首輪付きの山猫、赤い銃に繋ぐ   作:飴玉鉛

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本作には独自解釈、独自設定があります。


アイランド・フォーの動乱 1/2

 

 

 

 

 

 惑星ルビコン3にて、焼滅したはずの新物質コーラルが再び湧き出た。

 

 とある独立傭兵がリークしたその情報は、ルビコンの惑星外企業の間に緊張の火花を散らす。

 

 新たなエネルギー源として、人間の技術力や通信能力を飛躍的に高められる可能性を秘めた新物質は、かつて星系規模災害『アイビスの火』で失われた。となれば惑星ルビコン3にはなんの価値もなくなり、惑星外企業勢力はルビコンへの興味関心を失っていたのだが、新物質コーラルが復活したとなれば話は変わる。これを先行して独占入手できれば、他企業に優越する勢力を築き上げるのも夢ではないが……この情報が欺瞞である可能性もある為、コーラルに関する情報の確証を得ようと、無数の営利企業は迅速に情報収集に動き出した。

 

 事前に掴んだのは、ルビコンを監視する惑星封鎖機構なる組織の存在。

 

 ルビコンに進駐を図るには、惑星封鎖機構の敷く防衛網を突破するのが必須条件。そこでいち早く新物質の情報を得ていたベイラムとアーキバスは、自身らの戦力やルビコンに進出した際の拠点作りに求められる、大量の物資の輸出拠点を求めて――惑星アイランド4に目をつけた。

 

 惑星アイランド(フォー)はルビコンに最も近く、宇宙港建設に関して最も適した星だったのだ。

 

 ルビコンからの確度の高いリーク情報でも、実際に自分達の目で確かめたわけではない。故にまずはルビコンに先遣隊を出し、新物質が本当にあるかを調査するのは当然。アーキバスもベイラムも営利企業なのだから、無駄な出費を抑えようとするのは当たり前のことだろう。並行して競合相手の排除、進駐を図る前の安全性の確保の為に、惑星アイランド・フォーの制圧は必須だ。

 斯くして木星戦争以来の、アーキバスとベイラムによる軍事衝突が巻き起こる。コーラルを巡る利権争いの前哨戦ともいえる戦い――通称『アイランド・フォーの動乱』のはじまりだ。

 アーキバスとベイラムほどの大企業同士の争いは金になる。そしてルビコンに辿り着いた後にも戦闘が期待できるとなれば、金と名誉に飢えた独立傭兵が多数参入するのも自然なこと。元々自然豊かとは言えないアイランド・フォーだったが、草木も残さぬほどの苛烈な争いが繰り広げられて。ルビコンへ漕ぎ着くのを目論む猟犬の主もまた、アイランド・フォーへと乗り込んでいた。

 

 ――ここに、亡き友人たちの遺志を胸に抱く者が現れた。

 

 従うのは機体の一部、生体CPUとして機能するだけの物。ACを操縦する機能以外は死んでいる、人の形があるだけの物。旧世代の遺物、時代遅れのアンティークと蔑まれる第四世代強化人間。

 

『617。それから618、619、620……仕事だ』

 

 機体と一体化しているとさえ言える生体CPUは、自らの持ち主の声を聞いて不思議な脳波を発した。

 永遠に失われたはずの、感情という色。ほんの僅か、砂漠の一粒の砂のような小さな色だったが、完全な虚無の中に浮かぶそれは宝石のように眩い。

 その心は、敬意だ。感謝だ。合わせて、敬愛と呼べる色。まるで飼い主の声に喜ぶ犬だが、事実彼は――そして彼の仲間たちは、猟犬であった。

 

『アーキバス・グループから公示が出ている。よく聞いておけ』

 

 仕事を集め、機体を整備する自動設備を購入し、実働部隊を飼う。その男は単独で子飼いの猟犬を運用する手腕に長けた、極めて優れたハンドラーだ。

 だが、複数集めた仕事の中で、どれを受けるかは猟犬に選ばせる奇特な変人でもあった。

 普通はそんなことはしない、だがこのハンドラーは普通とは言えない愚か者である。

 強化人間に()()され、人間性を喪い、人から物に転落している所有物に尊厳があると宣い。彼らの人間性が復活するように、外部からの刺激も必要だと嘯いて、犬に餌の獲り方を教える。

 

 それになんの意味がある? 自己満足に過ぎない愚行だ。

 

 しかし、そんな変人には、猟犬を魅了する魅力があった。

 猟犬たちは元々そういうものとして、命を捨てるのも厭わず仕事をする。だが、この猟犬たちは自らの飼い主の仕事で、ほんの一粒の感情を燃料に、ただの犬では成し得ぬ成果を齎すだろう。

 

『――独立傭兵各位。これは本社からの依頼です。我々と敵対関係にあるベイラムが、最新型ACを導入しました。外部アーキテクトへの委託により、アセンブル最適化を施したそのACの識別名は【ホワイトユニコーン】……ええ、()()ベイラムのトップガン、リンクスが搭乗する予定のACです』

 

 ブリーフィングの画面に映されるのは、白い軽量二脚タイプの機体だ。

 右肩にレッドガンのエンブレム。左胸に白い一角獣のエンブレム。

 武装は新型の中型バズーカを右肩に、分厚い実体盾を左肩にマウント。左腕に高出力レーザーパルスブレード、右腕には速射型と火力型を複合したかのような、新型リニアライフル。

 従来の機体の鋭角的なフォルムとは異なり、若干装甲が厚くなっているようだったが、推力に長けていそうなブースターを見るに機動力は全く劣化しておらず、逆に強化されているようだ。

 

 それもそのはず。名高いリンクスの愛機【ホワイト】は、今から見て二世代前の旧式――よりも質が悪い型落ち機だったのである。それが最新技術を満載した機体に乗り換えようというのだ、件のAC乗りに散々煮え湯を飲まされているアーキバスが、搭乗機の交換が間近と聞いて無視できる道理はない。

 

『これがリンクスに渡れば、ただでさえ無視できない脅威が更に強大化することになります。そこで依頼です。当該機体の輸送を狙い、これを撃破していただきたい。ベイラムが誇るエースの搭乗機になる予定のACだけあって、多数のMT部隊の護衛があり、中にはレッドガンのACも確認されていますが……こちらは当社の強化人間部隊【ヴェスパー】が受け持ちましょう。アーキバス・グループは各位の奮闘に期待しています。ブリーフィングは以上です、よろしくお願いします』

 

 嫌味な音声による依頼内容の説明が終わる。

 猟犬部隊『ハウンズ』を運用するハンドラー、老人ウォルターが言った。

 

『今のはアーキバスの強化人間部隊【ヴェスパー】の新鋭、傭兵の雇用を担当するV.Ⅷ(ヴェスパー・エイト)のスネイルだ。奴は自社以外の人間を見下している……そんな男がこうまで多くの独立傭兵を求めるだけあって、アーキバスも本気で当たるつもりらしいな』

 

 ウォルターの言葉は独り言のように虚しく響く。

 だが猟犬の反応がないからと、口数を減らす男ではなかった。

 むしろ、少しでも多く話そうとするかのように、猟犬へ熱心に語りかける。

 

『奴のことだ、独立傭兵など使い捨てにする気でいるだろう。俺としてはベイラムのトップエースの機体を破壊したという実績は手に入れておきたいが、どうにもこの仕事は()()()()。こんな所でお前達を失うわけにはいかない、不測の事態があれば迷わず撤退しろ。……心配するな、今回の仕事は多数の独立傭兵に向けてのばら撒き依頼だ、途中で抜けても誤魔化しようはある』

 

 了解、という返事もない。

 しかし猟犬たちは一言一句たりとも聞き漏らさず、飼い主の意思を受け取った。

 

 よき飼い主の下に飼われる猟犬は、レッドガンにも負けない腕利きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よく聞け役立たずども! 奴らは間抜けにもG2ナイルが仕掛けた()()()()()()!』

 

 雷鳴のようによく通る声に、士気軒昂なる腕利き達が背筋を正す。

 

『あの腰抜け共はG3の戦力拡大を恐れているらしい。だが残念だ、ACの腕しか取り柄のないG3は、女に粉を掛ける時のように手が早い。奴はとっくに()()()()()()()()()()()()!』

『総長殿、僕の名誉を著しく傷つけるような物言いはやめてくれないかな? オペレーターをしてくれているオールバニーの目が冷たくなってる』

『聞いたか! リンクスの奴め、もう新入りのメス犬に手を出しているぞ! 奴にメス犬共を狩り尽くされるのが悔しいなら、貴様らもフニャチンに気合いを込めて仕事に励め! いいな!』

『総長殿……いやミシガン、僕は職場恋愛はしない主義――』

『作戦は貴様らのスカスカな頭で理解できるほど単純だ! 本作戦でアーキバスの強化人間部隊を可能な限り撃ち殺し、奴らの戦力を削る! 以上だ! G3は獲物が近づくまで待機する、貴様らはG3が機体を起動したのを合図に、群がる独立傭兵(ハイエナ)どもを駆除しろ! それすらできないなら役立たず以下のお荷物だ、安いオマケにすらならないなら訓練生からやり直せ!』

 

 了解です、総長! との声が多数上がる。

 

 偽情報を流し、相手の動向を操ってのけた参謀ナイル。総指揮をするミシガン。コールサインを得たばかりのヴォルタ、イグアス。そしてリンクスが、この作戦には起用されている。

 

 アイランド・フォーの動乱、その主導権を得ようと画策して。

 

 赤い銃が、その銃口を獲物に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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