白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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ちなみに脳内キャラ能力。

【小波】154km/h、コントロールD、スタミナA
変化球:Hスライダー5、カーブ3、チェンジアップ1、ツーシーム
得能:対ピンチ4、安定感4、奪三振、緩急○、闘志、チームプレイ○、慎重盗塁、慎重走塁、速球中心


【雨崎】弾道3、DBCCBC、捕手
得能:キャッチャー4、送球4、広角打法、ローボールヒッター、いぶし銀、慎重打法、積極走塁




第二話 速くてすごいやつ、そいつはピカピカ一年坊

「貯金ありの好スタートだね」

 

「うん。小波やメッセンジャー、能見さんのおかげで何とか」

 

 

時期は四月最後。今日は野球中継がないオフの日。前日にヤクルトとの試合があったので、そのまま東京にある実家にて休日を過ごす雨崎優輝の姿はそこにはあった。

 

 

「素直にゲロっちゃえば?能見のせいで、貯金が少ないって」

 

 

そして、スポーツニュースを煎餅食いながら見る女性もそこにはいた。優輝の妹、“雨崎千羽矢”である。

顔つきは似ているが、それ以外は対して似てもいない兄妹だ。目の色は妹の方が赤く、髪の色も質感も全然違う。何より一番違うのは、あまりに不健康な肌色だ。

スポーツをやって褐色肌になってる兄とは違い、青白く痩せこけた顔。目を開けば視点は朧げであり、起きてるのがやっとと言うぐらい目元には隈があった。

 

 

「大丈夫か、千羽矢。気分が悪くなったらいつでも言うんだぞ」

 

「馬鹿兄貴に心配されるほどやわじゃないよ。少し学校に行けなくなるのと、家事手伝いができなくなるぐらいだから」

 

 

その少しがどれほど重いか。雨崎は強がる千羽矢の姿がとても愛しく、とても悲しかった。自分にはできることがないのか。あるとすれば、プロ野球選手の年棒を使って延命治療に注ぐだけ。

それで治ればどれほどいいことか。それはもう、半月前から雨崎の父が行っている。娘を愛し、死なせぬものかと奮闘し続けてる。

 

 

「おニイ……言いたいことがあるんだ」

 

 

妹の覇気のない声に、雨崎は寄り添い、優しい声で言った。「何だ。何でも言っていいぞ」

 

 

「打撃は決して十時ボタンで行えないし、投球は赤い線でストライクゾーンを表示してないから」

 

「えっ?」

 

「それにどんなに頑張っても、経験値は能力を上げるというコマンドを使ってあげるものじゃないから。コントロールやスタミナにAってものもないから」

 

「えっ?」

 

「それじゃあオチいくよ、馬鹿兄貴!!」

 

 

瞬間、千羽矢が爆発した。

 

 

………

……

 

 

「うわぁぁあああああああ!!」

 

「ちょっと!朝からうるさいよ、馬鹿兄貴!」

 

 

反転する床と天井、そして纏まりつく布団。体の鈍痛から考えて、どうやら雨崎はベッドから直で落ちたらしい。

デジタル時計に表示される日付は五月一日。時刻はもう午前の十二時前を迎えていた。

昨日はヤクルト戦二日目で。小波が投げて阪神は勝利し、その日は1勝1敗で終えた。運悪く小波には勝ち星がつかなかったが、本人は「仕方ないさ」と不満げな顔で文句を垂れていた。ちなみに勝ち星を貰ったのはシルバー。

 

 

「……夢で良かったぁ〜」

 

 

雨崎が見ていた夢。それは約一年前にあった千羽矢に起きた病気そのものだ。毎日身体を弱らせていき、時にはベッドから一度も出ることもなく、死んだのではないかと危惧するほど眠る日もあった。今となれば、身体は奇跡とも言える回復力と治療で健康体になっているのだが。

できれば、あの不安に満ちた毎日はもう送りたくない。

 

 

「やっと降りてきた。朝ごはんは冷蔵庫にあるから、適当に食べておいて。あたしはこれから小波と一緒に先輩と会ってきます」

 

「あぁ、開拓の“木村冴花”か」

 

 

「そう」と適当に返事をした千羽矢の態度に、雨崎は「変わらないな」と思いながらも冷蔵庫にある朝食を電子レンジに入れる。少しばかり化粧が強い千羽矢に、雨崎は何気無く聞いてみた。「なんだ、そのまま小波とデートか」

 

 

「いいね〜。妹の私に恋愛感情抱く変態兄貴を背に、小波とイチャイチャするのも」

 

「それ、高校時代の話だろ」

 

「今でも好きなのは変わらないくせに。まぁ、本当は先輩だけじゃなくて、元プロ野球選手の“木村庄之助”にも会うからだけど」

 

 

“木村庄之助”ーーそれは知っている人は知っているプロ野球選手だ。ポジションはピッチャーで、中継ぎと抑えを行っていた。話題となったようなニュース、特徴の目と性格がキツイこと以外、特に目立つことないまま現役を引退した。

雨崎は捕手として木村のピッチングには惹かれており、配球と緩急には思わず関心を抱かせる。そういう意味では、千羽矢の話は雨崎にとって嫉妬するようなものだ。

そしてその木村庄之助は、先程名前に出た“木村冴花”の実の父親でもある。

 

 

「そうか。じゃあ、俺は一日オフを楽しむよ」

 

「あれ?今日も阪神はヤクルト戦でしょ。捕手として行かなくていいの?」

 

「今、阪神は正式な捕手が決まってないんだ。いつも通りなら俺を中心として使ってるけど、他にも使いたい奴がいるからって……」

 

 

「なるほど」と千羽矢は頷くと、最後にコンタクトレンズを入れて身支度を終えた。バッグの荷物をチェックすると、駆け足で玄関に向かって千羽矢は雨崎に挨拶して出て行った。

それなりに広いリビングで一人の雨崎。電子レンジの加熱終了の音に悲しくなるが、腹の虫を抑えるためにお昼時のニュースを見ながら朝食である『えびピラフ』を食べ始めた。

 

 

『では、次のニュースに移ります。昨日、不審な男が東京にて逮捕されました。男は「イキでクールなナイスガイ」などの意味不明な口述をしており……』

 

「……日ハムと楽天戦が午前からだし、“水木卓”さんの息子が楽天に入団してるから見るか」

 

 

 

 

 

「やっぱり、プロ歴一年でも高卒と大卒で全然動きが違うな」

 

「もう、折角同級生に会うんだから、携帯で野球観戦しないで!」

 

 

「馬鹿兄貴みたくなるよ」と千羽矢の言葉に、小波は軽く笑ってスマフォをしまった。

 

 

「でも凄いよ、あの安定したフォームと打率。盗塁の勝負強さも流石としか言いようがない。交流戦が楽しみで仕方だなぁ」

 

「女性であるあたしを放っておいて、男にゾッコン〜?誰かしら、その男」

 

「“水木颯斗”」

 

 

「そんな真面目に答えなくても」と千羽矢は言った。

今、小波と千羽矢の二人は商店街にある店を見ながら歩いている。小波は適当なシャツにパーカーを羽織り、これまた適当なスニーカーと群青色のジーパンをつけ、どこかセンスがあるカジュアルな服装をしているが、それとは対照的に千羽矢の服装は文字通り適当なものだった。

血生臭いが漂う長袖のプリントシャツにモノクロのミニスカート。同級生に会うという理由で手を抜いているとはいえ、これでも千羽矢にしては中間的なファッションなのだ。参照は女性ファッション誌。

やはり友人といっても、小波は一軍のプロ野球選手だから着こなしもしっかりしておくべきだったと千羽矢は後悔した。まだプロ野球一年目とはいえ、期待の大型ルーキーだ。流行りに敏感な若者だったら小波のことを知っててもおかしくはない。現に通り過ぎる民間人が、小波を指差してはひそひそと談話を始めたりと、プロ野球選手の小波ではないかと勘ぐっている。

 

 

「住所は変わってないし、一駅跨ぐだけで着くな。冴花と会うのは卒業以来だ」

 

「冴花ねぇ……」

 

「ん、どうした千羽矢。もしかして名前間違えてるのか」

 

 

「間違ってないけど」と千羽矢は言って、言葉を続ける。「やっぱり好意を寄せてる私からすれば、思わず嫉妬しちゃうな、って」

 

 

「ははっ。相変わらず冗談がうまいな」

 

「……冗談じゃないんだけど」

 

「なんか言ったか?」

 

 

小波の問いかけに千羽矢は「別に」と不貞腐れて答える。

今日も一日快晴。“橘みずき”“東條小次郎”“鈴本大輔”それに“水木颯斗”らの交流戦が楽しみな小波には、千羽矢の真意には知る由もない。

 

 

………

……

 

 

「ふっふ……久しいでやんすね、小波君」

 

「餅田……巨人での成績はどうだ」

 

「二軍では防御率は1点台でやんす」

 

 

電車と足を使って三十分弱。小波と千羽矢は冴花の家へと辿り着いた。

冴花の歓迎と共に家に上がってゆっくりしていたのも束の間、混黒高校出身でライバルである“餅田”と出くわした。冴花の家にいる理由としては、ただ単に投手コーチに“木村庄之助”に会ってこいという招待状を貰ったからだそうだ。

 

 

「一軍ではまだ起用されてないでやんすけど、いつか先発で負かしてやるでやんす。くくく……」

 

 

見ての通りの言葉遣いで、プライドはいい意味でお高くいる人物だ。見た目が“矢部明雄”や“落田”や“湯田浩一”に似ているという話題で、テレビで面白野球人としても歩んでもいる。

 

 

「まぁ、でも1点台は凄いな。俺は3点台後半の一勝一敗……どちらが上か試してみるか」

 

「今ここで決着をつけてオイラが上だと教えてやるでやんす!」

 

「ちょっと!今、お父さんは記者と話をしてるから静かにして」

 

 

机に叩き置かれるお茶に、小波は腰を引いた。この激しく怒鳴り散らす態度。そしてどこかしら人を尻に引こうとする言動。お茶に伸ばされている腕を伝って、小波はようやくその人物の顔を確認した。

強く睨みつける眉と目。デコ丸出しの髪型では、顔の表情に曇りなどが生じるはずもなく、そのまま威圧の視線が小波を貫く。

間違いなく小波が知っている木村冴花だ。変わらぬ無愛想な顔と、安産型なボディが何よりも特徴的だ。千羽矢の嫉妬に満ちた表情が小波から見てもわかる。

 

 

「……先輩、運動不足で太ったんじゃないですか」

 

「そういうアナタも足が張ってきたじゃない。運動のしすぎかしら」

 

「いえ、私のは健全なものですから。運動せずにブクブク太るほうが不健全ですよ」

 

「いいわ。じゃあ運動しましょう。ストレス発散の意味も込めてチャンバラとかどう?私は竹刀二つ使うけど」

 

「おい、静かにするんじゃないのか」

 

 

好戦的な女性二人の張り合いに餅田はいち早く危険を感じたのか、そそくさとトイレへ駆けていった。

その突然の行動に小波は「逃げるなんてズルいぞ!」と文句と不満を垂れるが、そこの救世主となる人物が二階より現れた。

 

可憐に纏う褐色肌の女性。見た目から外人だと推測できるその姿に、鼻の下が伸びてるのがわかる。

しわ一つないワイシャツはどこまでも白く、太ももを覆い隠すスカート。さらにはベレー帽に近いデザインをされてる茶色の被り物。その色は自らの褐色肌よりも濃い。

手には小さなメモ帳と多色ボールペン。帽子には改造が施されているのか、他にも様々なものがある。ほとんどがボールペンなどの筆記物だが、中にはサイフといった貴重な物があるのが小波には見えた。

 

 

「あっ、プロ野球選手の小波さんですね。ワタシ、こういうものです」

 

 

意外にも日本語ペラペラな発音に、小波は驚きを隠せないが、手渡された名刺を見て女性の名前を確認した。

ジャーナリストの“武内ミーナ”。姓名から考えて、どうやら黒人とのハーフのようだ。白髪は誰譲りか疑問に残るが。

 

 

「……オイラもプロ野球選手でやんす」

 

「えっと……“湯田浩一”選手ですか?」

 

「違うでやんす!オイラは“餅田浩紀”でやんす!」

 

 

「それだけ顔が似てるってこと」という千羽矢の申しに、餅田は言い返せずにミーナの名刺を受け取った。

 

 

「ところで餅田。お前いつトイレから出てきた?」

 

「すいません、小波選手。あなたにもインタビューしてもいいですか?」

 

 

いきなりのお誘いに千羽矢は「モテるね」と冷やかしを入れ、冴花は「開拓の時からね」と嘆息をつき、餅田は「羨ましいでやんす」と嫉妬をこぼした。

三人のチャチャに小波は「うるさい」と一言ではらうと、笑顔でミーナのインタビューを受けた。

 

 

「では、入団した気持ちはどうでした?」

 

「そりゃ、嬉しいですよ。高校で腕を故障して一度は選手生命が断たれようとしたんですから。でも、必死で頑張って今では左腕の全力で150キロ前半は出ますから」

 

「ふむふむ……リハビリはさぞかし大変だったのでしょう」

 

「ええ。混黒から、まだ開拓分校の開拓高校に回されましたから。大会に出るためにリハビリとろくに整備されてない設備を手直しで直して……ボールも解けたらマネージャーが修繕。色々と世話になりました」

 

 

それからも十分近く小波は自分のことについて掘り下げられた。メディアで『逆襲球児』と言われた所以、開拓を混黒の合併からどうやって独立させるか、部員との甲子園エピソード。それにライバルである雨崎と餅田のエピソードも赤裸々に話した。

もちろん、でっち上げ無しのノンフィクション。これらの一部は既にスポーツ新聞などで報道されている。年末には本として出版する予定もあるらしい。

 

 

「なるほど……では、今の阪神はどういう感想ですか?」

 

「やっぱり守備が不安な面がありますが、そこは俺と雨崎で全力で抑えますよ。打撃には鳥谷さんとか、マートンさん、それにゴメスと頼れる上位打線が。降板しても中継ぎにはイニングイーターのシルバーさんがいるし、抑えには“オ•スンフォン”がいて、自分の投球が上手くできますね」

 

「では最後に。来日してきた外国人についてどう思います?」

 

「ゴメスさんは順調に主砲として、スンフォンさんは抑えとして頼りなる速球と変化球を。シルバーさんは球速は並みながらも、鋭い変化と緩急を使いこなしてイニングを食いつぶしてくれてます」

 

 

メモ帳にペンを走り負わせると、ミーナは「ありがとうございました」とだけ言って、早々に木村家から消えて行った。

 

 

「……綺麗な人でやんす」

 

「おまけに童顔だしな。千羽矢と同じくらいに見えたぞ」

 

「ちょーとだけアタシを老けてるって言ってない?」

 

「遠回しに私も言われてるけど……」

 

 

こうして木村家での時間は過ぎて行く。

餅田が庄之助と対談して数十分すると、餅田は混黒時代の黒い笑みを浮かべて木村家を後にした。その後小波と千羽矢は、木村親子と共に何の変哲もない雑談。平和な時間を過ごす。

その頃いっぽう、雨崎は楽天と日ハムの観戦していて選手のスタイルを確認していた。そして気づく。楽天のプレイスタイルに。

 

 

「……先発に橘みずき!?」

 

 

今まで中継ぎのエースとして活躍していた女性投手、みずきが先発として登板していた。しかもスコアは6回表の0-0の完封状態。

だが、まだ余裕が顔のままみずきは降板。中継ぎとして出てきた斎藤に任してマウンドを降りる。

 

 

「…………っ!?」

 

 

そして6回裏、楽天の攻撃。ボテボテの内野ゴロをヒットにする猛者の姿が雨崎の目に映る。名前は“水木颯斗”

しかもその次は盗塁で二塁を奪い、次の投球で三塁を奪う。日ハムの捕手、大野の肩を持ってしても三塁の盗塁は止められなかった。

あれはもう足が速いという問題ではない。次の塁を奪うための勝負強さ。それが盗塁する駆け引きを誰よりも早く見定めている。その盗塁の技術は、お世辞なしで『平成の“福本豊”』と言える。

 

 

「……どうやって対処するべきかな」

 

 

盗塁数16の独走一位。打率2割9分8厘。本塁打はなし。

“橘みずき”と“水木颯斗”の二人と戦う楽天戦は今週。思わぬ奇襲に、雨崎は震えと驚き、そして喜びを隠せなかった。




【補足コーナー】


Q.夢オチ爆破。
A.パワポケ定番の操作説明。


Q.シスコン変態兄貴疑惑。
A.義理の兄妹だからね、仕方ないね。


Q.能見のせいで貯金が少ない。
A.今シーズン、能見さんの圧倒的負け数のこと。阪神ファンなので悲しいです。


Q.イキでクールなナイスガイ
A.パワヒモポケット始まらない!


Q.“水木颯斗”って?
A.オリキャラ……ではなく水木卓さんの息子。大卒ということは、つまりあいつ。


Q.先発にみずき!?
A.パワプロ14でそんな話があったはず。


Q.“福本豊”って?
A.日本球界歴代最高の盗塁王。先頭打者ホームランも多く、足だけではなくパワーもある。そんな彼は走塁コーチの時、選手に打撃を教えたという逸話がある。ことの詳細は福本豊で検索。
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