七不思議少女   作:牧屋

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第21話 曇天

「この俺が呼びつけたってのに、集まったのはたったこれだけか!? あァ!?」

 

 深夜。放棄された貨物倉庫の中で、怒号が響き渡る。

 『シルバーブレット』のリーダーは、放置された鉄骨を踏みつけ、あたりを睥睨した。

 ぎろりと、射殺さんばかりの視線に耐えられず、僅か十数名ほどの舎弟達は目を逸らす。

 かつては数百人規模を誇ったはずの軍団。善後策を決めるための集会を開いたというのに、顔を出したのはわずか一割程度。それも彼の恐怖に縛られただけの、小物どもばかり。

 それもこれも、七不思議との対決で一敗地にまみれ、急速に求心力を失ったためだ。

 

 ただ怪異に負けたというだけならば、世間はいまいちぴんとは来るまい。

 しかしあの世界から叩き出され、現世へ逃げ戻ってしばらくのち。

 大型SNSや動画配信サイトで、『イキリ有害ヤンキー、某七不思議と吸血鬼少女にわからされる』などと銘打たれた動画が、一斉に拡散されたのである。

 内容は全て同じ。滑稽なエフェクトや効果音で装飾された、下世話に編集された枠内で倒れたリーダーが映されており、テロップで実名までさらされるというおまけつきだ。

 犯人を捜しても見つからず、気まずいどころではない醜態と悪評だけが広まっていき。

 覇権と栄華を誇った『シルバーブレット』が、ほんの数日でこの凋落っぷり。

 

 ――これらの工作は、彼らが二度と逆らって来ないよう釘を刺すためと、ネレの功績を積み上げるため、メアが独断で行ったものだった。

 

「千狩市で有名な七不思議といえば、現世の紅月高。それに吸血鬼少女といえば、最近正体をばらしちゃった氷澄さんが連想されます。適当に匂わせておけば、『氷澄ネレが住民を困らせてる不良をヤっつけた』っていう武勇伝だけが、勝手に広がっていくでしょう」

 

 誰も表だって口にせずとも、胸の奥でそう信じ始める。噂とはそういうものだ。

 やがてネレへの印象も変わり、今までのような排除されるだけの扱いではなくなる――。

 

「となれば話は早いんですけどねぇ。まぁやらないよりはマシって事で。えっへへへ」

 

 作成された動画の内容にどん引きしていたネレへ、メアは心からいやらしい笑みを浮かべてのたまったものである。実際、再生数は恐るべき勢いで上昇中だ。

 

「だが俺ァ、このままじゃ終わらねぇぞ! 態勢を立て直して、絶対ェに復讐してやる!」

 

 リーダーはしきりに毒づき、物に当たり散らすものの、目から闘争心は消えていない。

 

「分かってんなお前ら! 病院通いしてる連中が復帰したらすぐ――」

 

 途端だった。リーダーの舌鋒を遮るように、何の前触れもなく倉庫の照明が消える。

 

「な、なんだ……!? 停電か!?」

 

 突然の事態に、ざわめく不良達。スマホを取り出す者もいるが、光源は頼りない。

 するといくらもせず、倉庫の外から、背筋の粟立つ気味の悪い音が忍び入って来る。

 一定の間隔を置き、何かを唱えているような――はたまたうめきを上げているだけのような、聞く者の神経をぞわりと撫で上げる、何者かの声。

 さらに時折、しゃん、しゃん、と金属質な音が規則的に混じり、次第に近づいて来る。

 

「いっ、一体、なにが」

 

 言いかけた不良の背後から、倉庫の分厚い壁を突き破り、黒い何かが飛び出した。

 

「うわぁぁっ!?」

 

 その何かは不良へ巻き付いて捕らえると、少し引っ込み、磔のようにして見せる。

 暗がりの中でも、その異様な何かはうっすらと窺えた。黒いもや、もしくは黒い蟲の大群。名状しがたくも圧倒的な質量の塊が、円錐状に渦を巻いて存在していたのだ。

 

「ひぃっ……た、助けて!」

 

 囚われた不良の近くにいた、壁際のもう一人が逃げようとするも――その背後から同じような黒い何かが襲い掛かり、拘束してしまう。そして。

 ぐきっ、ごきゃっ、と。肉がねじれ潰れ骨がひしゃげ砕ける嫌な音が響き、二人の不良は四肢をあらぬ方向へ曲げ、口から鮮血をぶちまけて打ち捨てられた。

 ――逆方向から、別の不良の悲鳴が上がる。

 とっさに振り返ったリーダーは、彼の胸から青白い何かが生えているのを目撃した。

 

 それは絶えず粒子同士が反発し合い、稲妻めいた光を放つ、剣の刀身に見えた。

 直後、刀身から無数の稲光が放たれ――不良の全身を数秒、駆け巡る。

 最初の二秒ほどで、不良は白目を剥き、意識を失っていた事だろう。

 されどその身は激しく痙攣し続け、高い熱量を流し込まれたみたいに、黒焦げと化した。

 剣が引き抜かれ、煙を上げて倒れ込む不良の後ろで、人影が動いた。

 そいつはスマホのライトを避けながら高速で疾駆し、浮足立つ不良達を撫で斬りにする。

 深く斬った風には見えないのに、彼らは揃って感電した風に身を震わせ、瞬く間に昏倒。

 

 何かいる。何かが自分達を包囲している。

 正体はまるで判然としないものの、リーダーを含む全員が本能で理解した。

 

「う……うわぁぁぁ! 助けてくれぇ!」

 

 限界に達した残りの数人が、倉庫から出ようと、半開きになったシャッターへ近寄る。

 シャッター下部の隙間から、外側に何者かが立つのが見えた。

 刹那。耳を塞ぎたくなるような轟音とともに、シャッターが外側から吹き飛ぶ。

 続けざま、閃光とともに凄まじい爆炎が倉庫内へ躍り込んだ。衝撃とシャッターの破片をまともに受け、迫っていた不良達は紙吹雪よろしく薙ぎ払われる。

 

 リーダーは伏せてかろうじて耐えたが、余波に煽られただけで体中に痛みが走っていた。

 

「な、何だってんだ……クソがァ……!」

 

 もはや手下達は全滅と言っていいだろう。自分達は攻撃を受けている。だが、誰に。

 

「誰であろうと……邪魔をさせるかよォッ!」

 

 吠えて立ち上がり、シャッターをぶち抜いて派手に登場してくれた何者かへ向けて、渾身の風魔法を放った――。

 

 

 

「銀の弾丸《シルバーブレット》、だと? 大層な名が笑わせる。とんだ粗悪品だったな」

 

 倒れたリーダーをボロクズの如く踏みにじり、巌のような巨漢が嘲笑う。

 

「あーあ。派手にやっちゃって。本番はこれからなんだろ?」

 

 作業着姿の男が、適当な鉄骨に腰かけながら、青白く輝く剣を回転させて弄ぶ。

 

「痛み、苦しみ、悲しみ……理不尽に抗わんとする彼らの願い、確かに聞き届けました」

 

 壁に開いた穴。黒い何かが雲散霧消するとともに、錫杖を携えた僧服の男が現れる。

 

「――全員、揃ったようだね」

 

 そうして、どこからともなく。あるいは最初からその場にいたかのように。

 

「顔見せはこれで充分。何かと鬱陶しいハエどもも壊滅した」

 

 黒いローブを羽織り、フードを目深にかぶった人物が、口の端を吊り上げる。

 

「さぁ。……仕事の話を始めようじゃないか」

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