傭兵甲虫スパイトルコ   作:庭鳥

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 意外と早く次話が出来ました。なるだけ失踪しないように頑張ります。



砂漠の街

 

 砂漠のど真ん中を砂煙を巻き上げながら一つの鉄塊が疾走していた。四本の足が滑るように動き、砂の海をかき分けて進んでいく。その様は蟲によく似ている。スパイトルコという通り名の機体だ。防塵布がたなびくその中、ロボット兵器のガンナー席に座っていた男がため息を一つ吐いた。

 

(全く、砂、砂、砂。同じものばかり見ていると気が滅入ってくる…。)

 

 彼はそんなことを思うと額の汗を拭った。ガンナー席はその機体の上面にある都合上、日差しが照り付けて蒸すのだ。ガラス窓に分厚い布こそ巻いているが、そこから熱気は漏れてくる。空調こそ効いているが、根っこの部分が成金のこの男にはまったく我慢ならなかった。だがそもそも、彼が砂漠にスーツという全く不似合いな格好をしているのも原因であるのだが……。

 

(()()()()()()は涼しいのだろうな…。くそっ、むかつく場所だぜ!)

 

 彼はそんなことを思い、通信機のスイッチを叩きつけるように入れた。

 

「おい、ガルヴァン!腹が空いたぞ。そろそろ街にでも寄るとしよう!」

 

「……この辺には小さな町しかないはずだが?」

 

  答えたのは低く籠るような男の声である。ガルヴァンという名であるようだが、よく通る声のこちらの男とは対照的だ。男はガルヴァンの反論に少し悩んだ。小さな町しかないということは、当然仕事も小さいものになるだろう。そうなると儲けも少なくなる。そんなもの受けるのは彼にとってはご免であった。しかし……。

 

「ううん、暑い!とりあえず食事だ!小さくてもいいから街によるとしよう!」

 

「……まあ別に、いいがな。クリストフ。」

 

 ガルヴァンはそのように籠った声で言った。彼が手慣れた様子で操作すると、機体に巻き付けるように隠されていたサブアームが伸びた。それが砂漠の中の岩場に刺さると急制動を行いながら機体が振り回されるように曲がっていく。だがほとんど減速することもなく、目的地を変更した彼らは走り去っていった。伸びたサブアームが縮みながら彼らの後を追いかけていく。

 

 彼らは砂漠を疾走する鉄塊。仕事を求めてさすらう砲弾。彼らに通り名などないが、その機体はスパイトルコと呼ばれていた。

 

 

 

 ~傭兵甲虫スパイトルコ~  ─砂漠の街─

 

 

 

 厳しい砂漠の中でもいくつか街が成立する場所がある。その最たるものがオアシスである。彼らが今回立ち寄った街もその水源の畔に位置していた。街の入り口に着くや否や、クリストフがガンナー席から飛び出した。よっぽど狭く熱い場所に鬱憤がたまっていたと見える。彼は砂漠には似つかわしくないシルクハットに、黒ベスト、赤ネクタイという派手な格好をしていた。服装だけは上等な市民の様であるが、砂漠の気候には不似合いと言えるだろう。彼は砂除けのためのゴーグルも鬱陶しいと言わんばかりに外して、石造りの街に目を向けた。

 

 しばし遅れてスパイトルコの前面装甲が持ち上がり、そこからガルヴァンが顔を出した。背が高いが痩せていて、一見ひ弱な印象を受けさせる男だった。しかし防塵ゴーグルの奥から覗く瞳は暗く澱んだ色をして、どこか危うさを感じさせた。彼は砂色の防塵布をトランクから引っ張り出すと、それをスパイトルコに巻き付け始めた。鍵はかけてあるが隠蔽のためである。彼はその作業が終わると、ようやく防塵ゴーグルをぐいと額の上に押し上げた。そして彼は腰もとにリボルバーがあるのを確認し、ぶっきらぼうに口を開いた。

 

「待たせた。」

 

「ああ、待たせすぎだ。時は金なり……遅れたものはそれだけで損をするぞ。貴様も傭兵になったのなら、もっと金の重要性を認識しろ。」

 

「……ああ、すまない。」

 

 クリストフがそんな軽口を言い、ガルヴァンは黙ってそれに従う。そんな風に彼らは乾いた街の中に入っていた。彼らの目に入るのは民家が数軒、そして寂れて蜘蛛の巣の張ったような店が幾つかあった。

 

「静かな町だな。」 「寂れた町だ。」

 

 二人はほぼ同時に言った。クリストフがじろりとガルヴァンの方を見た。その視線を受けてガルヴァンは唸るように言った。

 

「……別にどっちでも良いだろう。」

 

「おいおい、それは違うぜ。静かな町ってのはポジティブな言葉の雰囲気だ。」

 

「それではダメか?」

 

「ああ、こんな金の気配のない場所は駄目な場所って相場は決まってる。」

 

「ああ、そう……。」

 

「金、金、金さ。世の中、それがなきゃなにも出来ねえ。」

 

 彼はそう言いながら歩いていく。まず探すのは酒場か軽食屋のようである。目的は言わずもがな、飯、そして仕事探しである。クリストフが酒場らしきものを見つけると、少し口元を緩めて歩調が速くなった。ガルヴァンは何も言わずにその後をついていった。

 

 

* * * * * * *

 

 

 酒場の中は閑散としていた。現在の時刻は昼過ぎであるため、こんなものであろう。隅のテーブルには仕事を失ったらしい中年の男と、老年の男が座っているが客はそのくらいだった。だがその店内は空調が効いた快適な空間でもあった。クリストフは機嫌をよくした様子であった。店主の男がその服装に奇妙な目を向けるのも構わず、彼はカウンター席に座った。ガルヴァンもその後に続いた。

 

「いらっしゃい。」

 

 店主が見慣れぬ客人にではあるが、一応の挨拶をした。

 

「ああ、店主。とりあえず冷たい水を二つ。後は、そうだな…。」

 

 彼らは壁にかかったメニューを見つめる。クリストフは懐に手を突っ込んで財布の中のコインを数えながら口を開いた。

 

「ポークビーンズにパン、桃の缶詰をくれ。」

 

「……俺にはビーフシチューを。」

 

 それを聞くと店主は厨房に引っ込んだ。クリストフはガルヴァンの方を向いて驚いたような、嫌そうな顔をしていた。どうやら今聞いたことが信じられないようである。

 

「おいおい、こんなクソ暑い砂漠のど真ん中でビーフシチューなんて食う気かよ。」

 

「料理は温かいものが良い。例え、こんな砂漠でもな……。」

 

 ガルヴァンはぶっきらぼうにそう言った。体だけでなく、心にも栄養が必要だ。それが温かさだと彼は時々言っていた。そのようなセンチな考え方は、クリストフにはピンとこないようであったが…。彼はこのような日常では世捨て人の様である。ともすれば戦士ではなく、詩人でもやっていた方が似合っているであろう。

 

(まあ、いい。コイツのウデは金になる。)

 

 クリストフはそう心の中で呟いて、机に肘をついた。そしてまだ見ぬ街での事業を考える。彼の行動理念はつまるところ、金、金、金…であった。

 

 店主が店の裏から現れると、水の入ったコップを二つ持ってきた。その表面には凝結した水分が付着し、ずいぶん冷えていることを感じさせる。運ばれて来るや否や、クリストフが一気に水を煽る。どうにも服装と日照りのせいで参っていたようである。ガルヴァンもゆっくりと水を口に運ぶ。

 

 砂漠では命をつなぐ水分である。良く冷えたそれは、この瞬間何よりも美味い。しばらくした後、彼らは運ばれてきた料理に舌鼓を打ちながら、談笑し、しばしの休息を楽しんだ。

 

 

 

 食事もなかなか進んだ頃である。クリストフが店の店主に対して慣れた様子で質問をした。

 

「なあ、マスター。この辺で最近変わったことはないか?揉め事とか。」

 

「…変わったこと、ねえ。小さい街だからな。チンピラのガキどもがでかい顔をしてるおかげで、他の小悪党もこの街には居ねえしな。」

 

「ふうん、つまんねえな。」

 

 クリストフはそう言った。つまらない、それは彼の考えていることとは少し違う。揉め事が無ければ、傭兵になど価値はない。それが例え戦争の落とし子、この辺りでは珍しい自立歩行兵器を使う傭兵でもだ。

 

(クソ、金が稼げなければ、スパイトルコの燃料代や弾代だって稼げやしない。あのポンコツが動かなくなりゃあ、俺たちはおしまいだ!)

 

 彼は意外と必死なのであった。その横でガルヴァンは食事が終わったまま黙っていたが、店主に向かってゆっくりと話しかけた。

 

「途中、二足の歩行兵器を()()……。あれはなんだ?街にいるとかいうチンピラ連中のものか?」

 

「ああ、お客さん。そりゃあ驚いたでしょうな。……そしてまさか!あの悪ガキどもがそんな上等なもの持っていやしませんよ。小さい街ですからねぇ、あれは……。」

 

 店主の言葉は途中で打ち切られた。扉を蹴破るようにして、ガラの悪い三人組の連中が入ってきたからだ。ポケットに手を突っ込み、ニヤニヤと笑っている。

 

「おいおい!俺らの街に知らねえ奴がいるよぉ!お客さんだぜ、ええ!?」

 

「おいおい、マジか。それならちゃあんと()()してやらねえとな?」

 

「しかも……機体持ちだ……。」

 

 彼らは口々にそう言いながら近づいてくる。その場には一触即発の空気が広がった。

 

 

 

~傭兵甲虫スパイトルコ~  ─砂漠の街 終─

 

 

 

 

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