飲み干せ、グラスに残った全てを   作:夕俐

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ここから先は、ありえたかもしれない未来。

621とC型変異波形が辿った、数奇な運命から枝分かれした一つの可能性。

世界の真実を認識し、ネタバレ、設定崩壊、キャラ崩壊、死亡キャラ生存、その他諸々を含む二次創作のバーリトゥードであることを理解した上での閲覧を推奨します。


宜しいですか?

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酒は飲んでも飲まれるな

 G1 (ガンズ1)ミシガンの乾杯の音頭により宇宙誕生にも等しいエネルギーの発露を生じた宴の会場、洋上レストラン”ざいれむ”では、頑強な自我を持たぬ多くの参加者達の意識はビッグバンのエネルギーの奔流に等しく統合され、各々が日頃口にしたことのない高級な料理を次々と生命の源泉(アルコール)で流し込んでいくだけの吸引装置(システム)に成り果てている。

 

 その多くは、かつてルビコン解放戦線と呼ばれた組織の構成員であった。

 現在は企業同盟の現地協力者(パートナー)として活動している彼らは、まともな食事に飢えていた。

 

「これが食い物だと? ・・・じゃあ今まで食ってたのはなんだ?」

 

「一飯千金・・・むぅ」

 

「ワームでなくても食べられるのか」

 

「コーラルよ、ルビコンと共に」

 

「美味しいね、アーシル・・・」

 

 敵対していた過去を忘れることはできない。

 アイビスの火と呼ばれる災禍以降、多くの命が失われたことを誰もが覚えている。

 本当ならば、今日この場に来ることの出来なかった同胞たちにもこの料理を食べて欲しかった。

 どうして彼らはここにいないのか。

 

 しかし料理に罪はない。

 心優しき少女、ツィイーはお持ち帰り(テイクアウト)が出来ないか後で店に確認しようと心に決めた。

 残業(オーバータイム)で参加できなかった仲間の為に。

 

「おいツィイー、これも美味いぞ」

 

 アーシルと呼ばれた青年は生まれて初めて食べる甘露な料理を口いっぱいに頬張って言った。

 

 

 

 

 狂騒の宴はそこかしこで始まっている。

 ミシガン総長をトップに戴き、鉄の規律に鍛えられたあのレッドガン部隊の面々ですら例外なく浮足立っていることからも明らかである。

 何故ならば、我らが総長の演説を聞いたのだ。

 彼の言葉を受けて奮い立たぬ人間はここにはいない。

 ミシガン総長は堪能しろと言った。

 つまり今日は、今日こそは、胃袋がはち切れるまで飲んでも食ってもいいという事だ。

 それも普段決して口にすることの出来ない贅沢な酒と料理をだ。

 彼らの興奮たるや、レッドガン結成以来類を見ない程までに昂っている。

 それは怜悧狡猾にして邪知深く、彼らレッドガンをして厭忌(えんき)の情を以て評価せざるを得ないあのアーキバスのV.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)にすらも感謝の念が湧いてしまう程である。

 

 彼らは知っている。

 他人の金で飲む酒が一番美味いということを。

 

 彼らは知っている。

 他人の金で食う飯が一番美味いということを。

 

 ありがとうV.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)

 

 レッドガン部隊の心は今一つになった。

 

 

「くぅー! やっぱキンキンに冷えたラガー(ビール)は最高だぜ!」

 

「イグアス、お前いつもよりペースが早いんじゃねえのか」

 

 G4 (ガンズ4)ヴォルタは一息に飲み干された三杯目の大ジョッキを見てG5 (ガンズ5)イグアスに言う。

 

「いいじゃあねえか。 今日ぐれぇよぉ」

 

 イグアスはチンピラが如き物言いで同僚に答えた。

 事実、彼は元チンピラである。

 食える時に食い、飲める時に飲まねば生きていぬ世界の住人であった彼は、ヴォルタの小姑が如き言葉を無視して早速お代わりを注文していた。

 

「大体てめーだっていい子ちゃん面してるくせしてさっきから手が止まってねぇぞ」

 

 イグアスはヴォルタの皿に乗せられた料理の数々が、まるで質量が存在しなかったかのように彼の口に消えていくのを見て言う。

 

「こんな料理は早々食えねえからな。 自腹じゃねえってのが特にいい。 クソ親父の(しご)きはクソ食らえだが、こいつはイケるぜ」

 

 ヴォルタもまた元チンピラである。

 借金のカタに第4世代強化手術の実験台にされたイグアス共々、悪友として喧嘩に明け暮れる日々を過ごし、自分達をゴミ溜めに押し込めた世界に対する鬱憤を強化された身体能力で晴らしていたのだ。

 強化手術により常人とは一線を画す強度の肉体を手に入れた彼らは自分達の強さに全能感すら覚えていたが、ある日ミシガンに上には上がいるという事を”わからせ”られて、「青少年の健全育成」という名目で身元を引き取られることとなった。

 学がない彼らをして「健全育成」という言葉の意味を辞書で調べた程のレッドガンでの地獄の日々。

 そのような境遇であった彼は、人生で初めて口にする高級料理の数々を前にして喜悦に震えていた。

 先ほどはイグアスを(たしな)めるような言葉を口にしたが、彼自身無自覚にも興奮が隠しきれていないのだ。

 

 こんなに美味いものが世の中にあったのか。

 まさかミシガンのクソ親父と木端役人(スネイル)に感謝する日が来ることになろうとは、レッドガンの「健全育成」により(はぐく)まれた聡明なるヴォルタの頭脳をして想像だにしなかった。

 クソったれな扱きに堪えてきた自分自身を今日ほど褒め称えたことはない。

 生きててよかった。

 

「そういやぁ、アイツも来てるって話だったよな」

 

 ヴォルタが感動を文字通り噛みしめていると、イグアスはお代わりで届いた大ジョッキを早々に空にした後周囲を見回した。

 

「アイツ? レッドガンの面子なら全員来てるだろ」

 

 ヴォルタもまたイグアスの問いに応じながら周囲を見やる。

 

 目に映るのはクソ親父と、クソ親父の物真似野郎にクソ親父の次におっかねえクソ親父、それにコールサインの無いMT部隊の面々達だ。

 クソ親父の物真似野郎はMT乗り共と一緒になってクソ親父におべっかを使っている。

 いつも通りだ。

 いや、よく見るとクソ親父の周りにいる誰もかれもが飲み食いする手を止めていない。

 酒と料理のあまりの美味さに歓喜に打ち震える身体を制御できていないのだ。

 無理もない。

 今日は他人の金(スネイルのおごり)で腹いっぱい食っても良いのだから。

 それはそうと、普段こういう時にMT乗り共からセコイ手(寸借詐欺)で小銭を巻き上げている根っから詐欺師のクソ野郎の姿が見えないな、と、ヴォルタが思っていると、イグアスが言う。

 

「ちげーよアイツだよ、野良犬だよ」

 

 事ある毎に”G13(ガンズ13)”のコールサインで呼ばれる独立傭兵に煮え湯を飲まされてきたイグアスは、今度こそあのクソったれの野良犬に吠え面をかかせてやるぜ、という気合を入れて今日という日に臨んでいた。

 勿論肉体言語(ステゴロ)で絡んではすぐにミシガンのクソジジイにバレてぶちのめされて終わってしまうということも理解しているので、レッドガンの「健全育成」により育まれた聡明なるイグアスの頭脳は別の勝負を持ち掛けることを思いついていた。

 酒である。

 怪物ジジイ(ミシガン)には叶わないが、それでもイグアスは酒の強さには絶大なる自信があった。

 

 余談だが、ミシガンは酒を比喩でなく樽で飲む。

 その話を初めて聞いたときイグアスは下らぬ与太の類だと思っていた。

 自分より酒に強い人間など存在しないと固く信じていたし、事実それまでの彼は誰を酔い潰そうが最後まで飲み続けられる鋼の肝臓(スティーリー・リバー)の持ち主だった。

 そんな彼はレッドガンの”歓迎会”で自身が如何に矮小なる世界でしか物事を判断してこなかったのかを知った。

 その時彼は人生で二度目の”わからせ”を受けたのだ。

 閑話休題。

 

 イグアスは酒だけでなく喧嘩の強さにもACの操縦にも絶大なる自信があったが、どちらも既にミシガンと”野良犬”に打ちのめされてしまっている。

 しかしながら、流石にいくら何でもあのクソジジイのような”大酒呑み(ジューサー)”は二人といまい。

 いてたまるか。

 つまりイグアスは、凡百の人間達と比すれば自分はまだ上澄みであると確信していた。

 酒の勝負であれば自分にも勝ちの目は大いにある筈である。

 あのムカつく野良犬野郎を酔い潰して自分の方が上であるという確かな実感を得たい(勝ち誇りたい)

 その一心で今日は飲みたくもないウコンまで飲んできたのだ。

 体調は万全である。

 

「ああ、それならあいつは」

 

 ヴォルタが言いかけたとき、耳を劈く声が二人の脳天を直撃した。

 

「G4! G5! なにを二人でこそこそとやっとるか! 貴様等役立たずもついてこい! 持ち物にジョッキを忘れるなよ!」

 

 常人ならば頭が割れかねない(脳がスタッガー状態になる)程の怒声でミシガンが大ジョッキを片手にイグアスとヴォルタを呼びつける。

 

「うるせえなぁ、なんだよクソジジイ!」

 

 イグアスが即座に嚙みつくが、ミシガンの次の言葉に口を閉ざした。

 

「わからんのか役立たず共! 脳みその代わりに酒を頭に詰め込むのは後にしろ! 社会勉強(挨拶回り)に行くぞ! 愉快な遠足のはじまりだ!」

 

 狂乱の宴はまだ始まったばかりである。

 その場の誰もが本能で理解していた。

 自分達が居る場所が既に戦場であることを。

 血沸き肉躍る戦場であることを。

 

 

「帥父、その飾りは食べられないそうです」

「セリア・・・何故教えてくれなんだ」

 

サム・ドルマヤンは後にこう述懐する。

”食べられないと思うから食べられないのだ。”




ありがとうスネイル。
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