【完結】喜多くんは元バスケ部   作:koum

2 / 3
後編 〜後藤ひとり〜

 

 

スポーツ文化なんてこの世から無くなれば良い。

 

本気でそう考えているひとりは、ギターヒーローの概要欄にバスケ部の彼氏がいると嘯くくせに、バスケ部の練習を見に来るのは初めてだった。

 

(魔法みたい)

 

喜多の前に立ち塞がったディフェンスを、パス回しですり抜けて、そのまま3ポイントシュート。

 

手から離れたボールは放物線を描いて、吸い込まれるようにゴールした。

 

後藤ひとりが喜多郁三に恋をしたのがいつかと問われれば、きっとこの瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――あっという間に季節は過ぎ去って。

 

文化祭が終わり、戻ってきた日常。

 

まだいたるところにその残滓が残る校舎の片隅で、ひとりは喜多を待っていた。

 

(喜多くん・・・早く来ないかな)

 

なんのことはない、いつものギターレッスンの時間だ。

 

喜多は用事で遅くなると言っていだが、来るのが待ち遠しい。

 

恋心がゆえに会いたいというのはある。

 

けれども、今の学校には居づらいというのがあった。

 

文化祭ダイブ。

 

奇行が学校中に広まった。

 

(終わったこと! もう終わったことなんだ! 忘れろ私ーー!!!)

 

込み上げてくる羞恥心、いたたまれなさをギターを掻き鳴らすことで追放する。

 

だが昨日の今日の話なので、学校からも、ひとりの記憶からも消える気配がなかった。

 

(また喜多くんとの距離が開いちゃったな・・・)

 

ひとりは大きくため息をつく。

 

喜多はただでさえ高身長イケメンのバスケ部だ。

 

この文化祭を経て、ギターボーカルとしての姿も知れ渡った。

 

モテないわけがない。

 

連日、喜多の人気はストップ高だ。

 

バスケしている喜多を見に行って以来、そのとき一緒に行ったクラスメイトと少しだけ話すようになった。

 

話すことは主に喜多くん絡みで、だからこそ喜多に彼女がいないことや、噂話が耳に入ってくる。

 

(また告白されてるんだろうな・・・というか、今遅くなっているのだって告白の呼び出しかもしれない・・・彼女できたって報告されるかも・・・うぅっ・・・)

 

入りたいと願ったバンドだって、クラスメイトと友達になることだって、きっかけは喜多がくれた。

 

たくさんのものをもらって、だからこそ頼まれたギターレッスンはちゃんとやろうと決意しているが、心情的にそれどころでは無い。

 

(ヤダな・・・喜多くんに彼女できて欲しくないな)

 

始まりは、あの見事な3ポイントシュート。

 

単一の目的で作られた精密機械のように、全身の力で打ち出されたシュートは美しかった。

 

それから喜多のことが気になりだして。

 

放課後に示し合わせて学校の片隅でギターの練習を重ねて。

 

すごいすごいと褒めてくれて。

 

ギターのレッスンのためだからと、たまに手が重なって。

 

バイトのシフトが被ったときやスタジオ練習のときには一緒に学校からSTARRYに歩いて。

 

たまに買い食いなんかもしちゃったりして。

 

夜遅いからと、駅まで送ってくれたり。

 

(喜多くんにとっては大したことじゃないんだろうな。でも、私にとっては――――)

 

なにもかもが未経験で、感じたことのない感情が鼓動をはじめた。

 

オタクに優しいギャル、弄ばれるターゲット。

 

性別やら何やら違うが、自分と喜多の関係はまさにそれだと、ひとりは思う。

 

身体にこもる熱を吐き出すために、ピックを走らせた。

 

(喜多くんは陰キャを舐めている。こんな扱いされたら好きになるに決まっているでしょ。うぅっ、ミジンコごときが好きになってすいません・・・)

 

身分違いの恋。

 

喜多は高身長イケメンで、誰にだって人当たりが良くて、バスケ部でバンドマンだ。

 

間違いなく学校で一番モテている。

 

ひとりがギターヒーローの概要欄に描いた「バスケ部の彼氏」を追い越している。

 

かたや自分は、文化祭ライブでダイブした、ヤバい底辺陰キャのバンド女子だ。

 

喜多がバスケ部と知った時に、ギターヒーローの概要欄との相似に運命のようなものを感じてしまったのが烏滸がましい。

 

恥ずかしさのあまり世に顔向け出来ない。

 

ギターを顔の位置まで持ち上げ、世界との間に壁を作る。

 

目にはギターしか映らない。自分だけの世界。

 

そのまま歯ギター。

 

歯と鋼線が触れる衝撃を首で受け止め、ギターの雷鳴で耳を塞ぐ。

 

馬鹿な私は歌うだけ。

 

殴りかかるように、失恋ソングを歯弾いた。

 

(ちょっとスッキリしてきた)

 

曲はサビへと入る。

 

ギターを支える腕が疲れて怠くなってきた。

 

あと少しと、気合いをいれてギターを掲げるもよろめいた。

 

持ち上げすぎて仰け反って、ブリッジしているような姿になりながら、耐えてひとりは演奏を続ける。

 

(墓までこの恋心は隠しておこう。バンドメンバーってだけで喜多くんのそばにいられるんだ。それで十分すぎるくらい。欲張りはダメ、慎ましく行こう)

 

曲の締めのストロークをジャカジャカしていたら、激しい動きに首が痛くなってきた。

 

限界が近い。なんだか背中も痛くなってきた。

 

(何やってるんだろう、私)

 

何をやっているかと言えば、校舎の階段の隅でブリッジのような姿勢で歯ギター演奏をしている。

 

「後藤、やべぇ〜〜」

 

すぐ側から声を掛けられた。喜多の声でなく、女子の声。

 

「うぇえ!」

 

驚いたひとりはバランスを崩し、仰け反った姿勢のまま、べちゃっと床に倒れこんだ。

 

顔に降ってきたギターで鼻が痛い。

 

「うわっ! 私が突然声掛けたからだよね。ごめん。怪我はない?」

 

「あ・・・大丈夫です」

 

ギターを顔面に乗せて倒れていたひとりは、手を握って起こされる。

 

ひとりはクラスメイトから聞いて相手のことを知っていた。

 

佐々木次子。

 

クラスメイト曰く、喜多の恋人に最も近い子。

 

喜多と4年連続同じクラスで気心が知れた仲らしい。

 

喜多くんのそばに4年生もいれるなんて羨ましい。

 

にこにこと快活そうな笑顔で、初対面なのに引き起こしてくれた。

 

(喜多くんにお似合いな陽キャな人だ・・・もしかして公表してないだけで彼女だったりするのかな)

 

ひとりはなんでこの人がこんなところに来ているのか不思議に思う。

 

「えっと・・・何か私に用事でしょうか」

 

「演奏が聞こえたから見に来ただけ。文化祭でも思ったけど、やっぱり上手いね」

 

(この人、めっちゃ良い人だ! すごく褒めてくれる!)

 

「でへへへぇ、サインとか入ります? うーん、まだ考えてないんだけどぉー、どうしてもって言うなら・・・」

 

「いやサインはいらないから。いや、すごいとは思ってるよ。曲も良い曲だったし」

 

「えへへ・・・歌詞は私が書いてるんですよ」

 

「『星座になれたら』だっけ。あれラブソングだよな。もしかして喜多のことを書いているとか?」

 

和やかな会話の雰囲気の中で、ひとりは血の気を引かせていた。

 

バンドメンバーへの気持ち、バンドを組めたこと自体を書いたつもりであるが、どうしても喜多のことを意識してしまっていた。

 

喜多のよく通る声で歌われる、喜多本人への恋心が乗った曲に、ひとりは密かな喜びを見出していた。

 

ずっと隠しており気づかれないと思っていた秘密は、あっさりとバレて指摘されてしまった。

 

(知られたら軽蔑される! バンドからも追い出されるかも・・・うわ・・・うわあああ!)

 

「い、言わないでください! 出来心だったんです!」

 

「あ、本当にそうなんだ。ラブソングを本人に歌わせるっていい趣味してんね」

 

ケラケラと佐々木は笑った。

 

(やっぱり良い人っぽい。このまま秘密にしてくれるかも)

 

バコンと物音。

 

ギグバッグをどこかにぶつけたときにするような音。

 

反射的に目を向けると、物陰からこちらを伺っていた喜多と目があった。

 

ひとりの血の気が引く。

 

「喜多くん・・・いつから・・・」

 

「悪い。さっつーが後藤さんと何の話してるか気になつて。ごめん」

 

「女子の会話を盗み聞きするなんて、色男の風上にも置けないな」

 

けんか腰の佐々木の声。

 

けれど二人の話はもう耳に入らない。

 

(気持ち悪いって思われる!)

 

ひとりは何も持たずに駆け出した。

 

行先なんて決まっていない。

 

ただ転がるように、逃げ出すために。

 

(うわあああああ! 終わったぁああ! バンドからも追い出されるぅ!!!)

 

廊下を突き当たりまでかけて、ぶつかるようにしてドアを開けて、ひとりは上履きのまま裏庭に飛び出した。

 

「ゼェゼェー・・・はぁはあ・・・」

 

運動不足の運動音痴が全力疾走したら、ただでは済まない。

 

死にそうになりながら大気を求める。

 

思わず壁に手を着く。

 

身体がキツい分、思考が回らない。ひとりは少しだけ気が楽になった。

 

 

 

 

 

 

 

「後藤さん、大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

――――真後ろから喜多に声をかけられるまでは。

 

 

「うぇぇっ、どうやって・・・て、て、テレポート?!」

 

「普通に着いてきただけだよ」

 

悲しいかな。ひとりのドタドタとした全力疾走は、喜多にとっては軽やかな小走りに過ぎないという事実。

 

ひとりは逃げられない。

 

「わ、私に引導を渡しに来たんですか・・・?」

 

追いかけて絶交を告に来たんだ。ひとりは震える。

 

(喜多くんに歌わせて悦に浸っていたこともバレたんだった。これはもう訴えられて、逮捕されるのでは)

 

緊張するひとりに対して、喜多はもごもごと煮え切らない態度だった。

 

「・・・なんで追いかけてきたんだろうな?」

 

(知るかーーー! でもいきなり怒声じゃなくて良かった!)

 

「ごめん。なんも考えてなかった。遠くにいこうとする後藤さんを見たら、追いかけなきゃって」

 

たどたどしい口調で、要領を得ない。

 

喜多が何を考えているのか、分からない。

 

「き、喜多くんってよく告白されてますよね。こういうこと、慣れてるんじゃないですか」

 

昔に家族と溶けながら見た恋愛ドラマでは、フラれた負けヒロインは逃走していた。

 

今の自分もそんなもんだ。

 

「まあ、よくあると言えばよくあるけど。断ったら追いかけないのがマナーだから。だから見送ったことしかないよ」

 

(断ったら、フッたら追いかけない?)

 

ひとりは眼前に蜘蛛の糸が垂れてきたような気がした。

 

逸る身体を押さえつけ、必死で期待するなと自分に言い聞かせる。

 

(だって喜多くん、戸惑ってるじゃないか)

 

後藤ひとりと喜多郁三は同じバンドメンバーだ。喜多の言葉を借りれば家族だ。

 

さっきの暴露は、その関係を崩壊させかねないもの。

 

(喜多くんだって慎重になりもするよ。勘違いしちゃダメだ。落ち着こう。ちゃんと話して・・・なかったことにしてもらおう)

 

「あ、あの・・・さっき知られちゃいましたけど、喜多くんのこと好きになっちゃって・・・歌詞にして喜多くんに歌わせちゃいました・・・気持ち悪いことしてごめんなさい・・・」

 

(ううっ・・・せっかくギターの先生で、少しはできるとこを見せられていたのに・・・あっという間にマイナス・・・私の信用は破産寸前・・・)

 

喜多は驚いた表情を浮かべて、首を振った。

 

「そんなこと気にしないよ。後藤さんの気持ち、まったく気づかなかったな。多分デリカシーないこと、いっぱい言ったよね? ごめんね」

 

「う”っ ・・・いやそんなこと・・・なかったですよ・・・?」

 

「いや、わかってる。わかってるから・・・リョウ先輩のこと、いっぱい相談したよね。キツかっただろうに、ごめん」

 

ひとりの脳裏を巡る、喜多からの山田への恋愛相談。何度、言葉の槍が胸を貫いたかわからない。

 

「潮時にしたいとは思っていたんだ。リョウ先輩にはキッパリ断られてたからさ。アプローチ続けても迷惑だろうし、でも諦め方が分からなかったんだ。でもさ、オレさっき追いかけたよな?」

 

「後ろから声かけられて心臓が止まるかと思うほどびっくりしました・・・」

 

「ごめんて。後藤さんが逃げたとき、自然と追いかけていたんだよな。後藤さんに置いて行かれたくないって思ったんだ」

 

喜多はひとりの前髪の奥の瞳を見つける。

 

「ギターの腕はずっと先を行ってて追いかけている最中でさ。ライブでも日常でも危なっかしくてさ、目で追っちゃっうのが癖になってんだよな。オレの毎日はもう後藤さんで埋め尽くされてんだよ」

 

「うぅっ・・・私なんかが喜多くんの日常を侵食してすみません・・・。腹を切ります」

 

「そーじゃなくてさ。オレも後藤さんのことが気になってるってこと。良かったらだけど、付き合わない?」

 

「う、うえ?」

 

降って湧いた幸運。間違いなく、ひとりが望んだ言葉。

 

けれど。

 

(勇気を出して断われ、自分――――!)

 

ひとりは活力を振り絞った。

 

『喜多くんの気まぐれ、気の迷いだ。そこに付け込むのはいかがなものか』

 

『私は他の女子に劣る。JKらしさなんて欠片もない。喜多くんのライフワークであるキラキラSNS活動に付き合えない』

 

『自分みたいなのが喜多くんの彼女になったらどうなる。変な女と付き合ってると、喜多くんの評判が悪くなってしまう。実際に後藤ひとりの風評は文化祭でダイブしたヤバいやつだ』

 

『自分みたいな底辺女が喜多くんに付き合ったら、チャンスがあると他の女子が喜多くんに群がってくるんだ。虐められ迫害されて最後に追放され、あっさり彼女の座から蹴落とされるに違いない。』

 

『付き合うってことは男女のアレコレを喜多くんとするってことだ。手が触れるだけで心臓が爆発しそうなのに無理無理無理無理無理無理! 絶対に失敗する。それに私のだらしのない身体を喜多くんに晒すなんて嫌われそう』

 

『私の気の迷いだったことにして、断れば問題ない。バンドは続けるんだし、カップルになって一瞬で別れて気まずくなるよりは最初から付き合わない方がいいのは間違いない。バンドメンバーとして、ギターの師匠として、同学年に友達としてこれからも仲良くできる。喜多くんが私なんかを友達として大切にしてくれるだけで十分すぎる。ローリスク、ハイリターン!これでいこう!』

 

知性はネガティブな意見を無限に出力する。

 

ひとりは口を開いた。

 

「ふちゅちゅか者ですが、よろしくお願いしましゅ!」

 

即OKを出していた。

 

喜多の返答に食い気味な反応速度だったし、最後は噛んでいた。

 

意中の相手から付き合わないかと言われて、断れるやつがどこにいる。

 

その先に破滅が口を開けていようとも、光の中へダイブするしかない。

 

「ははっ、嬉しいよ。これで彼氏彼女ってわけだね」

 

「私が喜多くんの彼女・・・!」

 

(なにかの法で捕まりそう。あと、さっき噛んだから死にたい)

 

青ざめつつも、多幸感に包まれる。

 

ギターヒーローの概要欄が真になった。

 

「でへへ・・・バスケ部の彼氏かぁ・・・」

 

「うん? バスケ部は辞めて来たけど、まずかった? さっき遅かったのは退部届出してきたからなんだよ」

 

「えっ、なんで? 喜多くん、あんなに凄かったのに」

 

概要欄のこともあるがそれ以上に、ひとりが喜多を意識しだしたのは喜多のバスケのシュートがキッカケだ。

 

あの姿が見れなくなるのは寂しい。

 

「キリが良かったからかな。元々、高校でバスケ部入っていたのは惰性なんだよ。文化祭でバンドに力入れてるの見せたから、今なら話がしやすいと思って、ケジメつけてきた。これからはバンド一本で行く! だからみっちりレッスンよろしくね!」

 

「そうですか・・・」

 

「・・・え、めちゃくちゃ残念そうだね。バスケ部のブランドあったが良かった?」

 

「いえいえいえ! 滅相もございません! わ、私が喜多くんの恋に落ちたのは、たぶんシュートが決まった瞬間だと思うから、思い入れがあってぇ・・・」

 

「え、そんなに前から? ギターの練習始めたころじゃん」

 

「惚れっぽくてすみません・・・」

 

「いや別にいいんだけどさ。ボーカルもギターも下手だし、練習する時間は確保しないといけないから二足の草鞋は履けないよ。・・・もしかしてバスケ部じゃないオレじゃ不足かな」

 

「喜多くんは喜多くんだから良いんですよ。いつだってカッコいいです」

 

ひとりは眩しさを堪えるように目を細めた。

 

チヤホヤされたくて、人気者になりたくて、『普通』の人と認められたくて、ひとりはギターを握っている。

 

欲しいものを全て持っている喜多は、人気者であることを構成する『バスケ部』というピースを、バンドのためにあっさりと捨てた。

 

自分よりよっぽど真面目にバンドに打ちこんでいる。

 

自分と正反対。

 

(だからこんなに惹かれちゃうのかな)

 

 

「うーん、後藤さんにバスケ部がそんな刺さっていたとは惜しいことしたなぁ。・・・後藤さんにカッコいいところ見せたいからさ、もしバスケやることがあれば見に来てよ! ちゃんと彼女として応援してね」

 

 

「ひっ・・・! が、がんばりますぅ・・・」

 

(今更だけど、喜多くんの彼女って堂々と名乗って大丈夫なのかな? 喜多くんの彼女に相応しくないって吊し上げ食らうんじゃあ・・・)

 

喜多くんファンに火あぶりの刑にされるイメージがひとりに浮かぶ。

 

自分が喜多に釣り合わないのはごもっとも。

 

あっさり始まった関係は、あっさり終わってしまうに決まっている。

 

冷汗を流すひとりは保険が必要だと思った。

 

「あの、私、結束バンドのことが大切なんです。だからもし、彼女として愛想をつかしても、同じバンドのメンバーでいることは許してください」

 

「いきなり別れたときの話をするのは微妙だけど・・・うん、大事な話か。オレが見損なわれるかもしれないし・・・うん、交際でバンドに迷惑をかけないってルールを作ろう」

 

「私が喜多くんを見損なう? そんなことあるわけないじゃないですか」

 

「・・・オレはそんな完璧じゃないよ。付き合っていたら、いつか知られちゃうかもね」

 

暗い気配をもらす喜多を、ひとりは本当に不思議そうに見上げる。

 

その視線を受けて、喜多はひとつ咳払い。暗い雰囲気がなかったかのように、あるいは誤魔化すように、輝く笑顔を浮かべた。キターン。

 

「改めててだけど、これからよろしくな! 『ひとりちゃん』!」

 

「ぴッ!!!」

 

名前呼び。

 

その衝撃にひとりは爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後藤家の食卓。

 

夢遊病者のような足取りで、学校から帰ってきたひとり。

 

あからさま普段と様子が違った。

 

家族は心配していた。

 

「ひとりちゃん、学校でなにかあったの?」

 

「うん。カレシができた」

 

恐る恐る美智代が聞いて、ひとりはうわのそらのまま端的に応える。

 

「おねーちゃん、カレシできたの? ホントに? 前なんか言ってたバスケ部って言ってたやつ?」

 

「バスケ部はもうやめたって。バンドメンバーの喜多くんだよ」

 

「あらあらあら♪ それはおめでたいわね」

 

「マジかあ・・・」

 

わぁわぁと後藤家の食卓が賑やかになる。

 

「それでちょっとお願いしたいことがあって・・・」

 

「なになに? オシャレの相談? それともデートコース?」

 

「遺影を撮りたい」

 

「遺影」

 

またうちの娘が変なことを言い出したと、家族は身構える。

 

「私は今が人生の頂点だから。遺影にするなら今かなって」

 

気にすることなく、夢うつつの状態でぽやぽやと言葉が続いた。

 

「ひとりちゃんは彼氏ができてもひとりちゃんねえ。やっぱりおばあちゃん似だわ」

 

「喜多くんに愛想つかされるまでそんなにないと思うから早目がいいな」

 

冷静に答えながらも、ひとりの瞳に正気は帰ってきていなかった。

 

ワイワイと盛り上がりなら、後藤家の食卓は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





後日談(R18)はこちら
https://syosetu.org/novel/326090/1.html


小さいおっぱいを気にする女の子
ポークビッツを気にする男の子
彼女、彼らの美しさに違いはありゃしません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。