「カッカッカッ!泡沫世界で魔王を名乗る不適合者!なんとも面白い話ではないかっ!」
俺の話を聞き、エールドメードが喉をコツコツと鳴らしながら大きく笑う。
「まだ泡沫世界と決まったわけではない。それに俺を誘う罠かも知れぬ」
俺は冷静に分析した結果を伝える。
「例え罠だとしても、魔王を名乗る愚か者はそうそういない。それこそ、何も知らぬ泡沫世界の住人か、不可侵領海ほど強くなくては無理だろう。それに魔王の夢に侵入することが出来るほどの力の持ち主!つ・ま・り・だぁ。そいつはとてつもなく強い可能性があると言う事!心躍る話ではないかっ!」
確かにその通りだ。泡沫世界のような場所ならともかく、ここで魔王を名乗るということは大魔王の後継者、もしくは俺のことを指していると考えられる。もっとも、知らずに偶然名乗っているという可能性もあるが。
「では何故そいつは魔王アノスにそんな夢を見させたのか?普通に考えれば見せる必要も、見せて何かがある訳でもない。それなのにそいつは夢を見させた。これには何か裏があるとは思わないかね?」
エールドメードの口角がニヤリと吊り上がり、カカカと笑いながら俺を見つめる。
「さてな。まだ分からぬ」
俺がそう言うと奴はさらに口角をにんまりと吊り上げさせた。
「それに調査をするにしても明日からだ。最近戦闘が続いていてな。そのくらいで動けない訳ではないが、ミーシャから止められている」
「そいつは何か目的があって夢を見せているとしよう。だが、もし魔王がここから動かなければどうなるか?ん?そいつは魔王を動かすためにさらに夢を見せると言う訳だ。
もっとも、そいつの目的が魔王を動かすということならの話だが。
しかしそうでなければ、詰まるところ、早ければそいつは、今日の夜には夢の続きを見せるということだ!なんとも面白い話だぁ!カーカカ!魔王に仇なす、泡沫世界の新たな
いやはやいやはや、もちろん、泡沫世界如きの住人が魔王に勝てるとは思わないがね?いやしかしだ、魔王アノスのような例外もある。もしかしたら、というのがあるやも知れん。
もちろんこの俺もそいつが魔王の
ふむ。エールドメードの言うことも一理ある。しかし、2000年前から魔王の敵を作ることばかり考えているこいつが、この話を蹴るほど優先する用事か。詳しくは知らないが、おそらくよっぽどなことだろう。
「なに、用事というのは生徒たちに教鞭をとることだ。先ほど約束してしまってな」
確かにさっきそんなことを言っていたが、コイツの言うことは信じていいのかどうなのか。まぁ信じても無駄だろうが。
「いや、何一つ問題は無い。気が変わったのなら俺に知らせろ」
俺はそう言うと<
<
『き、希望がぁ……希望のパンなどぉ…ぐがぁ……!』
『…にゃ…にゃあ………』
エクエスたちも、しっかりと働いているようだ。
「アノスもパンを食べに来たのかい?」
声がする方を見ればレイがいた。
「いや、父さんと母さんの様子を見に来ただけだ」
俺がそう答えると、母さんが俺の存在に気づいたのか、駆け足でやってくる。
「アノスちゃん、おはよう!ちょっと待っててね、今からアノスちゃんの分のパンを焼くから」
「なに、まだ並んでいる人がいるだろう。俺の分は後で構わぬ」
「あーもぉー!アノスちゃん!なんて良い子なの!待っててね、並んでる人の分も合わせてすぐパンを焼いてあげるから!」
そう言うと、母さんは張り切ったように服の袖をまくり、窯の方へ向かっていった。
パンが焼けるまで、しばらくここで待つとするか。
「そういえばアノス、夢で見た魔王っていうのはどうするんだい?」
俺が近くの椅子に腰掛けていると、パンを片手に持ちながらレイが聞いてくる。先ほど既に<
「調査はするが、明日からだ」
「そうか。じゃあ僕は参加出来そうにないね」
「何かあるのか?」
「ハイフォリアでバルツァロンド達と約束をしてるんだ。それが明日からでね」
なるほどな。まぁレイの力が必要になるほど危険な事をする訳ではない。しかしバルツァロンド達と約束か…。レイがハイフォリアの住人になったこととおそらく関係があるのだろう。
「なに、問題は無い。安心してハイフォリアに行くといい」
そう言って母さんの方を見れば、そろそろ並んでいた列が終わりそうになっていた。
早いな。後まだ数分はかかるものだと思っていたが…。まぁ早いに越した事はないだろう。
俺は椅子から立ち、母さんの方へゆるりと足を踏み出す。
そこで俺はふとある事に気づいた。
父さんの姿が見えぬ。
いつもなら近くで呼びかけをしているが、どうやら今日はいないようだ。
「母さん、父さんがどこへ行ったか知らぬか?」
俺は母さんを驚かさぬよう、肩をポンとたたき聞いた。
しかし、返って来たのは母さんではなくレイの声だった。
「アノスのお父さんならさっき、そこで散歩をしているのを見たよ」
そう言いながら、レイは道の奥の方を指さした。
「そうか。なら少し迎えに行ってこよう。もしかしすると、迷子になっているかも知れぬからな」
「アノスちゃん、そろそろパンができるから見つけたらすぐ返って来てね!」
「ああ、分かった」
俺はそう言うと、レイが指さした方向へ歩き出した。
しばらく歩いていると、辺りをぐるぐると見渡し、あちらこちらへと走り回っている父さんの姿があった。
「父さん」
俺がそう声をかけてやると、
「あ、あ、あ、アノス!?ど、どうしてこんなところに…」
と、驚いたような声を出す。
「まさかっ!お前も迷子に…!?あっいや、待てよ……」
そう言うと父さんは俯き、何かを考えているようなポーズをとった。
「アノス!安心しろ。俺は迷子ではないぞ。ただ単にここら辺を散歩していただけだからな」
突然、父さんはキリッとした表情を見せる。
しかし目は泳いでいた。
どうやら息子を前に少しカッコを付けたかっただけらしい。
…父よ、あからさますぎるぞ……
しかし、どうやらこの反応を見るに、父さんは迷子になっていたようだ。
まぁわざわざ言う必要もあるまい。
俺は父さんを連れて母さんのところに戻ると、タイミングよくちょうどパンが焼けたところだった。
俺は母さんからパンを受け取り食べる。
「どう?おいしい?」
「ああ、嗜好の絶品だ」
そう言ってやると母さんは嬉しそうな顔をした。
「だろ!やっぱり母さんのパンは最高だろ!」
父さんも俺の感想を聞いて親指をグッと立て、自分の胸の前にやる。
やはり平和というのは良いものだ。
誰も傷付かず、今の父さんと母さんのような笑顔を浮かべていられる。
そう思いながら俺は2000年前の戦いを思い出した。
世界が滅びに傾き、多くの仲間が死んでいった。
最初は2000年前の戦いが終わればそれで平和だと思っていた。
しかし終わってみれば案外、まだまだ足りないものがある。
しかもそれは世界の外にまで広がっており、今なお平和には程遠い。
一体どこまで続いているか、俺にも分からぬ。
だが見ていると良い。
俺には知らぬことの中に平和というのは存在しない。
俺が知らぬのは、後悔と不可能だ。
もしこの平和を滅ぼそうという輩がいるのなら、滅ぼしてみるがいい。
俺が相手になってやる。
俺は、アノス・ヴォルディゴードだ。
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