魔法少女まどか☆マギカ~幻想殺しと魔法少女   作:わかなべ

2 / 4
第1話,記憶にない知り合い

 巴マミ。

 その金髪縦ロールの少女は、上条が見滝原で最初に知り合った人物である。とりあえず危険な所を助けてくれた彼女にお礼をすると、今度はマミが上条に話をかけた。

 それも、少しばかり不満げな表情を浮かべながら──。

 

「それにしても貴方、どうしてあの場所にいたのかしら?」

 

「あぁ、ちょっと連れと逸れちまったから、その子を探していたんだ」

 

「そ、そう……」

 

 あまりにも普通すぎる回答が、かえってマミにとっては不思議に思えた。それは彼女が上条の事を普通の人間ではない、何らかの組織に雇われた特殊な人種とでも考えたからだ。マミがそう考えた理由は言うまでもなく、上条の右手──幻想殺し(イマジンブレイカー)の力である。

 

(おかしいわね、魔女やその使い魔は魔法少女にしか倒せないハズ……それなのにっ)

 

 マミは再び上条の右手を凝視する。一見なんてことのない右腕だ。細くてそこそこ筋肉はあるかもしれないが、とても鍛えているとは思えない、ごく普通の高校生の腕である。だが、マミは上条と使い魔の戦いを最初から見ていたので知っている。

 上条の右手は、使い魔やその攻撃を打ち消していた──。

 それだけでも十分、マミにとって上条はイレギュラーな存在に思えた。

 さっきから右腕を凝視するマミの視線に、どうやら上条は気付いたようで、

 

「ん、俺の手がどうかしたか?」

 

「いや、なんでもないわ。それより最近はこういう事も多いらしいから気を付けて」

 

「ああ、わかった。お前も気を付けろよ」

 

「ええ、またいつか会いましょう」

 

 そう言い残し、マミは髪を靡かせながら路地裏の奥へ消えていった。マミの後ろ姿が見えなくなるまで彼は同じ方向を見続けた。マミはマミで上条の事を不思議がっていたが、上条もまたマミの事を不思議な目で見ている。

 マミが何らかの力で創りだした無数のマスケット銃。

 結局彼はマミの事について聞きはしなかったものの、上条はマミの事を、どこかの魔術師だと思いこんでいた。彼にはアレが魔術にしか見えなかった。アウレオルスの黄金練成(アルス=マグナ)に似ているような気がしてならなかった。

 何より一番気になるのは、仮に魔術師だとして──巴マミはインデックスの敵か味方か。

 それこそが一番気になる所であり、最も重要な事である。

 

(……って、情報が少なすぎて考えてもわからねえな)

 

 しかし、全てを決めつけるにはあまりにも情報が少な過ぎた。

 結局マミの正体がわからぬまま、上条はインデックス探しに戻る事にした。あの食欲シスターを見つけない限り、これからお世話になる家に行く事が出来ない。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 インデックスは意外にもわかりやすい場所にいた。

 最初こそ彼女を探すのは不可能だと思っていたが、 大通りに出てみると、最初に目に入ったカフェの野外席に、見覚えのある修道服に身を包んだ少女の姿が見える。上条はよ~く目を凝らして怪しげな少女を見てみると……その子は探し求めていたインデックスだった。

 

「あ、とうまだ!」

 

 見知らぬ人と楽しげに会話をしているインデックス。その姿を見て、散々彼女を探した挙句不幸な出来事に巻き込まれた上条は、一気に気が抜けて地面に転ぶ。

 突然の物音に、インデックスともう一人の赤髪の少女が反応した。

 

「ごらあああああああああ! キサマはこんな所でなにやってんだ! 散々探しまくった挙句面倒くさい事に巻き込まれた俺の苦労はなんだったんだ!?」

 

「私はこの人にお菓子を食べさせてもらってたんだよ!」

 

 上条はインデックスの言う、この人(、、、)をもう一度よく見てみる。

 赤い髪のポニーテールの少女だ。口にケーキか何かを銜えており、八重歯らしきものがケーキにしっかりと刺さっている。

 どうやら、インデックスはこの人に菓子を奢ってくれたらしい。

 必死に彼女を探し、途中で不幸な出来事に巻き込まれていた間に……。

 

「はぁ……つまりアレか。てめえの脳には食い物しかなくて、上条さんという人物の検索結果は0ってわけですか」

 

「とうま」

 

「あ?」

 

「お菓子、食べる?」

 

 上条の言葉をスルーし、太陽も驚くような笑顔を浮かべるインデックスを見て、

 

「……不幸だ」

 

 上条は今までの不幸を全て吐きだすように、お決まりの一言を言った……が、上条が不幸に浸っていたまさにその時。バン! と、勢いよくテーブルが叩かれた。衝撃でテーブルに乗っていたコーヒーがコップから零れる。

 恐る恐る、上条は左側へ首を向けると……。

 食べ物を銜えた奢り少女が、不機嫌そうに立ち上がっていた。そして、加えていたケーキをお皿に戻して、キッと上条の事を睨み付け、

 

「ちょっとアンタ!」

 

「は、はい!」

 

 上条は何故か恐怖を覚えた。インデックスにお菓子を奢った少女は、どういうわけか鬼のような形相を浮かべ、上条の事を敵のように睨んでいたのだ。

 思わず上条の背筋がピンと伸びる。次第に冷や汗が吹きだしてきた。

 

「テメェ……食い物を粗末に扱うなよ」

 

「……はい?」

 

「だから、折角食い物をくれるって言ってくれたのに、それを不幸だって言うな! 世の中には食い物が食えないヤツだっているんだ」

 

「す、スミマセンデシタァ!」

 

 なんだかよくわからないが、とりあえず謝っておこう。

 上条はそう思い、実際に頭を下げた。

 ここで謝っておかないと、インデックス並に食意地の張った女の子に、右腕が切れて無くなるまでボコボコにされそうな予感がしたからだ。

 

「わかればいいんだ。ほれ、これアンタも食えよ」

 

 さっきまで白熱していた少女は、一気に大人しくなった上にケーキを差し出してきた。

 なんだったんだ? と上条は思いながらも、そのケーキを受け取る。受け取ったケーキに彼女の歯型がついているが、上条はそんなものを気にする人間ではなかった。同時に、ケーキを差し出した少女も間接キスなど気にしない人のようである。

 最も、お互い意識していない事も理由の一つかもしれないが……。

 

「あ、これうめえな」

 

「とうま……とうまは私のお菓子は食べないんだ」

 

「えっ? い、インデックスさん?」

 

「つまりとうまは私のお菓子は嫌なんだね」

 

「あの~インデックスさん? これはその、色々ありましてですね……って」

 

 セリフを切った瞬間──猛獣インデックスが思いっきり上条の頭に噛みついた。

 カプリ、と。

 インデックスの歯は上条の頭皮に刺さっていた。

 

「びゃ、 びゃああああ! ちょっと待てインデックス! こっちはさっき色々あって超お疲れモードなんだよ! だから噛み付くのは勘弁してくださいお願いします!」

 

「色々? 色々って何!? まさかとうまはまた私に内緒で魔術師と戦ってきたの!?」

 

「違うの! 違います違うんです三段活用!」

 

「一体何様なのかなとうまは! 見え見えの嘘をついても無駄なんだよ! とうまの行動パターンは単純だから必死に否定する時は怪しいかも!」

 

「いててて! くっそ~ああもう! 不幸です不幸すぎますー!」

 

 シリアスな場面でも出なかった大声を、上条はギャグのような場面で出していた。こんな光景は上条とインデックスにとっては日常茶飯事。

 しかし、そんな事を知っているハズもない赤髪の少女は、

 

「おもしれーヤツらだなぁ」

 

 なんだか羨ましそうな表情を浮かべ、一言そう呟いていた。

 ちなみに、上条の頭からインデックスが離れたのは、この5分後の事である。本日の噛み付きは今までで2番目くらいの長さであった。

 顔や頭には歯型だらけ、可哀想な上条である。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 上条とインデックスは赤髪の少女と別れ、今度こそ目的地の鹿目家を目指し、ゆっくりと見滝原の風景を楽しみながら歩いていた。もう一度眺めてみると、ここは本当に日本ではなく、ヨーロッパのどこかの国の都市のように見える。

 不思議と心が落ち着く風景だ。

 やがて、2人は閑静な住宅街に足を踏み入れ、その中の一軒家の前で足を止める。

 現代的な造りの立派な家でであった。

 とある番組で匠が設計、建築した雰囲気を放つ家。そこの表札には『鹿目』と、しっかりとしながらもやや可愛らしい字体で刻まれていた。

 

「ここが鹿目さんの家かぁ」

 

「わあ~、とうまの家より広そうなんだよ!」

 

「てめえにだけは言われたくねえけど、でも本当そうだろうから別にどうでいいや」

 

 しかしこれだけ大きいと、インターホーンを押すのに緊張するものだ。それを押そうとしていた上条の右腕も、不思議とビクビク震えていた。

 

「とうま、度胸が足りないんだよ」

 

「うっせ黙れ!」

 

 ツッコミを入れたインデックスに、上条はイライラしながら怒鳴り返した。その勢いで一気にインターホーンへ指を押しつけ、ピンポンと言う機械的な音を鳴らす。

 外部と内部が通じ、女性の『は~い』と言う返事が聞こえる。

 

「すいません、上条ですけど……」

 

『あぁ当麻君ね。待ってて、今あけるからさぁ』

 

 この馴れ馴れしさ……もしや知り合いか? と、上条は思う。記憶喪失の上条はクラスメイトの名前さえ一部を除いて覚えていない。そんな上条が、学園都市の外にいる知り合いの顔や名前なんて覚えているハズがない。やっぱり、鹿目さんは知り合いのようである。

 と、その時不意にドアが開く。

 玄関にはショートヘアの美しい女性と小さな少年。さらに眼鏡の男に、上条よりも年下であろう小柄な少女が立ち並んでいた。

 

「やあ、いらっしゃい。久しぶりだね当麻君」

 

 眼鏡の男──おそらく上条の父親の知り合いであろう男が、いかにも上条の事を知っていますという感じで挨拶をする。その隣で小さな男の子もニコニコと笑っており、さっきの声の主であろう女も笑みを浮かべていた。

 その影で一人、学校から帰ったばかりなのか、まだ制服を着ていた少女はチラチラと上条の事を何度も見ている。そんな4人の姿を見て、とりあえず上条は推測する。

 

(上条さんは知っている。こういう反応をする人達は大体知り合いだってな)

 

 普通に考えればそうなのだが、上条の普通の感覚は地味に狂い始めている。なんせ彼の主な知り合いは隣にいる不思議シスターさんや、ヘビースモーカーの不良神父。そして、常盤台中学に通うビリビリ中学生など、普通じゃない人達ばかりだからだ。

 そのせいで、上条はそこまで深読みをしてしまったのである。

 とりあえず上条は笑顔を浮かべて、

 

「どうも、お久しぶりです」

 

「こんにちはなんだよ!」

 

 インデックス……その挨拶はねーだろ、と思いつつ、上条は笑顔を崩さず、ずっと4人に対してニコニコしている。しかし、若干顔が引きつっているのはここだけの話だ。

 

「他人行儀だなぁ、昔みたいに本当の親だと思ってもいいんだよ」

 

「そうだぞ当麻君。ほら、まどかも……ね?」

 

「ま、ママっ!」

 

 意味あり気に言う女──鹿目詢子(かなめじゅんこ)に対し、その娘である鹿目(かなめ)まどかは恥ずかしそうに叫んでいたが、例によって上条はそれほど気にしていなかった。

 むしろ、まどかの反応が気になっているのは、上条の隣にいる穀潰し──。

 

「とうま。とうまの影響はこんな所にまで及んでるんだね」

 

「ちょ、ちょっとインデックスさん? 何故貴女は怒ってるんでせうか?」

 

「やっぱりとうまはとうまなんだよ!」

 

「意味がわからねえ! お前は何で怒ってんだよ!?」

 

「うぎぎ、と~う~ま~っ!」

 

 インデックスがギラリと輝く歯を見せた瞬間。

 それがカプリ、と上条の頭に突き刺さる。本日二度目の噛みつき攻撃である

 いつもの事とは言え、毎度毎度噛みつかれるのはやっぱりゴメンだ。

 

「ぎゃあああああっ! 理不尽だ理不尽です不幸だァあぁああっ!」

 

 インデックスを振り払おうと頭を振りまくる上条を、まどかの父親である鹿目知久(かなめともひさ)は突然の事に驚いているようで、詢子はニヤニヤ。まどかの弟である鹿目(かなめ)タツヤは3歳児なので上条が噛まれている理由など、知っているハズがない。

 だが、2人やりとりが面白いので、きゃっきゃと笑い声を上げていた。

 そしてまどかは……、

 

(あの子……誰なんだろう? も、もしかして彼女とかじゃないよね……?)

 

 なにやら一人、上条とインデックスの事で不安に思っている様子であった。

 どうやら、上条タツヤ以外の3人とは面識があるようだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。