「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第30話です。

皇帝のGT-Rに追いつくべく、時雨の特訓が始まります。


act.30「Bond and Revenge(絆と復讐と)」

「皇帝」とのバトルに向けて自主練を重ねていた時雨。

あまりのマシンの性能差によって実力に限界を感じていたところ、Dr.ソウイチの提案によって彼が独自にチューニングしたモンスターマシン…RZ34に乗り込むことになる。

RZ34に乗りこみ、皇帝に挑戦することになったことになった時雨は、四天王並びにその仲間たちと共に、再び実地での特訓を行う事になったのだった…。

嘗て戦ったドライバーたちとの再戦が、時雨を待つ。

 

 

―――時雨がRZ34を受け取った翌日、夜8時。

 

推奨BGM

「皇帝に勝つためには、私を含む四天王のチーム各々に片っ端から挑み…そのすべてに勝つことは絶対条件だ。そして仮にそのRZ34に乗っていたとしても、皇帝という壁は高い事を忘れないでほしい…」

 

夜の峠道をライトを付けたRZ34で奈美子のS30Zと共に第一土ノ湖峠に走らせる中で、時雨は前日にソウイチから言われた言葉を思い出していた。

車を受け取ったその日、時雨はソウイチからそう言われていた。

幾ら自分がこのチューンドRZ34に乗っているからとはいえ、皇帝に必ず勝てるという訳ではない…この車を乗りこなしていかないと、確実に勝てない…

それは、時雨でも理解しているつもりだった。

未販売のGT-R対モンスターチューンドのRZ34フェアレディZ。

普通の走り屋たちでは追いつけない程、レベルの高い戦いになると予想された。

そこでソウイチからは、相手にハンディキャップを与えて追い越せなかった場合時雨の負けにするという条件を提示された。

自主練の時にもやっていたが、そのやり方を実践訓練でも行うという事になったのであった。

そしてそのやり方を思い出す中で、RZ34とサポートのS30Zは第一土ノ湖峠の往路スタート地点に到着するのであった。

そこには嘗て、時雨と戦い合った…血しぶきのようなフェイスペイントを顔に付けた男とその仲間たちが待っていたのだった。

第一土ノ湖峠の駐車場に集う彼らの前でRZ34とS30Zを止め、挨拶に向かう。

 

「よく来たな、時雨!奈美子!噂通り、RZ34に乗り換えたのだな…」

「ジュン…!じゃあ、ハートビーツが」

「最初の相手なんだね」

「うむ。皆雪辱の機会を狙っていた者ばかりだ!一筋縄ではいかないぞ!」

ハートビーツの走り屋たちは皆、時雨の…賞金首の撃破を狙って集まっていた。

そんな中でジュンはハンディキャップの事についても話した。

 

「我々のチームのメンバーとのハンディキャップは幹部を除き基本的に7秒だ!7秒差をつけて貴様らはスタートし、ゴールまでに追い越せなければ貴様らの敗北とみなす!」

「ソウイチ先生から聞いていたとはいえ、本当にハンディキャップを覆してゴールしろって事ね…」

「その話なら…大丈夫。僕も前もって聞いているからね」

「うむ、呑み込みが早くてよろしい。では早速だが始めるとしよう…先鋒はコイツだ!」

ジュンが指を差したのは、鼻ピアスを付けたドレッドヘアーの例の男…グルーヴィ・マサヤだった。

 

「ヤッ!ヒ・サ・ビ・サ・ダ・ネ!『皇帝』とバトルする為にモンスターマシンに乗り換えたんだって?」

「う、うん」

「でも俺っちだって強くなってるからサ!!さあ、まずは俺っちと勝負だヨ!ハンディキャップは5秒だ!」

「わかった、始めよう」

「ここからが正念場よ…頑張って、時雨!」

奈美子の言葉に時雨は軽く頷き、奈美子共々RZ34に乗り込んだ。

それを見てマサヤも愛車のFC3Sへと乗り込んで移動を始めた。

 

◇ ◇ ◇

―――vsグルーヴィ・マサヤ

推奨BGM:GO STARFIRE(from GREurosound vol.4)

 

 

コースは第一土ノ湖峠往路。

左レーン、RZ34。右レーン、FC3S。

第一土ノ湖峠は、ロングストレートやヘアピン、直角コーナーや高速コーナーなどありとあらゆるコンディションが集う複合的なコース。

スタート直後の左高速コーナーを抜けたら湖畔を行く第1ストレート。ストレートエンドで湖畔から離れていくように右ロングヘアピンコーナー。コーナーを抜けたら富士山をバックに再び第2ストレート、ストレートエンドには左ショートコーナーと右ショートコーナーという、複合型の連続コーナー。連続コーナーを抜けた後、トンネルに入りトンネル内に左直角コーナー。トンネルの出口までドリフトし続け、トンネルを抜けたところで再び左直角コーナー。左直角コーナーを抜け、息継ぎ区間の後に右直角コーナーで最終ストレート、ストレート突破後にゴールとなる。

様々なコーナーが存在し、テクニックも速さも要求される難しいコースとなっているのであった。

 

「あの化け物RZ34の力、見せてもらおうか!」

マサヤはそう呟き、アクセルを踏み込んでエンジン回転数を調整する。

 

「(―――自主練はしたとはいえ、やはりそれだけじゃあ限度がある…しっかりと実戦経験を積んで、よりしっかり走れるようにしておかないと)」

一方の時雨は静かにそう思っていた。

ふと目を閉じて自然と今までのバトルの事を思い出す。

これまで200戦以上…本当に様々な人間と戦ってきた。

その中にはモブに過ぎないものもいたし、本当に速い人間だっていた。

そんな自分は今、そんな人間たちのエースドライバーと化している。

そしてそのエースドライバーは、「皇帝」という最高峰に挑戦しようとしている。

…負けるわけにはいかない。箱根のエースドライバーとして。

負けるわけにはいかない。奈美子の兄を取り戻す為にも。

そして負けるわけにはいかない。皇帝が自分の命の恩人であるかどうかという真実を確かめる為にも…。

この特訓を乗り越えて、真実を探し求める。

そう思って、再び目を開ける。

そして目を開けた瞬間、FC3Sは先行してスタートした。

 

「さぁーて、おっ先ぃ~!」

スタートダッシュを決めて加速していくFC3S。

一方でRZ34のカーナビには5秒前のカウントが表示されていた。

アクセルを1万回転まで回して、エンジンの調子を確認しながらスタートに備える。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!!!」

ギアをDレンジに切り替え、アクセルを全開にして踏み込む。

スタートダッシュを決めたRZ34は、文字通りのロケットスタートで加速していく。

その加速はワンエイティの時と比べると計り知れないほどの暴力的なもの。

スタートのモノの数秒で170キロに一気に到達、目の前の左高速コーナーがあっという間に目の前に迫った。

 

「(最初のターンインだ…行け!)」

アクセルを全開から4分の1程度まで調整し、その状態で一気にハンドルを左に切る。

左に切ったRZ34はテールスライドを始め、白煙を上げる。

RZ34のノーズがインを向いた瞬間にアクセルを再び踏み込むことで、後輪タイヤが空転を始めた。

ハンドルを右に切り返してカウンターを当てながらアクセルをパーシャルスロットルに調整してドリフトしていく。

700馬力オーバーというモンスタースペックを持つRZ34ならではの豪快なパワースライドだった。

そしてそのドリフトはコーナーをインに攻めたRZ34をコーナー出口までにラバーポールギリギリまで突き放す。

ワンエイティの数倍にも感じられる周りの景色の速さにも、時雨は何とか適応していた。

 

「(ようし…)」

ドリフトしてアウトに膨れていくRZ34。目の前にはコーナー出口のドリフトラインが見えたかとお神酒や視界から消えた。

カウンターを当てていたハンドルをすっ、とニュートラルに戻し、ドリフトラインを踏みつけたと認識した瞬間にアクセルを全開に踏み込んだ。

 

「―――――!!」

判定…「Excellent -0.23m」。

ほぼ適正とも言える位置で踏み込んだことで、RZ34は電光石火の如くぐん、と加速していく。

ドリフト時は160キロ台だったRZ34は、そのストレートで200キロ近くまで加速する。

左サイドに見える湖畔が物凄い速度で動いていくのが、時雨でもわかった。

 

「(やっぱりこの車はすごい…ほんの少しコーナーを攻めただけで凄さがわかる!)」

その刺激はハッキリ言えば時雨にとってかなり強烈なものだった。

ワンエイティだったら160キロまで加速するのもそれなりの長いストレートが必要だったはずではあるが、このRZ34はその暴力的な…正しく怪獣のようなスペックで短いストレートでも加速していく。

9速オートマチックミッション。このRZ34はニトロを使っていない事もあって6速部分までしか使っていないようだ。

超加速寄りのセッティングが施されているとはいえ、この車の限界はニトロを使う事で真の限界が見える…ニトロを使っていないこの車は、まさしく鎖を付けられた怪物だった。

だがそれでもその怪物は時雨のワンエイティなど敵ではない程の高性能。

一歩間違えればどこへ飛んでしまうかわからないマシンを、時雨はハンドルを握ってアクセルを踏み込むことで何とか制御出来ていた。

 

「(第2コーナー…っ!)」

第2コーナーの右ロングコーナー。

手前でブレーキをかけ、ハンドルを右に曲げる。

だが、ここで時雨はある動作をする事を忘れてしまっていた。

 

「(左に振り返してない!)」

アウトコースの逆方向コーナー…つまり左レーンの右コーナー、または右レーンの左コーナーである場合、フェイントモーションを使ってドリフトしていくのが時雨のやり方だった。

時雨はそのやり方を間違え、しまったと思った。

この車の本領をまだ完全に把握していない以上、フェイントモーション抜きでアウトコースのドリフトはリスクがあるのでは?そう思ったのである。

まずはあくまで今までのやり方でタイムを削っていく…そう思っていたが、実際はブレーキングドリフトに成り下がろうとしていた。

速度が150キロを示したところで、アクセルを踏み込んでテールスライドさせる。

 

「(っ…!)」

160キロ以上という猛烈な速度でドリフトしていくRZ34。

だが、時雨の予想に反してRZ34はアウトに膨れることなくコーナー内側のラバーポールまでノーズを近づけてドリフトしていく。文字通りのインベタだった。

だがそれでもタイヤは地面に食いつき続けている。

ドリフトの中、ハンドルを左に切り返してカウンターを当て続ける。

底知れぬRZ34の実力を、時雨は開眼させようとしていたのだった。

そしてあっという間に、ヘッドライトが照らしていたコーナー出口のドリフトラインが視界から消えた。

慌ててハンドルをニュートラルに戻し、アクセルを抜く。

そして態勢を整えつつある中、RZ34の前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間に再びアクセルを踏みつけた。

 

「(なんという性能なんだ、この車は…!)」

第2コーナーと第3コーナーの間のストレートを、アクセル全開で踏み込む。

先ほどのコーナーの出口を170キロで抜けたRZ34はストレートで、猛烈な勢いで加速していく。

今までフェイントモーションをしないと抜けられないと思っていたコーナーが、必要最小限の振り返しでも脱出できるようになっている。

それほどまでこの車の性能が高いのが、時雨でも理解できた。

第1コーナーの時点で理解をしていたつもりだったが、それでもロングコーナーでも同じようなスペックを発揮できるなど思っていなかった。刺激があまりにも強すぎるのだった。

だがそれでも時雨はアクセルを抜くつもりは一切なかった。

何せこの車で戦う事でようやく互角と思われる「皇帝」のGT-R。

ここで止まったらその幻影は絶対に追いつけない。

そう思った時雨はアクセルをただただ踏み続けた。

速度計は200キロ台を出していた。

目の前には第3コーナーの左ショート直角コーナーが迫る。

ヘッドライトがコーナーを照らした瞬間、時雨はアクセルを抜いてブレーキをかける。

 

「―――!」

ブレーキをかけ、リリースしたところでハンドルを左に切る。

テールスライドを始めたRZ34をコントロールするべく、ドリフトライン上でアクセルを踏みつけた瞬間にハンドルを右に切り返す。

コーナー上のレールをグラインドするかのようにRZ34はドリフトしていく。

そしてまるで多角形を描くかのようにRZ34はコーナーの中間を突破する。

ドリフトしたRZ34の目の前に、100mに満たないストレートと第4コーナーが現れる。

カウンターを当てていたハンドルをニュートラルに戻し、アクセルをニュートラルに。

そしてRZ34の前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間に再びアクセルを踏みつける。

170キロ台でドリフトしたRZ34は、再び180キロ台まで立ち上がる。

ハッキリ言ってこの速度で走り抜けてタイヤが食らいついているのも異常と言えば異常だった。

だがそれでも目先の目標を追いかけてアクセルを踏み続ける事はやめない。

第4コーナーの右直角コーナーがあっという間に迫る。

 

「(今度は…)」

流石にフェイントモーションを使った方がいいだろう。

マシンに振り回されず、自分のやり方を貫く。

そんな思いを持ちながら、時雨はハンドルを少しだけ左に曲げた。

コーナーのアウト寄りにノーズを向けるRZ34…フェイントモーションのお膳立ては出来た。

 

「(上手くやる!)」

アクセルをリリースしてブレーキを軽くかけ、荷重をマシンの前方へ。

そしてRZ34がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込み、ハンドルを右に切り返す。

 

「(…曲がりすぎてる!?)」

フェイントモーションを使う事で舵角が付きすぎたRZ34。

豪快なアウトインアウトのラインを描き、ラバーポールをなぎ倒す寸前でハンドルを左に切り返すことで何とか接触は免れた。

だが、明らかにオーバーステアの状態だった。

パワーの有り余るFR車両である以上、アンダーステアが生じるのは分からなくないだろうが、この車はスペックがあまりにも良すぎた為かそれともハンドルを曲げすぎた為かオーバーステアが発生してしまったのであった。

ともあれ接触寸前で立て直したRZ34。

早めにカウンターを当てる事で、何とか道路と水平向きに速めに立て直すことに成功する。

そしてアクセルをリリースしてハンドルを完全にニュートラルにしたところでコーナー出口のドリフトラインを踏みつけ、再びアクセルを踏みつける。

そしてアクセルを踏みつけた瞬間、あるものが時雨には見えたのだった。

 

「見えた…!」

トンネルの中の第5コーナーをドリフトしようとしているFC3S。そう、マサヤの車だった。

5秒差あったタイム差はあっという間に1秒近くまで迫っていた。

 

「さーて、あと少し…んっ!!?」

一瞬、FC3Sのバックミラーが銀色に光ったように思えた。

まさか本当に追いついてきたのか?

だとしたらあのRZ34はなんというスペックを持っている事か?

だが、そう思いつつ第5コーナーを立ち上がり、トンネルを抜け出そうとしたその瞬間だった。

 

「うおおおおおっ!?」

後方から突風のようなものを感じた瞬間、後方から真横をRZ34が強烈な勢いで立ち上がっていった。

コーナーを立ち上がってストレートで加速していたこちらの速度は120キロ台。

それでいて自分が動揺する程の猛烈なスピードでRZ34は立ち上がっていった。

間違えなく相手は180キロ以上は出ていると思われる。

そしてその勢いのまま、第6コーナーである左直角コーナーをRZ34はブレーキを一瞬したかと思いきやそのままの速度でドリフトして立ち上がっていった。

自分のFC3Sではとてもできそうもない速度で、相手はコーナーを立ち上がって一気に突き放すのだった。

自分をあっという間に追い抜いたRZ34はそのまま第6コーナーの先に消え、完全に振り切られたのだった。

 

「や、ヤバすぎる…」

猛烈な勢いで追い抜かれたマサヤは、あっさりと白旗を挙げるのだった。

 

―――勝者、時雨。

RZ34とFC3Sのタイム差は、FC3Sの5秒先行スタートにも拘らず2秒近くのタイム差を付けていたのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第一土ノ湖峠、復路スタート地点駐車場。

 

「ヒュー!やっぱ強いねえキミたち!俺っちも強くなったつもりだったんだけどな…パワーはともかく、ドラテクでも完敗さ!」

駐車場で横並びの状態で停車した上で、マサヤが時雨に話しかけた。

 

「…そうかな。僕、このRZ34に乗らされていなかったかな…?」

時雨はマサヤにどこか自信なさげに質問した。

するとその言葉にマサヤは激励の如くこう言うのだった。

 

「ノン!ノン!時雨ちゃんは十分速かったよ。あの超ノリノリな走りは、車に振り回されていたら絶対に出来ないって!この調子で皇帝、ガッツリ倒しちゃいな!ガ・ン・バ・レ!」

「…ありがとう。頑張るね」

「頑張って、必ず倒してみせるわ!」

マサヤの激励にどこか自信を得たかのように時雨は言い、奈美子も皇帝を倒すことを誓うのだった。

激励を受けた2人は再びRZ34に乗り込み、次の特訓相手の元へと向かっていく。

 

 

 


 

 

 

時雨たちは特訓の続きで、そのまま第二土ノ湖峠復路スタート地点の駐車場へと向かった。

そしてそこにいたのは、グラサンを付けた長髪の情報通の男…スローハンドのシゲルと愛車のGC8インプレッサだった。

GC8乗りの男が腕組をし、RZ34から降りた2人を待ちわびたかのように話しかける。

 

「待ちわびたぞ、時雨嬢、ナビ子嬢。まずは兄との再会、おめでとうと言っておこう」

どうやら既に皇帝が奈美子の兄であるという情報は既に彼の耳にも伝わっていたようだ。

 

「ありがとう…さすがチームで一番の情報通、全てはお見通しなのね」

感謝の言葉をシゲルに伝えた奈美子。

それに対しシゲルは言葉を続けた。

 

「皇帝の正体がお前の兄だと分かった時はさすがに驚いたが。彼は正式販売前のGT-Rに乗っている以上、性能が未知数とはいえとてつもなく速いのは間違えない。生半可な腕では到底勝てんぞ…」

するとその言葉に対して時雨がこう言うのだった。

 

「それはわかってる…でも、奈美子の兄さんを取り戻すためには、僕達は勝つしかないんだ!」

時雨は「何が何でも勝ちに行く」という闘争心をむき出しにするかのようにそう断言した。

するとそれを見たシゲルは、時雨の心意気を認めるかのようにこう言うのだった。

 

「いい覚悟だ、早速始めよう。ハンディキャップは5秒だ…準備しろ!」

シゲルの言葉に軽く頷いた時雨は、奈美子共々再びRZ34に乗り込んでスタートラインへと移動していく。

そしてそれと同時にシゲルもインプレッサに乗り込みスタートラインへと移動する。

 

◇ ◇ ◇

 

―――vsスローハンドのシゲル

推奨BGM:TAKE THIS FIRE(from EUROBEAT BLAST Vol.2)

 

コースは第二土ノ湖峠復路。

左レーン、GC8インプレッサ。右レーン、RZ34。

第二土ノ湖峠は湖畔からスタートし、分岐して再び湖畔の方向に戻ってくるというルートを取っている。

復路はスタート直後、右の高速コーナーがあるが、それを抜けた瞬間には次の右のヘアピンコーナー。

そしてヘアピンが連続するように左ヘアピンコーナーが存在する。ヘアピンを抜けた直後はストレート。T字路を左に曲がるように直角左コーナーを駆け抜けたかと思いきやトンネル。トンネルに入って少しところで右の直角ロングコーナー、トンネル出口付近のストレートを抜けたところで左ヘアピンコーナー、立ち上がってすぐに右ヘアピンコーナー。そしてヘアピンカーブを抜けたところで左の高速コーナーを抜け、最終ストレートを立ち上がるとゴールとなる。

全8つの高速コーナーからヘアピンまで網羅されている難易度の非常に高いレイアウトであり、やはりこちらのコースも第一土ノ湖峠に負けず劣らずのパワーとテクニックが要求されるコースとなっている。

そしてやはり案の定ハンディキャップが存在するのだった。

 

「よし…行くぞ!」

スタートダッシュで加速していくGC8インプレッサ。そのまま第1コーナーの高速コーナーへと突入したのだった。

 

「―――」

カーナビに5秒前の数字が表示される。

時雨はアクセルを踏み込み、エンジン回転数を上げる。

1万1000回転を記録したところでアクセルを抜き、再び調整する。

青ランプが表示されるようにアクセルを調整するのだった。

そしてその調整の中で、カウントは間違えなく始まっていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!!!」

ギアをDレンジに入れ、一気にロケットスタートを決めるRZ34。第3コーナーをドリフトして抜けたGC8インプレッサを追いかけ、アクセルを全開に踏み込む。

スタート直後のストレートを全開で駆け抜けると、目の前には第1コーナーの右高速コーナーが迫る。

 

「(…っ!)」

アクセルをリリースし、ハンドルをくいと右に曲げる。

180キロまで加速していたRZ34のリアが一気に滑り出す。

ドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間にハンドルを左に切り返してアクセルを踏み込む。

カウンターを当てたRZ34は180キロ台のという猛烈な速度でドリフトしていく。

だが、ドリフトしているのは短い高速コーナー。ものの1秒もしないうちにコーナーをあっという間に過ぎてしまうRZ34の速度に対して、時雨はドリフトライン直前でアクセルを抜いてカウンター態勢から通常走行に映ろうとハンドルをニュートラルに戻す。

そしてコーナー出口のドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏み込む。

だが、アクセルを踏み込んだところですぐに次のコーナーが迫る。

パーシャルスロットル程度ではあるがRZ34は抑え目ながらも加速し、次の右ヘアピンコーナーが迫る。

 

「(右から左へ一気に曲げていけば…)」

パワー有り余るこのRZ34であれば、2つのコーナーを1つの複合コーナーと見立ててしまう事も可能なのではないか。

そう時雨は思った。

RZ34をフルブレーキで減速させ、ハンドルを右に曲げる。

ブレーキングからテールスライドを始めたRZ34。

ドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを踏み込み、更にタイヤを空転させる。

空転と共にハンドルを左に曲げ、カウンターを当てながらRZ34のノーズをコーナーのインに近づける。

白煙を上げながら170キロ台から180キロという速度でドリフトしていくRZ34。

ヘアピンコーナーの中間を抜け、コーナーの出口に差し掛かる。

 

「(カウンターを当て続けた状態で…)」

ハンドルを左に切ったままの状態でアクセルをリリースする。

そして前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏みつけた。

 

「―――!」

失速を抑えた状態で加速するRZ34。

カウンター状態からドリフトの反動を活用し、一気にマシンが左に曲がっていく。

マシンの重心が左後方から右後方へと移る中、RZ34は加速する中でタイヤのグリップを回復させる。

第3コーナー入口のドリフトライン前でハンドルを曲げたままアクセルオフ、そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間に再びアクセルを全開で踏みつける。

こうすることで切り返してRZ34は左ヘアピンコーナーを一気にドリフトしていく。

走行レーンの左端のラバーポールにノーズを接近させ、ハンドルを右に切り返してカウンターを当てながらそのままの速度でアウトインアウトの走りでコーナーをドリフトしていく。

 

「(…ストレート!)」

ドリフトしてカウンターを当て続ける中、目席にはショートストレートが見える。

コーナー出口のドリフトライン寸前でアクセルを離し、視界からドリフトラインが消えた瞬間にアクセルを再び踏みつけて立ち上がっていく。

コーナーを駆け抜けたRZ34は立ち上がりで一気に加速し、200キロまで立ち上がっていく。

 

「―――!!」

目まぐるしい速度で周りの光景が変わっていくのが時雨でもわかった。

だが、アクセルから足は離さない。

本気の走りをしないとあのインプレッサには追いつけない…そう思いながら、アクセルを全開に踏み込み続ける。

目先には第4コーナーの直角左コーナー…T字路と橋の上をまたぐように存在するようなそれが見える。

 

「(第4コーナー…ここは無難にブレーキングで!)」

時雨はあえてフェイントモーションをせずにドリフトする事を選択した。

直角コーナー位であればこの車のパワースライドやブレーキングドリフトで何とかなる事を先ほどまでの第一土ノ湖峠でのバトルで把握したからだ。

ブレーキをフラッシュさせ、突っ込み気味に第4コーナーへ突入する。

ハンドルを左に切り、前輪がドリフトライン上でアクセルを踏み込んでテールスライドさせる時雨。

直ぐにハンドルを右に切り返してカウンターを当てながらドリフトしていく。

交差点をドリフトするように駆け抜けたRZ34はそのまま橋の上へ。

ドリフトラインが続く中、ハンドルを右に少し…30度程だけ切り続けて最小限のカウンターを当てながらアクセルを踏み続ける。

 

「(…ここだ!)」

ドリフトし続ける中で視界に映ったドリフトラインが死角へ入る。

そしてその瞬間にアクセルをリリースしてハンドルをニュートラルへ。

慣性に任せながらRZ34はアウトインアウトのラインを描き、コーナーの外側へ膨れる。

そして前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを再び踏みつける。

後輪から一気に加速を得たRZ34はまるで地面を蹴り出すような勢いで立ち上がっていく。

トンネル入り口からトンネル内部まで、速度は180キロから速度は190キロ台まで加速する。

そして立ち上がる瞬間、あるものが時雨には見えた。

 

「(インプレッサ…!)」

標的であるGC8インプレッサが第5コーナーをドリフトしていく姿が時雨には見えた。

だが、そのドリフトしていく姿は明らかに自分のマシンよりも遅い。

自分がこのRZ34を乗りこなせていれば間違えなくオーバーテイクできてしまうだろう。

そんな速度だった。

 

「(最終コーナーとまで言わず、残り2つか3つで追い抜く!)」

最後のストレートまでとは言わず、残っているコーナーでぶち抜く。

そんな心意気でトンネル内の右直角コーナーへとRZ34を突っ込ませていく。

 

「(―――!)」

ブレーキをかけ、190キロ台だったRZ34を170キロ台まで減速させる。

そして減速する際中にハンドルを右に切り、テールをスライドさせる。

そしてテールスライドを始めようとした瞬間…まさしくRZ34の前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込み、タイヤを空転させることでRZ34をドリフトさせていく。

カウンターを当てながらドリフトしていくRZ34は白煙を上げながらインベタの状態となり、コーナー内側の壁とは隙間15cmほどまで迫る中で徐々に加速していく。

先行するGC8インプレッサはあっという間に近づいていく。

 

「(もう追いついてきたのか…!?)」

シゲルは動揺するしかなかった。

スペックがとんでもなく高いとはいえ、まさか本当に追いついてくるとは。

GC8インプレッサは第6コーナー直前でドリフトしようとしていた。

圧倒的なスペックを持つ相手に対してこちらが出来るのは、とにかくなるべく早い速度でコーナーを攻め込むことだけ。

第6コーナーである左ヘアピンコーナーをゼロカウンタードリフトで何とか脱出するも、後方のRZ34はコーナーを立ち上がって一気にくらいついてきた。

 

「(抜かれる!?)」

ヘッドライトがバックミラーに映ったかと思いきやあっという間に消え、白銀に輝くそのマシンはあっという間にインプレッサの右サイドに並んでサイドバイサイド…かに思えたが、向こうの立ち上がりによってあっという間にオーバーテイク。

速度はこちらが130キロ台に対し向こうは間違えなく180キロ以上は出ている。

だがそんな2台の前に第7コーナーの右ヘアピンコーナーが迫る。

 

「(曲がる、のか!?)」

「(…曲げる!!)」

シゲルが一瞬恐怖を感じるほどの速度。ブレーキをかけ、そのままの勢いでハンドルを一気に右に切る時雨。

速度は190キロ台から170キロ台まで減速させ、テールスライドする中でアクセルを全開に踏み込んでドリフトしていく。

一方のインプレッサは110キロ台まで減速させる。

明らかにRZ34のスペックが高すぎる事が露呈した瞬間であった。

170キロ台まで落ちたRZ34はそのままの勢いで走行レーン上にあるレールをグラインドするかのごとく綺麗な弧を描き、ヘアピンコーナーを駆け抜ける。

そしてコーナー出口でドリフトを止めたかと思いきや、再びアクセルを踏み込んだことでRZ34はもはや爆発するかのような勢いでコーナーを立ち上がって加速していった。

RZ34はまるで光の軌跡を描きながらインプレッサをあっという間に突き放すのだった。

 

「―――まさか、ここまでとは」

第7コーナーを立ち上がったインプレッサだったが、速度差もあってあっという間にRZ34には振り切られた。

もはやボクシングで言うと明らかに階級違いの相手と自分は戦っている…そうシゲルは思わざるを得なかった。

RZ34はそのまま最終コーナーの左高速コーナーもほぼ減速せずにドリフトし、颯爽と最終ストレートを駆け抜けてゴールするのだった。

ハンディキャップ戦は時雨が見事に勝利し、そのタイム差はなんと2秒もあった。

言わずもがな時雨の完封勝ちだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第二土ノ湖峠往路スタート地点駐車場

 

バトルを終えて車から降りた時雨と奈美子に、同じく車から降りたシゲルが話かける。

 

 

「流石だ…以前よりはるかに腕を上げたようだな」

「…ありがとう。僕なりの精いっぱいで走ったけど、どうだったかな」

また時雨は自信なさげにそう質問した。

 

「ハンディキャップを覆すほどの実力を持っている以上、お前の走り自体は悪くはない…しかし言う間でもなく皇帝の車はとてつもなく速いと聞く。絶対に油断はするな」

シゲルはアドバイスをするようにそう言うのだった。

 

「ありがとう。頑張るね」

「皇帝とも、全力でバトルするわ!」

時雨も奈美子も、シゲルのアドバイスに対してそれぞれ答えるのだった。

 

シゲルからのアドバイスを受けた時雨は、奈美子共々再びRZ34に乗り込んで次の相手とのバトルへと赴く。

 

 

 


 

 

 

 

 

―――第一土ノ湖峠、往路スタート地点駐車場。

シゲルとの戦いの後再び何戦か特訓を行った時雨と奈美子は、再び第一土ノ湖峠に戻ってきた。

次の幹部と戦う為である。

第一土ノ湖峠往路スタート地点の駐車場に入ると、そこには顔をよく知る職人風の男が、愛車であるランエボⅤの横で立っていた。

ランエボⅤの前にRZ34を止め、車を降りた時雨と奈美子が話しかける。

 

「ゲンさん!」

「次の相手なんだね…」

奈美子と時雨から声を掛けられた男は、感謝の意を込めてこう言葉を口にした。

 

「時雨さん、奈美子さん。あんときは本当にお世話になったな…」

「トーコさんもとても喜んでいたわ。改めて、再会できてよかったですね!」

男の感謝の言葉に、奈美子も「本当に良かった」と言わんばかりに返事をした。

すると男はどこか決意するようにこう言うのだった。

 

「恩返しって訳でもないが、練習相手位なら務まると思ってな。ワシを踏み台にして『皇帝』に辿りつけ!」

そしてその言葉に、時雨はこう言い返すのだった。

 

「ありがとう…僕達、皇帝に辿り着いて…必ず勝ってみせます!」

そして時雨の言葉に、ゲンはこう言うのだった。

 

「うむ、良い反応だ…ハンディキャップは4.5秒だ!全力でかかってきなさい!!」

ゲンの言葉に頷いた時雨は、奈美子共々RZ34に乗り込んでスタートラインへと移動していく。

そしてそれを追うようにゲンのランエボⅤもスタートラインへと移動する。

 

 

◇ ◇ ◇

 

―――vsリズムマシーンのゲン

推奨BGM:SHOCK WAVE(from EUROBEAT BLAST vol.1)

 

 

コースは第一土ノ湖峠往路。

左レーン、ランエボⅤ。右レーン、RZ34。

 

「さあ、逃げさせてもらうぞ…!」

スタートダッシュを決めて加速していくランエボⅤ。

その姿はまさに遠くに逃げていくかのようだった。

 

「……」

先行していくランエボⅤのテールライトを見届ける時雨。

その中でもアクセルを何度か踏み込んでエンジンを回転させる。

自分の本気を出して、確実に相手に食らいついていく。

そんな思いを抱く中、カーナビのカウントが始まろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!!」

ギアを切り替え、アクセルを全開に踏み込む時雨。

エンジン回転数8000回転でロケットスタートを決めたRZ34は瞬く間に180キロまで加速していく。

既に視界から消えていたランエボⅤを追いかけ、ハンドルを握ってアクセルを踏み続ける。

目の前には左高速コーナーが迫る。

 

「(…今だ!)」

ヘッドライトからドリフトラインの黄色線が消えた瞬間にアクセルをリリースしてハンドルをくいと左に曲げる。

パワースライドに任せるかのようにRZ34は一気に左にノーズを向け、テールスライドを徐々に始める。

そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開にしてカウンターを当てる。

ハンドルを右に切り返したRZ34は道路中央のラバーポールにべったりと言ってもいいレベルで接近し、そのままドリフトしていく。速度は170キロ台を維持している。

 

「(前よりも速くなってる…?この短い時間でこんなにも速くなれるの!?)」

奈美子は時雨の適応力の速さに驚愕するしかなかった。

それくらい時雨のドリフトは短時間で磨きがかかっているのだ。

幾ら慣らし運転をしているとはいえ、標的がいる事でさらに速くなっているように…

そう奈美子でも思わざるを得ない程、時雨のレベルアップの速さが速すぎるのだ。

そしてそう思っているうちにRZ34はコーナー出口のドリフトラインを踏みつけ、テールスライドから回復して再び加速していく。

湖畔の道路を170キロ台から200キロ台まで一気に加速する。

 

「(わかっていても、周りの景色の速さが今までの数倍速く感じる…!)」

奈美子自身ここまで来るとは思っていなかった。

そう思わざるを得ない程周りの速度の速さが速く感じる。

ストレートを3秒もしないうちに駆け抜け、目の前には右ロングヘアピンコーナーが迫る。

 

「(―――!!)」

ブレーキをかけ、若干減速してハンドルを右に曲げる。

テールスライドを始めようとしていたRZ34の前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを踏みつけ、タイヤを空転させながらドリフトしていく。

白煙を上げながら180キロ以上の猛烈な速度でドリフトしていくRZ34。

そのドリフトする姿はさながら光の軌跡を闇夜に描いていた。

コーナー内側にベタベタに張り付き、引き離さない。

まるで吸着しているかのようにRZ34はコーナーの内側をインベタの状態でドリフトしていく。

先行するランエボⅤとの距離を猛烈な勢いで詰めていく。

そしてコーナー出口でインベタの状態から走行レーンの中央に移る中でアクセルをリリースしてハンドルをニュートラルに戻し、前輪がドリフトライン上で再びアクセルを踏み込む。

立ち上がりの加速を得たRZ34は一気に加速していく。

 

「(…見えた!)」

RZ34が第2コーナーを立ち上がる時点で、第3コーナーをドリフトしていくランエボⅤの姿がRZ34のヘッドライトによって一瞬だけ映った。

ランエボⅤは既に第3コーナーに突入していた。

時雨自身、そのRZ34を追いかけ続けるべくアクセルを全開に踏み込む。

ストレート区間でRZ34は200キロオーバーを記録する程まで加速していく。

その姿はさしずめ獲物を追いかけるドーベルマンのようだった。

 

「(…さて)」

一方の第3コーナー、第4コーナーを抜けたランエボⅤ。

第3コーナー、第4コーナーの左直角、右直角コーナーを抜けたランエボⅤはそのままトンネルに向けて加速していく。

速度計は130キロを示し、兎に角逃げていくべく加速する。

だが、トンネルに入ったその瞬間だった。

 

「―――!!」

後方のバックミラーが光る。

白銀のRZ34が獲物に食らいつくべく猛烈な速度でこちらに迫ってきているではないか。

まさか、もう追いつかれたのか?

だがそう思った次の瞬間だった。

 

「うおっ…!?」

後方に存在を確認した瞬間、そのRZ34はあっという間にランエボⅤを右サイドからオーバーテイクしていった。

その速さはさながら超音速で駆ける物体そのもの。

あっという間にトンネル内でオーバーテイクしたRZ34は、そのままの勢いで第5コーナーへと突入する。

 

「(そんなスピードで、曲がるのか!?)」

ゲンにとってはあまりにも異次元すぎる速さだった。

自分の目では追いかけるのが精いっぱいな程のスピードで、あのRZ34は走り続けている。

そして次の瞬間だった。

 

「!!」

ブレーキをフラッシュさせた次の瞬間にはリアタイヤをスライドさせていくRZ34。

直角コーナーを猛烈な勢いで走っても何のそのと言わんばかりのスピードで白煙を上げてドリフトする。

自分がインコースであるにも関わらず、先行するRZ34はテールランプによる光の軌跡を描きながらあっという間に第5コーナーの先へと消えた。

ゲンは負けを悟り、アクセルを離すのだった。

 

「ここまで、成長するとは…」

運転席でゲンはそう呟くのだった。

 

「―――ようし」

最終ストレートを駆け抜け、ゴールするRZ34。

その間時雨にはどちらかと言えば安堵の表情が浮かんでいた。

速く走る事うんぬんより、追い抜くことに必死になっていたのだ。

そして結果として時雨はランエボⅤを物ともせずに余裕でオーバーテイク。

タイム差としては4秒以上という圧倒的な勝利だった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第一土ノ湖峠復路スタート地点駐車場

勝った時雨と奈美子に対し、車を降りたゲンはこう言うのだった。

 

「ワシの完敗だ…実はドライバーを引退する前にもう一度お前たちとバトルしたかったんだ。だがここまで圧倒された以上、もう思い残すことはない…」

するとその言葉に、時雨が疑問を持ったかのようにこう言うのだった。

 

「え…ゲンさん、走り屋を辞めるんですか?」

「ああ、もうヤメだ。足を洗ってこれからは、トーコの店を手伝おうと思ってな…」

「そうなんですね…」

「素敵じゃないですか!必ずお店に顔出しますね!」

奈美子が応援するようにそう言った。

 

「そうか、ありがとう…次の相手も油断せずに行くんだぞ!」

「ありがとう…頑張ります」

ゲンからの激励の言葉を受けた時雨は、再び次の戦いへと足を運ぶのだった。

 

 

 


 

 

 

―――第二土ノ湖峠復路スタート地点駐車場。

何戦か行った後に第二土ノ湖峠にやってきた2人の前に待ち構えていたのは、サングラスを付けた金髪のあの胡散臭い男と愛車S2000だった。

奈美子と時雨がRZ34から降りて男に話しかける。

 

「あなたは…」

「サトウ!」

「ハロー!オヒサデース!ユー達があれほどどれだかストロングになったか、見せてもらいマース!かかってキナサーイ!」

するとどこか奈美子はウザそうにこう返事するのだった。

 

「いいわ!あんたも今日は正々堂々と勝負しなさいよ!?」

するとその言葉にサトウはどこか茶化すようにこう言うのだった。

 

「オー、ミーが一度でも卑怯な振る舞いをした事が?アウト・オブ・ハート、心外デース!…ってあら?」

「ん?」

そう言ってサトウがポケットから取り出したのは、一台のスマホだった。

 

「これは一体…ホワット・イズ・ディス?」

奈美子と時雨に見せびらかすようにサトウが見せる。

時雨はスマホを持っていない。となると持ち主は…

 

「え…?それ、私のスマホじゃない!ちょっとサトウ、あんたいつの間に!」

「ちょっと!返しなよ!」

するとそれを待っていたと言わんばかりにサトウは言葉を続けた。

 

「ウホッ!どうやら今度はメンタルシェイク、成功のようデース!返して欲しければ、バトルデース!!」

サングラスをかけていてもサトウは明らかににやにやしていたのがわかった。

 

「時雨!お願い、勝って!勝って絶対、ぜーったい取り戻して!!」

「う、うん…わかった」

焦る奈美子に対して時雨は殆ど動揺せずに落ち着いていた。

すると時雨に対してサトウはこう言った。

 

「ハンディキャップは4.5秒!それを乗り越えないとユーたちの勝利はありまセーン!」

「…わかった、始めよう」

サトウの宣言に時雨はただ「わかった」と口にするのだった。

サトウがS2000に乗り込んだ後、それを追うように時雨と奈美子もRZ34に乗り込んでスタートラインへと移動していく。

 

◇ ◇ ◇

 

―――vsアーティスト・サトウ

推奨BGM:HAPPY NIGHT PARA NIGHT(from GREurosound vol.7)

 

左レーン、RZ34。右レーン、S2000。

 

「フフフ、メンタルシェイクも出来たしあとは逃げるだけ…」

ロケットスタートで先行してスタートしたS2000。

マフラーからバックファイアーを出して加速していくその姿は、どこか悠々としていた。

時雨のマシンが速い事は分かっていても、流石に4秒以上あれば追いつけまいと思っているように見えた。

S2000は第2コーナーをドリフトしていく中で、RZ34も発進のカウントダウンが始まろうとしていた。

 

「(ここまでの特訓で大体コースと車がわかってきた…そうである以上、タイムを削るために踏んでいく!)」

時雨は自信が付いたかのようにそう思っていた。

グローブの両手をぐっと握った上で、ハンドルをしっかりと握る。

闘志が両手両足にも伝わるように…時雨はじっとスタート後の第1コーナーを見つめていた。

そしてその中で遂にスタートの時が迫ろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!!」

エンジンを回転気味に9000回転でスタート。

ギアを切り替え、アクセルを全開に踏み込んで加速する。

マシン後方の4本のマフラーからアフターファイアを噴出させながらマシンは一気に160キロ台まで加速する。

スタート直後のストレートでも、マシンのバケットシートに体を押し付けられそうになりながらも時雨はアクセルを踏み続け、ハンドルも握り続ける。

ものの数秒で160キロ…下手をしたら200キロオーバーまで到達しそうなマシンに対し、何とか時雨は操っている状態だった。

スタート直後のストレートを抜けて第1コーナーが迫る。

 

「―――!!」

アクセルを抜いたかと思いきやハンドルをぐい、と勢いよく右に曲げワンエイティを一気にテールスライドの態勢へもっていく。

リアタイヤが滑り出すのと同時…コーナー入口のドリフトラインをRZ34の前輪が踏みつけたのと同時にアクセルを踏みつけることで後輪を空転させ、ノーズを右に曲げる。

そしてノーズをコーナーの出口と同じ向きになった瞬間にカウンターを当てて、そのままコーナーの出口までドリフトしていく。

 

「(―――!)」

コーナー出口が迫る中でアクセルをリリースし、ハンドルをニュートラルに。

そしてコーナー出口のドリフトラインで再びアクセルをハーフスロットルまで踏みつける。

如何せん第2コーナーと第3コーナーはどちらもヘアピンカーブ。

変にスピードを出すことは出来ない事は時雨もよく認識していた。

 

「(―――っ!!)」

立ち上がった瞬間ハーフスロットルをすぐにリリース。

それと同時にブレーキを左足で踏んでRZ34を減速させる。

立ち上がりで180キロだったRZ34は150キロまで減速する。

ワンエイティの時とはあまりにも違いすぎる速度でコーナーが迫る。

 

「(!!)」

ブレーキをリリースしてハンドルを右に曲げ、RZ34のリアが再びテールスライドを始める。

テールスライドと共にアクセルを踏み込み、カウンターを当てるべくハンドルを右から左へと切り返していく。

RZ34はコース中央のラバーポールにノーズを接近させ、リアタイヤから白煙を上げながら150キロ以上の速度でドリフトしていく。

ハンドルを切り返した事でRZ34は徐々にカウンターを当てられることになり、ラバーポールとの隙間10cmをドリフトしながら駆け抜けていく。

ヘアピンコーナーを抜けると、すぐ次の左ヘアピンコーナーが迫る。

 

「(このまま!)」

ハンドルを左に曲げたままの状態でアクセルをリリースする。

カウンターを当て続けた状態のRZ34はドリフト状態を維持していく。

そしてコーナー出口のドリフトラインではパワースライドを引き起こさないように少しだけアクセルを踏む。

パワースライドを防止するべくアクセルを全開には踏み込まず、アクセルを少しだけ踏み込んでRZ34を立ち上がらせる。

アクセルを抜いたことでリアタイヤはグリップを回復していた。

そして立ち上がった瞬間、目の前には左ヘアピンコーナーが迫る。

 

「―――!」

RZ34が第3コーナーのドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを少しだけ踏み込んた状態から全開までアクセルを踏み込む。

押さえていた力がタイヤに伝わるようにリアタイヤが空転を始め、RZ34が再びテールスライドを始める。

テールスライドを始めたRZ34は一気にコーナー内側にノーズを寄せていく。

白煙を上げてドリフトしていく中で時雨はハンドルを左から右に切り返し、カウンターを当てる。

ドリフトしていく中でもRZ34はマシンの加速を止めなかった。

きついコーナーであるはずのヘアピンをインベタの状態でドリフトしていく。

コーナー中間のクリッピングポイントを抜けたところでRZ34はアウトへと徐々に膨れていく。

その時点で時雨はアクセルを抜いてハンドルを徐々に左からニュートラルに戻しているのだった。

 

「……っ!」

アクセルをリリースしたRZ34は徐々に膨れながら、コーナー出口でラバーポールとの隙間20cmという合間を生みながらニュートラルの状態に戻っていた。

目の前に見えるストレートを目掛けるかのように、前輪がコーナー出口のドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏みつける。

地面を蹴り出すようにRZ34は加速し、160キロ台から190キロまで加速していく。

ニュートラル状態…つまりドリフトしていない状態でアクセルを全開に踏み込んだことでRZ34はストレートを疾駆する。

 

「(……あれは!)」

ストレートでアクセルを全開で踏み込む中で、時雨の瞳には右レーンを走るGT-Rの姿があった。

ワンエイティでは全くもって歯が立たなかったはずの幻影。

だがRZ34をに乗る事でその幻影には確実に食らいついていた。

ストレートでも加速や最高速度でも負けない、互角の勝負が出来ている。

コーナーでも振り切られなかった以上、何とか食いつけて入るようだ。

だが、まだ足りない。追いついても追い抜けなければ負けなのである。

それでもワンエイティの時よりかは追いつけているような感覚にあったのは間違えなかった。

 

「(―――追いつくんだ。あの、皇帝の幻影に!)」

GT-Rを追いかけながらRZ34は第4コーナーの左直角コーナー入口のドリフトラインを踏みつける。

アクセルオフからブレーキをフラッシュさせて左にハンドルを曲げ、再びアクセルを全開で踏み込んでテールスライドさせる。

ハンドルを右に切り返した状態の中でドリフトしていくRZ34は、間違えなくGT-Rのインについている。

直角コーナーを170キロ以上の速度でドリフトし、幻影のGT-Rとはサイドバイサイドの状態にあった。

インコースでRZ34はGT-Rよりノーズが先に出る。

 

「(行け!!)」

ハンドルをニュートラルに戻し、アクセルをリリースしてRZ34のタイヤをグリップさせる。

そしてコーナー出口のドリフトラインを踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏み込む。

160キロから180キロまでRZ34は加速していく中で、幻影のGT-Rもほぼ同じ感覚で加速しているのが時雨には分かった。

幻影のGT-Rは離れず食いついているのがわかる。

トンネルの中に入り、RZ34と幻影のGT-Rがテールトゥノーズの状態で、時雨にはあるものが見えた。

 

「(S2000…第6コーナーで追いつける?)」

本来の対戦相手であるS2000は第5コーナーをドリフトしていた。

幻影のGT-Rも大切だが、それ以上に本来の相手であるS2000の方が時雨にとっては優先事項である。

時雨はバックミラーを見る事をやめ、前を走るS2000に追いつかんと意識を前方へと切り替えるのだった。

RZ34の前に第5コーナーである右直角ロングコーナーが迫る。

 

「(もう追いついてきた…!?)」

一方のサトウ。

こちらも自分なりの精いっぱいで走っていたが、もう後方のRZ34が迫って来ていたのは分かった。

トンネルの中で左ミラーが光ったのである。

自分が本気を出していてもまさかこうも追いつかれるとは思っていなかった。

第5コーナーを立ち上がり、トンネルの出口へと向かう。

だが、トンネルを抜けてブレーキを踏んだ瞬間だった。

 

「!!?」

後方のRZ34が猛烈な勢いで迫ってくるのがサトウにもわかった。先ほど光ったバックミラーは、既に接近するRZ34のヘッドライトでキラキラと光っていた。

その勢いは、まるで自分を喰らおうとしている鬼のような…いや、まるで悪魔のようだった。

 

「ひぃっ」

その勢いに、コーナーリングを始めようとしていたサトウはすくんでしまった。

あまりの迫力によってブレーキングのタイミングが遅れ、アンダーステアのあまりS2000はコーナーのアウトに膨れてしまう。

何とか態勢を立て直し、ギリギリ壁を接触せずにドリフトさせる。

そして第6コーナーである左ヘアピンをドリフトしているその瞬間だった。

 

「―――!!」

「ウワオッ!!」

正しく突風の如き勢いでRZ34はS2000をあっという間にオーバーテイクしてしまった。

その時間は1秒にも満たない、正しく瞬殺と言ってもよかった。

S2000の速度が120キロ程度だったに関わらず、RZ34は間違えなく160キロ以上は出ているほど…それくらいの勢いでコーナーを駆け抜けたのである。

コーナーのドリフト速度が圧巻でありながら、立ち上がりの速度もとてもS2000が敵うような速度ではなかった。

 

「あ、アンビリーバボー…!」

サトウはそう驚くしかなかった。

立ち上がりでも追いつけるはずもないRZ34に対し、S2000は必死でアクセルを踏み込む。

だがそれでもとても敵う相手ではなかった。

第7コーナーの右ヘアピンをドリフトで駆け抜けたRZ34は、バックミラーから完全にS2000を振り切った。

第8コーナーでは完全に独走状態、そしてそのまま最終ストレートを駆け抜けたRZ34は、完全にS2000を振り切ってゴールするのであった。

 

その差は3秒…タイム差を付けていても文字通りのぶっちぎりの勝利だった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――第二土ノ湖峠往路スタート地点駐車場。

 

車を降りたサトウは完全に感心して褒め称えるかのように、時雨と奈美子を称賛した。

 

「ワンダホー!ミーのウルトラパーフェクトな陽動オペレーションを打ち砕くとは…さすがデース!」

だが、そんな事は正直どうでもよかったかのように奈美子はこう言うのだった。

 

「ど、どうも」

「それより!さあ、早く私のスマホを返しなさい!!…中身は見てないでしょうね!!」

詰め寄る奈美子に対し、サトウはこう言うのだった。

 

「ノンノン、見てまセーン。ユー自作の素敵なロマンチックポエムなんて、全く見てまセーン!!」

「~~~~~!!!」

するとその瞬間、顔を真っ赤にした奈美子からサトウの顔面に強烈なビンタが飛んだ。

皇帝を彷彿させる、何とも爽快な一撃だった。

その一撃を喰らったサトウは自業自得とはいえ、見事なまでに昏倒するのだった。

 

「…時雨、さあ次行きましょう!!」

「う、うん…行こうか」

奈美子の顔は案の定赤面していた。

時雨と奈美子はRZ34と共に次の相手を探すのだった。

 

 

 


 

 

 

 

―――第一土ノ湖峠、往路スタート地点駐車場。

推奨BGM

アーティスト・サトウとのバトルから更に15分後。

時雨と奈美子はハンディキャップのある戦いを何戦もこなし、ついに最後のドライバーである「"天使の咆哮"ジュン」の前に現れていた。

 

「…あとはあなただけだよ。ジュン」

すると時雨の言葉にジュンは覚悟を決めていたかのようにこう言った。

 

「うむ…覚悟はしていたが、もはや我が『ハートビーツ』のメンバーでは敵わなんか…さらに強くなったな、ナビ子、時雨…」

そういったジュンの言葉に対し、奈美子と時雨はお礼を口にした。

 

「ありがとうみんな、特訓に付き合ってくれて…」

「僕達も、少しは速くなれたような気がするよ」

するとその言葉にジュンはこう言葉を継げるのだった。

 

「素直に認めよう、お前たちはもう立派な一流のドライバーだ!この上は、同じく一流であるこの私を…私のニューマシンを見事倒してみよ!!」

すると、ある言葉に時雨と奈美子は反応するのだった。

 

「ニューマシン?」

「ジュン、まさかあなた…乗り換えたの!?」

疑問を持った時雨と奈美子。それを待っていたかのように、ジュンはこう言うのだった。

 

「ああ…一度貴様らと戦った後、あのスープラは廃車になってしまった…だが!それが切欠でニューマシンに乗り換えたのだ!!こっちに来い!」

そう言ってジュンは時雨と奈美子をニューマシンの元へと誘導するのだった。

そして駐車場の端っこの暗闇に止まっていたマシン、それは…

 

「……!」

「これは…!」

「見よ!これが新たなる我が愛車、DB22型GRスープラSZ-Rだああああ!!」

ジュンが新しく用意した車、それは銀色のGRスープラ、SZ-Rだった。

どうやらエアロ部分はあまり手を加えていないようだが、それでもGRスープラである以上スペックは十分だった。

 

「こんな車に…!」

「GRスープラ…!ジュン、この車に乗り換えたのね!」

「うむ!やはり私はあの80スープラの器にある人間ではなかったようでな…あの事故をきっかけに乗り換えたわけよ!」

「そうだったんだ…」

「80スープラの時とこの車に乗っている私は一味も二味も違う!貴様らの力で乗り越えてみせよ!!ハンディキャップは3秒とする…それほどまでに速いという事を忘れるな!!」

 

「…わかった。始めよう」

時雨は戦闘モードに移行するようにそう言うのだった。

ジュンがGRスープラに乗り込んだ後、時雨と奈美子も追うようにRZ34に乗り込んで移動していく。

 

 

◇ ◇ ◇

 

―――vs"天使の咆哮"ジュン

推奨BGM:Let's Make a Song About Eurobeat(from Let's Make a Song About Eurobeat)

 

コースは第一土ノ湖峠往路。左レーン、GRスープラ。右レーン、RZ34。

2台がエンジン音を響かせる中、GRスープラが先行しようとする。

エンジン音を響かせ、GRスープラが先行して発進する。

 

「さあ…貴様らの実力を示してみよ!!」

暗闇の中、銀色の90スープラが先行して発進する。

その速度はこれまでのハートビーツ幹部たちとは違う速さだった。

あっという間にスープラは第1コーナーに突入し、ストレートでRZ34をさらに引き離そうとするのだった。

 

「……」

先行されていても、至って時雨は冷静だった。

どうすれば相手に勝てるのか、そういうメンタルが形成されつつあったのだ。

相手に惑わされず自分の走りをして食らいつけばよい。

そして自分の走りをして相手を凌駕すればよい。

時雨はそう思っていた。

そして自分の走りをする事を心掛けたところで、RZ34のカウントダウンが始まろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

ギアをDレンジに切り替えて、アクセルを全開に踏み込んで加速させる。

RZ34は文字通りのロケットスタートでスタート直後のストレートを加速していく。

その加速はやはりすさまじく、あっという間に180キロまで加速していく。

ストレートを駆け抜けているGRスープラに肉薄するべく、時雨はアクセルを踏み続ける。

そしてそんなRZ34の前に第1のコーナーである左高速コーナーが迫る。

 

「(ここは…!)」

アクセルをリリースし、ハンドルを左に曲げる。

道路中央のラバーポールを目掛けるようにマシンは左に曲がっていく。

そしてコーナー入口のドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間にアクセルを踏み込むことで、リヤタイヤが空転を始める。

空転を始めたマシンはそのままテールスライド、コーナーをインベタと言うべき状態にまでマシンのノーズを走行レーンの内側まで接近させる。

 

「―――!」

180キロという猛烈な速度でコーナーを攻めていくRZ34。

ヘッドライトはラバーポールとコーナーの先を照らしている。

ハンドルを右に曲げてカウンターを当て続ける中で、RZ34のノーズは隙間数cmと言ってもいい程まで寄せた状態でドリフトし続ける。

そんな中でコーナーの出口がRZ34に迫る。

ヘッドライトでコーナー出口のドリフトラインを認識した時雨はハンドルをニュートラルに戻し、アクセルをリリースする。

テールスライドの状態から通常走行に移りつつ、RZ34は走行レーンの中央に車の走行位置を移すのだった。

そして慣性に任せる中、RZ34は前輪をコーナー出口のドリフトラインへ踏みつけた。

 

「(行け…!)」

自分の意志をはっきりさせるかの如くアクセルを全開に踏み込む時雨。

判定…「Excellent +0.23m」。

多少遅けれど、アクセルを全開にして踏み込んだことでRZ34は地面を蹴り出すように一気に加速していく。

加速していくその姿はまさしくロケットの如く。

170キロ台だったRZ34はストレートで200キロ台までスピードを一気に出して加速する。

湖畔のストレート。その力を存分に披露するかのようにRZ34は加速する。

先行するGRスープラに追いつかんと、時雨はとにかくアクセルを踏み込む。

そしてそれに応えんとRZ34はストレートを加速していく。

コーナー直前では201キロまでスピードを出していた。

だがそんなRZ34の前に第2コーナーである右ヘアピンコーナーが迫る。

 

「―――っ!」

流石のRZ34であっても200キロでヘアピンは曲がれない。

コーナー入口のドリフトライン前でブレーキを踏み込み、170キロ台まで減速させる。

荷重を前輪に移し、リアの荷重がフリーになったところでハンドルを一気に右に切る。

リアのバランスを崩したRZ34はそのままテールをコーナーのアウトに向け、そのノーズをコーナー内側に向ける。

必要な分の減速をしていたRZ34はタイヤを地面に食いつかせながら、ヘアピンのインベタとも言うべきラインをまるでグラインドしていくかのようにドリフトしていく。

勿論その間ハンドルは左に切り続けてカウンターを当てる事も忘れない。

そしてそのカウンターを当て続けることが、インベタに描くラインを走る事が出来る大きな要因となっていた。

 

「(完全に理想のラインに乗れた…!)」

時雨が幻覚で見えていた理想のベストライン。

第2コーナーにおいてそのラインは完全にインにベッタリの状態でドリフトで駆け抜けていく姿を理想としていた。

そしてRZ34は思い通りと言うべき動きをして、完全にラインに乗っていた。

時雨自身にとってもはっきり言えばここまで自分の理想に近いドライビングを出来るとは思っていなかった。それくらいこのRZ34は高いスペックを持っているのかもしれない。

自分の意思を明確にすればこのRZ34は右にも左にも曲がってくれる。それもあのワンエイティ以上の速さであってもそれを許容してくれている。

コーナー内側のインベタのラインをグラインドし続けるRZ34は、コーナー出口が近づくにつれてその走行位置を走行レーンの中央に徐々に移しつつあった。

 

「(次のコーナー辺りで…食らいつける?)」

第2コーナーと第3コーナーの間のストレート。このストレートも十分に長いので、チャンスはある。

第2コーナーの立ち上がりに入ろうとしていたところで時雨はアクセルリリースしてハンドルを徐々にニュートラルに戻す。

そして第2コーナー入口のドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏みつける。

だが、アクセルを全開に踏みつけた瞬間だった

 

「―――――!!」

RZ34が立ち上がりで加速すると同時に生まれた、あの感覚。

両手両足から引火するように全身が炎に包まれるような感覚。

速く走れると認識できる、あの感覚である。

その感覚が時雨に戻りつつあった。

全身が炎に包まれるような感覚においても、ハンドルを握り続けてアクセルを全開に踏み続ける。

ここでハンドルミスや失速をしたら皇帝には勝てない。

そう思いながらハンドルを握り、アクセルを踏み続ける。

GRスープラは第3コーナーをドリフトしていく。

 

「(敵はGRスープラだけじゃない…)」

時雨の瞳には幻影のGT-Rが映っていた。

そのGT-Rはまるで自分をより速い領域へと連れて行かんと言わんばかりの速度で加速していく。

時雨はその後姿を追いかけ続ける。

そしてその幻影を追い続ける事で、自然とGRスープラには食いつく事が出来ていたのだった。

 

「(もう追いついてきたというのか…!?)」

一方のGRスープラ。

第3コーナーを立ち上がり、次の第4コーナーでドリフトしようとしていた。

第3コーナーに突入する直前の時点でバックミラーが銀色に光った。

ジュンはハンディキャップを与えたにも関わらずもう追いついてきた事に驚愕していた。

正直言えば第6コーナー位までは持つと思っていた。だがその予想をはるかに上回るハイペースでRZ34は接近してきている。

第4コーナーもアウトコースという事もあり、バックミラーに映る後方からのヘッドライトの光が徐々に大きくなっているのがわかった。

 

「っ…かくなる上は…!」

そう言った瞬間、第4コーナーである右直角ショートコーナーの出口におけるドリフトラインをGRスープラは踏みつけた。

それと同時に、ジュンはハンドルに取り付けられていたニトロスイッチを押してニトロを発動するのだった。

後方から追いついてくるRZ34には追いつかせまい…そんな負けん気がジュンにも生まれていたのだった。

 

「(…そう言えばこの車のニトロを使っていない)」

ニトロを使って逃げるGRスープラを、時雨は全身が炎に包まれるような感覚の中で認識していた。

あのGRスープラはニトロを使ったが、1万1000回転まであるこのRZ34でニトロを使ったらどれだけの加速になるのか?時雨の好奇心が疼いた。

第4コーナーを立ち上がり、ニトロで逃げるGRスープラは既にトンネルに入り、トンネル内の第5コーナーの左コーナーでアンダーステアを出しながらも何とか走行レーンに収まりつつドリフトしていた。

 

「(このまま易々と獲物を逃がすわけにはいかないね)」

幾ら自分の車がハンディキャップを与えられたとはいえ、そう易々と勝利を譲る訳にはいかない。

しかも相手はアンダーステアを出している以上、自分にはまだチャンスが全然存在する。

更に言ってしまえばジュンからは「ニトロを使ってはいけない」という事は、何も聞いていないのだ。

勝ちにこだわる以上、時にダーティなやり方も走り屋としてはありなのかもしれない…。

そして自分にも…ニトロを使うという事は、使われる覚悟があるということを表したいとも時雨は思うのだった。

 

「(まだだ…あと1つ…)」

だがそれでもすぐにはニトロを使わない。第5コーナーは自分が不利なアウトコースである以上、ニトロを使ったところで失速しかねないのは目に見えていた。

第5コーナーの直前でアクセルリリースからの軽くブレーキをフラッシュさせ、ハンドルを左に曲げる。

コーナーの入口のドリフトラインをRZ34の前輪が踏みつけた瞬間、再びアクセルを踏み込む。

コーナー中間までハンドルを右に切ってカウンターを当て続け、コーナー出口でアクセルリリースとハンドルをニュートラルに戻した瞬間、時雨はハンドルに付けられていたニトロスイッチを押した。

言う間でもなく、使用用途は第5コーナーと第6コーナーの間のストレートを駆け抜けるGRスープラを追いかける為である。

 

「(試しに1つ…それ!)」

ニトロスイッチを押した瞬間、時雨は後方から爆発を受けたかのような感覚に襲われた。

それくらいの勢いのあるニトロ噴射だった。

コーナーを180キロで立ち上がったRZ34は、ニトロ噴射で一気に1万1000回転…それどころか、封印されていた7速、8速、9速を使用し、一気に250キロまで到達するかの勢いで加速していく。

 

「(240キロ…!…でも、これなら!)」

ハッキリ言ってしまえば異次元の速さだった。

あのワンエイティでもここまで爆発的な加速をする事は不可能。

それくらいRZ34の加速は驚異的だった。

それでも立ち上がりのタイミングをミスったのか、全身が炎に包まれるような感覚についてはすっかり冷めていた。

だがそんな子を時雨が気にする余裕なんてものはなかった。

何せこれまで体感した事のないような加速である以上、一瞬でも油断したらすぐに事故を起こしてしまうかもしれないからだ。

とにかく車を走らせることに集中する時雨だったが、一方でその加速によって先行するGRスープラにあっという間に食らいついたのは言うまでもない。

 

「な…!!」

「(この車ならアウトコースでも行ける…!このまま外から追い抜く!!)」

第6コーナーに突入しかけたGRスープラのドライバー…ジュンは大きく動揺するしかなかった。

自分がニトロを使ったとはいえ、まさか相手のニトロがここまで物凄い性能だとは思っていなかったのだ。

そして後方に迫ってきたRZ34は、瞬間移動の如くそのままの勢いで第6コーナーの左直角コーナーを強行突破。

第6コーナーである左直角コーナーで、そのスピードを生かしたあまり大外刈りを決められてしまった。

200キロ以上という猛烈な速度でドリフトしたRZ34だが、そのタイヤは見事なまでに地面に食いついていた。アンダーステアを出すことなく、最小限のリアンを駆け抜けるかのようにドリフトして突破するのだった。

外から一気にGRスープラを追い抜いてコーナーを駆け抜けたRZ34は、短いストレートでもあっという間にGRスープラを引き離しつつあった。

 

「(このスープラに乗っていても、ここまでとは…!)」

第6コーナーと第7コーナーの短いストレートでもGRスープラはRZ34に置いてけぼりを食らっていた。

そして先行するRZ34は、ブレーキをフラッシュさせたかと思いきや光の軌跡を描きながら最終コーナーを駆け抜けるのだった。

1つ1つのコーナーで確実に差が付く事によって、ジュンはもはや負けを認めざるを得なかった。

 

「(単純なドライビングテクニックだけじゃなく、ニトロとあの感覚を使いこなすことが出来れば…僕はまだ、まだ速くなれる…!)」

最終ストレートでそんな事を思いながら、時雨はアクセルを全開に踏み続けてゴールラインへ一直線だった。

何せ時雨の瞳に映っていた幻影のGT-Rは、時雨とほぼ同じタイミング…1000分の1秒も同じとも言うべきタイムでゴールしていたのだから。

 

「(…認めざるを得ない)」

一方で、最終コーナー以降も差を付けられ続けたジュンは負けを認めざるを得なかった。

RZ34はそのままGRスープラをぶっちぎり、そのままゴールラインを駆け抜けたのだった。

 

―――勝者、時雨。

GRスープラとのタイム差は約2.3秒…つまり合計5秒もの差をつけたのだった。

 

 

 


 

 

 

―――第一土ノ湖峠復路スタート地点駐車場。

推奨BGM

 

RZ34とGRスープラが横並びで駐車していた。

GRスープラから降りたジュンは、どこか納得するように時雨たちへこう言うのだった。

 

「…さすがだな、ナビ子、時雨よ。もはや私ですら手の届かぬ、超一流の領域へと到達しつつあるようだな…」

ジュンは結果に満足するかのように、そして時雨たちの実力を認めるようにそう言うのだった。

 

「本当にありがとう、ジュン。君たちと走り込むことで…少しは、強くなれたみたいだ」

ジュンの発言に対して時雨は、どこか顔をにっこりさせてそうお礼を言うのだった。

だがジュンはそれに対して言葉を続ける。

 

「一流の私に勝利した事で余韻と感傷に浸りたい気持ちはよくわかる…だが、そんな暇がない事を忘れるな!決して…そう、決してェェエッ!!何せまだ四天王は3人も残っているのだからな!!」

するとジュンの言葉に、奈美子はハッとしたかのようにこう言うのだった。

 

「…そうだね!引き続き頑張ろう、時雨!」

「うん…僕も皇帝と戦う以上、油断せずに行く!」

ジュンの言葉に対して奈美子と時雨は、決意表明をするようにそう断言するのだった。

 

「うむ、一流のいい心意気だ…次の相手はスピードセンター才観山にいる。移動するといい」

「才観山ね…わかったわ、ありがとう。ジュン」

ジュンの指示に答えるように、奈美子はそう返事をするのだった。

 

「じゃあ、行こうか」

「ええ、次の相手が待っているからね!」

そう言って時雨と奈美子はそれぞれRZ34とS30Zに乗り込むのだった。

 

四天王のチームのメンバーの片っ端から挑戦していく事において、最初のチームである「ハートビーツ」を破った時雨と奈美子…だが、特訓はまだまだ始まったばかり。

残るコースは3エリア…

次のエリアでは果たして誰のチームが待つのか?

皇帝に太刀打ちするための訓練は、まだまだ続く。

(第30話End)

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