首輪付きの山猫、赤い銃に繋ぐ   作:飴玉鉛

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飼い犬たちのささやかな交流

 

 

 

 

 

 

『ハッチ・オープン。艦載ACの射出カタパルト展開。

 発進シークエンスに入ります。

 3、2、1……システム・オールグリーン。

 管制よりG3(ガンズ・スリー)――ユー・ハブ・コントロール』

『アイ・ハブ・コントロール。G3リンクス、出撃する』

 

 艦艇より展開されたカタパルトに機体をセットし、発進要請を受諾した機体が射出される。

 全身に掛かるGは殺人的だ。しかしそれを緩和するパイロット・スーツによりGは軽減され、パイロットに掛かるのは心地の良い揺り籠の安寧となった。

 

 装備するのは実弾武装。右腕にはベイラムの製造した火力型リニアライフル『LR-037 HARRIS』を。左腕にはアーキバス系列の企業が製造したレーザーブレード。右肩にはメリニット社の製造した中型バズーカ。左肩にはオーダーメイドの特殊実体シールドをマウントしている。そして機体を構成する胴体、頭部、両腕、脚部はいずれも空戦仕様のスリムなパーツで揃えられていた。

 機体構成、内装は悉く他社の物。ベイラムで開発したものが武装しかなく、社風でいえば到底認められない装備組成(アセンブル)であるが、リンクスは自らの齎す圧倒的な戦果でこのアセンブルを上層部へ認めさせるに至っている。すなわち規律と規則を重要視するベイラムですら、リンクスを例外中の例外――ベイラムのトップガン、エース・オブ・エースだと認定したのだ。

 

管制(コントロール)よりG3! たった今ミシガン総長より追加の注文が来ました!「遠路遥々本社からご足労頂いたエリート様達だ、丁重に、そして盛大に歓迎してやれ」とのことです!』 

『総長殿の声真似が上手いな、レッド候補生。しかし接待(てかげん)は無用とは……困ったな、仮想敵(アグレッサー)として適度に揉んだ後は撃墜判定をもらえと、お客様から注文(オーダー)を受けていたんだが……』

『元々向こうが強引に捻じ込んできた教導任務です。これぐらいのサプライズは織り込んでいてもらわねば困りますし、仕事とはいえレッドガンのエースを墜とされては面白くありません!』

『ハハ、そういうことなら仕方ないな。煩わしい社内政治に巻き込まれては堪らないが、総長殿のご意向とあらば従わないわけにはいかないね。何より可愛い後進に、先達として不甲斐ない姿を晒すのは気が引ける。僕の体面を保つためだ、後始末には付き合ってくれよ、レッド候補生』

『社内政治で忖度はしない、レッドガンの流儀を教え込んでやりましょう!』

 

 威勢の良いオペレーターの台詞を受けて、コア内部でリンクスが笑う。いいね、レッドガンの可愛い後進達を嘲ってくれた礼がまだだったんだ、と。

 機嫌が上向く。上等な首輪を頂いた身だ、尻尾を振るのに抵抗はない。しかし、たまには飼い犬に手を噛まれておかないと、飼い主も躾の仕方を忘れてしまうだろう。特に野良犬上がりの躾は難しいということを……軍用犬は仲間意識も強いのだということを、飼い主に思い知らせてやらねばなるまい。

 

『やあ、親愛なるレッドガンのパイロット候補生諸君。特にイグアスとヴォルタ。どうせ総長殿にこの戦闘ログを見せられているだろう? せっかくだからよく見ておくといい。単機で多数の敵を相手取るなら、装甲越しに敵の殺気を感じ取れ。そして背中に目をつけるんだ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベイラムの核弾頭、アーキバスの悪夢、白い悪魔、首輪付き。

 

 リンクス。様々な呼び名を持つ、レッドガンが誇るトップガンだ。多くの企業、または独立傭兵達が登録する仮想戦闘プログラム『アリーナ』に於いて、堂々のNO1ランカーに君臨し、殆どの敵性企業のバウンティボードに天文学的な懸賞金が設定されている、AC乗り界隈の生ける伝説である。

 恐れ知らずの傭兵を初め、多くの者に命を狙われながら、未だ戦場での被弾0を貫く化け物だ。()()ミシガンのクソ野郎にすら、ACでの戦闘は絶対に避けるべきだと言わしめたらしい。

 リンクスの攻略法はACから降りている時を狙っての暗殺だ。しかしACに乗っていなくても勘の鋭さは変わらない為、リンクスのいる拠点を丸ごと焼き払うレベルでの破壊作戦が必須だと、総長であるミシガンと参謀のナイルは口を揃えているようだが――どれもこれも噂に伝え聞くばかりのもの。実物はどんなもんなのか、高みの見物と洒落込んで。

 

『う、うわぁぁぁ!?』

『嘘だろ、今のが当たんねぇのか!?』

『なんで銃を向けたのはこっちが先なのに、おれが先に撃たれてんだ!?』

『たっ、弾が出ない……?! え、FCSが……!』

 

 噂は一切の脚色なく、掛け値なしの真実なのだと魅せつけられた。

 

 第四演習場を貸し切っての、実戦形式の実弾演習。お相手は本社からやって来た、いけすかない上層部連中の私兵団。いわゆるエリート様たちだ。

 レッドガンのもとに来るなり上から目線は当たり前、下に見た相手には平然と高慢な態度を取り、場合によっては指導と称して手を出してきやがる。

 高名なレッドガン部隊から教導を受けたいと囀った口で、それはもうあからさまに俺達を侮った目で見てきやがった。現にベイラム先進技術開発局から渡された最新型のACに乗り、慣らし運転には丁度良い相手だと影で言っていやがったのをヴォルタの野郎が聞いたらしい。――ふざけた話だ。

 しかしカタログ・スペックを見ると、確かにあのクソ共が調子に乗るのも解るぐらいには、最新ACの性能は飛び抜けていた。旧型機に分類されるACで相手をするのは骨が折れるだろう。

 

 だがそんなものは知らないとばかりに白い旧型機が躍動する。

 

 木星戦争の英雄が魅せる機動はひたすらに疾い。危険なほど薄い装甲は他の軽量機より更に軽く、人が乗ることを考慮していないかのようなブースターの推力は、人型の機体を一筋の箒星に仕立て上げていた。速く、捷い高速機動は巧みでもあり、比喩抜きでその射撃は機械よりも正確だ。

 リンクスに曰く、FCS頼りの偏差撃ちは至極読みやすく躱し易い。機体性能に恃んだ戦術は脆い。カタログに記される機体耐久度――アーマー・ポイントと称されるAPは、あくまでも機体側が相手の攻撃を感知し、機体姿勢を自動制御して装甲の分厚い箇所に被弾させる機能であり、APシステムの癖が解るなら急所へ()()()()()()()()一撃で大破させることも能う。

 余人には模倣不可能で理解不能な超絶技巧だ。如何に火力に特化したリニアライフルとはいえ、ただの一射で的確に敵ACを撃墜していくリンクスは、なるほど確かに悪魔めいていた。

 

「すげぇな……」

 

 戦闘ログを見る隣の相棒、ヴォルタが無意識にか呟く。

 他にいるレッドガンの候補生連中も、魅入られたようにスクリーンを見ていた。

 

 無論演習に実弾は使っていない。撃ち込まれる弾丸のデータで、次々と撃墜判定をもぎ取っている。

 敵部隊が展開する演習場中心の周りを、イカサマめいた機動で飛び回り、激しい弾幕――物量による制圧射撃をすり抜けて。一機、また一機とリニアライフルの一射で撃墜し。敵陣が動揺し守りが疎かになったのを見切ると、即座に敵部隊中枢に突貫してレーザーブレードで目につく奴らから切り捨てる。乱戦に持ち込んでも被弾がない、射線を切り、時に繋げ、自身に弾が当たるタイミングで自身の至近にいる機体を盾にし、相手が搭載するFCSに友軍誤射を誘発するのを防がせ銃から弾が出ないようにしてもいた。これが生身の人間がやってんのかと思うと嫉妬すら湧かない。

 

 リンクスは生身の人間だ。なんの強化手術も受けていない。

 

 強化人間と違って機体と神経接続をしていないから、機体を制御するのにわざわざ操縦桿を握らないといけず。フットペダルを踏まねばならず。機体の齎す情報の大部分を処理できない。

 なのにあの動きはなんだ? 幾ら高性能パイロット・スーツを着て、強化人間並にGに耐えられるとは言っても、動体視力まで上がるわけじゃない。反射神経と思考が融合してもいない。なのにどうしてあそこまで正確に弾を当てられる? なんで相手の隙を見切って斬り捨てられる? 強化人間なら当たり前に持つ能力がない代わりに、もっとえげつない何かを持っているのか?

 

「……マジのバケモンじゃねぇか」

 

 あんな芸当は、本当に未来でも見ているか、敵の思考や敵意、殺意、恐れの反射を感じられないと不可能だろう。装甲越しに殺気を感じ、背中に目をつけても無理だった。

 ぽつりと滲み出たのは畏れ。もうすぐレッドガンのコールサインを手に入れるだろうと目されるイグアスは、優秀だからこそリンクスのAC【ホワイト】の挙動が全く理解できなかった。

 やがて12機の敵AC部隊が全滅すると、優等生達は歓声をあげた。だがイグアスとヴォルタだけは深刻な顔つきで黙り込んでいる。――たとえ自分がどれだけ腕を磨き、経験を積んでも手が届くとは思えなかった。

 

「おい、ヴォルタ」

「おう。テメェと俺で組んで当たるなら、どう落とすかだな」

 

 昔からの相棒に声を掛けると、イグアスの言わんとすることを察したヴォルタが、厳つい貌に思考の色を張り巡らせる。

 出した結論は、イグアスと同じだった。

 

「俺がデカくて硬い機体で正面を張って、盾を持ったテメェが横からチクチクする。そんで俺の砲撃になんとか(やっこ)さんを巻き込めれば――ってとこだな。まあ、テメェか俺のどっちかが瞬殺されないって前提条件があるが」

「チッ。そうだな、認めるのは癪だが、そんだけの差がありやがる。苛つくぜ……ミシガンのクソ野郎も、兄貴分気取りのあの野郎も……っ!」

「とか言いながら、実は()()()()だろ? 安心しろ、俺も待ってる」

 

 したり顔で言うヴォルタを睨みつけると、ニヤリと笑われた。

 くそっ、と短く吐き捨ててイグアスは()()話題は避けた。

 

 戦闘ログの閲覧が終わると堅っ苦しい座学が再開される。レッドガンは腕っぷしが重要だが、頭の出来も鍛えるべきだというのがG2ナイルの主張だ。

 教官の垂れ流す講釈を聞き流し、テキトーに座学の時間が終わるのを待ち続け。そしてその後のクソみたいなシゴキを終わらせ。くたくたに疲れ果てて宿舎に向かうと。

 

「――やっと来たか、待っていたよ二人とも」

 

 見込みのある後進は、密かに贔屓すると宣うエース様が待っていた。

 

「………」

「こいつぁリンクスさん、俺達を待ってたんですかい?」

 

 むっつりと黙るイグアスの横で、ヴォルタがニヤニヤと嫌らしく顔を歪め。

 金髪の天然パーマが特徴の、甘いマスクの英雄様は、二枚のチケットを見せてきた。

 

「過酷な訓練に日々勤しむ優等生には、先達からのご褒美がなくてはね。骨休めで英気を養えば、明日からの訓練も頑張ろうと思えるだろう? ヴォルタ、僕についてくる気はあるかい?」

「へへへっ、そりゃあもう、もちろんでさ。なぁ、イグアス」

「…………」

「イグアス? 君はこれが要らないのかな? なら仕方ない、僕とヴォルタだけで愉しんで――」

「チッ……! いる、いるよ。分かったからさっさと連れて行きやがれッ」

 

 よし来たと笑うリンクスに、ヴォルタもまた嫌らしい顔で笑いながらイグアスを見る。

 苛つく。苛ついて、ヴォルタの脇腹に肘鉄を叩き込んだ。

 ぐおっ、と苦悶の声を漏らして文句を垂れる相棒を捨て置く。そしてリンクスの手から、自分の分のチケットをぶん捕った。

 

 態度は悪い。ガラも悪い。イグアスのその様に、しかしリンクスもヴォルタも怒らなかった。

 

 チケットには――『わくわくベイ太郎』というピンクの文字が踊っていて。つまりはまあ、シモ関連のサービスを受けられる、別嬪が揃ってるいかがわしいお店の優待チケットなのだ。

 イグアスが比較的素直なのは、まあ、つまり、タマを握られたらどうしようもないという、男として実に切実な理由があるのであった。

 

 ――惑星ルビコン3にレッドガンが投入される、実に四年前のワンシーンである。

 

 レッドガンの主観では、平和で穏やか、のどかな日常だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




続きは未定。
好評なら続く。好評じゃなくても続く。つもりモチベ次第。
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