「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第11話です。
次の相手は何やらワケアリで…?


act.11「Dearest(大切な人)」

グルーヴィ・マサヤ、スローハンドのシゲルと、刺客となる幹部たちを2人倒した時雨と奈美子。

しかし時雨自身が想像する以上に、パワー不足は深刻だった。

どうにかしてパワーアップをする方法はないか?

チューニングをするとしたらどんな方針で行くべきか?

その悩みを解決するべく、シゲルたちを破ってから数日後、時雨と奈美子はBNワークスのトーコにアドバイスを貰いに行った。

 

 

 

―――BNワークス。

推奨BGM

 

「神風連合の次は『ハートビーツ』に狙われるなんて、あなた達随分人気者じゃない!」

店にやってきた時雨たちにBNワークスのオーナー、トーコは話した。

 

「いや、いつの間にか話が大きくなってしまってて…」

「そうそう。私は『皇帝』について調べたかっただけなんだけど…」

時雨と奈美子は困惑するようにそう言わざるを得なかった。

 

「それにしても『皇帝』って、端正な金髪の男なのね。奈美子ちゃんってそういう男がタイプなんだー」

「えっ?…いやトーコさんったら違う違う!私は別にそう言うのじゃなくて…」

「そうなのー?怪しいわねぇ…ん?」

トーコがあることに気が付き言葉を止める。

 

「…ぅだ」

「わっ!」

「うわぁ、びっくりしたぁ!…お、おじさんいつからいたの?」

時雨と奈美子は驚いた。

筋骨隆々のたくましい男がBNワークスの店内にいた事に、時雨を含め誰1人気が付かなかった。

すると男が持っていたものが時雨に渡された。

 

「受け取れ」

「…果たし状?」

時雨が受け取った『果たし状』なる封書。裏には「リズムマシーンのゲン」と書かれている。

 

「…待っているぞ」

そう男は言い残し、果たし状を渡してそのまま去っていった。

要するに、どうやら今のゲンという男が「ハートビーツ」からの新たなる刺客のようだ。

 

「随分古風なやり方ね…」

「だね。えっと、内容は…」

時雨が開いた果たし状には「チーム『元気組』一同、決闘を申し込む。第一早乙女峠に来られたし」と書かれていた。

 

「…今からかな」

「この書き方だとね…って、あれ?」

バトルするように言われてしまった以上やるしかない。

そう二人は思った。

だがそれ以上にトーコの変貌ぶりが目に入った。

異様なくらいガタガタと震えて恐れているようだった。

顔も蒼白気味だ。

 

「…トーコさん?」

「どうしたの…?」

奈美子と時雨が身を案じる。

 

「…あの人…!お願い、奈美子ちゃん、時雨ちゃん!あの人に…勝って!!」

「えっ?ど、どうしたの急に?」

普段のクールなトーコからは想像もできない程の慌てふためき振りだった。

どうやらよっぽどの事情があるらしい。

 

「なにか事情があるのかな…?」

「…早乙女峠に行きましょう、時雨!」

「うん、すぐ出すよ!」

そう言って二人は即座に駐車場に戻り、ワンエイティに急いで乗り込むのだった。

トーコの頼みとあれば時雨には断る理由もなかった。

ワンエイティに乗った2人は急ぎ第一早乙女峠に向かう。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第一早乙女峠、往路スタート地点パーキング。

そこには10数名ほどのチームメンバーが集まっていた。

どうやらこの人たちが「元気組」らしい。

中心にいたのは先ほど現れた、頭に鉢巻を巻き腕組をした大工の親方、はたまた寿司屋の板前風の職人気質の男だった。

駐車場にワンエイティを止め、降りた2人は既にいた先程の男とチームメンバーたちを探し出した。

3人が対峙する。

 

「あなたがリズムマシーンのゲンね」

「……(こくりと頷く)」

「僕が時雨さ。手紙の決闘の話、受けさせてもらうよ」

奈美子の問いに男はこくりと頷いた。

見るからに勝負しろという顔つきだった。

そしてうなづきに対し、時雨はバトルを了承するように言った。

 

「よし…おい」

そうチームメンバーの一人に対してゲンは呟くと、その目線の先の男が準備を始めた。

どうやら最初の下っ端相手のようだ。

指を差し、アイツからバトルしろと言っているようだ。

 

「いつも通り、メンバーたちからバトルしろってことかな」

「そうみたいね。準備しましょ」

「うん」

そう言って2人もワンエイティに乗り込み、スタートラインへと移動するのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsアキシゲ

推奨BGM:DANCING IN THE STARLIGHT(from SUPER EUROBEAT vol.132)

 

コースは往路、相手はシルバーとホワイトのツートンAE863ドアカローラレビン。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、カローラレビン。

 

「へっ…お手並み拝見だ」

ハチロクのドライバーはそう静かに呟いた。

 

「(最初の最初とはいえ、油断はしない…あえて手の内を見せていく!)」

時雨はグローブに入れた指をグーパーグーパーさせて感覚を確認した。

手足の感覚も良好だ。マシンも整備はしてあったので少なくとも20戦は耐えられるだろう。

バックミラーを修正し、後ろの車が見えるようにする。

相手のカローラレビンと横並びに並び、マシンを止める。

ギアをPレンジに入れ、アクセルを踏み込んでエンジンを回転させる。

エンジン回転を確認しつつ、カーナビの状態を確認する。

どうやらレースが直に始まるようだ。

カーナビのカウントが進んでいく。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

ワンエイティのエンジン回転数、6400。

青ランプが光る中、GOサインと共にギアをPレンジからDレンジに移し、アクセルを踏み込む。

スタートダッシュで一気にワンエイティは加速した。

 

「くっ…!」

ハチロクのドライバーは多少動揺したかのようにギアを1速に入れてアクセルを踏み込んだ。

パワー差がわかっていたとはいえ、徐々にハチロクはワンエイティには引き離されていく。

最初の右高速コーナーに到達する時点で、既に車0.5台分の車間距離が生じていたのだった。

すぐにコーナーが迫る。

 

「…!」

時雨はアクセルオフの状態でブレーキを一瞬フラッシュさせた。

だがブレーキは決してフルブレーキではなく、ハーフ以下だった。

そしてその一瞬の間にドリフトラインを通過したかと思えば、ハンドルを右に曲げてテールをスライドさせる。そしてテールスライドを認識した直後にはハンドルをニュートラルから数度だけ左に傾けてカウンター状態に入っていた。

1秒未満で一気にドリフトの態勢に突入し、コーナーをドリフトで駆ける。

直ぐにコーナー出口のドリフトラインが現れる。

そしてそれを見越したように、アクセルオフ。

ハンドルをニュートラルに戻したかと思えば再びアクセル全開。

まさしく水流の如くマシンを加速させていく。

 

「(車を乗りこなしているのが自分でもわかる…走りが気持ちいい!)」

時雨にとっては快感すら感じていた。

そしてその快感に応じ走りもヒートアップする。

 

「(向こうのペースに追いつけなければ…振り切られちまう…!)」

一方のハチロクレビンのドライバーはそう焦りつつも、全くペースが上げられずにいた。

あんな走りをしたら自分の場合制御が効かなくなってしまう。

時雨は完全に自分の世界に入っていたのであった。

 

そして、第4コーナーを抜けたかと思えばそこにワンエイティの姿は全くなかった。

完全に振り切られていた。

 

「(ダメだ…手の施しようがねえ)」

降参したかのようにハチロクはハザードランプを出し、失速。

しかしその姿を認識できなかったワンエイティはそのままゴールラインまで突っ切ったのだった。

勝敗は誰の目で見ても明らかなのであった。

 

◇ ◇ ◇

―――第一早乙女峠往路スタート地点駐車場。

 

「……やりおるな。…おい」

そうゲンは次のメンバーを目線で定め、準備をするよう促した。

「まだまだこれからって感じね」

「誰でもいいさ。…僕は相手するだけだ」

相手のチームの様子を見て奈美子と時雨は臨戦態勢を保つのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsヨウジ

推奨BGM:THE RIVER OF MY HEART(from SUPER EUROBEAT vol.135)

 

相手の車は白のCR-X(EF8)。

コースは復路。

左レーンにワンエイティ、右レーンにCR-X。

2台がスタートラインに並ぶ。

ギアをPレンジに入れ、アクセルを踏んでエンジンを回転させる。

回転数を一定にキープするようにアクセルを踏み、カウントに備える。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

カウントと共にアクセルをベタ踏みし、ギアをDレンジに入れる。

バックファイアーがマフラーから噴き出て、ワンエイティは一気に加速する。

CR-Xもほぼ同じように加速していく。

目先にはロックシェッドの入口にある第1コーナーの直角コーナーが迫る。

 

「―――!」

ワンエイティ側はアクセルオフにしてブレーキを一気に踏み、減速する。

だが、CR-Xは思い切ったまま走り抜けていく。

 

「(っ…!)」

「(オーバースピードだよ…曲がり切れるわけがない)」

時雨には心のゆとりすらあった。

自分でも何度も走っているこのコースにおいて、そのスピードでは曲がり切れない…

時雨はそう思っていた。

そして案の定、CR-Xはスリップするように後輪を滑らせたかと思えばズルズルとアウトに膨れ上がってしまった。

CR-Xはドリフトの角度の付けすぎで見事に失速する。

 

「(やば…!)」

「(僕のドリフトを…見ろ!)」

ワンエイティを減速させていた時雨は、ハンドルを曲げて角度を整えた直後、アクセルを踏み込んでタイヤを軽く滑らせた。

ドリフトを始めたことで、白煙が上がってスキール音が響く。

カウンターを軽く当てつつ、速度は70キロ台をキープし続けている。

そしてその速度を維持したまま、数メートル先のCR-Xを、末端のドリフトラインを踏みつけた瞬間にぶち抜いた。

 

「(もらった!)」

「(一瞬で追い抜かれた…!?)」

先行するワンエイティ。その距離差はテールトゥノーズに1、2m加えたほどだった。

直にロックシェッドの出口と第2コーナーである超ロング右ヘアピンが迫る。

 

「俺のほうが有利だから…って、え?」

ワンエイティはオーバースピード気味にコーナーに突入する。

ドリフトライン直前でブレーキランプが光った。

左に向いていたタイヤが一気に右を向く。

荷重を無理やり右リアから左リアに持っていくことで、一気にタイヤを滑らせてドリフトさせた。

 

「(そんなフェイントモーションで…!)」

曲がるわけがない、そうCR-Xのドライバーは思った。

思ったのと同時にサイドブレーキを引いてCR-X自身もドリフトさせる。

だが、コーナーの内側を向いたワンエイティは勢いそのままにセンターポールギリギリをインベタで走り抜けていく。

まるでレールの上を走っているかのようにコーナーを駆け抜けていった。

そしてコーナーリングスピードはこちらと同等、否、それ以上の速さだった。

 

「(有利な条件なのに、引き離せない…!)」

右コーナーである以上、右レーンのCR-Xが有利なのは言うまでもない。

だが、見事なまでに食らいつかれている。

そしてコーナー出口。

立ち上がりでワンエイティがノーズの部分だけ先行する。

 

「(まずい!)」

立ち上がりもつかの間、3つ目の左直角ロングコーナーが迫る。

左レーンのワンエイティが有利。

2台はほぼ同じタイミングでブレーキを踏み、減速する。

ノーズの分だけ先行しているワンエイティがドリフトラインを踏みつけた。

タイヤが左を向いた瞬間リアが一気に滑り出す。

100キロ以上のスピードを出しつつコーナーを駆けていく。

対するCR-Xもサイドブレーキを引いてリアを滑らせる。

だが、速度差は歴然だった。

 

「(離される…!)」

コーナーの内側にピッタリと吸い付くように離れないワンエイティ。インにべったりの状態をキープしながらドリフトし続ける。

一方のCR-Xはタイヤのグリップが効いていないのか、外にズルズルと膨らんでいく。

速度差もあって差は一気に開く。

第3コーナーをCR-Xが抜ける時点で、ワンエイティは既に第4コーナーであるロックシェッド入口の右直角コーナーに突入していたのだった。

 

「(追いつけねえ…!)」

3つ目の左直角ロングコーナーでワンエイティとCR-Xの差は一気に開いた。

それでも諦めずにアクセルを踏み続けるCR-X。自分が出来る目いっぱいのブレーキングとドリフトでなんとかワンエイティに食らいつこうとしていた。

第4コーナー、ここも左足でフルブレーキングからのサイドブレーキを引いてタイヤを強引に滑らせる。

ハンドルを切るポイントも完璧、インに多少寄って速度低下を最小限に抑える。

だが

 

「(…マジかよ)」

ドリフトしていたCR-Xのドライバーの視線の先に見えたのは、第5コーナーを高速で駆け抜けて点になりかけたワンエイティの姿だった。

 

「やられた…どんな走りをしてるんだよ……」

CR-Xのドライバーはただそう言うしかなかった。

第4コーナーでぶっちぎられたCR-Xは、ハザードランプを付けて泣く泣く降参したのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――20分後。

この時点で時雨は「元気組」のメンバーたちの殆どを倒していた。

数にして10人ほどである。

ゲンの車の前にワンエイティを止め、車を降りた時雨と奈美子がゲンに話しかける。

「…ここまで倒したけど、どうかな」

時雨の言葉にゲンは重い口を開いた。

 

「うむ、いいだろう……『リズムマシーン』の異名の由縁。それは正確無比なワシのドラテクへの勝算。おぬしらとは積み上げてきたキャリアが違う!」

だが、ゲンがそう言ったところで思わぬ横槍が入ったのだった。

 

「昔からあなたはそうだったわね。自分の仕事を完璧にミスなくこなす。職人という言葉がピッタリ…!」

「トーコさん!」

「来てたんですね」

そこに現れたのは店からやってきたトーコ。

それに気づき奈美子と時雨が声を上げた。

 

 

「…!!お前、なぜここに…!?」

それまで冷静さを保っていたゲンが動揺していた。

どうやらただならぬ因縁があるらしい。

 

「まさか、トーコさんと何かしらの因縁が…?」

「い、いや…そんな娘などは知らん。…他人の心配をしている場合か?さあ、尋常に勝負だ!!」

「…まあ、いいさ。始めよう」

 

走り合えば何かがわかる。時雨はそう思い、バトルを急いだ。

2台にそれぞれのドライバーが乗り込み、スタートラインへと移動していく。

 

 

 


 

 

 

―――vsリズムマシーンのゲン

推奨BGM:TO BE OR NOTTA BE(from SUPER EUROBEAT vol.138)

 

「(トーコ…まさかこんなところに…)」

ゲンはドライバーズシートで深く動揺していた。

よりにもよって自分と深く関係がある彼女がこんなところにいるとは。思いもよらなかった。

 

「(だが、今は目先の事に集中するのみ!!)」

目をつぶって雑念を振り払い、再び目を開けた彼は気分を落ち着かせてバトルへ向かう。

愛車のランエボ5は、エンジン始動と共に激しい鼓動を始めた。

勝負をしに行く…そんな、爆音を上げた。

 

「時雨…」

「わかってる。トーコさんとの因縁、僕が明らかにしてみせる」

グローブを付けた両手に力がこもる。

負ける訳にはいかない。

トーコさんのためにも、自分や奈美子の為にも。

そんな強い意志が時雨の心でうずいていた。

 

コースは第一早乙女峠往路。

2台がスタートラインに並ぶ。

左レーンは4G63を積んだ名車ランエボ5、そしてそれに立ち向かうは右レーンのターボエンジンのワンエイティ。

互いのエンジンが鼓動する。

共鳴するように、争うようにエンジン音が響き渡った。

そしてそれに合わせるかの如くカーナビがカウントを始める。

エンジン回転数を7000回転近くにキープするようにアクセルを調整する。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「ふん!」

「…っ!」

両者ともアクセルを踏み込み、時雨はギアをDレンジに入れる。ゲンも1速にギアを入れた。

互いのマシンからバックファイアーが吹き出る。

だが、加速差は歴然だった。

 

「…っ!」

「(やはりワンエイティか…)」

280馬力級マシンであるランエボと200馬力級のワンエイティ。

さらにランエボは4駆で、ワンエイティはFR。

明らかにランエボのほうが速さは上だった。

即座に第1コーナーである右の高速コーナーが迫る。

2台は互いにアクセルオフ、ワンエイティは後輪を軽く滑らせる。

一方のランエボはほぼドリフトしていなかった。

 

「(あれ…あの車、ドリフトしてない…?)」

「………」

4駆であるランエボはどちらかと言えば不向きである。

しかし時雨も得意とするゼロカウンタードリフトであれば、やろうと思えばできてしまう。

だがゼロカウンターは相当なテクニックを要する。

序盤の序盤から使ってしまえばタイヤを酷使する要因にもなりかねない。

その為ゲンはあえて高速コーナーでの勝負は捨てる選択を選んでいた。

だがその結果、速いドリフトが出来てしまう時雨との差は一定間隔に収まってしまう。

続く第2コーナー。左の高速コーナーである。

この左コーナーもランエボはほぼドリフトしない、グリップ頼りの走りだった。

一方でワンエイティはハンドルを多少左に曲げて後輪を多少滑らせたかと思えば、直ぐにカウンターを当てて態勢を立て直す。

この時点でマシンの差はほぼ同じ程度に落ち着いた。

だが以前ランエボ有利。マシンの差はほぼ車1台分だった。

2台はロックシェッドに入り、出口の左直角コーナーが迫っていた。

すると

 

「(ここからだ…!)」

ゲンがいよいよ本気を出す。

ロックシェッド出口に存在する第3コーナー、左直角コーナーが間近に迫る。

コーナー直前でブレーキを踏み、ドリフトラインを踏みつけた瞬間にハンドルを曲げてタイヤを滑らせる。

直ぐにハンドルを少し右に曲げてカウンターを当てる。

だが、その角度は決して深いものではないだった。

浅くハンドルを曲げてドリフト状態を維持し続ける。

インとアウトの差もあり、ワンエイティとの差は開いた。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルオフの瞬間にカウンターを止めてニュートラル状態に。

そして再びアクセルを踏み込み、マシンを加速させる。

 

「(先行した以上、逃げ切る…!)」

ハンドルに付けていたニトロスイッチを左手で押す。

突如として急加速したランエボは、ワンエイティとの差を一気に広めんとかかる。

ランエボは一気に130キロまで加速した。

距離差は一気に20m以上広がった。

「(この勝負、もらった!)」

ゲンはそう思ってやまなかった。

 

「時雨!」

「……」

第3コーナーを抜けて、ロックシェッドを抜けたばかりの時雨のワンエイティ。

時雨が奈美子の声に軽く反応する。

だが、時雨は全くもって冷静だった。

先行される事で得られる心理的余裕。

ニトロという存在を思い出させてくれるある種の安心感。

それが時雨の中に生まれていた。

そしてあるものも、時雨一人にだけ見えていた。

 

「(追い詰められたけど…見える)」

自分の視線の先に、青く光る一本の線があった。

それは時雨にしか見えない幻想の線。

しかしそのラインはベストとも言うべきラインを描いていた。

第4コーナーを内側まで攻めたキレのあるライン。

このラインはどうやら本当に速く走れるようにするためのラインらしい。

 

「(このコースを、このレーンを、どう走ればいいかが……!)」

時雨はまるでそのラインにワンエイティを乗せるかの如く、ハンドルを操作する。

アクセルも全開である。

第4コーナーの右ロングコーナーが迫る。

アクセルオフでブレーキを踏み込み、マシンを減速させる。

速度は110キロから75キロまで減速する。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、ハンドルを一気に右に曲げた。

判定は「Excellent -0.34m」。

判定としてはほぼ完璧だった。

マシンはインにつき、後輪を滑らせながらドリフトしていく。

時雨が見えていた幻想のラインにワンエイティは乗っており、完全に定まったレール上をスライドするかのような、まるでスケートボードのグラインドと言っても過言ではない状態だった。

だがこのドリフトしている最中、時雨は再びあの感覚に陥っていた。

 

「(まただ…)」

両手両足が熱い。それも体中が、体の血液全体が沸騰しそうなくらいに熱い。

例えるなら活火山の溶岩帯に飛び込んだかのような、それくらいの灼熱ぶりだった。

だが、この瞬間時雨はマシンとの異様な程までの一体感を感じていた。

カウンターを当てつつ、絶対に離されるものかとアクセルを踏み続ける。

速度は徐々に上がり、85キロまで上がっていた。

 

「(両手両足が燃える、この感覚…!)」

この感覚を維持し続けていく。

それくらいの気持ちでないとあのランエボには追いつけない。

この感覚を維持し続けるべく手の握力にも一層気合が入った。

 

一方で第5コーナーである超ロング左コーナーでドリフトするランエボ5。

車を確実に曲げるべくしっかりとブレーキングした上で、4WDだからこそフルに力を発揮できるゼロカウンターによってハンドルを大きく切る事もなく、一定速度を保ちながらドリフトし続ける。

 

「(さて、これで……)」

ランエボ5のゲンが右バックミラーを軽く確認する。コーナーの差もあって流石に振り切られただろう…そう思っていた。

だがミラーを確認した瞬間だった。

 

「(なんだと…!?)」

迫って来ていた。

レーン的に不利なワンエイティが、自分よりも速いスピードでドリフトして。

コーナー中央で、テールとノーズの距離差は車0.5台分くらいまで縮まっていた。

あまりにも予想外過ぎた。

ここまでやられるともうレーンの優劣は関係ないのだろう。

しかも向こうのタイヤも見る限り切れ角が少ない。

限りなくグリップに近い状態なのであろう。

しかもドリフト時の速度が速い。

接近されている以上、追い抜かされるのは時間の問題だった。

負けじとアクセルを全開で踏む。

だが、確実の距離差は縮まる。

 

そして完璧にテールトゥノーズの状態に陥った瞬間だった。

ドリフトラインが迫る。

「(このまま、追い抜く!)」

アクセルオフにし、右に切ってカウンター状態だったハンドルをニュートラルに。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを全開で踏み込むのと同時にハンドルのニトロスイッチを左手親指で押した。

2台が2個目のロックシェイドに入った瞬間、ワンエイティはまた加速して立ち上がり勝負でランエボ5に食らいつく…いやそれどころか、追い抜いてしまった。

 

「(まさか…!)」

加速でも戦闘力でも有利なランエボが、ニトロを相手が使っているという事を考えても加速力勝負で負けていた。

アクセルを必死に踏み込み続けるも、ワンエイティはそれを捻り潰すかのように追い抜くのだった。

ワンエイティは最終コーナーの右直角コーナーも、一瞬ブレーキングしたかと思えばリアを滑らせてドリフト。ニトロの加速は殺され気味になるが、それでもランエボより車間1台分程のリードを保っていた。

両手両足が燃える感覚、全身が熱くなる感覚はまだ残っており、ただひたすらにアクセルを踏み続けた。

2台がゴールラインに迫る。

最後の加速勝負で、ランエボが最後の賭けと言わんばかりに加速する。

 

「…っ!」

「……!!」

テールトゥノーズの状態で2台がゴールラインを通過。

先行していたのは…ワンエイティだった。

 

勝者、時雨。

タイム差は0.3秒もない。辛うじて勝利したのだった。

 

「このワシが…まさか」

ドライバーズシートでゲンはそう呟くのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

 

―――往路スタート地点駐車場

走り抜けた2台はスロー走行で戻ってきた。

トーコはそこで、愛車であるGRS205クラウンに乗って待っていた。

遂にゲンとトーコの関係が明らかになる。

 

「……」

マシンから降りた時雨、奈美子、そしてゲン。

それを見てトーコも車を降りる。

開口一番に、トーコに対してゲンはこう言った。

「…ワシの負けだ。いい友達を持ったな、トーコ」

「なぜ…なぜ私と母さんを捨てて、突然いなくなったの!?父さん!!」

トーコが答えを求め、しびれを切らすかのようにそう言った。

 

「ええっ!?」

「えっ…!?」

奈美子と時雨は思わぬ展開に声を上げた。

 

「じゃあ、ゲンさんは…」

「トーコさんの…お父さん、だったんだ!」

奈美子と時雨は顔を合わせて言った。

 

そこからはゲンによる釈明が始まった。

どうやら彼はかつて借金の連帯保証人になったことでいわれのない借金を背負い込むことになり、トーコさんたち家族に迷惑をかけまいと止む無く姿をくらましていたという。

 

「本当にすまなかったな、トーコ…」

「とにかく、無事でよかった…!父さん、今は、今は何をしているの?」

「ああ、流れ流れて箱根にたどり着き、タクシードライバーをやっていた腕を買われてな…ジュンさんのチームで世話になりながら市場で配送関係の仕事をどうにか、な」

「そうだったんだ…でもあの速さなら確かに…」

「トーコさん、本当によかった…!」

時雨は納得し、奈美子は安堵した。

するとゲンは時雨たちに対してこう言った。

 

「…時雨さんと、奈美子さんと言ったな。思わぬところで娘に再会できたのは、あんたらのお陰だ。ありがとう」

「お礼なんてそんな…僕の力なんて些細なものさ。僕は僕なりに、精いっぱい走っただけだよ」

「あ、そうだ一つだけ。ゲンさんは『皇帝』の事を何か知らない?」

「『皇帝』…噂に聞く伝説のドライバーか。すまねぇな、ワシは詳しく知らない。とんでもねぇ速さだって話だけは行く先々で何度も耳にしたけんども…」

「やっぱり、噂ばかりなんだね…」

「ああ…すまねぇな」

ゲンは申し訳なさそうにそう言うのだった。

 

「そっか…ありがとう。他に当たるわ。それに、どうせまた新たな刺客がやってくるだろうし」

「ワシが負けた以上、次に現れるのは間違えなく『サトウ』って男だ。こいつはちょっと胡散臭い男だから、十分気を付けないといけねえぞ」

「『サトウ』…か」

「忠告ありがとう。でも大丈夫!私たち、絶対くじけたりしないから!」

「皇帝への道は長いと思うが、頑張れよ」

「うん…ありがとう。頑張るね」

ゲンは時雨たちを励ますように言った。

その言葉に時雨はにこやかに答えるのだった。

 

その後、トーコさんとゲンさんは今すぐは無理でもいずれは一緒に約束をしたらしい。

この件は一件落着と言うべきだろう。

 

 

 


 

 

 

ピットへの帰り道。

夕日が落ちる中、走る車の中で二人は会話していた。

暗くなりつつある中、ワンエイティのフロントライトを付ける。

そんな中で奈美子が時雨に対して話しかけた。

 

「でも本当にびっくりしたわね!まさか刺客の一人が、トーコさんのお父さんだったなんて…」

「僕もビックリしたよ」

「ああいう、大切な人との再会ってやっぱり心に来るものがあるわよねー…ドラマを見た感覚だわ!」

そう奈美子は懐古しながら言った。

どうやら彼女にとっては感動的な場面だったようだ。

 

「…大切な、人か」

感動に包まれる二人の光景に対して、時雨は静かに呟いた。

再会の光景がフラッシュバックする。

すると、ふとこんな言葉が出た。

 

「僕にも、あったのかな。そんな、『守りたい』って思える人…思えるものが……」

その言葉に奈美子ははっとなったかのように時雨を見た。

その顔はどこか落ち込んでいるのか、深く考えているかのようなそんな顔だった。

時雨も記憶のすべてを失い、何もかもを失って箱根に来た。

それでも今、彼女は箱根の噂のドライバーとして輝いている。

もし奈美子たちと会っていなかったら、それこそのだれ死んでいたかもしれない…

 

「きっと思い出せるわよ。すぐとは言えないかもしれないけど、きっと…」

「…うん、そうだね」

「急がば回れ、よ。ゆっくりでもいいんだから…」

「…そう、だね」

奈美子は時雨を諭すかのように言った。

時雨は前だけを見ていたが、その目にはどこか哀愁が漂っていた。

 

「守りたいもの、か」

時雨は静かに呟いたのだった。

何か強烈な使命が自分にはあったのかもしれない。

そしてその過去を知りたい。

そう過去の記憶を求めながら、時雨たちを乗せたワンエイティはピットの駐車場に到着するのだった。

(第11話End)

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