キアナ・カスラナは母になる 作:AmanatuTaruTaru
一つの星で長きに渡る戦いが終わりを迎えた
それは、何万年、何十万年にも渡って一つの存在が抱擁を求めた戦いであった
それは、人類の勝利を求め続けて、そのために耐え続けた戦いであった
それは、一人の人間が、愛した一人の人間を生かすための戦いであった
それは、醜い世界であっても"それでも"と叫んで、世界を美しくあろうと足掻き続ける戦いであった
多くの人々が傷ついて、多くの人々が命を散らし、多くの人々の尊厳を奪われて
それでも立ち上がって戦う事を選択する者が現れる
大事な人を愛するがために、愛した人の世界のために、今までの想いが無駄ではなかったと叫ぶために
奇跡を起こし続けるのは何の特別のことではない
普通の人々があるがままに文明を築き上げた力こそが『真理』なのだ
だから証明してみせよう
美しいと感じた願いを『浸食』する者すら羨むような永遠を
伝えたい言葉は『風』のように届いている
虚構の中ではなく確かな幸せを求めていることを
もはや共に歩むことのない
それでも『空』の中でも背中を押してくれるのはまぎれもなくもう一人の自分
過去の過ちは未来で雪げばいい
美しい世界を切り開くが如くの『雷』はいつだって暗雲を照らす
運命に翻弄されることだってあるだろう
前触れの無い悲劇は『氷』のように道が凍てつく事もあっても、時に『星』のような夢のために人は歩み続ける
悩み続ける問いに答えは見つかっている
ほんの少し『意識』を傾ければ唯一無二の存在なのだと自身は知れる
光を追い求め続ければ、逆に闇に取り残され『支配』される人もまた出るだろう
そうしたランタンを見失った者こそ必要なのは道を照らす『薪炎』だ
誰よりも愛を信じる事は、その身勝手さゆえに人を傷つける事もある
それでも愛によって生み出されたものは誰かの『約束』となり、光指す道となる
いつだって彼女たちは、戦乙女と呼ばれた者は人類の先頭に立って戦い続けた
世界は美しいだけではなく、むしろ醜いものを目にする機会だって多いだろう
それでも今日よりも少しでも美しい明日のために戦うことができるのは、人を愛した『起源』からの祝福に他ならない
何度も何度も転んで、困難な旅は少女の心を折るのには十分が過ぎる
だけど彼女は知っている
これだけの想いの根源が愛であり、愛の暖かさを知るからこそ試練を乗り越えたことを
彼女の名はキアナ・カスラナ
全ての悲劇の輪廻に終止符を打つ『終焉』の名を持つ者
戦いを終わらせた英雄の一人
その英雄は今、何をしているのかと言えば……
「シーリン、これママの絵?凄いよー!天才!絵描きの才能ある!!」
月にある一軒家で子育てに励む一人の母親であった
まだ幼い地球とその地に生きる人々の全てが戦いとの元凶とも言える上位種の抱擁に耐えれるわけではない
だからキアナはすべての力を掌握し、いつの日か人々が強くなるその日まで何年も何十年も月から見守る事となる
かつての仲間との決別ともなってもそれはただ、子供から大人へと成長する時に仲の良い友人であっても地元から離れて生活をするようなものだ
例え月と地球から遠く離れた場所であっても人類の文明とテクノロジーを駆使すれば容易に連絡を取り合うこともある
つまるところ英雄を供物にして世界平和というような…三流の英雄譚に終わる事もない
これもまた文明の勝利と言えよう
元々文明の力を逆に権能として使い、いつ世界と人類滅亡を引き起こしかねない律者と呼ばれる存在に頭を悩ませていた人類側も平和になれば復興や技術の促進に集中できるようになる
月から地球の行き来もワープ装置を用いれば一瞬で移動も可能であるし、前文明時代からの施設を流用して人類の住める場所になりつつある
もちろんキアナというトップシークレットの存在がいる月に行ける人は厳選もされているわけだが、その中の一人が母親となったキアナの夫であった
キアナを始めとした戦乙女を指示し、巨大戦艦ハイペリオンの艦長を務めた男
それこそ付き合いの長さで言えばキアナが天命と呼ばれる組織に入ってから戦乙女となって何年も支え続けた関係だ
時には幼さゆえの喧嘩もすれば、迷惑をかけたくないための決別だって経験もある
だけどもそのたびにキアナ個人を見つめ続け、裏から支えてきた艦長という異性に惹かれてしまうのは少女から大人へと成長し、愛を知った彼女が恋に落ちるのも時間の問題であった
その恋の行方は前途多難であったが多くは語るまい
なぜなら結果としてキアナと艦長は夫婦となることを仲間は祝福し、これからの新時代に生きる我が子を産んだのだから
誕生して3年目を迎えた幼い娘の名はシーリン
キアナにとってその名は自身の名前であり、人生であり、そして決別したもう一人の自分
それでもその名を付けたのはあまりにも単純な理由で、今度こそ親の愛を一身に受け取って育ってほしいと願う自身への祈りでもあった
シーリンは真っ白な紙にクレヨン片手に描くのは様々な人や建物だ
まだ幼児の彼女にとって見るものすべてが新鮮だ
普段は月の家にいるとはいえ、父親である艦長や仲間たちがシーリンを地球へ連れて歩く事も多い
そうして得た経験を絵にしているのだがそうした絵のほとんどには、母親であるキアナであろう人の絵が入っていた
恐らくはシーリンもまだ幼くとも察している部分はあるのだろう
自分の母親が月という家から離れられない事を
そしてそれを承知の上で我が子を地球での経験を積む事を望んでいる事を
そんな愛しの娘にキアナもまた溺愛する一方であった
もちろん四六時中も抱き締めたり撫でたりもしないが心情で言えばやりたいぐらいだけどもキアナとていずれ巣立つ娘を鳥籠のように捕らえるわけにもいかないのは理解している
いつまでも母親でいられるわけではない。いつまでも今を生きる娘を月に縛り付けることはできない
だからキアナはせめて母親である自分が我が子にとって恥じぬように生活を改めたのは必然と言えるかもしれない
かつての憧れの先輩のように手際良く、と行かなくとも自ら家事を行うようになったのを見ればその先輩も後輩の姿に歓喜の涙を浮かべるだろう
とはいえジャンクフード好きな面も変わっておらず、隙あらばカップラーメンを食べようとするのもご愛敬と言ったところだろう
家の地下のワープ設備が起動がすればそれは誰かが地球から月に渡ってきた証明
誰が来たのかをすでに察している娘が急かすように服を引っ張るものだからシーリンを抱えて地下を通じる扉の前でスタンバイ
「おかえり、キアナとシーリンのパパ!」
愛しの旦那様を迎えるキアナの顔は、地球を救った英雄でも、世界を滅ぼせる律者でもない
愛しい愛しい一人の人間を愛する一人の女性の、美しい顔であった
キアナちゃんが子供が出来たらどんな名前を付けるんだろうね