「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第26話です。
Dr.ソウイチに迫る危機…

怪力の相手に時雨はどう戦う?


act.26「Overwhelming Destruction(圧倒的壊滅)」

スペード、ダイヤと「皇帝親衛隊」の幹部たちを2人倒した時雨と奈美子。

なぜ皇帝がこのような形で現れたのか、そして皇帝の正体を追うべく、2人は残った四天王の1人であるDr.ソウイチの元へと向かうのだった。

だが、Dr.ソウイチの前に1つの受難が迫っているのだった。

果たして時雨たちを待ち受ける親衛隊の幹部とは、一体?

 

 

 

 

「―――」

第二景虎峠を後にした時雨と奈美子は、第一景虎峠を経由して第一美濃沢峠方面へとマシンを走らせていた。

もしかしたら四天王のドライバーたちが敗北しているかもしれない…そんな思いを抱きながらも、2人は必死にマシンを走らせていた。

だが第一景虎峠往路スタート地点に近づき、念のため駐車場を確認していると時雨はある事に気が付いたのだった。

 

 

推奨BGM

「ん…?あれは!?」

何かに気が付いた時雨は、ハザードランプを点けてワンエイティを路肩に停車させる。

それに気が付いた奈美子は、ワンエイティの後ろにS30Zを付けて停車するのだった。

車から降り、奈美子と向き合う時雨。

焦る様子の時雨に奈美子が疑問を投げかける。

 

「どうしたの時雨…?急に止まって」

「奈美子、あれを見てくれ!」

「あれ?…あれって!?」

時雨は明らかに慌てていた。何かが起きているようだ。

慌てて指を差した時雨の指先には、第一景虎峠のスタート地点駐車場にいる多数のドライバーたちが見えた。

そしてその中で一際目立ったのは…Dr.ソウイチのランエボⅩであった。

 

「きっ、君!待ちたまえ!!やめろ、やめないか!!」

「あの声は…!」

「ソウイチ先生だ!行こう!!」

「ええ、行きましょう!」

悲鳴にも近いDr.ソウイチの声がこちらにも聞こえてきた。

明らかに何か大きなトラブルが起きている。

路肩に止めていた2台にロックをかけ、急いで声が聞こえる方に時雨と奈美子は急いだ。

駐車場の中で、20人近いドライバーたちが大きくもめている。

そして次の瞬間、時雨と奈美子はトンデモない人物を目の当たりにするのだった。

 

「岩…!?」

「早く止めないと!」

2mはあろうかと思われる顔をマスクで覆ったモヒカン刈りの大男が、巨岩を抱えてDr.ソウイチのランエボⅩを破壊しようとしているではないか。

Dr.ソウイチを含む「マシンヘッズ」の幹部たちは羽交い締めにされて完全に動けない状態であった。

すると、岩を抱えていた男がこう言うのだった。

 

「ガッハッハ!往生際悪すぎじゃのう?安心せぇ、ワレの車はこの一撃で即あの世逝きじゃ!」

その言葉に対し、マシンヘッズの幹部たちも必死になって止めようとするが明らかに無駄だった。

 

「ま、待ってください!それはいくら何でも酷すぎます!あ、なんか気持ち悪くなってきた…お、オェエエエエエェェェ!!!」

車酔いのカズヒトが大きく狼狽し、吐き気を催していた。

 

「パ、パパの車が!!このままだとペシャンコだ!! (||゚Д゚)ヒィィィィ!」

赤髪のアラタも何とか抵抗しようとするも、大男のチームメンバーであろうドライバーたちに羽交い締めにされて動けない。

 

「ガッハッハ!さあ覚悟はついたのう!それでは…」

男が大岩をランエボⅩに押し付けて破壊しようとしたその瞬間だった。

 

「ちょっと待ちなさーい!!」

「ん!?」

その言葉に男は持ち抱えていた大岩を地面についてしまった。

ランエボⅩには当たらなかったが、男は声の方向を向いたのだった。

 

 

推奨BGM

「どいつもこいつも、『皇帝』親衛隊は無茶ばかりするわね!」

「これは、一体何の仕打ちだって言うんだい!?」

奈美子と時雨が互いに大男の前に立ちふさがり、声をかけた。

 

「な、奈美子君!時雨君!!」

Dr.ソウイチが驚いたかのようにこう言った。

 

「何じゃ、ワレら?ワイの楽しみを邪魔しに来たんか?」

大男が疑問に思ったかのようにそう言った。

 

「その通りよ!」

「…あなたは『クローバー』?それとも『ハート』?」

奈美子が肯定したかのように言った後、時雨は名前を確認するようにそう言った。

 

「ガッハッハ、よう知っとるじゃないか!ワイは『クローバー』!女ども…人の楽しみ邪魔しといて、タダで済むたぁ思っとらんじゃろうの!?」

クローバーと名乗った男は奈美子と時雨に対して高圧的にそう言うのだった。

だが、その言葉に対して奈美子や時雨へDr.ソウイチは警告するかのようにこう言うのだった。

 

「奈美子君、時雨君、やめておけ!見ての通り、我々『マシンヘッズ』はコイツに壊滅させられた!いくら君たちがそのワンエイティに乗っているとはいえ、この男は…危険すぎる!」

だが、そんな言葉を黙らせるかのように「クローバー」はこう言った。

 

「じゃかしい!!ワレは黙っとれ!!」

「っ…!!」

高圧的な言葉にソウイチはすっかり黙ってしまった。

だが、黙った後クローバーは時雨と奈美子の方を向いてこう言うのだった。

 

「…ええじゃろう。ほいじゃあひとつ、バトルといこか?」

「わかった…受けて立つよ」

「その代わり、もし私たちが勝ったら『皇帝』について教えてもらうわよ?」

時雨と奈美子は挑戦を受けるようにそう言うのだった。

だが、クローバーは高笑いをするように言った。

 

「あぁ?随分おもろい事言いよるのぉ…ワレらが勝つ?そんなこと…万に一つもありえんじゃろが!」

「それはどうかな…?あなたは僕達の事を知らないみたいだね」

クローバーの言葉に反論するように時雨はそう言った。

 

「何じゃと?」

「まあ、知らないならそれでいいさ」

「せいぜい後で吠え面かかないようにすることね!」

時雨と奈美子の度胸を認めたかのように、クローバーはこう言うのだった。

 

「ほう、ええ度胸じゃ…!まずはワイのチーム『皇剛軍』が相手じゃ。覚悟せえよ!?」

「何でもいいさ…さっさと始めよう」

「先にスタートラインへ移動しとれ!メンバーを選抜しておくからのぉ」

クローバーの言葉を受け流すように、時雨は言うのだった。

そして彼の言葉の通り、時雨と奈美子はワンエイティに乗り込んで往路スタート地点へと移動してくのだった。

 

「よし…フユキ!ワレ、奴らを潰してこい!!」

「は、はい!」

二人が移動を始めた後、クローバーに指名された男が指示を受けて第一景虎峠往路のスタート地点へと愛車で移動するのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsフユキ

推奨BGM:RAMBO DEMOLITION(from SUPER EUROBEAT vol.155)

 

 

 

相手の車はS14シルビアK's(後期型)。

コースは第一景虎峠往路。

右レーン、S14シルビア。左レーン、ワンエイティ。

2台が並び、エンジン音を響かせる。

 

「……」

ドライバーズシートに座る中で、時雨は至って冷静だった。

今は皇帝親衛隊の幹部たちを引き出すことが目標であるが、その前に雑魚を一掃しないと話にならない。

だからこそ踏み込む必要がある。

それでも引き出すためには冷静になる必要だってある。

その2つを天秤にかけると、優先順位が上なのは冷静になる事だった。

これまでの幹部たちもこのワンエイティで倒してこれた。

それ故に雑魚クラスなら問題なく倒すことができるだろう。

そんな思いを抱きながら、アクセルを踏み込んでエンジン回転数を上げていた。

そしてそんな中で、カーナビのカウントが始まろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「「―――!!」」

2台のドライバーが共にギアを操作し、加速していく。

先手を取ったのはワンエイティである。

基本的にスペックについてはそんじょそこらの雑魚を寄せ付けない程のスペックとなっている以上、同クラスのマシンであれば時雨のワンエイティはその速さを寄せ付けないものになっていた。

 

「は、速い…!」

必死になってアクセルを踏み続けるS14のドライバー。

だが、スタート直後のストレートでその差はみるみる開く。

あっという間に車間距離は車一台分近くまで広がる。

 

「(先手は取ったけれど…目の前のコーナーで詰められるだろう)」

一方で先手を取った時雨。

速度はあっという間に120キロまで加速していて相手との車間距離も更に開きつつある。

だが、時雨自身決して余裕を持っているわけではなかった。

如何せん第1コーナーは右ヘアピンコーナー。

相手がインコースである以上詰められてしまうのはどうしようもなかった。

2台の前に第1コーナーのヘアピンが迫る。

 

「―――!」

早めにブレーキを踏み、マシンを適正速度までコントロールする時雨。

速度は120キロから70キロ台まで減速していた。

一方のS14もブレーキをかけ、減速する。

先行するワンエイティの姿が徐々に近くなる。

ドリフトラインを踏みつけた2台は、ブレーキングからハンドルを右に曲げてドリフトしていく。

コーナー内側の壁に迫るS14。一方でラバーポールに迫るワンエイティ。

インコースである以上S14は確実に差を詰める事が出来ていた。

だが、ワンエイティもそう易々とポジションを譲らまいとコーナーを駆け抜ける。

 

「(行かせないよ…!)」

カウンターを当てながらアクセルを踏み続ける時雨。

ワンエイティはコーナー内側ギリギリを攻めながらも、後ろを走るS14シルビアに食らいつかれんとアクセルを踏み続けて速度を維持し続ける。

そしてそのままヘアピンコーナーを抜けてアウトに膨れかけたところで、ハンドルをニュートラルに戻してアクセルオフに。

惰性で走っていたワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏みつけた。

 

「(よし、差をつめ…!?)」

S14のドライバーは予想しない光景に驚いていた。

自分が想像した以上に後方のワンエイティとの車間距離が詰まっていないのだ。

いや、正確に言えばコーナーで食らいつく事は出来たが追い抜く事は出来ていない。

サイドバイサイドの状態だった。

相手のS14は自分に食らいつく事が出来ている。

だが、普通では追い抜かれてしまうであろうところでサイドバイサイドまで抑えられたのは大きい。

 

「(よし…)」

時雨にとっての絶好のチャンス到来。

何せコーナーを抜けたらストレート、そしてその先には高速コーナーと直角コーナーがある。

それもどちらも左カーブなのである以上、有利であるのは目に見えていた。

ワンエイティは加速を生かし、S14との距離差を徐々に広げていく。

 

「(離される…!?)」

S14シルビアのドライバーも必死になってアクセルを踏み込む。

だがパワー差があるのか、全くもって差が縮まらない。

立ち上がりの加速で差がついてしまったのか、ワンエイティは確実に先行していくのだった。

そして2台の前に第2コーナーである左直角コーナーが迫る。

 

「(突っ込み気味に…)」

第2コーナーである左直角コーナーが迫る。

だが、140キロ台まで出しているワンエイティを減速させる気配はない。

S14シルビアは速めに減速してアウトに膨れないようにハンドルを曲げているのだが、ワンエイティは差をさらに広めんとコーナーに突っ込んでいく。

 

「(ここだ!)」

コーナー前のドリフトライン寸前でアクセルオフ、ブレーキをぐん、と踏み込む。

一瞬だけ踏み込んだブレーキをリリースしたかと思いきやハンドルを左に切り、テールをスライドさせかける。

そしてドリフトラインをワンエイティの前輪が踏みつけた瞬間にアクセルを踏みつける。

リアがスライドし始め、マシンのノーズは一気にコーナーの内側を向く。

内側を向いた瞬間にハンドルを切り返して右に曲げ、カウンターを当てる。

ワンエイティは110キロ台を維持しながら、走行レーンの中央を駆け抜けるように速度を維持しながらドリフトしていく。

 

「くっ…!」

一方でまじまじと見るしかないのは後方から追いかけているS14シルビア。

こちらも同じようにブレーキングでドリフトしているのだが、ワンエイティに対して会おうtコースであることや速度が遅いのか、全くもって追いつける気配がない。

速度計は90キロ台だった。

 

「(コーナー1つで差が開く…!?)」

S14のドライバーは動揺するしかなかった。

幾ら自分がアウトコースであるという事をわかっていても、明らかに差が開いているのである。

左にハンドルを曲げ、コーナーの内側に攻めるようにドリフトしても全く追いつけないどころか差がついていく。

ワンエイティのテールを拝むしかなかった。

 

「(ここで差を付ける!)」

第2コーナーを抜け、次に迫る第3コーナーへと走るワンエイティ。

コーナー間のストレート区間でも車間距離はさらに開く。

だが目の前には第3コーナーである高速左コーナーが迫る。

120キロ台でアクセルを離し、ハンドルを左に曲げる。

ドリフトラインが迫るまでにワンエイティは一気にコーナーの内側に迫る。

そしてワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを踏みつけ、ワンエイティがテールスライドを開始する。

後輪が滑り出して徐々にドリフトしていく中、時雨はハンドルを軽く右に切り返していた。

速度は110キロ台という速度でコーナーを駆け抜けていく。

先ほどまで120キロ台で一定時間アクセルオフである事を考えると、十分すぎる速度であった。

 

「(速い…!)」

一方のS14シルビアも追いつこうと高速でドリフトしようとする。

だが、スピードが有り余りすぎたのかコースの外側にS14シルビアは徐々に膨れていく。

ハンドルを更に左に切っても、スピードに乗りすぎていたのかS14シルビアは走行レーンの外側に膨れるしかなかったのであった。

壁に接触する寸前でブレーキをかけ、なんとかマシンの態勢を整えてコースの内側に進路を修正するも失速気味であった。車間距離は2台分以上まで広がっていく。

 

「(あと1つ…)」

一方、第3コーナーを立ち上がったワンエイティ。

時雨はヘアピン前までに自分が前にいて、ある程度の差を付けていたら自分の勝利は確定であると思っていた。

だからこそ目の前の第4コーナー…右直角コーナーが肝であった。

 

「(踏んでいくときは…行く!)」

コーナー直前でハンドルを左に少しだけ曲げ、ブレーキをかける。

そのままハンドルを右に切り返してブレーキリリース、ドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間にアクセルオン。

お得意のフェイントモーションを披露しつつ110キロ台でコーナーに突入し、道路中心にあるラバーポールを目掛けてドリフト中のワンエイティを接近させる。

カウンターを当てながらワンエイティはラバーポールと隙間20cmほどまでに縮まる。

 

「―――!」

コーナーの出口が迫る中、アクセルを抜いてハンドルをニュートラルに戻す。

慣性に任されてワンエイティは徐々にアウトに膨らむ。

そしてワンエイティが走行レーンの中央部分に達した時、前輪がドリフトラインを踏みつけた。

それを認識して時雨はアクセルを踏み込んでエンジンを回転させる。

 

「…嘘だろ」

車間距離がすでに3台分まで広がっていたS14シルビアにとって、ワンエイティの姿はもはや消えかかっているも同然だった。

S14シルビアが第4コーナーの入口に到達した時点でワンエイティは既にコーナーを抜け、第5コーナーのヘアピンに突入しかけている。

完全にS14シルビアは置いてきぼりを喰らっていた。

時雨は第5コーナーまでに大差をつけ、相手の車が追いつけないほどまでに差を付ける事が出来ていた。

最終右高速コーナーでもとても追いつけるほどの距離ではなかった。

 

この後、S14シルビアは何とか抵抗するも結果として追いつく事は出来なかった。

ゴール時点でのタイム差は3秒以上であった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第一景虎峠、往路スタート地点駐車場。

 

「『皇剛軍』をまず1人やりおったか…しかしまだまだ序の口じゃ!ワレら、覚悟せぇや!」

チームのメンバーが1人やられたという話を聞き、奈美子と時雨に対してクローバーはそう言い放つのだった。

まだまだ序の口という事もあり、彼には余裕も見えているのだった。

 

「…誰だっていいさ。僕が相手になるよ」

一方でその様子を見ていた時雨は、クローバーの言葉に対しどこか挑発的にそう言うのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vsスミヤ

推奨BGM:MIDNIGHT LADY(from SUPER EUROBEAT vol.176)

 

相手の車は紺色のY33グロリア。

コースは復路。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、Y33グロリア。

 

「(車の事はよくわからないけど…相手の車もかなり種類が増えてきた)」

スタートラインにワンエイティを停車させた時雨は、相手の車を確認してそう思っていた。

皇帝親衛隊のチームのドライバーたちは、どうやらそれまでに戦っていた車とはかなりバリエーションが豊かになってきたように思える。

スポーツカー、オープンカーだけでなく、ハッチバックやセダン、ワゴン、軽自動車も少なからずいる。

相手の多様性については時雨も少なからず感心するところがあった。

そしてそれは、時雨にとって未知の車が増えたという事。

だが一方で時雨はこうも思っていた。

 

「(強化されているワンエイティとはいえ、僕が倒せている以上みんな皇帝のGT-R程ではないのかな…)」

追いかけるGT-Rは今まで戦ってきたどんな車よりもはるかに格上なのだろう…そう時雨は思っていた。

だからこそであるが、時雨は「負けるわけにはいかない」という思いを引き締める事が出来ていたのだった。

自分が追いかけ、そして命の恩人のはずであり、奈美子の兄である皇帝。

なぜ彼がこのような仕打ちをしているのか…その謎を解明するべく、時雨は負けるわけにはいかないのである。

そしてそんな思いを抱く中、カーナビがカウントを始めようとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「「―――!!」」

2台のドライバーがカウントと共にギアを切り替えると同時に、マフラーからバックファイアーが吹き出て加速していく。

先行したのはワンエイティ。加速の差を生かし、徐々にグロリアを引き離す。

やはりスペックという面においてはワンエイティの方が有利だったようである。

 

「(高速コーナーである以上…差を寄せ付けない)」

最初のコーナーは左の高速コーナーである。

やりようによっては時雨でもその差をキープし続ける事は可能であった。

 

「―――!」

アクセルを離し、ハンドルを左に曲げる。

左に曲げるとともに、マシンがテールスライドをゆっくりと始める。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを踏み直し、ハンドルを軽く右に曲げてカウンターを当てる。

 

「(確実に差を付けて逃げていく…)」

カウンターを当てる中、ワンエイティは120キロ以上でコーナーを駆け抜けていく。

一方のグロリアも負けじと食らいつくが、こちらの速度は110キロ程度しかなくあっという間に距離が離される。

 

「(は、速い…!?)」

アクセルを踏み込んでドリフトさせるが、加速が良くないのか追いつけない。

だが、相手がヘタクソという訳ではない。これでも速いのである。

はっきり言えばワンエイティの走る速度が異常なのである。

短い高速コーナーでも差が開いていく。

 

「(…ここだ!)」

コーナー出口のドリフトラインがワンエイティの前に迫る。

アクセルを離し、カウンターを当てていたハンドルをニュートラルに戻す。

そして戻した瞬間にはワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけていた。

それを認識していた時雨は再びアクセルを全開に踏み込んでいく。

立ち上がりで加速していくワンエイティ。

ワンエイティとY33グロリアの車間距離は車2台近くまで開く。

だが、目の前には右ヘアピンコーナーが迫る。

 

「(…多少差を付けられても、ヘアピンがあれば追いつけるんだよ!)」

Y33グロリアのドライバーは余裕を取り戻していた。

第2コーナーは圧倒的に自分が有利な右ヘアピンなのである。

多少差がついていてもヘアピンのような低速コーナーの処理が苦手であれば確実に追いつける。

そう思っていた。

 

「―――!」

目の前に迫るヘアピンコーナーとドリフトライン。

ハンドルを軽く左に曲げてコーナーの外側にワンエイティを向けたかと思えば、ブレーキをかける。

速度は130キロ台から80キロ台まで減速する。

そしてそのままハンドルを一気に右に曲げ、ブレーキを離す。

マシンが滑り始め、一気にコーナーの外側から内側へとノーズを向ける。

そして前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、それと同時に時雨もアクセルを全開に踏み込む。

フェイントモーションでヘアピンに突入したワンエイティは、ラバーポールギリギリを攻めながらドリフトしていく。

下手をしたら隣のレーンに飛び出してしまうのではないかというほどの際どいコーナーリングだった。

100キロ以上の猛烈なスピードでドリフトしていくワンエイティの姿に、Y33グロリアのドライバーは釘付けの状態だった。

 

「(な、何だよあの走り…!)」

Y33グロリアのドライバーには衝撃でしかなかった。

自分にはできないレベルの速さの突っ込みだった。

そしてその突っ込みでフェイントモーションを決めたかと思えば、アウトコースのインギリギリを攻めて差を寄せ付けない。

Y33グロリアの方もヘアピンコーナーでドリフト舌はよかったのだが、その車重が足を引っ張ったのかコースの外側に膨れてしまう。

クリッピングポイントを狙ったドリフトのつもりではあったものの、膨れてしまった結果走行レーンのほぼ真ん中を走ってしまう。

アウトに膨れすぎない分まだマシなのかもしれないが、明らかに車重がグロリアの足を引っ張っていた。

ワンエイティがキレイにヘアピンを抜ける事が出来たのは車重の部分も少なからず影響しているのだろう。

 

「(ワンエイティは…!?)」

第2コーナー出口のドリフトラインを抜け、ワンエイティを追いかけるY33グロリア。

だが、その時点で既にワンエイティの姿は彼方。第3コーナーに突入して直角コーナーを自分ではできないレベルの速さで駆け抜けていた。

勝負は第2コーナーの時点で付いていたも同然であった。

第3コーナーにグロリアが突入する時点で、ワンエイティはグロリアの視界から消えて第4コーナーと第5コーナーの間まで走っていた。

最終ヘアピンの事を考えると、グロリアが追いつく事はもはや絶望的と言うしかなかったのだった。

Y33グロリアは時雨のドライビングの前にあっさりとKO負け同然になってしまっていたのだった。

 

「(何なんだよ、あいつ…)」

グロリアのドライバーはそう言って負けを認めざるを得なかった。

アクセルをどんなに踏み込んでも追いつく算段というのは全くなかったのであった。

 

「(僕が追い求める存在ははるか先にいる…これくらい出来ないと追いつけるはずがないんだ)」

一方の時雨は最終コーナーである左ヘアピンコーナーの立ち上がりでそう思っていた。

部下のメンバーたちに勝っても彼女は決して油断も満足もしないのだった。

真実を追い求める以上こんなところで立ち止まる事は許されないと自負していた時雨にとって、もはや雑魚相手の勝利は無価値同然に等しいのであった。

 

そしてそんな思いを抱きながら走っていた時雨のワンエイティは、グロリアと4秒以上の差を付けてゴールした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

―――40分後。

第一景虎峠、往路スタート地点。

時雨は「皇剛軍」のメンバーの殆どを倒していたのだった。

駐車場に止まっているクローバーの車、そしてクローバーに対し、時雨と奈美子はバトルするように向かうのだった。

時雨と奈美子がクローバーの前に立つ。

 

「さて、チームで残っているのはあなただけだ。バトルしてくれるよね?」

時雨はクローバーにこう言った。するとクローバーは覚悟を決めたかのようにこう言うのだった。

 

「『皇剛軍』にここまで実力を出すとはのぉ…ええじゃろ、ワイが直々に相手したるわ!見せちゃる、必殺の『怪力無双走法』じゃ!」

「何だっていいよ。さっさと始めよう」

クローバーの言葉に対し、時雨もさっさと始めるべく言うのだった。

2台のドライバーたちがそれぞれの愛車に乗り込み、スタート地点へと移動していく。

 

 

 


 

 

 

―――vsクローバー

推奨BGM:TOKYO STRIKE FORCE(from SUPER EUROBEAT vol.186)

 

 

 

車種は黒のGTO。リアウィングが空力重視のモノに変更され、マシンにはファイアーパターンのステッカーも張られている。

コースは往路。

左レーン、GTO。右レーン、ワンエイティ。

 

「いつものやり方なら、こやつも問題ないはずじゃ」

今までの相手を皆倒してきたあのやり方。

それをクローバーは実践しようとしていた。

一言で言うなれば力任せのゴリ押し走法。

そのやり方であれば、所詮どんなに改造されていてもワンエイティなんて敵ではない。

それは、時雨のワンエイティに対しても決して例外ではない。

そう彼は思いながらハンドルをがっしりとした腕で握るのだった。

 

「(…見ていた限り、相手は力任せかな)」

時雨はドライバーズシートに座ってハンドルを握りながら、相手の走りと車の事を考えていた。

先ほどクローバーは大岩でランエボⅩを破壊しようとしていた。

間違えなく力持ちなのだろう。そしてそんな相手の車…GTOも大きくて重そうなマシンだ。

そんなマシンをクローバーは操縦できるのであろう。

そしてもしかしたらではあるが、操縦するドライビングは力任せな…言うなればゴリ押しなのではないか、と思っていた。

 

「(仮に本当に力任せだというなら、正攻法で行っても潰されるだけ…ならば、技術で立ち向かう!)」

時雨はどこか冷静さを取り戻したかのように、前を向いた。

相手がパワー任せのゴリ押しで戦ってきたのならば、自分はコーナーワークで勝負すればいい。

立ち向かう方法はいくらだってあるはずだ。

そんな思いを抱く中で、カーナビのカウントが始まろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「ふん!!」

「―――!!」

2台のマシンのドライバーがギアを操作して、アクセルを全開に踏み込む。

スタートダッシュを決め、マフラーからアフターファイアを噴出しながら2台が加速していく。

スタート直後のストレートで先行したのはGTOだった。

 

「(これよこれ!)」

「(速い…!?)」

時雨にとっては圧倒的な加速力だった。

自分もスタートダッシュを決めてスタートしているにもかかわらず、まるで自分の敵ではないと思わんばかりの加速である。

あっという間に車3台分という距離まで車間距離が開いた。

そしてそんな車間距離の中で、GTOが猛烈な速度で第1コーナーに突入してドリフトしていく。

 

「…!?」

だが、第1コーナーにGTOが飛び込む様子を見て、時雨はある事に気が付いた。

そんな中でブレーキをかけ、ハンドルを120度ほど右に曲げる。

ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込んでドリフト状態へ。

滑り出した後輪に対して、ハンドルを切り返してカウンターを当てる。

ワンエイティのノーズはアウトから一気にコーナーの壁との隙間12cm程まで迫り、クリッピングポイントを目掛けていったかと思えば、そのままコーナーの中央ラバーポール付近まで膨らむ。

かなり際どいアウトインアウトであったが、コーナー出口付近でアクセルオフからハンドルをニュートラルに戻してドリフト状態を抑えていく。

そして丁度コーナーのラバーポール付近との隙間が10cm程まで迫ったところで、ワンエイティの前輪がドリフトラインを踏みつける。

そしてその瞬間、時雨はアクセルオフからフルスロットルまでアクセルを踏み込んでコーナーを立ち上がっていく。

アクセルを全開に踏み込む時雨の視界に見えたのは、先ほど点になりかけていたGTOの姿だった。

スタート直後こそ点になりかけていたが、その点は間違えなく大きくなっていたのだった。

コーナーの進入、ドリフト、立ち上がりで時雨は追いつく事が出来ていたのである。

それは時雨がインコースである事を考えても確実に追いつけているのがわかった。

 

「(やっぱり車自体のパワーはすごいけれど、コーナーだと遅い?)」

時雨は明らかに相手がゴリ押しで走っている事に気が付いていた。

GTOは明らかなオーバースピードでコーナーに突っ込んでは、アンダーステアで外に膨れていく。

それは、第2コーナーである左高速コーナーでも同じだった。

最初の加速で動揺したかに見えた時雨だったが、その動揺はコーナーを抜けるたびに収まっていった。

そして時雨も遅れる事1秒ほどで第2コーナーの高速コーナーに突入する。

 

「―――!」

アクセルオフからブレーキをフラッシュさせてハンドルを左に切り、テールスライドを始めた瞬間…まさしく前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込む。

そして同時にハンドルを軽く右に切ってカウンターを当てながらドリフトしていく。速度は130キロ台を維持している。

白煙を上げながら高速でドリフトしていくワンエイティ。

既に第3コーナーに突入していたGTOを追いかけながら走り続ける。

そしてそんな中で、時雨が抱いていた疑念は確信へと変わるのだった。

 

「(やっぱりか…相手を捻り潰せる力があっても、操れる腕が無ければ宝の持ち腐れ…!)」

アウトコースを走っていて本来不利なはずのワンエイティ。

だが、相手のGTOとの距離差は確実に狭まっていた。

ワンエイティのノーズを道路中央のラバーポールギリギリ…隙間10cmもないくらいまで攻め込ませる。

そしてインギリギリまで攻め込み、アウトに膨れていく中でアクセルを離してハンドルをニュートラルに戻す。

前輪がコーナー出口のドリフトラインを踏みつけたその瞬間だった。

 

「(…っ!)」

アクセルを全開に踏み込んだ瞬間、両手両足が炎に包まれる感覚。

その感覚がコーナーでドリフトするマシンを操縦する時雨の全身に一気に広まった。

最初こそ何事かと思ったが、今でこそ速く走れていると感じる事が出来る、あの感覚である。

時雨にはこれが「自分が速く走れるチャンス」であることを認識していた。

いや、この感覚を維持しないと相手には追いつけない…そうも思った。

 

「(この感覚のままアウトコースでも追いつけるのなら、まだ機会はある!)」

立ち上がりで150キロまで一気に立ち上がるワンエイティ。

GTOは立ち上がりが遅いのか、確実に距離を縮めていた。

コーナー間のストレート区間でも車間距離は縮まっていく。

 

「(いける…コーナーで徹底的に追い詰める…!)」

第3コーナーを抜けたGTOを追いかけ、ワンエイティも遅れて第3コーナーに突入する。

速度は150キロ台でありながら、アクセルを抜いてハンドルを一気に左に切る。

高速域でリアがスライドし始め、あっという間にリアタイヤから白煙が上がりかける。

そしてそれと同時にワンエイティはコーナー入口のドリフトラインを踏みつけ、アクセルを踏み込む。

白煙がさらに大きく上がる中で時雨はハンドルを右に切り返し、カウンターを当てる。

カウンターを当てたワンエイティはインベタの状態でラバーポールと隙間10cmまで攻め込む。

走行ラインはまさしくコーナー上に存在するレールの上をそのままスライドしていくかのように美しい弧を描いていた。

カウンターを当てながらもアクセルを踏み続け、140キロ以上の速度を維持しながらドリフトしていく。

 

「(追いついてきてる…!?)」

一方のGTO。

第4コーナーでドリフトする中で、後方のワンエイティが徐々に大きくなっている事に気が付いた。

一気に大逃げを狙ったつもりではあったが、まさか追い付いてくるとは予想外だった。

だが、こちらのGTOは想像以上に曲がらない。

ハッキリ言ってしまえば超加速特化すぎて最高速が低いセッティングなのである。そしてそれと同時にマシンの車重も影響して曲がらない。コーナーでの失速はどうしようもない。

これまで勝てたのも、最初の加速で一気に大逃げして心を折らせるというやり方だったのだが、時雨にそれが通用しているとは言えなかった。

ワンエイティはストレート区間で確実に追いついてきていた。そしてそのプレッシャーは確実にクローバーを襲いつつあった。

 

「(あまり使いたくないんじゃが…逃げ切るなら、ここしかあるまい!)」

クローバーはやむを得ないようにハンドルに取り付けられていたニトロスイッチを押した。

だが、その区間は第4コーナーの立ち上がり。ドリフトラインを踏みつけた瞬間であった。

勢いよく立ち上がりで加速したGTOだが、やはり加速特化すぎた事もあるのだろう。

ニトロを使っても確実に差が付くという訳ではない。

 

「(そっちがその気なら、僕も使えばいい…逃さない!)」

時雨は相手がニトロを使っても至って冷静であった。

相手に確実に食らいつけるポイントはまだ先だと思っていたのである。

そこで使えば、確実に食らいつける…そう思っていた。

第4コーナーである右直角コーナーでドリフトしていく中でも全身は熱い感覚に包まれていた。

カウンターを当てながらワンエイティのノーズを内側…隙間15cm程まで迫らせながらドリフトしていく。

コーナー出口付近で目先に見えたGTOはアウトに膨れつつも、ラバーポールスレスレをドリフトしていく。

 

「(仕掛けるのは…ヘアピンの出口!)」

ニトロを使うべき場所は定まった。

あとは自分の走りをしてワンエイティを可能な限り早く走らせるだけである。

GTOは目に見えて防戦一方だった。

逃げるのに必死だと言えばいいのだろう。

コーナー出口でハンドルをニュートラルに戻し、アクセルオフ。

そしてドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間にアクセルをハーフスロットルまで踏みつける。

Excellent判定を出したワンエイティは110キロ台から130キロまで加速する。

 

「(こっち側に不利なヘアピンがある以上、ここは攻め切れない…)」

時雨は冷静になる事を選んだ。

残りのコーナーは2つ、そして次のコーナーは左ヘアピン。

やり方を間違えると差は縮まらない。

だからこそあえて踏み込まない…そう言う選択をするのだった。

だが速度は130キロは出ている。

だからこそ早めにブレーキをかけるのは自明の理でもあった。

一つ違うのであれば…アウトコースの逆方向コーナーである以上、走行レーンの内側を走ったかと思いきやハンドルを少しだけ右に曲げ、ブレーキをかけて車の荷重を前に移動させる。

速度は130キロから一気に80キロ台まで減速する。

目の前にヘアピンコーナーの入口が迫る。

 

「(…ここだ!)」

コーナー直前でアクセルオフからハンドルを切り返すかのように左に曲げ、マシンがテールスライドを始める。

そしてテールスライドから一呼吸置いたところで、前輪がドリフトラインを踏みつけた。

その瞬間、ブレーキを離してアクセルを全開に踏み込む。

アクセルを踏み込むことでタイヤは空転を始め、コーナーを攻め込んでいく。

カーナビに表示された判定は…「Excellent -0.23m」。

冷静さを保っていた時雨は最良のタイミングでアクセルを踏み込み、ワンエイティをテールスライドさせていく。

走行ラインは文字通りの弧を描くように…ラバーポールとの隙間は10cm程をキープして、正しくこのコーナーも走行レーン上に存在するレールの上をそのままスライドしていくように駆け抜けていく。文字通りのインベタの状態であった。

速度の失速もほぼ無く、コーナーを90キロという速度で駆け抜けていく。

コーナー出口目前でテールスライドした状態からアクセルオフでハンドルをニュートラルに。

惰性の状態になったワンエイティのノーズが、コーナー出口のドリフトラインを踏みつける。

その瞬間だった。

 

「(よし…今だ!)」

時雨はアクセルを踏み込んだ瞬間、それとタイミングを同期させるように右親指でハンドルに取り付けられていたニトロスイッチを押す。

ワンエイティのマフラーから青い炎が吹き出て一気にワンエイティは加速していく。

コーナー脱出時点で100キロだったワンエイティは、アクセルを抜群のタイミングで踏み込んだ事とニトロの効果が合わさって、コーナー脱出直後の加速で大きな相乗効果を生み出すことが出来ていた。

 

「(いける…!)」

時雨だけでなく奈美子にも勝利を確信させるような速さだった。

コーナー出口で100キロだったワンエイティは、一気に160キロ近くまで加速する。

目の前のGTOは確実に大きくなっていく。

 

「(ここまでゴリ押しで行けたんじゃ、ヤツもこれで…!?)」

同じ瞬間、GTO。

こちらは最終コーナー直前のストレートを走っていた。

第5コーナー直前でニトロを使った事で振り切り同然の状態になっていたこともあり、ある程度の余裕があった。

第5コーナーこそラバーポールギリギリという際どい走りをしていたが、全く追いつく気配というものはなかったのである。

最終コーナーもインスレスレまで攻めれば問題ないだろう…そうクローバーは思っていた。

だがその瞬間だった。

 

「(な…!?)」

ニトロで加速するワンエイティが、そのまま最終コーナー直前でGTOを捉えたかと思いきやそのままの速度でコーナーに突入していった。

テールトゥノーズの状態になったかと思いきや、あっという間にサイドバイサイド…そしてそのまま一瞬でGTOはワンエイティにオーバーテイクされてしまったのである。

テールトゥノーズとサイドバイサイドの時間は0.25秒にも満たない一瞬の出来事だった。

ワンエイティは最終コーナーをブレーキをほとんどかけず、アクセルオフだけでテールスライドからドリフトしていく。

そして目に見えた変化はそれだけではなかった。

 

「(く、車が炎に包まれている…!?)」

クローバーの目に映ったのは青い炎に包まれ、火の玉の様にコーナーを察層と駆け抜けていくワンエイティの姿であった。

だが、その瞬間だった。

 

「(アウトに膨れる…!!)」

猛烈な追い上げに動揺し、GTOはアクセルを踏み込むタイミングを見誤ってコーナーのアウトに膨れる。

慌ててハンドルを右に切って左側の壁スレスレまでボディを寄せるも、なんとか壁に接触する寸前で姿勢を立て直してドリフトしていく。

だが、その速度は時雨の超高速ドリフトに対して到底及ぶものではないノロノロ走行と言ってもいい、ドリフトではなくグリップ走行だった。

速度はたった70キロ台…つまりヘアピンを抜ける程度の速度しか出ていなかったのである。

それでもクローバーはかなりハンドルを曲げていた。

超短期決戦仕様に仕上がっていたGTOは、ターボのブースト圧を最大レベルに設定していたこともあって序盤こそ圧倒的な加速力を実現できていた。

だが過剰なブーストが原因で冷却系はキャパシティーギリギリの状態であり、そこに追加でニトロを使ったこともあって、コースの終盤に来る頃には水温も油温も上がり続けて熱ダレ寸前の状態だったのである。

一言で言ってしまえば、ニトロを使ってしまった事がクローバーの致命傷になってしまっていたのである。

ニトロを使った事を考えていなかったが故のミスであった。

 

「(や、奴は幽霊じゃけ…)」

クローバーはそう言い、降参した。

コーナーの立ち上がりでも全く歯が立たず、ワンエイティは炎を纏ったままゴールラインまで最終ストレートを駆け抜けていった。

コーナーの立ち上がりでも水温と油温が上がってヘロヘロの状態だったGTOは、コーナーの立ち上がりでも殆ど加速する事が出来ず惰性でストレートを走る事しか出来なかった。

 

―――勝者、時雨。

タイム差は短いストレートで3秒近くの差が開いてしまっていたのだった。

 

 

 


 

 

 

―――第一景虎峠、復路スタート地点駐車場。

ワンエイティが先導で入ってきたかと思いきや、2台は駐車場の端に横並びになるように駐車した。

GTOから降りてきたクローバーは明らかに落ち込んでいた。

 

推奨BGM

「わ、ワイの…『怪力無双走法』が、こんな…」

その言葉に対し、時雨と奈美子はこう言うのだった。

 

「残念だったね。怪力も使いどころを間違えると自滅しかねないのさ」

「万が一があり得たでしょう?」

「うぐぐ…!」

クローバーは屈服するように頭を下に向けた。

顔を見た時雨が言葉を続ける。

 

「じゃあ、『皇帝』についてあなたが知っている事を教えてもらうよ」

時雨はクローバーにそう言った。

上からの態度に屈辱を感じながらも、渋々彼はこう言った。

 

「舐めた口を聞きよって…!まあここじゃ勝った者が全てじゃ。『皇帝』に会って何をしたいのか知らんが…その前にそりゃあもう大きな壁がある事を覚えておくがええ」

「…どういうこと?」

屈辱を感じながらも発した彼の言葉に対し、奈美子が尋ねた。

 

「親衛隊の最後の1人『ハート』という女がおるが、ハッキリ言ってこいつは強い」

「ハート…か。名前は聞いていたけれど、やっぱり速いのかな?」

「断言しておく。ワレら程度の腕じゃ、到底かなわんじゃろうて!」

クローバーはやはり負け惜しみのようにそう言うのだった。

 

「そんなに速いのね…」

「…まあ、いいさ。どうせ僕たちがその人ともバトルする事になるのは間違えないんだろう?今出来るのは、その人も倒して『皇帝』を引っ張り出すことだからね」

クローバーの言葉に対し、時雨はどこか自信ありげにそう言った。

 

「む、威勢のいい事だ…しかし時としてワレのその威勢、命取りになるやもしれんぞ…!?」

クローバーは時雨の弩強度をどこか認めるようにそう言うのだった。

だが、時雨はそれに対して自信があるようにこう言った。

 

「何だっていいさ。僕達は皇帝に会いに行く…それだけが目的だからね」

「ふん、精々頑張りや!」

時雨の言葉にどこか実力を認めるようにクローバーは言って、GTOに乗ったかと思いきやそのまま立ち去って行った。

すると、立ち去ったところでDr.ソウイチが時雨と奈美子に話しかけてきた。

 

「…奈美子君、時雨君。醜態をさらして申し訳ない。仮にも四天王と呼ばれている1人でありながら…」

彼は申し訳なさそうにそう言うのだった。

 

「ソウイチ先生!」

「大丈夫でしたか?」

奈美子と時雨が心配そうに声をかけた。

 

「うむ…もう少しで奴に私の大事なランエボⅩがスクラップにされるところだったよ、本当にありがとう」

「いえ…僕の力なんて、些細なものです」

ソウイチの言葉に安堵したかのように、一方で謙遜するように時雨はそう言うのだった。

 

「…ところで、大分事の核心に近づいたようだな」

「はい…『ハート』という女を倒せば、『皇帝』に辿りつけそうです」

「奴らは箱根の四天王を狙っているようだな…おそらく今頃その『ハート』は、トオル君と一戦交えている事だろう」

「トオルと…」

「おそらく決着がついている頃だとは思われるな…」

するとその言葉を聞いた時雨は、こう言うのだった。

 

「僕達、探しに行きますよ」

「うむ。そう言うと思った…だがその前に、マシンコンディションをなるべく回復させておいた方がいいだろう」

「…そうですね」

するとソウイチは助け舟を出すようにこう言った。

 

「私が予備で持っているタイヤとエンジンオイル、ニトロを用意してある。すぐに取り換えなさい」

「ありがとうございます」

「助かります」

ソウイチからの計らいに時雨と奈美子は頭を下げるのだった。

 

「よーし、諸君!急いでワンエイティの整備を行うんだ!」

Dr.ソウイチの号令により、ワンエイティのタイヤやエンジンオイル、ガソリンやラジエータ水などが補給されるのだった。

 

「皇帝」の親衛隊の3人目を破った奈美子と時雨。

残る親衛隊のドライバーは「ハート」1人だけとなった。

その人物を倒し、果たして時雨と奈美子は皇帝を表舞台に引きずり下ろすことができるのか?

皇帝へ挑む前の最後の壁が、2人へと迫る。

(第26話End)

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