「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第16話です。
四天王の一人に会うようにするべく、時雨と「マネージャー」とのバトルが行われます。


act.16「Intimidation(脅迫状)」

夢の国のアリス、諜報員のミサオと立て続けに倒した時雨。

武装強化されたワンエイティで他を寄せ付けない速さを発揮するも、彼女がその車を「乗りこなしている」と言えたものではなかった。

一方でミサオを介して、四天王の一人であるイズミのマネージャーに接触する機会を得れた。

イズミへの道を開くべく、また新たな戦いが始まる。

 

 

 

 

諜報員のミサオとのバトルから数日後。

ミサオが「ピット」に連絡してきた。

どうやらイズミのマネージャーとのコンタクトが取れたらしい。

時雨は藍色のワンエイティに乗り、マシンセッティング用の部品や交換用タイヤなどを積み込んだ奈美子のS30Zと共に第一寄木峠へ向かうのだった。

 

―――第一寄木峠、往路スタート地点駐車場。15時過ぎ。

推奨BGM

 

駐車場には夢の国のアリス、諜報員のミサオと、イズミのマネージャーの人物とその仲間と思われる人々が集まっていた。

 

「…来たな」

ミサオがそう呟くと、現れたのは武装された藍色のワンエイティと黄色のS30Z。

マフラーが少し改造されて静音器を付けているらしく、マフラーからのエンジン音は抑え目だった。

乗っているのはどちらも見慣れた顔の二人だった。

駐車場に駐車したワンエイティ、そしてS30Zから当のドライバーたち2人が現れ、ミサオに迫った。

 

「待たせてごめん…来たよ」

「マネージャーって言うのは、どこ?」

ミサオに対し、時雨と奈美子がそれぞれ言葉を発する。

 

「この人だ」

ミサオが目線を向けた先にいたのは、いかにもそれっぽい雰囲気を漂わせるメガネをかけたロングヘアーのビジネスウーマンだった。

真面目かつ堅苦しそうな女性である。

 

「紹介する。イズミのマネージャーのトモミさんだ」

「…初めまして」

「こんにちは」

ミサオの言葉に対し、時雨と奈美子は軽く挨拶した。

 

「私がマネージャーのトモミです…ミサオから聞きましたが、『イズミに会いたい』ですって?」

「はい…何とか、できませんか?」

奈美子が懇願するように言った。

 

「残念ですが許可できません」

「え…」

「そもそもイズミは今取材のため不在ですから、お引き取りください」

「……」

トモミが冷淡に振る舞う中で、時雨はただ黙って聞くしかなかった。

会いたくても当の本人がいない以上どうしようもない。

時雨はどこか納得したかのように立ち去ろうとしたその時だった。

 

「そんな…!お願いします、そこを何とか!マネージャーさん!」

「ちょっ、奈美子…落ち着いて」

時雨としてはあまり事を荒立てたくしたくはなかった。

時雨が何とか奈美子を宥める。

だが、トモミの態度はほとんど変わらない。

 

「ダメなものは駄目です。…大体ミサオにアリス、あなた達が率先して不審者を連れてきて、どうするんですか?」

その言葉にアリスとミサオは苦い顔をした。

 

「いや…違うんだトモミさん。この人たちは決して不審者という訳ではなくて…」

「そうなんですよ、怪しい人じゃないんです…」

弁明するようにミサオとアリスは言った。

だがトモミはそれを否定するように言った。

 

「私には不審者にしか見えません。ただでさえイズミ宛に、プライベートを暴露するって脅迫状が来て、ピリピリしているっていうのに!」

「脅迫状…そうでしたわね。『皇帝』…つくづくひどい方ですわ」

アリスがトモミに同情するように言った。

すると、奈美子が「皇帝」という言葉に食いつくように迫った。

 

「えっ、『皇帝』!?その脅迫状と『皇帝』に何か関係があるんですか!?」

「奈美子…」

食いつく奈美子を時雨は抑えるように言った。

一方でトモミはアリスを咎めるように言う。

 

「…アリス、口が軽いわ。あなた達には、関係ない事ですわ。お引き取りを」

さっさと帰るように促すトモミだが、奈美子も負けずに反発する。

 

「申し訳ないけど、『皇帝』に絡む話とあっては、私もおいそれと引き下がるわけにはいかないの…!」

その言葉にはっ、となったかと思いきや時雨もこくりと頷く。

 

「どういう事情があるかは存じませんが、ダメなものは駄目です。お引き取りを」

だが、トモミは要望を跳ねのけるかのように冷淡に言った。

するとその時だった。

 

「だったら、僕とバトルしてほしい」

「時雨!」

「え?…あなたと?」

時雨がその重い口を開いた。内容はバトルをしてほしいというものだった。

 

「『皇帝』については、僕も興味がある…もし僕たちが勝ったら、四天王…イズミに、会わせて欲しいんだ」

するとその言葉に「仕方がない」と言わんばかりの表情でため息をつき、トモミはこういった。

 

「…仕方ありませんね。ここでは勝者が正義。それではひとまず私のチーム『モンキービジネス』が相手しましょう。どこまで来れるか、見せてもらうわ」

「わかった。誰でもいいよ」

「じゃあそうね…ケイ、あなた行ける?」

トモミはチームメンバーの一人を探し出し、一人のドライバーに目線を当てた。

 

「はい、行けます!」

「さ、あなた達も準備しなさい」

トモミが時雨たちに目線を向けたところで、ケイと呼ばれた女性も車に乗って準備し始める。

 

「時雨」

「わかってる…ここは譲れない!」

そう言って奈美子と時雨も愛車であるワンエイティに乗り込み、スタート地点にゆっくりと移動するのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsケイ

推奨BGM:SCREAMING(from SUPER EUROBEAT vol.173)

 

相手の車は黒色のGDB-Cインプレッサ。

コースは往路、左レーン、ワンエイティ。右レーン、インプレッサ。

スタートラインの前で2台が横並びで停車する。

 

 

「……」

トオルの力もあって手に入れた、武装されたワンエイティ。

彼が車を渡してくれた時に言っていた通り、今のザコ相手なら楽勝と言えば楽勝だろう。

しかし峠では何が起こるかわからないのもまた事実。

時雨は手を握って感覚を確かめた後、ゆっくりとハンドルを握った。

アクセルを踏み込み、エンジンの回転数を上げる。

 

「(底知れぬ力を感じる…)」

アクセルを踏んだ時のタコメーターの針の動き方が以前より数倍も速く感じられた。

しかもスタートダッシュとなる回転数も広がったように思える。

以前は6000回転以上8000回転以下じゃないとスタートダッシュにはならなかったはずである。

だがタコメーターを見ると、この車は5000回転以上7700回転以下であれば普通にスタートダッシュが出来るようだ。つまり単純に考えれば、700回転もスタートダッシュの許容範囲が広がった。

ハンドリング部分でも大幅に強化されているらしく、130キロ以上でドリフトしてもアウトに膨れずにタイヤが食いついてくれる。

走れて、曲がれて、止まれる。そんなマシンになっている事を時雨は勘付き始めていた。

これが改造されたこの車のポテンシャルなのだろうか。

だが、皇帝に向かって止まることは出来ない…だからこそ、根本から違う雑魚あいてならともかく、幹部クラス以上では絶対に手を抜かない。

そう時雨は思っていた。

静音器を外したワンエイティは、爆音をスタート地点に轟かしていた。

その勢いは、インプレッサのそれを確実にかき消すほどの程だった。

2台のアイドリングが響く中、カーナビのカウントが始まる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「「―――!」」

 

回転数、7400回転。

スタートダッシュと共にアフターファイアを噴出したワンエイティはあっという間にインプレッサの前に出た。

ギアをDレンジに入れた瞬間、マシンはまるで爆発をするかのような加速で一気に加速する。

ノーマルに多少のパーツ交換がされただけのインプレッサはもはや目になかった。

 

「は、速い…!」

インプレッサのドライバーはそう驚愕するしかなかった。

格下であるワンエイティにこうも先手を取られるとは思わなかった。

しかも目の前に迫るのは相手に有利な左ヘアピンコーナー。

下手すれば一気に差が付けられてしまうかもしれない。

その事を危惧しつつも、2台は最初のヘアピンコーナーに迫っていく。

ワンエイティの速度は、ベタ踏みだったスタート直後から多少アクセルを抜いていたとはいえ70キロまで加速していた。

最初のドリフトラインが迫る。

 

「(以前のロードスターだったら、攻める事に間違えなく躊躇していた…)」

アクセルオフの状態からブレーキを冷静にくっ、と踏んでマシンを減速させる。

最初のヘアピンコーナーは、間違えなく以前のワンエイティだったらアウトに膨れていたであろうことも考えて躊躇していただろう。

 

「(でも、この車は…)」

軽くハンドルを左に切り、リアタイヤを滑らせる。

その角度は、以前よりもはるかに小さいものだった。

 

「(あの車とは、似て異なる別物なんだ!)」

タイヤが滑り出した瞬間、右にカウンターを軽く当ててドリフト状態を維持する。

ハンドルのレスポンスは通常以上のようだ。

タイヤが機敏に動く。ドリフト中もアクセルを踏み続ける事でマシンは加速し続ける。

コーナー出口までに110キロ以上まで加速していた。

一方で体がガッチリと固定されている中で、車の動きがシートを通じて伝わってきた。

間違えなく前へとこの車は走ろうとしている。

ならば、乗り手である自分はこの車の欲望に答えるしかない。

だが、この車は完全に心を開いているという訳ではない。

まだ…この車の真の力は引き出せていない。

だったら、自分が引き出すしか方法はない。

 

「(少し時間がかかってでも、僕は…!)」

乗りこなしてみたい。この車で速く走りたい。

そう決心して、出口のドリフトラインが見えたところでアクセルオフ、ハンドルをニュートラルに。

そしてそれを踏みつけた瞬間、アクセルを踏み込んだ。

 

「―――――!!」

まるで車が自分のアクセルに確実に答えてくれるように。

その獰猛なマシンは一気に加速してあっという間に145キロまで到達した。

まさしく誰も寄せ付けない速さだった。

そんな状態でも時雨はアクセルを踏み続ける。

 

「………」

一方のインプレッサのドライバー。

アウトに膨れるマシンを必死になって操縦していたが、最初のコーナーだけで2秒以上差が付けられた。

あまりにもあっさりと差がついてしまって茫然とするしかなかった。

どんなにアクセルを踏んでも全くもって追いつけない。

最初からあまりにも格が違いすぎる…そう痛感するしかなかった。

目の前に見えるトンネル入り口にあるコーナー…右高速コーナー。

そこに自分の車以上に高速で攻めていく、藍色のワンエイティの姿が嫌でも映った。

第1コーナーを抜けた時点で、既にワンエイティは第2コーナーに突入してドリフトしていたのだ。

明らかに自分のドリフトよりも速い速度で、あの速度域を維持しながらドリフトして差を広げている。

 

「…こんな人が、いたなんて」

第3コーナーに突入するワンエイティを、インプレッサはただ茫然と見ていることしか出来ず、心が折れたインプレッサのドライバーは白旗を上げるしかなかった。

スロー走行になり、食いつこうにも全くもって歯が立たなかった。

最初のコーナー1つでその差が出た結果、一気に逃げられてしまった。

 

―――結果から言えば、その後のゴール時点でタイム差は5秒もあったのである。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第一寄木峠往路スタート地点駐車場。

 

 

「―――何ですって?『モンキービジネス』のメンバーの一人に、ここまでの実力を示すなんて」

バトルの結果を聞いたトモミは多少動揺したかのようにそう言った。

だがそれでも、諜報員のミサオが負けていたことを認識していたこともあって動揺は抑え目だった。

 

「…ミサオが負けたという話は聞いていたけど、見くびっていたようね。でも、まだまだ勝負はこれからよ!」

トモミは次のバトル相手とバトルするようにそう断言するのだった。

 

「…いいよ。誰だってかかってくればいいさ」

一方の時雨は挑戦者を待つように、口調からしてもどっしりと待ち構えるのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsモエ

推奨BGM:WITH YOUR PHOTOGRAPH(from SUPER EUROBEAT vol.175)

 

相手の車は赤色のR32 GT-R。

コースは復路。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、R32GT-Rが並んでスタート地点に並ぶ。

 

「……」

時雨はスタート地点で、ギアの状態を確認していた。

すると目に付いたのは、Mの文字。

パドルシフト付きのマシンにのみ存在するマニュアルシフトである。

パドルシフトの存在を思い出す。

 

「(そうだ…マニュアル操作がこの車にはあるんだった)」

トオルからは「使いこなせばかなりの武器になるぜ」とは言われていた。

 

「(もし僕がこれを使いこなすことが出来れば…)」

ギアの存在を認識した彼女を、沸々と「速く走りたい」という思いが支配し始める。

速く走りたいという欲望は走り屋であれば誰にだってあるもの。

そしてそれは走り屋である時雨にとっても当たり前と言えば当たり前のものだった。

 

「(僕にも、出来るかな。もっと速く走れるかな)」

そう思いつつ、ギアを見る。

今まで圧倒し続けている雑魚相手なら、多少のヘマも許されるのではないだろうか。

時雨はそう思った。

やるからには…ここで出来るようにする。

その心意気で、彼女はバトルに臨んだ。

カーナビのカウントが始まる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

「っ…!」

ワンエイティはギアをDレンジに入れ、R32はギアを1速に入れる。

加速ではチューンされているワンエイティが先手を楽にとった。

第1コーナー、トンネル内の直角コーナー。

100キロまで加速するワンエイティのブレーキを踏んで減速し、アクセルとブレーキをニュートラルにした上でハンドルを左に曲げる。

そして曲げた直後、直ぐに右に切り返してドリフトライン上でアクセルを踏み込む。

踏み込むことでタイヤが滑り出し、それを認識した直後に今度はハンドルを左に切ってカウンターを当てる。

 

「―――」

車のノーズは中央のセンターポール近くまで迫り、そこから少しずつ加速していく。

トンネル出口でアクセルをオフにした上でハンドルをニュートラルに戻し、ドリフトライン上で再びアクセルを踏み込む。

マシンは速度を維持したかと思いきや再び加速していく。

速度計は135キロを示す中、第2コーナーと第3コーナーの高速左、高速右コーナーが迫る。

 

「―――!」

アクセルオフの状態で第2コーナーに突入するワンエイティ。

コーナー直前でハンドルを左に曲げ、ドリフトライン上でアクセルを踏む。

滑り出したと思いきやすぐにコーナー出口が迫る。

一瞬アクセルを入れ、直ぐにアクセルを抜く。

そしてドリフトライン上までにハンドルをすぐニュートラルにして、アクセルを再び踏み込む。

こうすることで速度を維持できていた。

 

続く第3コーナー…高速右コーナーである。

アクセルオフの状態でブレーキを軽く踏み込み、速度の上がりすぎを防止して減速させる。

ハンドルを多少切りながらブレーキを踏むことで、速度が付いているワンエイティは自然とドリフト様態に突入する。

だが左にカウンターを当てたと思いきやすぐにコーナー出口のドリフトラインが迫る。

再びアクセルを抜き、ハンドルをニュートラルに戻す。

そして前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを踏み込む。

そして踏み込んだ瞬間、ごくわずかの短いストレートが現れた。

 

「(今なら…!)」

そう思って時雨は左手でギアをDレンジからMレンジに入れ替えた。

車のギアメーターにおける「D」の表示は「M」と一瞬入れ替わったと思いきや数字の「4」が表示された。

タコメーターは7700回転を示し、速度は130キロだった。

アクセルを踏むことで確実にマシンは加速し、エンジン回転数も上がる。

トオルからは「タコメーターの赤い部分に針が入ったらギアを上げろ、5000回転以下になったり速度が落ちたらギアを下げろ」とだけは言われていた。

箱根を走る以上、ワンエイティのセッティングはローギアード…つまり1つのギアでの速度域は低いものだった。

明確な速度域こそ忘れたが、赤の部分でギアを上げることと速度が下がりすぎたらギアを下げる事だけは覚えていた。

短いストレートで速度計のメーターが145キロまで上がり、メーターは9200回転だった。

だが、目先に第4コーナーのトンネル…高速左コーナーが迫る。

 

「―――!」

今はとにかくドリフトさせることが先だ…そう思った時雨は真っ先にアクセルオフからブレーキを軽く踏んで、ハンドルを左に曲げる。

テールスライドからドリフト状態に入ったところで、すぐハンドルを右に曲げてカウンターを当てる。

高速コーナーだけあってすぐにコーナー出口が迫る。

コーナー出口のドリフトラインを識別してすぐにアクセルを抜き、カウンターを止める。

そして前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを踏み込む。

再び加速するワンエイティ。メーターは138キロを示していた。

 

「(操作が1つ増えた事で忙しくなるかと思ったけれど…)」

そう思いきや第5コーナーのドンネル内からトンネル入り口付近までの高速左コーナーが迫る。

アクセルオフでハンドルを左に曲げ、入口のドリフトラインを踏みつけた瞬間、10度だけハンドルを左に曲げてアクセルを踏み込む。タイヤが滑り出したと認識舌や否や、ハンドルを右に10度ほど曲げてカウンターを当てる。

そこら先はすぐにコーナー出口だった。

再びアクセルを抜いてハンドルをニュートラル西、ドリフトラインの踏み付けと共にアクセルオン。

複雑ではあるが定型作業の一つでもあった。

トンネルを抜けた先、最終コーナーである右ヘアピンが迫る。

 

「―――!」

時雨自身、このコーナーはかなり減速しないと曲がり切れない…そう認識していた。

ほぼフルブレーキングで目いっぱい減速し、速度は90キロまで減速する。

コーナー突入までに適正速度にコントロールする。

ちらりとタコメータに目線を移すと回転数は3200回転まで引き下がっていた。

右手でハンドルを多少左にきる途中で、左パドルに左手の真ん中の指3本…人差し指、中指、薬指を伸ばし、5速から2回ギアを下げて3速までシフトダウンした。タコメーターは6800回転だった。

荷重が右後方へもっていかれる中、入口のドリフトラインが迫る。

 

「(っ…!)」

ハンドルを右に曲げ、テールスライドの態勢へ。

ドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間、アクセルを踏み込んでタイヤを滑らせていく。

マシンはコーナーのセンターポール間近までノーズを近づける。

ノーズがギリギリに近づく中でハンドルを左に曲げてカウンターを当てる。

 

「(ここだ…!)」

ヘアピン出口で立ち上がる直前、ハンドルをニュートラルに戻す。

エンジン回転数は6800回転を示す。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏み込む。

この時の加速はオートマの時よりも速く感じることが出来た。

適正なギアに入っていれば、立ち上がりでの失速を抑え加速をさらに引き上げる効果があるらしい。

 

「(使い分けることが出来れば…いける!)」

そう思ったところで右パドルを1回引いて、4速にシフトアップ。

そんな中で時雨はアクセルを全開で踏み続ける。

そしてアクセルを踏み具合に応えるかのように、ワンエイティはゴールに向けて一心不乱に加速していく。

完全に自分の領域に入った時雨。その速さはもはや相手にはどうしようもなかった。

目の前にはバックストレートが見え、直ぐにゴールラインを駆け抜けるのだった。

 

「(ダメ…全然歯が立たない!)」

R32のドライバーは既に降参していた。

実はワンエイティがゴールを駆け抜けた時点で、R32はだ 5コーナーの中間で必死にドリフトしている最中だったのであった。

時雨は自分の世界にのめり込むことで、完全に相手を置いてけぼりにする事に成功していたのだった。

 

―――タイム差、5秒近く。

完璧に時雨の勝利だった。

 

 

 


 

 

 

―――さらに20分後。

往路スタート地点駐車場。

 

「大体倒したけど、どうかな?」

駐車場の端にワンエイティを止めてやってきた時雨と奈美子は、駐車場で待機していたトモミに質問を投げつけた。

この時点で時雨と奈美子は、10人以上いる「モンキービジネス」のメンバーの殆どを倒すことが出来ていた。

 

「まさかここまでやるとは…いいでしょう。私も昔取った杵柄(きねづか)でお相手致します。…『マネージャーのトモミ』、行くわよ!」

トモミはどこか納得したかのように言うのだった。

 

「……」

トモミが愛車に乗り込むのと同時に、時雨と奈美子も再びワンエイティに乗り込んでスタート地点へと移動していくのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――vsマネージャーのトモミ

推奨BGM:KING OF HEART(from SUPER EUROBEAT vol.177)

 

 

相手の車は銀色のZ34フェアレディZ。

コースは往路。

左レーン、フェアレディZ。右レーン、ワンエイティ。

アクセルを踏み込み、感触を確認する。

10人以上倒しても、このワンエイティの底力はまだまだこんなところではないという感じだった。

今の状態なら、この人にも油断さえしなければ勝ててしまうだろう。

時雨はそう思っていた。

加えて言えばワンエイティという格下マシンで、280馬力級のマシンを倒していく事は快感でもあった。

だが見下される部分もあるからこそ、自分は全開で踏んでいく。

そうも思っていた。

前を向き、タコメーターとブースト計の動きを確認している最中にカーナビのカウントが始まった。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

ギアをDドライブに入れ、アクセルを全開で踏み込む。

2台のマフラーからバックファイアーが吹き出て、スタートダッシュで加速する。

「―――!」

先行したのはワンエイティ。

あっという間にフロントを取った。

だが目の前に迫るのは第1コーナーである左ヘアピン。

早めのブレーキングでマシンを減速させる。

 

「もらった!」

トモミはこのコーナーで差をつける事にした。

サイドブレーキを引いてリアタイヤを滑らせる。

ドリフトライン上でアクセルを踏み、カウンターを当てる。

 

「っっ…っー!」

パワーが多いのか、Z34はセンターポールギリギリのラインを駆け抜けていく。

右にハンドルを切ってカウンターを当て続けているとあっという間にコーナー出口が迫る。

ヘアピンなので当然とはいえ、思った以上に速度は伸びない。

だがその走りにはスタイリッシュな部分が見受けられた。

一応、自分に有利な左ヘアピンだ。

流石に少しは差が付いただろう…そう思って右ミラーを見る。

だが、そこには予想した景色とは異なるものが映っていた。

 

「(振り切れない?!)」

自分の想像以上にワンエイティが肉薄してきていた。

ワンエイティの立ち上がりが速いのか、あっという間にテールトゥノーズの状態に食らいつかれている。

 

「(いくら武装されているとはいえ、たかがワンエイティごときに…!)」

トモミはどこか相手の車を舐めている節があった。

こっちは280馬力級の癖して、相手は200馬力級。

1回りもクラスが格下なのだ。相手がチューニングという武装をしてもそれだけは変わらない。

だが、そんなマシンにトモミのZ34は確実に食いつかれていた。

いや、食いつかれているを通り越して飲み込まれようとしていた。

だがアクセルを踏み込むうちに第2コーナーが迫る。

トンネル入り口からトンネル内部までの右高速コーナー。

ワンエイティの立ち上がりの速度が速かったのか、あっという間にZ34とワンエイティはサイドバイサイドの状態に陥っていた。

 

「っ…!」

「(ここだ!)」

既に生まれていた隙を狙ったかのように、ワンエイティはアクセルオフからハンドルを右に切る。

一方でオーバースピードであると認識したZ34はブレーキランプをフラッシュさせた。

だがそれが命とり。

相手の失速と自分の突っ込みの速さが相まって、あっという間にワンエイティのノーズがZ34の先に出た。

アクセルオフの状態でドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルオン。

パワーが後輪に伝達してタイヤが滑り出す。

それを認識した瞬間、すぐに左にハンドルを曲げる。

白煙を上げてドリフトするワンエイティ。

それに追いつけ追いつけと言わんばかりにワンエイティに食いつく。

直ぐに出口のドリフトラインが迫る。

アクセルを抜いてハンドルをニュートラルに戻す。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを全開に。

パワーが一気に後輪に伝わり、押し出すように一気に加速していく。

 

「離される…!」

トモミは愕然とするしかなかった。

相手のスピードに合わせて必死にこちらもアクセルを踏むが、コーナー1つで一気に差が付く。

加速力の差がありすぎて追いつけない。

トンネル内のストレートでもその差はみるみる開いていく。

トンネルを抜けたかと思いきや2個目のトンネル。

こちらは1個目のトンネルに比べ少し長め。

そしてわずかなストレートを抜けた先に、第3コーナーである右高速コーナーが迫る。

Z34をストレートで徐々に差を開くワンエイティ。

だが、決して余裕という訳ではない。

それでも安定感はあった。

 

「(速く走れるコーナーなら、130キロで曲がれる…)」

走りながら時雨はその事実に気が付いていた。

その速さは、以前のワンエイティに比べると明らかに異常と言うべきなのかもしれない。

速すぎる。周りの流れる速度も、車の動きすらも。

だが、視線は大きくぶれはしなかった。

今までは経験不足や車の振動もあって周りの動きが異常に速く思えた。

それがシートに固定された現在は、振動が抑えられているのか、慣れてしまったのか、周りの動きが決して速すぎるという訳ではなかった。

そうこう思っているうちにコーナー入口のドリフトラインが迫る。

アクセルを離す。即座にハンドルを軽く右に切り、ドリフトラインを踏みつける。

その瞬間、アクセルを踏みつけて左にハンドルを切り返してカウンターを当てる。

こうすればすぐにドリフト状態に突入できてしまう。

慣性に任せたドリフトは後輪駆動車の特権とも言うべきだろうが、チューニングが施されているワンエイティでは、ドリフトをするのは通常以上に容易となっていた。

だがそれは決して時雨がワンエイティに乗らされているからというではなく、彼女が車を操縦出来ているからこそという事を忘れてはならない。

寄木峠のトンネル内における高速コーナーは基本的にドリフト区間が短い。

1秒ほどでコーナー出口のドリフトラインに到達してしまう。

アクセルをすぐ抜いてハンドルをニュートラルに。

そしてドリフトラインを踏みつけてアクセルを踏み込む。

こうすることで立ち上がりの際の推進力を得て一気に加速していく。

速度計は145キロを示していた。

高速コーナーである事をわかっていても、明らかに通常以上のスピードだった。

ワンエイティのバックミラーに映るZ34はどんどん小さくなっていく。

だが時雨はそんな事は全く気が付かなかった。

とにかく自分が速く走る事…その目標に只管に走り続けた結果、相手の存在をすっかり忘れていたのだ。

 

「っ…!」

第3コーナーを抜けた直後、トモミはギア部分に取り付けられていたニトロスイッチを左手で押した。

ニトロを使用する事で立ち上がりで更なる加速を得たZ34。

しかしそれでも時雨のワンエイティには及ばなかった。

トモミのマシンはニトロキットを積んでいても強化がされておらず、その効果はいまいちといったところだった。

Z34も145キロまで加速するも、直後に第4コーナーが迫る。

第4コーナーと第5コーナーは連続コーナーで、左の高速コーナーに次いで右の高速コーナーが迫った。

 

「っ…!」

急いでブレーキを踏み込むトモミ。

だが明らかにオーバースピードだった。

無理くりサイドブレーキを引いでタイヤを滑らせる。

だが、その結果Z34はドリフトタイミングがずれてレーンのギリギリまで膨らんでいく。

Z34のリアがセンターポールに軽く接触つつもドリフトするも、失速は明らかだった。

時雨のハイペースに連れられた結果、ニトロを使うタイミングを間違えてしまったのは明らかだった。

立ち上がりで何とか加速しようとするも、タイミングがずれて思うように加速しない。

時雨の圧倒的なハイペースが原因で精神的に乱れた結果、トモミはもはや速い走りをすることが出来ずに底なし沼に嵌ってしまっているも同然に陥った。

なんとか第5コーナーも100キロ以上でドリフトするも、マシンはアウトに膨れて壁ギリギリを駆け抜けていた。

カウンターを当ててアウトに膨れるのを防ぐも、マシンはすでにかなりの失速を犯していた。

第5コーナーを抜けた時点で、ワンエイティはすでにZ34の視界から消えて第6コーナーの先という遥か彼方にいたのだった。

 

「(…そう言えばこの車にもニトロは積まれているんだった)」

最終ストレートを走るワンエイティ。

先ほどのトモミの加速の様子に気が付いた時雨はそう思った。

今の状態でもアクセルを踏み込まなかったりなど意図的なミスやアクシデントがなければ確実に勝てるとはわかっている。

だが、好奇心はあった。今のこの車でニトロを使えば、どれだけの速さが出るのか?

まだまだこの車を知らない時雨には、興味があった。

 

「(試しに、使ってみよう)」

勝負はついたようなものであっても、時雨は好奇心からハンドルのニトロスイッチを押した。

マシンは自分の想像以上の速さを発揮し、もはやウイリーする感覚に陥りそうなくらいまで加速した。

明らかに速い。

130キロだったワンエイティは、160キロ、170キロと加速していく。

だが、その瞬間だった。

 

「(加速が止まった!?)」

速度計は180キロを示し、それ以上の加速はしなくなった。

タコメーターも5速7千回転で止まっている。

あまりに不可解だった。

マシンの故障か?いや、ちゃんとメンテナンスはしているからそんなはずがない。

じゃあ何か?マシンのセッティングの問題か?

すると不穏な状態に気が付いた奈美子がタコメーターをちらりと見ていた。

 

「(まさか、リミッターカットをしてない?!)」

奈美子が確信するのは容易だった。

基本的に公道を走る車というのは180キロで速度の限界となるように設定されている。

だがサーキットを本気で走るマシンなどにはそのリミッターというのが解除されていることが多い。

一応今でも支障は殆どない。だが、ニトロを使った上でこの状態というのは不自然でしかなかった。

となると明らかにリミッターカットが施されていない。

奈美子はそう思った。

 

「(これからの為にも、後付けのユニット…買ってあげようかな)」

奈美子は静かにそう思った。

ここまで時雨が全開で走ってくれた以上、何かしらのお礼は必要である。

そう思って、奈美子は後付けのユニットを購入する事を決めたのだった。

そしてそう決心した瞬間、ワンエイティはゴールラインを駆け抜けた。

 

「…とてもじゃないけれど…相手が悪すぎるわ…」

数秒遅れてトモミのZ34がゴールラインを駆け抜けた。

だが、その走りからは最初の最初のスタイリッシュさはすっかり失われていた。

焦りに焦った結果、自分らしさを見失ったZ34。

何とか完走するも、単純な戦闘力でもドラテクでもワンエイティに完敗と言ってもいい程だった。

 

―――勝者、時雨。

 

ワンエイティが格好の場所でニトロを使った事で、そのタイム差はミサオ以上…6秒以上を出していた。

 

 

 


 

 

 

―――復路スタート地点駐車場

推奨BGM

 

「お、戻ってきたみたいだぜぇ」

「嗚呼…!」

「ちっ…予想はしていたが、やはりか」

日が少しずつ落ちていく中、3人のドライバーが駐車場で待っていた。

アリス、ミサオと共にいたのは見慣れたアフロ男だった。

その男が、車が戻ってきたことを確認するとアリスとミサオが落胆の声を上げた。

先行していたのはワンエイティ。後ろにいたのはZ34。

勝敗はこの順番で明らかだった。

分かっていたとはいえ、いざ負けたとなるとがっかりするのは半ば当然と言えば当然だった。

そのままワンエイティが駐車場の一角に駐車し、エンジンを止めた。

Z34は数十秒遅れて、ワンエイティの左隣に停車したのだった。

そしてその瞬間、男が車を降りた時雨と奈美子に近寄った。

 

「その様子だとあの相手に勝ったんだな!流石時雨ちゃんだぜぇ~!まさに行くところ敵なしって感じだな!」

「あれ…ヒロシ、来てたんだ?」

奈美子が疑問に思ったかのように言った。

 

「ああ、カーチャンからのおつかいついでに『ピット』に行ったら、ハルカちゃんが『寄木峠に行った』って言うからな!ちょっと顔を覗かせてもらったぜぇ」

「そ、そうなんだ」

そう時雨が言って、トモミの方を振り向いた。

 

「まさかここまでコケにされるなんてね…」

トモミはそう呟く中、時雨は彼女に話しかける。

 

「さて…僕たちが勝ったからには、約束を守ってくれるかな」

「…わかったわ。負けてしまった以上、どうしようもないからね」

「それにしてもトモミさん、見かけによらずガチのドライバーなのね…?」

トモミの本気の走りに対し、疑問を持った奈美子。

するとトモミは自慢げにこう言おうとした。

 

「そりゃあ私はこう見えても、元『麗泥(れでぃ)』…ゴホン!」

「れでぃ…?」

時雨が気になった言葉を口に出した。

だが間一髪でトモミは口を止めて誤魔化した。

 

「な、何でもないわ!…で、イズミに会いたいって件ね」

「うん」

「仕方ないけど、特別に取り計らってみるわ。でもあの子は多忙だから、都合が付けられるかは何とも言えないわ」

「ありがとう、助かるわ!」

「ありがとう」

「おお~!本当に生イズミに会えるってのか~!あっ、しまった!サイン色紙買っておけばよかったぜぇ!」

「遊びに来てるんじゃないのよ、ヒロシ…」

「あ、あはは…」

感謝の言葉を伝えた奈美子と時雨。

そして喜びの声を上げたヒロシに対して、奈美子が呆れ気味に突っ込み、時雨も苦笑いした。

すると奈美子に対してトモミはこう言った。

 

「ただ…あなた方が聞きたがっている『皇帝』の話だけど、イズミが話してくれるかは、正直何とも言えないわ…」

「……」

その言葉に時雨は黙りこくった。

一方の奈美子はそれでも言葉を続ける。

 

「それでも構わないわ。私は『皇帝』の情報が欲しいの。どんなちょっとしたことでも構わないから…」

奈美子はとにかく情報を求めてこう断言した。

するとトモミはそれに対して、意味深な疑問を投げかけた。

 

「…1つだけ聞かせて。それが、伝説のドライバー『皇帝』の『伝説』を汚すような事であっても、情報が欲しいの…?」

「それって…どういう事かな?」

「…『ガールドラッシュ』と『皇帝』には、やっぱり何かあったのね?それはさっき言ってた、『脅迫状』も関係しているの?」

時雨と奈美子は質問に質問で返した。

するとトモミは観念したかのようにこう断言した。

 

「…私からはこれ以上何とも言えないわ。イズミに尋ねてみる事ね…」

「……」

時雨たちに対して言いよどんだトモミ。これ以上彼女は何も話してくれないだろう。

こうなってしまった以上イズミに会って、話を聞きだすしかない…時雨と奈美子はそう決心するのだった。

 

「ガールドラッシュ」の幹部たちを3人倒した時雨と奈美子。

四天王の一人は、確実に時雨と奈美子に近づいていた。

(第16話End)

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