「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第21話です。
皇帝の事情を知ってるドライバーのチームとバトル。
何故皇帝に会えないのかという真実が明かされます。


act.21「Emperor's Place Part.2(皇帝の居場所 Part2)」

穴熊のカンザブロウ、道楽のタダヒコと倒し、皇帝が病院に入院していたという話を聞いた時雨と奈美子。

タダヒコが病院関係者であることがわかったが、皇帝の状態について問いただすと彼は「詳細はタダヒコという研修医に会ってみろ」と口にし、皇帝の容態については口をつぐむのだった。

皇帝は今病院にいるのか、皇帝の容態はどうなっているのか。

その謎を解明するべく、二人は担当医の「カズヒト」と接触する事となる…。

 

 

 

―――道楽のタダヒコとのバトルから2日後。

「ピット」に「カズヒトと連絡が取れた、第二美濃沢峠に向かってほしい」というタダヒコからの連絡を受けた時雨と奈美子は、指定された時間に第二美濃沢峠に向かっていた。

話を聞きつけたアフロのヒロシと神風のトオルも合流し、ワンエイティが先行した状態で、奈美子のS30Z、アフロのヒロシのAE86、神風のトオルのBRZが続く。

ピットから20分ほどして、第二美濃沢峠の往路スタート地点駐車場に4人は到着するのだった。

 

◇ ◇ ◇

―――朝10時半。第二美濃沢峠、往路スタート地点駐車場。

推奨BGM

 

「…この人たちがそうかな」

「ああ、みたいだな」

「やっぱり数いるなぁ、見た感じ10人ちょっとくらいかぁ?」

「…行きましょう」

駐車場の一角に車を止めて降りた時雨たちは、既に先着していた走り屋たち、そしてその中心にいたタブレットを持つメガネの男性の姿を確認して近づいていく。

4人が向かってきたことに気が付いたメンバーたちと中心の男性が、時雨と奈美子を見て気が付いた。

 

「あの…」

「あ、あなた方ですね。若先生から伺ってます。ちょっと待ってください…」

時雨が軽く声をかけると、男性はタブレットを軽く操作したのちに再び目線を向けた。

どうやら「皇帝」の情報を持っているようだ。

 

「ええと、505号室のクランケについてのお話ですね…一回の研修医のボクからはあまりお話しできる事もないのですが…」

すると、奈美子が食いつくように男性に話しかけた。

 

「私、その患者の妹なんです!お願いします!何でもいいんです、教えてください!会う事は出来るんですか!?」

「な、奈美子…落ち着くんだ」

食い入るように男性に迫った奈美子を時雨が制止した。

いくらなんでも食いつきすぎだと判断したのだろう。

すると奈美子を援護射撃するかのごとく、ヒロシも声をかける。

 

「おう、メガネの兄ちゃん!けちけちするなよ!…どうしてもダメってんなら、バトルで勝負だぜぇ!なぁ、ナビ子!?」

だが、ヒロシの言葉に男性は困惑するようにこんな事を言うのだった。

 

「えっ、バトルなんて…あの、僕、車酔いが激しいんですけど、それでもいいですか?」

「…へ!?お、おめぇさん、『マシンヘッズ』のメンバーなんだろ?あの道楽先生から聞いたぜ!?」

予想だにしない返事にヒロシも驚きを隠さなかった。

すると彼は自己紹介をするようにこう言いだした。

 

「え、ええ。申し遅れました…ボクは『車酔いのカズヒト』。運転できますし、腕も、け、決してそこまでひどくないと思いますが…どうにも車酔いだけは治らなくて…」

「…車を運転できるのに、車酔いするの?」

「か、変わった奴だな…」

カズヒトの言葉に時雨は疑問を持ち、トオルは「変わった奴」と言うのだった。

 

「あ、あなたさえよければ…じゃあ、勝負させてもらえるかしら?」

奈美子がカズヒトに勝負してほしいと促すように言った。

 

「お、お願いします…あ、同じ研修医で組んでるチーム『フレッシャーズ』の仲間も混ぜてもらって…いいですか?ボクはまだ、その、心の準備が…」

その言葉を聞いた時雨はこう言うのだった。

 

「いいよ。それなりに数もいるみたいだし、直ぐに始めよう」

その目は真剣な眼差しだった。

今すぐでもバトルをしてほしい…と言わんばかりの様子だった。

 

「ありがとうございます……そうですね、では…最初にイッキとバトルをお願いします。スタートラインへお願いします」

「じゃあ、行こう」

「ええ」

カズヒトの言葉に時雨はこくりと頷き、ヒロシとトオルが見つめる中で奈美子と共にワンエイティへ向かっていった。

そして乗り込んだ2人は、足早に第二美濃沢峠の往路スタート地点へと向かうのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsイッキ

推奨BGM:LOVING EUROBEAT(from SUPER EUROBEAT vol.221)

 

 

相手の車は赤いS130Z。

左レーン、S130Z、右レーン、ワンエイティ。

第二美濃沢峠は第一美濃沢峠と似たような性質を持ちながら、異なる部分も存在する。

往路においては第1、第2、第3コーナーと左直角、左直角、右直角という順番でコーナーが続く。

そしそこからアーチ橋を抜けて長いストレート、ストレートを抜けた先に第4コーナーである左高速コーナー、2回目のストレート。

そして2回目のストレートで左直角コーナー、そして第5コーナーである左直角コーナー、そして最終の超ロングヘアピンである右コーナーを走り抜け、最終ストレートを立ち上がってゴールとなる。

共通部分と言うべきはロングストレートの存在、異なる部分としては最終の超ロングヘアピンコーナー。

似たような性質を持ちながらも異なる部分もある…それが第二美濃沢峠だった。

 

「(…いくら相手が遅そうであっても、油断はならない)」

どんなに相手が遅そうに見えても、舐めてはならないというのが鉄則。

実はそう言う車に限ってドライバーが凄い腕を持っていたり、トンデモないメカチューンが整っていることだってあるからだ。

だがそれはチームリーダーであったりする場合の話。

それでも、相手に油断して自分がミスをしたなんて言ったら洒落にならない。

だからこそどんな時も真剣に行く必要があった。

そう初心を取り戻したところで、カーナビのカウントが始まった。

エンジン回転数を7000回転程度になるようにアクセルを踏み込み続ける。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

「!!」

2台のドライバーがスタートと共にギアをDレンジに入れ、アクセルを踏み込む。

エンジン回転数、6900回転。

ロケットスタートを決めた2台のマフラーからバックファイアーが吹き出て加速していく。

先手を取ったのはワンエイティ。あっという間に車1台分の車間距離が開いた。

パワー差があるのは明らかだった。

第1コーナーである左直角コーナーが迫る。立ち位置としてはS130Zが有利である。

 

「―――!」

アクセルを離してブレーキをかけ、少しだけ右にハンドルを切る。

110キロから90キロまで減速、一気に左にハンドルを切り返す。

そしてワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを踏みつける。

こうすることで後輪が滑り出し、ドリフト状態へ。

勿論この状態になったらカウンターを当てる事も忘れない…ドリフト時はずっとハンドルを右に曲げ続ける。

典型的なフェイントモーションだが、これが遅いという訳ではなかった。

しかし負けじと内側のS130Zも食らいつく。

コーナーの内側という事もあり、車間距離は0.5台分ほどまでに縮まる。

コーナー出口寸前でアクセルオフ、ハンドルをニュートラルに戻してドリフトラインを踏みつけたら再びアクセルを踏みつける。

グリップが加速したワンエイティは再び加速する。

第1コーナーを抜け、第2コーナー。

ここも左の直角コーナーで、S130Z有利。

だが、コーナー立ち上がりで加速しかけたワンエイティを再び時雨はアクセルオフに。

フットブレーキを踏む必要などないと言わんばかりにアクセルを速めに離してそのままエンジンブレーキで減速させる。

 

「―――!」

速度を少し速めにコーナーへ突入。

ハンドルを再び軽く右に曲げ、そのまま切り返すように左へ曲げる。

遠心力でコーナーの外側に持っていかれがちになるワンエイティは、ドリフトラインでアクセルを踏むことで後輪が滑り出した。

滑り出してワンテンポ置いた後、ハンドルを右に曲げてカウンターを当てる。

ドリフトアングル、30度。

最小限とも言うべきドリフトを行い、コーナーのラバーポールギリギリまで車のフロントを迫らせる。

クリッピングポイントを貫いたワンエイティは、カウンターの角度も浅くなってアウトに膨れていく。

そしてレーンの中央付近に達したところでワンエイティの前輪はドリフトラインを踏みつける。

この時点でハンドルはニュートラルに戻り、アクセルオフ。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏みつけた。

後方のワンエイティとの差は広がらず縮まらずというべき距離だった。

バックミラーを一瞬だけ見ると、ドリフトするS130Zの姿が見えた。

だが、食らいつくのが精いっぱいという感じだ。

目の前には第3コーナーである右直角コーナーが迫る。

 

「(ここは軽く…)」

アクセルオフからブレーキを全開…ではなく、半分ほど踏み込む。

メーター110キロだったワンエイティは90キロまで減速。

ハンドルを右に曲げ、前輪がドリフトラインを踏みつけた時点でアクセルを踏みつける。

ドリフト状態になったワンエイティは、カウンターを当てながらレーンの真ん中を走るように走る。

カウンターを数秒当てたところで、前方にはロングストレートが見えた。

コーナー出口寸前でアクセルを離し、ハンドルをニュートラルに。

そして再び前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを全開に踏み込んだ。

判定、「Excellent-0.71m」。

Excellentの判定の中でも早めだったが、それでも立ち上がりは悪くなかった。

目の前のストレートに向けて全開走行に入る。

 

「(ストレート…ここで引き離す!)」

アクセルを踏みつける足が、マシンにさらにパワーを与える。

速度は120キロから130キロ、140キロと加速し、153キロとなったところでほぼ加速しなくなった。

アーチ橋を抜け、高速コーナーもアクセルオフで軽くハンドルを曲げるだけで駆け抜けていった。

それでも続くストレートでも遠慮せずアクセルを踏み続ける。

 

「っ……」

S130Zのドライバーは歯ぎしりするしかなかった。

幾ら実力があるとはいえ、旧車にとってそのストレートは不利でしかなかった。

第3コーナーを抜け、ストレートに入ったところでワンエイティとは馬力の差がありすぎた。

コーナーで食いつこうにも、それに対してストレートが長すぎて馬力がある方が有利になってしまっている。

車間距離は1台分、2台分、3台分とみるみる離されていく。

 

「(速すぎる…!)」

S130Zのドライバーも必死になってアクセルを踏み込む。

だが、速度は110キロ台で鈍りだし、第4コーナーの時点で125キロまでしか出ていなかった。

そして加速し続けた一方でワンエイティは既に第5コーナーに突入し、完全にS130Zを振り切ったも同然の状態だった。

 

「ダメ…か……」

第5コーナー直前で、既にワンエイティは最終コーナーでドリフトして既にS130Zを視界から外そうとしていた。

ここまで振り切られてしまった以上、S130Zのドライバーは半ば諦めてしまった。

最終コーナーでも自分が速かったとしても追いつけるわけがない…そんな現実を直視してしまったのだった。

そしてS130Zが第6コーナー中盤でドリフトしている最中、ワンエイティは最終ストレートを走りゴールラインを駆け抜けたのだった。

 

勝者、時雨。

タイム差にして5秒以上…車の性能の差を考えても、ワンエイティの完勝だった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――往路スタート地点駐車場。

 

「ああっ、イッキが!?彼は『フレッシャーズ』の中でもなかなかの腕前だったのに…」

チームメンバーの一人が敗北したという一報に対し、カズヒトは明らかに動揺していた。

それでも同様の最中こう言うのだった。

 

「だ、誰かお願いします。なんだか、もう、吐き気が…」

やはり彼のメンタルはどうやら弱いのかもしれない。

一方で動揺する様子を見て、時雨はこう言うのだった。

 

「なんでも良いよ。誰でも相手になるさ」

 

 

 


 

 

 

―――vsユウゾウ

推奨BGM:FANTASY CAR(from SUPER EUROBEAT vol.225)

 

相手の車は緑の70スープラ。

コースは復路。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、70スープラ。

長い左ロングヘアピンの前のスタートに、2台が並ぶ。

 

「(逆になる以上、引き離すポイントも違う…)」

目の前に見える左ヘアピンを見て、時雨は1個目のコーナーから全開で行く事を決めていた。

そうしないとリードを取れないであろうという事は、時雨自身が理解していたのである。

今、復路を走る以上自分が出来るのは最初のコーナーで相手の心を折らせる方向にもっていく事だけだった。

そしてそんな思いと同時に、カーナビのカウントが始まる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「「―――!!」」

2台のドライバーがギアをそれぞれDレンジ、1速に入れる。

アクセルを全開に踏み込み、マフラーからバックファイアーを噴出してスタートダッシュで加速していく。

加速勝負ではもはやチーム傘下のザコに敵はなかった。

ワンエイティが先手を取り、第1コーナーの左ロングヘアピンが迫る。

第1コーナーに入るまでにワンエイティと70スープラはテールトゥノーズの状態になっていた。

 

「(インコースである以上、最初から攻めていく…!)」

ブレーキをワンテンポ遅らせ、強めのブレーキ。

最初のストレートで130キロ出ていたワンエイティを90キロまで減速させる。

ハンドルを少しだけ左に切っていたことで、マシンが滑らかにドリフトの態勢に入った。

サイドブレーキを引かず、自然な状態でドリフト。

こうすることでマシンの減速は必要最低限に抑えられ、ドリフト時の速度も高い状態を維持できる。

そしてそのままドリフトラインを前輪が踏みつけたところでアクセルをパーシャルスロットルの状態まで踏みつける。

アクセルを踏み込み過ぎると外の膨れる。だがアクセルを踏まないと失速する…この両極端ではもはやこのコースのヘアピンは通用しなくなっていた。

だからこその「アクセルをほぼ中間まで踏み込む」というパーシャルスロットルが重宝する。

一定のエンジン回転数を維持しながら、失速することなくドリフトしていく。

こうでもしないとこのコーナーは上手く走れない。

何度か走って時雨はそう思った。

速度は100キロ台をキープしながら、ハンドルを右に少しだけ切ってカウンターを当て続けつつもコーナーを走り抜けていく。

 

「(速い…それどころか…)」

70スープラのドライバーはただただ驚愕するしかなかった。

最初のコーナーであっという間に70スープラとワンエイティの差は開いていった。

自分が不利なアウトレーンである事は分かっていたとはいえ、よもや車3台…4台分まで距離差が開くとは思ってもいなかったのだ。

こちらもドリフト時はカウンターを当てつつアクセルを踏み続けるが、タイヤが悪いのか自分の走らせ方が悪いのかコースのアウトに膨れてしまって速度を大幅にロスしていた。

長いヘアピンの終盤において、ワンエイティは既に第1コーナーを抜け第2コーナーへと入っていた。

そして70スープラが第1コーナーを立ち上がる時点で、ワンエイティは既に第2コーナーと第3コーナーの間のロングストレートでアクセルを全開にして踏み続けていたのだった。

 

「(ダメだ…ストレートでもコーナーでも差が開くんじゃ、追いつけるわけがない…)」

70スープラのドライバーにとってはもはや諦めるしか手段はなかった。

第2コーナーを抜けてストレートでアクセルを踏み続けても、ワンエイティとの距離差は一向に縮まる気配はなくそれどころかみるみる引き離されてしまっていた。

この時点で時雨は相手のドライバーのメンタルを折る事に成功していた。

序盤から一気に攻め立てる事で相手のドライバーに戦意を喪失させる。

一種の大逃げ作戦が、時雨にとっての雑魚相手の十八番となりつつあるのだった。

 

「(完全に振り切った…でも)」

大逃げに成功した時雨。

だがそれでもアクセルを決して緩める事はなかった。

負ける事はなくても、必ず油断せずに全力でやり切る。

そう思う事で、ワンエイティはより加速していく。

 

「(ここまでか…)」

第3コーナー直前までアクセルを踏み続けた70スープラだったが、案の定ワンエイティに追いつく事は出来なかった。

アーチ橋を抜けても、第4コーナーと第5コーナー、最終コーナーという各々の直角コーナー群を抜けても全くもって距離は縮まらず防戦一方のまま、決着はついたのだった。

 

ワンエイティは5秒近くの差を付けて70スープラをぶっちぎって勝利する事が出来たのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――最初のバトルから50分後。

時雨と奈美子は10人ほどいた「フレッシャーズ」のメンバーを殆ど倒していた。

駐車場の一角にワンエイティを止め、待機していたカズヒトに時雨と奈美子が向かって話しかけた。

 

「大体倒したよ」

「『フレッシャーズ』がここまで…!し、仕方ないな…僕が出ます。今日こそ車酔いの克服を…あ、なんかもう気持ち悪くなってきた…」

カズヒトは驚きつつも、覚悟を決めたかのようにそう言った。

 

「…始めよう」

カズヒトの言葉を聞いた時雨と奈美子は、再びワンエイティに乗り込みに向かった。

一方のカズヒトも愛車に乗り込み、スタートラインへと向かっていく。

 

 

 


 

 

 

―――vs車酔いのカズヒト

推奨BGM:NEW RACE GAME(from SUPER EUROBEAT vol.229)

 

相手の車は黒のBM9レガシィセダン。リアウィングを換装し、フロントはファイアーパターンのペイントが施されていた。

コースは復路。

左レーン、BM9レガシィ。右レーン、ワンエイティ。

 

「(緊張してるけど…やりきるしかない)」

カズヒトはそう思っていた。

自分は車酔いをする以上無理な走りは絶対に出来ない。

だがそれでも相手が全力を出してくる以上自分も多少無茶をしてまでも全開で挑まなくてはならない…そしてあわよくば勝利してみせる。

そう彼は思っていたのだった。

 

「(やりきってみせる…!)」

彼も覚悟は決まったらしい。

ハンドルを握る拳の握力が強くなった。

 

「(リーダーである以上、ニトロを使ってくるだろう…)」

一方の時雨は相手の動向について考えていた。

相手はチームのリーダーという大トリである以上、自分に対してもニトロを使ってくる可能性があるという事だ。

これまでの戦いの経験からしてそうである可能性が非常に高いというべきか。

ここまでの戦いでは相手にニトロを使われると自分のスピードリミッターが原因で食らいつかされることも少なくはなかった。

だが今回は違う。後付けのユニットを装着してスピードリミッターを解除している以上、食らいつかれる可能性は多少であるが下がっているのである。

そうである以上、自分が有利な場所でニトロを使って相手を引き離す…そのやり方しか、勝つ方法はないと言っても良かった。

自分のマシンを限界まで加速できる場所で使い、相手を極力引き離す。

時雨はそうやり方を考えた。

そして

 

「(たとえ追いつかれたとしても…また引き離す)」

追いつかれるのなら自分のドリフトで相手を引き離す。

そう時雨は決心したのだった。

そしてその決心と共に、カーナビのカウントが始まる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「「―――!!」」

2台のドライバーが互いにギアを操作し、アクセルを全開に踏み込む。

2台のマフラーからバックファイアーが吹き出つつも、2台は一気に加速していく。

どちらのマシンもあっという間に110キロ台まで加速していく。

だが加速の差としてはやはりチューニングが施されているワンエイティの方が有利であった。

ワンエイティとレガシィの距離差はテールトゥノーズと言うべき距離だった。

目に前に第1コーナーである左ヘアピンコーナーが迫る。

 

「立ち上がりは不利だけど…!」

ヘアピンコーナーを見てカズヒトは「いける」と思っていた。

レガシィがインコースである以上、ワンエイティにとってはあまりにも不利。

先手を取られたとはいえ、コーナーの関係もあってすぐ追いつけるだろう…そうカズヒトは思っていた。

 

「―――!」

時雨の目の前にヘアピンが迫る。

アクセルオフでハンドルを軽く右に切りながらブレーキをかけ、マシンを80キロまで減速させる。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏みつけてリアタイヤをスライドさせる。

 

「(いくら内側に付けたところで、こっちは外側のコース…)」

レガシィがワンエイティよりリードを取り、テールトゥノーズ同然の状態になった。

だが、決して振り切られる程の速度ではない。

長いコーナーで時雨はカウンターを当てつつもアクセルを踏み続けて速度を上げていた。

 

「(思った以上に差が開かない…?)」

カズヒトは右ミラーを確認しながらワンエイティの位置を確認していた。

自分のレガシィがインコースである以上、ワンエイティとの差は開きつつあるのだろうと高を括っている部分があった。

だがそれがどうだろうか。

マシンの距離差はテールトゥノーズを維持し続けてほとんど開かないのが実情だった。

 

「(振り切れない…それどころか…)」

ワンエイティとレガシィの距離差は一定を維持し続け、引き離されることが出来ずにいた。

そしてその状態が数秒続き、遂にヘアピンのコーナー出口に到達する。

 

「―――!」

カズヒトはアクセルから足を離し、ハンドルをニュートラルにする。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを踏みつけた。

レガシィが100キロから115キロまで加速する。

だが、右ミラーを見た瞬間だった。

 

「(―――いける!)」

「(食いつかれた!?)」

立ち上がりでワンエイティが食らいついてくる。

マシンスペックも加速性能もワンエイティの方は上のようだ。

第1コーナー出口の立ち上がりで、ワンエイティの立ち上がり速度が明らかにレガシィより上だった。

ワンエイティが徐々に追いつく中で第2コーナーである右直角コーナーが迫る。

 

「くっ…!」

「―――!」

第2コーナー、一瞬ブレーキをフラッシュさせた2台がパラレル状態でドリフトしていく。

パラレル状態の中、インコースのワンエイティがレガシィの横につき、そのままオーバーテイクしていく。

 

「(抜かれた…でも!)」

「(…ここは譲れない!)」

ワンエイティがレガシィよりボンネット分だけリードを取れた。

直ぐにコーナーの出口が迫る。

そして立ち上がりで2台がそれぞれ前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間だった。

 

「(ここ、だ…!)」

「…!!」

時雨がニトロスイッチを右手親指で押す。

だが偶然にも、ほぼ同じタイミングでカズヒトもニトロを発動する。

2台のマフラーが青く光る中、2台は加速していく。

時雨がニトロスイッチを押した瞬間だった。

 

「―――!!」

後方から爆風が押し寄せたような感覚だった。

リミッターを外したことで、ニトロが本来の性能を発揮するようになっているようだ。

コーナー立ち上がり時に135キロだったマシンは、一気に170、180、190…と一気に加速していった。

180キロで突然加速が止まる感覚もなく、目の前のストレートで一気に200キロまで加速する。

 

「(速い…これが、200キロの世界…!)」

「離される…!?」

カズヒトも同じタイミングでニトロを使ったのは良いが、どうやらニトロキットの性能が良いのは時雨のワンエイティの方のようである。187キロで頭打ちになったレガシィは、ニトロの効果が切れて失速していく。

 

「(エンジンが…回る……)」

目の前の景色の流れが普段よりも更に素早く目まぐるしく動く。

視野が狭くなって視界の外側が黒い線で覆われる感覚が、180キロの時以上に多く感じられた。

するとそう感じた瞬間、ニトロが切れたのか速度が徐々に落ちていく。

勢いのままで第3コーナーを抜け、ワンエイティはアーチ橋を抜けてそのまま第4コーナーが迫る。

 

「(何という加速だ…それでいて、安定している…)」

ニトロが切れて失速したレガシィ。

第3コーナーを抜け、第4コーナーの左直角コーナーへ向かう。

だがこの時点で、ワンエイティは既に第4コーナーを抜けて更に距離を離しつつあった。

第5コーナー、最終コーナーはそれぞれ右直角コーナー。

立ち上がりでもコーナーでも追いつけない以上、もはや限界であった。

 

「(ニトロの瞬発力抜きにしても、なんという速さだ…うぐっ、吐く…!)」

カズヒトは右手でハンドルを握りつつ、口をもごもごさせていた。

彼にとってもどうやら限界は近かったようだ。

負けを認めて、左手でハザードランプを付けた直後ブレーキを踏んで失速していく。

そしてそのまま第5コーナーの中間地点で左レーン端に車を停止させてしまった。

レガシィが再び動き出すのは、30秒程経過した後だった。

この時点で既にワンエイティはゴールラインを駆け抜けていた。

自らの体調不良も原因であるとはいえ、完全に振り切られてしまっていたのだった。

 

―――勝者、時雨。

リミッターを外したワンエイティは、もはや「マシンヘッズ」のドライバーたちすら引き付けない状態に陥っていたのだった。

 

 

 


 

 

 

―――第二美濃沢峠、往路スタート地点駐車場。

推奨BGM

 

 

アフロのヒロシと神風のトオルが戻ってくるのを待っていた。

レースを終えたワンエイティが駐車場に入ってくる。

そして1分程遅れてレガシィも入ってきた。

 

「おおっ!」

「…勝ったみたいだな。まああの性能なら当然ってとこか」

ヒロシとトオルがそれぞれ反応する。

ヒロシは歓喜の声を上げたが、トオルはどこか納得したかのように言っていた。

やはりワンエイティの性能をわかっているからこそそう言ったのだろう。

ワンエイティとレガシィが駐車場に停車する。

時雨と奈美子が車から降りたが、カズヒトはレガシィからなかなか降りなかった。

どうやら本当に車酔いで吐いてしまったようだ。

 

「すげーな二人とも!見事な走りだったぜぇ!」

「お前らが勝つと思ってたぜ。ここまで来ればもはや敵なしって感じだな」

「…どーも」

「ありがとう。でも、僕の力なんて大したものじゃないさ。奈美子と、この車のお陰だよ…」

ヒロシとトオルの声に奈美子と時雨はそれぞれ反応した。

時雨は謙遜するようにトオルに言うのだった。

 

「ハハハ!そーかそーか。そう言ってくれるなら、俺としてもプレゼントした甲斐があるってもんよ…んで、あとは」

軽く笑みをこぼしたトオルは、駐車場に入ってきたレガシィの方を見た。

レガシィのドライバーと話がしたいというのは4人全員が思っていたことである。

だが、予想以上に時間がかかっているのか中々ドライバーは車から出てこなかった。

どうやら本当に車酔いになってしまっているようだ。

 

「あいつ、本当に車酔いしたんだな」

「こんな人、いるんすねぇ…」

「…大丈夫かな」

「なんだかなぁ…」

レガシィの様子を見ながら、4人がそれぞれ反応を露にしていた。

駐車場でワンエイティの横に駐車されたレガシィの運転席から、ようやくカズヒトが降りてきた。

その顔は青ざめており、本当に車酔いになってしまっていたようだ。

 

「…す、すいません。見苦しいところをお見せしました。ともあれ、ボクの負けですね」

「本当に車酔いするんだね…」

「いや…本当に何度乗っても車酔いだけは克服できないんです。あ、505号室のクランケの話、約束ですから答えられる範囲で答えます」

「…それじゃあ、お願い」

こうしてカズヒトから事情を聴くことになった一同。

彼はぽつぽつと話し始めた。

 

推奨BGM

 

「えっと…先程、僕が研修医であることを申し上げましたのは覚えてますか?」

「言ってたね」

「僕は、皇帝の入院時の担当だったんです」

「入院時の担当…」

「じゃあ一体、『皇帝』はいつ、どのような状況で病院に入院することになったんだ?」

トオルが質問した。

 

「…半年ほど前の話です。『皇帝』は、体のいたる部分が血まみれの状態で病院に搬送されてきたんです」

そのことを聞いた一同は皆ぎょっとした。

 

「血まみれ…だって!?」

「それって、兄さんは交通事故でもしたの!?」

驚く時雨と奈美子。

すると奈美子の言葉にカズヒトは「違う」と言いたげにこう言った。

 

「いえ…あれは、鈍器か何かで殴られた…ふ、複数の人間から暴行を受けた、そんな感じの傷でした」

「鈍器…?じゃあ、何者かに襲われたというのかい!?」

「そんな、兄さん…!」

動揺する時雨と奈美子に、カズヒトは話を続ける。

 

「しばらくして、男性の意識が回復したんです。とはいえあくまで絶対安静で、まだとても退院できるような状態ではなかったのですが…」

状況を説明するカズヒトの言葉にトオルが話しかける。

 

「じゃあ、何で面会が出来ねぇんだ?意識は回復しているんだろ?」

すると、カズヒトは謝罪したげにこう言った。

 

「そ、それが…男性は…回復した数日後に、病室から失踪してしまいまして…」

「なんだって!?」

「ということは、『皇帝』は、兄さんはもう病院にいないってこと…!?」

なんと皇帝は意識が回復した後、病院から失踪してしまったという。

その事実に時雨と奈美子は声を更に荒らげて動揺した。

 

「そして…ボクは、その日の当直だったんです…本当に、すいませんでした!!」

失踪してしまった当日、カズヒトは「皇帝」の当直だったという。

言葉と共に、罪悪感に襲われたカズヒトは時雨と奈美子に対して頭を深く下げた。

 

「おいおいなんてこったぁ…それで、その後の行方もわからねぇのか?」

話を聞いていたヒロシがカズヒトに疑問を投げかけた。

 

「は、はい…我々も探していますが、未だに見つからなくて…」

「マジかよ…」

頭を上げてカズヒトはそう言った。だが次の瞬間だった。

 

「あ、なんだかまた吐き気が…す、すいません。失礼します!」

そう言ってカズヒトは駐車してあるレガシィの奥に隠れて、吐き気を整えに向かった。

 

「まさか失踪していたとはな…でもだからあの道楽息子、今一つ歯切れが悪かったのか。まあ傍から見りゃ病院の不祥事なわけだし、そりゃ言えないよな…」

「でも、意識が戻ったとはいえ重傷のまま失踪なんて…信じられないよ」

「ああ、全くだ」

カズヒトが戻るまでの間、トオルはそう呟くのだった。

その言葉に時雨もまた呟いた。

そしてしばらくした後、カズヒトが再び戻ってきた。

 

「ハァ…ハァ…失礼しました。く、クランケが失踪したと知られると病院の信用問題に関わるから、警察にはどうも届け出てないようで…」

「そうなんだ…」

「でも、僕には何ともできなくて…本当にすいません」

謝罪の言葉を口にし、再び頭を下げたカズヒト。

その言葉に奈美子が返事をする。

 

「…別にあなたを責めるつもりはないわ。それにしても困ったな…兄さんが失踪してしまったんじゃ、手掛かりはないわね」

すると奈美子の言葉にカズヒトが助言をするようにこう言った。

 

「…えっと、あのですね…手掛かりになるかどうかはわからないのですが…大怪我をした『皇帝』を病院に運んできたのは…ソウイチさんなんです」

その言葉に、トオルが食いつくようにこう言った。

 

「ソウイチ…?まさか、お前ら『マシンヘッズ』のリーダーで、四天王の一人の…あのソウイチか!?」

「そう、その通りです。そしてソウイチさんは…クランケの、『皇帝』の主治医でもあったんです」

「最後の四天王は、『皇帝』の主治医…」

「そうだったのね…」

「でも、そうである以上…その『ソウイチ』って人に会うしかねぇんだろうなぁ…」

食らいついたトオルに対し淡々とカズヒトは説明し、その言葉に時雨と奈美子、ヒロシは各々反応した。

すると、カズヒトはこう言葉を続けた。

 

「お詫びと言ってはなんですが、ボクからソウイチさんに…今回の件を報告していいですか?」

「えっ?」

「それでその上で、お二方に会っていただけるよう…掛け合ってみます」

「できるの…?」

「…お二方の実力は申し分ないと思いましたし、その上で皇帝の件であればきっと…顔を合わせてくれると思います」

お詫びと言わんばかりにカズヒトが策を講じた。

そしてその言葉に納得したかのように、奈美子はこう言うのだった。

 

「わかったわ、じゃあお願いね。えっと、こっちの連絡先は…」

「『ピット』の方に連絡…という形でいいですか?」

「いいよ。よろしくね」

「わかりました。それでは…数日ほどすれば、連絡できるはずです。しばらくの間お待ち下さい」

こうして、カズヒトと連絡を取り合うことを決めてカズヒトと仲間たちは峠を去っていった。

 

「皇帝」の負傷と、「マシンヘッズ」のリーダーであり最後の四天王「ソウイチ」には何らかのつながりがある…ということが明らかになった。

スピードリミッターを外した時雨と奈美子に、最後の四天王「ソウイチ」とのバトルが着実に近づいていく。

皇帝の失踪、そしてその後姿を追うべく…時雨たちの戦いは続く。

(第21話End)

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