白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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バイトがあって遅れ、マイクラを二時間。ハタ人間を三時間。


そんなこんなで投稿。
ハタ人間編の白瀬と青野が頼りになりすぎぃ!あと委員長も!貴重なライフル適正だからね!強いよ委員長!


第二十話 オレガココニイルイミ

砂煙が巻き上がるグラウンド。

アスワンの狂ったような笑い声が、二塁を跨いで一塁から三塁までを鮮血に染めた。

 

 

「あの野郎!」

 

 

ついに堪忍袋がキレた白瀬が、銃を取り出して発砲をする。

銀の鉛玉はすべてアスワンに向けられており、また新たな血でグラウンドを汚すかと思われた。

しかし、アスワンはまるで動じずに鉛玉を片手で受け止めた。指先に挟まる弾丸が、その超人性を物語る。

 

 

「やめときなさい白瀬。アスワンはファントムを物にするために自らの手をドリルに触ったほどよ。弾丸ごときで傷つけられるほど、ヤワじゃないわ」

 

「離して!あそこには親友の友子と、仲間の小波がいるのよ!」

 

「安心しなさい。少なくとも、その二人は大事になってないから」

 

 

浜野に言い聞かせられて、白瀬はグラウンドを見る。より深く言えば内野全域を。

よく見れば打席で打ったはずの芹沢の姿が見えない。代わりに見えたのは、バッターから一塁までに獅子が走ったかのごとく、地に刻まれた靴跡があった。

 

そして煙を晴れる。一塁にも二塁にも小波と友子の姿はない。あるのは点線上に繋がる獅子の足跡だけ。

 

一塁にいない。二塁にもいない。だとすればいるのは三塁。

 

 

「大丈夫か、リーダー!!」

 

 

いち早く和那が三塁へと駆けていく。本来試合中に打者でもない人がフィールドに出るのはご法度だが、このラフプレー公認神高製ポンコツ測定器がそんなことをわかるわけがない。守るのは野球の進行を妨げない最低限までだ。

 

ボロボロの背中で芹沢は三塁へと到達していた。傍に小波と友子を抱きかかえて、膝を三塁ベースへと折る。

 

 

「…………大丈夫。守るのはヒーローの役目だから」

 

「そうかいな、なら安心……なんて言わへんで!」

 

 

和那は芹沢に背中を服を破いて、みんなに見せつける。まず目に付いたのは、背中に深々と刺さったスパイク跡だ。

脊髄にまで届いてると錯覚させるほど赤黒い穴がいくつもある。

立つこともままならないのだろう。そんな芹沢に激励を送ろうとしたが、そこに邪魔者が入る。『ルール違反』

 

 

「なんやポンコツゥ!!」

 

『ランナー追い越し。友子、芹沢、共にアウト』

 

 

測定器の無慈悲な言葉に、和那は当たるが、野球のルールを一通り把握している紫杏から言わせて貰えば、別に不思議ではない。

芹沢が確かに打った。状況的に見れば、芹沢は二人を守るために、二人を追い越すしかない。友子を抱えて一二塁を走り、小波も守るために二塁三塁を超える。

 

そしてさっき膝を折った時に、芹沢は三塁ベースに触れてしまった。

纏まってダンゴムシ状態だが、位置的な部分をいえば三塁に芹沢。三塁線からホームまでに友子。二三塁に小波がいるのだ。

最も前にいる小波が抜かされたのだから、ルール上は確かにアウトだ、仕方がない。不満があるといえば、いかに紫杏と言えどもあるのだが。

 

 

「ははっ!!いいざまじゃねぇか、小波ぃ!」

 

 

アスワンは高笑いするが、その顔はひどく醜く歪んでいた。悔しさを押し殺すように歯を食いしばり、そこからは血が流れる。

 

 

「女に守られるとはな……男として恥ずかしくないんかぁ!!」

 

「そんなラフプレー起こすアンタの頭、おかしいとちゃう!?」

 

 

「知るかッ!」と怒号を上げるアスワン。

そこには昭和特有の凄みがあった。

 

 

「たとえなんぼカッコつけようが、勝たなきゃ意味ないんじゃ!ましてや、男なら……男の価値は勝利の二文字でしか満たせないじゃ!!」

 

「そいつは違う!」

 

 

小波は芹沢の腕を振り払って、アスワンへと詰め寄る。

 

 

「今の俺には千羽矢が全部だ!ましてや勝利なんて……」

 

「男じゃないから言える台詞やねぇか!そんな戯言言うとる暇あったら、是が非でも野球を魅せるプレイでも一つでもしてみたらどうじゃ!」

 

 

「だったら!」さらに小波は詰める。

 

 

「俺は男じゃなくていい。それが男なら、俺はいらない。勝利もいらない、栄光もいらない!テメェの価値観で、テメェの考えを押し付けるんじゃねぇ!!」

 

 

そこで小波は初めてアスワンを殴った。

 

 

「来いよ。ラフプレーも殺人行為も全部受け止めてやる」

 

 

小波は指差して言う。「だがこれだけは覚えておけ」

 

 

「お前の全部を壊して、俺が勝つ」

 

 

アスワンはいま最も醜い笑いを浮かべて応えた。「そうか」

 

 

「結局、勝利でしか表せない愚直な男よ」

 

「勝利でしかわからないアンタに、わかりやすく教えるためだ」

 

 

そして最後に「この小童が」とアスワンは言って小波と目を離した。

小波は気絶したままの友子を背に担いで、同じく背に芹沢を担いだ和那と一緒にベンチに戻る。

ベンチに戻ると、小波への第一声めが「大バカ野郎!」という桃井からの罵りだった。

 

 

「何がラフプレーよ!殺人野球よ!マトモなのあんたしかいないんだから、あんたぐらいしっかりとルールに添いなさいよ!」

 

 

「次、私なのよ〜!」と不満を言う桃井。

小波はすぐに頭を下げた。「ごめん!」

 

 

「なんかあそこは言い返さなきゃいけないと思ったんだ」

 

 

「本当にごめん!」と謝罪し続ける小波。さすがの桃井も根負けして「もういい」と言って、バットとヘルメットを持ってバッターボックスへと向かう。

ルール違反したとはいえ、芹沢の記録は一応はヒットだ。三塁へと到達した甲斐もあり、小波は二塁ではなく三塁からのスタートとなる。

 

 

「よくぞ立った、弱き者よ!」

 

 

饒舌に喋り出すアスワン。そのキャラの持ちように、原作を読破した浜野から「こんな性格だったかしら」と言われる。

 

 

「貴様ら相手に情け容赦なんていらん!見せてやろう、アストロ球団が誇る最強にして無敵!難攻不落の鉄壁を!!」

 

 

そういうと、外野陣が後ろへと走ってくる。

後退守備かとも考えたが、それにしては後ろに下がりすぎている。何より内野陣の動きがあまりにも異質過ぎた。

遊撃手と二塁手は外野の中間まで下がり、一塁と三塁手が凄まじい速さで、二塁へと向けて走る。常人では到底到達できない速さを幾たびも繰り返し、それは一つの現象を生み出した。

一塁手のヒデオ一二塁線上に二人に見えた。ヒデオだけじゃない。反対側の三塁手イワオニも同様の現象が起きていた。

しかも二人だけでなく三人へと増え続け、やがて一塁二塁三塁すべてを覆うほどの壁が出来上がる。

 

 

「これが九人揃った完璧な『アストロシフト』だッ!!」

 

「はっ!私にはそんな小細工通用しないわよ!たかが高速移動して、分身してるように錯覚させてるだけじゃない!」

 

 

桃井は自らが持つ能力をフルに使い、人の壁を見る。能力を駆使しても分身してるように見えるが、いくつかその壁に綻びがあるのがわかる。

 

アスワンが投球に移る。動きは何度も見て把握しきった。さっきは追いつかなったが、今なら追いつく。追いつかせる。

映し出された未来のビジョンは『ファントム大魔球』だ。アスワンは大きく飛び上がり、落差のある消える魔球、文字通り幻影の変化球を投げる。

 

だが、軌道がわかれば当てるのはたやすい。

桃井は打ち、僅かだが見当たる綻びへと打球を飛ばす。

鋭い打球は見事に壁を潜り向けてバウンド。ヒットをもぎ取ったように見えた。

 

 

「まだまだじゃあ!今度は新必殺技!こいつを食らえば、桃色小娘も終わりよ!」

 

 

再び頭上に野手たちが飛び上がる。『人間ナイアガラ』の体制だが、問題はそこに移る顔の濃さだった。

ヒデオとイワオニの数がここにいる総人数の足の数より多い。その中に混じる遊撃手と二塁手の姿も中々シュールだが、その威力は本家『人間ナイアガラ』とは比べ物にならない。

 

 

「『アストロシフト』と『人間ナイアガラ』を合わせた究極の守備陣系……『超人流星群』だ!」

 

 

無情に降り注ぐ銀の流星群。駆けた桃井に、もう立ち止まるや引き返す選択肢はない。ただ駆けていく。

煙が大きく立ち込めて、アスワンは笑う。そして人差し指を立てた。「まずは一匹じゃ」

 

 

「甘いんだよね〜。このピンク様を舐めって貰っちゃ」

 

 

「困るんだけど」という桃井の声はとても陽気なものだった。

煙が晴れて桃井の姿が見えてくる。桃井は無傷だった。それどころか、手には四人分のスパイクが握られている。

 

 

「ナイアガラとか、流星群とか言ってるけど、ダメージ源はこのスパイクによる物理的殺傷力だからね。隙見て取っちゃえば、こっちのものよ。怯えたのが馬鹿馬鹿しくなっちゃう」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 

「それに」と桃井は悪戯に笑う。「ヒットはヒット」

 

 

「ホームには小波が戻って一点……これで18-7よ」

 

 

桃井の言葉に、アスワンは我へと戻ってホームベースを見る。桃井の言う通り、小波がベースを踏んで自軍がいるベンチへと向かっていた。

電光掲示板にも文字が刻まれ、これで得点が入る。

まさか『アストロシフト』と『人間ナイアガラ』を組み合わせた戦術が一度で破られるとは、アスワン自身が思ってもいなかった。

 

 

「さぁ、靴は返してあげるわ。スパイクは外させて貰うけど」

 

 

得意げに話しながら、手慣れた作業でスパイクをぶちぬく桃井。一連の作業を終えると、鳥に餌を撒くように放り捨てた。

 

 

「ナイスよ、ピンク。次はあたしに任せなさい」

 

 

三番浜野。先ほど『スカイラブ投法』を真正面から打ち破った猛者だ。

こいつには鎌かけるだけ無駄だ。アスワンは165キロの全力ストレートから投げるが、浜野は何も変化がない見慣れた豪速球を見逃すほど甘い人間ではない。

 

高めで捉えた投球は、見事にジャストミート。勢いよく打球は『アストロシフト』の上を超え、外野を超え、フェンスを超える。

二打席続いてのホームランだ。浜野は誇らしげに拳を突き上げてダイヤモンドを回る。ホームベース前には桃井が待っており、互いにハイタッチ。これで18-9。

 

 

「はいはい、ホームラン」

 

 

そして安心と信頼の超能力、和那お得意のバントホームランを初球からかまし、ついにヒーローズは二桁へと追いついた。あと8点。

 

 

「敬遠すればええのに。時には潔くしたらええんとちゃう?」

 

 

煽るように和那はやる気なくベースを一周してこの文句を伝えられたアスワンの気持ちはどうだ。

燃えたぎっていた。堪忍袋の尾が切れて、目に魂が宿ったように闘争心を醸し出していた。

 

 

「だんだんと良い面構えになってきたじゃないか。アスワン」

 

 

四番和那の次は、五番レッドだ。

都会に出たら職務質問率100パーセントの不審者全開、大人からは白い目、子供からは憧れの瞳で見られる赤いライダースーツの赤マスクがバッターボックスで佇む。

 

 

「四番以外は許そう……だが、肝心の四番はなんじゃい!野球に対する熱意が感じんわ!!」

 

「俺に聞かれてもなんとも言えんな。本人に聞いてみたらどうだ」

 

 

尋ねられた問いに和那は笑った。「ウチも勝つためなら何だってするで」

 

 

「アンタらみたいに、殺人プレイしてまで勝利はもぎ取る。自分のこと棚に上げて、正当化しようとする見苦しいことはやめてくれへん?」

 

「だそうだ。さぁ試合を続けよう」

 

 

レッドはアスワンから目を離さずにバットを構えた。

勝利だ。勝利の二文字でしか、今ここいる俺、アスワンは存在する意味はないのだ。

アスワンは投球を応じる。『ファントム大魔球』を投じて、レッドはまた真芯近くに当てる。危うくホームランとなる特大の打球は、ライト方向のポール前で大きく外れた。

 

アスワンだって超一流の選手なのだから、肌身で感じてはいる。今まさに空気があらぬ方向に吹こうと淀んでいるのを。

 

この場面は絶対に抑えなければまずいと、本能が告げる。

意を決してアスワンが投じた外角高めのストレート。それは些細な変化なものの、ここにいる全員の度肝を抜いた。

 

 

「なっ……!アスワンの球速が……っ!!」

 

「おい、洗谷!どういうことだ!こんなことがありえるのか!?」

 

「俺にそんなことはわからない。だが、社長が想像してる答えがあっていると賛同しておこう」

 

 

洗谷は驚く紫杏に、漠然とした答えを返すしかなかった。

167キロ。先ほどアスワンがストライクをとった球速がそれだった。

 

偶然かと思った。いや、そうでありたかった。

だが回を重ねるにつれて、その現実は明確に突きつけていく。

二球目ストライク、168キロ。

三球目ファール、169キロ。

 

少しずつだが、球速は加速している。ホームラン寸前のファールも打てなくなっていき、投球に重みが出たのか、フェンス直撃のファールにしか打てなくなるレッド。

 

信じたくはないが、まさかこんなことがありうるのか。

球速が徐々に上がっていく。これは先ほど小波が危機による覚悟と、千羽矢を助けたい心が混同した強烈な決心が『具現化』を起こしていたから、アスワンもそれだと思うだろう。

しかし、問題はアスワン自身にあったのだ。小波は普通の人間だが、アスワンはどうだ。伝説選手を苗にしてるとはいえ、犬井の話からすれば、アスワンはデウエスの強い憎悪と野望の『具現化』から生まれた存在だ。

 

つまりアスワン自身は『具現化』そのものなのだ。しかし、今目の前で『具現化』そのものが、また新たな『具現化』を行っている。

 

 

「『具現化』した存在が、自らの意思で『具現化』を行うなんて……!」

 

 

それは強い意志を持つのと同時に、強い自我が生まれたという意味でもあった。

 

何故俺はここにいる?

何故俺は野球をする?

何故俺は投げる?

 

 

何故俺は勝利を求める?

 

 

決まってるじゃないか。

アスワンが投じた四球目は中央ストレート。レッドは空振り三振で終わり、バッターボックスで膝をつき見上げた。

 

球速175キロ。人外の領域へと足を突っ込むアスワン。その背中はとても誇らしげだった。

 

 

俺がここにいる意味。

俺が野球をする意味。

俺が投げ続ける意味。

俺が勝利を求める意味。

 

 

「俺も勝利でしか意味を見出せない不器用な男だからじゃ……!!」

 

 

そこにはもう『具現化』としてでも、宇野球一としてでものアスワンはいない。

勝利に飢え続ける獅子。一人の野球選手して、戦いに高揚感を覚えるアスワンがいた。




【補足コーナー】


Q.アスワン、白瀬の銃弾を受け止める。
A.パワポケじゃあよくわることじゃないですか。


Q.白瀬激昂。
A.仲間意識はやっぱりあったみたい。えっ、キャラが違う?一匹狼?はてはて何のことやら(遠い目)


Q.芹沢ちゃん身を呈して守る。
A.ヒーローなら守らないとね。にしては早すぎる気もするが。あっ、獅子ってネコ科みたいですね。


Q.ポンコツジャッジ。ランナー追い越しを指摘。
A.それよりも人間ナイアガラとか、超能力を現況してください。だからポンコツ扱いされるんです。


Q.アスワンが悪役に行きすぎぃ!
A.具現化しようとしたデウエスの意思が元ですからね。それが影響されてるかもしれません。


Q.小波「お前の全部を壊して、俺が勝つ」
A.シリアスな場面でかっこいい台詞ですが、なんとこれパロディ。幽☆遊☆白書より主人公、浦飯幽助が戸愚呂弟に言った名言。「あんたの全てを壊してオレが勝つ」です。


Q.桃井、不満を言う。
A.唯一ルールに沿っていた小波がラフプレーの上から勝つと宣言。かっこいいけど、マトモに戦果をあげてないのに、何を言っているんだお前は。


Q.『アストロシフト』
A.『アストロ球団』の必殺技。ためしに検索してみよう。まず、笑う。


Q.『超人流星群』
A.これは自分が考案したオリジナル必殺技。たぶん、台詞内で一番時間使った場所。でも、物の見事に桃井に破られた。まぁ、相手が悪い。


Q.再びバントホームラン。
A.和那さんの出番、これぐらいです。


Q.『具現化』した存在が『具現化』させるほどの意思を持つ。
A.書いた時はパワポケ本編でもいねぇな、とか思ったけど芹沢とか桃井とか『エアレイド』とか普通にできそう。


Q.アスワン覚醒。
A.パワプロの球速限度超えてます。さすが超人!



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