首輪付きの山猫、赤い銃に繋ぐ   作:飴玉鉛

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接触は密やかに

 

 

 

 

 

 

 輸送ヘリがやって来たるは、南ベリウス地方沿岸部にある巨大人工構造物――の、末端に位置する殺風景な着陸場だ。ヘリが着陸するなり地面が左右に割れて、輸送ヘリは地下へ格納された。

 

 離着陸場は地下へ進む為のリフトだったのだ。輸送ヘリからアクセスポイントに接続し、降下していくリフトの頭上で地面が蓋をしている。

 リンクスは輸送ヘリから降りて、両腕を左右に広げて伸びをした。あー、肩が凝る、などと愚痴りながら肩を回してストレッチを熟し、ヘリの機長達が恐縮して背後につくのを尻目に時を待つ。

 やがて目的の階層に到達してリフトが止まると、壁面に位置する扉がスライドして幾人もの男達が出てきた。見知った者達が多い、知らない者もいる。

 大半はベイラムの先進技術開発局の重鎮達であり、連絡役のレッドガン付きの平隊員もいた。

 彼らはこぞってリンクスの下へ早足に近づいてきて、揉み手すり手で顔色を伺ってくる。リンクスは顔と強さしか取り柄のない男だが、一応はお偉いさんだからだろう。ルビコンなんていう辺境の惑星で彼に睨まれて、いざって時に()()を起こされたら死ぬのは自分達なのである。そりゃあご機嫌伺いの一つや二つはしたくなるのが人情というものだろう。幾ら鬱陶しくても、ここで邪険にするほどリンクスも鬼畜ではなかったが……今回は話が違う。

 

「お待ちしておりましたレッドガン副長G3リンクス閣下、わたくし共一同、心より――」

「――すまないがそういうのは省略してくれ。喫緊の報せがある、連絡員! こっちに! それから君らは早く新型の所に案内してくれ、急いで帰らないといけないかもしれないからね」

「は……?」

「副長閣下、なんでしょうか!」

 

 白衣の研究者が困惑するのを無視してその横を通り過ぎ、駆け寄ってきた若い兵士に()()()()を押し付ける。全てが手書きのアナログ文書だ、故に機密性の高い案件であるのが伝わる。

 途端に緊張する若い兵士にリンクスは言った。

 

「それをここの基地付きの通信兵に。目を通した後は燃やさせろ。暗号化させて総長殿に送れ。暗号はナイルさんが作成したモノのパターンCだ、急げ!」

「は……ハッ!」

 

 若い兵士はリンクスのただならぬ様子に気圧され、敬礼すると走り去っていく。目を点にして、戸惑うばかりの研究者や技師達をじろりと睨み、リンクスは恫喝に近い声音で要請した。

 

「僕は案内しろと言ったぞ」

「は、はい、ただちに……! ただ……道すがらでもいいんで、挨拶をしたいと仰ってる方に……」

「悪いが急いでる、まともに構う暇はないが……それでいいなら会おう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 基地内へと早足に入り、先導する者を追うリンクスの傍にやって来たのは、大人達の中に紛れてしまっていた小柄な少女だ。彼女は付き人である屈強なボディーガードを従えていた。

 おざなりな対応をされた技師や研究者達だが、流石にリンクスの様子から緊急性が高いと察して不満を感じている気配はない。無駄に気位の高い馬鹿がいないようで幸いだ。

 少女を一瞥する。彼女はショートの茶髪に、アーモンドみたいに大きな目をしていた。白皙の容貌は控えめに見ても整っていて、平時なら口説きたくなる美貌である。着込んでいるのも白いジャケットとスカートで、健康的な太腿を映えさせていて、金のチェーンがアクセントを加えていた。見事にファッションと容姿がリンクスの好みに直撃しているが、ハニートラップか?

 

「君は?」

 

 長身で脚の長いリンクスの歩幅に合わせて歩いている為か、早足の少女は話し辛そうだ。だが残念なことに紳士的な態度ではいられない。彼女はやり辛そうに名乗った。

 

「私はフィオナ・イェルネフェルト。BAWS……ルビコンの土着企業の代表、その一人娘です」

「BAWS? ああ……BELIUS APPLIED WEAPON SYSTEMSか。はじめまして、ルビコニアンの君が僕のような一介のパイロットになんの用かな」

 

 いい声だな、可憐だ、なんて雑念を湧かせはしない。

 仕事モードのリンクスの鉄面皮は、異名通り悪魔めいて冷たかったが、少女は気圧されなかった。

 BAWSという名は知っている。エルカノという企業同様、ルビコンに取り残されていた企業だ。アイビスの火という災害が直撃し、あまつさえ惑星封鎖によって星外との交流が途絶えていたせいで技術力はベイラム等よりも遅れているものの、一点突破のキワモノめいた商品を製造することで、なんとか価値を残している。目玉商品の腕部パーツだけは、ベイラムよりも優れていた。

 惑星封鎖機構の一部データを流し、腕部パーツの製造を依頼した、という話は聞いている。その縁を伝いリンクスと接触し、レッドガンへのコネを得ようという腹だろうか? 涙ぐましい営業努力だが、生憎その手の工作でリンクスはハズレと言えた。何せ上に取り次ぐのとか面倒だ、わざわざBAWSの商品を、レッドガン内で紹介する手間を掛ける気はない。

 

「――はい。その()()()()()()()()に用があります」

「……? ……長話は出来ない、要点は?」

 

 一介のパイロット……つまり、リンクス()()に用があるのか。

 面倒だな、と思う。はっきり言って興味がない。

 途端に煩わしさを覚え、早く格納庫に着けばいいと心の中で悪態を吐く。

 

「近々ベイラムは()()を始めるだろう、と我が社は考えております。私達はルビコニアンとして、同胞の暮らしを手助けしたいと考えていて……そこで閣下のお力添えをお願いしたいのです」

「そうかい」

「……あの、閣下?」

 

 雑に相槌を打ち、返答しないで視線を切ったリンクスに、少女フィオナは慌てたようだ。

 あからさまに脈がない。取り付く島もない塩対応。だがへこたれるわけにはいかなかった、フィオナは強引にリンクスの手を取る。

 

「……閣下! 話を聞いてください!」

「? ……ああ、それは無理な相談だ。なんせ目的地に着いてしまった。さようなら、レディ。こんな時でなければ落ち着いて話したかったけどね、縁がなかったと思って諦めてくれ。……後、僕はナンパをするのは好きなんだけど、逆ナンされるのは嫌いなんだ、口説かれたいならお淑やかにしてくれ」

 

 紙切れを、握らされた。

 抜け目ないな。取り合ってもらえない可能性を最初から織り込んでいたか。可愛い女の子に迫られたら邪険にできない、男の性を利用するとは。

 後で暇が出来たら読んでやるか。営利目的の話なら黙殺するが。

 

 ともあれ格納庫について、関係者以外は締め出される。少女とそのボディーガードも同様だ。

 リンクスは早速とばかりに格納庫に目をやった。

 

 ――そこには、『白』がいる。

 

 カラーリングは白を基調に、関節部は赤く塗装されていた。ツインカメラの頭部パーツは厳つく、人の顔に置き換えると整った容貌である。

 全高は通常規格のACより一回り高い。思ったよりがっしりとしたシルエットだが、空戦仕様のスリムな軽量二脚機として見れなくもなかった。背部に背負った見慣れないユニットと、左腕に取り付けられた細長い実体シールドが気になるが……左右のハンガーに吊るされている武装もまた未知のものだ。

 実弾のリニアライフルではない、構造的にレーザー銃だが……多重構造になっているのを見るに、速射型と火力型の機能を兼ね備えた代物だろう。シールドを装着して隠れているが、左腕には既に新型パルスブレードも取り付けられていた。バズーカは――ない。舌打ちしそうになるのを堪える。完成が間に合っていないのか、納期はどうした納期は。

 

「資料を」

「こちらに!」

 

 新しい機体に見惚れることなく、横に手を出すと資料を主任らしき男から手渡される。

 カタログスペックに目を通し速読で暗記した。普段は発揮しない能力だが、真面目にやればこのぐらいはできる男だった。この光景をレッドが見れば怒り狂いそうである。

 頭の片隅でレッドの赤ら顔を想像しながらも命令を出し、資料を片手にパイロットスーツ着用を周りの人間に手伝わせた。一秒が惜しいのである。

 

 ――次世代AC開発計画の基幹モデル。この開発計画とやらの最初の一機がリンクスの機体だ。

 

 『オリジナル』と定義されたこの機体の識別名は、白い新星、ホワイト・ノヴァ。

 人型と戦闘機型の二つの顔を持ち、白い一角馬の名を付けられていた以前の機体よりも、倍近い性能を有した驚異的なモンスターマシンだ。

 

 資料を頭に叩き込みリンクスは満足げに頷く。ベイラムの開発力を過小評価していたかもしれない。惑星封鎖機構の技術を取り込んだとはいえ、丸ごと流用するのではなく独自のものへ昇華しているとは……この分だとミシガン専用の新型ライガーテイル――という名のベイラムのフラグシップ機、ベイラム・バルテウスの完成度も期待が持てそうだ。

 

「コイツはもう動かせるな?」

 

 パイロットスーツの着用が済み、リンクスは傍らの開発主任を見た。

 

「はい、テストも済ませています、問題ありません!」

「仕上がりがよかったら連絡する、その時はテストパイロットを紹介してもらおう」

「はい! よろしくお願いしま――」

 

 最後まで聞かずにタラップを駆け上がる。開かれていたコアに飛び込み、ハッチを閉めるとメインシステムを起動した。オープンチャンネルを開く。

 

『急ぎ足ですまなかった。今度、手土産を持って顔を出す。その時に今回できなかった話をしよう。

 ――ホワイト・ノヴァ、出るぞ! 機体の足元には気をつけろ!』

 

 早口に詫びながら機体を動かす。感覚は、まだ馴染まない。しかし問題にはしなかった、慣熟訓練は実戦の中でもできる自信がリンクスにはあった。

 とにかく、今は一刻も早く帰還しなければならない。護衛としてきていた部下達は先に帰している、それほどまでにリンクスは急いでいたのだ。

 

 なぜならば。先の襲撃部隊にいなかった、アーキバスの強化人間部隊ヴェスパーが、レッドガンの本拠地がある基地に総力を費やし攻撃を仕掛けようとしているという報せが届いたのである。

 

 リンクスの動向は漏れている、だからこその先の襲撃で。そして新型受領を目的としたリンクスには、精鋭による護衛がつくだろうと予想されていた。

 故にV.Ⅱスネイルは、リンクス抹殺が失敗に終わったケースも想定し、戦力の薄くなった基地に奇襲を仕掛ける作戦を立てたのである。

 

 普通に考えたら無茶だ。無謀でしかない。見方を変えれば狂気の沙汰でしかなかった。本拠地には今レッドガンの下位コールサイン持ちと、MT部隊が大勢詰めている。ミシガンもそこにいた。敵対勢力の本丸の防備が薄いわけがなく、敵襲を受けても難なく撃退できるだけの力はあった。

 だがもしヴェスパー部隊による電撃的総攻撃が成功したならば、無視できない損害が出るだろう。スネイルは馬鹿ではなく、切れ者である。味方側からも犠牲が出ると弁えているはずで――しかしそれもやむなしと割り切り、リンクスがいない所で、全力でミシガンの排除を狙っているのなら……捨て身に等しい特攻を受ければ、万が一どころではないほど可能性がある。

 

 ミシガンが危ない。

 リンクスは開戦時に間に合わないだろうが、それは急がないでいい理由にはならなかった。

 

「チッ……ベッドの上で看取ってやるって大口を叩いてるんだ、僕の見てない所で勝手に死ぬんじゃないぞ、ミシガン……!」

 

 恩人が危ないとなれば、リンクスもらしくなく鬼気迫るというもの。リフトで地上に出たリンクスは、可変機構を用い新しい愛機を戦闘機に変形させる。ブースターを吹かし、飛翔した。

 

 しかし――そもそもの話、いったい誰が、リンクスにこの情報を提供したのか。

 

 伝言役を担った若いAC乗りが告げた名前は、()のもの。

 

「――っ? はは、どうしても僕に恩が売りたいのか……!」

 

 基地に急行する中、ふとフィオナという少女に握らされた紙片を思い出し、それを開いて中身に目を通した男は笑いを漏らした。

 要件や連絡先等を書き連ねた()()には、こう記されていたのだ。

 

 

 ルビコン解放戦線  サム・ドルマヤン

 

 

 ――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先に言っておかないと公正じゃない気がしてきたので明示しときます。

オペレーター起用のアンケートは、結果がどうあれ、オリジナル枠以外は全員登場します。しかし既出のオールバニーはともかく、フィオナ、スミカの双方は正式起用されない場合、ちょい役でしかありません。起用されなかったらフィオナは今回のこれで終わり、スミカはテストパイロットとしてちょっと出て終わりです。

アンケート締切は次の話の投稿時。次話投稿がいつかは言えません(予定は未定)

リンクスの専属オペレーターをそろそろ出したい。誰がいい?

  • オリジナル
  • ベイラムMT部隊のオールバニー
  • フィオナ・イェルネフェルト
  • 霞スミカ
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