心操人使とサキュバスの同級生   作:雨天結構

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C組の担任教員が分からなかったので、とりあえずミッドナイト先生にしておきました。理由はミッドナイト先生が好きだからです。



あーあ、出会っちまったか

 

 サキュバスとかいう個性のせいでかなり特殊な人生を歩んできた桃色夢麻(ももいろ むま)は、つい先日高校受験を終え、見事第一志望に受かった。

 春からは雄英高校普通科生だ。

 

 彼女が数ある高校の中から雄英高校を選んだのにはきちんとした理由がある。

 理由その1として、偏差値が高い。

 今世での彼女の家族仲はかなり良好だ。特殊な個性に生まれた彼女を支えてくれた家族には多大な恩を感じている。

 というわけで彼女は、雄英高校という名門校に入学することで父と母を喜ばせたいと考えた。国立なので学費が安い点も利点だった。

 

 また、偏差値が高いと自然と生徒の質が上がるという理由もある。一般に、知能が高いとそれに比例して理性と自制心も優れる傾向がある。

 彼女は中学時代、男子から性的な目で見られた。中には本当に襲いかかってくる者も何人かいた。そういうやからは全部眠らせられるため実質的な害はないが、それでもなお精神的負担を覚えた。

彼女の中身(前世)は男子大学生である。理解はあるのだ。鏡を見れば、そこには思わず触りたくなるような、可憐かつ美麗な美少女がいる。前世男の彼女からすれば、これを見て思わず高ぶってしまうのは、まあ自制が効かない中学生なら仕方ないかとすら思える。ただ、それはそれとして中坊に性的な目で見られるのは大変屈辱であった。

 それに加え、そういったことから女子からは嫉妬された。そんなことが起きないよう、頭が良くてヒーローを目指す正義感強い子が多いだろうこの高校を選んだというわけだ。

 

 そして理由その2は個性障害や特殊な個性への理解が深いことだ。何分、特殊な個性である。なんかしらのトラブルが起きることが予測される。そんな時、個性取り扱いのプロフェッショナルであるヒーローが大勢いる雄英高校ならきちんと対処してくれるだろうというわけだ。

 

 最後に理由その3。彼女の勤務先の支店が近くにある。

 これが一番大きい理由だった。彼女のバイト先であるデリヘル派遣会社、その支店が雄英高校から駅3つ分程度の距離にあるのだ。そんなわけでここでも彼女は()()()()に困らない。

 それなら地元の高校で良かったのでは、と思うかもしれないが、そうはいかない。最近、彼女はデリヘル業に限界を感じてきていた。

 夜遅くに帰るとなると当然親は心配するし、家の近くでデリヘルバイトをしていたらいずれバレる時が来る。もし友達のお父さんとバッタリ……なんてことがあったら詰みだ。「黙っていて欲しいなら……」と脅されて色々されてしまう、薄い本で親の顔より見た展開一直線である。もっと親の薄い本見ろ。

 

 そんなわけで彼女が求めたのは、地元から離れて一人暮らししながらバイトもできるという条件。雄英高校近くのアパートはこれを完璧に満たしてくれていたのだ。

 

 そして行く学部は普通科だ。経営科でもサポート科でもヒーロー科でもなく、普通科だ。

 

(普通。なんといい響きだろう。きっとこれからの高校生活は、個性に振り回されるなんてことは無縁の、普通で平和な学校生活が待っているに違いない)

 

 こうして、彼女は希望を胸に入学を迎える。

 

 

 

「……おはようございます」

「「おはようございますッ!」」

 

 桃色夢麻が教室に入った瞬間、そこにバッと視線が集まる。

 予想外に集まった視線に困惑しつつも、当初の予定通り挨拶をした彼女に帰ってきたのは、カッチカチに固まった敬語の挨拶であった。

 

 そしてその数秒後、教室にざわつき起きる。

 

「やべーよやべーよ超綺麗なんだが!?」

「モデルか!?いや、天使か……!?」

「惚れた……」

「踏んで欲しい……」

 

 ついさっき、朝の一幕である。そして今、件の彼女は誰にも話しかけられぬまま一人で席に座っていた。

 

(ど、どうしてこうなった……)

 

 彼女の計画ではこうだった。

 

①突然の美少女の登場に教室が沸き立つ

②可愛い彼女は男女の注目を集め、話しかけられる

③「そんなにいっぺんに話しかけられても困るよ〜」と返しつつ和気藹々とコミュニケーションを取り、友達ができる

④しかし身体は闘争を求める

⑤アーマードコアが売れる

⑥フロムがアーマードコアの新作を作る*1 

 

 しかし、注目はされど話しかけられはしなかった。

 

(なんか、あれだ。遅刻して一限の途中で教室に入ると、一瞬みんなの視線が集まるやつ。「うわ来たよ……」という、あの特有の静けさだ。あれが起きていた。

 というかなんなら今世の中学校ではそれが毎朝起きていたけどね……。私が教室に入ると皆が一瞬静まり返りこちらを見てくるのだ。うわ、個性サキュバスの奴が今日もやって来たぞ、みたいなノリで。……ちくしょうッ!!

 

 というか高校の皆は私の個性知らないはずなのに、なんでこうなるの……?

 何人かの人たちは既にグループを作っていて、遠巻きにこちらを見てるし。勇気を持って話しかけようとして目を合わせても、めちゃくちゃ目を逸らされるし。

 な、なんで……?

 ああ、高校に入ったら友達を作るという私の願いは儚い夢として散ってしまうのか……?)

 

 そうこうしているうちにクラス担任がやってきた。

 

「それでは、入学式までまだ少し時間があるので自己紹介でもしましょうか」

 

 担任の香山先生(うわ凄い、ミッドナイトだ!)の言によって自己紹介が始まった。席順は五十音順ではないらしく、ま行から始まる苗字の桃色だが、その出番は早めにやって来た。

 

(……なんかすごい視線が集まるのを感じる。いや、自己紹介なんだから視線が集まるのは当たり前……だよね?)

 

桃色夢麻(ももいろ むま)です。個性は︎“美肌︎”です。早く皆と仲良くしたいので、声をかけてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」

 

 桃色は何事もなく自己紹介を終えた。ポイントは笑顔だ。皆と仲良くしたい云々のところでふわりと微笑むことで印象を良くする。サキュバスフェイス(APP18)のおかげで好感度の初期値がガッポリ稼ぐのだ。そうサキュバススマイル。きっとこれで上手くいくさ。

 

(逆に、ここで出しゃばりすぎて失敗すると後々に響くからね。まともに話せる程度の社交性を示せればそれでよし。

 個性に関しては完全に不和の原因になるから伏せて、無個性と言うとそれはそれでめんどくさいし、個性は“美肌”ということにしておこう)

 

 桃色の自己紹介が終わると後ろの席へとバトンが回り、取りこぼしなく皆がそれを行っていく。

 クラスの中心になるであろう者はさらりと冗談を混ぜて笑いを取り、昼休みをスマホと睨めっこするだけで終えるであろう者は名前しか言わずに終え、後々黒歴史に悶えるであろう高校デビュー失敗組はつまらない冗談で場を冷やす。

 大多数は桃色と同じ、名前と個性と、あとは軽い挨拶で今後のスタンスを表明して終わりだ。何か面白いことをして成功するメリットより、失敗して白い目で見られるデメリットの方が大きいと判断する。誰も彼もが可もなく不可もない自己紹介だ。

 それこそ、個性を言わない人もいるくらいだ。

 

(無個性にしろ、私のような厄ネタ個性にしろ、言わない方がいいことだってあるしね。まあ、この個性社会ではそれも当然──)

 

「心操人使。個性は“洗脳”です。よろしくお願いします」

 

(──へぇ)

 

 桃色の隣の席、ボサボサの髪に目の下に深いクマ。The不健康優良児な男子がそう言った。

 教室の空気が少し変わる。女子が少し警戒の目を向け、男子からも善し悪し様々な視線を集める。

 

 けれど、桃色が思ったよりその反応は()()()()()()()()()()。逃げるように距離を取るだとか、その場でコソコソ陰口を叩くだとかはなく、あくまで警戒される程度。ここからいじめに繋がったりするような空気ではない。

 どうやら彼女は、雄英高校生の善性を見くびっていたらしい。

 

(洗脳、か。サキュバスと比べてどっちがどうだとかは簡単に言えないけど、まあ苦労しそうな個性だ。

 堂々とその個性をカミングアウトするなんてなかなかできない)

 

「いい個性だね、心操くん。よろしく」

「……よろしく」

 

(だから気に入った!)

 

 桃色はなんとなく、心操となら仲良くなれる気がした。

 そうして、桃色夢麻の360度可愛い究極無敵のサキュバススマイルと共に差し出した右手は、明らかに女子に慣れてないギクシャクとした動きと共に握り返された。

 

 

 ◆

 

 

 ヒーロー科に落ちた。

 

 周りにヴィラン向き個性だなんだのと言われながらも本気で憧れヒーローを目指し生きてきた心操人使にとって、それは大きな衝撃であった。

 ここで諦めるべきか。夢を見るのをやめて、努力なんてやめて楽になってしまおうか。

 そんなふうに考えて考えて、それでも彼は諦められなかった。

 そうして、雄英高校普通科に進学し、ヒーロー科に編入することを決めた。

 ヴィラン向き、犯罪し放題、悪いことしか思いつかない。周りから散々言われた個性だって、ヒーローになるため、人を助けるために使うのだと決めたのだ。

 

 そうして、ヒーロー科編入という野望に燃えつつ登校した彼を向かい入れたのは、異様な空気だった。

 誰もが一人の少女を見ている。目が離せない。見とれている。

 何事かとその視線の先にいる少女を見て、放心する。

 

 美だ。

 美がそこにいた。

 

 艷めく黒髪は思わず見蕩れる。魔性の朱に染まった瞳は目が離せない。キメ細やかな絹肌も、スラリと通った鼻筋も、まつ毛も、涙袋も、唇も、果てには机の上に置かれた手の先まで、何故か異様に魅力的で、吸われるように見入ってしまう。

 それは、まともに女性と触れあっていない思春期の彼にとってはまさに毒であった。

 

 なんとか目を逸らした彼が座席表を確認すると、席は件の美少女の隣。

 喜びよりも動揺が大きかった。

 何とか平静を装い隣に座るも、気が気でなかった。

 

 黒板を見て、窓から外を見て、視線をうろつかせて、チラッと彼女の方を見る。

 目が合う。

 

「……ッ」

 

 思わず目を逸らす。

 そんなことをしばらく繰り返す程度には、彼は少女の美貌にまいっていた。

 

 そして来る自己紹介の時。少女の甘く澄み透った声を聞き、声すらも完璧なことに感動を覚えた。

それから少しして、本気でヒーローを目指す以上隠すわけにはいかない、むしろ誇るべき自分の個性の紹介を含めた自己紹介をした後。

 

「いい個性だね、心操くん。よろしく」

 

 不意打ちの爆撃をくらった。

 

「……よろしく」

 

 ギリギリ残った思考能力でなんとか言葉を絞り出しながら、心操は差し伸べられた手に手を伸ばした。

 

 こうして、心操の波乱の学生生活が始まった。

 なお、その細い手は男のそれとは明確に違い、スベスベしており柔らかさがあり、彼は帰ってから自分の手を洗うか本気で迷ったとか。

 

*1
というか本当に作られた




・桃色’s容姿
まず初めに、黒髪赤目でドチャクソにエロかわいいスーパー美少女を思い浮かべてください。
それです。
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