「聞こえる……聞こえます。無念と悔恨を募らせ、いまだこの現世に囚われし魂の嘆きが」
呟きを漏らしながら、楚々とした足取りで歩みを進めるのは、一人の僧侶である。
浅黒い肌。細い糸目。顔の彫りは深く、髪は剃り上げられている。
着込むのは赤銅色の法衣に、黒と金の柄が混然一体の輪袈裟。長い裾を揺らし、雪駄で土を踏みしめ、携えた錫杖の遊輪がしゃん、しゃんと規則的な音色を響かせる。
「いかに身を隠し、息をひそめた所で、心を染める悲しみまではごまかせませなんだ……」
僧侶は厳粛な面持ちでそう告げ、やおらに首から下げた数珠へ手を伸ばす。
特殊な機構になっているのか、指でつまむようにしただけで玉が一つ外れ――彼はその玉を、目前にそびえる体育館の窓めがけて投げつけた。
玉はガラスをたやすく割り、内部へ飛び込み、床に転がる。
かしん、と音を立てて上下がスライドし、中から複数の穴が覗いた。
「さぁ、出ていらっしゃい。苦悩にうめくそのお顔を見せなさい」
僧侶の呟きに呼応するみたいに――穴の中から音を立てて白いガスが噴射されるや、締め切られていた建物内をみるみる埋め尽くしてゆくではないか。
僧侶は続けて、次々と玉を取り外しては、他の施設にも投げ込んだ。武道場、屋内プール、倉庫――まるで虫でもあぶり出すかの如く、ガスが充満し、空間を白く染めていく。
途端だった。僧侶が後背に気配を察知して振り返ると同時――闇の中からヤクモが飛び出し、勢いよく襲い掛かったのである。
僧侶はとっさに錫杖を掲げ、ヤクモが振り下ろす強靭な一撃を防ぐ。
通常、錫杖の柄は木製のはずだが、激突した際に響いた音はむしろ、金属的なもの。
「悪鬼羅刹、鎮まり給え……!」
僧侶は空いている方の腕を直角に上げ、片合掌の構えを取り、早口で読経を発し始める。
するとどうだろう。揺れる遊輪の間から、墨色のもやが川の流れよろしく流れ出て――巨大な人型を取り始めた。
その姿を例えるなら、仁王像。墨色のもやが絶えず渦を巻き、描き出しているゆえに表情や隆々とした筋骨の細部までは判然としないものの、力強いシルエットと仏具めいて握り込んだ大剣は、周囲を圧するには十分すぎる威圧感をたたえていた。
仁王は即座に大剣を振り抜き、僧侶が押しとどめているヤクモへ叩きつける。
衝撃音とともに火花を散らし、グラウンドをバウンドして吹き飛ぶヤクモ。
仁王は地面を深く踏み抜きながら後を追い、大剣を高々と振り上げた。
矢先。再びどこからともなく、サギリが猛突進。
真横からの体当たりを浴びせてのけ、ささやかにたたらを踏ませた。
その間にヤクモは体勢を立て直し、サギリとともに間合いを離して飛び退く。
「盗みを働く奴、火をつける奴……今まで色んな奴がいたけどさ」
そうして――イズルが二体の後ろから現れ、僧侶を強く睨めつける。
「催涙ガスを投げ込まれたのは初めてだ……好き勝手やりやがって!」
「ほほう。本当に子どもの霊とは……久しぶりに良い仕事ができそうです」
一方の僧侶は乱れた裾を直しながら応じ、澄んだ面立ちを崩さない。
「さぁ、存分にお泣きなさい。心の奥底に仕舞い込んだ悲しみを、全て解放するのです」
「なめるなよ……クソ坊主ッ!」
「幽霊に人権はない」
そう嘲った男は、目元にかけたサングラスの位置を、人差し指の曲げた関節で軽く直す。
「だから俺達が呼ばれる。幽霊をどれだけぶっ殺そうが拷問にかけようが、罪には問われねぇ。いわばそう……ゴーストスレイヤーズってやつだ」
「ゴーストスレイヤーズ……」
シーラは面の奥で目を細める。変声機はまだ直っていないため、出しているのは地声だ。
言われてみれば、男が着込んでいるのは青を基調とした作業着。
何かの業者、と言われれば納得してしまう変哲のない出で立ちだ。
――その作業着に、血糊じみた黒い染みが点々と付着し、斑点模様を描いていなければ。
「とりわけ面倒なのが地縛霊だ。人様の土地やら建物やらに憑りつき、ひどい時にゃ不法占拠ときた。――けども、俺達にとっちゃ美味しいネタでもある」
男が取り出したのは、鍔と刀身の部分のみを外したような、灰色の柄。両手に一つずつ。
「よっぽどトンデモな死に方をしなけりゃ、地縛霊ってのは滅多に生まれない。そしてそういう連中が憑くのは大抵、大手を振れない訳アリ物件だ。持ち主は秘密裏に事を解決したいもんだから、自然と俺達に払う金額も高くなる……」
「お前達にとっては、今回もそのたぐいだと?」
返答よろしく、柄の先から青白く輝く剣先が伸びていく。断続的に弾ける火花めいた音が耳障りだった。
「同型、同色の柄……裏魔法、か。相当の逸品と見た」
魔法に使う触媒は、一人につき一つのみ。よって、正規の電子魔法たる事はあり得ない。
「名乗るのが遅れたな。俺は安田ツトム。覚えてくれなくていいぜ? 偽名だし」
「……シーラだ」
「肩で風切って通りを歩けねぇ日陰モン同士……楽しもうや!」
安田が予備動作なく駆け出し、跳躍しながら一対の剣を振りかぶる。
「お前達と……一緒にするな!」
シーラもまた、下段に構えた薙刀を振り抜き――互いの得物が交錯し、衝撃が迸った。
仁王が斜めに大剣を薙げば、食らいついていたヤクモはうなりを上げる風圧をこらえきれず、弾き飛ばされる。
「ヤクモ!」
とはいえ、ヤクモは宙返りしながら華麗に着地し、ダメージを最小限にとどめた。
その隙にサギリが突っ込み、脚部に組み込まれた強靭な鋼爪で横に薙ぐ。
仁王はヤクモへの追撃を諦め、サギリへ対処せざるを得ない。見事な連携だった。
「ヤクモ、まだいける……っ?」
イズルは二体が見える位置に陣取りながら、戻って来たヤクモへ手をかざす。
すると掌中から電撃が放たれ、ヤクモへ帯電するみたいに包み込んだ。
各部動力。排熱機構。装甲維持。センサー系。人工知能。
あらゆる機関を正常に駆動させるためには、満杯の電力が必要となる。
充電式のため、日常生活においては問題ないのだが――動き回って消耗が激しくなる戦闘時だと、学校で使われている電気や電池程度では到底足りない。
ゆえにイズルが魔法を用い、電力の供給を行いがてら、電子化した命令を打ち込み、戦況に合わせて二体の動きをより効率化させているのだ。
「……では司令塔を潰してみるのはどうでしょうか」
いつまでも攻めきれず、じれたのだろう――僧侶が錫杖で地面を突くと、仁王が重々しい挙動で転回し、イズルの方を向く。
すくいあげるように大剣を振るってきたが、その一撃はサギリが横合いから飛び出し、蹴速をつけた体当たりで軌道をそらしてのけた。
「赤い方は攻撃的に、青い方は防御を優先して動いていますね……なんと面妖な」
僧侶は舌打ちを漏らした後、再び朗々とした声色で読経を唱え出す。
(恐らく……奴の得意属性は風)
ここまでの交戦を通し、イズルは敵の戦術を分析。
(自分の声で空気を振動させて操り、あの巨人みたいな姿に変えているんだ)
つまりは音の塊。墨色のもやのようなものは、流れ出した音を保護し形状を維持させるためだろう。もやの形自体にも法則があるのか、所々経文めいて見える。
その証拠に、仁王が何かしらの動作を見せる直前、もやの動きにも変化があるのだ。
例えば歩行するなら、もやは足元に集中し、密度が高まる。攻撃前なら腕や大剣に。
逆に攻撃が当たると一時、ノイズでも走ったみたいに打ち震え、不安定な様相を見せる。
「言ってみればあの黒いもやは、風船を守るゴム部分……ってわけか!」
正体が見えて来た。この考えをヤクモとサギリへも送信し、判断力を高めさせていく。
僧侶が錫杖を乱雑に打ち付けると、呼応するように仁王が何度目か、大剣を振り上げた。
けれど、その動きはもやを見れば先読みできる。
「ヤクモ、合わせて!」
狙われたイズルは、ヤクモへ向けて駆け出す。
何歩か助走をつけ、土を散らして跳躍。
ヤクモの胴体へ手をかけ、跳び箱の要領で背中へ跨った直後、仁王が剣を突き出す。
されど、騎乗したイズルはより緊密にヤクモへ指示を送り、剣が届く位置を予測。
しなやかな疾走はやすやすと巨撃をかいくぐり、一気に距離を離してのける。
――と思われた刹那だった。
目にも留まらぬ速度で剣が伸びるや、切っ先がヤクモの胴体を打ち抜いたのである。
「なっ……!?」
衝撃で姿勢が大きく乱れ、ヤクモは傾き、二人揃って転倒してしまう。
「堕ちなさい。あなた方罪人は、決して天上へ逝く事はかないません」
全てを悟りきったような僧侶の呟きを背景に、ヤクモが手足をばたつかせてイズルを抱え、背中から地面へ叩きつけられる。
「うぅ……や、ヤクモ……!」
ヤクモに庇われたため、イズルへのダメージはそれほどない。
しかし、横たわるヤクモの装甲は薄く陥没し、蜘蛛の巣状のヒビが刻まれている。
脚部にも異常が発生しているのか、弱々しい駆動音を立て、ぴくぴくと痙攣していた。
「ヤクモ……」
ひどい損傷に、いつかの光景が重なる。鬱蒼とした森の中。泣き出しそうな曇り空。
犬達と、猪を追いかけていた。あの時はイズルの指示が遅れてしまい、ヤクモが――。
「……油断した。ゴムなんだから、伸びて当たり前か……」
強く唇を噛み、霧散しかけた集中力を取り戻す。
自分のせいだ。指先が土を深くかき、鈍い痛みを感じながら立ち上がる。
「非常に良いお顔です。恨み、憎しみ、苦しみ、悲しみ……魂を傷つける無数の感情に責め苛まれていますね」
僧侶は追撃する事なく、仁王を自身の側へ引き戻しながら、声をかけて来た。
「さっきからキモいよ、おっさん。てか、拝み屋が幽霊を殺す仕事なんてしてていいわけ」
あえて、会話に乗る。
ヤクモにはある程度の自己修復機能が搭載されているため、少しすればまた立てるはず。
「わたくし、元々は未練を残してこの世を去った人々を供養し、亡霊になどならず浄土へ逝くよう、誠心誠意努めておりました」
僧侶は神妙な表情のまま、だけれどどことなく嬉々として、自分語りを始める。
「しかしある時、供養が間に合わず、幽霊と直接対峙する羽目になったのです」
肉体を持ったヒトが命を落とし、体内に残った魔力が大気中に残留する魔力と溶け合うと、実体のない存在へ変質する事がある。それが幽霊だ。
「幽霊にも種類があります。あてどなくさまよう浮遊霊もいれば、生者へ害をなす悪霊も。彼らは元々の魔力が尽きれば自然に消滅しますが、未練の強い霊は他者から魔力を奪い、あるいは――土地そのものに憑いて、いつまでもすがり、残り続けようともがくのです」
「生き延びようとして何が悪いのさ。不格好でも、消えたくないって思うのは当然でしょ」
とげとげしく噛みつくイズルに、僧侶はむしろ頷き、同意の姿勢を見せる。
「仰る通り。どれだけの苦痛に見舞われようとも、倫理との板挟みになっても、強い意志を抱きあがく亡者達の姿に……なんといいますか、わたくしは、わたくしはとても……」
途端。僧侶はまなじりが裂けんばかりに目をひんむき、昏い笑みを作った。
「……萌えちゃったんです」
錫杖が打ち付けられると、仁王の腕が肥大化し、腰のひねりを加えて拳が引かれる。
「ヤクモ……!」
おぞましい本性を垣間見せられる羽目にはなったが、今の引き延ばしで、ヤクモはなんとか立ち上がれていた。回復しきってはいないものの、出力は安定している。
「つくづく、あのお方にはお礼を申し上げなければ。このような可愛らしい子供達の相手に、わたくしを雇ってくださるとは……ァッ!」
「だから、キモいんだよ……!」
電流を放出し、離れていたサギリにも力を分け与え、前進させて敵の注意を引く。
パワーとスピードで猛攻を加える強襲型のヤクモとは異なり、サギリはヤクモを上回る堅牢な装甲と、攻撃に対してずば抜けた反応、及び技術で守り、時には跳ね返す防御型だ。
弾みをつけて、拳が打ち出される。その攻撃を何度も見たサギリは、すでに多くの情報を蓄積・学習しており、最適な回避、防御法を確立している。
迷う事なく、今いる位置から後方へ、数歩分退く。
敵の腕が伸び切るまで引きつけ、ぎりぎりで躱し、反撃へ繋ぐ算段だったのだろう。
なのに、腕が伸び切る事はなく――それどころか、先ほどの大剣のように伸縮し、鞭の如きしなりを帯びて、サギリの横っ面をぶっ飛ばしたのである。
「サギリ……ッ!」
回転しながら吹っ飛んでいくサギリへ、イズルとヤクモは慌てて駆け寄った。
「剣、だけじゃない……! 全身だ、こいつが……伸びるのは!」
走る二人の背中側から、巨躯の影が覆いかぶさる。
振り返った時には、間近まで迫った仁王が、大剣を振りかざしており。
大地を叩く猛打が、イズル達を三方バラバラに吹き飛ばした。
「うわあぁぁっ……!」
直撃はせずとも、地面を走る衝撃に身体を浮かされ、ひどく打ち付けてしまった。
全身が痛む。息が切れ、視界が朦朧と薄らぐ。切れた額から血が一筋滴り、砂を固める。
(最近は雑魚ばっかだったから気が抜けてた。強く認識するんだ。こいつは、強い……!)
サギリの装甲も所々が砕け、金属骨格が覗いていた。視覚素子には自身の状態が矢継ぎ早に表示され続け、浅い損傷ではない事が一目でわかる。
「それにしても実体を持つ幽霊とは。噂程度でしか聞いた事のない、とても珍しいタイプですね。わたくしも出会うのは初めてです」
優勢を確信したように、僧侶はほの昏い笑みとともに腕を広げた。
「あなた方はみな、年端もいかない子供達だけで暮らしていると聞いています。おお、なんと悲しい事でしょう。輝かしい未来を理不尽にも奪われ、互いの傷をなめ合いながら、前へ進み続ける外の世界を妬み嗚咽を漏らし続けるしかない……」
僧侶は、別にイズル達へ同情しているわけではない。改めて現実を突きつけてやる事で、より傷口をえぐり、出血させ、のたうち回らせようという目論見なのだ。
「五十年もしぶとく残り続けているらしいですが、そんなに時間が経ってしまったら、もうあなた方の親も友人も忘却の彼方。待っている者は誰もいないでしょう。待つのは無限の苦しみだけ……いずれはその高潔な魂も、他者を呪うだけの地獄へ堕してしまうのです」
いっそ、と僧侶は囁きかける。
その言葉が、六不思議の心をもっとも傷つけるのだと、入れ知恵されていたから。
「ここでもう、終わってしまっては。あなたは充分に頑張りました。これ以上は――」
「うるさい」
イズルは押し殺した、底冷えのする声音で遮った。
「……お前の言う通りだよ。ここでいくら頑張っていたって、何も変わらない。大人にはなれない。外の、大切だった人達にも……会えない」
「ならば……」
「けど!」
イズルは真っ向から睨み据える。その両脇で、二体の忠実なロボット達も立ち上がった。
「明日なんて来なくても! 今がずっと続いても! それで一切構わない! だってここにはノクピーが、イツハが……みんながいるんだからッ!」
夜気を震わせる、手負いの獣が吠え猛るかのような叫びに、僧侶は怯んで後ずさる。
「い、今更威嚇した所で、すでに趨勢は……」
イズルは腕を上げる。関節を全て伸ばし、掌は下向き。肌の表面で、一瞬光が散る。
「さっきの攻撃は、わざと食らったんだ。そのためにあえて背中を見せた」
「は……? 一体、何を言って……」
「もう少しだったからな……ここまで来るのに……!」
バチン、と破裂音。イズルの手から電撃が放たれ、グラウンドを叩いた。
「は? 頭イカレてんですか? どこを、狙って――ッ!?」
訝しげだった僧侶は、突然自身の体勢が崩れたために、息を呑んで驚愕した。
地響きとともに、足が何かに引っ張られる。たまらず屈み込みながら、下を見る。
地面が、口を開けていた。
真一文字に穴が開き、周辺の土や野球用のベース、白線も纏めて吸い込まれていく。
「お前は気づかなかったんだ。少しずつ誘導されていた事に」
穴の下に、小さな倉庫ほどの空間が広がっている。隅にはエレベーターらしき設備も。
「地下にも、施設が……!? てめぇらの最初の奇襲は、まさかここから……!?」
僧侶も雪崩れ込む土に押し流され、穴へ落下しかけたが。
すんでの所で仁王が間に合い、身体を掴んで押しとどめる。
瞬間、ヤクモとサギリが突っ走り、同時に仁王へタックルを仕掛けた。
出力を全開にしたその突貫に、足場が不安定な事も手伝い――地下施設へと、僧侶、仁王、そしてヤクモとサギリまでが吸い込まれていってしまう。
「ば、馬鹿な!? 仁王像よ、わたくしを助けなさい! 助けろよッ! 落ちるううッ!」
「お経を読むなり、錫杖で操るなりすればいいだろ。……空中でできるならな」
「できるわけねぇだろうがクソガキがあぁぁぁ!」
固いコンクリートに叩きつけられ、折れた前歯から大量出血しながらわめく僧侶。
「ふざけるなよおぉぉぉ! なんでてめぇみたいな落伍者の成れの果てに、この俺がこんな目に遭わされなきゃいけねぇんだあぁ!? すぐに思い知らせてや――!?」
イズルは再び地面へ電撃を放ち、地下に巡らせた金属パイプから動力部へ伝達。
操作盤を動かし、開けさせた地下への大扉を、今度は閉めさせる。
「なにやってんだぁぁ!? 天井を閉じるなぁぁッ! 早くしろ、仁王ォぉおッ!」
仁王がしゃにむに跳躍し、閉じられかけている扉の端を掴み、抑え込みにかかった。
その脚へヤクモとサギリが食らいつき、引きずり下ろす。僧侶の動揺もあるためか、仁王はもはや出来の悪い石膏像めいて、ぐにゃりと姿を歪ませている。
「お前の醜い風船は、音で造られてる」
イズルは隙間から顔を覗かせ、必死に抵抗する僧侶を見据えた。
「だったらもっと狭い場所に引き込んで……でっかい穴を開けてやれば……っ」
サギリの頭部の上半分が引っ込み、代わりにせり出して来たのは、鋭利な銀色のドリル。
神経に障る回転音を発しながら、ドリルが容赦なく仁王へ突き立てられ、もやを貫く。
「や、やめやがれえぇぇ! ここでそんな事したら、ば、爆発……うわあぁぁあぁッ!?」
イズルは続いて、ヤクモとサギリへ目をやり、顔を歪める。
「……ごめん、ヤクモ。サギリ」
ドリルの騒音と僧侶の絶叫、仁王がメチャクチャに暴れる音。
様々な音が混沌と反響し、閉め切られた扉の向こうへ置き去りにされて。
――やがて少し離れていたイズルの足音にまで、鈍い爆音とともに衝撃が伝わって来た。