魔王学院の不適合者と泡沫世界の魔王   作:川野甘味

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不適合者

 

「俺を滅ぼす為に作った魔法?どうやら視たところ、何かを召喚する魔法のようだが。そんな他人任せで、俺を滅ぼすつもりか?」

魔王ブラウは、その魔眼で魔法の深淵を覗き込む。

 

天父神ミルドエイベスが築いた魔法陣から、ゆるりと人影が現れる。

 

天父神はニヤリとした笑みを浮かべ魔王を見据えた。

「これは魔王ブラウを滅ぼすための秩序。不適合者を滅ぼすための秩序だ。君の言う通り、私は君を滅ぼすことはできない。それどころか、君を滅ぼすことは例え世界が滅びても不可能だろう。

ではどうするか。答えは、君以上の不適合者を秩序により創り出し、それに君を滅ぼさせる、だ。

それは秩序でありながら不適合者であり、秩序に従い動く。故に君を滅ぼす秩序なのだ」

 

「なるほどな。何を言っているのか分からぬが、試してみるといい」

 

刹那、ブラウの心臓にブスリと魔剣が刺さった。

 

「君が魔王ブラウかな?さっそくだけど、お手合わせ願おうか」

 

後ろから声が聞こえる。

 

「ふうん。根源が四つ、珍しいね」

 

心臓に突き刺さっていた魔剣が抜かれ、同時に根源を二つ滅ぼしていく。

 

「もっとも、僕の敵ではないけど」

 

こいつが、先ほどの魔法陣から現れ、天父神ミルドエイベスがいう秩序である不適合者なのだろう。

 

「ふむ。思ってたより強いものだな」

 

魔王ブラウが漆黒に染まった指で現れた男の肩を切り落とそうとする。

 

しかし、男はゆるりと身体を動かし躱わした。

 

「おっと、危なかった。今の、避けていなければ僕の腕が落とされていただろうね」

 

そう言うと、彼は魔剣を構える。

 

「ふむ、チャンバラごっこか?」

 

ブラウは自らの影の上に手を翳すと、彼の影がみるみるうちに剣へと変化する。

 

「生憎、手加減できるような剣がなくてな。滅ぼすことになるかもしれぬ」

 

影が変化して現れた魔剣をブラウは掴み、その剣先を男の前へと向けた。

 

「大丈夫、君には僕を滅ぼせない」

男は目の前の魔剣を自らの魔剣にて打ち払い、距離を詰める。

 

「そうか。なら気をつけねばなるまいな」

 

「うっかり、滅ぼされないようにかい?」

彼はそう言いながらその手にある魔剣を光より早く振り下ろした。

 

「いや、俺には滅ぼせぬと言う言葉を信じたあまり、うっかり滅ぼしてしまわぬようにな」

ブラウは魔眼にて彼を睨み、魔剣を振り翳していた男の左肩がボトリと落ちた。

 

「それはなかなか…面白いことを言うねっ」

彼は、腕が一つになったにも関わらず、スピードを落とすことなく魔剣を振り下ろした。

ブラウの首元に男の魔剣が少し掠る。

だが同時に、ブラウは漆黒に染まった手でその魔剣を掴んでいた。

 

「こんな脆弱な剣では、首の皮一枚も切れぬ」

そう言うと、ブラウは掴んでいた魔剣をバキリとへし折った。

 

「残念。それは囮だよ」

先ほど睨み落とした男の左肩が、ブラウの死角から振り下ろされる。

 

刹那、魔剣が明るい光に照らされた。

それと同時に、空から少女の声が聞こえる。

 

「創造の光に照らされ、魔剣は光へと創り変わる」

振り下ろされていた魔剣が光に創り変えられ、ブラウの身体を通り抜けて行った。

 

「創造神か。これはまた、なかなか厄介な敵だね」

そう言う男の顔は笑っており、心底楽しそうだ。

 

「いや、そうはさせないよ。創造神アイミレユーミ。君の相手は私がしよう」

そう言って割って入ってきたのは天父神ミルドエイベスだ。

「もっとも、不適合者の味方をするとは、君はどうやらおかしくなってしまったようだかね」

ミルドエイベスは創造神を見据え言った。

 

アイミレユーミはその眼に屈することはなく、天父神を見つめる。

 

「私はあなたを創造の光で照らし、天父の秩序を創り変える」

 

ミルドエイベスの身体が創造の光に包まれる。

 

「無駄だよ。君には創り変えることが出来ない」

ミルドエイベスは光に包まれながらも、歩みを進める。

 

「君は不適合者と関わったことにより、この世界の秩序から少し外れた存在になってしまったんだ。神が不適合者になるなんてことは、今までに無かった。だけど、君は神でありながら不適合者になった。不適合者になってしまった以上、君に創造の秩序は十全には使えない」

 

ミルドエイベスを包んでいた光が少しずつ薄れ、やがて全てが消えて無くなった。

「君は私を創り変えるなんて事は出来ないんだ」

 

「さて、それはどうかな」

ミルドエイベスは驚いたように目を丸くした。

まさか、魔王が口を挟んでくるとは思わなかったからだろう。

 

「それは、どう言う意図かな?魔王ブラウ」

ミルドエイベスがブラウをジトリと睨む。

 

「秩序から外れた訳ではない。秩序の外の世界を知ったのだ。それはお前たちが混沌と呼ぶもの。それによりこの世界以上の力を受け、それをこの矮小な世界の秩序に合わせることが出来ていないだけだ」

 

「君のそれは間違っている。秩序と混沌は相反する存在。その力を受けたのなら、滅ぶのが秩序だ」

 

「どうやら、頭が硬すぎるようだ。どれ、俺が一度破壊し柔らかく作り直してやろう」

 

「そういった言葉は、魔王を滅ぼす秩序を滅ぼしてから言うんだね」

 

そう言うと、ミルドエイベスは再びアイミレユーミの方を向いた。

 

「<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>」

天父神の掌から真紅に輝く太陽が現れた。

 

「この魔法には神を焼く秩序が組み込まれている。例え世界の創造神だとしても、当たればその身を焼き滅ぼすだろう」

 

しかし、その炎は彼女に当たる事なく消えていった。

ブラウが魔眼にて睨み滅ぼしたのだ。

「神は秩序、それは間違っている」

彼は投げかけるようにミルドエイベスに言い放った。

 

「まだ言うか、魔王ブラウ」

 

表情を変えることなく口を動かすミルドエイベスの前に、一つの魔法陣が現れた。

契約(ゼクト)>の魔法陣だ。

 

「それに調印しろ。俺がお前に感情を与えてやる」

ミルドエイベスは迷わずそれに調印した。

 

「神に感情はない。これは君が命を投げ捨てたと言う事でいいかな」

 

「くはは。何を言っている?たかだか神如きが調子に乗るな」

 

「では、本当に神に感情を与えられると?」

 

「ああ」

ブラウはその問いに短く答える。

しかし、彼はこれ以上言葉を続けようとしない。

魔法陣から現れた男との戦いが激しくなったのだ。

これまでは互いに手を抜いていたのが、これからが本番、と両者の力が膨れ上がっていく。ここから先、ブラウはミルドエイベスたちの会話に口を出す暇はなくなるだろう。

 

「ついでだ。アイミレユーミ、お前も調印しておくか?」

まだ互いに力を出す前に、ブラウは言えるだけ言おうと言葉を口にした。

創造神アイミレユーミの前に<契約(ゼクト)>の魔法陣が現れる。

内容はミルドエイベスに見せたのと同じだ。

 

「先ほど見せたのとは少し違うが、俺にとってはどちらも変わらぬ。調印するといい。いまさら一つか二つになったところで変わるものではない」

 

そう言われると、アイミレユーミは少し考え、最終的には調印した。

 

しかし、これ以上会話をするような暇はないだろう。

そうブラウが思った時、目の前で魔剣を振る男が話しかけてきた。

「先に、そっちからやるかい?」

そう言うと、彼はミルドエイベスやアイミレユーミたちの方を目線で示した。

 

「そうしてもらえるのなら、ありがたいのだかな」

ブラウがそう言うと、男は魔王と大きく距離を取り、魔剣を放り捨てた。

かと思えば一瞬でその距離を埋め、ブラウにしか聞こえぬよう小声で何を呟いた。

 

「僕の狙いには、気づいたみたいだね」

そう言うと、彼はその場を離れゆっくりと座り込んだ。

 

彼の魔眼()は最初からミルドエイベスをじっと見据えていた。

ブラウとの戦闘など元々興味などなかったのだろう。

彼が不敵に笑っているのを横目に、ブラウはどんどんと激しさを増す二人の神族の闘いへと眼を向けた。

 

両者の体にはところどころ血が溢れていると同時に、根源にも深い傷がついていた。

特にひどいのがアイミレユーミだ。

一人で番神複数と戦い、さらには天父神とまで戦っている。

それでもなお天父神に傷を付けれたのは、彼女の才能の賜物だろう。

 

「何をしに来たのかな、魔王ブラウ」

天父神がブラウに気づき、声を発する。

 

「お前に感情をくれてやると言っただろう」

ブラウはミルドエイベスの頭を掴み、グシャリそのまま握り潰す。

そのまま蘇生させる暇も与えず、漆黒に染まった手にて腹を抉る。

抉られた腹から漆黒に染まった太陽が現れ、その身体を焼いていく。

 

「<蘇生(インガル)>」

天父神を蘇生し、漆黒に染まった手で根源を掴む。

そしてそれを、ブラウはそのまま握り潰した。

 

天父神は驚いたように目を丸くする。

まさか、魔王が根源を滅ぼすとは思っていなかったからだろう。

 

「<根源再生(アグロネムト)>」

たった今滅ぼした根源を再生させる。

すると、ミルドエイベスは再び目を丸くさせた。

根源を再生させる魔法など初めて見たからだろう。

しかし彼はフハハと不敵な笑みを浮かべる。

 

「なるほど、根源を幾度となく消滅させ、私の戦意を削ぐつもりか。もしくはそれにより、私に恐怖の感情を与えようとしている。違うかい?」

 

「ああ、違う」

そう即答してやれば、予想外だったのか少し目を丸くした。

 

「では何のために?」

ミルドエイベスが俺に問う。

 

「それが分かるようにするためだ」

 

「意味が分からない。それが何につながると言うんだい?」

 

「それはつまり、こういうことだ」

そう言うと、ブラウの腕が漆黒に染まり、それがミルドエイベスに伸びていく。

 

刹那、ミルドエイベスの首が二つに切り裂かれた。

しかしそれはブラウによるものではなかった。

 

「なっ!?どうして君が…!」

ミルドエイベスが驚きその目を大きく丸くする。

ミルドエイベスを切り裂いた者の正体は、先ほどまでブラウが戦っていた相手、魔法陣から現れた男だったからだ。

切り裂かれたミルドエイベスの顔は、どんどん蒼白なものへと変わっていき、そこには困惑の表情を浮かべていた。

 

「流石、僕の描いたプラン通りだ」

彼はそう言うと再びその場に座り込む。

 

「どうして、何故、一体どうして…」

ミルドエイベスはまだ現実を受け入れられていないようだ。

視れば、その根源は滅びに近づいている。

ブラウがミルドエイベスの方へ歩み寄る。

 

なぜ奴が天父神を裏切ったのか。その理由は分からずとも視線から男が最初から天父神を狙っていたことには気づいていた。

恐怖の感情が芽生えるまで幾度となく殺すつもりだったが、おかげで案外楽にできそうだ。

 

「不思議か?」

ブラウはそう言いながら、ミルドエイベスの身体を燃やす。

ミルドエイベスはその火を消そうとするが、消せぬことに気づき、その顔をより青く染める。

 

「ではせめて、考えみるといい」

秩序を使い何とか火を消そうとする天父神から、秩序を奪い去る。

「なっ、秩序が…神の力が…!」

 

「秩序など俺の前では児戯に等しい」

するとミルドエイベスの顔から生気が抜け、身体はがくぶると震えていた。

ブラウが近づけば、彼は逃げるようにズサと後退りする。

だがそれよりも速く、ブラウは前に進む。

 

「やっ、やめろ!くるな!あっちへ行け!」

そんな言葉に見向きもせず、ブラウは近づき、ついに彼の目の前にまで来て、足を止めた。

「や、やめろ…近寄るな…これからお互い手出しはしない…それでいいじゃないか…だから…やめろ…やめろ…やめろ…やめろっ…!」

ミルドエイベスは何とか逃げようと、震えながらも後退りしていた。

 

「分かったか。それが感情だ。どうだ、初めての感情の気分は。なかなかどうして、おもしろいものだろう?お前の言う秩序に裏切られ、困惑し、理解できず、恐怖する、その感情は」

ブラウは秩序を失った天父神の根源を、漆黒に染まった手で掴み、顔を覗かせる。

「最後に、最大の恐怖を味わって滅ぶといい。俺は魔王、ブラウ・アルヴィローゼだ」

掌に力を込め、根源がバキッと音を立て滅んだ。

その根源からは、今までに聞いたことのない、命乞いをするような声が最後まで聞こえていた。

 

 

 

「よかったのかい?滅ぼして。それでも一応、神なんだろう?」

男がブラウに問いを投げかける。薄っぺらい嘘だ。

 

「問題ない。もう手は打ってある。それよりも、お前の方が良かったのか?あれはお前の召喚主のはずだ」

 

「関係ないよ。あれは、僕としても気に入ってはいなかった。それよりも君が僕の狙いに気付き、それを利用する形を取ってくれてよかったよ。おかげで一件ついた。僕たちの戦いはまた今度にでもしようか」

平然と、そんな事を言う彼に、ブラウは少し興味を覚えた。

 

「くはは、そうか。気に入ったぞ。お前、名は何という?」

ブラウは男を見て言った。

 

「僕の名前?さぁ何だったかな。忘れちゃった。だけど強いて言うなら…そうだな……」

男は頭を捻るように考え、言った。

「グラハム、とでも呼んでくれ」

 

そう言った彼の声は、どこか違う何かを感じさせた───……





リアルの事情でしばらく更新できそうにないです。
一カ月後には更新できたらいいなと思います。

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