「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で- 作:カービィ改二
新たなる峠への誘い…
そして時雨の中の何かが蠢きだします。
act.9「New Challengers(新たなる挑戦者たち)」
突如箱根に現れ、あっという間に神風連合の幹部や四天王の一人である「神風のトオル」を撃破した…
そんなドライバーの噂は、あっという間に箱根の話題となっていた。
銀色のワンエイティ。
乗っているのは黒髪の美人と青髪の少女。
すごいドラテクを持つ。
そんな事細な噂が、箱根を駆けまわっていた。
そしてその噂や話題に呼応されたのか、新たな挑戦者が時雨たちに迫る…。
…気が付くと、自分は海の上にいた。
永遠に水平線の先まで海が続いている。
周りには島々も見える。
「…ここは」
知らない場所。
しかしどこか見覚えがある。
自分の記憶に、この場所の見覚えがある。
そして何故が自分は水面に立てている。
手に持つのは…武器。銃に近い、いや、銃というべきか。
そして背負うは砲弾を積んだ武器…大砲と言うべきなのか?
両足の太ももには、魚雷と言うべき武器が装着されていた。
一体なぜ自分はこんな格好をしているのか?
余りにも物騒すぎる。
そしてここは何処なのか?
未だに見当がつかなかった。
周りには、誰かがいた。
緑髪のボーイッシュな少女。
黒髪ロングの髪飾りをした、巨大な武装を背負った女性。
そしてその女性の姉妹と思われる女性。
青髪で鉢巻みたいなものを巻き、板みたいなものを左腕に装着し、弓を持った少女。
顔はよく見えない。目元が隠れているようにも見えた。
彼女達は何者か?
何処かであったような気がするが、覚えてはいない。
いや、思い出せないというべきか。
疑問に思っているうちに、彼女たちは水平線の向こう側へ向かっていった。
「行かなくちゃ、いけないのかな」
静かに呟いた。
自分が知っている誰かが、あの果てにいるような気がしたから。
自らも自然と足を進めようとする。
だが足は水面にほぼがっしりと固定されて上げることが出来ない。
多少前かがみになれば前へ加速することが出来たが、それでも足を上げることは出来なかった。
ふと空を見上げると、何やら空に飛んでいる。
飛行物体か?数は…5機程度か?
見た感じたこ焼きが砲身を持っているように見えた。
両手に持った銃で自然と撃ち落とそうとしていた。
ドカン、ドカンと爆音が響く。
だが、当たらない。
いや、正確には打ち漏らした。
必死になっていると飛行物体の方から爆弾みたいなものを落としてくる。
そしてそれが自分の方向に落ちてくる。
落ちてきている時、はっとなってそれが自分を目掛けているように感じた。
だが、そう思うにはあまりにも遅すぎた。
急いで爆弾を狙って銃を向ける。だが、弾が出ない。
よりにもよってこんな時に弾切れになってしまうとは。
ダメだ、やられる!
そう思い、顔を腕で隠すようにした上で目を瞑った。
そして水しぶきと爆音と爆発で目の前は何も見えなくなった。
(推奨BGM終了)
◇ ◇ ◇
「ーーーーー」
気がつくと、自分はいつもの部屋のベッドで眠っていた。
「……夢?」
はっきりと手の感覚が覚えている。
服に当たった水の感覚。
武器を持っていた感覚。
戦っていた感覚。
空を見上げていた感覚。
太陽の光の感覚。
だが、なぜあの場所にいたのかは思い出せない。
あれは夢だったのか、自分の妄想だったのか。
はっきりとはわからなかった。
そしてその感覚はずっと時雨を襲い続け、茫然と天井を臨みながらしばらくの間布団から出れずにいたのだった。
ある人物が彼女に声をかけるまでは。
「時雨さーーん、朝ですよー。朝ご飯も出来てますよ〜」
そんな女性の声が、ドアの向こうからした。
よく聞き覚えのある、自分の雇い主の声だった。
「あ…す、すぐ行きます!」
はっとした。時計を見ると朝の8時ではないか。
時雨は着ていた寝間着のまま朝食を摂りに向かったのだった。
―――カーファクトリー・ピット。
昼過ぎ。
お客の車であるGRS205クラウンをハルカのアドバイスを受けつつ整備しながら、時雨は作業に勤しんでいた。
一方で当の時雨のワンエイティは整備ガレージに保管されていた。
一応、何時相手が来てもバトルできるようにガソリンもタイヤも整備されている。
そしてアドバイスを受けている途中、奈美子もやってきていたのだった。
「…というわけで、合成素材として同じ種類のパーツを使う事で、強化の度合いが上がります」
「パーツさえ集めれば、すぐ強化できるんだね」
「そうなんですよ」
パーツの話を聞いた時雨。
だがまだ1ヶ月も経っていない自分にとっては遠い先のことだろう…と思いつつ、クラウンのフロント左タイヤをはめ込んでジャッキを下げた。
「…これでいいかな」
「はい、バッチリです!」
ハルカのアドバイスを受けつつ仕事するも、要領は良いほうだった。
すると、時雨に対してハルカは意外な提案をしてきた。
「時雨さん、いっそのこと整備士の資格も取っちゃいませんか?時雨さんなら才能もありますし」
「あ、それいいわね!見てる限りかなり飲み込みも速いし」
「…僕が?」
「はい!きっといろいろ役立つと思うんですが…あれ?」
ハルカが時雨に整備士になるよう薦めた矢先に駐車場に響いた2台の車のエンジン音。
1台はハチロクトレノ、もう1台はBRZのようだ。
それらが止まり、乗り手の2人が店に入ってきた。
「チーッス」
「邪魔するぜ」
「あ、この前のアフロの…と、あなたは、神風のトオルさん!?」
ハルカが驚いたかのような口調で言った。
奈美子は疑問に思ったように聞く。
「ヒロシにトオル?何でここに?」
「は、ハルカちゃん!今日も可愛いなぁオイ!いつか俺とドライブを…」
案の定ヒロシはハルカにもデレデレのようだ。
「ああもう、おめーはうっとおしいぞヒロシ。…よう、お姉ちゃん。なかなかいい感じの工場じゃねえか!ハッハッハ!」
「あ、ありがとうございます」
そうヒロシに呆れつつも高笑いをするトオル。すると時雨の方を見てある事に気が付いた。
「ちょっと時雨に用があってだな…って、あれ?時雨、お前そのツナギは?」
この時、時雨は普段の服装ではなくツナギ姿だった。
車を整備するかのような格好だ。
すると説明するように時雨が言った。
「…実は僕、この『ピット』で雇ってもらってるんだ。それでこのツナギは、ハルカさんから貸してもらってる」
「えっ、ここで働いてたのか!そりゃ知らなかったぜぇ」
「ヒロシと会った頃から働き始めたからね」
「ほーう、じゃあホントについ最近なんだな」
「うん」
軽く時雨が説明した後、ヒロシとトオルが返答した。
すると疑問に思ったかのように奈美子が話しかけた。
「でも、どうしたの?わざわざトオルまで来るなんて」
「一応伝えておこうと思ってな。…例の四天王だが、時雨。お前らやはり目を付けられたようだぜ。特に『ハートビーツ』に」
「…ハートビーツ?」
「四天王の一人が率いるチームだ」
「そいつら、チーム総力を挙げてお前らを潰そうとしているって話だ。気を付けろよ二人とも!何なら、俺様が守ってやるぜぇ!!」
「…わざわざ忠告ありがとう。でも私は、四天王に直接会って『皇帝』について尋ねたかったから…バトルは避けられないと思ってるの」
忠告にも物怖じせずに奈美子は言った。
「奈美子…」
「ま、もし何かあったら気軽に言いな。おめぇら二人はもう、うちのチームの一員みたいなもんだしな!あ、そうそう。これも渡しておくぜ」
そう言ってトオルがズボンのポケットから時雨に手渡したのは、トオルの本名が書かれた名刺だった。
「…これは」
「革専門『
渡された名刺の内容が気になった奈美子が質問した。
「俺さ、御殿場の方でショップを経営してるんだ」
「革専門…えっ、レザーショップのオーナーさんだったんですか!?」
「レザーショップ?」
ハルカが驚いたかのように反応する。
時雨もそれに対して疑問に思ったかのように聞き返した。
「一言で言えば、革製品を売ったりオーダーメイドで販売したりしてるんだ」
「俺も時々その店に行ったりしてるんだぜ。まー俺が普段買うのは売られてる品の中でも値段が安いものばっかだけど、それでもいい品ばかりだぜ!」
「そ、そうなんだ」
時雨は多少驚いた。
まさかリーダーである男がショップオーナーであるとは。
でも、あるものを気にすると時雨は納得が言ったかのようにこう言った。
「でもだから、その恰好を…?」
「ああーこれか?」
そう。彼の服装は一部、当のレザーショップの製品。
特に帽子や上着は特注品。奇抜なファッションではあるが、実はこれも自ら広告塔も兼ねているらしい。
しかも描かれている住所には御殿場にあるアウトレットモール。
どうやらその中の1テナントらしい。
「このファッション自体は俺の趣味だけどな、ハハハ!まーもし困ったらうちの店に来な」
「え、ええ…どうも」
奈美子が多少驚いたかのような顔でそう反応する。
トオルは話を続けた。
「あと名刺の裏には俺の個人携帯の番号も書いてある。基本日中は仕事があるからあまり出られないけど、名刺の通り祝日じゃない月曜日は休みだから、そこなら出てやれるぜ」
「ありがとう。もし困ったときは、連絡するよ」
トオルの言葉に対し、時雨はそうにこやかに答えた。
「ああ、遠慮なく頼ってくれよ。じゃ、邪魔したな!」
「じゃあね!ナビ子、ハルカちゃん、時雨ちゃん!!ん~、みんな捨てがてぇ!」
そう言ってトオルとヒロシはそれぞれの愛車に乗って去っていった。
どうやら気に入られてしまったのか…?
と時雨が思っていた瞬間、入れ違いにまた誰かがやってきた。
「ドモドモ!この工場にサー、ナビ子ちゃんってコと時雨さんってドライバーが来てるって聞いたんだけどホント?」
現れた男はドレッドヘアーに鼻ピアス、しかもサングラスを持っている。
口調は随分と軽く、ハルカも圧倒され気味だった。
この人物が「ハートビーツ」の刺客なのだろうか?そう時雨は思った。
「僕が、時雨だけど」
「おお…キミかぁ〜!俺っちは「ハートビーツ」のメンバー、『グルーヴィ・マサヤ』!ヨ・ロ・シ・クッ!」
マサヤと名乗った男は、自信がハートビーツの刺客であることを明かした。
「『ハートビーツ』…四天王・ジュンのチームね。つまりあなたが、私たちを倒しにやってきた刺客って事かしら?」
するとマサヤは軽く右手人差し指を振ってこう言った。
「ノンノン、誰が出張るかは今協議中!俺っちはアンタらを拝みに来ただけでネ!でもまぁ折角だし、バトルしちゃう?大事なのはグルーヴだよ、グ・ルー・ヴ!」
「ぐ、グルーブ…?」
時雨は横文字に振り回されがちに言った。
「…何て適当な。」
だが、奈美子が多少呆れたかと思いきやマサヤの口から出たのは意外な言葉だった。
「…と思ったんだけど、そのカッコを見る限りどうやら時雨さんは取り込み中かな?」
「…あ」
マサヤは時雨のツナギ姿をみてそう言った。
まさか対戦相手がピットの従業員だとは思いもよらなかったのだ。
流石に仕事の邪魔をしてまでバトルをすることは出来ない。
マサヤは勢い任せにペラペラ話していた一方、そう思ったのだった。
実は意外と常識人なのかもしれない。
「えーっと…どうする?もし都合が悪ければ、俺っちまた出直すケド…」
「…ハルカさん、ちょっとお暇頂いてもいいかな?実際僕としてはバトルをしたいんだ…けど」
マサヤの言葉に対し、ハルカの方を向いて時雨は話しかけた。
するとハルカは時雨を押し出すようにこう言った。
「事情は分かってますよ。バトルなら全然問題ありません、是非行ってきてください!」
「本当?ありがとう、ハルカちゃん!」
「ありがとう。この分は、きっとどこかで取り返すから…」
「店長さん忙しい中ごめんネ、てなわけで時雨ちゃん借りさせてもらうよ!…まあバトルすると決まれば、先に俺っちたちの縄張りである第一早乙女峠の駐車場で待ってるヨ!」
そう言って去ろうとしたとき、奈美子はマサヤに質問した。
「あ…でもその前に一つだけ教えて、あなたは『皇帝』について何か知ってる?」
「伝説のドライバー、『皇帝』?さーて、どうだろうネェ…?まぁすべてはバトルをしてからサ!まずは俺っちのチーム『レゲエパンチ』が小手調べさせてもらうヨ!」
そう言ってマサヤは車に戻っていった。
FCのエキゾーストノートは第一早乙女峠へ向かったのだった。
「じゃあ、僕達も…」
「ええ、着替えていきましょ!」
「お二人とも、頑張ってくださいね!」
「うん…頑張るよ」
ハルカからの激励を受けた2人は、第一早乙女峠へと向けてワンエイティとS30Zで移動するのだった。
―――第一早乙女峠、往路スタート地点駐車場。
そこにいたのは6名程度のチームメンバーたち。
どうやら意外と少数精鋭なのかもしれない。
ワンエイティとS30Zを駐車場に止め、既に止められていたFC3Sのボンネットに座っていた男に時雨と奈美子は近づいた。
勿論、この時は時雨はツナギではなく普段の服に着替えていた。
「待たせたね」
「約束通り、来たわよ」
「待・っ・て・た・ヨ!じゃあ、早速『レゲエパンチ』のメンバーたちと相手してもらうからネ!」
「……」
時雨はこくりと頷いた。
「じゃーキミノブ、ヨ・ロ・シ・ク・ネ!」
マサヤの指名を受けた部下の一人が、勝負するように時雨に目線を向ける。
そして彼は愛車であるCR-Zに乗り、往路スタートラインへと移動するのだった。
それに応じて時雨たちも再びワンエイティに乗り、スタートラインに移動した。
◇ ◇ ◇
―――vsキミノブ
推奨BGM:DANCER(from SUPER EUROBEAT vol.103)
第一早乙女峠は序盤の右→左→左となる高速コーナー3つ、そして右ロングコーナー、左ロングヘアピン、最終右直角コーナーで形成されている。序盤で一気にスピードを乗せ、終盤でどれだけその速度を維持できるかがポイントとなっている。
時雨は箱根の色んな峠を巡った際に、多少この峠を走った経験はあった。
なので少しはコースに覚えがあるのだった。
一方で相手を見る限りただのCR-Z。どうやら性能差でまずは勝てそう…奈美子はそう思っていた。
なお走行レーンはCR-Z左レーン、ワンエイティ右レーンとなった。
「時雨、葦柄峠の時みたいに最初から上手くいくとは限らないわ。この峠はあなたが本気で走るのは初めてだから…いくら性能差があるとはいえ、油断しないでね」
「…気を付けるよ」
時雨はそう言ってこくりと頷いた。
すーっと深呼吸、そしてふーっと息を吐き出す。
心拍数が嫌でも上がっているのがわかる。
だが、それでも覚悟は決して揺らがない。
求めるもののために勝ちにいく…その気持ちだけが、時雨の心を支配していた。
カーナビのカウントが10と表示され、Pレンジ状態のままアクセルを踏んでエンジンを回転させる。
ハンドルをしっかりと握り、前を静かに見た。
求めるは勝利。だがまずは慎重に。
そう考えると時雨の手足はふと軽くなったように感じた。
3
2
1
GO!
カウントと共にギアをDレンジに入れ、一気にアクセルを踏み込む。
エキゾーストからバックファイアーが吹き出て、一気にワンエイティは加速。
スタート直後のストレートで一気にCR-Zを引き離した。
「(っ、速い!!)」
相手ドライバーも必死にアクセルを踏み込む。
だが徐々に距離は離れる。
そして離れつつある中、最初の右高速コーナーが迫る。
「…!」
アクセルをドリフトラインギリギリまで踏み続ける時雨。
そしてラインを踏み抜ける瞬間、アクセルオフ。そして一瞬ブレーキを弱く踏んだと思いきやハンドルを軽く右に切り、ドリフト態勢に。
ドリフト状態で直ぐコーナーエンドのドリフトラインが迫る。
直ぐにハンドルを左に曲げてカウンターを取り、そのままアクセルを踏む。
判定は「Good! +1.12m」。どうやらタイミングが少し遅かったようだ。
だがすぐ次の高速コーナーが迫る。
一瞬ハンドルをニュートラルにした直後、今度はアクセルオフの状態だけでドリフト状態に。
タイトなドリフト区間だが、それに対しても何とか対応してハンドルを右に軽く切り返す。
そしてそこからさらにアクセルを踏んでいく。
「(くそっ…超速い!)」
CR-Zのドライバーはただそう言う事しか出来なかった。
必死に食らいつこうとしてもワンエイティとの差はみるみる広がっていく。
あっという間に10m以上の差がついていた。
第3コーナーはロックシェッドを抜けた直後の高速左コーナー。
ロックシェッドの出口部分にあるドリフトラインでドリフトを始め、抜けたところでカウンターを当てる。
時雨のワンエイティはまるでペースカーのように前を走っていった。
軽く右にハンドルを曲げたかと思いきやブレーキを掛けて一気に左にハンドルを曲げる。
フェイントモーションのお手本というのを披露するかのようにドリフトして言った。
「(向こうに行けるなら俺だって…!)」
そう言ってドライバーも軽く右にハンドルを切り、アクセルを抜いた。
だが、次の瞬間だった。
「(しまっ…?!)」
強烈なオーバーステアで車が一気に右に曲がってしまった。
―――タックイン。
車の荷重をアクセルオフやブレーキングでフロントに寄せた上でハンドルを切る事で、旋回性を向上させることが出来るテクニックである。
だが、FFであるCR-Zでフェイントモーションをする場合はタックインが発生しないように注意するべきだったのかもしれない。
今回の場合はタックインを意図せずに発生させてしまった事で、コーナーとは逆向きに車が曲がってしまった。
この事象自体はFF車乗りではあることらしいが、実際に事故も起きているというのだから笑えない。
CR-Zはラバーポールをなぎ倒し右のレーンへ。
慌ててブレーキを掛けることで右壁への接触はしなかったが、スレスレで停止した。
急いでバックギアに入れて車を整えなおし、左レーンに戻る。
だが、第4コーナーであるロング右中速コーナーを抜けた時点で既にワンエイティは最終コーナーである2個目のロックシェッドの出口にある右高速コーナーを抜け、ゴールライン目前にいたのだった。
CR-Zのドライブミスもあるとはいえ、結果は言うまでもなくワンエイティの圧勝だった。
◇ ◇ ◇
―――往路スタート地点。
「す、すいませんマサヤさん…負けました」
「ヒュー、キミノブが負けるなんてネ!でもまだ『レゲエパンチ』には強いヤツがいるヨ!さあ次だヨ、次!」
マサヤがそう言って、次のメンバーを呼び出す。
「…いいさ。誰だって相手するよ」
その様子に対して時雨は、軽くそう言い返すだけだった。
―――30分後。
レゲエパンチのメンバーたちを既にほとんど倒し、時雨たちは復路スタート地点の駐車場で止まっていたマサヤに話しかけに行く。
「大体倒してきたよ」
「まさかここまでやるなんて。さすが『神風連合』を倒しただけはあるネ」
マサヤは感心したかのようにそう言った。
「バトルしてくれるかしら?」
「よし、ノッてきた!必殺のドレッドドリフト走法、見せてやるヨ!」
「…いいさ。始めよう」
マサヤが愛車に乗り込むのと同時に、時雨と奈美子もワンエイティに乗り込むのだった。
―――vsグルーヴィ・マサヤ
推奨BGM:IT'S MY LIFE(from SUPER EUROBEAT vol.106)
マサヤの車は白のFC3S.見る限りはほぼノーマルのようだ。
レーンはFC3Sが左レーン、ワンエイティが右レーン。
コースは第一早乙女峠の復路。最初にロックシェッドの左コーナー、そしてロックシェッドを抜けた後のロング右コーナー、そのままロング左コーナー。
最後に高速コーナーが左、右、左と3つ続いてゴールラインとなる。
二台が並び、カーナビが同期してカウントを始める。
「時雨、まずは最初の壁よ。油断せず行きましょう!」
「…うん」
アクセルを踏んで、エンジン回転数を上げる。
「さぁーて、見・せ・て・も・ら・う・ヨ!」
マサヤはドライバーズシートで時雨の方を見て軽く呟いた。
二台のエキゾーストノートが響く中、双方のカーナビのカウント数が10と表示される。
アクセルを踏み、そして一瞬抜いてロケットスタートとなる回転数に合わせるようにエンジン回転数を調整する。
時雨の目線は間違えなく前を見ていた。
3
2
1
GO!
カウントと共に、Dレンジにギアを入れた瞬間アクセルを一気に踏み込んでいく。
一方でFCの方もギアをチェンジしながら加速を続ける。
「…スタートは互角、ってカンジかな~?」
マサヤはちらりとワンエイティの方を見て言った。
早速第一コーナーの左コーナーが迫る。
「…!」
ブレーキを軽く踏んでハンドルを曲げて後輪を滑らせる。
一気にドリフトの態勢へ。
サイドバイサイドの状態で2台はドリフト状態へ。
傍から見ればパラレルドリフト同然。
だがFC3Sは外側という事もあるのかアウトに膨れていく。
そしてワンエイティはそれを見越したかのようにFC3Sを追い抜いていく。
「(んぐぐっ…)」
マサヤはハンドルを必死に操作し、ドリフト状態を維持し続ける。
コーナー出口でアクセルを踏み、シフトアップ。この時点で10mほど距離はあった。
だが、マサヤには多少の余裕があった。
第二コーナーは超ロング右コーナー。右レーンであるマサヤにとっては有利だった。
ロックシェッドを抜け、当のコーナーが迫る。
「(ここでビシッと!)」
そう言ってマサヤはブレーキを踏んだ直後に左にハンドルを切り、そのまま一気にハンドルを右に曲げた。
彼もまたフェイントモーションを使ったのである。
このフェイントモーションで、マシンはコーナーの中間部分でクリッピングポイントを射抜いた。
「(…ここだ!)」
一方の時雨もコーナー直前でブレーキを踏み、ハンドルを左に傾けた直後一気に右に傾けた。
こちらもお得意のフェイントモーションだった。
だが、こちらは左レーン。圧倒的に右レーンであるマサヤのFC3Sに対して不利だった。
マシンの差が縮まり、結果的にワンエイティはそのまま抜かれてしまった。
「(やるじゃん…でも、俺っちまだまだここからだヨ!)」
コーナー終盤。出口のドリフトラインが見えてきた。
マサヤはじりじりと何かを待っているかのようにじらしていた。カウンターを当てつつ、それのタイミングを待つ。
そして、コーナー出口のドリフトラインにFC3Sが駆け抜けた瞬間だった。
「(いっちゃえ!)」
ハンドルをニュートラル状態にして、ハンドルに取り付けられたニトロボタンを押す。
FCはグリップを回復した瞬間、一気に加速していく。
70キロ台だったマシンは一気に120キロまで加速した。
この時点でワンエイティとの差は30m以上差が付いた。
FCは3つ目の左ロングコーナーに迫る。
そしてそれを追いかけるようにワンエイティが迫る。
ワンエイティは決してあきらめてはいなかった。
次のコーナーが自分立ちにとって有利だという事を認識していたからである。
「(落ち着いていく。手の内は…即座には明かさないものだから!)」
先行するFCから2秒近く遅れて、ワンエイティが第3コーナーに突入する。
コーナー出口でぐんとブレーキを踏み、左にハンドルを曲げてタイヤを滑らせた瞬間、アクセル全開。
カウンターを多少当てつつ、ノーズをインに近づける。
そして時雨はコーナー中間を駆け抜けた瞬間、ニトロボタンに左手を近づけてボタンを押した。
「(ここだ!)」
ドリフトしながらニトロを押すことで、ハンドルが暴れ出す。
正しく暴れ馬同然だ。一方間違えればすぐ吹き飛ばされてしまいそうだ。
「…っ!」
ハンドルを右に曲げてカウンターを当て続け、なんとかレーン内にキープするようにドリフトする。
オレンジポールギリギリにワンエイティの右サイドが迫る。
だがそこを紙一重のテクニックでワンエイティを制御し、コースアウトせずに済んでいた。
アクセルとハンドルを小刻みに調節し、コーナーの道幅目いっぱいに車を収めることが出来ていた。
そしてその紙一重のテクニックから生み出されるドリフトスピードは、想像を絶するものであった。
「(正直、怖い…でも、ここは譲れないから!)」
「(速い…!?まさか、向こうのコーナースピードが…!?)」
アウトに膨れるFC3Sをワンエイティは突風が突き抜けるように追い抜けていく。
数十メートルの差を時雨は挽回できていたのである。
そしてコーナー出口でもカウンターを当て、ワンエイティは最高速近くまで加速した。
メーターは150キロを示している。
ドリフトの判定も「Excellent -0.21m」。
完璧なドリフトとハンドルさばき、そしてニトロのタイミングが生み出した神業と化していた。
FC3Sも何とか追いつこうとするも、その差は広がり続けるだけだった。
2つめのロックシェッド入口にある高速右コーナー。
ワンエイティはこのコーナーに対しても限界目いっぱいまでアクセルを踏み続け、ここぞというタイミング…ドリフトラインのほんの数メートル手前でブレーキを踏んだ。
だが、それは軽く右足でつつく程度。
減速が必要ないと考えた時雨は、限界までニトロ使用時の速度を維持しようとしていた。
「……っ!」
助手席の奈美子が軽く声を出す。
まさかここまで速いスピードで駆け抜けるとは。
想像を絶するほどのものだった。
だが、怖さはなかった。
「(今の時雨なら…誰にも負けない気がする!)」
時雨への信用が恐怖を和らげていたのである。
FCとワンエイティの距離は更に離れる。
ロックシェッド内のドリフトラインでカウンターを当て、アクセルを全開に。
そのままロックシェッドを抜けて最終コーナーである右、左の高速コーナーが迫る。
「(ここで、ケリをつける!)」
時雨にはほぼ勝算しかなかった。
最後の最後でとどめを刺す。そんな感覚だった。
最初のコーナーでアクセルオフ、そしてハンドルを右に負けて勢い任せでドリフトさせる。
パーシャルスロットルからすぐコーナー出口。
コーナー出口で一気にアクセルを踏み込む。
そして、最後のコーナーにすぐ到達しようとする。
ここでも軽くアクセルオフで、最初のドリフトラインを勢いに乗ったままドリフト。
そして直後の出出口にあるドリフトラインで、アクセルを一気に全開にする。
だが、その瞬間だった。
「……!?」
時雨がある事に気が付いた。
ワンエイティが、加速しないような感覚だった。
それはほんの数秒だったのか、否、1秒にも満たない時間だった。
直後にワンエイティは加速を回復し、最終ストレートに向かって全速力を発揮する。
「(いま、タコメーターの回転数と実際のエンジンの回転数が異なったような…?)」
時雨はそう思った。
タコメータをちらっと見ても特に異常はないように思える。
だが、それではわからない何かを時雨は感じたのだった。
それでもアクセルは決して緩めなかった。
ここで引いたら、一瞬でも油断したら負けてしまうかもしれないから。
そしてワンエイティは、そのままゴールラインを駆け抜けた。
「俺っちじゃ、到底敵わないって感じかナ…ハハハ…」
数秒遅れてゴールラインを駆け抜けたFCの中で、マサヤは半ば降参したようにそう呟くしかなかった。
―――勝者、時雨。
マサヤとは2秒以上の差を持っての圧勝だった。
―――往路スタート地点。
マサヤのFC3Sとワンエイティが駐車場に止まった。
そしてFC3Sの手前に通路を跨いで対面する形で、ワンエイティも停車した。
「ヒュー!やるねぇキミ達!ノ・リ・ノ・リだったじゃない!俺っちの負けだよ負け、完敗サ!」
FC3Sから降りるや否や、ワンエイティから降りて近寄ってきた二人をマサヤは褒めた。
「…どうも」
「それじゃあ約束通り『皇帝』について知っている事を教えてくれない?」
時雨と奈美子が互いに反応し、マサヤに情報を求めた。
「わかった…と言いたいところだけどサ、俺っち、実は…『皇帝』については、マ・ッ・タ・ク知らないんだわ!いや~、ゴメンネ!」
「え…そんなぁ」
マサヤの言葉に、時雨はまるで自分事のようにへなへなと肩を下ろしてしまった。
がっかりしたのもあるかもしれないが、多少疲れもあったのかもしれない。
「もう、最初に言ってよ!」
「…やっぱり、『皇帝』に会うのは簡単じゃないんだね」
奈美子と立ち上がった時雨は互いにそう言った。
「ゴ・メ・ン・ネ!俺っち、情報とか噂とか、そういうのに疎くってサァ!」
「ん~じゃ、誰か貴方のチームで『皇帝』とバトルした事のある人、いたりしない?」
奈美子が続けて質問する。
「俺っち、チームの中の話も詳しくなくてサ…あ、でもそういうのは情報通の奴に聴いてもらった方がいいネェ」
奈美子がマサヤに質問するも手掛かりは見つからずと言った感じだった。
「失礼。こちらに今、ウチの同胞が来ていないか…?鼻ピアスで、ドレッドの軽薄な…」
すると、どこからかサングラスをかけた黒ジャケットの男が現れた。
どうやら先ほどマサヤと時雨がバトルをしている間にパーキングに来ていたらしい。
「おっ、噂をすれば、だヨ!こいつがうちのチームの情報通!『皇帝』の情報もこいつなら…って、誰が軽薄だってのヨ!!」
「軽薄なものを軽薄と言って何が悪い。独断でバトルを挑んだ結果の敗北とは…ボスが耳にすれば、いたく嘆く事だろう」
「…俺っちも別にバトルをするつもりはなかったんだけどサ?何かこう、その場のノリって言うの?ノリっていうか、グルーヴ?」
「ハァ……お前の軽率さには付き合いきれんな…全く」
マサヤの言葉に男はため息をついた。
すると男は時雨たちに目線を変えて話を続ける。
「…紹介が遅れたな。私は『スローハンドのシゲル』。『ハートビーツ』に名を連ねる者だ。お前…否、貴女が時雨嬢か?」
「う、うん。僕が時雨さ」
時雨がそう答えた。
「それで隣が…ナビ子嬢だったか」
「はいはい、その『ナビ子』嬢だけど、あなたが『ハートビーツ』の代表さん?チームきっての情報通らしいけど、どうやら文武両道のようね」
「ご明察…情報屋だけで生き残れる程、我がチームは甘いものではない。相応の腕は持ち合わせているつもりだ」
「こいつの異名『スローハンド』ってのはサ、ハンドルさばきが速すぎて腕が止まって見えた事からついたんだヨ」
マサヤが説明するように言った。
「そうなんだ」
「まぁなかなかの腕利きだし、気合入れなヨ?」
「う、うん…わかった」
マサヤの言葉に多少動揺したように時雨は言った。
するとシゲルに対し、奈美子が質問を口にした。
「ところで、情報通と言うくらいだから、『皇帝』についても何か知っていたりするの?」
「伝説のドライバー『皇帝』か…ナビ子嬢、なぜ貴方が彼について知りたいのかはわからないが、情報が決してないわけではない」
「教えて…と言ってもタダでは無理でしょうね」
「勿論だ」
すると時雨がシゲルのその言葉に反応するように、こう提案した。
「じゃあ、お願いだ。僕とバトルをしてくれ。勝ったら奈美子に情報を教えてやって欲しいんだ」
「時雨…」
シゲルはその言葉を待っていたかのように、こう言葉を続けた。
「よかろう。…では、私のチーム『ブラインドフェイス』のメンバーを連れて来ている。まずは諸君らの実力を測らせてもらいたい…話はそれからだ」
「いいよ…誰だって相手になるさ」
「メンバーたちに勝ってあなたを引きずり出すわ!」
姿を現した、マサヤ曰く『情報通』の男。
この男に勝利すれば何か『皇帝』についての手掛かりを得られるかもしれない。
となれば時雨たちがバトルをする事になるのは自然の摂理。
新たな刺客たちとのバトルが始まろうとしていた。
(第9話End)