七不思議少女   作:牧屋

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第41話 友達

 病院へ戻ったネレは、そのまま数日、絶対安静で養生に務めた。

 吸血鬼としての回復力もあいまり、今は通院は必要だが学校へ通えるようになっている。

 メア経由で六不思議の状況もメールで教えてもらっていたが、あの一件以来取り立てて何事も起きていないようだ。

 

「いやぁ、久しぶりだな。一週間ぶりくらいか? 氷澄とこうやってメシ食うの」

「そうだね」

 

 昼休み。ネレは伊予原を誘い、屋上で二人、昼食を取っていた。

 

「そういや、ネットに記事が載ってたぜ」

 

 フェンス越しに校庭の喧騒を眺めていた伊予原が、思い出した風にスマホを取り出す。

 

「記事って……何の?」

「ほら、お前らが戦ったっていう、ペレナ・ヴルゴーってやつ。二日前に捕まったってさ」

 

 向けられた画面には、ニュースサイトに本人を撮影した写真画像と、その顛末を書いた記事が掲載されている。

 

「噂だと、突然県の警察署の中に現れて、身元を問いただしたら暴れ出したらしい」

「……怪我人とか、出なかった?」

「いや、本人もだいぶ混乱してたみたいで、すぐに取り押さえられたとか。そのうち、こいつの一味も続々お縄について、芋づる式に正体バレしたってよ」

 

 まさかあの異界からの転送先が、よりにもよって警察署とは。

 他の面々も六不思議に拘束されて動けないまま飛ばされたはずだし、誰か一人でも捕まれば、そこから事の全貌が漏れるのは避けられまい。

 

「六不思議へ挑んだのが、ゴーストスレイヤーズの運の尽き……」

 

 逆に、ネレが飛ばされた先は町の裏山の頂上。夜空の星が綺麗だった。

 

「盗み、ゆすり、たかり、放火、殺人。叩けば叩いただけ余罪が飛び出す、普通に世界レベルの悪質指名手配犯だからな。流石にオシマイだろ」

 

 護送中にも脱走を図ろうとしたらしく、写真にはパトカーの間で警官に取り囲まれ、羽交い絞めにされ、何事か叫び立てるペレナの姿が映っている。まったく往生際が悪い。

 

「ウン十年越しの六不思議の因縁、か……これで片が付いたんだよな?」

 

 うん、とネレはサンドイッチを頬張る。

 この報は確かに、長くのしかかっていた緊張を安堵に変えてくれた。

 

「伊予原くんのおかげだよ。私達だけじゃ、きっと捕まえるまでには至らなかった」

「い、いや、でも俺、お前みたいに体張ったわけじゃないし」

「張ってくれたよ。私にとっては。充分」

 

 薄く笑いかければ、伊予原は顔を赤くして背け、口の中にペットボトルの水を流し込む。

 

「そ、そうか……ならいいけどな」

「ねえ」

 

 ネレは伊予原を追いかけるみたいにずいと身を乗り出して、提案する。

 

「今度、私と一緒にあっち、行ってみない」

「……六不思議んとこか?」

「うん。前は失敗しちゃったけど……みんなに紹介したいから。伊予原くんの事」

「えっ? ――な、なんで俺があっちに行った事知ってるんだ?」

 

 あ。口が滑った。

 

「……ノクターン達から聞いたんだよ。伊予原くんっぽい人がやって来たって」

「俺っぽい人ってどんな人だよ……けど」

 

 伊予原は目線を斜め上へ投げ、考えるそぶりをしてから。

 

「そこまで頼むなら一考してやるぜ? まぁ正直、前だって俺一人で余裕だったし。お前と一緒なら、あんまり六不思議をビビらせる事もないだろうからな?」

「……ふふっ」

「な、なんだよ、何笑ってんだよ」

「別に。……そっか。じゃあ今日、すぐ行こう」

「え、今日? どっ、どうしても?」

 

 などと、他愛のないやりとりをしていた矢先。

 

「……あ、あのー、氷澄さん……?」

 

 二人以外誰もいない屋上に数人、訪れる者がいた。

 

「お前ら……」

 

 伊予原が眉をひそめ、ネレを庇うみたいに前へ立つ。

 

「今更、氷澄に何か用かよ」

 

 現れたのは、腫れ物よろしくネレを避け続けて来た、クラスメイト達である。

 

「そ、その……私達、ずっと話し合って。あの、あなたに謝りたくて」

 

 彼らはもじもじと身を寄せ合ったり、目線をあちこちへ逃がしたりしながらも、伊予原越しにネレを見て。

 

「あ、あの、氷澄さん……不良グループをやっつけたのも、あなたなんだよね? それに最近、ニュースになってる極悪指名手配犯を捕まえたのも、あなたがやったって」

「噂になってる?」

 

 ネレが聞き返すと、クラスメイト達はこくこく頷く。

 

(不良戦の時みたいに、メアがまた、大々的に広めておいてくれたのかな……)

 

「あなたがすごく頑張ってる事、ホントはみんな知ってるの。でも……言い出せる人がいなくて。だったらやっぱり、助けてもらった私達が最初に言うのが、筋だって話になって」

 

 まっすぐ、頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい! 今まで……冷たくして」

「あ、うん。別にいいけど……」

「いや、軽っ」

 

 あまりにも適当なネレの返答に、伊予原は思わず、といった拍子でツッコむ。

 

「そ、そんな簡単に許していいのか? こいつらに謝らせるために、お前、あんなに苦労してたのに……」

「違うよ、伊予原くん」

 

 ネレは訂正した。

 

「謝ってほしくて、色々やってたんじゃない。謝罪とかは、ゴール地点じゃないんだよ」

 

 ひえっ、とクラスメイト達は、なぜか怯えたように顔を見合わせて冷や汗を流し。

 

「あの……こっ、これくらいしか手持ちにないですけど、お、お収め下さい……」

 

 購買の人気パンやら飲み物やらトレーディングカードやら、びくびくしながら差し出して来るではないか。

 

「え、どうしたの急に」

「ホントすいません! 許して下さい! ですからどうか命だけは……」

「……伊予原くん。なんか私、壮大に誤解されてない……?」

「お前の功績って、全部拳で解決したも同然だろ? 物騒っつーか武闘派すぎるんだよ。活躍するのはいいけどもうちょっと穏当なやつに自重しとけ」

 

 言われてみるとそうだった。

 

「ワホンは異種族に対する当たりがまだ緩い方だからいいけどよ、こんだけ活躍してるってニーメゲルとかに知られたら目ぇつけられるかもしれないからな。気をつけろよマジ」

「うん……反省」

 

 しおらしく聞き入れた後、ネレはクラスメイト達へ向き直る。

 

「聞いて欲しい。私……すごく悔しかったんだ。あの時……」

 

 あの時とは、当然、不良グループに襲撃された転校初日の事である。

 

「もっとうまく、みんなを助けられたかも知れない。正体だって、バレずに済むやり方があったかもしれない。そんな後悔ばっかりが、ずっと頭の中を占めてて……」

「氷澄さん……」

「みっともなく思われてもいい。あの失敗を、なかった事にしたかったんだ」

 

 みんなに、見直して欲しかった。だからあんなに必死だったのだと、今にして思える。

 

「だから、私からもお願い。友達になってとは言わないけど、普通に接してくれると嬉しい。転校初日の……続きみたいに」

「う、うん……!」

 

 みんなはもう一度、頭を下げ。

 

「……あ、ありがとう! 助けてくれて!」

「あ……」

 

 ネレは目を見開く。うまく言葉がまとまらず、唇が半開きになって。

 

「……うん」

 

 寡黙な感じの答えになってしまった。けれど。

 

(……なんか、嬉しいな)

 

 本当の意味で、重荷から解放されたような。やっと前へ進み始められたような。

 

「良かったな、氷澄」

「……うん」

 

 傍らの伊予原を見返し、ネレもまた、口元をほころばせた――。

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