首輪付きの山猫、赤い銃に繋ぐ   作:飴玉鉛

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ガリア多重ダム防衛戦 1/2

 

 

 

 

 

 ベイラム専属AC部隊レッドガン所属の三人が、輸送ヘリで作戦領域へと運ばれている。

 

 標的はガリア多重ダムにある四つの変電施設だ。当該目標と敵防衛戦力ごと完膚なきまでに破壊し、ルビコン解放戦線のライフラインを破綻させるのが、レッドガンに下された任務である。

 土着勢力との仮初の友情を破棄したベイラムは、速攻でベリウス地方の平定を目指していた。障害となる有力な反抗勢力、及び敵対企業の掃討は独立戦闘団に任せ、レッドガンをはじめとする正面戦力で有象無象を蹴散らすのだ。そうなれば宿敵との優劣はつく。このコーラル争奪戦を早期に決着させてしまえば、アーキバスとの積年の企業間闘争に終止符を打つのも夢ではない。

 

 コーラルにはそれだけの可能性があると踏んでいる。コーラルさえ手に入れれば、電子戦をはじめとする裏の非正規戦でも優位に運べるはずだ、と。

 

 ベイラムは逸っているのだろう。無計画にも思える大胆不敵な用兵は事実、無計画で無軌道だと評価するに値する。カラードとレッドガンを用いて、勝てない戦いなどないと驕っていた。

 ベイラムの奇襲に近い裏切りでルビコン解放戦線は主力と重要施設、おまけに精神的支柱である指導者を奪われたのだ。もはや土台が揺らいでいる土着勢力など敵たりえない。ここで一気にルビコン解放戦線の息の根を止めて、邪魔なアーキバスや惑星封鎖機構の排除を見据えていた。

 

『おめでたいことに、上の連中はそう考えている。窮した鼠は虎にも噛み付くことを知らんらしい。そしてその鼠が黒死病(バイキン)を宿しているかもしれんと想像すらしていないときている』

 

 吐き捨てたのは老境の英雄ミシガンだった。彼はレッドガンの本拠地の司令部から、本作戦に投入されているレッドガンの正規隊員達に語り掛けている。

 いつものレッドガン節だ。聞いている側はニヤニヤと嫌らしく笑っていた。

 

『元より素人の立てた作戦に一から十まで従う必要はない。こういう時の為にナイルを上に送った、そしてナイルは役立たず共と違い仕事をしている。ありがたく思え、役立たずを役立たずなりに使いこなそうと、ナイルは涙ぐましい努力をした。貴様らも奴の苦労へ報いてやれ』

『ハッ、現場を離れた途端に腐ったわけじゃねぇのか、ナイルのオッサンは。そろそろ女のケツでも追いかけ回すのに忙しくしてると思ってたぜ』

『女のケツを追いたいとは欲求不満か、G4? すぐにでも発散させてやる、今からする話をそのスカスカな頭の中に叩き込んでおけ!』

『へいへい』

『いいか貴様ら、嘆かわしいことにベイラムの情報管理のセキュリティは、食堂のババアがヘソクリを隠した金庫の暗号よりガバガバだ。そこでナイルは金庫にあらかじめ暗号を書き込んだ。何月何日にどこの誰が何を襲うかをな。この意味が分かる奴はいるか?』

『……こちらの作戦の情報が漏洩しているのを前提に作戦を立てている、ということでしょうか?』

『正解だG13! G4、G5! 安いオマケとしてつけた新入りの方が頭の回転が早いらしいぞ。理解が追いつかんなら、もう一度候補生からやり直して数学のお勉強でもしてみるか!?』

『チッ……うるせぇな。さっさと作戦を言えってんだ』

『一丁前に作戦を気に掛ける余裕があるらしいな、G5? いいだろう、貴様は特に念を入れて余裕を削ぎ落としてやる。作戦の内容は馬鹿な貴様らでも理解できるほど単純だ! ベイラムの台所を嗅ぎ回る、アーキバスの便所虫が仕掛けてくる確率はほぼ100だ。奴らにとってルビコン解放戦線はレッドガンに対する大事な盾だからな、盾が壊れてしまわないように気を遣い、ガリア多重ダムに向かう貴様らに糞を引っ掛けに来ることだろう』

『ああ? 面倒な真似をしやがる』

『ボソボソと去勢された猫みたいな声で喋るな、G5! いいか、貴様らは襲撃してきた敵を撃破、ないしは撃退し、そのままガリア多重ダムに向かい作戦目標を達成しろ! その為に新しい玩具を仕入れたんだ、まさか出来ないと言うつもりではないだろうな!?』

 

 ――新しい玩具。それが指すのはACだ。

 

 惑星封鎖機構のHC機から吸い上げた技術をフィードバックし、自機へと反映させたG5イグアスの乗機は、他二名の物よりも高性能になっている。

 イグアスのACヘッドブリンガーは進化したのだ。

 左腕に装着されたパルスシールド発生器による防御力、両肩のパルスキャノンや右腕のブレードによる攻撃力、既存のACを上回る耐久力と桁違いの飛行性能を併せ持ち、『オリジナル』たるホワイト・ノヴァには及ばないものの、次世代ACの名に恥じない互換性も有している。

 G4ヴォルタのACキャノンヘッドは、残念ながら改修されていない。彼は本来、テスターACに乗り換えてGカタフラクトに搭乗する予定だった。ヴォルタはレッドガン最精鋭であり、ミシガンに次ぐと目されるエースとして、Gカタフラクトを任されるはずだったのだ。

 Gカタフラクトはもう一機ある。しかしそちらは未だに調整が終わっていない。ヴォルタの新型が今回の作戦に間に合わなかった以上、主戦力はイグアスの新型ACヘッドブリンガーだ。

 

『やってやるよ』

 

 通信越しでも煩いミシガンの檄に、イグアスは犬歯を剥いて薄く笑った。

 新たなヘッドブリンガーの性能はイグアスをして別物だと感じるほど。ヴェスパーの誰が来るかは知らないが、AC乗りのクセに別の役職も熟す小役人如きには負ける気がしない。刺客を退けてそのままガリア多重ダムを落とす? 結構じゃないか、そんなのは楽勝だ。

 そろそろミシガンの檄もウザったくなってきた。ここらで自分の力を思い知らせてやり、あの兄貴面野郎のように認めさせてやる。もう二度と『役立たず共』などと、他の雑魚共と一緒くたに扱わせてなるものか。レッドガンは実力主義なんだろう、なら自分だってリンクスの野郎みたいに自分の隊を持って、レッドガンから独立し出て行ってやる。それはきっと――最高に気分のいい、ミシガンに対する意趣返しになるはずだ。自分達主力格が抜けていったレッドガンで、いつまでもお山の大将を張っていればいい。

 

 イグアスの士気は軒昂だった。彼は今、相棒のヴォルタも今回はお荷物だと認識している。他の連中はイグアスよりもヴォルタの方が格上だと評価しているし、イグアス自身も言葉にはしないもののヴォルタを認めているが、今回ばかりは流石に機体性能に差が有り過ぎた。鈍足なヴォルタをどう嗤ってやろうかと、余所事を考える余裕まで今のイグアスにはある。

 

『――間もなく、敵出現予測地点に到達します!』

 

 送られてきたデータを確認したのか、G13ホーリーが言う。

 ホーリーはレッドガンのコールサインを与えられたばかりの新入りだ。こんな候補生レベルがコールサインを持つなど、イグアスから言わせてみれば鼻で笑ってしまいそうではある。しかしレッドガンは半壊していたのだ。再建の為にも、当座を凌ぐだけの程度の低い奴を入隊させるのも無理はない。

 真っ先に自分に挨拶に来て、先輩と呼んで慕う殊勝さはある、筋も悪くはない、一人前になるまで気にかけてはやるか、とイグアスは精神的な余裕で一杯の心持ちで思った。

 

『イグアス先輩、ここだけの話、なんで総長は此処が敵出現予測地点だって予想したんですか?』

 

 霧が深く、気温の低い渓谷。そこを通りながら、ホーリーが無線を入れてきた。

 レッドガンでやっていくなら、とりあえずイグアスの機嫌を伺え。でないと無駄に絡まれて面倒になるぞ――そう教えたのはヴォルタだった。ホーリーはヴォルタを尊敬していた為、その助言を素直に聞き入れイグアスに擦り寄るのに余念がない。ヴォルタは密かにニヤニヤ笑っている。

 

『ああ? んなことも分かんねぇのか』

 

 応えるイグアスの機嫌はいい。この中で一番いい機体に乗り、なおかつ功績があればレッドガンから出ていける公算が彼の中で出来上がっているからだ。

 現実の見えない愚者の妄想か、はたまた地獄に垂らされた細い糸か、どちらにせよ希望がないわけではないと考えられるほど、イグアスは自負を持っている。アリーナ・ランク6をイグアスは正面対決で破り、相棒のヴォルタはランク4を落としたのだ。イグアスとヴォルタは今や、魔境たるルビコンでも上澄みのエース格に躍り出ていると言っても過言ではない。

 ACの戦技教導を買って出た、白い悪魔による教導の賜物だろう。磨き抜かれたその技量を、言葉にしないもののミシガンも認めている。だからこそアーキバスによる襲撃を予期して尚、蹴散らして作戦目標の達成を狙う大胆な姿勢を見せている。実力による信頼がなければこんな力技をミシガンは取らない。

 

『ここらの地形は頭に入ってんな? アーキバスの小役人共は、土着共を俺らへの盾にしようとしてるらしいがな、土着共にとっちゃアーキバスもベイラムも同じ穴のムジナだ。アーキバスが助けに来たつっても素直に信じるほど能天気じゃねぇだろ。迂闊にダムの近くで仕掛けたら、土着共から諸共に攻撃を喰らうのが目に見えてんじゃねぇか』

『言えてますね』

『んで、アーキバスの最寄りの基地と、俺らが通った道の方角から距離を計算して、後はここいらの地形を加味して考えりゃ答えは出たようなもんだ。アーキバスにとっちゃ、ここら辺が俺らを襲うのに最適の場所になんだろうよ』

『参考になります。確かにイグアス先輩の言う通りですね』

『――意外と考えられんじゃねぇか。まるでインテリみてぇだな?』

『げ……聞いていやがったのか、ヴォルタ』

 

 茶々を入れるヴォルタに、イグアスは顔を顰める。

 レッドガンの三人は既にACのコア内で待機していた。敵襲があると予測されているのに、ヘリの中で優雅なティータイムと洒落込んでいれば、帰還後にミシガンから鉄拳制裁されてしまう。

 老いてなお盛んなG1の拳は重く、体の芯まで響く。好んで喰らいたくはない。ACのコア内でイグアス達はいつものように軽口を叩いた。

 そんな中、ふと思い出したようにホーリーが言った。

 

『――そういえばイグアス先輩の機体には、JRSS(ジャルス)ってシステムを積んでるって聞きましたけど、それってなんなんですか?』

『あぁん? また質問か、テメェは知りたがりの構ってちゃんかよ』

『そう言うな、暇なんだし教えてやろうぜ。いいかホーリー、その統合補給支援機構(JRSS)ってのはリンクスの兄貴がどうしても欲しいってんで、開発局に無理にでも作らせた奴だ。簡単に言っちまうと専用のアタッチメントなしでMTとACから推進剤、電力補給を可能にしちまう。戦場に転がってる残骸からでも武器を奪って、すぐ使えるようにした奴だって覚えときゃいい』

『なるほど。噂に聞く副長にはまだお会いできてませんが、素晴らしい提言をなさったんですね』

『ハッ、つまんねぇ幻想を持ってんなら今の内に捨てちまえ。なあヴォルタ』

『まあ、リンクスの兄貴はぶっちゃけ屑だからな。気に入った奴は俺ら含めて良くしてくれるが、お眼鏡に適わねぇと明らかに対応が変わる。悪いことは言わねぇ、自分から関わろうとは――』

 

 するな、と言いかけた忠告をヴォルタが最後まで口にすることはなかった。

 敵襲を報せる警報が鳴り響き、ミシガンの怒鳴り声がコア内に鳴り響いたのである。

 

『お喋りは済ませたか! 愉快な遠足を邪魔する不躾な闖入者共に、レッドガンの流儀を叩き込んでやる時間が来たぞ! 出撃しろ、役立たず共!』

 

 

 

 

 

 

 




長くなるので一旦切り。
ここからが地獄の三丁目、帰還不能点(ポイントオブノーリターン)です。
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