれは見送ったのか、小波は分かりやすいように再び内閣低めに投げる。だが、今度はもっと低めに投げてのボール玉だ。

これはどうだ、と思うところでゴジラ松井はバットを振ろうとした。しかし、すぐさまボール玉と気づいてバットを引き戻して判定はボール。

 

選球眼はあるとわかったが、問題はバットを振るということだ。このまま直球では抑える自信は無いし、かといってカーブや高速スライダーが通じるとは思えない。

ここは打者の気持ちをズラすという意味を込めて外角ボール玉。明後日の方向に向かう白球は、ゴジラ松井のタイミングを崩すには持ってこいだ。続く二球目もボールからボールへ落ちるカーブ。ツーツーとなり、小波は直球を内閣高めに投げ、ゴジラ松井は打つがファール。状況はツーツーのまま動かない。

 

二巡目である程度乱打を受ければ小波にも、彼ら伝説選手達の呼吸がわかってくる。下手に攻めたり守ったりすれば、逆にこちらがやられる。

だったらこっちは攻めの一点のみ、そう思う意思を滾らせて投げる小波。振る松井。

判定は早すぎるスイングで空振り三振。三十近くは差があるチェンジアップだった。

 

 

「……っしゃあ!!」

 

 

今回一番の手応えに、小波は拳を強く握ってガッツポーズを突き上げた。

上がり調子の小波は止まることも知らず、続く野村も三振、江夏も三振。

三者連続三振で勢いづいたヒーローズの逆襲は三回裏を無得点で終えたものの、その回のヒットはなんと五つ。

四回も五回も互いに無失点でゲームは動かず六回目。伝説選手達は江夏からの攻撃だが、代打として清原を出すと思われる、と紫杏は言う。

 

 

「わざわざ配球が読まれてきた江夏を使う理由はどこにも無い。だったら他のトップクラスの選手に任せたほうがいいし、ここで代打を入れるのも悪くはない」

 

 

マウンドも荒れてきたところで暫しの休み。野球を慣れてない友子と白瀬は息が絶えるようにツギハギのものだが、首元の汗を拭うと、吐息を強く白瀬は言った。「で、裏の様子は?」

 

 

「犬井からの連絡はなし。あいつはそうそう敗れはしないから平気ではあろう。それよりも、ここから先は嫌な予感がするぞ」

 

 

その不穏な言葉はこれからの非人道的な未来を予測していた。




【補足コーナー】



Q.超能力使用。
A.ヒーローのくせにやることが汚い。


Q.犬井さんの能力。
A.ESPジャマーで阻害されることはありませんし、本人のスペックが高いので隙無し。


Q.デウエスって?
A.パワポケ12でグラフィック登場。パワポケ11では彼女の存在は既に匂わせている。ゲームでも電脳体で有り、インターネットの中で生きる生命。そんな彼女にも色々秘密があったりするが、役割はパワポケ12のラスボス。


Q.ちょくちょく携帯を破壊された。
A.第九話でカズにスマフォ握りつぶされた理由がそれ。


Q.デウエスついに登場。
A.元々第二章のボスキャラ候補でしたが、諸事情でそのまま採用。彼女の存在は便利と言えば便利ですが、いるだけ邪魔なので早めに処理しようと。


Q.デウエスの能力って?
A.ゲームでもよく明記されてませんが、ゲームを生じて画面前のプレイヤーを取り込むので、それを自己解釈してこうなりました。批判バッチコーイ。


Q.紫杏派って?
A.簡単に言えばジャジメントは世界一の会社なので、様々な派閥があります。その中の一つが紫杏派。他にも色々派閥があったりする。


Q.デウエスがしたいことって?
A.犬井の言ったとおり最強のアンドロイド。 言ったものすべてを複合させたものを作る予定。実は他に理由があるとか……?


Q.小波の投球が伝説選手に通じる!?
A.そろそろ打者の癖が見えてきたので、小波もそれを多用します。さすがに長嶋茂雄は対応できませんが。
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