『独立傭兵各位。揃っていますね? これよりブリーフィングを開始します。
依頼主はアーキバス・コーポレーション。私はヴェスパー部隊次席隊長、スネイルです。私の立てた作戦行動に参加できること、光栄に思いなさい。
目的はベリウス南部にある、一見なんの変哲もない汚染市街に隠されていた工廠で、小賢しくも極秘裏に開発されていたテスターACの破壊です。
ベイラム専属AC部隊、レッドガンに供与される予定のこの機体は、惑星封鎖機構から接収した技術を盛り込んでいるという、次世代ACとまで謳ったベイラム肝いりの先行配備機になります。
愚鈍なベイラムは、この機体の情報が我々に漏れていると今更察知したらしく、救援部隊を編成し出撃させていますが、そちらは我々の部隊が抑えているので無視して頂いて結構です。
なお標的に搭乗しているパイロットは、ルビコン土着の企業エルカノから出向し、ベイラムに引き抜かれた腕利きらしい。識別名はセレン・ヘイズ……所詮辺境の星で調子に乗っている、田舎者の駄犬に過ぎませんが、人に噛み付く牙は持っているでしょう。油断して咬み殺されることがないように。
それから敵救援部隊とは別口で、あるAC部隊が作戦領域に急行中との情報を掴んでいます。
件の部隊は、独立戦闘団カラード。レッドガンが編成した、忌々しい山猫が率いる遊撃隊です。しかし幸いなことに、G3リンクスはルビコン解放戦線の重要拠点、通称『壁』を単機で襲撃中なので不在が確定しています。となれば必然、そちらへ向かっているカラードの面々も割り出せる。
――邪魔者はG9ラスティ、裏切り者の元V.Ⅵメーテルリンクでしょう。
部隊長の山猫は、今頃ルビコニアンを踏み潰すのに忙しくしており、喩え彼が反転し急行しても間に合いはしません。しかし裏切り者は兎も角、G9は手強いと聞く。我々の方で足止めこそしますが、いつまでも止められる保証はありません。ですので貴方達には速攻を仕掛けてもらい、早期に目的のACを破壊していただきたいのですが、念には念を入れ協力機との協働を提案します。
こちらから派遣する協力機は、V.Ⅰフロイト。我々ヴェスパーの首席隊長が出たいと言うので差し向けましたが、協働するかどうかは最終的にそちらの判断に任せます……説明は以上です。
貴方達独立傭兵にとって、これはアーキバスとの繋がりを強くする好機。報酬は相応のものを用意している、そちらにとっても悪い話ではないでしょう』
アリーナ・ランク4と、ランク6がいる為か、スネイルは普段の嫌味な物言いは控えていた。
内心では見下しているだろう。だが今のアーキバスは一人でも多くの腕利きを欲している。特に独立傭兵の起用担当にまでヴェスパー部隊の№2が出向いているのだ。スネイルは殺人的な仕事量を捌く為にも、腕の立つ独立傭兵には人材公募プログラムへの参加を呼び掛け、正式にヴェスパーへの入隊を認めるとまで言っているという。要するに最低限の事務仕事を覚えたら、卑しい独立傭兵でも部隊長の一人に迎え入れると言っているのだ。破格の対応である。
後方で育成中の訓練生達が育ち切るのを、気長に待てない状況なのだ。必要なのは未来に活躍する精鋭ではなく、今すぐ使える即戦力ということだろう。
スネイルの頭にあるのは、独立傭兵時代のリンクスをみすみす逃し、よりにもよってベイラムに獲られた無能な前任者の失態だろう。スネイルには『猟犬部隊』を使い潰す気はなく、今後も仕事を依頼する気は大いにある。少なくとも今は、目的の為に利用するには最適な精神状態にあると見ていい。
今回のこの仕事を取ってきたウォルターは、猟犬達の気を引き締めるように言った。
『ルビコンでの表向きの実績はないが、ライセンスの高名さに目をつけてきての依頼だ。粗末に扱われはしないだろう……だが、不測の事態を予測しろ。確実に仕事を果たし、戻ってこい』
ウォルターの指示に頷き、輸送ヘリから降下する。キングとシャルトルーズのACがすぐ近くに着地するのを待って、レイヴンはメインシステム戦闘モードを起動した。
コモン・レイヴン――強化人間C4‐621の駆るACナイトフォールは、本物の『レイヴン』の物とは異なるアセンブルをしている。
頭部はRaDの開発した探査AC向けのパーツを改修した、完全戦闘向けリビルドのカスタムパーツ。コアパーツはベイラムの開発したカスタム品だ。基礎フレームを軽量化し、部分装甲で補うことでより実戦的な仕様になった物である。腕部もベイラムのカスタム品であり、脚部は空力特性の研究に多大な蓄積を有する、シュナイダーが開発した逆関節の軽量二脚パーツである。
全体を見れば高速機動戦に主眼を置いた、空戦適性の高い外装だ。内装にはミサイルやバズーカの弾頭に影響するFCSと、アーキバス製のジェネレーターを載せており、コア拡張機能は『アサルトアーマー』を採用して攻撃的なスタイルに仕上がっている。搭載している兵装は火力型リニアライフル、星外で購入した射突型ブレード、中型バズーカ、小型二連双対ミサイルだった。
黒く塗装した機体ナイトフォール、これがレイヴンの乗機である。
『――レーダーに感あり。ACサイズの高熱源体が、高速で作戦領域に入りつつある』
強化人間C4‐619――少年、シャルトルーズが言う。C4‐617キングが呟いた。
『ヴェスパーのエースか? 聞いていた話より早いな』
『行こう、みんな。仕事がなくなったら困る』
レイヴンはそう言うなりブースターに火を灯して、返事を待たず
作戦領域に入る。アーキバスに情報が漏れたという報せを受けていたのか、標的はすぐに彼らの接近に気づいた。標的の機体はブリーフィングで確認していたが、その性能は未知数。外見は中型規格のもので、ブレードらしきものはかなり大型だが……それを右腕に装備しており、左肩にパルスシールド発生器をマウントしていた。盾で身を守りながら剣で斬る戦型か?
間もなく戦闘開始となるが、その直前に通信が入った。北を12時としたら、レイヴン達は8時の方角から作戦領域に突入している。通信を入れてきたのは4時の方角から来た漆黒の機体だ。
『お前達が猟犬部隊か。初回限定の戦友で終わらないでくれよ? お前達がランクに見合った腕なら、今度暇を見つけて遊びに誘いたいからな』
試すような、上から見るような、不遜で不敵な台詞。しかしそこに傲慢さはなく、むしろ新しい玩具のカタログを見て、どんなものなのか興味を示す子供のような純粋さがあった。
戦意はある、しかし殺気はおろか悪意がない。純然たる私利私欲、趣味を愉しむエンジョイ&エキサイティングの精神に満ち溢れた、狂気的で無垢な意思の表象だ。強化人間ではないというのが信じられない、人として何処かが破綻した人間性の持ち主である。それに触れたレイヴンだったが、彼女はエスパーでもなんでもない故に、機械仕掛けの人形の如く完全な無表情で返した。
『うるさい。邪魔しないで、ヴェスパー・ワン』
『ん、女……? 邪魔するなと言われたのは初めてだ……面白い。お前、名前は?』
『レイヴン』
『レイヴンだと? ……まあいい。どちらが先に獲物を墜とすか、競争といこうじゃないか』
『負けない』
戦場で女の声が聞こえたら、普通なら多少は反応を示すものだろう。戦場は男の世界だからだ。
だがV.Ⅰフロイトは戦場に於いて性別で相手を区別していない。純然たる力量のみを注視する。侮りはおろか蔑みもなく、レイヴンに競争を持ちかけて、彼は獲物へ迫らんとした。
だが、フロイトは不覚にも、レイヴンに見惚れてしまう。
――フロイトの人生は充実している。毎日が全盛期で、毎度の明日が全盛期の更新日だ。目指す頂きが明確に存在しているから、どんな環境でも研鑽を積むのが楽しくて仕方ない。
フロイトの進化が止まらない理由はそこにある。努力の道を塞ぐ才能の限界を含め、汎ゆる障害を目標到達に至るまでのミニゲームとしか捉えないメンタルが、彼の成長を促進し続けていた。
彼に挫折の二文字はないのだ、心が折れることなど決して無い。
万人が果てのない研鑽に摩耗し、疲弊して妥協を噛み締めるのだとしても、そんなものでフロイトという精神的超人が研鑽を止めることなど有り得なかった。
貪欲に、上達を図るのだ。その為に精力的に仕事に励み、路傍の石に過ぎないはずの独立傭兵からもヒントを得られるかもしれないと注視する。奇しくも悪魔のような山猫の存在が、フロイトをここにはいないスネイルにとって理想的な最高戦力に仕立て上げていたのだ。
そんなフロイトの目から見て、レイヴンと名乗った傭兵は――後続の味方を取り残す勢いで疾駆する狂犬は――
シンパシーだ。どこかのエスパーみたいな直感ではない、そんな化け物のような超常的感覚はフロイトには一寸たりとも備わっていなかった。彼は徹底して人間である、強化人間でもない天然自然の人間なのだ。ただ時代に冠たる資格を持つ、稀代のエースと称されるに足る器の持ち主でしかない。
フロイトはレイヴンの機体の僅かな挙動で見抜いたのだ。経験と実力が掛け合わさった観察眼で、彼女は機体の姿勢制御のオート機能を使っていないと。マニュアル操作で動かしている、と。
強化人間は神経接続端子を肉体に備えており、搭乗した機体を自在に操れはする……しかし個々人の力量がダイレクトに反映されるのは、天然の人間も強化人間も変わりはない。脳に送り込まれる情報量が膨大過ぎるあまり、如何な強化人間とて煩わしい部分は機体のオート機能に頼らざるを得ないのだ。
故に、機体を完全なマニュアル操作で動かす者を、フロイトは今まで二人しか知らなかった。それはあの白い悪魔であり、生ける伝説へ手を伸ばした自分である。そこにたった今、もう一人が追加されたのだ。フロイトがレイヴンへ対する好奇心を、強烈に刺激された瞬間であった。
『堪らない匂いで誘うものだ……! 獣の狩り、堪能させてもらおうッ』
僅かに見惚れた一瞬で突き放され、レイヴンの背を追う形になったフロイトは笑みを浮かべた。
だが、ここは戦場。味方がいれば敵もいる、猟犬部隊とアーキバスのトップエースに狙われた憐れな標的にも、戦うための力があった。
『緊急ミッション開始。敵AC部隊を迎撃する。……出来るかだと? 出来なければ死ぬだけだ。だが私が死ねばお前達も死ぬ事を忘れるな。仕事を急げ、長くは保たせられん』
先行配備型テスターAC、開発コード『シリエジオ』がメインシステム戦闘モードを起動した。
所詮はアリーナにも登録されていない木っ端と侮るなかれ。テストパイロットとしてアサインされているのは、リンクスの新型ACの調整も務めた凄腕である。この場に知る者はいないが、彼女は惑星封鎖機構に属していた過去を持ち、脱走してエルカノに流れ着いた身であったのだ。
彼女は封鎖ステーション上で白い悪魔に乗機を大破させられ、ベイラムに機体ごと捕獲されたが、秘密裏に取り引きを交わしてエルカノに潜入した。そしてベイラムとの同盟締結に貢献し、ルビコンに於けるベイラムの勢力基盤を固める一助となっている。そんな曰く付きの精鋭だからこそ、封鎖機構の技術を盛り込んだ機体のテストパイロットが務まっているのだ。
――だが、それは猟犬達と天然の超人には関心のない話である。
敵なら殺す、獲物だから狩る、それだけだ。
無名の女傑はパルスシールドを展開した。既存のACにはない、高性能ジェネレーターから供給されたエネルギーにより、一瞬で臨界に達したシールドの強度はアーキバス系列のお株を奪う。
如何なる兵装による火力の集中を受けようとも、そう簡単には突破できない盾だ。アサルトブーストを止めて、リニアライフルの銃口から火を吹いたレイヴンは、続け様に射出したバズーカの弾頭までも完全に遮断した盾の強度に目を細める。めんどくさ、と味気なく呟いた鴉が羽を広げた。
シリエジオは右腕の大型パルスブレードを発生させる。レイヴンの射突型ブレードの倍は長い刀身だ。それでいて目に見えるほど威力に格差があるのに、常時展開する規格外さである。後方に下がりながら長大な刀身を振り回し、羽ばたくように迫る敵機を牽制しながら、射撃の類いは巧みに盾で受け止める。露骨に時間稼ぎを目的とした立ち回りだった。
(救援を待ってる? ……違う。これ、勝機を探っての耐久戦だ)
無言で急接近を試み、シリエジオのブレードを掻い潜ろうとするも、機体性能の差にものを言わせた新型は簡単には距離を詰めさせない。逃げ腰なようでいて、しっかり間合いを保ってみせる敵機にレイヴンは舌打ちする。前進する自分より、後退する敵機の方が速いとは……こうまで機体性能に差があると、流石に向こうから攻撃がなければ距離を詰められない。
盾が厄介だ。不幸にも大型ブレードしか武装がないらしい敵機は、盾で身を守ることで射撃戦を拒んでいる。あれさえなければ撃墜できる、気長にEN負荷を加え続けるしかないか? そう考えたレイヴンだったが、無理な追走は諦めた。一人では逃げ腰の敵機に触れられない……そう、一人なら、だ。
『つまらん真似は
レイヴンに追いついたACロックスミスが、レーザードローンを射出した。
正面を向け続ける敵機の盾は、そう簡単には抜けそうにない。ならば正面以外から火力を叩き込めばいいのだと、フロイトはシンプルイズベストと言っているかのように対処する。
フロイトの選択は単純故に強力だ。
瞬く間に自機を囲むドローンを見て、女傑は舌打ちしながら機体を操る。
背後、左右、上、三基ずつ挟んできたドローンが放つレーザーを、装甲で受け止めて最小限の損耗で凌いでいった。――だがドローンに気を取られれば、二人のエースへの対処が甘くなるのが道理というもの。レイヴンとフロイトに左右を挟まれ、火力を集中されたテストパイロットは呻き声を漏らした。
『クッ……
パイロットとしての技量で、明確に上を行く敵が二人。装甲の厚いこのテスターACでなければ、既に三回は撃墜されているだろう。
腕の良さは前提として、持ち前の気力と機体性能、そして分厚い装甲のお蔭で辛うじて保っている。だが女傑は焦りを隠せていない。彼女は現状を把握していたからだ。
自機を削る敵機は危険な相手であり、片方の火線をシールドで防ぎ切れたとしても、もう片方からの攻撃は回避機動でしか対処できず、猛攻を加えられている最中ともなれば、縦横無尽に空を駆けるレーザードローンへ対応できない。こちらから反撃に出る隙もなかった。
フロイトとレイヴンの、まるで熟練の僚機同士による連携に抑え込まれ続けている。そして更に状況は悪化の一途を辿った。到着したキングとシャルトルーズが攻撃に加わったのである。
フロイト、キング、シャルトルーズ、レイヴン。悪夢のような陣容だ。世代を隔てたレベルの機体に搭乗していて、我武者羅に逃げへ徹しているから生きながらえているが、もう無理だ。
装甲が割れる。削られる。
実弾で、レーザーで、弾頭で、ミサイルで。
遠巻きに、狩りの対象にされながら、確実に仕留められようとしている。
だが、孤軍奮闘する女傑の力戦は報われた。
『――待ち侘びたぞ! こんなものを繋げて喜ぶ、変態共が!』
通信が入ったのか。
シールドが負荷限界を迎え消失した瞬間だ。獰猛に飛びかかったレイヴンに対し、無名のテストパイロットはチャージした大型ブレードを横振りする。ただでさえ長大なそれが、更に倍近く伸長されて迫ったのを、レイヴンは新体操選手の如く跳躍し、
『
半ばから溶断された大型ブレードを
しかしこれすらも通常規格のものではない。接近を試みていたレイヴンとフロイトは、これがアサルトアーマーによる衝撃波だと判断して後退したのだ。そしてそれは間違いではない、実際にアサルトアーマーに等しい衝撃が発生しており、展開されたそれに触れれば大ダメージを負っていただろう。
『何……!』
『これッ……!?』
『惑わされるな、レイヴン。奴が逃げるぞ!』
展開を終えても残留する防壁に、これがアサルトアーマーとパルスプロテクションの機能が融合した代物だと見て取り驚愕したレイヴンへ、キングが鋭く指摘する。果たしてACシリエジオは背面の噴射口からエネルギーを噴射し、全力で殺し間から離脱する動きを見せていた。
遠間から援護射撃に徹していたこと、展開されたのがパルスプロテクションであること、以上二つの理由から追撃が難しいキングとシャルトルーズは、近くのレイヴンに任せるしかなかった。
既定プランだとキングとレイヴンで抑え、シャルトルーズの遠距離砲撃でケリをつける予定だった。だがフロイトという想定以上の実力者が、即興で抜群の連携力を発揮したのが誤算である。腕が立つだけではなく、レイヴンと隙のないコンビネーションを組まれたら、どうしてもキング達の差し込む支援射撃が薄くなるのだ。そしてレイヴンの機体でも新型の敵機には追いつけない。
『
追撃を振り切ってシリエジオが向かったのは、一際大きな屋根付き工場。その屋根を乗機の重量を乗せて蹴り砕き、砂塵を巻き上げて着地すると、すぐさまそこにあった本命に機体を繋ぐ。
まだ技師が残っていたのだろう、それらに撤退しろと怒鳴りつけ、セレン・ヘイズは勝機を掴んだ手応えに精神的余裕を取り戻す。今まで逃げ回っていたのは、ひとえに本命の調整が終わっていなかったせいである。
砂塵が晴れる。シリエジオを猛追してきたレイヴン達が見たのは――
『………!』
『ほう、これはまた結構なデカブツだな』
惑星封鎖機構の特務機体カタフラクト、その改修機である『ガンズ・カタフラクト』だ。
小型戦艦の如き陸戦最強兵器は、元々堅牢だった装甲に部分装甲を足し、過剰なまでにキャノンやミサイルを取り付けている。正面以外は破壊は困難な構造なのに、この巨大戦車を動かすコアの役割はシリエジオが果たすのだ。正面の弱点を、強力なパルスシールドで防ぎ、シールドを破壊されても長大なパルスブレードで応戦できる仕組みになっている。歩く地獄考案の極悪仕様だ。
勝てる! いや、勝つ! セレンはここまで好き勝手やってくれた礼をしてやると気を吐いて、陸戦最強の赤い兵器ガンズ・カタフラクトを――
『………は?』
――稼働させられなかった。
陸戦機動追加装甲ユニットに不備はない。だが、彼女のシリエジオは余りに多く被弾しており、追加ユニットと接続する為のパーツが破損していたのだ。
呆気に取られたセレンだったが、すぐ我に返る。しかし詰みだ。
追加ユニットに接続したせいで、まともに動き出せず、高速で迫る敵機の群れへの対処ができなかったのだ。向けられる四機の銃口。死を悟ったセレンであったが、しかし天は彼女に味方した。
『――お前達! 後ろだ!』
猟犬達の飼い主が警告を発したのだ。咄嗟に反応してのけた猟犬達は流石の反射神経である。凄まじく精度の高い遠距離狙撃がキングの機体を掠めたが、飼い主の警告がなければ直撃していた。
『――こちら独立戦闘団カラード所属、G9ラスティだ。
聞こえるか、テスターACのパイロット』
通信を入れながら飛翔するのは、蒼黒の軽量型ACだ。僚機を務めるメーテルリンクもいる。続け様に放つラスティの射撃の精度と巧みさに、猟犬達は標的への攻撃を一瞬断念させられた。
『――救援か! こっちはダメだ、機体が動かん!』
『なら機体を捨てて撤退しろ。機械はまた作れるが貴女の代わりはいない。正しい判断をしてくれ。離脱するなら敵はこちらで引き受けよう、貴女が逃げ切るまではどうにかしてみせる』
『……この恩は必ず返すぞ、G9ラスティ!』
セレンはすぐさま機体から飛び出した。追加ユニットの内側にある、脱出用ポッドに乗って地面に落下していき地面を疾走させた。
離脱していくセレンを見送ることもなく、狙撃を続けながら敵に接近するラスティだったが、戦慄して喉を震わせるメーテルリンクに眉をひそめた。
『あれは……V.Ⅰフロイト!? なんで奴がここに……ッ!』
『……他にもACが三機。フロイトを入れたら四機、か。予想以上に不利な戦いになりそうだな。先程のテストパイロットが作戦領域から離脱したら、私達も撤退するぞ、メーテルリンク』
『了解ッ!』
独立戦闘団カラード。その来援に、フロイトが楽しげに笑った。
『ミッションは完了したが――どうする? 戦友』
彼が気安く呼び掛けた相手は、レイヴンだった。彼女は当たり前のような顔で応える。
『お金になんないならヤらない。弾薬もタダじゃない』
レイヴン――621は狂犬だ。戦闘を好む、生粋のAC乗りである。
しかし同時に、主人の懐事情にも気を遣う孝行娘でもあった。お仕事の対象以外に、弾薬を費やす気は彼女にはない。狂犬だが、分別はあるのだ。
この間も、射撃は加えられている。それを躱しながらフロイトは苦笑した。
『存外家庭的なんだな? それならレイヴン、素晴らしい提案をしよう。アーキバスに来ないか? 弾の心配をしなくて済むようになるぞ。お前……いや、お前達がいれば俺も退屈しない』
『無理』
『釣れないな……仕方ない、私的な戦友という関係で手を打とう。じゃあな、レイヴン。俺は少しコイツらと遊んでいく。お前達に対する報酬にも、俺から言って色を付けさせよう。代わりに今度遊びに行かせてくれ』
『お金くれるの? ならいいよ』
爽やかな微笑を残してフロイトが飛翔する。それを見送るレイヴンの後ろには、動かなくなっていたガンズ・カタフラクトへ弾を撃ち込み続けるシャルトルーズがいた。
破壊できるだけ破壊して、成果をより確実にしたのだろう。追加ユニットは原型を保っているが、コアACの方は大破している。
交戦を開始するカラードとヴェスパーを尻目に、猟犬達は飼い主の指示に従い撤収した。
仕事は終わったのだ。
※残念なお知らせがあります。作者はなんとか頑張ってみましたが軌道修正は叶わず、ラスティが621の戦友になる機会を失わせてしまいました。
なので代わりにフロイトを戦友枠に組み込みます。エンジョイ勢のフロイト動かしやすいし…。