貧乳に該当するのは『低身長』か『ポークビッツ』かのどっちなのかと悩みました。
喜多は焦っていた。
小遣いを前借りしてまで買ったギターが、まるで上達しない。
憧れの先輩を追っかけて、演奏ができると嘘をついてまで入ったバンド。
中学から続けて入部したバスケ部で幽霊部員と化すほど練習しているというのに、まるで手応えがない。
喜多のギターからはブォンブォンと重低音が響くばかりだ。
ライブの日が近づいてきている。
(このまま一人で悩んでいても埒が明かない!)
さすがにバンドメンバーに相談する勇気はでない。
軽音部あたりに顔出して相談しよう。
そんなこんなでギグバッグを担いで喜多は登校したものの、クラスメイトとの会話で頓挫した。
「おー、バンドでやるギターか。さすが喜多だな! 高校からはバンドに力をいれるんだろ? さすがかっけえなあ!」
「ま、まぁな!」
自分に対して絶大な期待を寄せるクラスメイトたち。
こうなってしまえば自分はつい見えを張ってしまう。
(やっちまった・・・)
陽キャらしい空気読み。
ギターが引ける前提の受け答え。
軽音部に初心者丸出しで行ったら、齟齬が噂になってしまいそうだ。
そんなことになったら、どんな反応されるか怖い。
軽音部で相談したやつの口が軽かったら致命的だ。
どんな雰囲気の人たちなんだろうか。
昼休みのうちに、軽音部の様子をうかがおうと部室棟に近づく。
世間話のていで悩み相談するために、ギグバッグ持参だ。
その道中で、ギターの演奏が聞こえた。
(軽音部の部室ってこっちじゃないよな? どこから聞こえて来るんだ?)
音源を探る。
階段下のスペースで、バンドグッズを身につけた女子がギターを弾いていた。
自分が弾いたときに出る重低音とは、明らかに異なる雷鳴のような響き。
ピンクのジャージを改めて見た。
ジャージ登校する有名人のことを喜多は聞き覚えがあった。
「へぇー、後藤さん、楽器上手いんだね」
「ひゃ、お、男の子? うぇ、へ、へ? ほ、褒められた・・・?」
出会ったバンド女子、後藤ひとりと話しながら、目の前の女子がギターの講師として最適なことに気づいた。
有名な変人。
女子グループから外れており、相談したところでギターが弾けないことが学年に広まるリスクは低い。
藁にもすがる思いで事情を相談する。
「ギター買ったんだけど、全然上達しなくてさ・・・。良かったら相談に乗ってくれないかな」
結果は無情なものだった。
演奏を見せるまでもなく、楽器を取り出したところで、
「それって多弦ベースじゃ・・・ないかと思いますけど」
おどおどした口調で語られた事実・・・弦が六本のベースもあるという事実が喜多を貫いた。
(詰んだ)
ギターと思っていたモノをひとりに検分してもらって、やはりベースとの結論が出て、喜多は放心した。
(何やってんだ、オレ)
この件に注ぎ込んだ金銭と労力の大きさに項垂れる。
「あわわわ・・・気をしっかり持ってくださいぃ・・・このままだったら高身長イケメンを害した刑に処されてしまう・・・っ・・・」
喜多のダメージの大きさに、背景は分からずとも動揺する後藤ひとり。
気弱そうな子だな、と喜多はぼんやりと思う。
そして、同時にバンドのライブを乗り切る方法を思いついた。
要はギターの代打がいれば良いのだ。
ここに至って、隠し事できる状況ではない。
先輩たちにギターができると嘘をついたことを土下座する覚悟を決める。
「後藤さん、お願いしたいことがあるんだ」
背筋を伸ばして、喜多は目の前の女子に向き合う。
さっき聞いたギターの音色は、素人ながらに素晴らしいものだと思えたから。
「俺にできることは何でもする。だから、後藤さん。・・・俺の代わりにライブでギターやってくれないかな」
おどおどしていた仕草が一旦フリーズ。
百面相しながら、ずっと暗かった表情が明るくなっていく。
喜多は頼み事の手応えを感じていた。
「イケメンにライブのオファーって文化祭で妄想してたやつだぁ・・・えへ、えへへ・・・私なんかで良ければ・・・」
なぜだろう。
顔面を崩壊させながら、ニチャニチャ喜んでるひとりを見て、喜多は若干不安に感じた。
喜多がリョウと虹夏に土下座したり、ギタリストとしてひとりを紹介したり。
喜多はボーカルとして参加することでファーストライブは終えた。
なんだかんだで許されて。
結束バンドは4ピースバンドとしてスタートした。
ボーカルだけに甘んじることなく、嘘を真へ。
喜多はギターをひとりに習っていた。
レッスン日はバイトもスタ練もない日の放課後。
今日もそんな日で、だからこそ放課後レッスン日和なのだが・・・
「今日だけでいいから、バスケ部の練習に顔出してくれないか? 今日来るやつ少ないし、試合まで時間なくてさ。上手いやつと練習したいんだ」
クラスメイトに、喜多は頼み込まれていた。
ぐらりと気持ちが揺れる。
(バスケ部は退部するつもりだったんだけどな)
中学で打ち込んだバスケ。高校に入って付き合いもあって入部したものの、バンド練習が忙しくてそれどころではなかった。
幸い、秀華高校のバスケ部は半分遊びのような緩い部活で、幽霊部員やっていても文句言われることはなかった。
このままフェードアウトしようと思っていたところで、このお願いだ。
(うーん・・・参加するかなぁ)
バンドの中で1番下手で、練習しなければいけないことはわかっている。
ギターの練習は楽しい。メキメキとできることが増えていくのは嬉しかった。
ただ、同時にやればやるほど、自分がまだまだ下手だということも感じて辛い部分があった。
同級生のピンクジャージ先生までの距離があまりに遠い。上達してギター演奏への理解が深まるほど遠ざかるようだった。
だから、ここらでひとつ、気分転換に体を動かすのは悪くない。
(ボーカルは肺活量が大事。運動することも練習と言えば練習のはず、うん)
心の中で言い訳をしながら、喜多は別のクラスに顔を出した。
「ちわー。後藤さん、いる?」
放課後の練習を断るために、ひとりの教室に訪れた。
ロインでも良かったが、断りの連絡であるし、ひとりがネガティブな方向に想像力が豊かなため、直接顔を出した。
「あなた、『喜多くん』だよね。後藤さんは席にいるみたいよ」
別クラスに入る挨拶がてら、適当な女子に声をかけた。向こうは自分のことを知っていたらしい。
ざわりと女子のグループが騒がしくなるが、喜多はいちいち気にしない。
ひとりは机の上で腕を枕にして突っ伏していた。
(後藤さん、寝てるのかな。でも、名前が出たとき動いたよな?)
通学2時間でキツイのかもしれない。なんだったらロインでメッセージ送っとくかと考えたところで、ひとりは顔を上げた。
「喜多くん? えっと、私に用事でしょうか・・・?」
「今日バスケ部に呼ばれてさ、今日の練習はできそうにないや。いつも見てくれてるのにごめん」
「それは良いんですけど・・・バ、バ、バスケ部?」
「あれ? 言ってなかったっけ。中学でバスケやっててさ。高校でも流れで入ってたんだ」
「本当にバスケ部なんだ・・・」
喜多はひとりの反応に違和感を覚えた。
(なんか妙にバスケ部に関心あるな? 全く興味ないどころか、青春コンプレックスとやらで距離置かれそうなもんだけど・・・)
「私、中学で見たことあるよ! すっごく上手だった!」
喜多がひとりを観察していると、近くにいた女子が話しかけてきた。
話したことはないけど同じ中学だな、と喜多は気づく。
わらわらと近くの女子が寄ってきた。
「私も喜多くんがバスケするとこ見たいな! 後藤さんに着いてっていい?」
(なんか変な風に話が伝わってるな。後藤さんがバスケを見に来ようとするなんて想像できない。けと・・・)
喜多は誤解を魅力に感じた。
喜多はひとりに対して、情けないところしか見せれていない。
出会ったときは、ギターとベースを間違えて購入するという大ボケをかました。
連れていったバンドメンバーへの紹介では、開幕で虚言に対して土下座を披露した。
オマケに、ギターの練習に対してはおんぶに抱っこだ。
男としてのプライドは慢性的にダメージを負い続けている。
ここらで少しはいいところを見せたい。
ギターで応えるのはまだまだ先の話になりそうなので、手っ取り早く昔取った杵柄で勝負するのは悪くない。
喜多はどうしても自分のバスケをする姿を見せたくてたまらなくなってきた。
「わ、わたしは・・・」
ひとりは寄ってきた女子に動揺してワタワタとしていた。
(いける!)
喜多は口を開いた。女子にウインクひとつ。
「後藤さんと一緒に見に来てくれていいぜ! マネージャー募集中だから、ついでに見学してってよ」
「えっ?」
「ありがとうね〜 。楽しみ!」
女子の会話が盛り上がる中、ひとりの全身が某巨神兵のように溶け落ちていくのを、喜多は見ないふりをした。
喜多は中学3年のときはキャプテンをしていた。
エースと呼ばれるだけの抜きん出た技術はないが、いつだってチームの中心にいた。
ムードメーカーにして、人に合わせることの上手さから来るチームプレー。
キャプテンになるだけのものを喜多は持っていた。
バスケボールが地面を叩き、ドラムのような音が響く。
喜多の前にはバスケ経験者のディフェンス。反応が良い。
喜多にはサイドに走り込む味方が見えていた。
「へい、パス!」
即席チームがゆえに、ノールックパスとはいかないが、それならそれでやりようはある。
パスをした直後に、ディフェンスに見えないように軽く手招きのボディランゲージ。
ディフェンスの意識がボールの先、パスの相手に向かう最中に、すれ違うようにディフェンスの死角に踏み込む。
たった一歩、大きな一歩。
パスした相手に手を差し出せば、伝えた意図通りにボールが返ってくる。
素早いボール回しにディフェンスは状況を見失っている。
マークはついていない。
ゴールまでの距離は少し遠い。
ブランクを不安に感じる理性と、このままいけるという直感。
全身のバネをボールにこめて、宙へと打ち出した。
天に向かってボールが舞う。
3ポイントシュート。
誰もがボールの行方を目で追う刹那の静寂。
そして。
ボールが手を離れるときに感じた確信、そのイメージの通りの軌跡を描いて、ゴールリングに触れることなくボールはリングネットを通過した。
(決まった!)
ガッツポーズ。
歓声の中、ピンクの人影を探す。
盛り上がっているクラスメイトに連行されるようにして、ひとりは来ていた。
呆けてボーとした表情をしていた。
目が合う。
(見たか! オレだってやるときはやるんだぜ)
ひとりに向かって腕を突き上げると、ひとりの周りのクラスメイトが嬌声を上げた。
ひとりは爆発した。
ここの喜多くんはクソモテそうですし人並みに性欲はありますが『なぜか』奥手で、ちゃんとした彼女がいたことありません。