飲み干せ、グラスに残った全てを   作:夕俐

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ここから先は、ありえたかもしれない未来。

認識番号 Rb 23 識別名レイヴンと、ルビコニアンのエアが辿った、数奇な運命から枝分かれした一つの可能性。

世界の真実を認識し、ネタバレ、設定崩壊、キャラ崩壊、死亡キャラ生存、その他諸々を含む二次創作のバーリトゥードであることを理解した上での閲覧を推奨します。


宜しいですか?

本作品は、あなたの閲覧を歓迎します。


・・・すみません、私です、レイヴン。

続きが書けたようです。

閲覧してみてはいかがでしょう。


酒、飲まずにはいられない

 神は七日で世界を作られたという。

 しかしてここ洋上レストラン”ざいれむ”はそのすべての工程を圧縮し、加熱し、崩壊させた。

 秩序は今、失われたのだ。

 いつの時代も酒は人を狂わせる。

 主に悪い方向に。

 

 

 RaDのチャティ・スティック(笑える話し手)は、普段はACのコアユニットに搭載されているAIコアを精密作業用の義体に移して”ざいれむ”に立っていた。

 造物主たるボスについてくるように言われたからだ。

 飲食ができないチャティは当初、辞退を申し出たが、チャティの義体を真新しいウエスで磨きながらボスは笑って言ったのだ。

 

「これも経験ってやつさ、チャティ。 笑えることが起きるだろうからね」

 

 そのボスは今、普段の作業着を脱いで、チャティが見慣れぬ衣装に身を包んでいた。

 知識(データベースの情報)としては知っている。

 一般社会(血と鉄とオイルが飛び散らない方)のパーティに参加者する女性は通常、このような服装を選ぶらしい。

 胸元と背中が大きく開いたその服は随分涼しそうだ。

 久しぶりに袖を通したと言っていたが、グリッド086(RaDのねぐら)で出立前にチャティのカメラを通してモニタに映る自身の姿を確認していたボスは、いかにも楽しそうにみえた。

 どこから調達したのか、そのまま普段のメンテナス(スキンケア)に加えて、15段階にも及ぶ微細にして緻密な工程により顔拵え(メーキャップ)をしていたことからもそう認識できる。

 普段のボスはその手順の多くを省略している筈だが、パフやブラシを扱う手つきはチャティからしても淀みがないよう(機械を弄っている時と同様)にみえた。

 そうかと思えば、髪型(ヘアスタイル)もいつもより入念に整えていたのだ。

 人間は服装を変えるだけでも気分が変わるらしい。

 チャティはまた一つボスを知った。

 

 

 シンダー(灰被りの)・カーラは笑顔が似合う女性である。

 今も笑顔だ。

 最高の笑顔だ。

 何故ならば、V.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)の顔を見たからだ。

 鬼軍曹(ドリル・サージェント)の挨拶を聞いた時のあの男の間抜けな表情はルビコン3史上最大の傑作だった。

 世の全てのコメディアンをこの場に呼び寄せたとしてもここまで笑える寸劇(スキット)は飛び出すまい。

 

「あっはっは! みたかいチャティ、あいつの顔をさぁ! 普段のすかした顔(ストレート・フェイス)からは想像もつかなかったねありゃ!」

 

 カーラの表情は世紀の見世物に欣喜雀躍(きんきじゃくやく)の如き喜色を帯びていた。

 ひぃひぃと息を漏らし、引き攣ることこそ我が使命と言わんばかりに刹那の緊張と弛緩を繰り返す腹筋を、呼吸困難(チアノーゼ)寸前の身体に鞭打ち抑えつけるようにして耐えていた。

 

「データは128Kで録画(レコード)中だ。 あの瞬間はアップで撮っている」

 

 チャティは会場に入ってから現在までの全てを記録している。

 

「でかしたよチャティ、、く、くく・・・!」

 

 

 ボスが楽しそうで何よりだ。

 こんなに楽しそうなボスの姿はビジターとつるんでいる時をしてそう多くはなかった。

 V.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)には後で礼を言っておこう。

 チャティはそう自らのメモリーに書き込んだ。

 

 

 カーラは普段からよく笑うが、その彼女をしてこんなに笑ったのは久しぶりである。

 手間暇をかけ、色々と手を廻した甲斐があったというものだ。

 この結果を得られたならば、既に元は取ったとすら感じる。

 

 今夜は楽しくなりそうだ。

 既に十分楽しいが。

 

 

 

 

 今日この場にアーキバスのV.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)の名を知らぬものはおらず、また今日この場でアーキバスのV.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)に感謝せぬものもいない。

 それは至極当然であるがヴェスパー部隊の面々とて同じである。

 彼らはレッドガン部隊に負けぬ勢いで食事を詰め込み、酒を臓腑に染み渡らせていく。

 普段はレッドガンの連中をやかましいだけの脳筋集団だと思っているが、今日は、今日だけは奴らが騒ぐことも多めに見よう。

 こちら(ヴェスパー部隊)とて、これ程の贅沢な酒と料理を前にしてお行儀よくしていられるだけの理性を保つことは最早できぬのだ。

 真逆(まさか)アーキバスグループ内でも一等ケチで有名なあのスネイル(上司)がこのような褒美を寄越すとは。

 常のスネイルを知る彼らからして信じられぬ思いであったが、しかしあのG1 (ガンズ1)ミシガンが口にしたのだ。

 今日は我らが上司(スネイル閣下)のおごりであると。

 ベイラムのバウンティボードには(ミシガン)自らがその首を登録しており、その受け取り先は旧い友(かつての同僚)であるという話は業界でも有名だ。

 ミシガンは義を重んじる武人としてヴェスパー部隊内でも知られている。

 そのような男が、この場で下らぬ嘘は吐くまい。

 つまり今日は本当にスネイル閣下のおごりということである。

 

 彼らは知っている。

 他人の金で飲む酒が一番美味いということを。

 

 彼らは知っている。

 他人の金で食う飯が一番美味いということを。

 

 ありがとうございます、スネイル閣下。

 

 任務に忠実で(仕事を頑張って)本当に良かった。

 

 

 

 

 ミドル・フラットウェル(元ルビコン解放戦線)の手引きでアーキバスグループに潜入しているV.Ⅳ (ヴェスパー第4隊長)ラスティは、V.Ⅱ (ヴェスパー第2隊長)スネイルの評価を上方修正せざるを得ないと考えていた。

 まさかこのような方法で人心掌握を狙うとは、さしものラスティですら思いもよらなんだ。

 有能であるとは思っていた。

 知略に長ける権謀家にして、時には自らが率先して前線に出る事も厭わぬ現場主義でもあることは知っている。

 しかし彼は現場からの評判はあまり良くなかったのだ。

 何故なら息苦しい(査定が厳しい)から。

 スネイルがいる現場は常とは一線を画す緊張感を求められると評判であり、弾丸一発無駄に出来ぬその雰囲気は前線要員にとっては下手をすれば”再教育センター送り”にされるのではないかと感じさせるものであるとして倦厭(けんえん)されていた。

 そのスネイルがまさかこのような手を打ってくるとは。

 支払い(スネイルのおごり)の事をG1 (ガンズ1)ミシガンに言わせたこともまた巧い。

 (ミシガン)ほど人望が篤い男はルビコン星系をして二人といまい。

 そんな男の弁である。

 その信頼を巧く扱った手管には感心する。

 我が戦友よ、我らが第2隊長殿は思ったより手強いかも知れないぞ、と、621(戦友)の姿を探しながら考えた。

 それはそれ(スネイルの思惑は別)として、ラスティは今日戦友と会えるのを楽しみにしていたのだ。

 目当ての人物を見つけ、鷹の目を思わせる眼差しを柔らかく崩した彼はグラスを片手に朗らかに歩み寄っていく。

 

 

 

 

 会場中が異次元の熱気に包まれ、誰もかれもが正気を失っていく世界の中で、アーキバスのV.Ⅱ スネイル(ヴェスパー第2隊長)本人は頭を抱えていた。

 

 まずい。

 不味い。

 拙い。

 全額ポケットマネーから支払うだと。

 個人がそう簡単に支払える金額の筈がないだろう。

 

 スネイルは洋上レストラン”ざいれむ”の常連である。

 ルビコニアンにとっては”ざいれむ”に通うことがステータスとされているが、例えルビコン3で最も高級なレストラン(ざいれむ)であってもスネイルからしてみれば然程高い店ではない。

 勿論安くもない、安くもないが、仮に毎日通っても問題ない程度である。

 スネイルは所謂(いわゆる)高給取りである。

 それはもうそこら中に掃いて捨てるほど転がっているドーザー崩れの一般ルビコニアン共を原住民、未開の地に住む野蛮人などとと呼んでも差し支えない程の確かな給料(サラリー)を得ている。

 何故ならば、彼はそれだけの努力をして現在の地位にいるのだ。

 上層部に媚び諂い(へつら)、立場の弱い上司や頭角を現しそうな同僚を蹴落とし、時には自分を持ち上げさせるべく現場に出て気に食わない部下達にすらご機嫌伺い(話の分かる上司アピール)をして今の立場を築いたのだ。

 使えない者は再教育センター送りに(追放)したが。

 そんなスネイルからすれば、この”ざいれむ”を貸切った”大宴会”の費用とて私費で払えないことはない。

 払えないことはないのだが、どう考えても払いたくはない。

 何故ならば、もし支払ってしまえば行きつけの(足しげく通っている)高級クラブ”うぉっち・ぽいんと”の人気嬢(スミカちゃん)に会いに行く頻度が下がることは確実であるからだ。

 

 スミカちゃんの人気は凄まじい。

 企業の重鎮をはじめとして、元凄腕のアリーナトップランカーから超一流の傭兵、果てはFF(フォーミュラフロント)のトップアーキテクトまで、みんなみんなスミカちゃんの虜なのである。

 スネイルは最近ようやくスミカちゃんとの店外デートに漕ぎつけることに成功したのだ。

 次は何としても外泊(お泊り旅行)がしたい。

 ここで他の客(ライバル)の後塵を拝する訳にはゆかぬのだ。

 

 顔を合わせるだけで頭が痛くなる蛮族の一党(レッドガンの連中)や原住民、身の程を弁えない駄犬とその嫌味な飼い主、頭の悪い上層部、話の通じぬV.Ⅰ フロイト(ヴェスパー第1隊長)及びヴェスパー部隊の部下達を相手取り、ルビコン星系における企業体制の発展の為に日頃スネイルが抱えている業務量(ストレス)は常人ならば既に発狂している(キチゲを解放する)領域にある。

 これをスネイルは最新の強化手術により実現したストレス耐性とスミカちゃんの日々の癒しによって耐えているのだ。

 それを理解できぬのか貴様等は。

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 私こそが企業であるぞ。

 

 スネイルは現状を打開(全額経費として処理)するためにV.VII スウィンバーンを見やる。

 こういう時の為にスウィンバーンにはヴェスパー部隊の会計を任せているのだ。

 貴様分かっているだろうな、という念を存分に込めた視線を向けると、スウィンバーンもまたその視線に気付き、口を開いた。

 

 

「スネイル閣下! このスウィンバーン感服いたしました! 再教育センターですら不良品として処分するであろう原住民(ルビコニアン)落ち目の二流企業(ベイラム)にまで慈悲の心を以て手揉め(私費)で情けを与えるとは誠に素晴らしきお人柄! 閣下こそが企業の体現者でありますな!」

 

 スウィンバーンはスネイルのことを尊敬している。

 これは事実である。

 スネイルの狡知にして悪辣な手腕は見事と言う他に言葉がない。

 そしてそんなスネイルをよく知るスウィンバーンである。

 当然スネイルの視線の意味も正しく理解した。

 しかしながら、それはそれ、これはこれ、である。

 ヴェスパー部隊の会計責任者たるスウィンバーンは金が好きだ。

 だが自分の命はもっと好きだ。

 で、あるからして、先だっての惑星封鎖機構との対宇宙艦隊戦役では余りの敵の物量に彼の矮小で猜疑心に満ちた性根は竦み上がり、死にたくない一心でヴェスパー部隊内に実弾(賄賂)をばら撒いて攻撃部隊の凡そ三分の一を自分の周囲に配置させたのだ。

 僚機は多数堕ちたが、おかげでスウィンバーンは生き延びることができた。

 命あっての物種である。

 対アイスワーム(技研の負の遺産)戦でスネイルの目がなかったからこそ取れた手段ではあるが、その際に想定以上の使い込みをしてしまったのだ。

 とてもではないがここの支払いが出来るほどの余裕はない。

 スネイルのことは尊敬している。

 しかしその優先順位はスウィンバーンにとって下から数えた方が早いのである。

 自身をヴェスパー第7隊長の地位にまで引き上げてくれたことには感謝しているが、それは上司がスネイルでなくても自身の実力で勝ち取れた筈である、と、スウィンバーンは考えていたし、彼の直感はここで予定外の出費(交際費)としてヴェスパー部隊の財布から金を引き出そうものなら直ぐに使途不明金による現金不足(自分の使い込み)が発覚してしまうという事を理解していた。

 監視者(スネイル)の目を盗み、予定されている最低限度の支出に足るように帳尻を合わせるため(資金調達と帳簿の改竄のため)何度夜を徹したと思っているのか。

 今年度の予算はもうないのだ。

 発覚すれば再教育センター行きは間違いない。

 この場でスネイルの機嫌を損ねることもスウィンバーンにとっては致命的な事態になりかねないが、それでも何としてでもこの場を切り抜けねば明日はない。

 スウィンバーンは今、自身の身命を賭してスネイルを最大限ヨイショする(ルビコン川を渡る)覚悟を決めた。

 

 

 賽は投げられたのだ。

 

 

 

 

「ボス、上手くいって良かったな」

 

「全くさね。 おかげで今日は最高に笑えるよ」

 

 シンダー(灰被りの)・カーラは魔法使い(ウィザード)である。

 これが物語であれば善良なる魔法使いの出番はパーティに行くところまで(カボチャの馬車とガラスの靴を出すところ)であるが、彼女は善良なる魔法使いではなかった。

 企業(アーキバスとベイラム)のメッセージ・サーバを密やかに籠絡し、会場の選定と請求先に関して”ちょいと”魔法を掛けたのだ。

 

洒落で(華を持たせてやろうかと思って)支払いは全額コメディアン(スネイル)持ちにしてみたけど、もうちょい高いコースでも良かったかね」

 

 最高級の酒と料理を堪能しながらカーラは言った。

 悪戯好きな魔法使いの企みは、誰にも気付かれることはない。

 

 




よーくかんがえよう。
おかねはだいじだよ。
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