「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で- 作:カービィ改二
最後の四天王の前に、4人目の刺客が表れます。
果たしてその人物の正体とはいかに?
カズヒトとそのチームメンバーたちとの戦いから数日後。
カズヒトが「ピット」に連絡をしてきた。
だが、その内容は予想しないものだった。
彼曰く、「時雨に会いたい人物がいるそうなので、第二美濃沢峠に行って会ってほしい」ということらしい。
果たしてそこで待つものは何者なのか?
謎を追い求めて再びバトルの幕が開く。
―――第二美濃沢峠、往路スタート地点駐車場、夕方17時。
カズヒトから連絡を受けた時雨、奈美子、ヒロシ、トオルは第二美濃沢峠へとやってきた。
往路スタート地点の駐車場にいたのは、まだ20歳に満たない複数の若者たちとジャケットを着ているサングラスをかけた赤髪の男だった。
駐車場の端っこに車を止め、それぞれのドライバーが車から降りて一度集まった。
「…あの人たちがバトル相手かな」
「ええ…そうみたいね」
「中心の赤髪…若くねぇか?下手したら俺様や時雨ちゃんよりも下なんじゃねえか?」
「若手ドライバーって事か…気になるな」
「…行こう」
車を降りた直後に軽く話した後、4人は男たちの中心にいる赤髪の少年に話しかけに行った。
「あのー…カズヒトさんから連絡を受けたんだけど」
中心にいた赤髪の少年に時雨が話しかける。
「ああ、ひょっとしてあんた達が最近噂の…?」
「ええ」
「色々と聞いてるよ。パパを探しているんだって?m9( ・∀・)ビシッ!!」
少年は奇妙な口調で質問を投げかけてきた。
「…パパ?」
「そ、そうだけど…パパって一体どういうこと?あなたは一体?」
時雨と奈美子がそれぞれ反応する。
「ソウイチを探しているんだろ?( ̄ー ̄)ニヤリ
僕はソウイチの息子、『赤髪のアラタ』だ。よろしくねm(__)m」
奇妙な口調の少年は「アラタ」と名乗った。どうやら最後の四天王、ソウイチの実の息子らしい。
するとその言葉に奈美子が食いつくように話しかけた。
「それなら、あなたのお父さんに会わせてくれない?どうしても尋ねたいことがあるの!」
その言葉に対してアラタはどこかわかっているかのようにこう言うのだった。
「ショウさんの事故の話だろ、聞いてるよ。m9(`Д´)オミトオシダ!!
あんたたち、ショウさんの身内なんだって?(´Д`)y-~フゥー」
するとその語尾に嫌気がさしたのか、ヒロシが割り込んできた。
「何だなんだぁ、このガキ!会話の節々が妙にウザいなもう!…ところで『ショウ』っていうのは?」
ヒロシの言葉に奈美子が説明するように言った。
「兄さんの本名よ…『
「『皇帝』のことを君は…」
奈美子に続いて時雨がそう言うと、アラタはわかっていたかのようにこう言った。
「何か知ってるかって、聞きたいんだろう?」
「うん」
「あんた達が信用に足る人間だったら話しておきたいことがあってさ…(/-\)キャッ」
「お願い、信用してほしいの。私は本当に『皇帝』の…ショウの妹で…」
すると奈美子の言葉にアラタはかるく右手人差し指を横に2回振ってこう言った。
「んー…そうはいっても、既に『皇帝』の身内を名乗って近づいてきた人はこれまでもいたんだよね┓(´_`)┏マイッタネ
本当にショウさんの妹なら、腕前で証明してよね」
本当に皇帝の身内なら実力を示してみろと言うアラタ。
するとその言葉に、今度は時雨が食らいつくようにこう言うのだった。
「つまりバトルしてほしいって事かな……いいよ、僕が相手になるさ」
「時雨…」
「その為に、僕たちは来たからね」
この言葉を待っていたかのように、アラタは言葉を続けた。
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
…ようし、じゃあまずは僕のチーム、『アスキーアーツ』とバトルしてもらうよ。その結果次第で、僕が出るべきか判断するよ」
「のぞむところよ!」
「…じゃあ、先に僕たちはスタートラインに移動してるね」
バトルを待っていた新たに対し、時雨と奈美子はバトルの準備をしようとしていた。
「OK、よろしく。じゃあ…リョウイチ!相手してやってくれ」
「ラジャー!('◇')ゞ」
チームメンバーの一人が反応し、車へと向かっていった。
そしてそれに合わせるように、時雨たちもワンエイティに乗ってスタートラインへと移動するのだった。
―――vsリョウイチ
推奨BGM:INSIDE MY SOUL(from SUPER EUROBEAT vol.231)
相手の車は青のS2000、コースは往路。
左レーン、ワンエイティ。右レーン、S2000。
2台がスタートラインに並ぶ。
「……」
夕日が落ちる中、時雨はただ前だけを見ていた。
皇帝の真相を追い求める以上、こんなところで止まる事は許されない…そんな義務感みたいなものが時雨を包んでいた。
だからこそ、雑魚には用が無い。
3人も『マシンヘッズ』のメンバーを倒している以上、走り続けて真実に一直線で行きたい。
そう時雨は思っており、両手両足にも自然と力が入った。
深呼吸をして自分の感覚を整える。
それでも速くバトルをしたいという気持ちを抑える事は、時雨にはできずにいるのだった。
チューニングしている自分の車に、追いつけるはずがない。
そんな思いも、時雨にとっては走りの上での自信になりつつあるのだった。
ここまで走り続けてきたプライドと走りへの自信…それらが彼女の実力をさらに底上げする事になる。
そんな自信の中、カーナビがカウントを告げる。
3
2
1
GO!
「「―――!!」」
2台のドライバーが共にギアをDレンジに入れる。
エンジン回転数を6000回転程度にしていた2台はアクセルを全開に踏み込んでスタートダッシュを決めていく。
先手を取ったのはワンエイティだった。
「(初っ端から持っていかれる…!?)」
S2000のドライバーはただ必死にアクセルを踏み込むことしか出来なかった。
だがそれでも加速ではワンエイティの方が有利のようだ。
スタートダッシュから一気に20m近くまで引き離す中で第1コーナーである左直角コーナーが迫る。
「(一気に勝負を付ける…!)」
第1コーナーである左直角コーナーが迫る。
だが時雨は一向にブレーキを踏む気配がなかった。
それどころかアクセルを踏み込んでギリギリまでブレーキを踏む気配がなかった。
「―――!」
アクセルオフにしたかと思いきや、ブレーキを思いっきり蹴り倒すようにガン、と踏む。
強く踏み過ぎてブレーキロックがかかる寸前でABSが作動する。
140キロから120キロまで速度が下がる。
ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルオンでハンドルを左に切り、後輪が滑り出す。
ドリフト状態に入ったワンエイティを、ハンドルを右に曲げてカウンターを当てる。
マシンは走行レーンの中央を走るようにドリフトしていく。
そしてコーナー出口のドリフトライン寸前でアクセルを離し、ハンドルをニュートラルに戻した上で、ドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間に再びアクセルを踏みつける。
文字通り、レールの上を駆け抜けるかのように走り抜けていった。
そしてそんな走りは、時雨が皇帝の真実を追い求めるのに必死であることの裏返しでもあるのだった。
そのまま第2コーナーもほぼ同じ要領でドリフトしていく。
「(なっ…!)」
S2000のドライバーは驚愕するしかなかった。
そんな中でもワンエイティとの距離差は徐々に開いていく。
「(あんなに速く、ドリフトって出来るもんなのか…!?)」
元のスペックもあるのか、ドラテクの格が違いすぎるのか、ワンエイティの速さはS2000のドライバーにとって衝撃的過ぎた。
20代という若い年齢である以上、自分もイケイケでドリフトしていけると思っていた。
だがそれでもあのワンエイティのコーナーの攻めは異次元級であった。
スピードが違いすぎてもはやストレートでもコーナーでも不利。
早々に現実を突きつけられた。
だがそれでも食い下がる訳にはいかない。
自分もサイドブレーキをかけてS2000をドリフトさせるが、スリップするかのようにアウトに膨れていく。
マシンの性能がどうやら追いついていないのだろう。
2つの左直角コーナーを抜けようとしていた時点で、既にワンエイティは第3コーナーである右直角コーナーの出口の寸前にいた。
ドリフト状態からグリップ状態に戻り、アクセルを踏みつけてコーナー出口から加速していく。
「(確実に引き離す…いけ…!)」
何度も走っている以上、時雨にとってこのコースを走る事は容易だった。
コースも覚え、何処でアクセルを踏み切るかという事もある程度は理解していた。
第3コーナーの立ち上がりからワンエイティはアクセル全開。
速度計の速度は125キロから140キロまで加速していく。
アーチ橋を抜け、第4コーナーである左高速コーナー。
アクセルオフでハンドルを曲げ、そのままコーナー出口でアクセルを再び踏みつけて140キロ以上という高速域を維持しながらマシンを走らせていく。
そして第4コーナーを抜けた時点で、時雨がバックミラーに視線を移すと後方のS2000はもはや点になっていた。
コーナーワークだけでなく、最高速、加速の部分でも明らかにワンエイティの方が上だったのだ。
雑魚は相手ではないと言わんばかりに時雨はアクセルやブレーキを踏み、ハンドルを曲げ、そしてコースの3分の2の時点で相手を振り切っていたのだった。
「(俺…お呼びでないのかなぁ…)」
S2000のドライバーは意気消沈して、アクセルを徐々に抜いていった。
この後、S2000のドライバーも食らいつこうとはしたものの結局最後の最後まで追いつけることはなかった。
ワンエイティが第5コーナーである左直角コーナー、第6コーナーである右ロングヘアピンを抜け、最終ストレートを駆け抜けてゴール。
そして遅れて5秒以上の差を付けて、S2000もゴールラインを駆け抜けたのだった。
四天王の傘下チームのメンバー相手では、もはや時雨は敵なしと言っても過言ではない状態であった。
◇ ◇ ◇
―――往路スタート地点駐車場。
「(||゚Д゚)ヒィィィ!
…ま、天下の『皇帝』の妹の付き添いなら、これくらい序の口だよね。でも、『アスキーアーツ』だって負けちゃいないよ?まだまだこれからさ!」
チームメンバーの一人が完敗したという知らせを聞いて狼狽したアラタ。
だがすぐに自信があるかのようにそう振る舞った。
そんな中でも時雨は多少自信があるようにこう言うのだった。
「…何だっていいさ。相手になるよ」
―――vsイワオ
推奨BGM:LADY TAXI DRIVER(from SUPER EUROBEAT vol.237)
相手の車は赤のランエボⅧ。
コースは復路。
左レーン、ランエボⅧ。右レーン、ワンエイティ。
ストレートに2台が並んでエンジンを吹かす。
「……」
相手は4駆の280馬力級。
いくら自分のマシンがチューニングされているとはいえ、一瞬油断すれば追い抜かれてしまうかもしれない。
そう時雨は思っていた。
だが、変なところで立ち止まる事は自分としても許されない。
そんな責任感が時雨の感覚をより高ぶらせていた。
真実を追い求めたい。
皇帝がどうしてあのような事になったのか。
どうして皇帝が乱心しているのか。
そして自分を助けてくれたのは…本当に皇帝なのか?
それらの謎の答えを求める意志が、時雨をさらに速く走らせようとしていた。
そんな中でカーナビのカウントが始まる。
3
2
1
GO!
「「―――!」」
2台のドライバーが共にギアを切り替えてアクセルを全開で踏む。
2台は互角の状態でスタート直後のストレートを駆け抜けていく。
どうやらランエボも多少はチューニングされているようだ。
「(悪くないけど…コーナーではどうかな)」
相手を唆すように時雨は思った。
決して時雨の走りは全開走行という訳ではなかった。割合にして7~8割と言ったところだろう。
幾ら雑魚とはいえ、280馬力級のマシンであると今でもどこか躊躇してしまうところがある。
自分の腕を信じればいいだけの話だが、どこか時雨には信じる事が出来ない部分もあった。
リミッターを外した後から、ワンエイティはまるで新たな一面をのぞかせるようになったと思う。
封印が解かれた怪物という、間違えなく自分が知らなかったワンエイティのもう一つの素顔…実は狂暴であるという一面も、ある程度は感じ取るようになっていた。
ストレートでハンドルを強く握りつつ、第1コーナーである左ロングヘアピンコーナーが迫る。
「―――――」
ブレーキをかけつつハンドルを軽く右に曲げ、フェイントモーションの態勢へ。
速度は140キロから115キロまで下がる。
サイドバイサイドで走っていたランエボは100キロ台まで減速したようだ。
ワンエイティが徐々にリードを取る。
そしてリードを取る中で、ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた。
その瞬間、ハンドルを一気に左に切り返してアクセルをパーシャルスロットルになるよう踏みつける。
横滑りを始めたワンエイティ。一方で内側を走るランエボも同じように横滑りを始める。
ワンエイティは走行レーンの内側…センターポールギリギリまでノーズを寄せてドリフトしていく。
その最中、時雨はハンドルを右に切り続けてカウンターを当て続けた。
カウンターを当て続ける中で、左サイドに見えるランエボⅧとはほぼ互角の速さ…いや、外側を走っている以上、それ以上の速さでドリフト出来ていた。
長い長いコーナーに置いて、ワンエイティはランエボに食らいつく。
パラレル状態の2台がドリフトし続ける中、コーナーの出口が見えてくる。
「(……ここだ!)」
ドリフト状態の中、レーンの中央にワンエイティが到達した瞬間、アクセルを離してハンドルをニュートラルに。
そして次の瞬間にはワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた。
それを認識した瞬間、時雨はアクセルを一気に踏み込んだ。
一気に推進力を得たワンエイティは一気に加速していく。
サイドバイサイド状態だったワンエイティとランエボⅧは、ワンエイティが立ち上がりでリードを取る。
「(っ…速い!)」
ランエボのドライバーもアクセルを全開に踏み込む。
4輪駆動である以上加速の安定性はあるのだが、どうやら加速としてはワンエイティの方が一枚上手のようだ。やはりそこの部分はチューニングがされている事が大きいのだろう。
サイドバイサイドの状態からテールトゥノーズの状態へ。ランエボがワンテンポ遅れてしまう。
テールトゥノーズの状態で第2コーナーである右直角コーナーが迫る。
「―――!」
ブレーキをフラッシュさせ、130キロから120キロに減速させる。
速度計が118キロを示したところでブレーキを離し、直ぐにハンドルを右に曲げてアクセルを踏み込む。
ドリフトラインの1m程手前だったが、決して速すぎるほどではなかった。
早めにドリフトを始めたワンエイティはコーナーの内側までマシンのノーズを接近させる。
隙間にして30cm程。アクセルを踏み続ける中、ハンドルを左に切り返してカウンターを当てる。
コーナーの最中でアクセルを踏み続ける事で速度は失速せずに120キロを示していた。
そしてカウンターを当て続ける中でコーナー出口のドリフトラインが迫る。
「(このストレートで…ケリをつける!)」
目先に見えた超ロングストレート。
ここで差を付けるには立ち上がりが何よりも大切。
ドリフトライン寸前でアクセルを離し、ハンドルのカウンターを抑えてニュートラル同然の状態に。
そして時間にして1秒に満たないうちにワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつける。
その瞬間、時雨はアクセルを全開まで踏みつけた。
目先のストレートに突撃していくも同然にアクセルを全開に踏み込み、ランエボⅧとの距離差を引き離す。
「(はっ、速い…!)」
ワンエイティからワンテンポ遅れて第2コーナーを突破したランエボⅧ。
だが、その時点でワンエイティは距離差をぐんぐんと引き離すことが出来ていた。
軽量スポーティ、しかもチューニングされているという事を考えていても、それでもワンエイティとの性能差はランエボⅧのドライバーが想像する以上だった。
最高の立ち上がりによってランエボとワンエイティの差が一気に開いた。
スタートの加速でこそ互角だったが、コーナーの走り方と息継ぎのタイミングの差によって、馬力以上の差がついていた。
ランエボⅧのドライバーも負けじとアクセルを全開に踏み込むが、その差は縮まるどころか開くだけしかなかった。1台分、2台分…その差は広まるだけだった。
「……」
ランエボⅧのドライバーにとっては信じられない光景だった。
1クラス格下のワンエイティに、280馬力級のランエボⅧが振り切られる。
幾ら相手がチューニングされている仕様であるとはいえ、コーナーの立ち上がり一つでここまで差が開くとは思わなかった。
車間距離が3~4台分のところで差が開くのは収まるように思えたが、それでも距離差が縮まる事はない。
最高速度もワンエイティの方が上なのだろう。
その状態で第3コーナーである右高速コーナーを抜けるが、ワンエイティはランエボⅧが第3コーナーを抜けた時点で第4コーナーに突入してフェイントモーションでドリフトしていた。
「(ダメ、か…)」
ランエボⅧのドライバーはこの先のコーナーについて把握していた。
第4コーナーは左直角コーナーだが、第5、第6コーナーはどちらも右直角コーナー。
明らかに右レーンを走っているワンエイティの方が有利であるのは言うまでもなかった。
コーナーでもストレートでも食らいつけないのである以上、自分の勝機は絶望的。
そう考えたランエボⅧのドライバーは諦めてアクセルから右足を放すのだった。
「……」
第5コーナー直前でバックミラーを軽く見た時雨。
相手が追いついてきていない事に気が付いた。
今の時雨であれば普通の雑魚相手であれば圧倒出来るほどの実力になっている事を、時雨自身改めて思い知った。
だが、決して時雨は「勝った」とは思っていなかった。
これから先挑むことになるであろう最後の四天王、あわよくば皇帝に勝つためには、こんなところで負けてなんていられないのだ。
その2人に勝つ以上、ここでは圧倒出来て当たり前…時雨はそう思っていた。
最終コーナーを抜け、アクセルを全開踏み込んだ時雨は、そのままゴールラインに一直線だった。
タイム差としては4秒以上の差を付けての圧倒だった。
◇ ◇ ◇
―――40分後。
周囲の光景は暗くなり、既に真っ暗になっていた。
時雨は「アスキーアーツ」のメンバー全員…15人ほどを全員倒していた。
残っているのは、やはりリーダーである赤髪のアラタだけだった。
往路スタート地点にいたアラタに話しかけるべく、駐車場にワンエイティを停車させる。
車を降りた時雨は、そのままアラタの方へ向かい、話しかけるのだった。
「私たちが来たってからには…もうわかるわね?」
「(゚Д゚;≡;゚д゚)ガガーン
まさかみんな負けた、ってコト!?」
アラタはやはり狼狽するようにそう言った。
「…どうかな?僕とバトルしてほしい」
「噂通りだね。『アスキーアーツ』をここまで圧倒するなんて…いいよ、僕と勝負だ!」
「……」
アラタは多少動揺するも、バトルをする事を彼も望んだのだった。
そして彼の言葉に対して頷いた時雨は、再びワンエイティに奈美子共々乗り込んでスタートラインへ移動するのだった。
―――vs赤髪のアラタ
推奨BGM:HYSTERIA(from SUPER EUROBEAT vol.238)
相手の車は黒色にフロントにファイアーパターンのペイントが施され、エアロも改造されたDC5インテグラ。コースは往路。
左レーン、ワンエイティ。右レーン、DC5インテグラ。
2台がスタートラインに並ぶ。
「―――」
ワンエイティの運転席で、両手のグローブをキュッと引き締める時雨。
その目は、真実を追い求める…皇帝との戦いを望むような、そんな目をしていた。
もはやアラタの事は踏み台にしか時雨は見ていなかった。
とにかく速く…ここを走り抜ける。
そんな思いが時雨を支配し始める。
そしてその思いが支配し始めるのと共に、徐々に視野が狭くなっていく。
両手両足に、気合と力が入る。
目の前にはライトで照らされる第1コーナーが見えていた。
「さあて、お手並み拝見…っと」
一方のアラタもDC5インテグラの車内でレーシンググローブをはめ込む。
その上でアクセルを軽く踏み込んでエンジンの調子を確認する。
エンジンの反応、回転数は共に悪くないようだ。
この状態なら相手の実力を測るのに十分だ…そうアラタは思ったのだった。
「(…ここは、譲れない!)」
「(始めようか!)」
2人が互いにそう思ったところで、カーナビのカウントが表示された。
3
2
1
GO!
「っ……!」
アクセルを踏み込み、ギアを変える2人。
2台のマフラーからバックファイアーが吹き出て、一気に加速していく。
互いにストレートで一気に130キロまで加速する。
そして加速する中、目の前に第1コーナーである左直角コーナーが迫る。
「(さあ、見てくれ…これが、僕の実力だ!)」
「―――!」
2台がブレーキをかける。ワンエイティはインテグラよりも1秒近く遅れてブレーキをかけた。
アラタにとってはオーバースピードに思えた。本当に曲がるのか…?そう思わざるを得なかった。
アクセルオフにして、ハンドルを左に曲げる2人。
加えてアラタはサイドブレーキを引く。
双方のマシンがドリフトラインを踏みつけた瞬間、互いのドライバーがアクセルを踏みつけてリアをスライドさせていく。
「っ…」
「…!」
インコースである時雨がインテグラを引き離しにかかる。
ドリフトし始めた瞬間にハンドルを右に曲げてカウンターを当てる。
白煙が上がる中、2台がシンクロするかのように、パラレル状態でドリフトしていく。
それでも2台はものの数秒でコーナー出口に達しようとする。
アクセルを離し、ハンドルをニュートラルに戻した上で、互いのマシンがドリフトラインを踏みつけた瞬間に2人は再びアクセルを踏みつける。
「―――!」
「おお…っ」
インテグラは立ち上がりにおいてなんとかワンエイティに食らいつく。
アラタもアクセルを踏み続け、インテグラとワンエイティの状態はなんとかテールトゥノーズの状態になっている。
「(……まさか)」
第1コーナー出口で立ち上がった瞬間、時雨には不思議な感覚が宿っていた。
速く走りたいと強く願った時に現れる、両手両足から全身が熱くなるような…炎に包まれるような感覚。
コーナーの立ち上がりが、雑魚と戦っている時以上に速く走り抜けられているようにも感じられる。
これまでの雑魚相手なら130キロで立ち上がっていたところが、今回の立ち上がりの場合は速度計が138キロを示していた。
間違えなく今まで以上のオーバースピードでコーナーを走り抜けることが出来ていた。
その状態のまま第2コーナーである左直角コーナーにワンエイティは突進していく。
「―――!」
ブレーキのタイミングを遅らせ、ブレーキをフラッシュさせる。
速度計は140キロから減速して125キロを示す。
その状態で前輪がドリフトラインを踏みつけ、ハンドルを曲げてアクセルを左に曲げる。
曲げたかと思いきや次の瞬間には右に曲げてカウンター状態へ。
全身が炎に包まれる感覚は未だに残っていた。
その状態でアクセルを踏み続けてドリフトしていく。
そして2秒もしないうちにコーナー出口のドリフトラインが迫る。
アクセルを離し、ハンドルをニュートラルに戻してマシンを自然の流れに任せる。
マシンはセンターポールと隙間10cmの状態でグリップを回復させる。
そしてその状態で前輪がドリフトラインを踏みつけ、認識した瞬間には反応するようにアクセルを踏み込んでいた。
判定…「Excellent -0.30m」。
完璧の状態には少しだけ早いが、それでも速くコーナーを抜けられるタイミングでアクセルを全開に踏み込んでいた。
ほぼ完璧な状態で立ち上がったワンエイティは、148キロまで加速していた。
正しくリズムを完璧につかみ、「速い」というべきラインに乗っている状態だった。
バックミラーに映る後方のDC5インテグラのライトは徐々に小さくなっていくのが時雨でもわかった。
そしてそれを認識した次の瞬間には第3コーナーである右直角コーナーが迫っていた。
「―――!」
アクセルオフからブレーキを踏み、ハンドルを左に曲げる。
そしてそのままドリフトラインを踏みつけたかと思いきや、今度はアクセルオンでハンドルを一気に右に曲げる。
お手製のフェイントモーションでコーナーを攻めていく。
センターポールとワンエイティのフロントとの隙間は10cmにも満たない程ベタベタにレーンの内側まで攻めていた。
「(こんなにも、攻めた走りをするようになるなんて…)」
その攻めの具合は助手席の奈美子でも多少の恐怖を感じるほどだった。
だが、それでも決して奈美子は「怖い」という言葉や悲鳴を口にはしなかった。
時雨の形相を見て、恐怖を顔にする事は出来なかったのだ。
それくらい、時雨の顔には気迫が感じられた。
強い相手、更なる速さ…そして皇帝の真実。
それらを追い求めるがあまり、時雨の表情…瞳には鬼気迫るものがあった。
自分と同じく、時雨は真実を求めている…。
そう考えると、奈美子はもはや何も言う事は出来なくなっていたのだった。
そして何より…パートナーである彼女を邪魔する事は出来ない。
そう思うのだった。
そしてそう思う中でワンエイティはドリフトラインを再び踏みつけ、その瞬間時雨がハンドルをニュートラルに戻したかと思いきや目先のストレートに向かってアクセルを全開で踏み込むのだった。
両手両足、否全身が燃える感覚がまだ残り続けていた。
文字通りのフルパワーの状態でアクセルを踏み続け、マシンの本当の実力を発揮していく。
「(速い…でも…)」
一方のインテグラのアラタ。
第1、第2コーナーとみるみる引き離されていく中で、彼もアクセルを踏むことを諦めてはいなかった。
ここまでは時雨にとってあまりにも有利な展開。
だが第3コーナー、ストレートと続く以上こちらにも多少は利があるかもしれない。
そう思うとアラタは諦めてはいなかった。
第3コーナーをサイドブレーキを用いたドリフトで抜けて、視界から消えかかるワンエイティを追いかける。
アクセルを踏み続けるワンエイティを、こちらも必死で追いかける。
「(…これでどうだ!)」
アーチ橋の末端で、ハンドルに取り付けられたニトロスイッチを右手親指で押す。
ニトログリセリンの力を得たインテグラは、文字通りの爆発的な加速力を得て前方に迫るワンエイティに迫っていく。
メーターの速度は190キロを示していた。
アーチ橋を抜け、第4コーナーをグリップで抜ける。
ワンエイティの姿がどんどん近くなり、第4コーナーと第5コーナーの間のストレートで遂にワンエイティを追い抜いた。
「(よし…追い抜いた!)」
長い長いストレートで、ニトロを使ったインテグラがワンエイティを遂に追い抜いた。
だが、追い抜いた瞬間にニトロの効果が切れたのかインテグラは徐々に失速していく。
インテグラが車1台分のリードを保ちながら第5コーナーである左直角コーナーが2台に迫る。
「(まだ、あの感覚は残っている…!)」
時雨の両手両足、全身は熱を帯びたままの状態だった。
先行するインテグラをアクセルを踏み続けて追いかける。
目の前には第5コーナーが迫る。
「(必要なのは…焦らず自分の走りをすることなんだ)」
後追いである以上、前を走る車に追いつくためには何よりもミスをしないのが大切であるという事を時雨は気が付いていた。
インコースである以上自分が有利であるという事も時雨は自覚していた。
気持ち早めにアクセルオフからブレーキをかけ、ストレートで150キロだったマシンを120キロまで減速させる。
そしてそのままハンドルを左に曲げ、ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間に、それに呼応するかのごとくアクセルを踏みつける。勿論カウンターを当てるべくそこでハンドルを右に切り返す。
マシンはアウトインアウトの状態でコーナーを走り抜け、レーン目いっぱいにマシンが弧を描いて走り抜けていく。
コーナー出口のドリフトラインでハンドルをニュートラルに戻し、アクセルを踏みつける。
だが、距離差はまだ縮まらない。
まだインテグラのリアとワンエイティのフロントの車間距離は2m程はあった。
「(勝った…!)」
アラタは追いついてこないワンエイティを見て、そう確信していた。
何せこの先の最終コーナーは右の超ロングヘアピン。
よっぽどのアクシデントが無い限り追いつく事は出来まい…そうアラタは思っていた。
勝利を確信しつつブレーキをかけ、インテグラの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にサイドブレーキをかけて無理やりインテグラをドリフトさせていく。
走行レーンの真ん中を走るようにインテグラはドリフトしていく。
「(まだ機会はある…)」
一方の時雨は強めにブレーキをかけ、ハンドルを左から右に切り返した。
アウトコースの走行レーンとは逆向きのコーナー。
フェイントモーションを使ってコーナーを抜けること自体は時雨の中では既に決まっていた。
右に切り返した状態でワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつける。
その瞬間、時雨はブレーキを離したかと思いきやアクセルを踏みつけた。
90キロという比較的低速状態でコーナーに突入したワンエイティ。
インテグラとは差が縮まらない。向こうのマシンがコーナーの内側を走っている以上、多少こちらの速度が速かろうとも必ず追いつけるという訳ではないのである。
だが走行レーンの中央を走るようにドリフトしていくインテグラに対し、ワンエイティはコーナー外側からコーナーのセンターポールスレスレまでマシンのフロントを接近させる。
傍から見れば文字通りのアウトインアウトと言うべき状態でワンエイティをドリフトさせていく。
両手両足、そして全身はまだ熱を帯びている。
そしてワンエイティがコーナー中間を走り抜けた瞬間だった。
「(今だ…!)」
両手でハンドルを握っていた時雨は、左手をギアに移してギアをMレンジに切り替えた。
4000回転だったタコメーターを確認し、時雨はギアを1段階上に押し上げてシフトダウンを行う。
そしてそれと同時にハンドルを握る右手の親指で、ハンドルに取り付けられたニトロスイッチを押す。
ドリフトする最中、推進力を得るワンエイティ。
タコメーターは一気に6000回転から8000回転まで回り、レッドゾーンでギアを1段階下に押し下げてシフトアップする。
3速8500回転から4速6500回転、ドリフトしながら加速し暴れかけるワンエイティを、時雨は右手でハンドルを必死にコントロールして制御する。
勿論制御する中でギアを更に1段階下に押し下げてシフトアップ。4速8000回転から5速7000回転。ハイギアードの4速からローギアードの5速にギアを上げる事で、マシンはコーナーの立ち上がりとは想像が出来ない程の速度まで加速していく。
「なっ…!」
アラタには想像がつかない走りだった。
コーナーの内側という部分で慢心していたとはいえ、まさかコーナーの中間地点でニトロを使わされるとは。
長いコーナーであったが故に、タイヤを切らしかけたインテグラは息切れしたかのように失速していた。
コーナーの8割を抜け、コーナー出口のドリフトラインが迫る。
そしてハンドルをニュートラルに戻そうとした瞬間、ワンエイティはインテグラをオーバーテイクしたのだった。
「(いける…!)」
ワンエイティが加速する中で、時雨はコーナーの外側スレスレまで膨れかけるマシンにカウンターを当て続けて制御する。
左端のコーナーとは隙間20cmまで迫る。この時、コーナー出口のドリフトラインとの距離はほんの数mといったところだった。
その状態でハンドルをニュートラルに戻し、アクセルを離したかと思いきやコーナー出口のドリフトラインでアクセルを踏みつけてマシンをさらに加速させていく。
コーナー立ち上がりでの推進力を得たワンエイティは、コーナー中間での速度…80キロ台から立ち上がりで162キロまで加速し、同じくコーナーを立ち上がっていたインテグラとの差を大きく広げる事が出来た。
両手両足が熱い感覚を維持しながら、時雨はとにかくアクセルを踏み続けた。
もう絶対に後ろは振り向かない。そう思いながら、最終ストレートをただ只管にアクセルを踏み続けるのだった。
そしてアクセルを踏み続けたまま、ワンエイティはゴールラインを150キロ以上の速度で駆け抜けたのだった。
「(―――あの実力なら、ショウさんの事も……)」
最終ストレートを走るインテグラの車内で、アラタはそう思った。
ニトロの加速と推進力が合わさって、自分では追いつけない程の加速をしていくワンエイティを見て実力を認めるかのように…そうアラタは納得しながら呟くのだった。
―――勝者、時雨。
コーナーでの立ち上がり勝負の差もあり、3秒もの差を付けてアラタに勝利するのだった。
―――第二美濃沢峠、往路スタート地点駐車場。
時雨と奈美子の帰還を、ヒロシとトオルが待っていた。
「おっ!」
声を上げたヒロシが見たのは、駐車場に戻ってくるワンエイティの姿だった。
それから遅れてDC5インテグラも駐車場に入ってくる。
駐車場の一角に駐車したワンエイティから出てきた時雨と奈美子を、ヒロシとトオルが迎えるのだった。
「やっぱり勝ったか!すげーなぁ二人とも!」
「流石に驚かねえぜ…まあでも、よくやったな」
「どーも」
「…ありがとう」
軽く言葉を交わす4人。交わした後には車から降りてきたアラタを見ていた。
そしてそんな中でアラタが車から降りてくる。
「いやあ、参ったよお二人さん。実力を認めるよ…本当に速いんだね」
車を降りたアラタは、開口一番に降参して二人の実力を認めるようにそう言った。
すると時雨はアラタを見てこう言った。
「僕たちの勝ちだね。じゃあ、『皇帝』と君の関係を…」
「ああ、約束だからね」
時雨に皇帝との関係を話すように言われたアラタは、どこか口調が落ち着いたかのように言い始めた。
「ショウさんは…僕の命の恩人なんだ。大けがで入院したって話は聞いただろ?」
「ええ、カズヒトさんから聞いたわ…」
奈美子の言葉に、アラタは改まって後悔の念を表すかのようにこう言うのだった。
「その原因を作ったのは…僕なんだ」
「え…?」
「どういうことだい…?」
「赤髪よぉ、もっと詳しく言えぇ!」
「ヒロシ、おめーは落ち着け」
「す、すいません」
アラタの告白に動揺した4人。
その反応を見て彼は話を続けた。ここからの彼の口調はおふざけなしの真面目なものだった。
「半年ほど前の話だ。当時僕は免許取り立て…今の愛車であるDC5を大学の合格祝いでパパからプレゼントされて、箱根の峠を仲間たちと走っていたんだ」
「……」
「でもそんな中で、僕と仲間たちはある一団に出くわした」
「ある一団?」
「彼らは『ジョーカー団』と名乗っていた。免許取り立てで怖いもの知らずだった僕たちは、彼らにバトルを吹っ掛けたんだ」
「ジョーカー団…だと?」
どこか聞き覚えのある名前が出てきた…トオルはそう思いながら聞いていた。
「…それで、結果は?」
奈美子の言葉にアラタは首を振ってこう言った。
「お察しの通りさ…日が浅い僕たちは敗退。代償として『ジョーカー団』にリンチされそうになったんだ」
「リンチ…!?」
「マジかよ…!」
「でも…そこで偶然通りかかったのが、『皇帝』ことショウさんの車だったんだ」
その言葉に奈美子はぎょっとした。
「兄さんが…」
「ショウさんは僕の代わりにリベンジを買って出た。結果は『皇帝』の名に恥じない実力を見せつけて圧勝。『ジョーカー団』が負けて、これで終わるはずだと僕は思っていた…」
「思っていた…?」
「まだ続きがあるのかぁ?」
時雨とヒロシが反応する中、アラタの口調が徐々に暗くなっていく。それでも彼は話を続けた。
「ジョーカー団はひどい連中だったんだ…ショウさんが去ろうと後ろを振り返った瞬間、いきなり金属バットを手にしたかと思うと、それでショウさんを…」
「…まさか!」
奈美子がそう言うと、アラタは下を向き、サングラスの上からも分かるように涙が出てきていた。
「…僕は立ちすくんで何もできなかったんだ」
「……」
「本当に、ごめんなさい!僕らを助けてくれたばかりに、ショウさんは…」
アラタは頭を下げてそう言った。
すると奈美子はアラタを慰めるようにこう言うのだった。
「…あなたは悪くないわ。悪いのは全てその『ジョーカー団』とかいう連中よ!」
「しかしそういうことだったんだなぁ…皇帝がどうして病院に入院する事になったのか、やっと分かった気がするぜぇ」
奈美子は慰めるようにアラタに言い、ヒロシは納得したかのように言葉を口にした。
「それにしても最低な奴らだな、その『ジョーカー団』とやらは…」
「そんな走り屋たちが、いるなんてね…」
トオル、時雨もそれぞれ反応を露にした。
皇帝がどのような事が原因で病院に運ばれたのか…それがやっと明らかになった瞬間であった。
「暴行を受けたショウさんを前に僕はどうすればいいかわからず、急いでパパに連絡したんだ」
「あなたのお父さんに…?」
「名医であるパパなら、何とかしてくれると思って…」
すると、アラタの告白の言葉を受けてか、後ろの方から男の声が聞こえた。
「…私としても、自分の息子の恩人を救いたかったのだ」
声の方向を5人が見ると、医者の風貌をしたメガネの人物が立っていた。
「あなたは…」
「ぱ、パパ!!」
「パパ!?」
「じゃあ、あなたが…ソウイチさん?」
アラタから「パパ」と言われた男…そんな彼が最後の四天王であり、『マシンヘッズ』のリーダー、そして『皇帝』ことショウの主治医だった男、ソウイチだった。
「いかにも。私が『皇帝』ことショウ君の主治医のソウイチだ。『Dr.ソウイチ』と呼んでくれ」
「初めまして…私、ショウの妹、奈美子です。それでこっちが…私のパートナー、時雨です」
「時雨です…よろしくお願いします」
ソウイチに対して、奈美子と時雨はそれぞれ軽く頭を下げた。
「よろしく頼む…しかし、ショウ君に妹がいたとは知らなかったよ」
「ええ…『マシンヘッズ』の皆さんから、道楽先生の病院に入院してて、失踪した事は聞きました」
「そう、まだ絶対安静の時期であるのに…君には申し訳ないとしか言いようがない。私も夜な夜な彼を探してはいるのだが…」
「…見つからないんですね」
時雨の言葉にソウイチはこくりと頷いた。
「…あとはアラタが話した通りだ。アラタを庇い、『皇帝』は緊急搬送された。そして…私自らが執刀した」
「……」
「医者として、息子を助けてもらった親として、私は彼をどうしても自ら救いたかった」
「…それで、手術は?」
「手術はなんとかなって、命にも別状はなかった…だが…」
「だが…?」
「まさか、後遺症が?」
トオルの言葉に対して、ソウイチはある告白をするのだった。
「…実は、彼は…記憶喪失になってしまったのだ」
「な…!?」
「記憶喪失…だってぇ!?」
「そんな…!」
「元はと言えば、浅はかな息子が『ジョーカー』とやらにバトルをけしかけた事が、そもそもの原因。重ね重ねすまない…」
ソウイチも頭を下げた。そしてそれに合わせてアラタも頭を下げた。
「……」
「息子を助けてくれたのが伝説の『皇帝』であると知った時は驚いたよ……だが、ある日彼は消えた。まだ記憶も戻らず、重症の体でな…」
「でも…なぜ、兄さんはそんな体で…病院を抜け出したのかしら…」
奈美子は疑問を口にした。
するとソウイチは持論を展開するようにこう言った。
「断言はできないが、『ジョーカー団』への復讐が彼を動かした、と考えるのが…妥当かもしれない」
「そんな…!」
「皇帝が、復讐の鬼に…!?」
奈美子と時雨の2人はただただ動揺するしかなかった。
すると、ヒロシがある事に気が付いてこんな質問をした。
「ん?でもちょっと待てよソウイチさん。…ということは、病院を抜け出し心を奪われているうち、いつしか『皇帝』は変わり果てちまったって事か?」
「むっ、噂の『皇帝のご乱心』の事かね?私も内密に、とイズミ達から聞いたが…」
「…ソウイチさんは、どうお考えですか?」
ヒロシに反応したソウイチに対して奈美子が質問すると、再びソウイチは持論を展開した。
「『皇帝』は復讐に憑りつかれ…いつしか別人となってしまったのかもしれん」
「そんな…!」
「最悪の場合、バトルも避けられぬやもしれんな…」
「『皇帝』とバトルですって?」
「……!」
「わ、私たちは兄さんと戦う気なんて…!」
奈美子は狼狽するしかなかった。
一方の時雨もどこか動揺しているように思えた。
奈美子と共に走り続ける中でいずれ皇帝と出会い、もしかしたらバトルする事になるだろうと思ってはいたが、まさか本当に皇帝とバトルする羽目になってしまうのではないか?
それこそ嘘から出た実になってしまうのでは…?
そう思ったのだった。
「…勿論、戦わないに越したことはないが、最悪の事態というものもあり得る」
「……」
ソウイチの言葉に時雨は真剣な眼差しで聞いていた。
するとソウイチはある事を口にした。
「そこで一つ提案がある」
「提案?」
「それって…一体?」
時雨と奈美子の反応に、一息置いてソウイチはこう提案した。
「『マシンヘッズ』のメンバーたち…そして私と、特訓をしてみないか?」
「……!」
「え?四天王である先生から手ほどきを受けられるなんて、確かにまたとない機会だけど…」
ソウイチの言葉に多少疑念を抱いた奈美子。
だが疑念を抱いた次の瞬間だった。
「お願いします」
口を開いたのは、ここまで口数の少なかった時雨だった。
「時雨!」
「断る理由もありませんし…僕も、皇帝については気になっているんです。自分の手で…追い求めてみたいんです」
時雨の目は、皇帝を追い求めるような…獲物を求める狩人…否、サメのような…覇気を放つような目をしていた。
そしてその目を見て、覇気と執着心を認めるようにソウイチはこくりと頷いたかと思いきや言葉を続けたのだった。
「よろしい…では舞台を整えるとしよう。2日後、また第一美濃沢峠に来てほしい。チームのメンバーを収集しておくから、それまでにマシンを整えておいてくれ」
「わかりました」
「…よろしく、お願いします」
時雨ははっきりと答えたが、奈美子はどこか動揺していた。
Dr.ソウイチの提案により、皇帝への挑戦をかけて特訓する事になった奈美子と時雨。
最後の四天王、そしてその仲間たちとの、皇帝へと続くへの道を開くための最終決戦が幕を開けようとしていた…
(第22話End)