あと、遊戯王TFSP面白い。
七回表の場面。BHの打順は七番の『シノビ』からだ。
右投右打と一見スタンダードタイプの選手に見えるが、実態は違う。こいつには並外れた視力からなる選球眼と足の速さがある。
シノビ相手に駆け引きなんて無駄以外の何者でもない。やるなら全力勝負。一球一球に魂を込める。
小波は友子に伝える。内角低めでいくと。
友子は頷いて捕球の体制をとる。記念すべき一球目は、小波の得意技ストレートだ。
球速150キロを掲示板に記され、まずは一つ目。これでワンストライク。
だが、ここで小波に異変が襲う。
「(今、肩が……)」
投げる瞬間、わずかに肩が重くなった。黒鉛の鉄球がのしかかったような、そんな感じを覚えた。
気のせいか?小波は二回目の投球へと移る。今度も内角低め。ただし今度は十八番の高速スライダーなのだが。
「……!」
二つ目のストライク。喜ぶべきとこだが、小波はそれを気にする余裕がなかった。
再び肩にのしかかった。背筋が凍る不気味な感触に、小波はみずきの話を思い出す。
《彼の腕にもう栄光の二文字はなかった》
その言葉の残酷さは、あの時開拓時代の名残で身に染みてわかったことだと思った。しかし、もう一度あの時と同じ状況に陥って恐怖する。
この肩はもう使い物にならないかもしれない。それは憧れてなったプロ野球選手を引退する選手生命の危機にも直結する。
一度掴んだ希望を手放させ、深い闇へと陥し入れようと悪魔が囁く。今にも折ろうとする悪魔の名は『絶望』という闇の深淵だった。
小波は振り切るように三球目を投じる。
三度目の正直ともいう。もしかしたら、今までのは気の迷いから生まれたものかもしれない。
しかし、日本語は面白いものであり、辞書を開けばこんな言葉もある。『二度ある事は三度ある』と。
小波に襲いかかったのは後者だった。
三球目もストライクでシノビを抑えたものの、再び肩に軽い鈍痛が襲う。
「タイム!」とそこで友子の声が響く。
「大丈夫……なわけないか」
向かってくる友子の顔は暗く沈んでいた。
他のみんながタイムの意図に気づくのは、そう難しくはなく、みな一歩引いて見守る。
「……投げ続けるよね」
原因はすぐわかる。伝説選手達の散々痛めつけられたのだ。後遺症があってもおかしくはない。
「あぁ」
小波の決心は固かった。例え絶望の淵が見えようと、小波は希望を手に立ち向かおうとしていた。
それほど千羽矢思っているのだろう。あるいは気づいているのかもしれない。神高の野望によって連れて行かれ、闇の中で浮かぶ千羽矢を助けるには、自らを闇に浸すしかないのだと。
いずれにせよ、小波の中では、千羽矢は大きな原動力となっていた。
「止めることもできない?」
「あぁ」
「腕が折れても?」
「……あぁ」
わずかに溜め込んだ時間。それは戸惑いや悩みではない。決意だ。
もう二度と投げれなくてもいいと決意しているのだ。
「以前、みずきさんに言われたことがある。悲劇のスラッガーの話を」
「何を聞いたかは、覗いてるからわかるよ。友沢選手の過去でしょ」
「そうだ。彼の腕に栄光がなくなった……そういうものだ」
「だけどな」と小波は強く言い放った。「そんな栄光はいらない」
「沢村賞とろうが、防御率一位とろうが、関係ない。俺にそんな栄光が待ってるなら喜んで捨ててやる」
「そこまでして?」
「俺がこの左腕に背負ってるのは、千羽矢の未来と『しあわせ』なんだ。そのためなら安い代償だろう」
「もう決めたことだ。俺自身が」という小波は、笑って言う。「まだ折れると決まったわけでもないしな」
「……そうだね」
友子も笑って答えてみた。
あまりにも痛々しい。小波の言葉は嘘をついていた。この試合で折れることを予期してる。
まるであの人のよう。
定められた時間で必死にその世界にしがみつこうと戦う彼の姿が友子の脳裏に移る。
小波も戦う。それは友子の意中の彼と重なって見えたが、二人は決定的な違いがあった。
彼は野球にしがみつくために。小波は野球にさよならを告げるために。
助けようのない事実に、友子は涙を流した。今だけは涙を隠す重い防具がありがたく感じた。
タイムを終えて二人は試合へと戻る。
二人目の打者『ウォッカ』は打席に立つが、小波の投球は、大きく様変わりを遂げていた。
最後の試合だ。絶対に勝つ。勝たなきゃいけない。その意思は、炎となり小波の投球を生涯で初めてとなる最高球速155キロへと羽ばたかせる。
まだだ。悲鳴をあげようと構わない。小波の強い意志は、今ある実力を急激に上げていく。二球目156キロ、三球目157キロと信じられない成長をこの投球で見せて、見事ウォッカを見逃し三振で完勝する。
「おいおい、こんなことがあるか」
「無いだろうな。おそらくこの急激な成長は本人の成長もあるが……同時に『具現化』現象によって、それが増大されてる」
驚く紫杏に洗谷はこの成長を述べる。にしてはちょっとおかしい気もするが。
紫杏は「興味深いな」といって、犬井からの連絡を待つ。
そしてツーアウトの場面。そこでアイツの顔が見えた。究極の力で押し切る『スカイラブ投法』を編み出した天才野球選手、アスワンが打席に立つ。
投手ながらも、アスワンはそこらのプロとは引けをとらないバッティングセンスを持ってもいる。軽い球を投げたら、一瞬の名の下にホームランに持っていかれるだろう。
投げるたびに肩がおかしくなるのはわかる。
だけどもう後には引けない。全身全霊を込めて投じる。一投目は意表をついてカーブだ。
「馬鹿!今すぐ避けなさい!」
外野から響く浜野の声に、小波は何だと思いながらもすぐさま転がるようにマウンドから離れる。
上手く伝わらずに重みのないカーブが友子に向かうが、そんな球がアスワンに通じるはずがない。
そう、相手はアスワンなのだ。あの原作者ですら作るのに『二十年早かった』と言うほど、超常的でルール皆無の漫画『アストロ球団』の主人公。
それが意味するのは、『スカイラブ投法』や『ファントム大魔球』のようにアスワンは必殺打法を持っている。
アスワンが打つと同時に、バットが砕け散る。バットは先ほどまで小波がいたマウンドを強襲し、勢いよくセンターにまで吹き飛んでいく。
気になる打球も一塁線ギリギリのライト後方にまで行き、判定はツーベースヒット。アスワンは気にもしない様子で二塁へ佇む。
「『ジャコビ二流星打法』……すっかり忘れてた」
アスワンは投手の印象が強すぎて、小波は忘れてたいたのだ。アスワンは打撃にも必殺技があったことを。
『ジャコビ二流星打法』は、故意にバットにヒビを入れといて折れたバットで強襲するという一種の殺人打法だ。
再び襲い来るラフプレーに、小波は怒鳴りたくなる。だが、こいつは伝説選手達とは違い、原作そのものがラフプレーの塊だ。アスワンにとってこれは常套手段なのだ。咎めてもわかりはしないだろう。
ツーアウトツーベース、何とも言えない状況だ。ピンチといえばピンチだが、チャンスといえばチャンスなこの場面。
ここで球界を代表するような名打者、名投手が出たら今年度の名勝負とか言われて取り上げられるだろう。
マウンドに立つのは小波。バッターボックスにはダジロウ。
ハッキリ言おう。パッとしない二人だった。
どちらも高い能力は持っているが、これといった長所がない二人でもある。
しかし、小波は手を抜く気はなかった。無駄玉なしの直球勝負。一投目ストライク、二投目ボール、三投目ボール、四投目ファール、五投目ボールと文字通りギリギリの駆け引きをする。
汗ばんだ手にロージンを染み込ませながら小波は再び投じる。
「うぉぉおおおお!!」
ーー絶対に千羽矢は連れ戻す。
揺るがない意志で投げた高速スライダーは、見事にダジロウを三振に抑える。
「よっしゃ、これで七回裏や」
「次は誰だ、洗谷」
一同安心して七回の守備を終えてベンチに戻るなか、小波は二つのことに気づく。
一つは未だ二塁にいるアスワンが、初めて小波を見つめてる。敵意からはどうかはわからないが、小波は歩み寄って言った。「何だ」
「もう容赦しない。お前にはアストロ仕込みの野球を見せてやる」
それは宣告だった。アストロ仕込みの野球、そこから考えられるのは一つしかない。
小波は言った。「悪いが、お前の投球はわかってる」
「『スカイラブ投法』は限界だろう。『三段ドロップ』も四回までしか使えないんだから、あと二回だ。残された『ファントム大魔球』と『七色の変化球』も落ち玉」
「慣れれば造作もない」という小波だが、その発言は強気な見栄だった。
ファントムも七色も非常に落差がある。いくらレッドが保たせてくれたとはいえ、打つのが困難なのは変わりない。それにまだ165キロの豪速球がある。並大抵の力では立ち向かうことはできないだろう。
小波の真意を知ってか知らずか、アスワンは漫画の主人公とは思えない悪役の笑いを浮かべて言う。「そうだな」
「だが勘違いしている。俺はアストロ仕込みの野球と言ったんだ」
「野球は一人じゃあできないだろう」というアスワンは、とても冷徹な目をしていた。一言で言うなら、チープだが殺し屋の目。
小波はその言葉の意味を理解できないまま、紫杏に声をかけられる。「小波!」
「なんですか、社長」
紫杏に呼ばれてベンチに戻る小波。当の本人はやや不機嫌な顔をしている。
「今は監督だと言ってるだろう。それよりお前の打席だ。打てるか?」
紫杏に対する返答は決まっていた。「打てます」
「言うと思ったよ」と紫杏はそれだけ言って、ヘルメットとバットを手渡す。
紫杏の行動を誰も咎めることをしないのだから、みんな小波の決心を揺らす気はないようだ。
小波はみんなに感謝して打席へと入る。
紫杏と浜野は冷静に見守るなか、球団が同じ名残からか白瀬と友子は「かっ飛ばせ!」と応援する。
「お望み通りに……」
初球から打ってやろう。力む小波に、アスワンは言った。「まずは挨拶代わりだ」
何を言っている?小波はアスワンの投球モーションを見て、バットを構える。
普通のオーバースローから投げるのは『三段ドロップ』かストレートだ。『三段ドロップ』はあと二回しか投げれないのだから、小波のような打者に使うわけがない。
だとしたら答えは決まってる。ストレートだ。
しかし、予想は外れてアスワンは130あるかどうかのスローボールを投げてきた。165キロの速球に合わせて打とうとしてバットを振ろうとしたが、押し込んで見逃す。
判定はストライク。ど真ん中だった。まさかの意表をついたスローに、小波は直球だと言わんばかりに睨みつける。
だがアスワンも睨みつけていた。なぜ打たなかったと言いたげに見るアスワンは、イラついた口調で言う。「次もスローボールだ」
「そんな安い挑発に乗るかよ」
「じゃあ僕からも言うよ。アスワンは同じとこに投げるから」
捕手であるサトウもアスワンと同じことを言う。
意思表示するようにサトウはミットをど真ん中に構え、アスワンは力を抜く動作をする。そしてそのまま投球モーションへ移ろうとしていた。
まさか馬鹿正直に行うというのか。
狙い玉がわかってしまえば、こちらのものだ。仮にもプロなのだから、そんな丸わかりのスローボールなんか確実に外野の奥深くまで飛ばす。
小波は一度意気込んでスローボールを待つ。そしてアスワンから投じられた球種は緩やかなストレート、スローボールだった。
もらったーー!!
打った。打球はセンター奥深くまで飛んでいき、クリーンヒット。小波は難なくツーベースへと歩む。
「……策なしかよ!」
多少は警戒していた。何らかの策があるのではないかと。
蓋開けてみればどうだ。いとも簡単にヒットにさせたではないか。アスワンが言った「もう容赦しない」とは何だったのか。肩の痛みも考えれば、小波にはありがたいことだが。
単なる脅しだと思い、小波は肩を気にしながらも次の打者を見る。
友子だ。ここまでの成績はすべて見逃し三振。涙目ながらも打とうする意思はあるが、残念ながら野球をやったことがない友子が、165キロ相手に打てるわけない。記憶を読むことをしようともだ。
次の瞬間、アスワンは驚く行為を見せる。
四球ウエスト。つまりはフォアボールで、友子を流したのだ。
これは小波だけでなく、ベンチにいるみんなが疑心の目を向ける。
どういう意図があって友子を進ませた。わけもわからぬままノーアウト一塁二塁。ここで打者は一番のヒーローの現リーダー芹沢だった。
「ブラック、あいつら……絶対に良からぬこと考えてるよ」
「…………注意する」
同業のピンクこと桃井から忠告を受けて、芹沢はバッターボックスに立った。
和那が言っていたが、芹沢は常人では到達できない俊足の持ち主だ。その走塁は、部分的に見ればイチローよりも素早い。しかも安心と信頼の安打製造機だ。今回の試合中、得点に貢献したのは一回だけなものの、その全てをヒットにしてきた。
そしてまた芹沢はヒットを打つ。
弾丸のごとく進む打球は、二塁を超えて誰もいないセンターへと行く。
よし、このままホームインだ。全力で駆ける小波と友子を背に、浜野は再び叫んだ。
「上!今すぐ下がって!」
浜野の言葉の意味がわからず、走りながら見上げる小波。それはここにいる誰もが度肝を抜くものだった。
小波の向かう頭上には、不敵な笑みを浮かべて落ちる四人の野手がいた。スパイクの裏にある銀色の重めかしい針が、殺意を露わにして襲いかかる。
それは友子にも同じように降り注いでいた。
「『人間ナイアガラ』……投手と捕手。どっちが逝くかな?」
【補足コーナー】
Q.小波負傷。
A.アストロ球団あるある。別に気にすることじゃない(感覚麻痺)
Q.パワポケにみずカスの出番があっただと……!?
A.遊戯王ARC−Vでいうユートポジ。今後しつこいぐらい回想されるんじゃないですかねぇ。
Q.アレ、友子……?
A.妙にヒロイン臭いけど、ヒロインは千羽矢です。
Q.友子の意中の人。
A.友子はパワポケ8の彼女候補です。
Q.小波急速進化。
A.たぶん、彼だけ内部がゲーム仕様。翌週いきなりムキムキになるパワプロ的な。
Q.『ジャコビニ流星打法』
A.殺意しか見当たらない打法です。
Q.アスワンの口調……。
A.アストロ魂とか、昔の言葉とかよくわからんのじゃー!!
Q.『人間ナイアガラ』
A.ついにやっちゃう禁断のコラネタ殺意フォーメーション。アストロ球団で一番有名な必殺技じゃないかな?
Q.これ野球だよね?
A.今回だけはパワポケではなく、アストロ球団として書いてみました。野球という名のデスマッチです。まぁ、パワポケ12が『野球ゲームができる野球ゲーム』やったりしたからヘーキヘーキ。