「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

2 / 40
第1話です。
pixiv版とはほぼ展開は同じですが、BGMの違いをお楽しみください。


時雨の復活編
act.1「Open the Door(扉を開く者)」


推奨BGM:湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNEアトラクト

決めろ

 

最速ドリフト。

 

あのコーナーも

 

このコーナーも

 

流して

 

流して

 

流しまくれ

 

 

 

電光石火の

 

超速ドリフトで

 

最速レコードを

 

刻め。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦これ」いつかあの海で

        ×

  ドリフトスピリッツ

  2X23 -いつかあの(みち)で-

 

 

 

 


 

 

 

 

 

自分がいたのは深い深い闇の中だった。

真っ暗闇の空間の中、自分はどこかに向かっていた。

自分の意志が無いのにもかかわらず、ただひたすらに歩いていた。

永遠の闇の中を歩く。

 

自分が死んでしまったのか、それとも生きているのか。

それすらもわからないまま、ただ歩いていた。

ここはどこなのか。何処へ向かうのか。

暗闇の中を、自分はただ歩いていた。

ただひたすら、闇雲に何処かへ向かって歩く。

どこに―――行くのか。

それは彼女にもわからなかった。

だが、此処にいるのは自分だけ。

それだけが明確だった。

 

 

一体どれくらいの時間歩いただろうか。

ほんの少し見えたのは一条の光。長い長い長いトンネルの出口。そしてその方向へ歩く。

 

歩くたびに少しずつ大きくなる光。

ようやく出口にたどり着くのか?

 

だがここで違和感があった。

何かが遠くへ去っていく音が聞こえる。

機械の音だ。自分が知らない、そんな爆音だ。

そしてその機械の音が大きくなるにつれて光が視界を覆いかぶせる。

そして眩しくなりすぎて…

 

何も見えなくなった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

 

気が付くと彼女は、普段と変わらぬ服を着て山奥の道路のバス停の木造待合室に座っていた。

だがとんでもなく長い夢から目が覚めた、そんな気がした。

 

「―――――?」

今、一瞬自分の前を何かが去ったような気がした。

なにか、印象的な形をした何かが。

黒い、なにか。

 

だが、それ以上の事を気にする余裕はなかった。

自分がいたのはどこかの木造家屋。

ここはどこなのか?

自分は何故ここにいるのか?

自分は誰なのか?

今は何時なのか?

待合室から出た先は、片側1車線、対面走行らしき道路だった。

 

「……ここは、一体?」

周りの様子を見渡す限りどうやら自分はとんでもなく遠い場所にやって来てしまったようだ。

辺りは一帯の山。そしてそんな山を切り分けるかのように道路が存在した。

太陽は―――丁度天上にあるくらいだった。

山の中という事もあって緑の光が眩しいくらいである。

だが、見渡す限り山の中。

 

 

「―――はこ、ね?」

バス停に書かれていた文字を見て少女は一人呟いた。

 

箱根。

そう、箱根である。

神奈川県と静岡県の山の中あたりだろうか。

ある程度の場所自体は把握できた。

 

では、次に自分は誰なのか?

そのヒントは待合室の、自分が座っていた場所に置いてあった手提げ袋にヒントがあった。

手提げ袋の中には―――カードが1枚のみ。

だが、これが大きなヒントとなる。

 

「……にしの、しぐれ……?」

カードの正体…運転免許証だった。

 

そこには自らの写真だけでなく、運転可能な車の等級、名前、住所、生年月日などが書かれていた。

だが、これが本当であるかは確証がつかない。

少なくとも、自分は「時雨」という人物であるという事は分かった。

しかしそれ以外にも気になる文言があった。

 

「―――当免許証は国内B級ライセンスと同等の権限を有す…?」

 

国内B級ライセンス。

聞きなれない言葉だ。

どうやら、ライセンスというものは持っているらしい。

あと、ライセンスとやらはこの免許証を取得した時に自動的についてくるものであるようだ。

しかしそれ以外の部分は…住所も佐世保と書かれてはいるが、それ以外はよくわからない。

今がいつなのかすらわからなければ、自分が今何歳なのかもわからない。

 

「――――――誰か、いないのかな」

あらかた小屋の周りを見渡しても、道路の先を見ても誰も見当たらない。

周りは峠道なので当然民家もないし誰もいない。

バスの時刻表を見てもどうやら次のバスまでは到底時間があるようだ。

それどころかお金を1円も持たない彼女にとっては、ここからバスで移動する事すらままならない。

やむを得ないが、歩いて行くしかないか。時雨はそう思った。

バスの進行方向か、それとも逆の方向…どっちに行くべきか?

 

「…駅」

ふとバス停に書かれていた行き先を見ると、どうやら駅の方まで行けるらしい。

駅の方に行けば、人に会うことが出来るだろう。

彼女はそう思った。

 

「行かなきゃ」

そう言って彼女は道路の左端を、行く当てのないゴールまで歩き始めた。

確証はないが、歩いていればいずれ人にも会うだろう。

彼女はそう思っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「はあ…はあ……」

 

一体どれくらいの時間歩いただろうか?

少しだけ太陽が傾いた気がする。

どれだけ分け入っても分け入っても山の中。

延々と道に沿って歩いているが、目的の駅とやらはとんでもなく遠いようだ。

何台か車とすれ違う事はあっても、直ぐに走り去ってしまって一向に声をかけることは出来なかった。

 

だが、通り過ぎる車を見てハッキリと分かった事が2つ。

この世界のクルマというのは、どうやら自分が想像する以上に性能があるようだ。

そしてどうやらあの車たちは木炭で走る車ではないようだ。

石油らしき匂いがはっきりとした。

どうやら自分の知っている車と、あの車たちとは別のものなのだろう。

そして一部のクルマは自分の想像をはるかに超えた速度で峠道を駆け抜けていった。

ぼんやりとそう考えていると、あるものが見えてきた。

 

「…駐車場……?」

どうやら峠の真ん中に駐車場、いや休憩スペースとも言うべき場所があった。

長い時間歩いて疲労がたまっていた時雨だが、ここで一息つくことを決めた。

 

「………」

長い時間歩いたが殆ど情報はなし。

休憩所も木椅子と飲み物を販売する機械とトイレしかなかった。

椅子に腰かけ、背もたれにぐったりと倒れてみる。

そして大空を見上げながら大きなため息が出た。

 

「これから僕は、どうなるんだろう?」

気が付いたらよくわからない場所にいて、よくわからぬまま歩いてきた。

自分が何者なのか、どうして自分がここにいるのか。

空を見上げても太陽はじりじりと眩しく光るだけだった。

何も分からずただ茫然とする。

 

 

すると

推奨BGM

 

「~~~~~!~~~~~!!」

「~~~~!~~~!!」

 

どこからか声が聞こえる。

誰かがいるようだ。

ここがどこなのかを聞くいいチャンスかもしれない。

立ち上がって周囲を見渡す。

そして駐車場のところを改めて見るとそこには2台の車と、口論している男女二人がいるではないか。

少しだけ近づいて声を聴いてみる。

 

「だからネエちゃん、遠慮するなっての!この『アフロのヒロシ』様と一緒に、ドライブしようぜぇ~?」

「結構ですって言ってるじゃない。私に構わないで」

 

サングラスをかけたモジャモジャ頭の男の方がゴーグルを頭につけた青髪の女の方を、デートに誘っているようだ。

詳しくはよくわからないが、聞いている限りどうやら厄介事のようだ。

ここにいてはあまりにも不都合すぎる。

そう時雨は思ってさっさと立ち去ろうとしたその瞬間。

 

 

「…あぁん?なんだお前?さっきから俺たちのことじろじろ見てよぉ?」

「……!」

時雨の存在はとうにモジャモジャ男にバレていたのだった。

どうやら自分の存在はあまりにも目立つようだ。

 

「えっ……いや、その……僕は」

どう言えばいいのか。何を話せばいいのか。

時雨はしどろもどろになって手に汗がにじみ出る。

「ここはどこなのか」と聞けるような雰囲気ではないようだ。

 

「…あっ…ねえ!」

「?」

青髪の女性がなにか頓智をきかせたかのように詰め寄ってくる。

そして時雨の右手を取ってこう言った。

 

「お願い、あのしつこいアフロを倒してほしいの」

 

「……えっ?」

余りにも唐突な要望だった。

どうやらとんでもない厄介事に巻き込まれてしまったようだ。

動揺する中で時雨は質問し返す。

 

「た、倒す…?倒すって、ちょっと待って。どうやって…」

「まさか…ここでのドリフトバトルが初めて?」

「ドリフトバトル…?」

「免許証は持ってる?」

「め、免許…?これのことかな…?」

時雨は手提げ袋から先ほどのカードを取り出して見せた。

それどころか、車の運転すら初めてだ。

そしてそれを見て、女は安堵したかのような顔で言った。

 

「じゃあ、私が教えてあげるわ!免許も持ってるみたいだし」

「えっ…?えっ?!」

「あぁん?何だテメェ?二人のアバンチュールを邪魔するんじゃないぜぇ」

「バトルしてもらうわ!この人に負けたら私たちの前から立ち去って!」

青髪の少女はモジャモジャ頭のほうを振り向いてそう言い放ったのだった。

 

「へへっ…面白ぇじゃねえかよぉネエちゃん。実力が無いからって代役ってかぁ?」

「いいから、バトルしなさい!」

「えっ…えっ……」

ほぼ勢い任せ。

青髪の女性の勢いにすっかり時雨は圧倒されてしまっていた。

 

「あの…いや、僕は…」

「大丈夫、私の指示通りに走ってくれればこんな人すぐ勝てるわ」

「いや…その…」

「舐められたもんだぜぇ。どこのヤツだか知らないが、代役に相手されるとはな…」

もはや場の空気に完全に流されてしまった時雨。

ここまできて「ごめん無理」とは完全に言える雰囲気ではなかった。

すると、アフロ男はポケットから硬貨を取り出した。

 

「バトルとなりゃあ、コイントスしとくぜぇ」

「…?」

「この10円玉の10って書かれてる方が表な」

コイントスとは一体どういうことなのか?

時雨にはよくわからなかった。

「あのコイントスって…」

「ここではコイントスによって車の走行レーンが変わるのよ」

「えっ…??」

普通車で走る時は左側走行で、それを追い抜くために右側車線に飛び出るものではないか?

時雨でも最低限その部分はわかっているつもりだった。

一体どういうことなのか?

 

「ちっ、ついてねえぜぇ。オレが表か…まあいい、始めるかぁ」

アフロ男は愚痴るかのように呟いた。

 

「え…」

「私の車に乗って!」

あまりにも強引すぎる展開。

しかしあのモジャモジャ男を追っ払うためにはこうするのが一番のようだ。

相手は少なくとも引き下がるつもりはないようだ。

止む無くバトルする事になってしまったようだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

推奨BGM

――――vsアフロ男

 

対戦車種はAE86型スプリンタートレノ。

対してこちらは旧型のS30Z。

実力差があることは確かだ。

何より車の形からして、S30Zは古い車である事は言うまでもない。

 

「(…無理だ…車の事は全くの素人である僕でもわかる。こんな状態なんかで勝てるはずが…)」

今の時雨には自信が無かった。

 

「勢いに任せたけれど…大丈夫?」

「大丈夫…じゃないよ…」

「車の運転は?」

「いや、僕は…」

「まさか、初心者?」

「う、うん…」

「………」

青髪の女性は愕然とした感情だった。

勢い任せでこの人物を巻き込んでしまったが、まさかペーパーとは。

だが巻き込んでしまった以上自分が何とかしなくては。

吹っ切った彼女は全てを受け入れたかのような顔でこう言った。

 

「こうなっちゃった以上仕方ないわ。巻き込んじゃった以上私が教えてあげる」

「……よろしく」

「早速だけど、エンジンキーを回して」

「えっ、どこ…?」

助手席に座った青髪の女が指を指す。

それを見て時雨はエンジンキーを右回りに回した。

ブルブルとエンジンが震えだす。

エンジンの快音が何となく時雨にも伝わってきた。

そして素人である時雨ですら、この車は丁寧に整備されている事がわかった。

 

「運転自体は分かるわよね?」

「な、何となくだけど…」

時雨は嘗て何度か車やバスに乗った事はある。記憶の片隅に車の運転のイメージはあった。

運転席もたまに覗いたこともある。

だから多少は何とかなるだろうと思った。

 

「えっと…前に動くには」

「このレバーをボタンを押しながらDの位置に合わせて」

「う、うん」

幸いにもこの車は改造されてオートマのようだ。

とりあえず車を動かす準備は出来た。

それがわかると、青髪の女性はルールを話し始めた。

 

「ルールは単純。このスタートラインからゴールのグリーンラインが3つ先のコーナーの後にあるから、そこに速く着けば勝ちよ」

「こ、コーナー…?」

青髪の女性は間髪入れずに次の話に移る。

「相手も動いてる…スタートラインに移動するよ。アクセルを踏んで!」

「アクセル?…右のペダルかな?」

「右のペダルよ、少しずつ踏み込んで!あと止まりたければ左のペダルを踏んで」

もはや教習所の教官と仮免講習中のドライバーである。

だが無理もない。時雨は全くもって車を運転した事が無いのだから。

 

「全く遅いぜぇ…じらす作戦かぁ?」

アフロ男はシートで呆れながらS30Zを見ていた。

 

「―――」

時雨はとりあえずぎこちなくとも運転は出来そうであることは把握した。

何とかスタートラインにS30Zを停止させる。

左レーン、アフロ男の赤いAE86。右レーン、時雨と助手席の女の黄色いS30Z。

 

推奨BGM:HERO(from SUPER EUROBEAT vol.1)

 

「ギアレバーを右のボタンを押しながら一番前に倒して」

「……」

動揺しつつもギアレバーをPレンジに入れた。

 

「この画面を見て。シグナルが3から始まるから、それまでにアクセルを踏んでタコメータの6000回転まで合わせて。青いランプが光っていればいいわ」

「…ど、どれ?」

「0~8まで書かれてるメーターよ」

「メーターって…これ?」

「そうよ。踏み過ぎたと思ったらアクセルから多少足を離して」

「…で、シグナルが0になったらどうすればいいんだい?」

「ギアをすぐDに入れて、アクセルを全開まで踏み込んで!」

「う、うん…わかった」

カーナビのシグナルがバトル相手を認識したかと思えば、いきなり数字の10を示す。

9から軽くエンジンを踏む。

エンジンの回転数は確かに時雨のアクセルの感覚と呼応しているかのように動いていた。

多少踏むと直ぐに青ランプが点灯した。

アクセルを抜くと回転数は下がったが、その速度は決して速いモノではなかった。

「(…な、なんとか発進は行けるかも)」

「行けそう?」

「多分…」

「スタートしたらアクセル全開でいいわ。私がアクセルを抜いてブレーキを踏むタイミングを教えてあげる」

「ま、任せるよ」

助手席の彼女に時雨は全てを一任するしか出来なかった。

初めての自動車走行、それも初っ端からの実践。

しかも相手のクルマとの競争なんて時雨には何もかもが理不尽な展開だった、

そう言っている間にもカウントは進んでいく。

目の前のタコメーターの青ランプに時雨は視線を集中させていた。

 

3

 

 

2

 

 

1

 

 

GO!

 

「今よ!」

青髪の女が言い放つ

「―――――!!」

メーターはピッタリ7000回転、それでいてシフトを入れるタイミングはGOのタイミングとほぼ同じ。

文字通りのロケットスタートだった。

 

「な…おいおい嘘だろぉ!」

ハチロクのアフロ男は油断していたのか、スタートダッシュに失敗。タイヤを空回りさせながら発進した。

 

「やった…成功よ!」

「―――ッ!!」

一気に加速して速度は60キロまで上がる。

あっという間にカーブが近づいていた。

そのような中で時雨は助手席の彼女に助けを求めた。

 

「ど、どうすればいいんだい?」

「真ん中に沢山棒が立っていると思うから、カーブの方向の内側に入るようにして!」

 

よく見ると右に曲がるカーブの中央にはオレンジの棒が沢山並んでいた。

どうやらもう一方の道にはみ出ないように立っているみたいだが…

 

「ドリフトでコーナーを抜けるわ!よく聞いて!」

「え、ドリフト…?」

「カーブの先端ラインに黄色いラインがあるから、前輪のタイヤが到達したと思ったらそこでアクセルを完全に離して。」

「離したら?」

「一瞬ブレーキを踏んでから、後輪のタイヤがラインを踏んだと思った瞬間にハンドルをカーブの方向に曲げながらアクセルをある程度踏んで!」

「ま、曲がったらどうするんだい!?」

「ドリフトの最中はハンドルをカーブの逆方向に向けて!カーブの終わりにもラインがあるから、そこまでハンドルをカーブの逆方向の同じ角度にハンドルを維持し続けて!あとアクセルも調整しながら踏んで!」

「や、やってみるよ…」

相手の説明も何とやら、時雨にはわかっているつもりでわかっていないようだった。

やるべきことが初心者にしてはあまりにも多すぎる。

もはやここまで来たらもうやるしかない。

仮に負けてしまったら何をされるかわからない。

兎に角時雨は必死だった。

 

「(お願い…上手くいきますように!!)」

時雨は心のどこかでそう願っていた。

 

「今よ!アクセルとブレーキとハンドルを!」

「―――っ!!」

もはやなるがまま。

とにかく必死に車を操る。

時雨には直感だが、ハンドルをほぼ適性の位置に曲げた。

「―――曲がって…!」

「―――――!!」

一瞬のアクセルオフ、ブレーキからのハンドルを右に曲げてアクセルオン。

その走りは初心者にしては上出来すぎるくらいだった。

カーナビには「Excellent -0.35m」の文字が。

完璧にラインに乗り、ほぼ理想的とも言えるラインでコーナーに突入した。

そして次の瞬間には左にハンドルを曲げてカウンター。

カウンターもほぼ適正といえる角度に曲げ、アクセルを踏み続ける。

「な、なんだぁありゃあ…」

「―――――!!」

 

その瞬間、時雨には全てがスローモーションのように聞こえた。

集中しているのか、周りの音が何も聞こえなかった。

聞こえるのは風切り音だけ。ただ自分が操縦する車の前を突風が吹きつけているようだった。

 

「今よ!ハンドルのカウンターを止めて!」

「―――!!」

ドリフトの目印となるラインを駆け抜けた瞬間、時雨には直感的にハンドルを元の位置に戻す必要があると感じていた。

そして一気にハンドルを戻し、一気にアクセルを全開に踏み込む。

カーナビには「Excellent +0.43m」と書かれていた。

「―――――!!」

「な、何~っ!!」

 

時雨にとっては何かが開眼しそうな感覚だった。

怖いというより…気持ちよいというか、何かを思い出しそうな…そんな感覚だった。

 

「(―――気持ちが、いい)」

頭の中に何かが流れるような感覚だった。

感情としては、快楽そのもの。

不思議なくらい気持ちが良かった。

 

ここまで到達するともはや助手席の女の声も聞こえない。

自分の勘に完全に便り、2個目の左カーブも自分の感覚で走り抜けていく。

 

一瞬のアクセルオフ、それに伴ってフルブレーキ、からのハンドルを左に曲げて、直ぐにアクセルオン。

カウンターを当てて滑らかにS30Zはターンインする。

「まさか…!」

「お、おい…嘘だろぉ…」

 

助手席の女もハチロクのアフロ男も茫然としていた。

こんなにも綺麗なドリフトが初心者に出来るのか?

驚くことしか出来なかった。

しかし時雨はそんな感情もつゆ知らず。

ただ目の前のコーナーに目線を合わせ、必死に車を制御していた。

 

最後の3つ目のコーナー。草木のトンネルの合間を通る右のヘアピンコーナー。

もはやここまで来た時雨を止められる者はここにいない。

ハチロクもS30Zの独走を許すだけだった。

 

「(すごい…初めてのバトルで、ここまでやれるなんて…!)」

「(―――ああ、気持ちが良い。まるで心が洗われるような…そんな感覚だ)」

時雨にとってはあまりにも心地が良すぎる空間だった。

感情に合わせてハンドルを曲げ、ブレーキとアクセルを操作する。

その走りは、コーナーワークのタイミングとしては何とかあっている状態だった。

それでもコーナー出口の立ち上がりではS30Zはまるで重力という憑き物が取れたかのように、一気に加速する。

この時点で勝敗は明確だった。

 

「俺の…俺のハチロクちゃんがあんな車に~ッ!!」

アフロ男は必死にアクセルを踏み込むが、マシンの整備が行き届いていないのか、加速が悪い。

コーナーを抜けるころには、S30Zはゴールラインであるグリーンラインの目前にいた。

 

「これで―――決まり!」

助手席の女が確信した瞬間、S30Zはゴールラインを駆け抜けた。

勝者、S30Z。

初バトルにしてまさかの圧倒だった。

どうやらアフロ男は大したことが無いようだ。

 

そして時雨はゴールラインを抜けた事がわかると、一気にアクセルを抜いて路肩に停止したのだった。

 

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

 

 

「うぐぐ…”神風連合”所属の俺様『アフロのヒロシ』に盾突くなんていい度胸だぜぇ!連合を敵に回して、無事に箱根から出られると思うなよ!?」

路肩に止めたS30Zから降りてきた二人に対して、そう捨て台詞を吐いてアフロのヒロシ…と名乗った男はハチロクに乗って退散していった。

峠には二人だけが残された。

 

「助けてくれて本当にありがとう!命の恩人だよ…!」

時雨の手を握って助手席に座っていた青髪の女はこう言った。

 

「い、いや…僕は僕が出来る事をやっただけだよ」

「あ、私の事言ってなかったね…私は相楽 奈美子(さがら なみこ)。あなたは?」

奈美子と名乗った女性が問いかける。

 

「僕は………」

名乗ろうとした瞬間、崩れ落ちるかのような感覚になった。

倒れかかったところを奈美子が間一髪で支える。

 

「…ち、ちょっと!?しっかりして!!」

「う…」

「大丈夫?!すぐ安全な場所に運んであげるから…!」

「う…うん」

バトルでの疲労もそうだが、長時間歩いたことによる疲労、さらには日に当たっていた時間もかなりあった事か日射病に似た症状にもなっていたようだ。

 

「とにかく運ばないと…えっと…車は………あれ?」

奈美子と名乗った彼女はようやく気が付いた。

時雨は箱根の峠に車なしで来ていたのだ。

 

「まさか、本当に歩きでこの峠に…?」

奈美子はようやく自分がとんでもない事をしてしまった事を自覚した。

免許を持っているとはいえ、車で来たわけではないドライバーに自らのトラブルを解決してもらったのである。

だがふと不思議な疑問も浮かんだ。

「だとしたら、一体どこから来たのかしら…?」

 

だがとにかく今は倒れた時雨を安全な場所に運ばなくてはいけない。

重症のように思えた時雨だったが、実際の原因はあまりにも単調なものだった。

「頭…痛い……」

 

バトルしたことによる疲労だったのである。

 

 

「とにかく、どこか安全な場所に…あ、ここなら、『ピット』が…!」

そう言って奈美子は自分のS30Zの助手席に時雨を乗せ、急いで峠を去ったのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

走りに魅せられた者の聖地、箱根。ここには『皇帝』と呼ばれる最速の男の伝説があった。

彼を撃破し、『最速』の称号を得ようとする者は後を絶たない。

 

 

そんな箱根に紛れ込んだ時雨。

 

果たして時雨は箱根にどんな影響を与えるのか?

そして時雨はどんな結末を迎えるのか?

 

箱根での熱いバトルの日々が幕を開けようとしていた…。

(第1話End)




後書き

ハーメルンユーザーの皆様、こんにちは。作者のカービィ改二です。
いかがでしたでしょうか、「『艦これ』いつかあの海で×ドリフトスピリッツ -いつかあの路で-」。
この作品は既にタグなどにも書かれている通り、「ドリフトスピリッツ」と「「艦これ」いつかあの海で」のクロスオーバー作品となっております。
この作品自体は元々pixivでも連載していましたが、「pixiv版とは異なるユーロビートを起用したい」、という作者の趣味からハーメルンでも連載を開始しました。

私がこの作品を作ろうとしたきっかけはやはり「いつ海の最終回から現代転生までの繋ぎを作って見たかったから」という点が大きいです。
基本的に本作はドリフトスピリッツのストーリーモードを時雨視点でなぞっていく形になります。
なのでドリスピユーザーは2倍楽しめるかもしれません。
もしかしたら今後キャラ崩壊や時雨がチート気味になるかもしれません。
まあドリスピで言う☆8コラボ車両とか出したら完全にチートなので出しませんが…

正直一番最初なのでそこが苦労するポイントだったと思います。傍から見たら見ず知らずの人にバトルお願いなんてヤベーな奈美子w(原作ではもっとマシです)
走り慣れてくれば後は数をこなしてくるだけだと思うので…もうしばらくお付き合いください。
そしてどうか今後の時雨の行く末、どうぞお楽しみください。
もし「ドリスピ」に興味を持っていただけたのならば、是非触れて頂けたらいいなと思います。
ドリスピは基本、本作みたいにわざわざ色々な操作をせずともタッチ一つで爽快ドリフトが出来るゲームです。是非遊んでみてください。
それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。