白球に込められた野球魂   作:シアン・シンジョーネ

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あらすじ

雨崎、ささやき戦術を成功してはしゃぐ。
小波、雨崎を報復制裁。


第五話 中盤だけどフルスロットル!

戦いは急展開がこないまま五回。

四回は、小波の速球に慣れてきた楽天クリーンナップがヒットを量産。ノーアウト満塁のピンチに立たされたものの、わずか一失点の三者三振。楽天のマシンガン攻撃を八番で止めた。

 

一方みずきは魔球『クレッセントムーン』を新たな領域に進化させたものの、その凄まじい変化と制球に対する精神力の消費は、みずきと岡島の集中力を大きく削り、ツーアウト一塁三塁の場面で痛恨のすっぽ抜け。阪神の六番に長打を打たれて一失点。

二塁三塁とピンチは続くが、持ち前のスクリューで凡打させ切り抜けた。

 

 

「さぁ、次はどういうネタで弄ろうか」

 

「いい加減にしてください!これ、テレビ中継されてるんですから!」

 

 

そして五回表。同点の状態でバッターは颯斗。大卒とは思えない年下へのへっぴり腰に、雨崎は混黒時代に気づき上げられたサディスティック本能を刺激する。

 

 

「でも、南雲の令嬢可愛いね。いつから知り合い?」

 

「…………」

 

 

雨崎の言葉に耳を貸さぬ。そう言いたげに颯斗は、敵である小波へと野獣の眼光を光らせた。

 

 

「じゃあ、予想しよう。大学のコンパ」

 

 

颯斗専用ささやき戦術を使いながらも、小波への要求とリードは忘れない。

少しでも相手の調子を崩そうと、小波にはちょっと複雑なサインを送って投球までの時間を稼ぐ。

 

 

「男子校で一緒に暮らしていたが、実は女でした!みたいなイケパラ風の高校ライフ?」

 

「懐かしいドラマを出しますね」

 

「あれ面白いよ、特にスペシャルの神楽坂が……って!?」

 

 

三球目ボール。

後方から話しかけられた声に、雨崎は驚くが、体と意識の七割を小波の集中して話を膨らませる。「審判が雑談に入っていいんですか?」

 

 

「駄目だと思いますけど……ちなみに私は雲雀フォーというシーンが好きです」

 

「駄目なんだ。俺は中津がパンツを被って歌うシーンが好き」

 

「僕は佐野が風邪で倒れて、みんなが布団を持ってくるところ。あと、雑談に紛れて誤審を誘わないでくださいよ。したら二人とも退場させますから」

 

 

今までのチワワみたいに小さな態度が、急にドーベルマン風の威圧感を出したのを見て、雨崎は「あー」とため息混じりで感心した。

 

 

「さすがにしませんよ。私はロッテファンですから」

 

「逆に言えばロッテの時、誤審するという事ですよね」

 

 

いつのまにか颯斗へのささやき戦術ではなく、審判との雑談になったものの五球目、低めのストレートで見送ってストライク。

これで颯斗はフルカウント。審判に「また、今度」と雨崎は言って、本来の目的である颯斗へのささやきを再開させた。

 

 

「話を続けようか」

 

「いいですよ。他の好きなシーンは、芦屋がどの方向?って言ってるのと、ビーチフラッグでそのまま海まで行くシーン」

 

「えっ、それ!?」

 

 

六球目。低めに投げられた高速スライダーをライト方向へファール。

二回目の打席も左打ちなので、打球から考えて早打ち思考。それがわかった雨崎だが、それはあくまでも予想だし、相手のおびき寄せかもしれない。

小波もそれがわかっているので、雨崎の次の要求、外角高めのストレートには首を横に振らず肯定した。

 

 

「イケパラの話題じゃなくて、君と南雲の出会いのこと。高校じゃなければ……あえて幼稚園」

 

「これ言うと驚くと思うんですけど……」

 

「言ってみなよ。『お兄さん』が受け止めてあげるから」

 

 

年上相手にお兄さんを強調して喋りながら、雨崎は膝を地面から話して中腰の体制となる。小波はもう投球体制だ、雨崎をチラ見などしてコースを把握させる心配はない。

小波が投げた直球は、雨崎の要求通りのコースで迫り来る。颯斗がバットを振るうが、タイミングが遅いし、何より離れている。これは空振り三振で勝った、そう思った雨崎の耳に颯斗は小さくも聞こえる声で呟いた。

 

 

「実はあれ、生き別れた姉」

 

 

判定はストライク。審判が「ストライクスリー」のコールをするが、その次の言葉は出ることはなかった。

キャッチャーミットに収まらず後方に弾き飛ぶ白球。置かれているバットと走塁モーションに移る颯斗の姿。

すべてスローモーションに見えた雨崎は、そこまで来てどういう状況に陥ったか把握した。

 

 

「振り逃げ!?」

 

 

急いでボールを取って一塁に送球しようとするが、既に颯斗は一塁ベース寸前。痛恨のエラーに雨崎は焦りを見せた。

 

 

「おい、お前らしくないな。エラーするなんて……」

 

「ごめん。調子に乗りすぎて逆ささやき戦術をかけられてた」

 

 

心配そうに駆け寄る小波に、雨崎は素直に謝って自分の非を詫びる。

 

 

「ささやき戦術〜?だから三回の時におかしくなったのか。優輝が野村監督の真似なんて……ナニは小さいのうって……!」

 

「笑わないでよ!」

 

「だってねぇ……まぁ、ドンマイドンマイ。話題を変えて盗塁対策だ」

 

「高め中心で行こう」

 

 

「わかった」と言って小波はマウンドに戻る。

ノーアウト一塁に、今日は出番が多い岡島。みずきの投球を弾いたり体で抑えたりと大変な女房役だ。

 

 

「(様子見で高めボールのストレートっと)」

 

 

小波はまず一球投げて一塁の颯斗を見る。岡島はアシストしようとバントを構えたりするので、盗塁のサインはあるようだ。

だとすれば、問題はいつ仕掛けてくるか。低めの時に変化球なんか投げたら盗塁されてノーアウト二塁の確率は十分にある。そこから岡島がバントを成功させたら、ワンアウト三塁で犠牲フライで点になってしまう。

それを避けるためには低めは速球限定、高めで高速スライダーとチェンジアップを駆使してタイミングを図るしかない。どちらにせよ、ここの投球はいかに速く投げるかが重要になってくる。

 

 

『盗塁を警戒してますね。高めにボールを集めたり、牽制球投げます』

 

『この状況では盗塁だけは避けておきたいからね。岡島とではなく颯斗との勝負だよ。まだ二人の戦いは終わってない』

 

 

二球目三球目は変化球を混ぜて高め。一つはストライク、一つはボール。四球目の時に牽制、小波と雨崎は颯斗の盗塁に警戒を怠らない。

そして四球目、内角低めの151キロのストレート。空振りしてツーストライク。これでツーツーとバントも難しいところになってきた。

 

野球ゲームなどでは、バントは簡単みたいに扱われているが、実際はかなりの技術を要する。

少しでもボールの下に行けば、高めに打ち上げて送りバント失敗。ボールの上に行けば、キャッチャーバウンドで二塁に投げられて送りバント失敗。この時、バッターの足が遅かったりすればゲッツーすらもあり得てしまう。

 

さらにバントでファールした場合は、そのまま続行せずにアウト。故にツーツーの状態でバントを決めようとするのは、よっぽどのバント職人でもない限り諦めさせるのが普通だ。

 

さぁ、どう出る。ようやく盗塁の危機感が薄れたところで五球目。高めの高速スライダーを振ってファール。

とりあえずバントを優先させる気はないことがわかり、バントシフトをやめて定位置に戻る内野陣。

しかし、バントが来てもいいように、雨崎だけは脚を浮かせてバンドへの対処をしておく。

 

六球目、エンドラン思考を読んでの牽制。投げる前に颯斗は一塁へと戻り、互いに相手の気を予兆を伺う。

本当の六球目。外角低めのストレート、岡島は見事に見極めてボール。フルカウントとなり、いよいよ長いノーアウト一塁状況に終わりを告げようとするかと思われたが、意外にも岡島は粘って九球目までをファールにして小波と戦い続ける。

 

 

「(後打者のために体力を削りに来てる……ここはどうする?)」

 

 

狙いが見えている小波は、何度もクサイところを投げるが、どれもボール球とか関係なくファールにしてくる。

面倒くさい相手だとイライラするが、頭は常に冷静に。緊張感と制球で削れる精神力のせいでできる手汗をロージンで誤魔化して十球目。岡島はまたもファールを続ける。

十一球目。小波は全力で腕をふり、手をスナップ。岡島はバットを振るが、それは早すぎた。

腕の振りからは想像できない遅さ。球速120キロ台のチェンジアップにタイミングを崩されて三振。颯斗に盗塁させずにワンアウト一塁。

これだけで状況は大きく変わる。ゲッツーで仕留めれば、この上位打線の回を無失点で抑えられる。

 

これでひとまず心に余裕が生まれた。しかし、その余裕が大きな隙を産んだ。

一球目、内角高めのストレートはストライク。一塁から走り出す颯斗の姿。電光石火で駆ける姿に、観客は魅了され、雨崎は急いで送球。判定は楽々セーフという颯斗の圧勝だった。

 

 

「(甘かった……!これが目的だったんだ……!相手の心に余裕を作らせない盗塁……今までのは盗塁するというフェイク!)」

 

 

始めから颯斗の盗塁はこれが目的だったのだ。

自分が塁にいる限り、ノーだとかワンだろうがツーでも盗塁するという脅し。それを自覚させるために、わざとワンアウト稼いでから、相手に余裕を作らせて、すぐさま盗塁。相手の心を潰すもの。

 

優しそうな見た目に反して、やることが汚い。雨崎に逆ささやき戦術をして振り逃げで出る辺り、本当の意味で何が何でも出塁するというハングリー精神も見える。

 

 

「(次の打席を楽しみにしてろよ……)」

 

 

その後、小波はクリーンナップを抑えられずに颯斗のホームインで一失点五回表を終えた。

ベンチに戻れば監督がシルバーに指示をしており、もう失点は小波に許されない。ここからが粘りどころと心を固めて五回裏に移る。

 

結果だけ言えば三人で五回裏は終了。雨崎はヒットはしたものの、ゲッツーでベース甲子園の土から離脱させられた。

しかし三者揃ってみずき相手に粘ったので、みずきの体力と精神力はついに底を見始めた。

 

 

「ねぇ、小波」

 

「何ですか、シルバーさん」

 

 

五回の戦いを終え、係員が甲子園の土にトンボをする中、珍しくシルバーが小波に話しかけた。

 

 

「これ以上颯斗を意識しないほうがいい。颯斗を打ち倒そう、颯斗に盗塁させるか、ってのがベンチからでも見え見えだったよ。そういう意味では雨崎に感謝しておきなさい」

 

 

普段は話しかけられたとしても「頑張った」とか「後は任せて」の労い言葉しかないシルバーが、今季初となるアドバイスに小波は「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

 

「そういう礼はいいから、できるだけ抑えて。あたしが連日登板するなんて追い込まれてる意味だから」

 

「わかりました。シルバーさんに出させないように頑張ります」

 

「登板させたら今日の夜は楽しみにしておきなさい」

 

 

シルバーからの恐怖の忠告に、ベンチは凍りついた。

最初は女性だからという理由で、彼女の発言にムフフな展開を予想したものもいたが、実際の中身は超凶悪な罰ゲームが待っている。小波も既に二度経験している。

ある時は、シルバーの投球を連続で10安打しなければストラックアウトの的にされたり、趣味である本格的なエアガンを身体中で当てられたり、酷い時には女王様モードに突入して靴を舐めさせられたりもされる。

被害者は主に能見。ロッカーに連れてかれて悲鳴をあげているのを球団関係者なら誰もが知っている。この一ヶ月間でかなり飼いならされたご様子で、今ではシルバーに睨まれるだけでその日は炎上しても完投させてくださいと監督に悲願してたりもしてる。ロッカーに入った後日、能見は好ピッチングして試合を終えるのがここ最近のお約束。

何やかんやでシルバーの年下でも容赦ない行動には、野手陣には好評、投手陣は刺激を受けていたりと奇跡的に成り立っているのだが。そこは女性特有の特権というべきか。

 

とはいっても、登板しても必ずするというわけではなく、その日の気分で決めているので、普段は優しくてノリがいいお姉さんポジションをしている。

 

 

「トモさんとはどういう経緯で知り合ったんですか?」

 

「ん〜……最初は目の敵のしてたけど、彼女の境遇に何か共感してね。気まぐれで助けて、そのまま友達親友って感じで付き合ってるかな」

 

「目の敵……プロになる前のライバルだったとか?」

 

「ジャパニーズソープオペラ」

 

 

どうやら泥臭い関係からの発展らしい。




【補足コーナー】


Q.前書きの雨崎。
A.今回のなんjネタ。元ネタは『神戸、はしゃぐ』


Q.イケパラ風高校ライフって?
A.TVドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス』のこと。私が一番好きなドラマでもある。時点で『花より団子』と『半沢直樹』だが、あっちゃんのイケパラは黒歴史。


Q.スペシャルの神楽坂って?
A.乙女神楽坂、恋をする♂


Q.雨崎と審判の好きなシーンについて。
A.自分の好きなシーンでもある。


Q.審判はロッテファン。
A.言ってることが、意外とぐう畜。


Q.そもそも何でイケパラのネタを入れたの?
A.パワポケダッシュには男装して野球をする女の子がいる。そいつが原因。誰とは言わない。


Q.生き別れた姉。
A.上記と同じでダッシュネタ。実際は妹。誰とは言わない。実はコンマイの狂気その3でもある。


Q.雨崎『逆ささやき戦術』に嵌る。
A.策士策に溺れるとはこの事。三味線型ささやき戦術の取得者であり、西の詐欺師と言われた“達川光男”が実際にやられたとか、やられなかったとか。


Q.ファールで投手の体力を削る。
A.野球あるある。


Q.能見、ロッカーに連れて行かれて悲鳴を上げる。
A.今回のなんjネタパート2、能見に起きた珍事でもある。何を間違えたのか、ロッカーへと入り、後日エースとして覚醒する能見の姿がマウンドにあった。一部ではある博士に改造されたとか……?


Q.ジャパーニズソープオペラ。
A.日本語に訳すと『日本の昼ドラ』って伝えたいが、私は英語が疎いのであっているのかわかりません。
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