白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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試合部分を細かく書くのは今回が初めて。
果たして臨場感はあるのか?(白目)


第四話 序盤からフルスロットル!

二回表で小波がツーベースヒットを受け、続く五番にレフトヒットを打たれる。だが、六番のライナーをサードの新井弟が取ると、そのまま二塁で三塁ゲッツー。続く七番のセンター深い当たりを、大和がキャッチしてアウト。見事なファインプレーをした。

 

裏はみずきが打たせるピッチングで五番から七番を少ない投球数で抑える。『クレッセントムーン』を主体としたサイド投球に阪神は粘れずに終わる。

 

そして三回表。

八番を綺麗に三球三振で抑えてワンアウト。ここで小波は帽子を取って額の汗を拭うと、今日の要注意打者“水木颯斗”が小波から見て、左の打席へ入る。

 

 

「タイム」

 

 

ここで雨崎はタイムを入れ、小波が立つマウンドへと足を運ぶ。マスクを外し、一息ついて雨崎は小波に助言を与えた。「颯斗は前見た試合だと右打ちだった。でも、今回は左打ち」

 

 

「長打狙いじゃないのか」

 

「うん。足が速いから、何が何でも塁に出る気だよ」

 

 

となれば、出来るだけサード方向には飛ばしたくない。内野安打ができる足ならば、遅めに打ってのゴロでも安打にする。

「わかった」と小波は言い、雨崎をポジションへと返してゲーム再開。タイム中に素振りをしていた颯斗は、準備万端と言いたげに目を滾らせてピッチャーを見つめている。

同時に高鳴る心拍音。興奮か緊張か、小波の心臓は収まりを知らずに高ぶり続ける。

これだ。この心臓を潰すような状況。小波が一番好きな場面。雨崎の要求はなし。リードで内角を仄めかす程度。

一体一の真剣勝負だ。

 

 

「(どうする?まずは一球様子見でアウトハイ直球でいくか?でも、打ったら流されるわけもあるし……ここは内角?)」

 

 

積極的に振るであろう颯斗の狙い玉が読めず、考え込む小波。深く考えれば考え込むほど、小波の興奮は収まらず、逆にさらに体を打つ脈を早くさせる。

 

 

「(……俺らしくない!こんなこと考えるんだったら!!)」

 

 

渾身の一球。小波の手から白球が放たれる。

弾丸のように迫りくる直球。狙いはーーど真ん中。

それを颯斗は捉え、打ち上げる。打球は後方へと向かいファール。

そして点滅される電光掲示板。球速153キロ。小波が誇るMAXの球速がそこには記される。

 

 

『おおっと!今シーズン初の150越え!!小波の力はここまであるのか!?』

 

 

逆だ。小波の力はここまでしかない。まだ見せたことのない150台の速球を初球で当ててきた。つまり、颯斗に対して直球で挑むのは自殺行為ということ。

今のは確実に反射神経だけで当ててきた。絞って打ったなら最悪でも前へ飛ぶはずだ。

だとすれば小波の選択肢は格段に減る。残っているのは高速スライダーと、ドロップ気味のカーブ。しかもカーブはリリースでバレる恐れがある。

となればもう一つある変化球を使うのが得策だが、それは反射神経だけで当ててくる颯斗には絶好の球となる。球種の名は“チェンジアップ”。

 

二球目。外角外れる高速スライダー。バットを振る颯斗だが、持ち前の反射神経ですぐに止めにかかり、バットは静止。判定はボール。

次も外角。だが低めのストレート。ここは見送ってボール。

ここで思わず小波は舌打ちをする。颯斗は反射神経だけでなく、選球眼もいい。だとすればどこに投げればいいのだ。

対角線上に投げてクロスファイヤーをしてみる?小波は精細なコントロールを持ってないし、そんなことを意識下でやるのは初めてだ。ゆえにこの案はすぐに小波の頭から抹消される。

 

 

「……一応ツーシームは投げようと思えば投げれるけどさ」

 

 

グラブで口元を抑えて雨崎と決め合うフリ。雨崎もまったく意味がない行動をし、打者の意思を散らつかせようとする。

先ほど小波はツーシームを投げれると言った。だが、小波はこのツーシームを投げようとすると、ただでさえ良くない制球のストレートが、なおさら悪くなってボールにすっ飛んで行く。

それでワンストライク、スリーボールになったら、相手はボール待ちで塁に出る。彼は塁に出れればいいのだから、打者としての勝ち方はいくらでもある。

いっそ殺す勢いで内角を抉る全力ストレートでいくのも悪くないか、と思い小波の四球目。颯斗は両足で早めに引いてその直球を避ける。判定は当たり前だがボール。楽天からブーイングが聞こえるが、試合中の小波には気にもしないことだった。

 

 

「(外角も内角も見極めてる。だとすればもうストライクゾーン内での変化球で打ち取るしかない。……右打ちだったら勝てるのになぁ)」

 

 

自分の速球が通じない小波の思考とは別に、雨崎も颯斗について冷静に分析して対抗しようとする。

左の瞬足。内野安打も現在両リーグ揃ってトップの颯斗は、打ち取ろうにも打ち取れない。これが右だったらまだ救いがあるが、左で勝負しているのでこの考えはボツ。

 

 

「…………レフト線にいる女性可愛いな。あれ、君の奥さん?」

 

 

意気消沈して雨崎は冗談三割とおふざけ七割の作戦、題して『何ちゃってささやき戦術』を決行。ちなみに高校での成功率は一割。嵌ったのは、お馬鹿な餅田ただ一人である。

 

 

「えっ!?」

 

 

だが、颯斗はその呟きに見事に反応。どうやら水木颯斗という人物は、餅田なみのお馬鹿だったらしい。

その間に投げられた小波の直球は、内角よりの真ん中高めに入りストライク。小波も入ると思っていなかっただろう、大口開いて唖然としていた。

 

 

「審判さん、靴紐解けたのでタイムお願いします!」

 

 

ここで小波と雨崎はまともに颯斗の声を聞いた。意外にも身長180前後の体には似合わない可愛らしい声をしていた。

颯斗が大卒ということは、少なくとも小波と雨崎より四つは年上だ。それなのに清潔感溢れる好青年ボイスに、小波と雨崎は出来すぎな彼に妬みの視線を送る。

 

 

「ちょっと!レフトにいる誰のこと指してるの?」

 

「えっ……?あー、そのー……あそこの……青髪の人」

 

 

器用に小さな声で怒鳴る颯斗に、雨崎は特に検討もないので適当にレフトで目立つ髪型の人を言って見た。

すると、どうか。颯斗は今まで冷静な顔が嘘のように剥がれ、顔をドンドン赤くしていく。しばらくすると顔だけには収まらず、耳までもが赤く染まり出した。

 

 

「あれ…………僕の……」

 

「……パードゥン?」

 

「その、だから、えっと…………僕の、嫁さん」

 

 

今度は雨崎が驚く場面だった。視力が両目とも2.0を駆使してその唱えた女性を捜索、一秒と数コンマで見つけると、睨みつけるように見続けて、また一秒と数コンマで驚きを露わにする。

 

 

「あれって……まさか“南雲ホールディングス”の……」

 

「……うん、ご令嬢。“南雲瑠璃花”」

 

 

雨崎は感嘆な息を吐くと、颯斗は靴紐の解きを終えて試合再開。平常心は取り戻したようで、雨崎は再び嫁の話題を振ってみるが不発。小波の六球目をファールにする。

 

 

「(ささやき戦術ってやってみるもんだな……今後は他球団選手の煽りの情報でも集めてみよう)」

 

 

七球目も一塁線へのファールフライ。続く八球目、後方へのファール。二人とも粘り強く戦い続ける。

小波はロージン、颯斗は足場を慣らして九球目。カーブを捉えて奥に運ぶも、ライトポール右側のフェンス直撃。再びファール。

 

 

「(長打が出てきた……今は同じところに投げないのが得策だ)」

 

 

雨崎、ここで小波への初要求。内角抉る高速スライダー。

小波は不安げな表情をしながらも十球目。颯斗は振りはバットの根元。高く打ち上げキャッチャーフライ。

これは捕れると思った矢先、肌身に伝わる風の抱擁。雨崎はすぐに足を止めてキャッチャーフライを見送る。風邪の影響でフライは徐々に運ばれて後方ファールゾーンに落下した。

 

 

「水木さん。嫁さんとはどこまで行ったんだい?盗塁王だけじゃあ飽き足らず、夜の盗塁王も取るんかい?」

 

 

口調をわざと壊して下話をぶち込む男、雨崎。

颯斗の内心に大きく響いたようで、十一球目でついにフォームの軸がブレた。そしてこの時、雨崎は確信した。颯斗はそっちの話に弱いと。

 

 

「満足してるですか?嫁さんも夫のプレイには飽き飽きしてるんじゃないですか?もっと新しい自分を出して欲しいじゃないですか?今のように粘り強いバッティングのように、粘って粘って、粘りに粘って最後にドカーン。一発大きいのをかますのを見たいんじゃないですか?」

 

「…………」

 

「やっぱり見た目も草食だから男のプライドも亀のように内気ですか。大丈夫ですよ、今あるバットで満足する結果出してんですから、長年愛用してきたバットでもいけますって。それにどんな不恰好な活躍でも、あなたのテクニックなら余裕で満足できるでしょ」

 

 

話を耳にするたびに颯斗の意識が雨崎に向いてるのがわかる。今の注意散漫した状態ならばいける。雨崎はここで再び要求。

要求内容、外のクサイところチェンジアップ。

小波は一度顔を振るが、雨崎はしつこくもう一度要求。小波は足でマウンドを蹴り、深呼吸すると頷いて雨崎の要求を受けた。

 

 

「あっ、ストレート投げてきましたよ」

 

「えっ?あぁ!?」

 

 

今まで意識を自己と雨崎に向けていた颯斗は、ここで最高球速から40も離れたチェンジアップに空振り三振。悔しそうに愚痴をこぼしながら楽天のベンチへと戻る。

そして楽天はツーアウト無走者でバッター一巡。先頭打者の岡島が打席に立とうとアップを終わらせる。

その間に雨崎は小波と接近。文句を言いたげな顔だが、雨崎はそれよりも言いたいことがあった。

 

 

「あの人、すっごく弄りやすい」

 

 

半分笑いながら言う雨崎は、それだけ言ってポジへと戻る。

しかし、その回は笑いが抜けなかったのか、リードが甘く一番二番にヒットを量産され、再び走者二塁三塁。

とりあえず不甲斐ない雨崎のために、小波は直球と高速スライダーを駆使して三番バッター沈黙。楽天は三回表を無得点で終え、阪神ベンチでは小波が雨崎に飛び蹴りを一つ腹にぶち込んでいるのが目撃された。

 

 

………

……

 

 

「さぁ、三回裏!もしも私の前でエラーしたらどうなるのかわかってる!?」

 

『はっ!』

 

「よろしい!!じゃあ気張っていくよ〜!」

 

 

三回裏、阪神の攻撃。みずきはサイドスローから投げる変化球を駆使してここまで保ってきた。

だが、打者が一巡するとなれば、さすがにもう女性の軽い球には慣れて安打を製造してくるに決まってる。

阪神の打者を七球で打ち上げてアウト。みずきが今回最も恐れる打者、雨崎優輝がバッターボックスに足を踏み入れた。

 

新人ながらもリードは上々。打者としても本塁打を三つ記録し、打点は十六。

捕手の視点から考えたら、どのような配球を提示するのかある程度予測できる。それは打たせてとるタイプのみずきには、一番苦手な相手だ。それが強打者となれば尚更だ。

だからみずきは、試合の前のブルペンにて小波と雨崎に今日初めて使おうとするスライダーを見せた。

雨崎の意識に、三つの変化球があることを認識させて予想を散漫にさせる。女性投手が生きていくには、試合だけでなく、その前段階から勝負しなければならない。でなければ勝てないのだ。みずきはそれをわかっている。

 

負けないためだったら、いくらでも策はある。それでは駄目。みずきが目指す理想の投球スタイル。それは夢を見させる女性プロ野球選手。夢は勝たねば得られない。

だから、みずきは逃げない。形はどうあれ、四球なんていう言葉で逃げたくない。勝つためには、いつでも互いに白黒つける勝負の世界で上に立つことのみ。

そしてそれこそがプロとしての楽しさ、形容し難い充実感が一球一球に魂を込める。

 

 

『みずき選手、ストライクゾーンギリギリのスクリューでツーツー』

 

『気迫が篭ったいいピッチングだ。だけど雨崎はまだ一球も手を出していない』

 

 

四球目は外角スクリューを入れたが、まだここまでの四球でスライダーは使っていない。スクリュー系統に手を出さないのだから、狙い玉はスライダーかストレート。もしくはそう思わせるために、わざと見逃したか。

ここでいつも通り決め玉の『クレッセントムーン』こと、クロスファイヤー高速スクリューで取りに行くのがみずきの十八番だが、そうさせるために最初からツーストライク状況を待っていたとすれば『クレッセントムーン』を投げるのは悪手。同じ方向に変化する普通のスクリューも似たり寄ったりで悪手。だとすれば、得策はスライダーかストレートになってしまう。

 

 

「(打とうする意識が感じないからどこ投げてもな……コース関係ない狙い玉だろうし)」

 

 

追い詰められているのは自分なのに、楽しくて楽しくて堪らない。ロージンを手に染み込ませて五球目。

みずきの代名詞『クレッセントムーン』が雨崎の腹部を下に、膝下へと急降下。クロスファイヤーから見せる高速スクリューは、みずきが誇る最高球速140キロと大差がないほど速く、鋭く雨崎のインコースを的確に抉る。

完璧なコース。完璧な変化。完璧なリリースポイント。雨崎から見ればストレートが突如変化する様は、理解の意識を超えてさらなる魔球へと昇華させる。

反応もできずにストライク。見逃し三振の完敗っぷりに、雨崎は放心状態のまま打席を後にした。

 

 

『どうした雨崎!?『クレッセントムーン』の名の通り、三日月の弧に三振!!』

 

『極限まで高められたクロスファイヤーの変化球は、時としてストレートと錯覚させる。それが変化したとなれば……打者にとっては“消えた”ように見える』

 

 

大神はそこで笑うと、呆れたように言った。『何が三日月だ』

 

 

『あれじゃあ……新月じゃないか』

 




【補足コーナー】


Q.球速がMAX153キロ?
A.154だと藤浪と大差ないので。一応、自分の中だと藤浪のほうが強いです。ただ緩急を駆使して小波は取るので、今はそこで三振とってる感じ。


Q.ツーシームを投げない小波。
A.今は役立たずツーシーム。今後、日の目を見ることはあるのか!?


Q.雨崎、まさかの『ささやき戦術』で颯斗に対抗。
A.おかげでギャグシーンに発展した。


Q.南雲瑠璃花って?
A.パワポケ作品で最も子供向け(大嘘)なパワポケダッシュの彼女候補。典型的なツンデレ口調と丁寧言葉とありふれた設定だが、この子が誕生したのはツンデレブームとなるハルヒやルイズの前。既にコンマイの異常さが見え、さらにはバッドエンドが酷いことで有名。コンマイの狂気その2だが、今作品ではちょい役のみで登場。今後の登場はあるか!?


Q.南雲×颯斗。
A.颯斗の正体はあいつ。


Q.下ネタ発言雨崎。
A.R-15タグもないのに露骨な発言。パワポケだから仕方ない。夜の盗塁王は、鳥谷の『夜の三冠王』が元ネタとし、ささやきに下ネタ使ったのはノムさんが下ネタで攻めていたから。


Q.そもそも『ささやき戦術』って?
A.伝説の選手、野村克也の十八番。その中でも名言が「ハリ、態度はデカイのにナニは小さいのう」というぐう畜下ネタ発言。これを長嶋茂雄にやったら、見事に会話のドッジボールになったという逸話もある。作品によっては聖ちゃんも持っている。
聖「パワプロ、態度はデカイのにナニは小さいのだな」……燃えて来た。


Q.クレッセントムーン進化!
A.三日月消えて新月に!もう(クレッセントですら)ないじゃん……。
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