「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第10話です。
マサヤに続きシゲルとバトルすることになります。
そして時雨にある現象が…


act.10「Knowledgeable(峠の情報通)」

噂が噂を呼び、時雨たちは新たな刺客に狙われた。

早乙女峠に現れた「ハートビーツ」の刺客、グルーヴィ・マサヤを倒した時雨。

そして彼を倒した直後、現れたのは情報通を名乗るサングラスの黒の長髪男。

そんな彼に、時雨は「皇帝」の情報を求めるべくバトルを自ら仕掛けるのだった。

彼のチーム、「ブラインドフェイス」の仲間たちとのバトルが始まる。

 

 

 

 

―――vsアキシゲ

推奨BGM:WHEELS OF FIRE(from SUPER EUROBEAT vol.115)

 

相手は青のワンエイティ。

コースレーンは左レーン、時雨の銀のワンエイティ。右レーン、青のワンエイティ。

コースは早乙女峠往路。最初2つの右→左と続く高速コーナーがポイントだ。

2台がスタートラインに並ぶ。

 

「……」

ギアをパーキングに入れ、エンジンの回転数が問題ないかを確認するかのようにアクセルのオンオフを繰り返す。

先ほどフルスロットルにした際に一瞬だけ回転数がズレたかのように思えたが、あれは自分の勘違いだったのか?

そう時雨は思うようになっていた。

何度かエンジンを1000回転から9000回転まで回したが、エンジン回転数はほぼエンジンの回転と同じ感じで回っている。

先ほどのあれは何だったのか?

そう思っているうちに、カーナビがカウントを始めた。

エンジンは問題なさそうだが本当に大丈夫か…そう不安に思いつつも、ハンドルを握る右手に力を込めた。

左手はギアにかけて、何時でも発進できるようにする。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

カウント共にアクセルを踏み込み、ギアをPからDへと切り替える。

マシンは一気に加速し、バックファイアーが車から出るのを感じた。

一気に加速する2台。だがパワー差は歴然。

多少のパワーアップがここでも役に立った。

徐々に銀色のワンエイティが前に出た。

傍から見ればテールトゥノーズ同然まで差が開く。

 

「(っ…スタートでおいていかれる!)」

相手のドライバーはそう言わざるを得なかった。

2台に最初の高速コーナーが迫る。

目前まで時雨はアクセルを踏み続ける。

メーターは120キロまで迫っている。

そして最初のドリフトラインまで残り3mといったところ。

 

「…!」

この瞬間時雨はアクセルオフにしたかと思いきや、ブレーキを左足で軽く突き出す程度に押して、ハンドルが30度程度になるように右に曲げた。

曲げた瞬間ハンドルをセンターから10度程傾け、即座にカウンターをとる。

アクセルを踏み続ける事で減速を極限まで抑え、マシンは静かにドリフトする。

だがカウンターを執った瞬間、白黒のゼブラゾーンの上にすぐ2回目のドリフトライン…つまりドリフト終了のラインが現れる。

そして銀色のワンエイティがそのライン上を前輪タイヤで踏みつけた瞬間…時雨はハンドルをさらに左に一瞬切って、ニュートラルに戻すことによって一気にカウンターを当ててマシンの態勢を整えた。

最低限のドリフト角度で、最大限の速さを維持しつつコーナーを突破する。

メーターは120キロを出す。

直ぐに2個目の左高速コーナーが迫る。

 

「(息継ぎせずに…そのままのペースで!)」

コーナーが迫る。

前輪がドリフトラインを踏む直前に左足でブレーキを再び軽く踏み、そのまま10度ほど左にハンドルを傾けることでマシンを荷重移動でスライドさせる。この間、アクセルはほぼパーシャル状態だった。

そして距離にして20mもないところにドリフトラインがある。

そこを目掛けるように、時雨は右にカウンターを当てた。

そしてカウンターを当ててハンドルをニュートラルにした瞬間、アクセルを全開に踏み込んだ。

 

「(うぐ…!)」

青のワンエイティのドライバーは戦慄した。

立ち上がりが違いすぎる。この際青のワンエイティは最初の2つのコーナーをグリップで走っていた。

本来グリップはドリフトよりも速いはずである。

だがどんなに自分がアクセルを踏み込んでも、グリップで2つのコーナーを駆け抜けていてもあのワンエイティには追いつけなかった。最初の2つのコーナーで明らかに差が付いた。

なぜこんなにも速いのか…速いドリフトを体得しているからといえばそれまでかもしれない。

 

「(だが、俺だって…!)」

バトルはまだ始まったばかり。

10m程の差がついても、まだコーナーは4つもある。

ストレートでも少しずつ差は開くが、まだコーナーでは何とかなるかもしれない。

アキシゲはそう思っていた。

ロックシェッドに入り、出口直前の左直角コーナーが迫る。

 

「(ここは…いつも通りで)」

ブレーキをある程度踏み、リリースした瞬間ハンドルを直角に左へ傾ける。

130キロから90キロへ。ハンドルを曲げた瞬間タイヤは滑りだし、ドリフト状態へ。

そしてアクセルをハーフの寸前…数値にして40%程まで踏み込む。

適度にタイヤにパワーを与え続ける事で滑りすぎず、滑らなすぎずのペースを維持できていた。

そして直後にハンドルを軽く右に切り、タイヤをコントロールする。

ロックシェッド出口付近のドリフトラインが迫る。

迫るのと同時に、カウンターの角度を増してマシンを整えるようにする。

そしてドリフトラインを踏んだ瞬間、ハンドルをニュートラルにしてアクセルを全開に踏み込んだ。

判定は「Excellent -0.31m」。

タイミングとしては完璧だった。

この踏み込んだ瞬間の加速は段違いだった。文字通りの弾丸同然。青のワンエイティをぐんぐんと引き離した。

 

だがバトルはまだ続く。

次のコーナーは右ロングコーナーである。

左レーンである時雨にとっては不利だが、時雨はここでも例のやり方を実践しようとしていた。

コーナーとは逆向きの左側に少しだけハンドルを切り、フェイントの姿勢に入る。

そしてノーズがガードレールギリギリの方向を向いた瞬間、ハンドルを一気に右に曲げてブレーキを強く踏んだ。

タイヤがロックする感覚だった。ドリフト状態に入り、後輪が空転を始める。

文字通りの爆音と白煙が峠に響く。

パーシャルスロットル状態でなんとかドリフトを維持しつつ、ワンエイティのノーズは中央のオレンジポールスレスレまで迫っていた。

アウトインアウトで一気にコーナーの内側まで迫り、コーナーワークとしては完璧な程だった。

しかしパーシャルスロットルが仇になっているのか、徐々に速度が下がりつつある。

100キロ台から80キロ台まで…この低下は致命的だった。

だが、ここで時雨はある事に気が付く。

 

「(…まさか)」

今自分はパーシャルスロットルでアクセルを踏んでいるが、あえてパーシャルにする必要はないのではないのか?

時雨は思った。

失速してドリフト状態が止まったら意味がない。

そう思った時雨はアクセルを全開まで踏み込む。

マシンは100キロ台まで回復した。

ロングコーナーを曲げすぎない角度でドリフトしていく。

そして出口のドリフトラインが迫る。カウンターを当てっぱなしの状態であるが、角度は浅めでなんとかドリフトを維持し続けている。

ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつける。

その瞬間時雨はあえてアクセルを抜いた。

そしてハンドルをニュートラルに。

 

「(ここだ…!)」

ニュートラルにするのと同時に、時雨は再びアクセルを全開まで踏み込んだ。

マシンの速度が100キロ台から120キロ台まで一瞬で加速する。

パーシャルスロットルからアクセル全開までに生じる加速の低さが、アクセル全開状態から一瞬アクセルオフを通して再びアクセル全開にする事で、加速のロスを抑える事に成功していたのである。

マシンは130キロ台まで到達し、5つ目の超ロングヘアピン左コーナーが迫る。

ドリフトラインを認識した時雨は一気にブレーキを踏み込む。

だが今回はタイヤをロックさせない。

スローインファストアウトを確実に行えるように、ブレーキを調整したのだ。

小刻みにハンドルを右に曲げる事で車を中央線スレスレまで寄せて、ハンドルをニュートラル状態に。

ドリフトラインを踏み込むまでに速度を75キロまで低下させていた。

そしてドリフトラインを踏み込むと同時に、ハンドルを直角以上…数値にして100度以上左に曲げ、アクセルを全開にしてマシンをドリフト状態に持っていく。

スローインファストアウトの典型である。

マシンは最初こそワンエイティのリアがオレンジポールのスレスレを駆け抜けるも、そこからドリフト状態に入った後はマシンの進路がレーンの中央を通り、一気に左側のインにべったりの状態にまで陥った。

だが時雨はアクセルを全開にしたままハンドルのコントロールでドリフトを維持し続けていた。

ノーズがインの路肩にピッタリくっつくように銀色のワンエイティは駆け抜ける。

コーナーに合わせるように、銀色のワンエイティはその進路を進んでいた。

そしてガソリンスタンド付近を抜けた瞬間、ドリフトラインの出口が迫る。

ここでも時雨は、先ほどのやり方を実践しようとした。

 

「(フルスロットルでも、アクセルを抜いてそこで整えた後全開にすれば…!)」

ドリフトし続けるワンエイティ。

そして前輪がドリフトゾーンの末尾にあるドリフトラインを踏みつけようとした瞬間だった。

アクセル全開だった時雨はアクセルオフの状態にし、ハンドルもニュートラルの状態にした。

そして前輪がタイヤを踏みつけた瞬間、時雨は一気にアクセルオンで加速したのだった。

 

「(よし、ここでケリだ!)」

御察しの通り、ここでも銀色ワンエイティは一気に加速して2個目のロックシェッドに突入した。

アクセルを踏みつけた結果速度は130キロまで回復したのである。

 

「格が違いすぎる…!」

相手の青のワンエイティは拳でハンドルを叩いてそう言わざるを得なかった。

なにせ第4コーナー時点を抜けた時点で銀色のワンエイティの視界から消えかけ、そして第5コーナーで完全に視界から消し去られてしまったからである。

明らかに自分の敵う敵ではなかった。

そう、青ワンエイティのドライバーは痛感したのだった。

 

この後、最終の右直角高速コーナーがあるのだが、結果は言わずもがな。

最終コーナー先のゴールにおいては、2台のタイム差にして4秒ほどの差が2台に生まれていた。

明らかに時雨の圧勝だったのであった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――往路スタートパーキング。

バトル結果を聞いてシゲルが納得するかのようにこう呟いた。

 

「…ほう、流石『神風のトオル』や連合の『双剣』に勝っただけはあるな。この程度の実力メンバーでは太刀打ちできそうにないな…だが、まだチームメンバーはいる。実力を見せてみろ!」

シゲルは時雨たちに対してそう言い放った。

 

「…誰でもいいさ、相手になるよ」

時雨はそう言い返すだけだった。

 

 

 

 


 

 

 

―――vsリンタロウ

推奨BGM:MOVING IN TOKYO(from SUPER EUROBEAT vol.119)

 

コースは復路。

最初に直角の左コーナー、ロックシェッドを抜けて右ロングヘアピン。そこからさらに左ロングヘアピン。

右の高速コーナー2つの後、最終の左高速コーナーである。

相手の車はNCロードスター。

左レーンはNCロードスター、右レーンはワンエイティ。

互いにアクセルを踏み込み、2台がエンジンを回転させる。

エキゾーストのバックファイアーが互いに響く。

そして回転してエンジンを整えているうちに、カーナビがカウントを表示する。

ハンドルを掴む手に力を込める。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

カウント共にギアをPレンジからDレンジへ変え、アクセルをベタ踏みにする。

バックファイアーがエキゾーストから噴き出て、2台のマシンは急加速で発進する。

数メートルだけ右レーンのワンエイティがリードした状態で、第1コーナーの左直角コーナーに迫る。

時雨はブレーキを軽く踏んだと思いきや、ハンドルをくいと右に曲げて一気にハンドルを左に切る。

アクセルは全開で踏み込み、ハンドルを緩やかに右に切り続けることで滑り出しているタイヤをコントロールする。

お得意のフェイントモーション。

時雨にとっては何度もやっていて既に体に染みついたやり方になっていた。

即座にドリフトラインが迫る。

それを認識した瞬間、アクセルオフ。

そしてラインを前輪が踏みつけた瞬間、ハンドルをニュートラルにしてアクセルオン。

一気に加速する。

だが加速する間もなく、ロックシェッドの出口が迫る。

そこには第2コーナーの入り口のドリフトラインがあった。

 

「(この峠も、さっきまで全開で走っていたから…)」

「(時雨は…まさかこの峠の走り方を理解したの?)」

奈美子はそう思わざるを得なかった。

アウェーな条件も驚異的な飲み込みの速さでカバーできてしまう。

しかも新車ならともかく乗っているのは捨て値で売られてた中古車。

時としてパワー差すらも腕でカバーする。

はっきり言えばとんでもないことだった。

 

アクセル全開のまま多少ハンドルを左に向けてカウンターを当て続ける。

レーンの路肩をべったりと食いつき続ける。

インベタで一定速度をキープしてドリフトし続けている。

その走りは、さらなる速さを求めるかのように野心的だった。

 

「(追いつけない…!)」

NCロードスターのドライバーはそう言わざるを得なかった。

ただでさえ相手に有利な右コーナー。

しかもコーナーの速度差が違いすぎてみるみる離される。

ワンエイティの姿は点になろうとしていた。

アクセルを踏んでもタイヤが暴れる。

アウトにズルズルと膨れるロードスターはみるみる減速していく。

左側の壁スレスレをなんとか接触せずに走るが、その速度は時雨の者とは比べ物にならなかった。

前を行くワンエイティを見ると、既に第3コーナーの入口でドリフトを始めようとブレーキをフラッシュさせた。

ぐいとリアを右に向けたかと思えば、一気にタイヤを曲げて左に。

直角ロングコーナーをフェイントモーションで突破しようとしていた。

ワンエイティはその進路を内側のオレンジポールギリギリまでノーズを寄せ、そのままインベタ状態でコーナーの先に消えた。

 

「(くそっ…!)」

なんとか第2コーナー出口に到達するNCロードスター。

グリップを回復させ、加速していきそのまま第3コーナーに突入する。

このロング直角コーナーは左コーナーなのでロードスター有利だった。

サイドブレーキを引き、タイヤを滑らせる。

だが

 

「(…き、消えた!)」

ドリフトを始めた時点で、ワンエイティは第4コーナーはおろか第5コーナー直前、つまり2個目のロックシェッドを抜けていた。

明らかに差が広がりすぎていたのである。

 

「(速すぎる…追いつけねえ)」

NCロードスターはドリフトをやめてここで降参。

ニトロを使ったところで追いつけない事は重々承知だった。

ハザードを付けて降参したのだった。

速度も落とし、50キロ台まで減速。

降参したのと同時に、ワンエイティは最終コーナーを抜けてゴールラインの近くにいた。

そしてそのまま独走状態で勝利したのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

更に10分ほどして、時雨はブラインドフェイスの殆どのメンバーを破っていた。

愛車と共に待機していたシゲルの元へと向かい、話しかける。

 

「大体倒したけど…どうかな」

「ふむ、『ブラインドフェイス』をここまで破るとは…流石と言っておこうか。約束通り私が相手をしよう。車をスタートラインに並べろ」

時雨の言葉に対し、実力を認めたかのようにシゲルはそう言った。

 

「わかった…始めよう」

時雨がそう言ったところでシゲルは愛車である灰色のGC8インプレッサに乗り込み、スタートラインに移動した。

そしてそれを追うように、時雨と奈美子もワンエイティに乗り込んで移動するのだった。

 

 


 

 

 

―――vsスローハンドのシゲル

推奨BGM:SUPERSONIC LOVER(from SUPER EUROBEAT vol.122)

 

 

相手の車は先程記載した通り灰色のGC8インプレッサ。馬力では明らかにシゲルのほうが有利だった。

コースは往路。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、GC8インプレッサ。

2台がスタートラインに並ぶ。

 

「…『私の『スローハンド走法』には決して誰も敵いはしないのだ!」

シゲルはそう自信ありげにドライバーズシートで呟いた。

 

「(…もっと速く)」

一方の時雨もそう思っていた。

今はとにかく誰よりも速く走りたい。

そんな思いが時雨の中で強くなりつつあった。

スタートダッシュを出来るよう互いのエンジンが爆音を上げる。

ボクサーエンジンにかき消されがちではあるが、ワンエイティのエンジンも決して状態が悪いわけでは鳴った。

だがパワー面では明らかにインプレッサが有利である。

求められるのは車を操る技術。それが全てだった。

カーナビにカウントが表示される。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

カウント共に2台がギアをDレンジ、或は1速に入れ、互いにアクセルを全開に踏み込む。

だが、先手を取ったのは

 

「っ…!」

「(やはりワンエイティか…)」

インプレッサだった。

言う間でもない。ワンエイティは200馬力程度しかないのにインプレッサはただでさえ280馬力級。パワー負けするのは当然と言えば当然であった。

徐々にマシン差が広がる中で、第1コーナーである高速右コーナーが迫る。

 

「……」

ハンドルをすっ、と一気に右に曲げる。

正に瞬間移動とも言うべきハンドル操作だった。

直ぐにカウンターを当て、アクセルオン。

一瞬の減速で、直ぐに110キロまで加速する。

だが加速した瞬間すぐに第2コーナーである高速左コーナーが迫る。

ここでもシゲルは瞬時にハンドルを左に切った。

そして切ったかと思えばその直後にはカウンターを当ててアクセルをさらに踏み込んでいた。

アクセルを踏み込み、ロックシェッドに入る。

パワー差で一気にケリをつける…シゲルは最初からそう思っていた。

そう思いつつもシゲルはバックミラーに目を向ける。

だがそこには、予想した光景とは異なるものが映っていた。

 

「(食らいついてきてる…向こうの方が、コーナーでは上という事か?)」

ワンエイティが、徐々に迫りつつある。

第2コーナーの内側という事もあるが、そこで食らいついてきていたのである。

速度差も向こうの方が上という事だろう。

そして肉薄ぶりが明らかになりつつある中で2台は第3コーナーである左高速直角コーナーが迫る。

 

「っ…」

少し動揺したかのように、シゲルは瞬時にハンドルを切る。

だがそのタイミングは速かったのか、オレンジポールをノーズがこすった。

流石に安定性が高い4駆ということもあって進路に大きなブレはなかったものの、速度が少し低下する。

カウンターを当ててグリップを回復させ、一気に立ち上がる。

だがその直後、ワンエイティはインプレッサのテールトゥノーズという状態にまで追いついていた。

コーナーの差があるとはいえ、向こう側の方がコーナーでは速いのである。

それこそはシゲルも感心せざるを得なかった。

 

「(流石だな…だが、私をこれまでの奴らと同じと思ってもらっては困る)」

見せていない手の内。頼れるものはまだある。

その感覚がシゲルを落ち着かせていた。

 

「(何とかして、残りのコーナーで詰めないと追いつけない…!)」

一方の時雨の顔とメンタルにはこれ以上にない焦りが生まれていた。

ロックシェッドを抜けて、第4コーナーである右ロングコーナーが迫る。

ドリフトラインが迫り、二台のブレーキランプがほぼ同じタイミングで点灯した。

そしてほぼ同じタイミングで消灯したかと思えば、ハンドルが一気に右に曲がる。

 

「(ここだ…!)」

右手でハンドルをキープしながら、左手でハンドルのニトロスイッチを押す。

マシンは一気に加速するが、その安定性は高いものだった。

4駆の底力とも言うべきコーナーリング。

後輪が暴走する事もなく、4つのタイヤにパワーが着実に伝わる。

アウトに若干膨れつつあるが、マシンの加速はこれまでとは段違いと言ってもいいものだった。

インとアウトの差もあり、2台の差は一気に車3台分にまで広がる。

 

「時雨…!」

「……」

動揺するかのように奈美子が叫んだ。ニトロを使えと言う指示同然だった。

だがそんな声は時雨にはほぼ聞こえていないも同然の状態であった。

ハンドルを左に曲げつつ、アクセルを全開にして何とか追いつこうとしていた。

だが、インとアウトの差もあってなかなか追いつけない。

ここでの勝負は捨てざるを得ない…そう時雨は思わざるを得ない。

だが別の方法はある、時雨はそうも思っていた。

 

「(やるしかない…トオルの時に出来た、あれを!)」

そう。限界まで集中することで出来た、ゼロカウンター。

あの時はほぼ無意識ではあったが、自分の意識全てが車と一体化しているような感覚だった。

車に感じる風、路面の感覚、目の前の風景の動き方…全てが、ワンエイティと共有していたかのような感覚に陥っていた。

 

「(トオルの時と同じように、集中するんだ…自分の手先に、足先に意識を全部持っていく!)」

そう思いつつ、コーナー出口のドリフトラインでアクセルオフ、そこからハンドルをニュートラルにして再びアクセルオン。立ち上がりで詰めようとするも、追いつけない。

ニトロを使われたこともあり、車に例えれば3台分くらいの車間差があった。

ここまでくればもう最終手段である。

限界まで意識を車に集中させてコーナー速度を高める。

このやり方で、第5コーナーであるヘアピンで食らいつくしかない。

 

「(手先に意識を集中させろ、前だけを見ろ、両足の感覚を保て…!)」

第5コーナーの左ヘアピンロングコーナーが目前に迫る。

周りの音が風を切るだけに感じる。視野が普段以上に狭く感じる。

手先の感覚も、足先の感覚も異様なほどに熱さを感じる。体中に熱がこもる。

下手したら両手両足から溶けてしまうのではないか、そんな感覚な程、体が燃えるような感覚に包まれていた。

そしてそんな左足で、アクセルオフの状態の上でブレーキをロックされる寸前まで踏み込む。

速度は100キロ台から一気に65キロまで減速する。

ロックされる感覚と共に、後輪がスモークを上げて横滑りを開始する。

 

「(ここ、だ…!)」

そしてその瞬間…正しくタイヤがドリフトラインを踏みつけた瞬間、マシンを軽く左に曲げた。

勢い任せでタイヤは滑りだし、ワンエイティはドリフト状態に突入する。

ドリフト状態に突入するや否や、カウンターを右に数度だけ当ててそこからアクセルを再び全開に。

ドリフト判定は「Excellent +0.04m」。

マシンはコーナーリング中にも関わらず徐々に加速していく。

そしてそのままインに寄ったワンエイティは、ノーズを壁スレスレにまで寄せ、そのまま吸いつくようにコーナーリングしていく。

ハンドルはニュートラルからほんの少し…たった数度だけ右に曲げた状態をキープし続ける。

ほぼゼロカウンターと言ってもいい状態だった。

インプレッサとの距離差はまだ車2台分はある。

そして両手両足の燃えるような感覚もまだ残っている。

 

「(今しか、ない!)」

コーナーの中間地点、ガソリンスタンドの標識の柱の真横を通り抜けた瞬間だった。

咄嗟にハンドルに取り付けられたニトロスイッチを左手で押す。

マシンは75キロほどだったのがそこから一気に加速し。コーナーにも拘らず100キロ以上まで速度が当たっていた。

 

「(な…!)」

シゲルはその光景に戦慄するしかなかった。

ワンエイティは一気に追いついてきている。

自信もドリフトし続けるが、その速度差は圧巻。

出口のドリフトラインで2台が並ぶ…いや、時雨のワンエイティがノーズだけ先行した。

加速差は歴然。ワンエイティがインプレッサを出し抜き、そのまま2個目のロックシェッドへ。

そして最終コーナーである右直角コーナーに迫る。

テールトゥノーズの状態でワンエイティが先行し、インプレッサも迫る。

時雨の両手両足が熱い感覚は未だに健在だった。

2台がパラレル状態でドリフトする。

速度差はほぼ互角。

少しだけインプレッサが差を詰めるも、その差は追い抜くには不十分と言うべきものだった。

 

「(私が内側のコーナーで、差が詰められない…)」

シゲルは感服するしかなかった。

ここまでの実力を出されてしまえば、もはや自分の敵う敵ではない。

そう思わざるを得なかったのだ。

 

「(まだ残ってる…いける!)」

一方の時雨。

両手両足が熱い感覚が残り続ける中、ハンドルを左に曲げ続けてカウンター状態。

アクセルを踏む右足も、ブレーキ部分にある左足も、そして両腕も燃え盛るような感覚だった。

目先の光景に視線が極限まで集中する。

映像的なもので言えば集中線と言うべきものがあり、視野が普段以上に狭い感覚に陥っていた。

コーナー出口のドリフトラインが迫る。

ここでアクセルオフ状態からカウンターを止めて、一気に加速しようとする。

最後のとどめである。

だが、ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけアクセルを踏み込んだその時だった。

 

「(えっ!?)」

体の熱さが一気に覚めるような感覚だった。

一気に全身の感覚が水をかけられるかのように冷ややかなものになった。

視野も一気に広がり、耳にはエンジンの爆音が響いて聞こえてきた。

アクセルは踏み込み続けているが、速度は先ほどまでの「体が熱い感覚」に比べれば明らかに遅いものであった。

まずい、非常にまずい。速度が先ほどまでに比べると上がらない。

両足が硬直したかのような感覚である。

アクセルは踏み続けているが、制御が効かない。

もはや結果を流れに任せることしか出来ない。

それどころかハンドルが普段よりも曲がらない感覚に陥っているようにも思えた。

「(ハンドルが、曲がらない!?)」

力任せに必死にハンドルを操作し、なんとかゴール直前のカーブに突入する。

だが、その角度は必要なもの異常なものだった。

 

「っ…!」

ロックシェッドを抜け、インプレッサが自慢のパワーでワンエイティに追いすがろうとしていた。

だが、この時点マシン差は1台分でワンエイティはゴール目前。

最後の緩い左カーブもあり、追いつくのは至難だった。

体中の感覚がマヒしている中でアクセルを踏み込み、ワンエイティは何とか逃げ切りを果たそうとする。

そしてその結果は

 

「『スローハンド』走法が、こうも敗れるとは…」

2台がゴールラインを駆け抜けた。

シゲルは負けを認めざるを得なかった。

結果から言えば時雨の0.35秒差。

間一髪とはいえ時雨の勝利だったのであった。

ゴールラインを駆け抜けた後インプレッサが失速するのを見て、時雨はアクセルからやっと足を離すことが出来た。

徐々にブレーキを踏んで、路肩にマシンを止める。

 

「やったわ!シゲルに勝ったわよ、時雨!」

「あ、うん…ありがとう」

「ヘアピンの時の速さはすごかったわ…まさか、あんなに速いドリフトが出来るようになるなんて!」

「僕の力なんて些細なモノさ…このワンエイティと…そう、奈美子のおかげだよ」

「そうかな。でもドライバーである時雨の実力が大きいのは事実だと思うわ、本当にすごい」

奈美子が時雨を褒め称える。

しかし当の時雨には「おめでとう」の声こそ聞こえはしたが、先ほどまでの感覚軽く疑問に思ったが、それ以上追及することは出来なかった。

「ありがとう」以降の言葉もほぼ無意識で出ていたのであった。

 

「(さっきの両腕両足が燃えるような感覚…あれは何だったんだろう…それに視野が狭まる、体がおかしくなる感覚だった。あれは一体…)」

スタート地点である往路パーキングにスロー走行で戻る最中、時雨は疑問しか持っていなかった。

余りにも不思議な感覚。

トオルの時もそうだったが、あの時は勝ちたいという意志が全てで起きた奇跡くらいにしか思いこんでいなかった。それが2度も起きたのだろうか。

 

◇ ◇ ◇

 

ここで読者の皆様に種明かしをしてしまえば…彼女は「Spirits」状態に陥っていたのである。

本家ドリフトスピリッツには「究極のドリフト」と呼ばれるものがある。

それこそが「Spirits」状態でのドリフト。

発生すると車が青い炎で包まれるような演出となり、コーナーでの速度もマシンの限界同然のものとなるのである。

この「Spirits」の発生条件はゲーム内でこそ明確で、車に対する愛着度がレベル10以上であり、なおかつコーナーの判定で「Excellent」を出した時、車の愛着度×0.1%の確率で発生する。

最速で走るためには、ほぼ必須とも言うべきテクニック。

そしてプレイヤーたちが必死になって車の愛着度を挙げるのも、Spiritsを発生させやすくするためという一つの理由にもなっているのである。

逆にSpiritsの解除条件は「Good!」以下の判定を出す事である。

勿論、イベントではExcellent判定を出せば必ずSpirits判定になるアイテムもあるのだが…ここでは時雨が自力で「Spirits」を出したことは明記しておく。

そして最終コーナーのドリフトラインでGoodを出したので、そのSpirits状態が解除されてしまったという事も。

 

 

 


 

 

 

―――復路スタート地点駐車場。

推奨BGM

 

「ヒュー、シゲルが負けたって?これはちょっとハプニングだね!えらい事になったヨ!」

「すまない、私も油断していたな…」

負けたシゲルに対してマサヤが話しかけていた。

流石に本当に実力を認めてくれたようだ。

そしてそんなシゲルに対して、車から降りた時雨はこう言った。

 

「シゲル、約束だ。奈美子に…知っている事を教えてあげて欲しい」

「無論、約束は果たそう」

そう言ってシゲルは知っている情報を細々と話し始めた。

 

「…伝説のドライバー、『皇帝』。私も直接会った事はないが、色々と噂は聞いている。金髪の端正な顔つきで無口な男だと言われている…」

「皇帝は、金髪の無口な男…」

皇帝の情報に興味があるように、時雨が言葉を返した。

 

「愛車は黒のR32 GT-R。別次元と言えるほどの走りをするそうだ」

シゲルの言葉に、奈美子はスマホのメモに情報を書いていった。

 

「金髪で端正な顔つき…そして愛車はR32のGT-Rか。その男がどこにいるとか、何処に出没しているとかは…知ってたりする?」

そう奈美子は質問するも、シゲルは首を横に振った。

 

「…すまないな。残念ながらそこまでは私も把握していない」

「そっか…でも、これだけでも十分よ。ありがとう、シゲル!」

「僕からもお礼を言わせてもらうよ…ありがとう」

奈美子と時雨はシゲルに対して感謝の気持ちを伝えるのだった。

 

「それでは敗者は退散するとしよう。しかし油断はするな。すぐに新たな刺客がチームから送り込まれてくるはずだ」

「じゃーまたねお二人サン!大変だろうけど、せいぜい頑張りなヨ~!」

そうシゲルとマサヤは言い残し、どちらも峠を去っていった。

早乙女峠に残されたのは時雨と奈美子の2人と、シゲルたちと比べるとそこまで速いとは言えない地元の走り屋たちだけだった。

 

「ねえ、奈美子」

「何?」

「この際、もう少しだけこの峠を走り込んでおきたいんだ」

「えっ?いいけど…」

「いずれシゲルたちより強い人が来るのは分かっている…。僕たちに出来るのは、車を整える事とコースを覚える事だと思うんだ。走りこもう」

「それもそうね!ハルカちゃんには連絡しておくから、是非特訓していきましょう!」

 

シゲルに勝利し、ごくわずかではあるものの『皇帝』の情報も入手した。

だがこれはあくまで序曲の一つ。二人に新たな刺客が迫る…。

 

 

 


 

 

―――夜。

推奨BGM

 

寝る直前、寝巻き姿の時雨は整備ガレージのワンエイティをじっと見つめていた。

試しにドライバーズシートのレバーを引き、ボンネットを開いてみる。

ボンネットに潜むのはノーマルのエンジン、そしてターボやインタークーラーと言った基本的な部品が詰まっている。

 

「(今回のバトルではっきりと思った。今までは腕でなんとかなっていたかもしれないけど、それだけでは…この車じゃ、皇帝を追えない…)」

間一髪で勝ったとはいえ、時雨は前々からランエボ、インプレッサといった280馬力級マシンには分が悪い事に気が付いていた。

ボンネット内部をじっと見つめる。

たしかハルカさんはこの車が捨て値で売られていたという事を言っていたはずだ。

パーツこそ整備はされているものの、それ自体が劣化している可能性もある。

いっその事マシンを整備すれば、より速くなれるのか?

いや、そんなはずがない。

整備をして丁寧に乗ったところで、マシンの限界が多少回復するだけで会って限界をさらに引き延ばせるわけではないことは時雨も理解はしているつもりだった。

…どこをいじればいいのか?どのパーツを強化すればいいのか?

何が自分に足りないのか?

時雨はパーツを見ながらじっと考えていた。

だがその時だった。

 

「時雨さん?」

その声にはっとなった。

顔をボンネットの方から右を向いた目線の先には、ドアを開けてハルカがいた。

 

「ワンエイティ、どうかしたんですか?」

「ああ、いや…何でもないよ」

「セッティングとかは良いですが、私そろそろ寝ますね。時雨さんも明日があるので…」

「…うん。直に僕も寝るよ。」

「じゃあ、お疲れ様です」

そう言ってハルカは自室に戻っていった。

時雨もボンネットを閉じ、ワンエイティが止まっている整備ガレージの電気を消して自室に戻った。

真っ暗闇の中、ベッドの布団に入る。

 

「(あの車にもっと力が欲しい…チューニングもありかもしれないけれど、どうすれば?)」

布団の中で時雨は漠然と考えていた。

いっそのこともうエンジンを乗せ変えるか?

でも、そんな金があるという訳ではない。

色々と考えつつも、時雨はベッドの中で眠りについた。

 

だが時雨はエンジンを見ても知識が無いので、ある事には気が付かなかった。

ワンエイティのエンジンが、本来搭載されている『それ』ではないということに。

(第10話End)

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