心操人使とサキュバスの同級生   作:雨天結構

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バレ

 色々あった入学式から2週間程が経過した。

 初日でコミュニケーションに躓いた桃色だったが、あれから時間が経つことで少しずつクラスに馴染めてきた。見てくれだけ良くて中身が伴っていないなんちゃって美少女の化けの皮が剥がれたともいう。

 桃色夢麻は個性「サキュバス」により異常なまでの美貌を誇り、ついでにその仕草や言葉遣いまで女らしい、色っぽいものになっている。だが、結局のところ中身は前世の男であり、その趣味趣向はアニメ、ラノベ、漫画、ゲームといったサブカルチャーに偏っている。

 パッと見深窓の令嬢的な見た目と立ち居振る舞いだが、いざ話してみれば言葉の節々にネット用語を用いる典型的なネット民。必然的に親しみが持てるというものだ。

 

 結果として、彼女はクラスの中心から少し外れ、誰とでもある程度仲がいい中立的な立ち位置に落ち着いた。

 休み時間になれば、女子から使っているシャンプーについて聞かれメリ○トと答え、気まずい空気を作ったり、男子に混ざってMt.レディの尻の良さについて語り困惑されたりしている彼女の姿が散見されることだろう。

 中学時代、個性がバレて腫れ物扱いされてた彼女からすれば、天国と言ってもいい環境だ。

 

 そんな彼女が直近の生活で抱いた感想はと言うと、

 

(いや、心操人使良い奴すぎだろ!!好きになっちゃうわ!!)

 

 である。

 

 心操人使。自己紹介の段階で自分の個性が「洗脳」であることをカミングアウトするなかなか見どころかある奴、というのが桃色の評価であった。

 そんな彼についてここ1週間で桃色が得た情報をまとめると、以下の通りだ。

 

・「洗脳」は、自分の呼びかけに答えた人を操ることができる個性。

・ヴィラン向き個性と周りからは言われてきたが、それでもこの個性を人を助ける為に使いたい。ヒーローになりたい。

・雄英高校体育祭で好成績を残せばヒーロー科への編入が狙えるため、それに向けて頑張っている。

 

(なんだコイツ滅茶苦茶かっこいいじゃねぇか……。

 なんというか、好きにならない理由がないよね。というかあれだ、主人公だこれ。著名なヒーローはヒーローになる前から様々な逸話があるものだけど、彼の場合は「ヴィラン向き個性に生まれ、ヒーロー科に落ちたが、それでも諦めずに憧れへと進み続けた」とか言われるやつだ。

 知れば知るほど良い奴過ぎて泣けてくる。夢の中で私を散々犯した挙句、ピロートークで「こんな仕事しちゃダメだよ」とか説教してくるクソオヤジにも見習って欲しいね)

 

 心操は桃色の生活の中の癒し枠になっていた。個性の性質上、彼女は人がいやらしいことを考えているかどうかが分かる。それが自分自身に向けられたものなのかも何となくわかる。

 

(そういえば、この前食堂ですれ違ったヒーロー科の紫髪の奴とか凄かったな。「いやらしいことを考えているのか」ではなく「いやらしくないことを考えているのか」が気になる、そんな精神状態だった。あそこまで清々しくスケベだと一周まわって好感が持てる。普通に友達になって下ネタに興じたい。……この見た目のせいで無理そうだけど)

 

 閑話休題

 

 それ故彼女が知ったのが、心操人使の紳士性だ。例えば、彼女が前かがみになって胸元が見えてしまった時、彼はすぐに目を逸らす。風でスカートがめくれた時も、目を逸らす。

 面白くなってきた彼女が、わざと彼の背に胸を当てたり、彼の目の前で腹が見える様な隙だらけの格好で寝てみたりしても、決まって彼は紳士的に対処してきたのだ。

 別に女に興味が無い訳ではなく、恐らく人並みには性欲があるが、その上で理性で本能を押さえつけているのだ。

 

 男として20年程生きた経験のある桃色からからすると、男子が自分へ向けるいやらしい視線も仕方ないことだと理解していた。なんなら共感していた。今でも時々鏡を見ては「なんだコイツえっちすぎるだろ……」と呟く程だ。

 なんなら、サキュバスという個性の影響かそういった視線に心地良さすら覚える。

 

 ただ、それはそれとして、疲れることもある。ふと、自分の好きなキャラクターのファンアートが見たくなり、純粋な気持ちでpix○vで調べた時、R18イラストばかり出てきて萎えるようなものだ。

 いやらしい視線を送って来ても構わないが、四六時中そうだと流石に参るのだ。

 

 そんなわけで、純然童貞紳士心操の対応は、荒んだ彼女の心に染みたのだ。

 

(なんかそれはそれでムカつくけど)

 

 そんなわけで、彼が彼女に、

 

「俺のことを、洗脳のことを警戒しないのか?」

 

 とか聞いてきた時、彼女はそれを笑い飛ばした。

 

 と、まあそんな具合で、彼女がクラスの中で一番仲がいいのは、現状心操である。

 

(というかもう個人的に好きだ。心操くんがヒーローになったら私はファン1号を名乗らせてもらおう)

 

 

 

「私はこの後はピアノがあるなー。心操くんは?」

 

 放課後、桃色夢麻と心操人使は歩きながら会話していた。この後彼女は例のバイトだが、ピアノを習っているという設定で誤魔化している。ちなみに前世の経験のおかげでピアノはちゃんと弾けるので、いざという時も問題ない。

 

「俺は走り込みをやろうと思ってる」

「いいね。体育祭、応援してるよ」

「……ありがとう」

「普段トレーニングとかどこでやってるの?」

「家でできるものは家でやって、ランニングは堤防で、かな」

「ちゃんと続けられるのがすごいよね」

「桃色だってピアノ続けてるだろ」

「あ、あはは、そうだね」

 

(うっ……!心が痛いッ!騙してるよ私!純情な少年をすごい騙してる!)

 

「でもあれだね、たまには別のことして息抜きしたくない?」

「……別に必要ないな」

「ストイックだねー。でもほら、たまには走る所変えるくらいしてみたら?ヒーロー目指してるんだし、市街地走ってみるとか」

「それは、確かにいいな」

「……と、お迎え来たみたい。それじゃ、また明日!」

「また明日」

 

 お迎え、もとい彼女専属のデリヘルドライバーの運転する車に乗りこみつつ、心操へお別れを告げる。

 ピアノについての話を逸らすために適当に話したことが、後々自分の首を絞めるなどとは思いもせずに。

 

 

 

 いつものように、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に、桃色夢麻はデリヘルバイトに、心操人使は自主トレに行ったある日のこと。

 

「えっ」

「あっ」

 

 いつもは駅まで車で送って貰う桃色だが、その日に限ってたまたま専属のデリヘルドライバーの予定が合わず、距離的にもわざわざタクシーを呼ぶ程ではなかったため、歩きで駅に向かうことにした。

 油断があった。今までが上手く行きすぎていたのだ。そのため、変装もせず、裏道を通ることもなく、堂々とラブホテルの正面玄関から出てきた。出てきてしまった。

 

「……」

「……」

 

 そこで、自主トレとして市街地をランニングしていた心操とバッタリ出会った。

 心操の雄英高校指定の健全なジャージと、桃色の胸を強調する露出高めな服のコントラストは、場に沈黙をもたらした。

 

「と、とりあえず、抜こうか……?」

 

 テンパった桃色が、右手の人差し指と親指で輪っかを作り、口元に持ってきて、左手で受け皿を作りつつそう提案する。

 

「……」

「……」

 

 再びの沈黙。

 

「ええい、とりあえず眠れー!」

「……?」

「……!?」

 

 桃色が強硬手段として心操を眠らせようと彼に触れるも、効果はなし。個性「サキュバス」の強制睡眠は、対象が使用者に劣情を抱いていることが条件となる。

 ラブホテルから出てきた友人に、いきなり「抜こうか?」と聞かれた心操は、劣情よりも困惑が勝っていた。

 

「……とりあえず、場所変えようか」

「はい……」

 

 結局、なんとなくいたたまれなくなった心操により、ラブホの前で気まずそうにやり取りする男女は移動することになった。

 

 

 

「……今まで隠しててごめんね。実は、私の個性は︎︎''美肌''じゃないんだ。……本当の個性は︎︎︎''サキュバス''なの」

 

 あの後二人は、適当なファミレスに入りドリンクバーだけ注文した。

 散々悩んだ挙句、全部話してしまう決心をした桃色により、独白が始まる。

 

「……それは、まあ、そんなに驚かない」

「ええっ!?」

 

 桃色の容姿は、実際個性「美肌」だけでは納得のいかないものだった。

 肌以外にも、髪、目、鼻、身体、全てがあまりに完璧であり、せめて「美貌」、もっと言うなら「天使の異形型個性」とかの方がしっくりくる、そんなレベルの、まさに次元の違う芸術的な美しさであった。

 サキュバスと言われれば、ああそうなんだろうなと納得してしまえるものがそこにあった。

 

「ええと、じゃあまずは個性の説明から行くね」

「ああ」

 

 個性「サキュバス」がもたらす空腹と、それを満たすために必要な搾精。それをするためのデリヘルバイト。

 桃色はそれら全てを心操に打ち明けた。

 

「……そうか、そんなことしてたんだな」

「うん。……あの、できれば秘密にしてて欲しいんだけど、その……」

「ああ、言わない」

「……ありがとう」

「……悪い、そんなこと知らないのに、今までいろいろ無責任なことを言った」

「いやいや、そんなことないって」

 

 心操はある程度、桃色と親しくなった気でいた。しかしどうやら、彼女について何も知らなかったらしい。

 彼を自己嫌悪が襲う。

 

『俺のことを、洗脳のことを警戒しないのか?』

『え、心操くんがそんなことするわけないじゃん』

 

(その言葉で救われた)

 

『いい個性だね。その個性なら、絶対ヒーローになれるよ』

 

(洗脳という、容易に犯罪に使える個性を、普通ならマイナスイメージしかないようなそれを、真っ直ぐ肯定してくれた)

 

『応援してるよ!心操くんがヒーローになったらファン1号は私だからね!』

 

(嬉しかった。この人は自分のことを分かってくれていると思った。

 それなのに、俺は桃色のことを何も理解していなかった)

 

 心操の個性を「いい個性だね」と言った彼女は、自分の個性のデメリットに苦しみながら、人に隠して汚れ仕事をしていた。

 

 個性のせいで中学校では居場所がなかったから、高校では隠しているのだと彼女は言った。

 

(……ああ、そうか。桃色も、俺と同じで個性のせいで周りから……)

 

「……力になる。個性のこととか、何か協力できることがあるなら言ってくれ」

「大丈夫大丈夫。むしろ今は滅茶苦茶上手くいってる方なんだよ? デリヘルって言っても、個性のおかげでおじさん寝かしつけるだけでいいしね」

「……そうか」

 

 その言葉からは、桃色のこれまでの人生の苦労が透けて見えた。

 

(今、つまり、親にすら隠してデリヘルのバイトをし、あえて露出の多い服を着て客を惹き付けて騙して、そうしてなんとか空腹を満たす生活が、上手くいっている方と評されるのだから、それよりも前は、ろくに空腹を満たせなかったか、それかもっと危ないことをして……)

 

 悪い想像ばかりが心操の頭の中を飛び交う。

 

「秘密は、こんなところかな。もうこれ以上隠し事はないよ。……なんか、全部話したら案外スッキリしたよ。ありがとね、心操くん」

「……少しでも力になれたなら、良かった」

 

 同情、心配、それらが浮かんできて、しかしそれを目の前の少女が求めていないことを察し、なんとかそれら感情を込めないように返答を絞り出す。

 

 個性による被害、それも個性の暴走でもなければ他者からの個性犯罪による被害でもない、自分の個性の性質による、どうしようもない被害。言わば個性の副作用。

 尻尾がある異形型個性の人が履くズボンに困ったり、皮膚が硬い個性の人が注射針が刺さらず苦労したりするのと同じこと。

 それを解決するには環境を変えるしかなく、そして彼女が今身を置く環境は、彼女が散々足掻いた結果なんとか辿り着いた最適な環境である。

 

 心操が出る幕はなかった。彼女を取り巻く環境を改善することに関して、彼は無力であった。

 

「じゃあ、また明日。今日のことは二人だけの秘密ね」

「……ああ、また明日」

 

 私服、恐らく()を相手にする時に使ったであろう露出が高めの服が、桃色が席を立つ際に屈んだ拍子に重力で垂れ、胸元がチラ見えする。

 それに目が吸われ、目を逸らし、彼女の境遇を思い出し、彼女を性的に見たことに自己嫌悪する。

 

(……あの時)

 

『と、とりあえず、抜こうか……?』

 

(あの時、あの誘いに乗っていたら、彼女は本当にそういったことをしてくれたのか。

 ……。

 …………。

 

 ……あー、何考えてるんだ、俺)

 

 誠実で思春期真っ只中の心操人使にとってサキュバスの蠱惑は毒であった。

 




・桃色’s言動
桃色は個性の影響で無意識に言動がえっちになっているぞ!本人は普通にしているつもりでも無意識に「しな」を作っているし、話し言葉も女性的で、いろいろ色っぽいぞ!

・The補足
露出高めの服、といっても、あくまで常識的な範囲の露出の多さです。ヤオモモの横乳スーツやお茶子のピチピチスーツレベルのやつじゃなくて、ちょっと首元が広くて谷間が見えて、肩が出てる程度のやつです。
桃色は今までの仕事でもっとエグいやつとかたくさん着てるので、この程度の露出の服なら健全の範囲だと思って普通にその服で帰ろうとしてました。実際、東京の電車の中なら普通にいる程度の露出度のファッションです。
あくまで普段はきちんと制服を着ている彼女と比べたらという話です。
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