「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で- 作:カービィ改二
特訓第2弾。夜闇のクローズドサーキットで特訓が行われます。
皇帝との戦いに向け、土ノ湖峠での「ハートビーツ」との特訓を終えた時雨と奈美子。
だが、戦いは土ノ湖峠だけとは限らない。
複数のコースを走る事となる最終決戦に向け、次なる特訓相手を求めてスピードセンター才観山へと向かうのだった。
次なるコースで待つ影、果たしてそれは一体?
奈美子のS30Z先導の元、RZ34をスピードセンター才観山へと走らせる時雨。
対面走行の山道の中を駆け抜け、辿り着いた場所、それこそ山の中にあるクローズドサーキットだった。
奈美子の先導で駐車場に停車し、そこで待ち構えていた集団を確認する。
RZ34とS30Zを横並びで駐車させ、車を降りた時雨が奈美子に話しかけるのだった。
「…ここで間違いなさそうだね」
「ええ。それでこの人たちが…」
「今回の特訓相手なんだね」
どうやら女性ドライバーたちの集まりのようだ。
となると次の相手は…
女性ドライバーたちの中心にいたのは、2人がよく知るアイドルドライバーだった。
「やっぱり…」
「イズミ!」
存在に気が付いたことで、彼女達「ガールドラッシュ」の幹部たちの元へ時雨と奈美子は近寄った。
幹部たちは「待っていた」と言わんばかりの表情をしていたのだった。
「よく来たな。その様子を見る限り、『ハートビーツ』には順当に勝ったようだな。だが、あたい達は一筋縄じゃ行かないぜ?…『新生ガールドラッシュ』、とっておきの秘策で相手してやらぁ!」
「『新生ガールドラッシュ』ですって?」
「秘策、って一体…?」
奈美子と時雨の質問に答えるかのようにこうイズミは続ける。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたな!さあ、とくとご覧あれ…来い、アリス!」
そう言ってやってきたのは時雨と奈美子もよく知るロリータファッションの女性だった。
どこか覚束ない口調で彼女はこう口にする。
「は、はい…!オ…オラオラ!わたくし…あたいは『
その口調は明らかに無理をしているようであるのは時雨と奈美子でもわかった。
「…えーっと」
「アリス、随分無茶してない?というかイズミ、これが秘策?」
流石の2人も呆然とそう口にするのだった。
するとイズミはどこか誇るかのようにこう口にした。
「そう!より狂暴に!より凶悪に!あたい達はより強くなったのだぁ!!」
その言葉にアリスも無茶をしてこう口を続ける。
「おうおう、『皇帝』に勝ちてぇなら…あ、あたい達を、ハンディキャップ有りで倒していけってんだ、べらぼうめ!…あ、あら?何か変ですわ?」
「…べらぼうめ?」
「ん…何かお江戸なまりって感じだぞ、アリス…」
そうイズミが言うと、もはやアリスは完全に限界を超えてしまったかのようにこう言うのだった。
「…い、イズミさん、やはりわたくしには…無理です。淑女はいついかなる時でもエレガントであれと、お父様とお母様が…」
どうやら生まれ持っての性分というのがアリスにもあるようだ。
優雅な家の育ちなのだろう…というのは時雨と奈美子にもわかった。
「ありゃ、作戦失敗か」
どこかやむを得ずそういったイズミに対し、どこか吹っ切れたかのようにアリスはこう口を続けた。
「…いつものわたくしが一番強いという事を、あなた達にも、イズミさんにもお見せしますわ!勝負です!」
文字通りの宣戦布告だった。
「…わかった。始めよう」
そう時雨は言って、車に乗ろうとしていた。
だがそこでイズミが何かを思い出すようにこう言った。
「ああ、そうだ。ここでのハンディキャップは前半コース6秒、後半コース7秒だ!それを忘れるなよ」
「え…前半が6秒?短くないかい?」
時雨がイズミの言葉に対して疑問を投げかけた。
「このコースは前半と後半の比重の差が大きいんだ…前半はかなりのショートコースだしな。下手したら15秒もせずに決着がつく。それでも超ロングストレートがあるからハンディには大して差を付けないが…」
「そうなんだ…わかったよ」
「あと、わたくしとのハンディキャップは5秒ですわ!わたくしのスタート後5秒後にスタートしてくださいませ」
「わかったわ」
「…じゃあ、早速始めようか」
そう言って時雨と奈美子はRZ34に再び乗り込み、スタートラインへと移動していく。
一方のアリスもS15に乗り込んでRZ34を追っていくのだった。
◇ ◇ ◇
―――vs夢の国のアリス
推奨BGM:SAVE MY WORLD(from Initial Eurobeat 2)
コースはスピードセンター才観山前半。
スピードセンター才観山は完全クローズドのコース。
時計回りのコースは明らかに内側有利である為、実際のバトルにおいては中間地点で強制的に走行レーンを切り替える事になる。
その為、今回の各ドライバーとのバトルは前半と後半でそれぞれ分割して実施する。
前半コースは長いストレートと直角コーナー2つ、そしてゴール直前の高速コーナーによる超高速コース。
スタート直後のストレートで一気に最高速に持っていったかと思いきや、第1コーナーの右直角コーナー。そしてこれが同じくもう一個…つまり第2コーナーも右直角コーナーが続く。
そして第2コーナーを立ち上がると、左から右に切り返す形となる複合高速コーナー。
これを駆け抜け、最終ストレートを駆けると中間地点…つまり前半コースのゴールとなる。
左レーン、RZ34。右レーン、S15シルビア。
「(パワーで不利なのはわかっているけど…逃げ切ってみせます!)」
アリス自身相手がモンスターマシンである以上自分が敵う可能性が低いという覚悟は付いていた。
だがそれでも、負けるということが決まっていても、最大限抵抗はしてみたいとも思っていた。
あのRZ34の性能を最大限に引き出せるならそれだけでも…そうも思っていたのだった。
「……」
一方、時雨自身はどこか余裕はあった。
何せスタートから第1コーナーまではあまりにもストレートが長い。
となると第1コーナーにどう突入できるかの度胸勝負。
とにかく序盤で一気にくらいついてそこからオーバーテイク。
序盤の序盤はトレーニングと言ってもいい…が、油断はしない。
時雨はアクセル全開で踏み込んで絶対に油断しない事は決めていたのだった。
「…っ!」
スタートダッシュでS15シルビアは発進していった。
加速があまり伸びないS15シルビア。RZ34を1mでも引き離すべく必死にアクセルを踏み続ける。
それと同時にRZ34のカーナビのカウントダウンも5秒前を表示していた。
「(僕は…本気で行く!)」
アクセルを踏み込み、スタートに向けてエンジンを回転させる。
3
2
1
GO!
「―――!!!」
アクセルを踏み込み、ギアを切り替えてロケットスタートしていく。
RZ34は時雨でも恐怖を感じるほどの恐ろしい加速で先行するS15シルビアに迫っていく。
暗闇の中でもRZ34が怪物のような速さで加速していくのが時雨でもわかった。
9速ギアはあっという間にギアを変えつつ7速に到達。速度はあっと言う間に200キロに到達していた。
そんな爆発的な加速をしていたら、言う間でもなく先行するS15に追いつくのはあっという間だった。
そして速度差50キロ以上という速度でRZ34は第1コーナーに突入するまでにS15シルビアに肉薄…テールトゥノーズの状態にまで接近するのだった。
S15シルビアが第1コーナーをインベタでドリフトしていく最中、RZ34はブレーキをフラッシュさせたかと思いきやアウトコースの走行ラインをそのままドリフトしていく。
「(アウトコースから…!)」
走行レーンの中央を走るS15シルビアに対し、RZ34は走行レーンの右端スレスレをべったりの状態でドリフトしていく。
下手をしたらドリフトしているS15シルビアのリアに接触するのではないかと言わんばかりのドリフトだった。
そしてそのままアウトコースからS15シルビアをオーバーテイク。
オーバーテイクにかかった時間は1秒もなかった。
速度差としては間違えなく40キロ以上はあった。
「っ…!!」
あまりの勢いに悲鳴に近い声を上げたアリス。
そりゃそうだ。スタートで4秒も差を付けたにもかかわらず速度差40キロ以上というトンデモない速度差でオーバーテイクされてしまったら、そりゃ恐怖を感じる。
暗闇のクローズドサーキットを駆ける2台の前に、第2コーナーである右直角コーナーが迫る。
「(曲がる…!?)」
160キロ台で走っていたアリスにとって、RZ34はあまりにも異次元の走りだった。
普通だったら多少は減速するのであろう右直角コーナーにも拘らず、RZ34は殆どブレーキをかける気配がない。
そしてRZ34がコーナーの10~20mに迫った時だった。
「(ここ、だ…!)」
ブレーキをフラッシュさせ、RZ34のテールランプを点灯させる時雨。
だが、内側に攻めすぎないように敢えてハンドルを浅めに右に曲げる。
このサーキットにおいても、ドリフトラインは左レーンが白色、右レーンが赤色に塗り分けられており、ドリフトバトルを行う以上それを超える事は許されないのである。
走行レーンのイン目いっぱいにRZ34のノーズを接近させ、文字通り道路の中央スレスレを駆けるように、180キロ以上という猛烈な速度で白煙を上げながらドリフトしていく。
「っ…!!」
一方のアリスは必死になってアクセルを踏み込み続けるも、差は全くもって縮まらないどころか距離がどんどん離れていく。明らかに向こうのスペックが上なのである。
アリスの感情としては負けん気が強くなっていく。
先行するRZ34はアリスをも魅了する、光の軌跡による美しい弧を描きながらコーナーの先に消えようとしていた。
その光の幻影を追いかけるべく、アリスもどんどんアクセルを踏み続ける。
だが、アクセルを踏み続けていたその瞬間だった。
「(いけない…オーバースピード!?)」
あまりに美しい光の軌跡を追いかけた結果、ブレーキングのタイミングを完全に逃したアリス。
あきらかに今のS15シルビアではオーバースピード…150キロで第1コーナーに飛び込んだ。
今のマシンの状態ではタイヤが食いつかない。
慌てて一気にブレーキをかけるも、マシンは一気にアウトに膨れ、左レーンへと飛び出していく。
ハンドルを一気に曲げたのも良かったが、S15シルビアのタイヤはあまりのスピードに悲鳴を上げ、右回りにスピンを始めたのだった。
「―――!!!」
スピンし続ける中でブレーキを踏み続けるアリス。
回転し続ける中でS15は徐々に減速し、なんとか道路上に収まる。
オーバースピードだったS15シルビアは、幸いにもコース外にはみ出すことなく右回りにスピンし続け、何とか本来の走行方向にノーズを向けて立て直したのだった。
だがその速度はあまりにも遅く、50キロしか示していなかった。
スピンをした隙にRZ34は第3コーナーである右左の複合コーナーを抜け、既にゴール寸前に到達していた。
「(まさかここまで…)」
アリスにとっては完敗だった。
まさかここまであのRZ34が速いとは思わなかったのだ。
今のアリスの実力にとっては、とてもでは追いつけるシロモノではない。
そう思ったアリスは負けをあっさり認めるのであった。
そして認めた瞬間…RZ34はS15シルビアを完封してゴールしたのだった。
◇ ◇ ◇
―――中間地点
「…ま、負けてしまいましたわ。でも、全力を出し切りましたので…悔いはありませんわ」
「…そっか」
「健闘を、お祈りいたします」
車を降り、様子を見に来たRZ34のドライバー…時雨と奈美子に対して、アリスは負けを認めるように言った。
結果としては限界以上の力で走った結果スピンしてしまった。
その結果は事実だったが、あそこまで完膚なきまでにやられるとアリスにはもう悔いというものはなかった。
それと同時に、アリスは時雨と奈美子の武勲を祈るのだった。
「ありがとう。頑張るね」
「いい報告が出来るよう、頑張るから!」
時雨と奈美子は互いにそう言い、アリスの元を去って次の相手に挑戦していくのだった。
スピードセンター才観山を、「ガールドラッシュ」所属のメンバーたちと複数回戦っていると、再び時雨と奈美子の前によく知るラバースーツの女性が現れた。
だが、彼女の乗る車は以前のそれとは異なるものであった。
―――スタート/ゴール地点。
「聞いたぞ…時雨、奈美子。真の『皇帝』…奈美子の兄と一騎打ちをするそうだな」
「うん…」
「ちょっと気になったんだけど…もしかして諜報員のあなたは、『皇帝』が私の兄さんだったことも、全てお見通しだったの?」
「ああ…チームに卑劣な行為をしていた『皇帝』がお前の兄かどうかまでは、あの時点では掴めてなかったが…疑いが張れてよかったな」
ラバースーツの女性…諜報員のミサオはどこか労うかのようにそう言うのだった。
「ええ、ありがとう…あとは兄さんに勝って、戻って来てもらえることを祈るのみなの…!」
「それについては成就を願っている…そしてだからこそ、私は新たな車と共に…貴様らと全力で相手をするのみだ」
「新たな、車…?」
「ああ…見るがよい。これが私の新たな車だ」
暗闇に隠れていたのは、黒色のST205セリカだった。
どうやらダブルXセリカから乗り換えたようだ。
「これは…」
「ST205セリカ…!ミサオ、乗り換えたのね!」
「ああ。貴様らの速さについては重々承知の上だ…だがそれだからこそ、最大限力を尽くして抗う甲斐というものがあるものだ。私の走りを見てくれ…そして、越えてみせろ!」
「望むところだわ!」
「言い忘れていたが、ハンディキャップは5秒!スタート地点までは私が誘導する…ついてこい!!」
「…いいよ、始めよう」
そう時雨が言ったところで3人は車に乗り込み、スタート地点へと移動していく。
◇ ◇ ◇
―――vs諜報員のミサオ
推奨BGM:MACHO MAN(from EUROMACH2)
左レーン、ST205セリカ。右レーン、RZ34。
コイントスの結果ではあるが、ミサオにとっては不利な左レーンになってしまった。
如何せん右回りのコースである以上左レーンは不利なのである。
だがそれでもこればかりは時の運であるのはミサオも理解はしていたのだった。
スピードセンター才観山の後半コースは、前半コースと異なり文字通りのテクニカルセッション主体のコースとなっている。
スタート直後のストレートを抜けた後、初っ端から一気に左ロングヘアピンコーナー。数秒間の長いコーナーを抜けた後、今度は右のロングヘアピンコーナー。このヘアピンを抜けた後は左に直角でカーブしたかと思いきや連続して一気に右へとヘアピンカーブとなる、下り勾配の複合型超ロングコーナーである。
坂を下って複合コーナーを抜けたら、左の直角コーナー。
直角コーナー後のストレート区間を抜けたら再び左の高速コーナー。そして再びロングストレートへ。
そしてロングストレートの終盤、高架橋の下をくぐる軽い上り坂を含んだ最終の右高速コーナー。
最終コーナーを抜けた後も少し続くこの上り坂を上がり切ると一気に下り坂となり、スピードが付いているマシンにとっては小さなジャンプポイントを含むことになる。そして最終コーナーを抜けた後は先ほどのジャンプポイントを含んだ最終ストレートを駆け抜けると、ゴールとなる。
全体で見てもヘアピンが複数存在しているコースとなっており、要求される技術はかなり高いものであるのは言うまでもないだろう。
「(弘法筆を選ばず…というわけではないが、バトルする以上どんな条件でも飲み込むのみ…!)」
そう言ってミサオはST205のギアを切り替え、スタートダッシュを決めて走り出した。
荒い路面の中でも、マシンを安定して走らせるミサオ。
どうやらある程度は特訓を重ねたようだ。
少なくともダブルXセリカの時よりかは速さも感じられるのは、第1コーナーを攻め込む様子を見ていた時雨でもわかった。
「(一瞬見えたものだと、ダブルXの時はどちらかといえば一気に曲げていたように思うけど…あの車だと、少し無茶をさせてる?)」
第1コーナーをドリフトしていくST205セリカの後ろ姿はどちらかといえば無茶をしているようにも思えた。
如何せん今まで乗っていたFRマシンから、ターマックでのドリフトにはあまり向かない4WDのマシンなのである。
4WDでドリフトするとしたならば、大抵ゼロカウンタードリフトかサイドブレーキで無理くりドリフトさせるか。
ミサオにとってはまだゼロカウンターを完全に体得しているという訳ではなかった。
どうやら追いつくチャンスはいくらでもありそうだ。
「(この車に乗る以上、相手を力でねじ伏せる事は誰でも出来るだろう…でも、乗りこなすのは難しいはずだ。だったら僕が、この車を完璧に乗りこなしてみせる!)」
文字通りの数字の暴力と化しているRZ34。
この車に乗っていれば、間違えなく誰でも最速への道は開かれるだろう。
だが、本当に速い人間はマシンに振り回されない。
本当に速い人間はどんな車でも乗りこなせるほどの実力を持っているはずなのである。
そして自分にはそんな実力がある事を、改めて証明する…そう時雨は思っていた。
そしてそんな思いを抱きながら、RZ34のエンジンを回転させてカウントを待つのだった。
3
2
1
GO!
「―――!!」
カウント共にロケットスタートで一気に加速するRZ34。
オートマチックという事もありあっという間にギアは一気に変わる中であっという間に150キロに到達した。
だが、その時点で時雨はアクセルを抜いた。
如何せん第1コーナーは時雨にとって不利な左コーナーなのである。
「(一瞬右に振って左へ…!)」
ハンドルを右に切ったかと思いきや、ブレーキをかけて左へ切り返す。
長いヘアピンコーナーだからこそ必要なフェイントモーションだった。
荷重が左から右へと移ったRZ34は、後輪を滑らせながら走行レーンのギリギリ…白線ゼブラゾーンと赤線ゼブラゾーンの境目をインベタで攻めていくように一気にドリフトしていく。
速度は140キロ台をマークしながらRZ34は暗闇の中で光の軌跡を描きながらドリフトしていく。
「(下り坂で速度がさらに上がる…怖い。でも…!)」
多少の恐怖を感じても時雨はアクセルをただただ踏み続ける。
弩級ダウンヒル。一歩ハンドルをミスすれば、エスケープゾーンのないこのコースでは一瞬でクラッシュだ。
だがアクセルを踏み続けないとあの幻影には追いつけない。
否が応でも右にハンドルを曲げてカウンターを当てつつもアクセルを踏み続けるのだった。
そしてコーナーの出口がライトで照らされる。
「(すぐに次のコーナー…ハンドルは曲げ続ける!)」
第2コーナーは右のヘアピンである。
第1コーナー出口でアクセルをリリースしたが、ハンドルは曲げ続けたまま前輪がドリフトラインを踏みつけた。
「(…!)」
ハーフスロットルまでアクセルを踏み込み、コーナーの立ち上がりで多少マシンを加速させる。
だがすぐ目の前に第2コーナーが迫る。
「(ここだ!)」
ブレーキをフラッシュさせたかと思いきやアクセルをリリースし、インベタになるようにRZ34をコースの右端に寄せる。
徐々にテールスライドする中で前輪がコーナー入口のドリフトラインを踏みつけた瞬間に再びアクセルを全開にして踏みつける。
後輪が空転を始め、マシンのテールライトは一気にインベタのラインを描く。
一歩間違えたらすぐコースアウトせんと言わんばかりのラインを、ハンドルを左に曲げてカウンターを当てているRZ34はドリフトしていく。
「(―――)」
暗闇を照らすライトが前方を照らす中、自然と時雨には恐怖心という言葉がどこかに行ってしまったようだった。
コーナー内側、壁スレスレのラインを描きながらRZ34はタイヤを食いつかせてドリフトしていく。
隙間10cmもない程の際どいライン。だがそれでも時雨はアクセルを踏み続ける事をやめない。
先行するST205セリカに一秒でも速く食いつかんとそのラインを描きながらドリフトしていった。
「!!」
ものの数秒でドリフトゾーンは終わり、コーナー出口が迫る。
アクセルをリリースしてハンドルを徐々にニュートラルに戻したRZ34は、インベタからアウトの徐々に膨れていく。
そして走行レーンの中央部分に差し掛かった瞬間、RZ34の前輪はドリフトラインを踏みつけた。
「(…行け!)」
タイミングよくアクセルを踏み込み、再び150キロ台から加速していくRZ34。
速度はあっという間に170キロまで加速する。
だが、三度RZ34の前にコーナーが現れる。
「(複合コーナーだ…上手く切り返す!)」
左直角コーナーの後、右ロングヘアピンとなる複合コーナー。
RZ34は突っ込みつつブレーキをかけ、速度を140キロ台まで減速させる。
ハンドルをぐいと左に曲げ、前輪ドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込む。
「(すぐ次のコーナーになる…切り返すんだ!)」
左コーナーをドリフトし始めたRZ34のハンドルを右に一気に曲げ、カウンターを当てる。
下り勾配の複合コーナーで、左方向にドリフトしているRZ34の前に白いガードレールが映る。
「(ここだ!)」
アクセルをリリースし、ハンドルを更に右に切り込む。
そして真正面を向いたところで再びアクセルを踏み込んでタイヤを空転させる。
左方向にドリフトしていたRZ34は徐々に右に曲がり、連続してドリフトしていく状態になった。
コーナー中央に存在するレールの上をグラインドしていくかのようにRZ34はドリフトしていった。
暗闇の中、ヘッドライトは地面のドリフトゾーンと暗闇を映していく。
そして右側の壁の方向を向きかけたところで時雨はハンドルをさらに左に切り返し、再びカウンターを当てる。
左にタイヤを向けたRZ34は、再び左端の壁に隙間15cm程まで接近する。
速度は下り坂で加速していたこともあり150キロ…一歩間違えたら路肩の溝に引っかけてしまうレベルで際どいドリフトだった。
コーナーのクリッピングポイントを抜けたところで、徐々にハンドルの傾きをニュートラルに戻していく。
走行レーンの真ん中にあるレールをグラインドしていくようにドリフトするRZ34は、徐々にドリフトの角度を抑えていく。
そしてその状態の中で、コーナー出口寸前でRZ34がある物を照らし出すのだった。
「見えた…!」
先行するST205セリカ。
第4コーナーである直角コーナーでドリフトしている最中だった。
もう直に加速差で追いつけてしまうだろう…時雨はドリフトするマシンの中でそう認識した。
「な、何だと…!?」
バックミラーが白く光ったST205のドライバー…ミサオは大きく動揺した。
自分がいくらアウトコースである事をわかっていても、まさか第3コーナーまでに接近されるとは。
ハッキリ言えば想定外だった。あまりに速いという事が自分でもやっとわかった。
間違えなく向こうが速いというのはわかっていたとはいえ、ここまでとは思わなかった。
しかもこの先は高速コーナーとストレート。間違えなく追いついてくることだろう。
「(第4コーナーもあるから…ここは抑え目に)」
アクセルをリリースした上でハンドルをニュートラルに戻し、徐々にドリフト状態からグリップに移っていくRZ34。
走行レーンの左端…つまり道路中央ギリギリまで膨れたところでRZ34の前輪はドリフトラインを踏みつけた。
「(…っ!)」
アクセルをハーフスロットルで踏み込んだ時雨。
速度は150キロから160キロ台まで加速する。
だがすぐに次のコーナーである左直角コーナーが迫る。
RZ34のヘッドライトがコーナーを照らしたところで、ブレーキをかけてRZ34を減速させる。
それと同時にハンドルを少しだけ右に曲げる。
マシンは160キロ台から140キロ台まで減速し、走行レーンの右側へと移っていく。
「―――!」
RZ34の前輪がドリフトラインを踏みつける直前にハンドルを左に切り返し、フェイントモーションの姿勢から後輪が徐々に滑り始める。
そして踏みつけたのと同時にアクセルを全開に踏み込んだ。
空転を始めたRZ34は白煙を上げながらテールスライド。
走行レーンの左端…クリッピングポイントを狙っていったRZ34はお手本とも言うべきアウトインアウトのラインを描きドリフトしていく。
「(見えた!)」
クリッピングポイントを抜け、アウトに膨れていくRZ34。
それと同時にカウンターを当てる為に右へハンドルを徐々にニュートラルに戻す。
そしてRZ34が完全にグリップ走行となり、走行レーンの中央を走っている時に前輪がドリフトラインを踏みつける。
真正面には逃げていくST205セリカが見える。
「(目標捕捉…行け!)」
前輪がドリフトラインを踏みつける瞬間、アクセルを全開にして踏み込む。
エンジンからタイヤへとパワーが伝わったRZ34は140キロ台から再び加速していく。
第4コーナーの後のストレート区間で、RZ34の速度は一気に170キロまで上がった。
そしてそれと同時に、130キロ台のST205セリカを猛追していく。
「くっ…!」
ミサオが動揺するのも無理はない。
長いストレート区間で、RZ34はST205に食いつく。
テールトゥノーズからあっという間にサイドバイサイドの状態…そのままオーバーテイクしてしまった。
だが、オーバーテイクした瞬間に2台の前にある物が迫る。
「―――!」
第5コーナーである左高速コーナー。
170キロ台まで加速していたRZ34はそのままの勢いで飛び込んでいく。
コーナー直前でハンドルを左へ曲げたかと思いきや、アクセルをリリースした瞬間に後輪が徐々に滑り出す。
滑り出したのと同時にRZ34の前輪はドリフトラインを踏みつけ、アクセルを全開にする。
ブレーキングほぼなしで170キロというとんでもない速度でRZ34はドリフトを披露するのだった。
「(ダメだ…速すぎる!)」
一方のミサオもハンドルを左に曲げ、ゼロカウンターとも言うべきドリフトで走り抜けるのだったが、その速度はRZ34に比べるとあまりにも遅かった。
140キロ台で何とかドリフトするST205セリカ。RZ34との速度差は30キロ以上存在するのだった。
そしてRZ34はハンドルをニュートラルに戻してアクセルをリリースしたかと思いきや、前輪がコーナー出口のドリフトラインを踏みつけた瞬間に再びフルスロットルで踏み込んでストレートへ加速していくのだった。
その瞬間、RZ34は後方のST205セリカを完全に引き離すことに成功した。
速度差30キロ以上…この差はあまりにも大きかったのだった。
「(やられた…コーナーでもストレートでも追いつけないのでは完敗だ…)」
ドライバーズシートでミサオはそう敗北を認めるように思ったのだった。
案の定この後最終コーナーである右高速コーナーでも、最終ストレートにおいてもST205セリカは追いつく事が出来なかった。
そしてそのまま最終ストレートを駆け抜けてST205を完全に振り切ったRZ34はゴール。
遅れて到着したST205とのタイム差はなんと4秒もあったのだった。
◇ ◇ ◇
―――スタート/ゴール地点
車を降りた時雨と奈美子に、こちらも車を降りたミサオが話しかけた。
「このST205セリカに乗り換えてもこうも相手にならないとは…マシンが違う事もあるとはいえ、以前よりも更に速くなったようだな」
「ありがとう…僕たちも、譲れないものがあるからね」
すると時雨の言葉にミサオはどこか忠告するようにこう言った。
「だが、我々で躓くようでは真の『皇帝』には到底かなわないからな。その事をよく肝に銘じておけ…」
「うん…私たち、絶対に勝ちに行くわ!」
奈美子の言葉にミサオは次の相手とバトルするように促した。
「その意気だ…さあ、休んでる暇はないぞ。次のレース…トモミたちが待っているからな!」
「…じゃあ、行ってくるね」
そう言って時雨と奈美子は再びRZ34に乗り込み、次の相手の元へと向かうのだった。
―――同じく、スタート/ゴール地点。
複数回チームメンバーたちとバトルした後、現れたのはアイドルのマネージャーだった。
「お久しぶりね。あなた達がイズミを覚醒させたお陰で、すっかり『暴走アイドル』キャラが定番よ。責任取ってくれる?」
マネージャーのトモミはどこか責任を取れと言わんばかりにそう言うのだった。
「え…ご、ごめんなさい」
「ごめん、なさい…」
するとしょぼくれた2人の様子を見て、冗談であるように笑い飛ばしてトモミは言うのだった。
「アハハハ、嘘嘘。イズミも何だか前より生き生きしてるし、あのキャラクター結構評判いいし、結果オーライってところかしらね」
「は、はあ」
「ところで、お兄さんとバトルするそうね」
「ええ、そうなんです…」
するとトモミは奈美子たちを励ますようにこう言うのだった。
「お兄さん、戻って来てくれるといいわね。ま、とにかく勝たないと始まらないわけだし…どのくらい強くなって見せてもらうわよ!」
「…わかりました、始めましょう」
「ハンディキャップは5秒よ。さあ、始めましょう」
トモミの言葉に対し時雨と奈美子は静かに頷く。
そしてそれを見たトモミが愛車であるZ34に乗り込んだのとほぼ同時に、奈美子と時雨もRZ34に乗り込むのだった。
◇ ◇ ◇
―――vsマネージャーのトモミ
推奨BGM:A SIGN(from 40 Best of Eurobeat)
左レーン、Z34。右レーン、RZ34。
2台がヘッドライトを照らす中、横並びでエンジン音を木霊させる。
「(チューニングされたRZ34…どんな実力かはわからないけど、かなりのマシンである事は分かってる。それでも…私は最大限実力を出すだけ!)」
トモミは覚悟を決めたかのようにそう思うのだった。
「(インコースである以上有利なのはわかるけど…この車は気を付けないと)」
一方で時雨も油断は全くもってしていなかった。
700馬力オーバーのRZ34は、一瞬でも油断したら何処へ走り出すかわからないシロモノ。
そんな事は時雨自身がよく分かっているつもりだった。
実際この不安定な舗装の路面では何度か足をすくわれそうに放った。
それでも乗りこなせていたのは自分自身の運も影響しているという事は時雨自身把握はしていた。
だからこそ、そんな運任せな走りでは命が持たない。
ならば自分でこの車を乗りこなすまで…そう思っていたのだった。
そしてそんな思いを抱く中、Z34が先行して発進していた。
「(―――さあ、追いついてきなさい!)」
とにかく前へと逃げるトモミ。
アクセルを全開に踏み込んでスタート直後のストレートを一気に加速していく。
「(―――食らいつく。この車を乗りこなして…!)」
アクセルを踏み込み、エンジンを1万回転近くまで回す。
エンジンレスポンスも良好であるのは時雨でもわかった。
そしてそんな中でカーナビのカウントが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!!」
アクセルを踏み込み、ギアをDレンジへ切り替える。
エンジン回転数、8700回転。
マフラーからバックファイアーを噴出しながらRZ34は文字通りのロケットスタートを決めて先行するZ34の追撃を開始する。
既に第1コーナーに接近するZ34を、猛烈な勢いで猛追していく。
その速度は180キロを示していた。
「(もう食いついてきた…!?)」
トモミは後方から迫る白銀のボディに戦慄していた。
速い速いとは聞いていたが、まさかこうもあっさり追い付かれるなんて思いもよらなかったのだ。
だがそれでも自分にだって走り屋のプライドというものはある。
追い抜かれることになっても最大限に抵抗してみせる。
そう思いつつ第1コーナーの右直角コーナーにZ34が突入する。
ブレーキをフラッシュさせ、ハンドルをぐいと右に曲げる。
テールスライドを始めたZ34は、白煙を上げながらドリフトしていく。
「(くっ…やっぱりアウトコースだと…!)」
自分が走行する赤いゼブラゾーンを駆け抜けるZ34。イン目いっぱいに寄せて何とか最小限の走行ラインで駆け抜けていく。
だが次の瞬間だった。
「―――!?」
一瞬の出来事だった。
RZ34はほぼノーブレーキで第1コーナーに突入し、130キロ台だったZ34をあっという間にオーバーテイクしてしまった。
いくらインコースであるとはいえ、こんなにもアッサリ追い抜かれるとは思いもよらなかった。
「(そんな…!)」
トモミはアクセル全開で大逃げして、なるべく差を寄せ付けないつもりだった。
だが、相手の速さはあまりにも格が違った。
格闘技で言うと明らかに3階級…下手したら4階級くらいの差がある。
素人がチューニングしたぽっと出のマシンと、下手したらレーシングカー並みのチューニングが施されてしまったモンスターマシン。
ハンディを付けたところでその差がいずれ追いつかれてしまうのはわかっていたが、時雨のドライビングはそれをはるかに上回っていた。
それほどまでに、RZ34は速かった。
第2コーナーに立ち上がるまでにRZ34とZ34の車間距離は0.5台分だったが、さらにここから右コーナー。
RZ34は完全にZ34を振り切るべくさらにコーナーを攻めていく。
「(……!!)」
アクセルオフからハンドルを右に曲げ、慣性でテールスライドさせていく。
そしてドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間に再びアクセルオンで左に切り返してカウンターを当てる。
時雨はパワー有り余るRZ34をその両腕で何とか制御出来ていた。
700馬力オーバーのモンスターマシンを制御できるだけでもすさまじい実力ではあるが、何より暗闇である。
いくらヘッドライトが照らしているとはいえ、街灯も殆どないサーキットを160キロ…下手したら170キロという速度で後輪を滑らせてドリフトしていく姿は圧巻だった。
だがそれでも時雨自身は満足していなかった。
自信が追いかける幻影…皇帝は自分と同じようにドリフト出来るのであろう。
そう思っていたからである。
自分が追い求めるもの以上に皇帝は速く走る事が出来るであろう。
そんな思いが時雨の向上心に火を点けていた。
「(僕の求めているものは…もっと先にある…!)」
コーナー出口寸前でアクセルを抜き、ハンドルを徐々にニュートラルに戻す。
そしてRZ34の前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間に再びアクセルを全開で踏み込む。
160キロ台だったRZ34は立ち上がりで170キロ台…180キロまで加速する。
「(離される…!!)」
アウトコースという事もありアッサリと先行を許すトモミ。
こちらも必死でアクセルを踏み込むも、RZ34との加速は明らかに段違いだった。
1つ1つのコーナーで確実に差がついていく。
車間距離はあっという間に車3台分まで広がる。
「(これで最後…!)」
前半部の最終コーナーである左から右への緩い複合コーナー。
アクセルをリリースし、軽くハンドルを左へ曲げる。
そして前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間再びアクセルオン。
緩くリアをスライドさせ、それ以上にハンドルを右に切り返して左から右への複合コーナーへと対処する。
ドリフトアングルは最小限に、白煙を上げながらRZ34は170キロ台という猛烈な速度でドリフトしていく。
「…っ!」
コーナー出口のドリフトライン寸前で再びアクセルをリリースし、ハンドルをニュートラルにしたところで再びアクセルを全開にしてとどめを刺す。
190キロ近くまで加速したRZ34は、もはや後方のZ34を完全に敵と見ていないようにゴールラインを駆け抜けたのだった。
「(……まさか、こんなに)」
相手の車が速い事は分かっていた。
だがそれでもトモミはこの短いコースでこうもあっさりと振り切られるとは思っていなかった。
何せものの20秒に満たないコースでタイム差は4秒近く…ハンディキャップ5秒を含めると8秒もの差を覆してしまったのだったから。
◇ ◇ ◇
―――スタート/ゴール地点。
「ハッキリ言って、以前よりとんでもなく強くなったわね」
戻ってきたRZ34とZ34。トモミは車を降りて時雨と奈美子にこう言うのだった。
「…ありがとうございます」
「かつて『
「でも、もっともっと強くならないと…私の兄さんには…敵わないと思います」
「奈美子…」
すると、どこか落ち込んだ口調の奈美子に対してトモミはこう励ますように言うのだった。
「伝説のドライバー、『皇帝』か…。勝ったらそれこそ伝説だけど、何だかあなた達ならやれそうな気がするわ」
何処か激励するかのようなその言葉に対し、時雨と奈美子はこう返事をするのだった。
「…僕達、頑張ります」
「残された道は、それしかないですから!」
「ええ、頑張ってね。さて、次はアマネね。まだまだ油断せずにいきなさい」
「あ、はい…頑張ります」
3人目の幹部を倒した時雨と奈美子は、再び次のバトルへと挑むべくマシン調整とタイヤ交換に挑むのだった。
―――スタート/ゴール地点
トモミとバトルした後数戦重ねたところで、時雨と奈美子の前に現れたのはよく知る男性か女性かわからない人物だった。
時雨と奈美子に詰め寄り、その人物は話しかけるのだった。
「ちょっとちょっと、聞いたわよ!あんた達、本物の『皇帝』とバトルをするんですってね!」
「あ、はい…」
「アマネさん…そうなんです」
するとどこか自信なさげな2人に対し、アマネはこう言うのだった。
「いやいや、大丈夫なの!?とっておきの策とかはあるの!?」
「ううん…そう言うのは、なくて」
「真正面からぶつかるしかないんです…」
グイグイと押してくるアマネに対し困惑気味に答える奈美子と時雨。
するとアマネは奈美子の言葉をかいつまんでこう言うのだった。
「んまっ!車同士真正面からぶつかったら、大事故になるじゃないの!なーんて!オホホホ!」
不穏な雰囲気を払拭するかのようにギャグを言うアマネに対し、苦笑いをしながら時雨は呟いた。
「…アマネさん、相変わらずですね」
「オホホ!まあ冗談はこれくらいにして…実戦練習を始めましょうか!私も以前より速くなってるのよ?油断しない事ね!」
時雨の言葉に多少忠告を言うかのようにアマネはそう言った。
「…わかりました、始めましょう」
「スタートは中間地点からで、ハンディキャップは5秒よ!食いついてきなさい!」
そうアマネが言ったところで、3人はそれぞれの車に乗り込むのだった。
◇ ◇ ◇
―――vs付き人のアマネ
推奨BGM:THE KING(Roaring Engine)(from Eurobeat Masters vol.21)
左レーン、RZ34。右レーン、アルシオーネSVX。
RZ34はコースの特性上不利な左レーンである。
「(さあて、一気に逃げ切るとしましょうか!)」
スタートダッシュを決めて一気に逃げていくアルシオーネ。
後方で待ち構える鬼…RZ34から逃げるように4輪でドリフトしていく。
「(…外側のコース、か)」
時雨は自分の走る走行レーンを考えながらスタートを待っていた。
最初の最初、時雨がどちらの走行レーンを走るかによってこのコースでもどちらの走行レーンを走るかはわからない。コイントスで決める以上確率は半々。
左レーンである事を考えても全くもっておかしくはないのだ。
だが相手に有利であっても自分は全力で走らないといけない。
そうしないと間違えなく皇帝のR35にマージンを生み出してしまうからだ。
相手にマージンを作らせず、自分のマージンをどこまで保つか。
それがアウトコースを走る者に課せられた一種の課題なのである。
「(この車は時に制御が効かなそうなときがある…限界領域を見誤れば、すぐにクラッシュしかねない…!)」
700馬力のRZ34は、間違えなく乗りこなせれば皇帝にも匹敵する性能を持っている。
だがその車を乗りこなすことは容易な事ではないという事は時雨自身バトルを続ける中で再認識した。
この車でドリフトしようとすると、時々ドライバーである自分に牙を剥くのだ。
超ハイスペックなこの車は、時に自分をも振り回す暴れ馬になる。
暴れ馬になった以上手綱であるハンドルをしっかり握って、アクセルやブレーキを操って制御しなければならない。
そしてその限界を見定めて、自分ができる目一杯の走りをする。
そんな覚悟を胸にしたところで、カーナビのカウントが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!!」
ギアをPレンジからDレンジへ切り替え、アクセルを全開にして加速するRZ34。
だが加速して間もなく、目の前に左ロングヘアピンコーナーが迫ろうとしていた。
「(くっ…加速で速度が付きすぎてる!?)」
フルブレーキングで急いで減速。
だがRZ34はオーバースピード気味にコーナーへ突っ込もうとしていた。
「(こうなった以上…!)」
否が応でも減速する必要があった。
そうするためにはブレーキをかけるのは当然のこととして、車体を左右に振って減速させるしか浮かばない。
ブレーキをかけ続けた状態でハンドルをくいと右に曲げて、一気に左に切り返す。
高速度域からのフェイントモーションを発動し、なんとか減速したところで前輪がドリフトラインを踏みつける。
その瞬間アクセルを踏み込むことで、マシンは一気にテールスライドしてコーナーの内側へと切り込んでいく。勿論カウンターを当てるべくハンドルを右に切り返すことも忘れない。
その速さは間違えなく普通の慣性ドリフトよりも速かった…が、時雨はそこに懸念を抱いていた。
「(突っ込み重視でフェイントモーションを使えば、タイムを更に詰められる?でも……)」
フェイントモーションは高速でドリフト出来るやり方ではある。
普段のバトル…ものの1分もかからないバトルにおいては何べん使っても問題ないが、皇帝との戦いにおいては2時間走る事となる長期決戦となる以上、タイヤへの負担を考えると易々とは使えない。
時雨は長期戦においてフェイントモーションはあくまで緊急手段であると考えたのだった。
そしてそんな中でRZ34は150キロ以上という猛烈な速度でコーナーのインにべったり張り付きながら…正確には隙間10cm程度を維持しながらドリフトしていく。
「…!」
コーナーの出口がRZ34のヘッドライトによって照らされる。
アクセルを離してハンドルをニュートラルには…完全には戻さず、少しだけ右に傾け続けてカウンターを当て続ける。
如何せん次のコーナーは右のロングヘアピン。
マシンを振り返してドリフトしていくという手法を時雨は取ったのである。
そしてハンドルを20度程傾けた状態でRZ34の前輪がドリフトラインを踏みつける。
「(全開には…しない!)」
ハーフスロットルとも言うべき程度にアクセルを踏み込む。
マシンは全開走行の時に比べると加速しないが、時雨にとっては全く問題なかった。
次のコーナーに向けてRZ34は走行レーンの右端へと進路を変えていく。
そしてすぐに次のコーナーが迫った。
「(アクセルオフ…そしてまた踏み込む!)」
RZ34の前輪がドリフトラインを踏みつける寸前に、少しだけ傾けていたハンドルをさらに右に深く曲げる。
徐々にリアがスライドし始める中、RZ34の前輪がドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込む。
速度は150キロ以上…ヘアピンに突っ込む速度としてはオーバースピードとも言うべき速度でドリフトしていく。
「っ…!」
ハンドルを右から左に切り返し、カウンターを当てる時雨。
アクセルを踏み続ける事でRZ34はドリフトし続ける。
だが、暗闇の中RZ34は走行レーンの内側目いっぱいまでマシンを寄せながらドリフトしていく。
一歩ミスをしたら間違えなくコース外に吹き飛んでいきそうな速度の中、RZ34はインベタと言うべき状態で駆け抜ける。
タイヤはグリップし続けてはいるが、徐々にマシンはアウトに膨れていく。
「―――!」
RZ34のヘッドライトがコーナー出口のドリフトラインを照らす。
その瞬間、時雨はアクセルを徐々にリリースし、カウンターを当てていたハンドルを少しずつニュートラルに戻していく。
そしてドリフトラインを踏みつけた瞬間、アクセルを再びハーフスロットルまで踏み込む。
立ち上がりの速度は鈍いが、それでも150キロ台は維持している。
立ち上がったRZ34の前には再び左直角からの右ロングヘアピンという複合コーナーが現れる。
コーナーを照らした瞬間にブレーキをかけ、130キロ台まで減速。
ハンドルを左に曲げ、ドリフトラインを前輪が踏みつけた瞬間にアクセルを踏み込む。
「(…逆に曲げるんだ!!)」
RZ34のリアがスライドし始めた瞬間に時雨は反射的にハンドルを右に切り返す。
カウンターを当てられたRZ34は左向きにドリフトを始める。
だが左直角コーナーを抜けたRZ34の前に今度は右のロングヘアピンが現れる。
カウンターを当て続けた状態でアクセルをリリースし、RZ34のリアが徐々にコーナーの向きの方に合わせるかのように時計回りで回転していく。
そして時計回りに回転していく中でRZ34はヘアピンコーナーをインベタの状態で切り返しながらドリフトしていく。
切り返したと同時にアクセルを全開に踏み込み、RZ34のリアを再びスライドさせる。
速度は140キロ台をマークし続け、走行レーンの教会との隙間5cm程度まで切り詰めた、文字通りの限界ギリギリの走りをする。
その勢いは明らかにいようと言っても過言ではなかった。
普通の車では明らかにオーバースピードと言うべき速度でRZ34はコースの中央付近をドリフトしていくのである。
下手をしたらコース外に吹き飛びかねない速度でRZ34はドリフトしていく。
そしてRZ34の前に、白煙と共に見覚えのある赤い光が露になった。
「(追いついてきた…!)」
先行するアルシオーネ。
どうやら第3コーナーで大幅に詰めているようだ。
向こうの速度は110キロ出ているかどうかも怪しい。
RZ34はコーナーでの勢いを維持したままアルシオーネに徐々に接近していく。
「(追いつかれた…!?インコースの、オレ、が…!?)」
後方のバックミラーが光った事で、アマネはRZ34に追いつかれている事を把握した。
だが、アルシオーネをドリフトさせることに必死になっていたアマネにはもはや逃げる事しか方法は浮かばない。
アルシオーネの前輪がコーナー出口のドリフトラインを踏みつけた瞬間にアクセルを全開に踏み込む。
速度は110キロから120キロまで加速するが、RZ34には明らかに劣っていた。
「(…食らいつく!)」
コーナーの出口に向かってRZ34のハンドルを徐々にニュートラルに戻す時雨。
コーナー出口のドリフトラインをRZ34のヘッドライトが照らし、先行するアルシオーネが第4コーナーの左直角コーナーに突入しかけているのが見えた。
「(第4コーナーと第5コーナーの間…そこで食いつく!)」
ハンドルをニュートラルに戻した瞬間、RZ34の前輪がドリフトラインを踏みつける。
そしてそれと同時に時雨は再びアクセルを踏みつける。
130キロ台まで減速していたRZ34は150キロまで加速して第4コーナーの左直角コーナーに迫る。
アルシオーネは何とかコーナーを立ち上がる瞬間だった。
「(第4コーナーまでは抑えた、けど……!?)」
第4コーナーから第5コーナーまでのストレートを走るアルシオーネ。
だが何とか逃げ切ったかに思われたその瞬間だった。
「―――!!」
後方のRZ34が突如テールトゥノーズの状態に現れたかと思いきや、RZ34は高速移動の如くアルシオーネとサイドバイサイド。
そして1秒もしないうちにアルシオーネを追い抜いてしまった。
RZ34とアルシオーネの速度差は間違えなく30キロ以上はある。
アルシオーネは立ち上がりでアウトコースで会った事もあったのか、思うように速度は伸びなかった。
そしてその隙をついたかのように、RZ34はあっという間にオーバーテイクするのだった。
「(ストレートでもコーナーでもこんなに差を付けられるなんて、冗談じゃねえ…)」
アマネは負けを認めざるを得なかった。
自分が有利なインコースであってもその差をあっさりとひっくり返された。
そしてもちろんストレートでもあのRZ34は格段に速かった。
とてもではないが自分が敵う敵ではない…そう思ったアマネは、あっさりと降参したのだった。
第5コーナーをノーブレーキのドリフトで駆け抜けたRZ34は、完全に後方のアルシオーネをバックミラーからも消し去った状態で第6コーナーも駆け抜け、最終ストレートを走り抜けてゴールするのだった。
タイム差としては約4秒と言ったところだった。
◇ ◇ ◇
―――スタート/ゴール地点
「んまっ!完敗だわ!さすがね、あなた達!」
車から降りたアマネは2人を褒めるようにこう言うのだった。
「あ、ありがとうございます…」
「僕達、やっぱり『皇帝』には勝たないといけないので…」
すると返事をした時雨と奈美子に対してアマネは何か興味を持っているかのようにこう言うのだった。
「ホホホ!いい走りだったわよ。…あ、そういえばナビ子ちゃん、お兄さん、すごーくイケメンなんですって?」
「えっ?ええ…」
アマネがどこか好奇心ありげにこう言うのだった。
「一件落着したら、その…私に紹介してもらえないかしら?」
「えっ…?」
「え…!?…あの、それはどういう…?」
疑問を持った2人にアマネは言葉を続ける。
「んまっ!ドライバーとして伝説の『皇帝』に一度お目にかかりたいって話よ!もう、ヤダわっ!」
「は、はあ…まあそういうことでしたら、勿論」
「ありがとう!ぜひよろしく頼むわ!!…あ、また何戦かチームメンバーと相手したらイズミさんもすぐに現れるからね。頑張りなさいよ!!」
「あ、はい…頑張ります」
そう時雨は呟き、軽く会釈をしてRZ34に再び乗り込むのだった。
どこかアマネは喜んでいるような顔だった。
しかしスタートラインに移動している際に奈美子は、時雨に対してこう言うのだった。
「ふと思ったけど、お目にかかりたいならイケメンの話って関係ないよね…?」
「どうだろう…あまり気にしない方がいいよ。今はバトルに集中しよう」
「そ、そうね…」
どこか複雑な心境を抱きながら2人を載せたマシンは再びバトルへと向かうのだった。
―――15分後。
時計は23時50分を示していた。
―――スタート/ゴール地点。
部下たちとのバトルを終えた時雨と奈美子のRZ34の前に現れたのは、2人を呼びつけたアイドルの姿だった。
バトルを終えて駐車場に戻ってきた2人に対し、イズミが声を駆ける。
「イズミ…僕達、皆倒してきたよ」
「相手してくれるかしら?」
スピードセンター才観山もオープンの時間は基本的に午前0時までである。
そのため、次のバトルが最後になるだろうと思われた。
「よーし。時間も時間だしな、あたいとのバトルでこのコースでの総仕上げといこうぜ。ところでお前たち…皆倒してくるなんて、いつの間にかすげぇ強くなったんだな!」
「え…そう、なのかな?僕は、この車を必死に乗りこなしているだけだから…正直、良く分からないかな」
時雨はどこか自信なさげにそう言うのだった。
「ハハハ!そんな変に謙遜する必要なんてないだろ!実際お前たちはあたいらをみーんな蹴散らしたんだからさ!」
「…でも、僕たちがこのコースを速く走れるようになったのは、きっと皆が協力してくれたおかげだと思うんだ。本当にありがとう」
時雨はにこやかな顔でそう言うのだった。
「協力?…ちげぇよ、そんなんじゃねえよ!あたい達は、頑張るお前たちをちょっと応援してるだけ…ってあれ、同じようなもんか」
「いいの、とにかく嬉しいわ」
「や、やめろよ…そんな改まって。照れるじゃねえか!そ、それよりバトルだ!この為に用意したあたいの車に勝てなきゃ、先へは進ませないぜ?」
すると、イズミの言葉がどこか引っかかったかのように時雨が疑問を抱いてこう言った。
「…ちょっと待ってくれ。この為に用意した…?イズミ、君も車を新しく用意したのかい?」
「おっ?そこ聞いちゃうか?」
イズミはどこか「待ってました」と言わんばかりにそう言うのだった。
「…ああ、そうさ。お前たちとバトルした時にFDは大破しちゃったけど、あの後なかなかの上物の個体が手に入ってな…こっちに来てくれ!」
そう言ってイズミが駐車場の奥に2人を連れ出すと、そこに止まっていたのは黄色のFD3Sだった。
「これは…前と同じ、FD3S?」
「黄色に塗り替えたのね!でも、これって…?」
奈美子が気になったのは後方のリアスポイラーである。
イズミが以前乗っていたFD3Sとは異なるものであるのは明らかであった。
「ふふん…この車はFDであってもただのFDじゃない。ロータリーエンジン誕生30周年を記念して作られた500台限定モデル…『FD3S型RX-7 タイプRS-R』だぁ!!」
そう、イズミが新しく買い替えたのはFD3Sの中でも貴重な、記念モデルのタイプRS-Rだったのである。
サンバーストイエローに塗られたFD3Sは、どこか特別な雰囲気を醸し出しているのだった。
「500台限定モデル…そんな車があるんだね」
「また珍しい車が出て来たわね…!」
「いや~、あの事故の後から色々新しい車に乗り換える事を考えていたんだけど、やっぱりあたいにはFD3Sしかないって思っちゃってさ…そしたら仕事で出会った知り合いにこんな車があるって言われちゃって、つい買っちゃったんだ!」
「そうなんだ…いい車だと思うよ」
「専用のアルミホイールがイカしてるだろ?…ってまあ、時間もないからあたいの新車自慢はこれくらいにして…この車に食らいついてみせろよ!さあ、勝負だぜ。時雨、奈美子!」
「…わかった。始めよう」
「ハンディキャップは4秒だ!中間地点からのスタートと行こうぜ!」
イズミの言葉に時雨は軽く頷き、奈美子共々RZ34に乗り込むのだった。
◇ ◇ ◇
―――vsアイドルのイズミ
推奨BGM:DOMINATION(from Initial Dave Eurobeat Series Vol.1)
単純なパワーではなくテクニックが要求される中間地点からのスタート。
左レーン、FD3S。右レーン、RZ34。
クローズの時間が迫る中、2台のエンジン音が山の中に木霊する。
どちらも互いに速く走り出したいという意気込みが聞こえてくるかのような…
それくらい激しい音だった。
「(さあ…追いかけて来い!)」
エンジン回転数7000回転でギアを切り替え、加速していくFD3S。
ハンディキャップを与えられたその車は、兎に角逃げろ逃げろと言わんばかりに加速していく。
4秒のハンディキャップのうちにFD3Sは第1コーナーである左ヘアピンコーナーの先に消えた。
「……」
鬼役のRZ34…時雨。
先行するFD3Sを追いかける事になるが、もはやここまで何度も走ると慣れたものであった。
この車のスペックがとんでもなく高い事は時雨自身でもわかっているのだ。
だからこそ車の真価を引き出して、あの車に追いついてみせたい。
いや…追いつかないと、皇帝には絶対に追いつけないだろう。
そんな思いが時雨にはあった。
「(僕の心の雨は……何時まで降り続くのか)」
この時、真実を追い求める時雨の心の感情は暗いものだった。
どこか心の中には雨が降り続いている。
それは奈美子にも話していない秘密の感情。
真実を追い求めるあまり時雨の感情は時に不安定になる。
その不安定になった時に現れるのが、心の中に降り続く雨である。
だが一方で前へ向かって真っすぐ走り続ける時…あの皇帝を追いかけ続ける時だけ、気持ちが落ち着くような感覚だった。
真実を追い求める時だけ…その真実を触れる事さえできれば、この雨は降りやむのかもしれない…
そう時雨は思った。
「(先を急げ…今はこのコースを誰よりも速く走るだけだ!)」
感情に振り回されたところでマシンが牙を剥くだけ。
一時の感情を気にする事よりも冷静になってコースを速く走る事。
それが今の時雨にとっての優先事項である事はすぐに思い出した。
アクセルを踏み込んでエンジンを回転させる中でFD3Sが発進し、カウントが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!!」
カウントと共にギアを切り替えてアクセルを全開で踏み込む。
エンジン回転数…8800回転。
ロケットスタートを決めたRZ34は一気に150キロまで加速する。
すぐに第1コーナーである左コーナーが迫る。
オーバースピード気味に突っ込もうとする中、ハンドルを右に曲げたかと思いきやブレーキをかけて一気に左に切り返す。
逆ドリフト…一言で言えばフェイントモーションを効かせる事で、マシンを減速させてヘアピンコーナーへ突っ込む。
ハンドルを左に曲げたところで前輪がドリフトラインを踏みつける。そしてその瞬間にアクセルを全開で踏み込み、リアタイヤを空転させてドリフト態勢へ。
白煙を上げながら、走行レーンにそれぞれ存在する赤ゼブラゾーンと白ゼブラゾーンの境界ギリギリをインベタとも言うべき状態でドリフトしていくRZ34。
速度計は150キロ台をキープし続ける中で、時雨はハンドルを右に切り続けてカウンターを当てる。
そしてそんな中で前方を照らすRZ34のヘッドライトがコーナー出口のドリフトラインを照らす。
「っ…!!」
ドリフトラインが視界から消えようとした瞬間、アクセルをリリースして徐々に車を振り返していく。
そしてハンドルを右に曲げ続けた状態で前輪がドリフトラインを踏みつける。
アクセルを再びハーフスロットルで踏み込み、立ち上がりで抑え目に加速する。
だがRZ34の前にすぐ次のコーナーである右ヘアピンコーナーが迫る。
アクセルを再びリリースし、ハンドルを右に曲げ続ける事でリアタイヤを徐々に滑らせ始める。
160キロオーバーという速度である以上パワースライドは容易であった。
走行レーンの外側からテールスライドの状態で内側に接近していくRZ34。
すると前輪がドリフトラインを踏みつけ、アクセルを踏み込んでテールスライドをさせようとしたその瞬間だった。
「―――――!!」
両手両足から伝わった、電圧の強い静電気のような感覚。
RZ34がドリフトしてハンドルを右から左に何とか切り返す中で、時雨の両手両足に熱がこもっていく。
そしてその熱は全身へと一気に伝わった。一気に体が炎に包まれた感覚になる。
自分の体に炎が引火して全身を包み込むように、体全体を焼き尽くすかのような感覚に襲われる。
下手をしたら意識を持っていかれるような…さらに言ってしまえば時として聴覚や視覚すら持っていかれる、文字通りのあの感覚であった。
そんな中でRZ34はヘアピンコーナーをインベタで右端の壁との隙間10cmというギリギリの走行ラインを描きながらドリフトしていく。
「(あの感覚が…この車でも現れたっていうのか…!?)」
以前のワンエイティの時、何十ぺんも走っていると自然と現れた「全身が炎に包まれるあの感覚」。
それが今回に限っては周囲の音が風を切る音しか聞こえなくなっている。
しかも視界は狭まり、視野の端っこに黒い線が視野の真ん中に向かって大量に描かれる。
それでもアクセルを踏むことはやめない。ハンドルを曲げ続ける事もやめない。
止めてしまったら間違えなく、特訓の成果が全て水泡に帰してしまうと考えていたからだ。
170キロ近い速度を維持しながら、RZ34はヘアピンコーナーをインベタの状態でドリフトしていく。
そんな中でコーナーの出口が迫っていく。
「―――!!」
アクセルをリリースし、ハンドルをニュートラルに戻してドリフト態勢から通常走行へ。
インベタの状態だったRZ34は徐々に走行レーンの真ん中へと進路を変えていく。
そして走行レーンの真ん中に到達した瞬間、RZ34の前輪はドリフトラインを踏みつけた。
「…!」
ハーフスロットルの状態で、170キロ台を維持しながら加速していくRZ34。
目の前には左直角コーナーからの右ロングヘアピンという第3コーナー…複合コーナーが迫る。
ハンドルを右に曲げた上でブレーキをかけ、170キロ台から140キロ台まで減速させる。
そしてドリフトライン直前でハンドルを右から左に切り返し、振り子の法則…文字通りのフェイントモーションでマシンを一気に左に振り回す。
「(ここ、だ…!)」
ハンドルを左に曲げたところでアクセルを踏みつけ、リアタイヤをテールスライドさせていく。
そしてテールスライドした次の瞬間にはハンドルを一気に右に切り返す。
走行レーンの左端ギリギリをドリフトするRZ34は、左直角コーナーをインベタの状態でドリフトしていく。
だが、インベタの状態でドリフトしたところで目の前に迫るのは次の右ロングヘアピンコーナー。
140キロ台を維持するRZ34はあっという間に次のコーナーへ突入する。
「(今だ…!!)」
アクセルをほぼリリースした状態で、ほぼ右の直角に曲げていたハンドルをさらに20度程…ハンドルの向きが135度程になるまで右に曲げて、RZ34を振り返す。
右に曲げていたことによってRZ34は走行レーンの左端から右端へと一気に移動していく。
右端へと移動する最中にRZ34はリアタイヤを時計回りの方向に振り回し始める。
そんな中で時雨はアクセルを踏み込み、右に曲げていたハンドルを今度は一気に左に曲げてカウンターを当てる。
テールスライドする中、切り返しを決めたRZ34は白煙を上げながら第3コーナーの右ヘアピンコーナーを140キロ台で駆け抜けていく。
そしてそんな中で、目の前にあの車が姿を現す。
「(もう追いついて来やがった…!?)」
先行していた黄色のFD3Sのドライバー…イズミは、ハンドルを左に曲げてカウンターを当てながら大きく動揺していた。
右サイドのバックミラーに映った白色のライトを照らす白銀のマシン。
その存在はマフラーからの爆音とともに徐々に存在感を増していく。
そう簡単に追いつけまいと思っていたが、まさか第3コーナーで追いつかれるとは思っていなかったのだ。
幾ら向こうがモンスターマシンであるという事を承知の上だとはいえ、こちらの速度は120キロ程度しか出ていない中で向こうは一体何キロ出ているのか…
そうイズミは驚愕するしかなかった。
そして驚愕したところで、FD3Sの目の前にコーナー出口のドリフトラインが現れた。
「(ぐっ…逃げろ…!)」
ハンドルをニュートラルに戻し、アクセルをリリースしたところでFD3Sの前輪がドリフトラインを踏みつける。
そしてその瞬間、再びアクセルを全開に踏み込む。
判定…「Excellent +0.55m」。
判定こそよかったが、後方のRZ34の存在はさらに大きくなる。
向こうがとんでもないマシンである事は分かっていても、その速さはハッキリ言って異常と言ってもおかしくはなかった。
右サイドのバックミラーのヘッドライトがさらに眩しくなり、RZ34が迫ってくる。
だが、次の第4コーナーは左直角コーナーだった。
そう易々とは抜かせまい…そうイズミは思ってブレーキをフラッシュさせた。
だが次の瞬間だった。
「(アウトから!?)」
RZ34はほとんど減速する気配はなく、FD3Sのテールトゥノーズに付く。
そしてFD3Sがハンドルを左に曲げてドリフトしたその瞬間だった。
アウトコースを走るRZ34は、その馬力と性能を遺憾なく発揮するかのように白煙を上げてFD3Sのリアとの隙間数cm単位で接近したかと思いきや、コーナーのクリッピングポイントであっという間にサイドバイサイドになってしまった。
「な……!」
カウンターを当てるべく右に曲げていたFD3Sは直ぐにハンドルをニュートラルに戻し、アクセルをリリースする。
だがその瞬間、RZ34は猛然とFD3Sをドリフトしながらオーバーテイクしてしまった。
自分がドリフトの態勢を崩そうとした瞬間には、RZ34はあっさりと追い抜いてしまったのである。
そして前輪をコーナー出口のドリフトラインへ踏みつけたRZ34は、そのままの勢いでコーナーを脱出して立ち上がっていく。
速度は間違えなく150キロ台は出ていた。
眼の雨のストレートに向かって猪突猛進とも言わんばかりの勢いで立ち上がっていくRZ34。
その姿に、イズミはただただ驚愕するしかなかった。
「(あたいが…こうもあっさりと、ここまで歯が立たないとはな…!)」
どこか負けを認めるかのようにイズミはそう思った。
何せあのRZ34は自分の錯覚かもしれないが、青い炎に完璧に包まれていた。
まるで公道を走る青い火の玉である。
あそこまで底力を発揮されてしまっては、もはや自分が敵う敵なんかではない。
イズミは第4コーナーと第5コーナーのストレートでRZ34に振り切られる中でそう思ったのだった。
「(この感覚を維持し続ける事が出来れば……)」
一方、第4コーナーと第5コーナーの間のストレートを駆け抜けるRZ34の中で時雨はそう思っていた。
全身が炎に包まれる感覚がここにきて遂にこのRZ34でも具現化した。
視覚は狭まり、周りの音が空気を切り裂く音しか聞こえない中で自分はただアクセルを踏み続けてハンドルを握り続ける。
それでもその感覚の中にいれば、自分は間違えなくこの車を速く操る事が出来るのだろう…そう時雨は思うのだった。
第5コーナーを抜け、再びストレート。
暗闇の道の中をアクセル全開で踏み続け、完璧にFD3Sをバックミラーから消し去った。
しかし一方でアクセルを踏み続ける最中時雨はこうも思うのだった。
「(それでも、真実を追い求めないと…僕の雨は降りやまないのかもしれない…)」
心の中に降り続く雨のような感覚。
この感覚は未だに時雨に残り続けている。
やはり自分には真実を追い求めるしかないのだろうか。それともより速い相手を欲しているのか。
何にせよ皇帝と対峙する事になれば…もしかしたら、その真実を知った瞬間に雨が降りやむのかもしれない。
そう時雨は思うのだった。
そしてそんな思いを抱きながらRZ34は最終コーナーを立ち上がり、最終ストレートへ。
軽くジャンプしたかと思いきや190キロ近い速度でゴールラインを駆け抜けるのだった。
―――勝者、時雨。
タイム差はなんと5.5秒もあったのだった。
―――スタート/ゴール地点。
RZ34の後ろにFD3Sを止めてそこから降りたイズミが、先に止まっていたRZ34から降りてきた奈美子と時雨に話しかけた。
「かーっ!歯が全く立たねえや!やっぱ強ぇえよ、お前達!」
「イズミ…」
するとイズミはどこか奈美子の様子を気にするようにこう言った。
「あたい達は『ダチ』だろ!気にするなっての!助けてもらった時の礼が、少しは…出来たか?」
その言葉に対し、時雨と奈美子はこう言うのだった。
「僕達は別に…そこまで気にしてないよ。でも…少しは、速く走れるようになったと思うんだ。ありがとう」
「そうそう…特訓に付き合ってくれて本当にありがとう!」
すると、礼を言った2人に対してイズミは言葉を続けた。
「ハハハ、照れちゃうな…まあでも、四天王は残り半分だぜ!今日はもうコースがクローズになっちゃうから続きは明日になるけど…残りの2人、ソウイチ先生もトオルも、明日でちゃちゃっとひねってやりな!」
イズミは時雨たちを激励するようにそう言うのだった。
「わかった…僕達、頑張るね」
「私たち、絶対に勝ってみせるわ!」
「おう!頑張りな!」
そう2人がイズミに対して言ったところで、この日のバトルはお開きになった。
明日は夕方に箱根パイクロード、夜に不二観峠が特訓の地となるらしい。
半分を回ったとはいえ、まだまだ特訓は続く。
今日の疲れを明日に残さないようにするためにも、時雨と奈美子はそれぞれの車に乗り込んで足早に撤収するのだった。
四天王の2人とその部下たちを再び撃墜した時雨と奈美子。
だがコースはまだ4つ残っている。
最後の戦いに向け、確実に速くなっている時雨と奈美子だが、果たして全てのコースで勝利する算段は立っているのか。
バトルの時は刻々と迫っていくのだった。
(第31話End)