首輪付きの山猫、赤い銃に繋ぐ   作:飴玉鉛

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閑話 兼 AIイラスト込みの紹介。
ルビコンにて本格始動。次回は621達の動向かな。






首輪付きの檻、始動 【※紹介あり】

 

 

 

 

 辞令は下った。

 

 ベイラム専属独立戦闘団を率いるのは、永き時を経ても軍事教本に載り続けるパイロットである。

 

 後に、これまで個人規模で操業していた独立傭兵が参考モデルとし、徒党を組んで『企業』を名乗るようになる、独立傭兵が目指すべき楽園を期せずして樹立させたリンクスは、ここ惑星ルビコン3に於いて始動の歯車を回さんとしていた。――ガレージの備わった輸送艦を母艦に、遊撃部隊として廻ることになる彼は、これが通常運転だとばかりに我儘を言い出したのだ。

 

「常識で考えてもみてくれ。こんなヘボい輸送艦で出稼ぎに回されるとか、普通に無茶だぞ。旧型でもいいから、せめて脚の速い強襲艦を回せ。こんなヘボだと枕を高くして眠れないだろう」

 

 独立傭兵の真似事が新しいお仕事とはいえ、輸送艦如きではいざという時の逃げ足に不安が残る。艦内の設備も必要最小限しかなく、ストレスが溜まって仕方がない、というのが言い分だ。

 是非もなし。ルビコン3に進駐していたベイラムの幹部は、渋々彼の要求を呑んで強襲艦を手配してやることにしたのだが……リンクスとの付き合いが無いに等しいその幹部は知らなかった。一度我儘を聞いてしまえば、リンクスは図に乗って更に我儘を言い出すということを。

 

「オート機能で運行させるとか馬鹿なのか? 艦長以下、操舵手も含めた船員も出せ。それに実働部隊が僕とラスティだけとか、船の防衛をおざなりにし過ぎだ。防衛には数がいる、せめて後もう一機ACを寄越してくれないと話にならない。確実な仕事を求めるなら、相応の支援をして然るべきだろう?」

 

 AC一機に腕利きのパイロット、強襲艦を運用するに足る人員を寄越せとリンクスは要求する。企業勤めには類を見ない厚かましさに幹部は頭を抱えた。

 

 レッドガンは半壊している、これを立て直して運用するにはレッドガンから人員は出せない。しかしだからといって要求を却下することもできなかった。

 本社から、可能な限り要求を呑めと密かに命じられていたからだ。

 ベイラムはミシガンとナイルの提言を受けてリンクスの素行を纏め、首輪の役目を果たしていたミシガン亡き後の顛末を試算した結果、最悪リンクスが離反するリスクがあると理解した。

 だがしかし、リンクスの粛清、暗殺の難易度の高さは、奇しくも宿敵アーキバスが散々見せつけて証明してくれている。故にリンクスを排除しようとするよりも、ミシガンらの提言通りにして、()()()()()()()を用意した方が利益を望めると判断していたのである。

 

 白い悪魔に対して、軍事を専門とした子会社にポストを用意し、それを檻にするのだ。

 

 件の子会社には、本社から人員を出向させて運営させる。そうすればそちら方面に関心がないリンクスを制御するのは容易になると見たのである。

 

 元より惑星ルビコン3は、封鎖機構のせいで本社からの干渉が難しい。せっかく放し飼いにして、変則的な檻に入れる算段を立てたのに、変にリンクスの勘気を買っては意味がない。奴の我儘を受け入れてやるのは今だけだ、だから今だけは可能な限り要求を聞いてやれ――と、本社から命じられている幹部は胃を痛めて、頭の毛根に深刻なダメージを負いながら言うしかなかった。

 再利用可能なACは回す。だがパイロットはどうにもならない、そちらでどうにかしてくれ、と。本当にどうしようもないから裁量を投げつけたのだが、これがリンクスの琴線に触れた。

 

「いるじゃないか、今すぐ実戦に出せるレベルの精鋭が」

 

 どこにと言われたら、答えは()()()()()()()()()()にあった。

 

 苛烈を極める拷問、尋問に晒され、薬漬けにされて廃人コースまっしぐらの者達――ヴェスパー部隊迎撃にて捕虜とした、アーキバスの部隊長達である。

 V.Ⅵメーテルリンクと、V.Ⅶスウィンバーンだ。

 リンクスは会計担当だというスウィンバーンの身柄を求めたが、残念なことに彼は手遅れだった。情報を絞れるだけ絞り尽くした後、肉体そのものがアーキバスの技術の結晶である為か、研究室に回されてすぐに解剖され、脳に電極を突き刺されマッドサイエンティスト連中の玩具にされてしまっていたのだ。

 メーテルリンクも間もなく同じ末路を辿る寸前であり、解剖と実験が後回しにされていた分、悍しい拷問を一身に受けていた。リンクスが顔を出した時には、ほぼほぼ廃人になっている。

 

「これは……使い物になりそうにないか?」

「副長閣下が再利用をお望みなら、この程度まだどうとでもなりますよ?」

 

 余りの惨状に顔をしかめたリンクスに、マッドサイエンティストがしたり顔で答える。

 アテが外れたと思ったリンクスは、研究に取り憑かれた狂人の言い分を聞いて目を瞬く。

 

「……()()が、かい?」

「ええ」

 

 口にするのも憚られる惨状のメーテルリンクに、リンクスは毛筋の先程も同情していない。こうはなりたくないな、捕虜になるぐらいなら自決もやむなしだと思うだけである。

 所詮は敵だ。こちらの仲間を山ほど殺してきて、隊長の身分に出世しているだろう強化人間に、仏のようなお優しい心で救いの手を差し伸べるほど間抜けではない。打算しか彼にはなく、使えないなら地獄に放置して帰るつもりだった。故にまだどうとでもなると嘯く狂人に、無言で台詞の続きを促したのだ。

 

「脳、脊髄、神経、内臓、骨密度、遺伝子配列、神経接続部、全て調べ上げましたからね。再生治療を施せば復元するのも容易いですよ。問題は復元後、洗脳をするには高強度の施術を求められることですかね。人格を弄り過ぎれば、言われたことしか出来ない木偶の棒になりかねません」

「なるほど……? ……なら、そうだね。物は試しともいう、今すぐこれを起こしてみてくれ」

「え? まあ……そう仰るなら起動しましょう」

 

 手術台に括りつけられ、白いビニールシーツを被せられて、顔だけが露出している女がビクリと痙攣する。狂科学者が設備のスイッチを入れたのだ。

 薄っすらと目を開いたメーテルリンクが、きょろきょろと目を動かす。そして現状を思い出したからか、絶望の余り目から光を消してしまう。かすかに涙を流しながら、目を閉じようとした。

 だが、そこにリンクスが身を乗り出し声を掛ける。

 

「――なんてこった。こんな、酷い……あんまりじゃないか!」

 

 棒読みである。演技レベルは最低だろう。だが、その声に反応して目を開いたメーテルリンクに、リンクスは優しげに話しかけた。

 

「君はメーテルリンクだろう? 僕はリンクスだ、君も知っているんじゃないか?」

「………」

「ああ、今は僕の素性なんかどうでもいい! それよりメーテルリンク、僕は君を助けたい。君のような優秀な人材が、こんな形で失われるなんて見過ごせない損失だ!」

「………?」

 

 意味が分からないのか、メーテルリンクは混乱したように瞳を揺らす。

 だが彼女の反応には構わず、独り言のように言って聞かせた。

 

()()()()()()、こんな所に何を隠しているのかと思ったが、悪名高いファクトリーだったか。君は覚えてるか、メーテルリンク。君は先の戦いで撃墜され、僕達レッドガンの捕虜になったが、お偉方の交渉の結果()()()()()()()()()()()()。君がここにいるのは……おそらく、捕虜になったという汚点を持つ君を、資源として有効に使おうとしたからだろう」

「……? ……!?」

「僕は今、レッドガンから離れて遊撃作戦に従事している。君を見つけたのは偶然だが……もしよければ僕と共に来ないか? ああ……返事は今は要らないよ。とりあえず君を此処から助ける、再生治療も施そう。返事はまた今度、君が回復してからでいい」

 

 言うだけ言って、リンクスは後ろに回した手で指示し、再びメーテルリンクを眠らせる。

 狂人は嗤っていた。

 

「ああ……()()()()刷り込みですか。ちんけですが、まあまあ有効ではありますね。しかし確実性には乏しい、もし目を覚ました後に刷り込みが効いてなかったらどうなさるおつもりで?」

「その時はその時だ。使い物にならないなら、僕の関知するところじゃない」

「まるで悪魔ですねぇ……」

「君らに言われたくない。比較すれば僕は悪魔どころか救いの神だろうに」

 

 全くですな、と狂人は嗤う。

 言葉だけの簡単な刷り込みが効いているかどうかは、次回意識が覚醒した時に、脳波を観測しながらの質疑応答を繰り返せば直ぐに分かる。

 まな板の上の鯉だ、心理を丸裸にしてモニタリングするのも簡単だった。

 

 リンクスは冷徹な目でメーテルリンクを一瞥すると、狂人に命令する。

 

「じゃあ、後は任せた。僕は出張に出るための準備で忙しいからね、三日後にまた来るからそれまでに調整していてくれ。ダメそうなら諦めるよ」

「承知しました、副長閣下」

 

 

 

 ――果たして、メーテルリンクは()()をクリアした。

 

 

 

「リンクス閣下……お願いします、私を貴方の下に置いてください。そして、アーキバスとの戦いに是非役立ていただきたい……!」

 

 再生されて五体満足に回復した女の目は、リンクスへの巨大な感謝と思慕、忠誠を宿していた。そしてそれを凌駕するほどに、自身を捨てたばかりか、弄んだ古巣への憎悪に燃えていた。

 リンクスが横目に見ると、狂人は片手でオッケーと、剽軽な仕草で応える。計器の反応に嘘はない。そしてリンクスの目から見ても嘘偽りはなさそうだ。

 この手の刷り込みは単純だが高い効果を発揮する。遥か昔の文明と異なり解ける可能性も殆ど無い。万が一刷り込みが解けてしまえば粛清するしかないが……当座を凌ぐには十分だ。

 

「歓迎しよう。メーテルリンク、君はこれから僕達の仲間だ」

 

 微笑んでメーテルリンクの手を握り、今は安静にしていてくれ、リハビリが終わる頃に迎えに来ると告げて、清潔な病室から退室する。

 これでアーキバスより遥かに人道的で、仏のように優しい措置なのだから笑えない。なんせ脳を弄り回して薬を投与しているわけではないのだ。死地にある人間心理を利用しただけである。

 

「終わりました?」

 

 通路で待っていたオールバニーが、興味なさげに訊ねる。

 

「ああ。当面は何事もなく使えそうだよ。最低でも代わりを見つけるまでの繋ぎにはなる」

「よかったですね」

「……ハァ。嫌な仕事につき合わせて悪かった、一杯奢ろう」

「要らないですよ。こんなんでどうこうなるほど柔な神経してないんで」

 

 スーツ姿のオールバニーは、冷淡にアーキバスの強化人間のいた病室を一瞥する。

 彼女もまた、一片たりともメーテルリンクに同情心を持っていなかった。

 この業界で、企業間闘争の敗者は、人道的な末路を辿る者の方が珍しい。寧ろありふれた惨状から救い出されただけ、メーテルリンクは奇跡的なまでに運が良い方だ。

 

「そんなことより副長――いや、隊長。アンタの率いる部隊の名義、考えといてくれました?」

 

 怨敵アーキバスの強化人間がどうなろうとも知ったことではない。オールバニーの関心は今、自らが負わされている仕事にしか向いていなかった。

 オールバニーと肩を並べて歩き出しながら、リンクスはドライな態度の部下に微笑む。

 

「激務に励む勤勉な部下を、早く労ってあげたいからね。名前ぐらいはもう決めてるよ」

「ならさっさと教えて下さい。それと、労ってやるってんならこの後も手伝ってくれますよね」

「もちろん。そろそろ出て行けってケツを叩かれてもいる、手伝うさ。――ああ、部隊名はこれだ」

 

 ツカツカと硬質な軍靴の音を病院の通路に奏でながら、リンクスは言った。

 

「ベイラム専属軍事会社『ナインボール』の前身となる、独立戦闘団――『カラード』だ。

 結構いい名前だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ベイラム専属軍事会社『ナインボール』

 ベイラム子会社として創業された、軍事活動全般を請け負う民間軍事会社。現在はその雛形、前身として独立戦闘団『カラード』を名乗る。

 子会社として成立した場合、主戦力となるACは10機、部隊長は2名を想定している。ナインボールとは本来、ビリヤードのゲームの一つ。プレイヤーが2人でカラーボール9個、手球1個を使用するもの。戦闘団の規定人数はこれに由来したもの。AC乗り以外の部隊員には別の名前を用意してある。

 『ナインボール』の前身、独立戦闘団『カラード』にはランクが付けられており、ランク1からランク10までで数字の小さい側が高位に位置づけられる。作中だとベイラムの子会社に過ぎないが、時代が下ればやがて本当に独立し、自分達の利益を追求するAC乗りの楽園的な企業となるかもしれない。

 

 

カラード・ランク1:リンクス

 搭乗AC:ホワイト・ノヴァ

 

【挿絵表示】

 

 首輪付きの獣、一人軍隊、白い悪魔――等、数々の異名で知られ、当代最強のACパイロットと目される男。レッドガンの№2であり、コールサインG3を有している。

 乗機ホワイト・ノヴァは次世代ACの『オリジナル』として設計され、戦闘機形態、人型形態の二つの機構を備えており、如何なる環境下でも規格外の機動力を発揮する。

 なおリンクスは顔と戦闘技能だけが取り柄であり、人格に多大な問題があった。本質的に自由人である為、企業にとって飼いづらい危険生物だったのだ。

 首輪として機能したミシガンがいなくなった後、彼をどう制御したものか悩んだ上層部は、リンクスに子会社という名の檻を用意することを決定。そうして獣の檻『ナインボール』が創業された経緯もあり、本社から出向して子会社を運営する者達は長年に亘り胃痛に悩まされることになる。

 『カラード』の実働部隊の隊長としてルビコン3で始動したが、直属の部下が余りに少ない為、現在は肩書だけが先行しているのが実態だ。急募、リンクスの首輪。

 

 

カラード・ランク2:ラスティ

 搭乗AC:スティールヘイズ

 

【挿絵表示】

 

 ルビコン解放戦線からのスパイ、生粋のルビコニアン。レッドガンが公募した徴兵に応じ、短期間で正規隊員にまで上り詰めた精鋭。コールサインG9を有し、その戦闘力はリンクスに次ぐ。

 乗機スティールヘイズは、リンクスの前機ホワイトユニコーンの同型機ではあるが、武装や内装などの細部は異なっている。高速機動戦と狙撃を得手とする、まだまだ発展途上の大器だ。

 ゆくゆくは『カラード』にて、もう一人の隊長へと期待されているものの、彼を取り巻く大望やしがらみが関係し、どのような顛末に至るかは不明。

 

 

カラード・ランク3:メーテルリンク

 搭乗AC:インフェクション

 

【挿絵表示】

 

 元アーキバスグループ強化人間部隊、ヴェスパーの第6隊長。『ヴェスパー部隊迎撃』に於いて、ラスティとイグアス、ヴォルタに挟まれ、スウィンバーンと共に撃墜されて捕虜にされた。

 強化人間の第8世代であるメーテルリンクは、旧世代型強化人間を完全に無価値化したと評される新世代の一人である。その為、彼女と同時に捕虜になったスウィンバーン共々、ベイラムの研究室で解剖され、徹底的に強化手術などの情報を抜き取られた後は廃棄される未来が待っており、苛烈な尋問、拷問で摩耗していたメーテルリンクは、リンクスからの勧誘に応じた。

 彼女は元々社命に対して忠実で、慎重な性格も手伝って安定した戦績を残していたのだが、尽くしていた相手から捨て駒にされたことで忠誠心の向け先を失っており、新たに上官となった命の恩人のリンクスに忠誠を誓った。強くて顔のいい上官とか最高では? などと血迷っている。

 

 

独立戦闘団『カラード』専属オペレーター:オールバニー

 

【挿絵表示】

 

 元レッドガンMT部隊のエース格。ヴェスパー部隊のエースパイロット・フロイトに撃墜され、死にかけたことがトラウマとなっており、MTに乗ることができなくなってしまった。

 リンクスの勧誘に乗って彼の専属オペレーターになったが、その直後にリンクスが『カラード』へと転身したことで強制的に移籍させられる。現在はリンクスだけではなく、ラスティやメーテルリンクのオペレートも熟さねばならなくなり、その他の事務仕事も任されるという激務の海を航海させられている。リンクスの勧誘に乗ったことも後悔している。

 しかし元々、何度かリンクスのオペレーターを勤めた経験が有り、元MT部隊のエース格に相応しい体力がある為、なんとか役目を果たせてしまっているのがオールバニーの悲劇だった。

 

 

 

 

 

 

 




やっとこさ舞台が整った。
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