「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で- 作:カービィ改二
イズミの前の最後の幹部が現れます。
「ガールドラッシュ」の幹部たちを次々倒し、四天王の一人であるイズミのマネージャーを倒した時雨と奈美子。
マネージャーを倒したことにより、ついにイズミに会う事が許された。
だが、物事がそう簡単に行くとは限らない。
新たな影が時雨に忍び寄る。
―――第一寄木峠、往路スタート地点駐車場。17時過ぎ。
日が徐々に落ちていく中で、トモミがイズミ達の方に連絡をするのだった。
「…あ、もしもしアマネちゃん?取材終わった?」
時雨と奈美子がワンエイティのタイヤ交換とラジエータ水の補給を行っている間、トモミからイズミの付き人に電話を入れてもらっている。
だが、次の瞬間顔色が変わった。
「…え?今、峠にいるの?どういうこと???」
何か様子がおかしい。
すると不思議な視線を感じたトモミたちが後ろを振り向くと、大胆な女性…いや、男性?……悪く言えばオカマとも言うべき人物が仁王立ちをしながら怪訝そうな顔でトモミを睨みつけていた。
「…!」
「あ、アマネちゃん!いたの!?」
「いたわよ!全く…」
アマネと呼ばれたその人物は随分と不機嫌そうだった。
すると、補給を終えて騒ぎを聞きつけた時雨と奈美子も近づいてきた。
「あの…アマネさん、1人ですの?イズミさんはご一緒ではなかったのですか?」
アリスがその人物に疑問を投げかけた。
「イズミさんなら後から来るわ!私は一足先に確かめに…」
「確かめに…?」
すると、アマネがトモミにぐいと近寄った。
「トモミさん…いや、トモミ、あなた、イズミさんをマスコミに売ったの!!?」
「!?」
「???」
「何ですって!?いきなり何の話?さっぱりわからないわ、アマネ!」
疑惑を否定するトモミ。
だがアマネは言葉を続ける。
「んまっ!しらばっくれないで!これはさっきマスコミに送られたもの!」
そう言ってアマネは1枚のFAX用紙を取り出した。
「先日届いた『脅迫状』の内容に触れているわ!あれは、あなたが保管してたじゃないの!」
ガールドラッシュの幹部たち、時雨や奈美子、ヒロシにわかるように見せる。
「ん~?”イズミが過去にレディースチームに所属していた情報を入手した為、イズミは事務所から解雇いたしました”…?」
「何、それ?」
「レディース…?」
ヒロシが文章を読み上げ、奈美子と時雨が疑問に思ったかのように静かに呟いた。
「保管していた脅迫状の中身をリークした上に、イズミさんを解雇ですって!?」
「…!」
「皆で『皇帝』に対抗しようって決めたのに、裏切ったの!?裏切ったのね!!?」
そう言ってアマネはぐいぐいとトモミに言い寄る。
「あ、アマネさん…」
「おい、落ち着くんだ」
「アマネ、落ち着いて。マスコミにリークとかイズミを解雇とか、私に一体何があるって言うの?それにチームメンバー以外もいるのよ!丸聞こえじゃないの!」
アリスとミサオがアマネをあやす中、トモミにそう言われるとアマネははっとしたかのように誰かを探した。
異様なほど視線を感じたのだ。
そしてその視線は、時雨と奈美子からのものだった。
「悪いけど、話を聞かせてもらったよ」
「!!」
「私たち、『皇帝』の情報を集めているの。『皇帝』が絡む話なら、どんな話でも聞き流せないわ!」
時雨がアマネをじっと睨む一方、奈美子は毅然とした態度でそう言い切った。
「んまっ、盗み聞きなんて性格の悪い事!第三者は邪魔、帰ってよ!…と言っても聞く相手じゃなさそうね…いいわ!私とバトルしなさい!」
「いいよ…勝負しよう」
「私は未来のアイドル、『付き人のアマネ』よ!まずは私のチーム『カマンベールズ』のココが相手をするわ!」
「誰だっていいさ…始めよう」
「かかってらっしゃい!!」
そう互いに啖呵を切ったところで、それぞれのマシンに乗り込んでスタート地点へと移動していくのだった。
―――vsココ
推奨BGM:TRUE COLOUR(from SUPER EUROBEAT vol.181)
相手の車は青のS2000。
コースは復路。左レーン、ワンエイティ。右レーン、S2000。
2台がスタートラインに並ぶ。
「時雨…」
「……心配いらないよ」
今までとは違ってラジエーターやエンジン系、タイヤも大幅に強化していて、多少の連戦位ならすぐに耐えられるようになっている。
タイヤ自体も新品に変えたので食いつき自体は問題ないはずだ。
そう時雨は思っていた。
そして実際、ワンエイティの耐久力自体はかなり強化されていたのであった。
「さあ、行くよ」
「……」
奈美子が頷き、時雨は前を見る。
アクセルを踏み込んでエンジン回転数を上げる。
タコメーターの回転数もブースト計も問題なさそうだ。
カーナビのカウントが始まる。
トンネルの中にある第1コーナーを見つめる。
3
2
1
GO!
「「―――!!」」
2台のドライバーが共にアクセルを全開に踏み込む。
先手を取ったのは、ワンエイティだった。
リード差はあっという間にテールトゥノーズまで広がる。
「(でも…!)」
S2000のドライバーは決してあきらめてはいなかった。
このまま第1コーナーで食らいつけるのではないか?
第1コーナーは相手にとって有利な右直角コーナーだ。
明らかに自分が有利である。
「っ…!」
一気にブレーキを掛けて減速し、リアタイヤを滑らせる。
ドリフトラインで丁度ハンドルを右に切り、一気にコーナーを駆け抜けていく。
90キロ台で滑り続けるS2000。
直角コーナーを抜けて、トンネル出口のドリフトラインが見える。
ここで更に突き放す……
そう思った瞬間だった。
「(…追いつけない?)」
サイドバイサイド。
ワンエイティとの距離差は、少し縮まったが追い抜けない。
いや、S2000のフロントがワンエイティのリアの位置にあった。
予想以上に相手に食いつけない。
見た目はいかついマシンだったが、どうやら戦闘力はその見かけ同然…いやそれ以上かもしれない。
そうS2000のドライバーは確信せざるを得なかった。
だが、目の前のドリフトラインを見てアクセルを抜く。
そしてハンドルをニュートラルにした瞬間、ドリフトラインを踏みつけたのと同時にアクセルを全開に踏み込む。
だがその直後だった。
「……!!」
立ち上がりの加速勝負。
ノーマルであればS2000とワンエイティの勝負はS2000に分があるだろう。
だが、ワンエイティはそれを超えて更に差を開く。
アクセルを踏んでも追いつけない。
だがまだ始まったばかり。
第2、第3コーナーの左高速コーナー、右高速コーナーが連続して迫る。
「っ…!」
アクセルオフでハンドルを左に切り、タイヤを滑らせる。
一方のワンエイティもタイヤは滑ってもほぼノーブレーキ。
しかもタイヤが食いついているのか、相手のワンエイティは明らかに速い。
第2コーナーでのドリフトの差が、相手からの顔面ストレートパンチの如く効いてくる。
そしてその反動は、第3コーナーに入っても残ってしまう。
第2コーナーの短いドリフトの直後、直ぐ第3コーナーである右高速コーナーが迫る。
「くっ…!」
リアを最小限滑らせて、必要最低限の減速でコーナーを抜けるワンエイティ。
しかしS2000のドライバーはドリフトでハンドルを切りすぎてしまう。
慌てて左にハンドルを切り返してカウンターを当てる。
だが、そのもたつきの際にもワンエイティは第3コーナーを抜けていた。
「(離される…!)」
第3コーナーを抜けると、ほんのわずかではあるがストレートがある。
そしてそのストレートの後に存在するのが、第4コーナーと第5コーナー…2回連続で左高速コーナーである。
S2000にとっては不利でしかなかった。
相手にとって有利でしかないコーナーが2つも続くのである。
「っう…!」
一瞬だけブレーキを踏んで、タイヤを滑らせないようにするS2000。
だが、そのブレーキが反ってワンエイティとのタイム差を生じる事になってしまった。
ワンエイティ側は殆どブレーキを踏まずに第4コーナーと第5コーナーを駆け抜けていった。
S2000のドライバーにその光景を見せつけるや否や、ワンエイティは完全にS2000のドライバーの視界から消えたも同然になった。
「やられた…」
S2000のドライバーにとってはもうこの時点で諦めざるを得なかった。
幾ら最後の最後に右ヘアピンコーナーがあるとはいえ、明らかに自分とは技術の差がありすぎる。
どっちにせよ追いつけない。
そう心が折れたS2000のドライバーは、諦めずに攻め込んでもその差が埋まる事は一切なかったのだった。
―――勝者、時雨。
タイム差は4秒以上存在していたのだった。
◇ ◇ ◇
―――往路スタート地点駐車場。
「んまっ!ココをあんなにもぶっちぎるですって!?…舐めたマネを…!誰でもいいわ!この人たちを一ひねりしてあげて!」
多少動揺したアマネがバトルを促すように指示した。
「…まあ、いいさ。誰でも相手になるよ」
その姿を見ていた時雨は、挑戦者を受け付けるように言うのだった。
―――vsミサエ
推奨BGM:ANOTHER PASSION(from SUPER EUROBEAT vol.186)
相手の車は赤色のMR2 GT-S。
コースは往路。
左レーン、ワンエイティ。右レーン、MR2。
2台がスタートライン前に横並びになる。
「(相手の車は自分と同じクラスのマシンだ…でも何にせよ、油断はできない!)」
時雨はどんな相手であっても全く油断する気配はなかった。
今は開かれつつある四天王への道を駆けあがるまで。
だからこそ、立ち止まらない為にも油断してはならない…そう思っていた。
アクセルを踏み、ハンドルを軽く左右に振って感覚が問題ない事を確認する。
「……よし」
エンジン音とハンドルの感覚を確認した時雨は軽く呟いた。
カウントが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
「っ…!」
ギアをDレンジに変えてアクセルを全開に踏み込む時雨。
一方の相手のドライバーも1速に入れてアクセルを全開に踏み込む。
スタートで一歩以上先に出るワンエイティ。チューニングされている個体とはいえ、普通の相手位ならまず余裕で先手を取ることが出来ていた。
だが、そのスピードはMR2のドライバーにとってはあまりにも速いものだった。
「(あんなスピードで最初のコーナーを…!?)」
あまりにもオーバースピードではないか?
MR2のドライバーはそう思わざるを得なかった。
曲がり切れるのか?
そう思った直後、ワンエイティのブレーキランプが光る。
だがそれでも速度は速い。
曲がるのかと思ったその瞬間、ワンエイティは一気にハンドルを左に切って車体を横に滑らせる。
白煙が上がる中、ワンエイティはヘアピンコーナーを一気に駆け抜けていく。
「(ま、曲がってる…!?)」
左レーンを駆け抜け、コーナーの立ち上がりでもスピードを得たワンエイティはもはや水を得た魚のようだった。
いや、魚というよりはトビウオ…いや、相手を喰らうイルカかシャチかもしれない。
それくらい、立ち上がりで差が生まれた。
ワンエイティが第1コーナーの出口に到達していた時点で、ワンエイティは既に第2コーナーに突入していてドリフトしかけるところだった。
「(もうあんなところに…!)」
立ち上がりでギアを上げ、必死になって食らいつくMR2。
だが、この差を付けられたことが大幅なプレッシャーを与える事になってしまっている。
「っ…!」
アクセルをリリースしてハンドルを切るが、そのタイミングは速すぎると言ってもいいものだった。
オーバーステアで曲がったMR2は一気に壁スレスレまで迫るも、後輪がグリップアウトしかけて接触しかける状態にまで陥っていた。
慌ててカウンターを当ててしまう事でマシンの態勢は回復するも、右から左に重心がぐんと移った事で不安定になる。
必死になって立て直そうとするも、アクセルを踏んでしまうと暴れるマシンを抑えるべく、ブレーキを掛けてしまう。
一気に失速することは言う間でもなかった。
「うう…」
第3コーナーを抜ける時点でマシンの態勢は回復していたが、既にワンエイティは遥か彼方にいた。
文字通りの油断も隙も無い走りであった。
「……」
時雨は完全に後ろを見ず、自分の走りだけを極める事に集中していて相手の事はもはや目になかった。
時雨にはチームメンバーの存在はザコ同然だったのである。
そしてそんなドライバーは言う間でもなくあっさりと振り切られてしまう…。
それくらい、時雨の速さには磨きがかかっていた。
そしてそのままワンエイティがゴール。
一方、5秒ほど遅れてMR2もゴールするのだった。
◇ ◇ ◇
―――復路スタート地点駐車場。
MR2とのバトルからさらに30分後。
カマンベールズのメンバーたちの殆どを倒していた時雨と奈美子は、遂にアマネに挑戦しようとしていた。
駐車場にワンエイティを止め、彼女に話しに行く。
「さて、どうかしら。ここまできたらバトルしてほしいんだけど」
奈美子がアマネに話しかけた。
「まさか『カマンベールズ』のメンバーたちにここまで!?舐めたマネを…」
自分の部下たちがあっさりと蹂躙された事に、アマネは驚いていた。
だが、直ぐに現実を飲み込んだかのようでもあった。
「わかったわ!覚悟しなさい!」
「…始めよう」
多少動揺するアマネに対して、時雨は冷静に話すだけだった。
アマネが愛車に乗り込み、時雨と奈美子もワンエイティに乗り込んでスタート地点へと移動していく。
―――vs付き人のアマネ
推奨BGM:SUN CITY 2008(from SUPER EUROBEAT vol.187)
コースは復路。
相手の車種はファイヤーパターンのステッカーが貼られたアルシオーネSVX。
左レーン、ワンエイティ。右レーン、アルシオーネ。
「禁断のハーフ&ハーフ走法で…勝つ!」
愛車のアルシオーネの中でアマネは静かに呟いた。
闘志を漲らせた両手でハンドルをがっしりと握る。
その手は明らかに男のものと言ってもおかしくはなかった。
「(このドライバーも、油断しなければきっと勝てるはずだ…でも)」
一方の時雨。
グローブをはめた両手をみて、感触を確かめる。
走り続けた事で多少は疲労はあるだろう。
だが、グローブを付けていたこともあってある程度疲労は抑制されていた。
両手を掴む感覚自体は問題ない。
そう認識してハンドルを握る。
「(次の四天王に勝つためにも、最初から本気で行く!)」
決心した時雨のハンドルを握る手は、微かに熱を帯びていた。
強い相手と戦う事が…彼女の心に、火を灯すかのようだった。
アクセルを踏み込み、エンジン回転数を上げる。
アルシオーネのボクサーエンジンの音がスタート地点に響く中で、ワンエイティのL4エンジンの音も決して負けてはいなかった。
そしてそんな中でカーナビのカウントが始まる。
3
2
1
GO!
「「―――!!」」
ギアをDレンジに変えてアクセルを踏み込む時雨、同じくギアを1速に入れてアクセルを踏み込むアマネ。
バックファイアーが互いのマシンのマフラーから噴き出る。
タイヤが多少滑る中、アルシオーネは安定艦を持ちつつ加速していく。
だが
「(ワンエイティが前に…!?生意気な…)」
根本のパワー自体はチューニングされたワンエイティの方が上だった。
加速でアルシオーネの前に出る。
その状況にアマネはどこかカッとなっている状態だった。
どうやら自分より前に行かれるのが気に食わないらしい。
最初のトンネルに入り、直角右コーナーが迫る。
コーナーに迫るワンエイティを追うアルシオーネが見たのは、あまりにも露骨なフェイントモーションだった。
ブレーキを一瞬だけかけ、左に動いたかと思えば一気にマシンは重心移動を生かして右に。
そしてそのままドリフトラインを踏みつけたワンエイティは、いっきに後輪をスライドさせてドリフト状態に入った。
「(そんなフェイントモーションで……!)」
だが、アマネの想像以上にワンエイティの旋回速度は速かった。
自分のコーナースピードよりも、あのワンエイティのほうが速い。
そんな現実を突きつけられた。
「(は、速い…!)」
レーンの右端ギリギリまでワンエイティが迫る。
一方でアルシオーネもインベタの状態でトンネルの壁に迫っていた。
だが、インに迫ってもズルズルとアウトに膨れる。
そしてコーナー出口になっても、差はあまり広まらずテールトゥノーズの状態であった。
それは、本来コーナーの内側にいるので有利なアルシオーネにとっては明らかにコーナーで負けているという事実だった。
「(っ…!でもまだこの先に…)」
第2コーナー、第3コーナーが迫る。
左、右と連続する高速コーナー群。
ワンエイティが2つのコーナーに突入する。
「っ…!?」
コーナースピードは明らかにワンエイティの方が上だった。
ワンエイティより車重的に重いアルシオーネはコーナーの外側に振り切られがちになっていた。
コーナーでの安定性自体は高い4WDだが、左右に振り回される連続高速コーナーではその車重が足枷となっているようだった。
「―――――」
一方の軽量スポーティなマシンを操る時雨。
もはやアルシオーネの事はお構いなしだった。
アクセルオフでハンドルを左に曲げ、ドリフトラインでアクセルを踏みつけてカウンターとして一気に右に切る。
そしてコーナー出口のドリフトラインでアクセルオフ状態でハンドルをニュートラル西、アクセルを再度踏み込む。
こうする事で確実に推進力を得ることが出来ていた。
そして第3コーナーの高速右コーナー。
フェイントをほぼ入れず、アクセルを抜いたらハンドルを右に切り、再びドリフトライン上でハンドルを左に切ってドリフトさせる。
直ぐにコーナー出口が近づくので、そこでアクセルを抜いてハンドルをニュートラルに。
そして出口のドリフトラインでアクセルを全開に踏み込む。
ワンエイティの速度は150キロ近くを維持していた。
アルシオーネとの差はぐんぐん広まる。
「(こうなったら…)」
一方のアマネ。
第3コーナーを抜けてたのは良かったが、この時点で時間差としては2秒近くが生じていた。
ワンエイティは第4コーナーに突入しかけている。
ここでニトロを使うしかない。
そう確信したアマネは、左手でハンドルに取り付けられていたニトロスイッチを押すのであった。
「っ…!」
失速気味だったアルシオーネの速度が一気に120キロ台まで加速する。
だが次の瞬間だった。
「―――!!」
目の前に迫るのは左高速コーナー。
慌ててアクセルオフでハンドルを切るも、あまりにも速い速度で突入したマシンはアウトに見事に膨れてしまい一気に失速してしまう。
壁スレスレまでボディを迫らせたアルシオーネ。
コーナーでの安定性こそあれど、マシンはコーナーのアウトに膨れた。
結果としてワンエイティとの距離差は縮まったかと思いきや再度広まった。
ニトロを使う場所を間違えてしまったが故の悲劇と言っても過言ではなかった。
「(逃がさない…!)」
全開走行でワンエイティに食らいつこうとするアマネ。
アクセルを必死に踏み続け、速度は120キロ台をキープして第5コーナーに突入しかけていた。
まだ最後の大逆転の可能性がある事を彼女は諦めてはいなかった。
最終第6コーナーの右ヘアピン。
ここで2台の差が一気に縮まるだろう…そうアマネは思っていた。
一か八かの大逆転かもしれないが、多少の距離差であるのならば十分に勝機はある。
アクセルを抜き、ハンドルを左に曲げてドリフトさせたかと思いきや、ハンドルを右に切る事でカウンターを当てて再びアクセルを踏み込む。諦めずに踏み続ける。
トンネルの先には西日が差す。
だが
「嘘だろ……」
第5コーナーを抜けた時点で、ワンエイティはすでに最終コーナーのヘアピンでドリフト状態に入っていた。
しかも自分が想像する以上の速さで西日を交えながら、ワンエイティは一瞬でコーナーの先へと消えていった。
まるで悪条件すら飲み込むかのように…いや、西日すら気にしないように。
最終コーナーの死角の先に消えたワンエイティに、アマネはただ茫然とそう呟くしかなかったのだった。
そしてその直後、ワンエイティは最終ストレートを全開走行で駆け抜けてゴールイン。
最終コーナーでも差を全くもって寄せ付けることなく、無難にゴールすることが出来ていたのであった。
―――勝者、時雨。
相手がニトロを使っていたにもかかわらず、アルシオーネを4秒近くぶっちぎる大勝ぶりだった。
―――往路スタート地点駐車場。
「うおお…やっぱすげー…」
「あ、アマネさんまで…」
「ここまで捻り潰されるとはな…」
「………」
駐車場で待機していた人々が互いに口を開く。
ヒロシ、アリス、ミサオも口々に感想を言い合っていたのだった。
ワンエイティの左隣に駐車したアルシオーネからは、フラフラとアマネが運転席から降りてくる。
「ま、負けた…バカな…このオレ……いえ、私が負けるなんて…!」
アマネは素の自分が出るかのように狼狽した。
片から崩れ落ちるように地面に膝をついた。完全に茫然自失だった。
よもやここまであっさり敗れるとは思っていなかったようだ。
そしてアマネの前に立ちふさがるかのように、時雨と奈美子が話しかけにいく。
「残念だったね。悪いけど僕たちが勝った以上、さっきの話を聞かせてもらうよ」
「くっ…うぐぅ……」
「…言える範囲でいいの。一体何があったか、聞かせてもらえないかしら?」
「それは…ダメよ。イズミさんから箝口令が…それにイズミさんの過去の件は…」
狼狽しながらも時雨たちに対して答えを拒むアマネ。
するとその時だった。
「それじゃあここから先は…わ・た・し・が!お話ししちゃうぞ☆」
きゃぴきゃぴ声がした方向を時雨と奈美子が振り返ると、いかにもアイドルと言った格好の女性が立っていた。
「イズミさん!お仕事から戻られたんですね!」
「おおお!生マキノイズミだぁぁぁあ!!う~ん、やっぱりかわいいのぉぉぉ!!」
アマネが名を呼び、ヒロシが不思議なほどまでに興奮していた。
まさしく憧れの人に会っているかのような振る舞いだった。
「初めまして、マキノイズミでぇす!通称は『アイドルレーサー』!女だけのチーム『ガールドラッシュ』のリーダーをやらせてもらってまぁす!みんなからは、四天王とも呼ばれてまぁす☆」
「うおおおお!イズミちゅああん、か、かわいいぜぇえええ!!」
すると、イズミは時雨と奈美子の方に目線を合わせてこう言った。
「貴方たちが噂の、四天王を2人も倒したって人達?」
「え、ええ…」
「…そうだよ」
奈美子は茫然としながら、時雨はどこか怪訝な顔で答えた。
「まさか私たちと同じ女の走り屋とは思わなかったよ~!」
「…やっぱり、意外かな?」
「意外も何も、女の走り屋って言うのは基本男社会である走り屋の中では希少な存在だからね~☆でも私もそんなあなたたちに倒されちゃうのかな?こわ~い!」
時雨の言葉にあっさりと返したイズミ。
だが時雨と奈美子の表情はどこか暗いものだった。
「う~ん…私ちょっと生理的に、受け付けにくいかも…」
「というか…いい年してあんな話し方して、恥ずかしくないのかな」
「…それを言っちゃおしまいよ……」
奈美子と時雨は互いにボソボソとつぶやく。
時雨自身はどこか呆れ気味に答えるのだった。
「アマネが私を置いて先に峠に行っちゃうからぁ、一体何が起こったの?って思ってぇ、イズミも仕事バックレて急いで帰ってきちゃった!てへ!」
「バックレてって…てへってごまかしてるんじゃないわよ、もう!…後で謝罪の電話入れなきゃね…と思ったけど、例のFAXのおかげで嫌でも向こうから何か言ってきそうね…放っておこ…」
イズミに対してトモミが突っ込んだところで、アマネが事を思い出したかのように話し出した。
「そう!例のFAXよ!あれは結局何なのよ?トモミさんの仕業じゃないの!?」
するとイズミがどこか毒舌そうに言いだした。
「馬鹿ねぇアマネ。いくら脅迫状が1通しかなくて、それをトモミが保管してるからって…だから犯人をトモミと決めつけるのはあまりにも短角的よ?」
「んまっ!じゃ、じゃああのリークは誰が…?」
「決まってるでしょう?」
そう言うとイズミは一息置いて、こう断言した。
「勿論、脅迫状の差出人である『皇帝』よ☆」
「んまっ!考えてみればそのとおりね。『皇帝』ならやりそうな手口ね…ご、ごめんなさいトモミさん!頭に血が上がっちゃって失礼な事を!」
イズミの言葉にアマネはどこか納得したかのように落ち着き、トモミに頭を下げて謝罪するのだった。
「わかってくれればいいのよ、アマネ。私たちはチーム一丸となって『皇帝』からの嫌がらせに対抗しなきゃ」
すると、そうイズミが言った瞬間だった。
「…ちょ、ちょっと待って!『皇帝』が脅迫状を出した?」
「『皇帝』からの嫌がらせって、どういうことだい?」
突如として横槍となった奈美子と時雨。
2人の言葉にイズミがムッとして返事した。
「あら、お二人はやけに『皇帝』の肩を持つのねぇ☆」
「私たち、『皇帝』の情報を探しているの」
「…どういう関係か知らないけど、『皇帝』なんて最低の野郎よ!ヘドが出るわっ☆」
「何だって?」
イズミの言葉に時雨がどこかスイッチが入ったかのように反応した。
奈美子には見えなかったが、時雨の心には怒りの感情が沸々と湧いていたのだった。
遂にイズミの口から語られ始めた『皇帝』、奈美子だけでなく時雨にもショックの反応があった。
一体『皇帝』と彼女たちに何があったというのか?
そしてイズミの正体とは一体…?
(第17話End)