「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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「いつ路」エピローグ1話になります。
エピローグ自体は3話+短編1話の予定です。
遂に時雨が己の過去と向き合う事になります。
果たしてそれがどのような結末を迎えるのか?


エピローグ -未来(いま)を駆ける者編-
Epilogue.1「Truth(真実)」


遂に時雨は、ずっと目標にしていた皇帝に勝利する事が出来た。

皇帝は奈美子の事を思い出し、奈美子の元へと戻る事を告げる。

だがそれでも、時雨の事を皇帝が助けてくれたことについては最後の最後でジョーカーという邪魔者が入り、真相を暴く事は出来なかった。

そして彼女はジョーカーの下敷きとなり、病院に運ばれることになる。

全てを終えた時雨の前に、真実が迫る…。

 

 

 

 

―――葦柄病院、入院塔病室における個室の一角。

12時15分。

 

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「…時雨君の容体は?」

「まだ目を覚ましていません…」

「そうか…」

病室に入ってきたDr.ソウイチ。

ベッドに布団をかけて寝ている時雨のそばには、奈美子やハルカ、トーコ、ヒロシと四天王の3人…トオル、ジュン、イズミが容体を見守っていた。

 

「先生、まだ時雨は目覚めねえのかよ?あたい達があの後病院に運ばれて治療を受けた後も、全くもって目覚めないなんて…」

「一度家に帰ってもまだこの状態なんて、信じられねえっすよ…」

「時雨は本当に大丈夫なのか?一流の治療は施したとはいえ…大丈夫なのだろうな?」

意識を失って病院に運ばれた時雨は、軽い打撲で済んだ。

だが、意識はまだ取り戻せていなかった。

心臓こそ動いているが、よっぽどの重体なのか、治療の後一度解散して先ほど四天王の3人と仲間4人が再集結してもまだ時雨は目を覚まさなかった。

 

「…治療はしたのだが…気を失っているにしてもかなりの長時間になるな」

「先生…マジでなんとかしてくれよぉ」

「そう言われてもな…おや?」

時雨の顔を見たソウイチが、ある変化に気が付いた。

 

「これは…」

「…泣いている?」

眠っている時雨の目から、涙が流れていた。

これで意識があること自体は明白になっただろう。

するとその時だった。

 

「うう、うう…」

「…寝言?」

「どうやらもう大丈夫そうだな…」

ソウイチは安堵したが、時雨は涙を流しながら誰かを呼ぶようにそう口をパクパクさせていた。

 

「ゆき……ゆき……」

「ゆ、ゆき?」

「一体、何を見ているというのだ…?」

そうジュンが疑問に思った次の瞬間だった。

 

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「う………」

ずっと意識を失っていた少女…時雨は、瞼を少しずつ開けて目を覚ました。

それに歓喜するかのように、見守っていた仲間たちが声をかける。

 

「時雨!!」

「よかった!」

時雨の目の前はぼやけていたが、直ぐに元に戻った。

視界に見えたのは、見知らぬ天井の下にいる奈美子、ハルカ、トーコ、ヒロシ、そして四天王の4人。

自分はどうやらベッドに眠っていたようだ。

 

「……奈美、子…?それに…みんな…?ここは、一体…?」

「葦柄病院よ。時雨、あなた何が起きたか覚えてる?」

「……え、っと…」

「時雨君、君はジョーカーの下敷きになってな…助けたものの意識不明になっていたのだ」

トーコとソウイチがそれぞれ説明するようにそう呟いた。

 

「(そうか…戻って、これたんだ……僕は…)」

2人の声を聴いて、どこか安心するかのようにそう思った。

あの絶望的状況から自分は戻ってくることが出来た。

こここそが自分がいるべき現実なのだろう。

そう時雨は思った。

 

「僕、は…」

だが、起き上がろうとした瞬間だった。

 

「いたっ…!!」

「時雨!?大丈夫!?」

「か、体中が……!うぐ…っ…!」

全身を襲う激しい痛みと疲労感。

体がまるで動くことを拒否しているかのようだった。

起きようとした時雨だったが、強制的にベッドに横たわる事になる。

 

「先生、これは…」

「恐らくあのバトルに伴う筋肉痛だろう…数日間は安静にしていたほうがいいだろうな」

ハルカの質問にソウイチが症状の事を説明するように語った。

 

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「筋肉痛…ですか」

「骨折とかそう言うのはなかったからな」

「そんなに激しいバトルだったんだのかよぉ…でもまあ時雨ちゃん、あのバトルの後から半日近く寝てたんだぜぇ。本当にお疲れだったんだな…」

「……半日…」

「とりあえず、話をするならリクライニングを上げよう。ちょっと待ってくれ」

そう言ってソウイチがベッドのスイッチを操作し、時雨が眠っているリクライニングの角度を上げた。

 

「どうする?君が望むなら30分ほどの点滴を打つことも可能だが…」

「点滴…?」

「まあ、筋肉痛自体そこまで長引くとは思わないから2日ほど経過観察のほうがいいのかもしれないが」

「…経過観察で」

時雨は自然治癒の方を選んだ。

 

「わかった。あと入院費用は私が立て替えるよ。お金もいらないからな」

「…いいんですか?」

「あれほどのバトルを見せてもらったら、喜んでサービスするさ」

「…あと、車は?」

「RZ34のことか?あの車は既に私が病院の駐車場に移動させた。安心してくれ」

時雨はソウイチの言葉に何も言い返すことが出来なかった。

全身の筋肉が痛むが、それ以上に頭の中がボーっとしていた。

やっとすべてが終わったのか。

真実を追い求める為の戦いが、やっと終わったのか。

そして自分の過去を追い求める事についても、やっと終わったのか。

そう思っているうち、ある事について時雨は思い出したかのように口にした。

 

「そ、そうだ!ジョーカーは!?あいつは…!?…っ!」

「時雨!」

起き上がろうとするも再び時雨を痛みが襲った。やはり筋肉痛なのだろう。

 

「落ち着け、ジョーカーの事なら安心しろ」

時雨の質問にトオルが落ち着くようにそう言った。

 

「え?」

「あの後ジョーカーは警察に連れていかれたぜぇ。色々やらかしてるし、間違えなく牢屋行きだってさ」

「……そう、だったんだ」

ヒロシが語った顛末について、時雨は安堵したかのようにそう呟き安心した。

全ての元凶についてはどうやら警察に連れていかれたようだ。

そう安心したところで時雨の全身の力はさらに抜けていくような感覚だった。

もはや生気を失いかけていた時雨は、再び眠りにつきかけていた。

明らかに疲労困憊の中、時雨は色々な事が頭の中でフラッシュバックしていた。

だがその瞬間だった。

 

「そう言えば時雨…おめぇ、寝言を言ってたみたいだけど…」

「寝言?僕が…?」

「ずっと誰かを呼んでいるようだったぜ…『ゆき』『ゆき』って…」

イズミが時雨に対する疑問を投げかけた。

 

「雪………?」

「雪って…何だぁ?なんか冬に関する夢でも見ていたのか…?」

「……」

「誰かを呼んでいるどころか…涙も流していたのよ」

「………僕が……」

時雨は豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。

どうやら人を呼んでいるというのはあながち間違いではなかったようだ。

 

「時雨、一体あなたは何を見ていたというの?覚えているものでいいから教えてくれないかしら?」

トーコがそう疑問を口にした。

時雨自身あまりその事については答えたくはなかった。

しかしもうそろそろ、自分の事については言う必要があるのではないか?

そう時雨は思い、一度は下を向いた顔を上げてトーコに対してこう言った。

 

「……僕、色々と思い出したんだ…」

時雨はそうハッキリ言った。

 

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「思い出す?」

「まさか!」

トーコが聞き返したところで、奈美子が割り込むようにこう言うのだった。

 

「時雨!ここでその話をするのはマズいわ!出来れば退院の後に…!」

「お、おい…」

奈美子に加えてトオルが制止を促すように言った。

だが既に、奈美子が言った時点で時すでに遅しと言うべきだった。

 

「ナビ子よ、一体どういうことだ?」

「思い出すって、何をだよ…?」

「時雨君に、一体何があったというのかね?」

トオルを除く四天王3人が説明を求めるように奈美子に言い寄るかのように言った。

 

「あわわわわ…マズいぜぇ。これは俺達だけの秘密だったのに…」

「っ……」

「秘密とは一体どういうことなのかね?説明してもらいたいのだが」

「そ、それはその…」

ヒロシはしどろもどろになって言うしかない。

ソウイチの言葉に奈美子もどう答えればいいかわからないかのような状態だった。

時雨の秘密は四天王の3人には話していないのであるのだから、身から出た錆とはいえどうすればいいのかがわからなかったのである。

するとそれを見かねた時雨が重い口を開いた。

 

「―――先生」

「ん?どうした」

「……僕のことについて、話してもいいですか?」

「時雨さん!」

「時雨!ダメよ!!この話は私たちだけの…!」

「そ、そうだ!やめろぉ!!」

時雨の言葉にハルカに奈美子、ヒロシが静止せんとする。

ここで色々と話したところで彼らが必ず信じてくれるとは思えない。

それどころか大きな騒ぎになる可能性もあるのではないか、そう思った3人は制止を促すのだった。

だが時雨の覚悟は決まっていた。

 

「いや、いいんだ…奈美子。皆には特訓の事や、車の事でとても助けてもらった…だから僕も、自分の事については…包み隠さず話したいんだ。これは、僕の意志だ」

「時雨……」

「しかし時雨君、そこまでの話なら無理に話さなくてもいいぞ…」

奈美子やハルカ、ヒロシの焦燥ぶりを見たソウイチは、「無理に話す必要はない」と前置きをするかのように言った。。

すると時雨はソウイチの言葉にこう言葉を続けるのだった。

 

「…その代わりと言いますが、この話は…ここにいない人には誰も言わないって、約束してくれますか?」

「時雨ちゃん…ホントにいいのかよぉ…」

ヒロシが身を案じるかのように時雨に対して呟く。

するとその様子を見たジュン、イズミ、ソウイチがそれぞれ言葉を口にする。

 

「…わかった。何やらただ事ではないようだからな…一流の私が約束しよう。これはここにいる我々だけの秘密にする、とな」

「あたいも約束するよ。時雨、色々ありそうだしな…」

「うむ、私も守ろう」

四天王の3人が同意するように言ったのを見て、時雨は表情を緩ませてこう言った。

 

「…わかりました。じゃあ、話が長くなると思いますが…僕の話を、聞いてください」

 

 

 


 

 

 

 

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水を1杯飲み干した時雨は、ポツリポツリと話し始めた。

 

「まず……僕は、この箱根に初めて現れた時、全ての記憶を失っていたんです」

時雨は断言するようにそう言った。

 

「何だと!?」

「そうだったのか!?じゃあ、ショウ君と同じように…」

「記憶喪失って、ことかい…?」

トオル以外の四天王がそれぞれ反応を露にする。

それらに対し時雨はこくりと頷いた。

 

「僕は記憶を失っていたところ、偶然奈美子とヒロシのバトルの場に居合わせて…それで僕は、バトルに巻き込まれる形になって、その後奈美子やハルカさん、トーコさんに世話になりつつ…僕は、ピットのアルバイトとして雇ってもらっていたんです」

時雨の言葉に驚く四天王の3人。

すると言葉を口にしたのはソウイチだった。

 

「そうだったのか…だから貴様は、いつもピットでツナギを着て働いていたという訳だな…」

「しかし気になったんだけど、バトルが出来るってことは免許証は持っていたんだろ?名前とかはともかく、家族とかに連絡も取れなかったのかい?」

イズミが疑問を口にする。

するとその疑問に答えたのはハルカと奈美子だった。

 

「それについては…私と奈美子さんで警察や役所に届け出を出したりとかしました」

「…でも、身元引受人は誰もいなくて、住んでいたであろう住所もすでに誰も住んでいないと警察からは言われてしまったの」

「そ、そうだったんだね…」

ハルカと奈美子が説明するようにそう言い、イズミは納得したようだった。

するとソウイチも続けて質問する。

 

「しかしそうだとしたら気になったのは、あのワンエイティの存在だ。何故記憶喪失の君があのかなりカスタムされたであろうロケットバニーのワンエイティに乗っていたのかね?」

「えっと…それは」

「そこについては、俺が話すぜ」

「トオル…?」

トオルは自分が当事者であるように説明し始めた。

 

「時雨はさっき、ピットで雇ってもらったって言ったよな?」

「うむ、言っていたな」

「それで奈美子の『人探し』…つまり奈美子の兄貴、皇帝を探してほしいということになって、新しい車が必要になったんだ」

「それで買ったがあのロケットバニーワンエイティだというのかね…?」

「…いや、ちょっと待て先生。それでは辻褄が合わん」

ソウイチの言葉に、ジュンが疑問に思ったかのように言った。

 

「辻褄?」

「時雨は最初、あの青色のワンエイティではなかったはずだ。私たちハートビーツの連中と戦っていた時のワンエイティは…黄色がかった銀色だった。それにエアロもノーマル同然だったはずだ。」

「そうそう…あと確かそれをエンジンブローさせて、初めてアリスの前に現れた時はNCロードスターに乗っていたと聞いているよ」

ジュンとイズミは聞いていた話を口にした。

 

「…ジュンやイズミの言う通り、時雨は最初からあのロケバニワンエイティに乗っていたわけじゃねえ。そこでさっき、『ピット』に雇ってもらったって話は時雨がしたな?」

「…つまり、元々の車はピットのものだったっていうのかい?」

「えっと…そうです。元々時雨さんが乗っていた前のワンエイティは、私が仕事に役立つかなと思って、研究用に買っていたマシンだったんです…」

ハルカが認めるようにそう言った。

 

「ほう、あの時の車はピットのオーナーである貴様のものだったというのか」

「はい…ですが元々時雨さんが乗るなんてことは全くもって想定していなかったんです」

「先ほども『研究用』と言っていたな…やはりチューニングとかの研究材料という訳だったという事か」

「そこに奈美子さんが、記憶喪失の時雨さんを連れてきて、探している人…つまり皇帝を探すのを手伝ってほしいって、提案したんです。でもそれで奈美子さんのS30Zはあまりにも非力すぎるだろうと時雨さんが言って、そこで…」

ハルカは話せることを全て吐露するように言った。

 

「すでに用意されていたワンエイティを差し出したという事かね?」

結論を確認するようにソウイチが言った。

 

「はい」

「……でも、その車はただのワンエイティじゃなかったんです」

そう言ったのは時雨だった。

 

「…どういうことかね?」

「これは、ジュンとバトルしてエンジンブローした後にやっとわかったんですが…」

「…タイプⅢのワンエイティに、CA18が乗っけられていたんだ」

時雨の言葉に続いてトオルがそう言うと、ソウイチは驚きを顔にした。

 

「何だと!?…つまり最初に乗っていたワンエイティは、元のエンジンより非力なエンジンを載せられていたというのかね!?」

「ああ…もともと研究用で買っていたあのワンエイティは、実は事故車でエンジン載せ替えがされていた。だがそれでも売れず、事故車という事を隠して捨て値で売られていたのを、ピットの嬢ちゃんが買ったんだ」

「あの時は驚いたっす…まさか普通じゃないエンジンが…型落ちのエンジンが乗せられているなんて、想像がつかねえっすよ」

トオルとヒロシが説明するようにそう言った。

 

「そうだったのか…つまり前に乗っていたそのワンエイティは、訳ありの非力なマシンだったのか…それで神風連合はともかく、ハートビーツのドライバーたちまで倒していくとは…」

ソウイチはまだ驚きを隠しきれないようだった。

 

「元々私がプライベートで買った以上そこまではよかったんです。でもまさか、人が使う事になるなんて私は予想している訳もないので…」

「なるほど…確かにチューニングの研究で別の車を買うのは分からなくもないが、そのワンエイティにはそんな秘密があったのか…」

「…でも、さっき言った通りジュンとのバトルで、最初のワンエイティはエンジンブローを起こして再起不能になってしまった。そこはジュンも覚えてると思う」

シーンを進めるように時雨はそう呟いた。

 

「時雨…うむ、確かにそうだったな。あの忌々しい記憶だ」

「……それを見かねた俺は、時雨の才能や実力を見てある事を提案したんだ」

「それは一体?」

「…新しい車を提供する、ってことだ」

トオルが真相を遂に明らかにした。

それに対しイズミとソウイチが食いつく。

 

「…じゃあ、あのロケバニワンエイティは!」

「ああ、俺が買い与えたものだ」

「そうだったんだね…!」

「だから、あのワンエイティを…」

トオルの言葉に残りの四天王…ジュン、イズミ、ソウイチも納得するように言った。

 

「トオルやソウイチ先生のお陰で、僕達は皇帝への道を辿り、そして勝つことが出来ました。…本当に、感謝しています」

すると時雨の言葉に対してソウイチはどこか納得したかのようにこう口にした。

 

「…しかしトオルが実力を見て車を買い与えたというならば、私があのRZ34を与えたくなったというのも納得がいく。やはり時雨君の潜在能力は、とんでもないものだったという事だな…」

「先生…」

そしてここから、時雨は本当のことを話した以下の様にこう言葉を口にした。

 

「…あの、話題が脱線したと思うんですが…その上で、僕は色々と話したいことがあるんです」

 

「話したい事…?まだあるのかね?」

「いえ…ここからが、僕が本当に話したいことです」

「それって…」

「…まさか!」

奈美子とヒロシが「遂にあの事を言うのではないか?」と思い、静かに言葉を口にした瞬間だった。

 

 

 

「……僕の記憶が…やっと全て、全部思い出せたんです」

 

 

 

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「何だと!?」

「し、時雨ちゃん!遂に!?」

「まさか…!」

「時雨…!」

驚いたのはトオル、ヒロシ、トーコ、奈美子だった。

 

「時雨さん…!よかった…!」

「…いや、安心するのは早いわよハルカちゃん」

少し遅れて安堵の言葉を口にしたハルカであったが、それをトーコはあまり良いようには思っていなかった。

 

「え?」

「時雨…その記憶のことを話したいというのだろうけれど、あなたはそれでいいの?」

「……」

「もしそのことを話す場合それは……記憶喪失になるほどなのだから、よっぽど辛いものだと私は察したわ。そんな記憶をベラベラ話したところで、あなたの精神的にも良くないという事は…私としても何となくわかるわ…」

「…そうだな。私としても無理に話してくれる必要はないと思う」

トーコが身を案じる中、医師であるソウイチも心配するように言葉を続けた。

だが、時雨の意志はすでに固まっていた。

その上で時雨はこう言うのだった。

 

「…いえ、僕は自分のことを話したいんです」

「時雨君…」

「む、無理をする必要なんてものはあるまい!私でも、辛いものであろうということ自体はわかるからな…!私がクラッシュした時のようにな!」

「そうだよ、さっきのお前のワンエイティの話を聞けただけでも正直十分すぎるくらいなんだ。時雨、お前は無理はするな…」

時雨の意志に対して「無茶をする必要はない」と言わんばかりにジュンとイズミが気にかけているのは、時雨自身でもわかった。

だからこそ、時雨はこう返事をするのだった。

 

「ジュン、イズミ……ありがとう。皆、優しいんだね…でも、僕は自分自身の話をしたい。だから、聞いてほしいんだ」

「…ちょっと待ってくれ」

「え?」

時雨が話し出そうとした時、そう言ってソウイチが取り出したのはスマートフォンだった。

 

「…時雨君、悪いが君の話を録音させてもらっていいかね?」

「え…?」

「悪いようには使わない…だが、記憶を話すとなると物凄く長いものになるだろうと私は思ったんだ…」

だが、ソウイチがそう言った瞬間だった。

 

「先生、やめてください!」

「奈美子?」

「奈美子君…」

「時雨の話を聞くのはいいですが…そんな録音だなんて!嫌な記憶を残すというなら…!」

声を上げたのは奈美子だった。

だが、時雨はそこについてはあまり気にしていなかった。

 

「奈美子、いいんだ」

「時雨!?」

「心配してくれてありがとう。でも、僕の聞いた話はきっと…一度聞いただけじゃ理解が出来ない、とても難しい話だ。何度も話すのは僕としても嫌だ…だったら一度話して、それを聞き返せるようにした方がいいんじゃないかな?」

時雨としては嫌な事を複数回話すくらいなら、1度には成しきってしまった方がいいと思ったのだった。

 

「時雨さん……」

「難しい話、って…」

「一体、何が始まるというのだ?」

「その代わり、僕の話を否定しない、ここにいる人以外誰にも話さないというのが条件だ…僕は自分の記憶を全て正直に話すよ。だから、今はとにかく僕の話を聞いてほしい」

ハルカやイズミ、ジュンが身を案じる中、時雨は要望を口にした。

それを聞いた人々は、それぞれの同意が必要であるという事を認識したのだった。

 

「時雨ちゃん…」

「俺は良いけど、いいのかよおい…時雨」

最初に同意したのはトオルだった。

 

「…わかった、約束しよう」

「あたいも約束するよ」

「うむ…一流の私が保証する。門外不出にするということをな」

「時雨…約束するわ」

「私もです!」

「私も問題ないわ」

「お、俺も勿論だ!時雨ちゃんには…ホント、色々世話になったし…」

ジュン、イズミ、ソウイチ、奈美子、ハルカ、トーコ、ヒロシ…その場にいた全員の同意が取れた。

それを聞いた時雨は、軽く微笑んだかと思いきや、すぐに言葉を続けた。

 

「……みんなの同意は取れたみたいだね。じゃあ、始めるよ。疑問があったらその都度話してほしい」

「………」

時雨を囲っている皆がこくりと頷いた。

 

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「最初に断言しておくことがある……僕は、この時代の人間じゃない」

 

 

「へ……?」

「ど、どういう事?」

ヒロシと奈美子が疑問を口にすると、直ぐに時雨はその真意を口にした。

 

 

「僕の思い出した中の最後の記憶は…つまり一番新しい記憶は………1945年に、海の底に落ちていくというものだったんだ」

 

 

「え…!?」

「何…だってぇ!?」

「ち、ちょっと待って……1945年……!?」

奈美子とヒロシが驚く一方、早速トーコが疑問を口にした。

 

「1945年だと…?」

「……」

「そんなこと…あるんですか…?」

時雨の話を聞いていた皆が一斉に動揺し始める。

すると疑問を投げかけたのはソウイチだった。

 

「時雨君、1945年とは一体どういうことかね…?君が只者ではないという事は何となく察してはいたが…」

「え…1945年って、気になりますか…?」

「だ、だってよ…あたい達がいる今の年は…!」

ソウイチに続いてイズミが今の年について言おうとした瞬間、時雨も再び言葉を続けた。

 

「あ……そうだ、時間は!今は一体、西暦何年なんだい?」

取り乱した時雨が緊迫するかのように、答えを追い求めるかのようにそう質問する。

 

「あっ、えっと…そ、それは……」

イズミは明らかに言い淀んでいた。

 

「あ、あの…トオルさんこれ、答えていいんすかねぇ…」

「いや、待て…これは…」

「……」

ヒロシがトオルに相談し、奈美子もその事についてはどうこたえるべきかがわからない。

今は一体西暦何年なのか?その質問にすら時雨の話を聞いていた一同が回答を躊躇していた。

だがその様子にしびれを切らした時雨は、遂に喝を入れるかのようにこう言うのだった。

 

「教えてくれ…!今は一体いつなんだい?今は一体、何年だっていうんだい!?」

「それは…」

多くの人間が狼狽して答えを出し渋る中で、最初の質問を口にしたトーコが重い口を開いてこう言うのだった。

 

 

 

「2023年、よ………」

 

 

 

「……!!!」

トーコの言葉を聞いて、時雨は愕然とするほかなかった。

まさに青天の霹靂だった。

時雨は文字通り言葉を失っていた。

 

「な…え……」

「…カレンダーだ」

そう言ってトオルがベッドの横の机に置かれていた卓上カレンダーを、答えを聞いて動揺している時雨に手渡す。

そのカレンダーに書かれていた年は、まごう事なき2023年だった。

 

「そんな……じゃあ、僕が死んだあの時から、80年近く経っているというのかい!?」

カレンダーを見ながら声を荒らげ、手を震えさせる時雨。その現実は時雨にとっては衝撃そのものでしかなかった。

そう。時雨たちが戦っていたのは1930〜40年代。それから純粋に考えても80年近く経過しているのである。

その話を聞いてしまった以上、時雨が衝撃を受けるのは言うまでもなかった。

 

「つまり時雨ちゃんは…見た感じハタチにも満たないくらいなのに、実際は……100歳近い、お婆ちゃん同然ってことじゃあ……!!」

だがヒロシがそう言った瞬間、どこからか拳骨で叩かれた感覚に襲われた。それも2発。

 

「ぐえっ!!」

「この苦鎖霊亜負露(くされアフロ)!!時雨に対してなんてことを言うんだい!!!」

「ヒロシ!おめぇ失礼にも程があるぞ!!」

「す、すいません!!でもぉ…!」

「ふ、二人とも落ち着いてください!」

「時雨……」

激怒するイズミとトオルに対して制止を促すハルカ。

一方で時雨を心配する奈美子。

その現実を直視できないかのように時雨は顔を下に向けていた。

だが、次の瞬間だった。

 

「……そっか………そうだったんだね………」

時雨は、まるで全てを受け入れるかのようにそう一人呟いた。

既に手の震え自体は収まっており、卓上カレンダーをテーブルに置いた。

すると時雨は顔を上げて開き直ったかのようにこう言った。

 

「だったら、尚更僕が自分のことを話すのは必要なのかもしれない」

時雨の顔はどこか明かるげだった。もはや、全てを受け入れた…そんな顔だった。

 

「僕の話はとっても長くなると思うけれど、僕が覚えている事のすべてを…聞いてほしい」

「時雨…」

「…わかった。始めてくれ」

ソウイチがそう言い、時雨は遂に自分の過去の記憶について話始めるのだった。

 

 

 


 

 

 

再び水を飲んだ時雨が、遂に自分の真実について話始めるのだった。

 

 

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「僕が覚えている最も古い記憶は1920年代後半、東北の農村だ。おそらく生まれた直後だけど、詳しい場所は覚えていない」

「東北…?」

「僕達の家族は、先祖代々お米を育てて生計を立てていた。幼かった僕の記憶はあいまいだけど、それなりに慎ましやかに暮らしていたのは覚えている」

「稲作…」

「農家だったんですね」

すると時雨の表情は少し暗くなった。

 

「でも…その生活は長くは続かなかったのも…ね」

「何が起こったの…?」

奈美子がそう言うと、時雨は事実をぽつぽつと話始めた。

 

「大凶作…というのかな。稲が壊滅的な被害を受けたんだ」

「…そうか、農業恐慌か」

「農業恐慌…?なんすかそれ?」

「1930年頃の東北地方の凶作だ…昭和恐慌と重なる形で起きたことからそう言われている」

「そんな事が…」

ヒロシの言葉に、時雨は更に言葉を続けた。

 

「それに、その数年後には津波が襲ってね…」

「津波…?ということは、時雨君は三陸方面の出身ということか」

「…わかるんですか?」

「史料とかが残っているからな…私も軽く見た限りではあるのだが…」

「凶作や津波で田んぼはみんなやられて…僕たちは一気にひもじい生活を送るようになった。僕の周りの娘たちも皆次々と、親元を離れて大人の人に連れて行かれたんだ」

「いわゆる…身売り、ってやつか…」

トオルが歴史を思い出すかのようにそう言葉を口にした。

 

「…そして当然、僕も身売りされようとしていた…でもそんな時だった」

「何が起きたの…?」

奈美子の質問に時雨は回答するようにこう言った。

 

「僕は、その素質を見出されて突然、軍隊…海軍へと行く事になった」

「え…軍隊!?」

「そこで僕は…『艦娘』の適性があると、言われたんだ…」

時雨は遂に、自分が何者なのかを露にするようにそう言った。

 

「か、艦娘…?」

「艦娘って、一体何だぁ…?」

いきなり現れた固有名詞に、ハルカやヒロシを始め、そこにいたほとんどの人間が動揺していた。

 

「…そこは説明するよ」

時雨は説明を続けるようにこう言いだした。

 

「世界中が戦争をしていた年があるのは、わかるかな」

「…世界大戦か」

「この国も、清に進出したりしてたよね」

世界大戦。時雨はその出来事は1度起きたと認識していない。何故なら…

 

「だが、その戦争が終わった後の数年の出来事だった…」

「な、何が起きたっていうのさ?」

イズミの言葉に時雨はこう言った。

 

「人類は、海から駆逐されたんだ」

「駆逐…?!」

「おいおい急すぎやしねぇか!?たった数年で何が起きたって言うんだよぉ!?」

イズミやヒロシはあまりの急展開に言葉を荒らげた。

そして時雨はここで、もう一つのキーワードを口にする。

 

「……深海棲艦と後に呼ばれる存在が、現れたんだ」

「深海棲艦…だと?何だそれ…?」

トオルが疑問を口にしたところで、時雨が続けて説明する。

 

「突如として海に現れた謎の存在…海の底より生まれてくる敵性の艦艇たち…人々はそれを、「深海棲艦」って呼んだんだ」

「深海棲艦…」

「それって…何モンなんだ?ゲームとかで出る、モンスター…怪物みたいなもんか?」

「いや、もっと恐ろしいよ…深海棲艦は、それまでの軍隊の兵器を圧倒するような武力で、あっという間に人々を海から駆逐していった。それまでに使われた兵器は全くと言ってもいいほど通用せず、この国の近海の制海権はあっという間に失われた…そして多くの人が犠牲になったとも言われているんだ」

「「「………」」」

深海棲艦の脅威について説明された一同は、その事について動揺するしかなかった。

 

「先の世界大戦からものの数年で人類は海から駆逐され、シーレーンなども破壊されてしまった状態になってしまっていた…。当然人類が海から駆逐されれば、陸地にも被害が及ぶ。深海棲艦の空母による空襲などで、多くの人間が死んでいったことは…僕も色々と聞いたんだ」

「…それは、やっぱり軍隊で教育を受けたのかい?」

時雨の説明に対し、イズミが疑問に思った事を口にした。

 

「うん。それだけじゃない…被害は世界中に及んだ。欧州、欧米、南米方面にも深海棲艦の脅威は及んでいて、その各地で甚大な被害を受けているという事も聞いた…」

「じゃあ…人類滅亡の危機にあったって言うの…!?」

奈美子は時雨の事に、驚きを隠さずにそう言った。

 

「うん…でもそんな中で、唯一と言ってもいい程深海棲艦に対処しうる兵器が開発された…」

「それって…一体?」

トーコの言葉に、時雨は断言するようにこう言った。

 

「それこそが、在りし日の艦艇の魂をその身に宿す、艤装をまとって戦う女性たち、『艦娘』だ。」

「艦娘…?」

「てことは、じゃあ…時雨ちゃんは、まさか…!」

ヒロシは何かに気が付いたかのように、驚きを交えつつ口を動かした。

そして時雨は己の正体を暴露するかのように、こう口にしたのだった。

 

 

 

「…そう。僕は嘗て、その艦娘の一人…『駆逐艦時雨』だったんだ」

 

 

 

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「駆逐艦、時雨…だと!?」

時雨の明言に、ソウイチは驚きを露にしていた。

 

「ソウイチ先生?」

「そんなに驚く事ですか…?」

「驚くなんてものじゃない!駆逐艦時雨と言えば、『佐世保の時雨』として有名な武勲艦、知る人ぞ知る名艦船だよ!話をするととても長くなるが、様々な戦いの中を駆け抜けてきた武勲艦の中の武勲艦だ!」

「へ、へぇ…そうなんですねぇ…」

「ここまで動揺した先生、初めて見たな…」

ソウイチ自身「駆逐艦時雨」のこと自体は知っていた。

駆逐艦時雨という武勲艦の存在を示された以上、嫌でも食いつくのだった。

だがその姿はヒロシやジュンからしても異様なものだった。

するとあまりに変貌した様子に、時雨は動揺したかのようにこう言った。

 

「先生、もしかして…僕の事を、知ってるんですか?」

「…いや、私が知っているのは『艦娘』としての時雨ではない。駆逐艦、つまり艦船としての時雨だ」

「………そう、なんですね」

「…いかんな、船の話なんかよりも君の話を私は聞きたいのだった。話を続けてくれ」

「は、はい…えっと…」

ソウイチの慌てふためき振りを見た時雨は、どこから話せばいいのか忘れかけていた。

するとその様子を見たトーコが、次の話の内容を求めるようにこう質問を投げかけた。

 

「どうして、時雨は『艦娘』になれたの?軍隊に行くのと、関係があるようだけど…」

「ああ、えっと…僕が艦娘に選ばれたのは、僕が6歳の頃に行われた適性検査の結果なんだ…6歳~30歳の女性を対象に行われた検査の結果、身売りされる寸前に海軍の士官が僕の家族の元にやって来て、『君には特別な才能がある』『兵隊になればお金をたくさん出して家族を助ける事が出来る』と言われたんだ」

「あなた以外にも適性があると言われた人間というのは、やはりいたのかしら?」

「うん…でも、確率上かなりの希少な人間…10000人に1人くらいしか、いなかったらしいんだ」

時雨の経験では、彼女が6歳の時に、3歳~30歳の女性に対し一律で適性検査が行われていた。

その結果、時雨には10000人に1人という確率で適性がある事がわかってしまった。

そんなことが分かった以上、海軍の人間は時雨をスカウトにやってくるのは半ば当然とも言えるだろう。

 

「家族共々餓死するか、身売りして身を粉にしてずっと低賃金で働くか、それとも第一線で戦って命懸けでお金を稼ぐか…その3つしか選択肢はなかった。そして幼き日の僕は、その『才能』という言葉に惹かれた…」

「それで、時雨は…」

「うん…僕は東北の農村から一念発起して上京し、浦賀のドッグで僕の艤装が作られた。部隊に配属されるまでの間も僕は横須賀の鎮守府で、第一線で戦えるように軍人として教育を受けたんだ」

一念発起の果ての海軍所属。その際に時雨は教育を受け、一線で戦えるように磨かれていったという。

 

「そうだったんだな…それが、艦娘としての…『時雨』の誕生という訳なのか」

「…気になったのだが、お前の『時雨』っていうのはお前の本当の名前なのか?それとも軍隊で与えられたコードネームだったのか?」

「コードネーム…その認識でいいよ。そしてそこについては…僕は、『艦娘』として戦う事の一つの代償だと思っているんだ」

「代償?どういうことだい?」

ジュンの質問に答えた時雨に対し、イズミがさらに説明を促すように言った。

 

「海軍での生活は困らないものだった。ひもじい生活からもあっという間に脱却できたからね。でも、艦娘として戦う代償は大きかった。その中でも僕が『時雨』という名前で戦っていた期間は長く、そしてその苛烈な戦いの数々の中で…僕の本当の名前を、忘れてしまったんだ」

「名前を、奪われたってこと…?」

「…時雨、海軍に入ったのはいつ?」

「…1935年頃、だったかな。基本的に僕は鎮守府では『時雨』と一括で呼ばれていたから、そっちの方が身につくのも当然と言えば当然だったんだと思う」

「ではやっぱり、時雨ってのはコードネームってことだな。そしてさっき言った最後の記憶までの最低10年近く…時雨は『時雨』と呼び続けられたという事だな…」

ジュンは納得するようにそう言った。

 

「うん…」

「そうだったのね…」

その答えにトーコも納得したようだった。

すると奈美子が更に本質へと切り込んでいく。

 

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「時雨も、深海棲艦…と戦う、艦娘…である以上、戦場で戦ったりとかしたの?」

「うん。戦闘経験はあるよ。第一線でもね…」

「……だが、私の推測では…駆逐艦と言えば、どちらかといえば敵との殴り合いというよりは、味方の護衛や兵站確保などの輸送作戦がメインだと考えている。時雨君、そこの事についてはどうかね?」

時雨の戦闘経験について、ソウイチはある程度の見立てを立てていた。

第一線で活躍する戦艦や重巡洋艦等に比べると、駆逐艦の役割は護衛や兵庁確保がメインであるという事…それはソウイチ自身もある程度は理解していた。

 

「先生は、分かるんですね…実際その通りで、皆が想像するような戦艦などの敵との殴り合いよりも、僕はもっぱら輸送作戦や船団護衛が主だった。それでも時に勲章を得て、仲間たちと戦果を上げた時は…嬉しかったな」

「やはり艦娘である以上、敵と…深海棲艦と戦う事もあったのか」

「ええ。でもそのおかげもあって、僕の艤装…つまり武器の強化なども優先的に行われたんです」

「……」

ソウイチが納得したかのように言葉を口にしたが、時雨はここで軽く下を向いた。

 

「だけど、圧倒的な物量を誇る深海棲艦の数々の前に、僕たちは傷つき、艤装が駄目になったり大怪我をして除隊したり、最悪凶弾に倒れて海に沈み、再び人類は劣勢に立たされていたんだ」

これまでのある程度希望が見える展開から、徐々に雲行きが怪しくなっているのを奈美子は感じ、こう言った。

 

「艦娘をもってしても…ダメだったの…?」

「…うん。確かにある程度の抵抗は出来た。でも、状況を好転させるまでには至らなかったんだ。実際、白露、有明、夕暮…僕と隊を組んでいた仲間たちは皆、戦闘中の大怪我で艤装を付けられなくなって…僕より先に除隊したんだ」

「…仲間が皆いなくなっちまったのかよぉ!?」

「そんな…!」

ヒロシとハルカが悲鳴のような言葉を口にした。

 

「当然、隊は解体。でも、まだ生きてるだけ良いとは思うんだ。時に海で沈んでしまった…奮戦の末に死んだ娘も、いるからね…ソロモン海で奮闘した、妹分の夕立、それにその僚艦の綾波だって…」

「……」

「やはり戦争である以上、仲間の喪失という事もあったという訳だな…」

ジュンが納得するようにそう言葉を口にした。

 

「それでも何より、僕が死ぬまでの最後の半年間は…とても記憶に残っている」

「死ぬまでの半年間に…あなたに一体何が起きたって言うの?」

「……ここから先は、本当にみんなの精神的にも悪いものがあるかもしれない。それをわかった上で聞いてほしいんだ」

時雨の顔はより暗くなっているように一同は感じていた。

ただでさえ戦争という思い題材なのに、ここからさらに暗くなるのか。

そう思うと鬱な気分になるのは避けられなかった。

 

「ただでさえ重いのに、更にかよ…?」

イズミとしては正直逃げ出したしたいのような気分だった。

だが時雨の話は、自分自身が興味を持ってしまうような妙なリアリティがあった。

そう考えると話の続きを聞きたいという気持ちもあるには会ったのだった。

 

「皆、続けていいかな?」

「う、うん…」

「わかった…」

「……良いだろう、初めてくれ」

時雨の質問に、皆同意するように言った。

 

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「1944年10月の事だ。僕は、リンガ泊地にいた」

「り、リンガ…?」

聞きなれない言葉に、ヒロシはそう疑問を口にするしかなかった。

すると補足するようにソウイチがこう言った。

 

「現在のシンガポールの島の間に存在した泊地だ…」

「先生、わかるんすね」

「地理についても多少は分かるさ」

「…その日、僕は『第一遊撃部隊第三部隊』…通称1YB3Hに配属された。僕以外に配属されたのは、戦艦扶桑、戦艦山城、航空巡洋艦最上、駆逐艦満潮、駆逐艦朝雲、駆逐艦山雲…僕達は、いわゆる寄せ集めだった」

するとその言葉に、ソウイチが興味を持ったかのように言葉を口にした。

 

「……まさか、西村艦隊に?」

「え…西村艦隊…?」

ソウイチの呟きにハルカが軽く反応した。

だが

 

「ん、いや…なんでもない。続けてくれ」

何処かはぐらかすように、ソウイチは言葉を口にするのだった。

 

「1YB3Hの目標は、主力部隊を無事に海峡に突入させること…つまり僕達は囮の部隊だった。僕はそれを聞いて驚くしか出来なかったけど、それでも…任務を完遂すべく配属の翌日には目標地点であるスリガオ海峡へと出撃していった。生きて帰る事を約束してね…」

「スリガオ海峡……」

「ど、どこすか…それって」

「ヒロシ、後でおめーは調べろ」

「へ、へい…」

時雨の顔はまだ暗いままだった。

そりゃそうだろう。過去の記憶を全部話すとはいえ、彼女の記憶は闇のどん底と言ってもいい程くらい記憶だったのだから。

 

「僕達は道中、何度か攻撃を受けつつも進軍していった。そして1日近く駆けて夜のスリガオ海峡に到達…そしてそこで待っていたのは……」

「……一体、何が待ち構えていたって言うんだい?」

「多数の主力深海棲艦と、それを率いていた扶桑と山城によく似た姿をした2人の巨大な深海棲艦だったんだ…」

「巨大深海棲艦…ん?ちょっと待て、今時雨は2人って言ったよな?」

「…深海棲艦には、人型もいるんだ。怪物のような見た目をした存在もいるけど、その怪物よりも人型の方が戦闘力は高い…」

「ということは……」

「もうわかると思う。僕達は主力深海棲艦に追い詰められ絶体絶命だった」

「では…時雨君や君以外の、艦娘たちは!」

「僕も確かにそう思いました…でも」

「え?」

「僕達の前に…僕達の活躍によって無事に海峡に突入することができた艦隊の主力部隊が到着したんです」

「(主力艦隊が間に合った…?史実では主力艦隊は…!)」

この時点でソウイチにとっては違和感しかなかったが、話の腰を折ることを嫌った為にあえて何も言わなかった。

 

「戦況をある程度覆すことが出来た最中、巨大な深海棲艦を打つべく…山城は僕を引き連れて一気にそれに肉薄。そして僕の援護と共に、至近距離まで接近しその深海棲艦へ主砲を放ち……」

「…まさか!」

「……そこで僕の記憶は一度途絶えた」

「時雨ちゃん…でも、そんな事をしたらおめぇさんも……!」

「……正直、とても危なかった」

「…帰って来れたのかね」

「はい…あの海峡から僕は、僕達1YB3Hは戻ってくることが出来た。でも犠牲はあまりにも大きかった」

「まさか…!」

「その、山城さんとかが…!?」

イズミとハルカの声に、時雨は軽く首を横に振り、こう言葉を続ける。

 

「………結果から言うと、戦術的には勝った。僕がいた部隊の艦娘は皆、戻ってくることもできたんだ。でも、1YB3Hのメンバーは…僕と最上以外は、大怪我の果てに皆艤装をつけられなくなり…戦えなくなった。そして他の主力艦隊などでも…大怪我を負ったり、海に沈んだ…死んでしまった子もいたそうだ」

「そんな…!」

「てことは…お前がいた部隊は、2人を除いて皆除隊したのか…」

「…うん」

奈美子が驚嘆し、トオルが結論を言うと、時雨は「うん」と言った後に軽く天井を見上げ、こう言った。

 

「僕も命からがら帰投できたけど、助けられた時は意識不明の重体でね…気がついたときには佐世保まで運ばれていて、あの海戦から数週間が経っていたんだ」

「死にかけの所を命からがら佐世保まで運ばれたというのか…」

ジュンがそう言ったところで時雨は、再び首を元の方向へ戻した。

 

「佐世保に帰投できた僕は、次の作戦に向けて訓練や別の任務を受ける事になった」

「……佐世保の鎮守府か」

「はい。そしてそんな中、休養を頂いた僕が休養先で会ったのが…僕の相棒となる、雪風だった」

「雪風…」

奈美子がそう言うと、再びソウイチが食いつくようにこう言うのだった。

 

「雪風………雪風!?時雨君、それは本当なのかね!?」

「先生?」

「どうしたのだ…?」

イズミとジュンが疑問に思った。

かなり興味を持ったようだ。

 

「どうしたもこうしたも…雪風といったら、伝説の駆逐艦じゃないか!」

「あのぉ、先生…そんなに、スゲーんすかその…船って?」

ソウイチの言葉にヒロシが疑問を問う。

 

「凄いも何も…ある有名な漫画家もこの国への復員時に乗ったという、伝説の船だよ!何度も激しい海戦を乗り越えて、最終的には台湾でも活躍したんだよ」

「そうだったのか…」

「…この時代だと、雪風はそんなに有名なんですね」

「ああ…奇跡の駆逐艦と評されているよ」

ソウイチがそう断言すると、ハルカもある事に気が付いたかのようにこう言った。

 

「では、さっきの寝言の『ゆき』っていうのも…」

「うん…多分、雪風のことさ」

「そうだったんだな…」

イズミがそう納得すると、雪風との思い出を語るかのように時雨は言葉を続けた。

 

「どこかの人が言っていたんだ…『呉の雪風、佐世保の時雨』って…僕も本当に会えるは思わなかったし、そこから強くかかわっていく事になるとは思わなかったよ」

「そんなに、雪風さんとは仲が良かったんですか…?」

「うん。何度も実践に向けて演習に参加した事もあるし…僕にとっては、いい相棒だったよ」

「やはり実際の艦隊の様に…演習も存在するのか」

「はい…基本的に団体戦ですけどね」

「そうか…」

ソウイチがどこか納得したかのように言うと、時雨はこう言葉を続けた。

 

「……それで、ここからが最後の数か月間になるんです」

「1944年が終わり…1945年になるというのか?」

「はい…1945年、運命の年です」

「…一体、何が起きたって言うんだ?」

 

「1月…僕はそれまでに護衛を務めた事のある航空母艦、龍鳳との再会した。彼女や駆逐艦磯風、駆逐艦浜風、そして雪風と共に彼女の護衛と基地航空隊用の新型爆撃機の台湾への輸送を目的としたヒ87船団での活動を命じられ、出撃する事になった」

「(これは…まさか、そこで時雨君は?)」

ソウイチは史実をある程度知っているソウイチはゾクリとするしかなかった。

 

「大雨の輸送作戦の最中、近海周辺にまで侵攻していた無数の敵潜水艦の襲撃を受け、僕達は爆雷も使い果たして絶体絶命の危機に陥った」

「(……まさか!)」

ソウイチは駆逐艦時雨の事を知っている以上、背筋が凍るような思いだった。

時雨はここで沈んでしまったのか?そう思わずにはいられなかったのである。

 

「でも、僕はそれ以前に山城から受け取っていた贈り物…爆雷であることに気付いて、これを用いて何とか乗り越えた」

「(…え?)」

史実をある程度知っているソウイチにとっては、あまりにも予想外だった。彼女は予想していた史実を乗り越えたのだ。

 

「そして直後、救援に駆け付けた海防艦4隻の援護で潜水艦の大群は駆逐され、輸送作戦は無事に完遂出来た…」

「(史実では、時雨は沈んでいるはずでは…?)」

ソウイチにとってはあまりにも予想外の展開で、言葉を口にすることはできなかった。

 

「何とか僕はその時、窮地を脱すること自体は出来た…でも、再び佐世保に戻って数か月後…」

「まだ、続きがあるの……?」

奈美子が問うと、時雨は軽く頷いてこう言葉を続けた。

 

 

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「敵深海棲艦の最終侵攻が開始され、艦娘の母港の一つである呉鎮守府は敵機の攻撃を受けた」

「…やはり、呉にも鎮守府があったのかね」

「はい…でも、迎撃に出た艦娘の奮闘も空しく基地は壊滅。呉にいた艦娘達はほとんどが戦闘不能になったと聞いた」

「そんな…!」

「じゃあ、呉の艦娘…は!」

「生きて佐世保まで逃げてこれた艦もいた…でも…」

「…大半が生死不明、というわけだな……」

ジュンの言葉に時雨は軽く頷いた。

 

「その上で僕達は、南西諸島絶対防衛線を構築して守りを固める作戦に参加する事になった。でも…既に侵攻を受けている南西諸島沖の海は浸食され赤く染まりつつあり、敵も大部隊が形成されつつあった…」

「海が、赤く…」

「大部隊を邀撃するため…味方の別部隊が攻撃を行いつつ敵航空戦力を海域北方へと誘引している間に、戦艦大和および軽巡洋艦矢矧率いる、僕や雪風を含めた遊撃部隊が…敵侵攻大部隊の中枢へと切り込んで敵の輸送船団を壊滅させた上で、余力があれば反転して敵主力部隊も撃滅するという、ほんのごく僅かの勝機に賭けた作戦行動を開始することになった…」

「それって……!」

傍から見れば文字通りの特攻同然。そんな話を聞くと、聞いている者達は動揺するのも当然といえば当然だった。

 

「…あまりにも圧倒的な物量作戦の前に、不利な状況はどうにもならなかった」

「味方の別部隊は…?」

「味方機動部隊は…第一次攻撃で艦載機の殆どを失った上、決別電報の後に連絡途絶。僕やユキを含めた、大和率いる遊撃部隊も敵を倒しながら南西諸島に向かって進んだけど、案の定激しい反撃に遭った…」

「……」

「そんな絶望的な状況の中で、異国の地からの艦娘が、どこからか救援に駆け付けたりもした…」

「…じゃあ!!」

「でも、戦局を覆すには至らず、僕の目の前で多くの仲間たちが死んでいった……それでもその中で、最後の最後に僕と雪風は中枢にたどり着く事が出来た…そして満身創痍の中、僕と雪風は互いに最後の魚雷と主砲をぶっ放した直後……そこで僕は………」

そう言ったところで、時雨の目からポロリと涙が流れ、時雨の声は完全にトーンダウンした。

 

「時雨…まさかあなたは……」

奈美子が静かに問う。

それに対し時雨は断言するようにこう言うのだった。

 

 

「…うん………僕は、凶弾に倒れて…死んだんだ」

 

 

「「「「「「「………!!」」」」」」」

時雨の「死んだ」という言葉に、動揺する一同。

確かに絶望的な作戦である以上生きて帰ってこれることは難しいという事はどこか感じ取ってはいた。

だがいざ実際に彼女が死んだという事実を聞くと、動揺するのは当然と言ってもおかしくはなかった。

 

「深海に落ちていったのは、覚えてる。冷たくて…悲しくて……でも、不思議と達成感はあって…」

「……」

時雨はその絶望の中でも最大限抗った事に不思議と達成感を感じていた。

それでも時雨は口を止めない。

 

「僕は海の底に沈んだ以上、ここで僕の話は終わりを迎えるはずだった」

「……だった?」

ヒロシが軽くそう言うと、時雨はそのまま言葉を続けた。

 

 

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「でも、それで終わりじゃあなかったんだ」

「え…?」

「じゃあ、時雨ちゃん…そこから先が………!」

そうヒロシが動揺するように言っていた。

時雨がどのようにして箱根にやってきたのかという顛末を知っている以上、そこに繋がってしまうのかと納得できてしまったのである。

 

「海に沈んだと思った僕は、箱根の山奥で再び意識を取り戻した。でも意識を取り戻す直前に…小由原の海岸…砂浜に気絶した状態で打ち付けられていたんだ」

「な、何だと…?」

打ち付けられていたという現実に驚くジュン。

1940年代に死んだ少女が、2020年代にまでタイムスリップ同然でやってきた。

そんな事を聞かされたら驚くのも無理はないだろう。

 

「九州方面で沈んだ時雨君が、いつの間にか小由原…箱根近辺まで運ばれたというのか…!?」

「マジで言っているのかい…!?」

「そして…意識を取り戻して再び僕が目を覚ました時………僕は、箱根の山奥の小屋の中に、一人座っていた」

「……じゃあ、そこからどうやって箱根に来たのかね?」

「先生、そこは俺とヒロシが…」

「トオル?」

ソウイチの質問に、トオルが代弁する用に答えるのだった。

 

「時雨は今言った通り、箱根の山の中の小屋にいた。そしてそこから、道路を通じて葦柄峠へと歩いて向かったんだ。そしてそこで偶然揉めていた…」

「俺と、ナビ子の前に現れて…それで、ナビ子がバトルに引きずり込んだのが…時雨ちゃんの、走り屋としての始まりなんっすよ…」

トオルに加え、ヒロシも当事者として語るのだった。

 

「なんと…!」

「奈美子…おめぇ、赤の他人である時雨を、バトルに無理やり引きずり込んだのか!?」

イズミは奈美子に対して怒りの感情を向けていた。

それはまるで本来時雨が奈美子にぶつけるべき感情を代弁しているかのようでもあった。

 

「ご、ごめん…!」

「イズミ…奈美子を叱らないでやってくれ。その時はどうしようもなかったと思っているんだ」

「で、でもよ!おめーはコイツに、奈美子にいいように使われたんだぜ!?少しは怒れよ!前から思ってたけど、おめーはお人好しすぎるよ!!」

「うう…!」

イズミは時雨が奈美子に怒るべきだと反論したが、時雨はそこの部分は大して気にしていなかった。

そこについても明確な理由はあったのである。

 

「いや…そのバトルの後で、僕は奈美子やハルカさん、トーコさんに…箱根での生活のことや車の事で、色々と助けてもらったんだ。そう言う事を考えると、僕は怒ることも出来ないよ…」

「そ、そうだったのか…そのバトルの後、お前は色々と助けてもらったから…」

イズミは引き抜いた怒りの感情を徐々に収まっていくのを感じていたのだった。

すると時雨は、全てを話しきったかのように静かにこう言うのだった。

 

「とにかく………僕が、僕が箱根に来るまでの思い出せる記憶は、これで全てだ。少なくとも艦娘として戦っていたのは…僕にとっては、まごう事なき事実なんだ」

時雨はどこか、「僕の話を信じて欲しい」と諭すかのような口調でそう言った。

 

「「「「「「「………………………」」」」」」」

時雨の長い長い話を聞き終えた一同は、皆動揺するしかなかった。

ここまで破綻の無い彼女の話を聞かされていても、それでも彼女の話を信じられないのは当然と言えば当然でもあった。

如何せん「艦娘」「深海棲艦」という存在があまりにもファンタジーすぎたのである。

それでも彼女の経験は当事者だからこそ言えるリアリティーのあるもの。

だが一方で奈美子たちが知っている「歴史」とは似て異なるものに、どう彼らは声を掛ければいいのかがわからなかった。

するとそんな彼らに対し、時雨はどこか自虐気味にこう言うのだった。

 

「僕が言っている事を全て信じろ、とは言わないよ…僕の言っている事なんて、信じられるわけがないからね」

「いや…それは………」

ソウイチ自身、どう声を掛ければいいのかがわからなかった。

戦争という経験談。だがそれは、自分たちには到底想像のつかない「艦娘」「深海棲艦」といったファンタジーが混じったもの。

それでも死が間近に迫る…そんな戦争の話。

しかしまるでどこかの原爆資料館や戦争の記録が残されている博物館で、戦争で生き残った者…つまり当事者の話を聞いているかのような臨場感を、ソウイチ自身は感じ取っていた。

すると時雨はこうも言葉を続けた。

 

「だって、そうじゃないか。この世界の常識と僕の知っている常識じゃあ、全くもって違うんだから」

「じ、常識が違う…?」

「一体…どういうことだぁ?」

すると、時雨は時雨にとっての「常識」の1つを挙げるようにこう言った。

 

「例えば…そうだね。僕の知っている限り、車というのは木炭で動くものという想像が強いんだ」

「木炭……?」

ヒロシが疑問に思う。

車が木炭で走るとはどういうことなのか?

するとそれに対してトオルが納得したかのようにこう言った。

 

「そうか…確か俺たちが勉強してきた中では、戦時中には車ってのは大抵木炭で走らせていたみたいだが…お前さんに取っちゃ、そのイメージが強いのか」

「うん。僕にとっては、ガソリンや電気で動く車が沢山走っているなんて…とても信じられないよ」

そう。時雨が箱根でずっと向き合ってきた車。

1930~40年代というほぼほぼ戦時中を生きた時雨にとっては、車がガソリンや電気といった燃料で走るというのは不思議な光景だった。

確かに1930年代でも車はガソリンで動いていた。だが、現実において1940年代には(多少はガソリン車もあれど)木炭で走らせていた。そして時雨はそんな車たちを見てきた。

それが箱根ではどうだろうか。箱根においては車というのは基本的にガソリンや軽油、あわよくば電気で走るものばかり。

それらばかりが箱根中を走っているという事を考えると、過去を生きてきた時雨にとってはあまりにも新鮮な光景であった。

だが一方で時雨はトオルのある言葉も気になった。

 

「トオル…今、戦時中って言ったよね?」

「…あ」

「やっぱり…ここでも、戦争というのはあったのかい?今は…どうなっているんだい?」

「それは……」

「トオル、私が話そう」

「先生?」

すると回答に戸惑っていたトオルに対し、ソウイチが代弁するようにこう言った。

 

「時雨君……これから私が話すことは、時雨君にはとても信じられない事だと思うが…そんな話をしよう」

「信じられない話…?」

一呼吸おいて、ソウイチは時雨に対してあることを告げるのだった。

 

「君が戦っていた戦争の時期…深海棲艦と戦っていた時期の一部において、この国は…アメリカと戦争していたのだ」

「―――っ!?」

「明確な年としては…1941年12月から、1945年の8月までだ…」

ソウイチの告白に対し、時雨はただただ愕然とするしかなかった。

 

「そんな…!この国が、アメリカと戦争だなんて…!!あの大国に…勝てるわけがない…」

「…ああ。実際その通りで、最終的にその戦争はこの国がアメリカに降伏する形で戦争は終わったんだ…」

「………そんな…」

ソウイチの言葉に時雨は顔を下げ、布団を両手で握りしめていた。

嘗て友軍に来てくれたアメリカの軍隊と、この国が戦っていた…そう考えると、あまりの落差に衝撃を受けるのは当然と言えば当然だった。

 

「やっぱり……この時代での常識は、僕の知る常識とは異なるんだね…」

「時雨、さん……」

時雨がますます絶望に包まれていくのが、負のオーラが時雨を包み込んでいるのは周りの人からも分かった。

それほどまでに時雨は絶望していたのだった。

 

「…はは、そんな常識がある以上、僕の話なんて…信じられないよね。皆にとって僕の話してきたことなんて、ただの妄想なんだろうね。無理もないよね……」

だが、そう時雨が自虐気味に言った次の瞬間だった。

 

「信じるわよ!!」

「!!」

「!!?」

その反応に時雨は首をその声の方向に向けた。

その声は、時雨にとっては立派な相棒から発せられたものだった。

 

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「今までの話は確かに辛いものだったと思う…でも時雨は、時雨は全てを包み隠さずに話してくれた!それに時雨は…時雨は箱根で、私や皆を命がけ同然で助けてくれたんだから…そんな人が、嘘をつくはずがないわ!!」

「ナビ子…」

「奈美子さん…!」

感情が剥き出しになり、奈美子の目からは涙が流れていた。

それは、時雨の悲しい過去に全て共感するかのような涙だった。

 

「誰も信じなくていいわよ…でも!私はあなたの事を信じるわ!!私はあなたの…相棒、なんだから!!」

「……奈美子…」

奈美子はまさしく相棒としての務めを果たしていた。

それこそ、ここまでずっと助けられてきた時雨への最大限の恩返しをしたいと言わんばかりの振舞いだった。

そしてさらに奈美子は言葉を続ける。

 

「言っている事が無茶苦茶であっても、自分は時雨の言っている事を絶対に信じる!!…時雨……本当に、本当にごめんね……!!大変、だったね……!!!」

「な、奈美子…ここでそれは……いたたっ」

「おい、よせ奈美子。時雨が痛がってるじゃねえか」

「ごめんね」という言葉と共に奈美子はベッドの時雨に対してハグをするのだった。

時雨を軽く抱きしめた奈美子の目には、罪悪感からか更に涙が流れていた。

本当に後悔しているようだ。

そしてその奈美子の姿を見て、それを見ていた人々もそれぞれ反応し出した。

 

「わ、私も信じます!!」

「ハルカさん…」

「時雨さん、ずっと私の下で真面目に働いてくれていて…本当に日ごろから助けられていて、それで箱根の危機を救ってもくれました…!そんな人が、嘘をつくなんて…信じる事なんて出来ません!!」

ハルカも時雨の事を信じると断言する。

そしてそれに釣られてあの女性も声を上げた。

 

「私も信じるわ、時雨…」

「トーコさん」

「あなたの経験は、昔私がお婆ちゃんやお爺ちゃんから聞いた話から似ているところがあるの…」

「…トーコさんのお爺ちゃんや、お婆ちゃんから?」

「ええ…二人とも戦争の経験について語ってくれて、それととても似ている話である以上…時雨の話は、十分に信用できる価値があると思うの」

そうトーコも冷静に時雨に伝えた。

すると次に声を上げたのは、時雨と因縁があるあの人物も宣言するかのように言った。

 

「おおお、俺も信じるぜぇ!!」

「ヒロシ?」

ヒロシの口調は明らかに動揺しつつも、時雨を信じるということ自体は断言するのだった。

 

「俺だって…俺様だってよお、時雨ちゃんにはバトルだけじゃなくて、連合のピンチに何度も立ち上がってもらってよぉ…俺達を助けてくれた、言っちゃえばヒーローなんだぜぇ!!英雄なんだよ!!そんな英雄が、俺達に嘘をつくはずがないぜぇ!!あんなにも悲しくて辛い話を聞かされた以上…俺は、時雨ちゃんを信じるぜぇ!!!ねえ、トオルさん!!あなたもそうでしょう!?俺、信じてくれなきゃ、連合をやめるつもりっスよ!!?」

そう言ってヒロシはトオルに話を振る。

その様子にトオルも多少動揺しつつも、覚悟を決めたかのようにこう言った。

 

「……ああ、そうだな。時雨は俺達の事を救ってくれたし、今までの事を顧みても…嘘をつくなんてことは信じられねえ。時雨の言っている事は俺達からしちゃ無茶苦茶かもしれないけど、支離滅裂ってわけじゃねえしな…」

「トオル…」

トオルの言葉に続いて、他の四天王も声を出していく。

 

「わ、私も時雨の話を信じよう!時雨の話には一貫性がある!!そこまで辛い話を無理して話してくれたのに、そんな話を妄言なんかで否定出来るはずがあるまい!決して、そう、決してえぇぇえ!!」

「ジュン…」

ジュンはどこか流されがちではあるものの、それでも時雨の話を信じてくれているようであった。

そして次に声を出したのは…女だった。

 

「あたいも同じだよ…時雨。あたいもあんたの話を信じたいと思うんだ」

「イズミ…」

「それにさ、時雨の性格の事と今までの話を考えると…あたいとしても何となく納得しちゃうところがあったんだよな」

「納得?」

「だってそうだろう?例えば初めて峠を攻めるとなるとそれなりに度胸ってもんが必要なるもんさ。でも時雨は、峠を攻める時はおろか、あたいの本性を出した時も全く物怖じしなかった。文字通り肝が据わっていると言ってもおかしくない」

「…そういえばそうだったね」

今でこそレディースの風格を出しているイズミだが、始めて時雨たちに会った時はきゃぴきゃぴ声のアイドルだった。

だが本性を露にしても殆ど時雨は動揺しなかった。

それは言い換えてしまえば、度胸があるという事。

そしてその度胸が…時雨が何度も死線を乗り越えてきたことと関連があるというのならば、妙な説得力があったのだった。

 

「それにさ、肝が座っているのが先ほどまでの時雨の記憶…つまり文字通り、あたい達以上の…命の是非に関わるような、本当の死線を何度も乗り越えてきたことが理由だったとしたら…何となく納得できちゃうんだよね。だからさ、あたいも信じてみたいんだ」

「イズミ…」

そう時雨が言うと、最後に話しかけてきたのはソウイチだった。

 

「…私としても時雨君の話を聞いている限り、何も話に破綻はない…むしろその話に興味があるくらいだ…」

「ソウイチ先生…」

「時雨君、本当に大変だったな。しかしその上で良くここまで戦ってきたと私は思っているよ」

「…僕は、奈美子への恩返しと僕の真実を知りたかっただけ…ですから」

「そうか…」

ソウイチも時雨の事についてはある程度信じてくれるようだった。

だがその上で、時雨はどうしても最後の最後に効いておきたいことが1つだけあるのだった。

 

「みんな…ちょっと、いいかい?」

「え…?」

「何だあ?まだ続きがあるのかぁ…?」

時雨の言葉に動揺する一同。

時雨は更に言葉を続ける。

 

「奈美子に、いや……みんなに、一つだけ聞きたいことがあるんだ…」

「それって…一体?」

そうトーコが言うと、時雨はこれまでの話を踏まえた上で言いたかったことを口にするのだった。

 

 

 

「僕は……ここに……箱根に、いて……いいのかな……」

 

 

 

沈黙。

それは数秒だったのか、数分だったのかはわからない。

その質問に誰も答えない時間があったのは言うまでもない事実である。

だが、次の瞬間だった。

 

「いていいに決まってるでしょう!!!」

「!!!」

その声の主は、またしても自分の相棒の声だった。

相棒は再び、涙をこらえながらもこう断言するのだった。

 

 

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「ずっと、ずっとここに…箱根にいていいわ!!なんならずっと、私たちのそばにいて欲しいわ!!!」

「奈美子……」

そしてその言葉に続けと言わんばかりに、他のメンバーも次々に口を動かすのだった。

 

「わ、私も同じ気持ちです!!」

「ハルカさん…」

「さっきも言った通り、私は時雨さんに様々なところで助けてもらったんです!!そんな時雨さんが…時雨さんが、箱根を去るなんて…私にとっても辛いです!!」

「は、ハルカちゃん…」

次に声を出したのはハルカだった。

彼女は時雨に見せの事で様々な面で助けてもらったのである。

その恩を彼女はずっと忘れていなかった。

 

「時雨さん!時雨さんは…ずっと、ずーっと、ピットにいてください!なんならずっといるだけで、構いません!!」

「で、でも…」

「時雨さんは箱根の皆さんのために戦ってくれて、それで箱根に現れる前にも、戦争という悲しい経験をされて…!私たちは、本当に助けられたのに…なにも恩返しが出来ないのは、私だって嫌なんです!!」

「ハルカさん…」

「だから、いてください!!ピットに、ずっといてほしいです!!」

「………」

文字通りの迫真の振舞いだった。

ハルカにとっては時雨に対して強いシンパシーを感じていたのであろうという事は、その口調からもよくわかるものだった。

 

「お、俺もそう思うぜぇ時雨ちゃん!!」

「ヒロシ…」

「時雨ちゃんは…何より、俺達の仲間…神風連合の一員じゃねえかよぉ!!そんな仲間を見捨てる事なんて…俺には出来やしねぇよ!!俺だって、世話になった人間には多少は恩返しをしたいってもんだ!!ねえ、トオルさん!!俺と同じこと考えてますよね!?」

「…まあ、そうだな。時雨にはとっても才能があるし、神風連合の唯一無二の仲間なんだ…そんな奴を見捨てる事なんて、俺でもできやしねえよ」

「全くだ!時雨は箱根の救世主という事を忘れた事はずっとあるまい。そんな奴を追い出すことなぞ、私としても許せんのだ!!」

「あたいも同じさ…時雨に出会って、あたいたちも強くなれた…それに、本当の自分をさらけ出せたことにあたいも感謝しているしね…」

「うむ、私も同意見だ。時雨君は箱根で伝説とも言うべき地位を得た。そんな人間を易々と追い出すほど…私だって野暮な人間じゃないさ」

「…みんな……!」

そこにいるメンバーの声を聞けて、奈美子としても少しだけ感極まるものがあった。

すると、ソウイチがある事を口にするのだった。

 

「だが…今回の一件は、我々四天王と、奈美子君や…ここにいる者たちだけの秘密にした方がいいだろうな……」

「先生……」

「うむ…時雨の秘密については、墓場まで持っていくことを約束しよう」

「門外不出ってことだね。あたいも…レディースの過去を隠していたくらいだし、それくらいお安い御用さ」

「ああ…俺達も、当然誰にも言わねーよ」

四天王の4人が同意した中で、ソウイチは再び時雨に対して目線を向けた。

 

「そして時雨君。君には念のためこの病院で1週間の検査入院をした方がいいだろう」

「え…」

時雨にとっては意外な提案だった。

一応筋肉痛がある以上まだ自分はゆっくり休む必要があるとは思ったが、検査入院については想定外だったのである。

 

「念のため、我々と一度カウンセリングを受けたほうがいい…大丈夫、君の秘密については誰にも言わないよ…」

「精神的なもの…ということでしょうか?」

トーコが質問した。

 

「私が怖いと思っているのは、その話が事実かどうかというよりかは過去の経験に対するトラウマ…つまり心理的外傷だ。もしそれが…今後時雨君に何かしらの影響を与えるようなものであるとしたら…私は出来るだけそれを、早めに取り除いておきたいと思うのだ」

「トラウマ…」

「実際、現実の戦争の後に心理的外傷を持ったという人間は少なくなくてね…もし時雨君にその症状があると考えた場合、私としても心配なのだよ…」

「そ、そうなんですね…」

ソウイチの提案に対してハルカがそう言ったところで、時雨は軽くこくりと頷くのだった。

どうやら時雨としても検査入院の趣旨については把握できたようだった。

すると最後の最後、ダメ押しと言うべきかの様にソウイチはこうも言葉を続けた。

 

「だが、今はとにかくゆっくり休んでほしい…それが私からの唯一の要望だ」

「だな…!やっぱり時雨はあの激戦を超えてきた以上、疲れがまだ残っている可能性はあるだろうし…」

「時雨に対しては私も敬意を持っている。だが一番は、その疲労を取り除くことにありだとは思っている…!」

「やっぱりあんなバトルがあった以上、時雨ちゃんが心配なのは俺も同じっすよ!」

「あたいもそう思うよ。時雨、色々話してくれた以上今はゆっくり休みな」

「時雨さん、今はとにかく体調を万全にした方がいいと思います…!」

「そうね…時雨、しばらく休みを取った方がいいわ。あなたは正直働きすぎなところもあるし…」

「……みんな…」

時雨の身を案じた仲間たちは、皆口々に時雨は休むべきだというのだった。

そしてそれらが善意であるという事は、時雨は嫌というほどわかっていたのだった。

 

「時雨、今は…ゆっくり休んでね」

相棒も時雨に対して、そう告げるのであった。

 

「みんな……ありがとう……!これからも…よろしくね…!」

善意を受け取った時雨の目には、自然と涙が出ていた。

要約自分の居場所を見つける事が出来た…自分自身がやっと受け入れられたのかもしれない…そう思うと、時雨は笑顔でありながらも自然と涙を流すのであった。

 

「(ああ、やっと長い雨が降りやんだんだ……僕が戦い続けてきたことは、何も…無駄じゃなかったんだ……!)」

そう思うと、時雨の涙はさらに流れるのだった。

 

 

 


 

 

 

 

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時雨が箱根のドライバーたちに受け入れられる形となった後、ソウイチはワンテンポ置いてこう質問するのだった。

 

「ところで時雨君は…昨日のバトルが終わった直後、ショウ君に質問をしようとしていたね」

「あ……はい」

「たしか、僕を助けてくれたのはあなたなのか…だったかね?そう聞こえたのだが…」

「…はい」

ソウイチにとっても時雨がそう話していたこと自体はしっかりと聞こえていた。

そしてその上でソウイチは疑問を時雨にぶつけるのだった。

 

「君は、ショウ君と面識があったという事かね?」

「……推測になってしまうんですが、僕は皇帝に命を助けられたと思っていたんです」

「命を助けられた、だと?ということはアラタと同じように…」

「はい…僕にとって、皇帝は…ショウさんは恐らく、命の恩人なんです」

「そうだったのか…」

するとソウイチの言葉に次いで、ジュンが疑問をぶつける。

 

「しかし聞いててわからぬのが、なぜ皇帝に命を助けられたという事がわかったのかという事だ。時雨、貴様は何故『皇帝に命を助けられた』と思ったのか?」

時雨にとってその質問は予想できたものだった。

そこに対しても時雨は適切な答えを挙げていく。

 

「…さっき言ったとおり、砂浜に打ち付けられていた僕は、そこにやってきた人に背負わされて…それで、僕はGT-Rに乗せられたんだ」

「……っ!?」

「意識がはっきりとはしなかったけど、GT-Rの助手席に乗せられて運ばれている最中、軽く顔を見た…黒色のジャケットを着た、金髪で端正な男性だった。あと、車の内装についても何となく覚えていたんだ…」

「……」

「しばらくしてジュンから『皇帝が車をGT-Rに乗り換えた』という話を聞いた後…僕は、GT-Rという車がどういうものかを調べた…」

 

「それで、これもその時まで忘れていたけれど…調べている最中に、僕はGT-Rに乗っていた事を、思い出した。そしてその上で箱根近辺でGT-Rに乗っている人間は滅多にいないという話も聞いて、その上でGT-Rの事を調べて、内装についても確認したこともあったから…僕の記憶でも、『似たような車に乗った』と思えたんだ…」

「記憶の中にGT-Rに乗っていたことが覚えていたという訳だな?」

「うん…僕はGT-Rに乗った事、断片的な姿の記憶、そして黒色のGT-Rの走り屋…それらが一致して、僕は『皇帝に命を助けられたのかもしれない』って思ったんだ」

時雨は自分がどうして皇帝を探すようになったのかということを明らかにするように、そう言うのだった。

 

「そうだったのか…だから君と奈美子君は、ショウ君を探して…」

「…はい」

そこで一息ついた時雨は、自分が走り続けてきた理由を断言するようにこう言うのだった。

 

「僕がここまで走り続けてきたのは、奈美子の兄さんである皇帝を探すだけでなくて…皇帝が僕の命の恩人であるかどうかを確かめて、何で僕の事を助けてくれたのか、あとは…皇帝が何故悪事を働いている事になっているのかを……知りたかったからなんです」

「時雨…」

その言葉に、四天王のドライバーたちも納得していたが…驚きを隠してはいなかった。

 

「そ、そういうことだったのか……」

「驚いたよ…時雨と皇帝の間に、そんな因縁があったなんて…!でもだから、あたいが皇帝について色々罵った時に激怒したのか…」

「うん…イズミから皇帝の事について聞いた時にはもう、『僕は皇帝に命を助けられた』って、信じていたからね…」

「…本当にごめんよ、時雨。お前の命の恩人を罵るような事をして…」

「僕はもう、怒っていないよ。皇帝の悪事の数々だって、ジョーカーがやった事だって真相はもう明らかになっているからね…」

謝罪を口にしたイズミに対して、彼女を許すかのように時雨は軽く微笑んでそう言うのだった。

 

「うむ、やはり悪事を働いているという話はジョーカーが原因だろうな…」

「ジョーカーからは色々と聞いたから、そこの部分はわかってる…」

「時雨……」

奈美子はやはり時雨の身を案ずるかのように言った。

 

「となると…事の真相を確かめるためには、ショウ君がいる必要があるのだが…」

「あ……」

ここまで時雨たちはずっと時雨を含んだ8人でずっと話していた。

だが、当の皇帝はその場にいないように思えた。

そう思うと、時雨は声を荒らげるようにこういのだった。

 

「そうだ…ショウさんは…?今まで僕は存在を忘れていたけれど、あの人は!?…っ!!」

「時雨君!」

「も、もう無茶しない!!」

起き上がろうとした時雨だったが、未だに筋肉痛は収まっておらず激しい痛みが彼女を襲った。

すると奈美子が静止を促した瞬間だった。

 

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「………ここに、いる」

そう言って部屋の隅…死角から現れたのは、時雨や奈美子がずっと追い求めていた存在…皇帝こと、ショウだった。

ここまでの話をずっと、ショウは陰に隠れつつも聞いていたのだった。

 

「兄さん…」

「ショウさん…!」

「皇帝よ、様々な事を時雨から聞かせてもらった。だがここまで来た以上、真実を話してくれてもいいのではないか?」

「そうだぜ皇帝!時雨はお前に勝ったんだ!時雨の為にも全てを話してやってくれよ!!」

「ショウ、お前もつまらない意地を張らずにいい加減答えたらどうだ?いつまでも先延ばししていても困るのは時雨だぜ?」

「………」

四天王の呼びかけに対し、無言を貫くショウ。

だがそれにしびれを切らしたのは、何を隠そう真実を追い求めて走り続けてきた時雨本人だった。

 

「皇帝…いや、ショウさん!答えてくれ!あの日砂浜に打ち付けられていた僕を助けてくれたのは……あなたなのか!?」

「兄さん…!」

「ショウ君…!!」

時雨の言葉には言霊があった。

そして皇帝…ショウは遂に折れたかのように、こう言うのだった。

 

「―――フッ、ああ、そうだ。あの日砂浜に打ち付けられていたお前を…時雨を助けたのは…俺だ……」

「……!!!」

「兄さん…やっぱり……!」

遂に皇帝の口から真実が明かされた。

皇帝…ショウは嘗て、波打ち際に打ち上げられていた時雨を助けたのだった。

だが、そうなると更なる疑問が生まれるのは当然だった。

 

「じゃあ…どうして、僕を……?」

「…全て話そう。先生、椅子はあるか?」

「あ、ああ…ここに」

そう言ってショウはソウイチに席をよこすように言った。

部屋の隅に用意されていた椅子をソウイチは、ショウに椅子を渡した。

椅子を受け取ったショウは床に置いたその椅子に座るのだった。

その位置は、時雨の視界から見て左端と言うべきだった。

 

「ジョーカーを追いかけるべく…俺が病院から抜け出したという話は、覚えているな?」

「うん。それでジョーカーを追いかけて関東一帯を…」

「そうだ…」

そこでショウは一呼吸おいて、こう言うのだった。

 

「病院を抜け出した直後、俺は追っ手を振り払ってジョーカーの情報を調べるべく…箱根を一度離れ、丹沢に潜伏していた」

「丹沢…!?失踪したその日のうちに車で箱根から離れていたというのかね!?」

ソウイチが声を荒らげてそう言った。

 

「ああ、そうだ…病院や警察が追っているであろうと思った俺は、一度身を隠すべく箱根を離れ、丹沢の山奥に車を寄せて車中泊をしていた…」

「病院から抜け出した直後には、もう箱根にはいなかったんだ…」

時雨はどこか納得するようにそう言った。

 

「そしてそんな中だ。ジョーカー団の一部が小由原方面にいるという情報を受けた俺は、急いで小由原方面へと向かった」

「……」

「だが、俺が小由原に着いた時点で一足遅かった。俺が小由原近辺を探索しても、既にジョーカー団は悪事を働くべく別の場所へと移動した直後だったんだ…」

そう言ってジョーカーは再び一息ついてこう言うのだった。

 

「ジョーカーの手掛かりを探していた俺は、その時一度休憩を取るべく、小由原の砂浜にいた…だが車を降りて海を眺めていた、その時だった」

「兄さん…まさか?」

奈美子がそう言うと、ショウは断定するようにこう言うのだった。

 

「本当にこれは偶然だった…俺は、砂浜に打ち付けられていたお前を…時雨を、見つけたんだ…」

「―――!」

「じゃあ、やっぱりあんたは時雨ちゃんに…!」

ヒロシが驚くように言うと、ショウはまた言葉を続けた。

 

「…その時の俺は、病院から…いや、下手したら警察からも追われる身だ。だが何としても彼女の事を助けたい…その一方で警察などから追われているのであるならばその追跡を一刻も早く撒く必要があった…ものの5分の休憩とはいえ、直ぐに去るべき必要がある事は俺でもわかっていたんだ…」

「…そこで、僕を助けたんだね」

「ああ…俺は時雨を背負い、その場から逃げるかのように時雨をGT-Rの助手席に乗せ、移動させた…」

「それでGT-Rに…乗せたんですか?」

質問したのはハルカだった。

 

「ああ…だが移動しようとした直後、ある情報を受け取った俺は…更に急がなくてはならないと思ってしまった」

「その情報って…一体?」

「ジョーカーたちが山梨方面へと向かっているという情報だ…」

「―――!」

そう、ジョーカーは関東一帯に加え山梨や静岡の一部でも悪事を働いていた。

その事を考えるとジョーカーが山梨方面へと向かうのは半ば当然と言えば当然だった。

皇帝は更に言葉を続ける。

 

「……病院からの追っ手を振り払うべく、俺は箱根を避け…南足柄経由で北上していった」

「箱根を避けて東側を移動したという訳か…」

ソウイチが納得しつつそう言った。

 

「その時俺は、ジョーカーを追いかける事に必死になっていた。だが必死で車を飛ばす中で、ある事に気が付いてしまったのだ」

「それって…」

「助手席に乗っている少女の存在だ……」

「…僕、だよね?」

「ああ…そうだ。偽皇帝…ジョーカーとの戦いに、突如として倒れていた少女を巻き込むことは、到底俺にはできない…だが病院関係者や警察の追っ手を一刻も早く振り切り、早急にジョーカーたちの元へ向かいたい…俺はその気持ちを天秤に賭けざるを得なかった」

「それで…まさか?」

トオルが何かを察したかのようにそう口にする。

するとショウはその結果をポツリと語るのだった。

 

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「そして天秤にかけた結果…俺は一刻も早くジョーカーを追跡する事を優先し、彼女の存在が足枷にならぬよう、一刻も早く車から降ろしたいと考えた。そして俺は…その時偶然見かけた、山奥のバス停の待合室小屋に、時雨を置き去りにしたんだ…」

「なんと…!」

「つまり駅や病院、警察とかに連れて行かなかったのも、結局はジョーカーを追いかける事を最優先にしたためだったという事かよ…!」

「……ああ、そうなる」

イズミの解釈に対してショウの口調は明らかに先ほどまでよりトーンダウンしており、彼自身明らかに後悔しているかのようだった。

 

「そうだったんだ…そうだったんだ、ね…」

だが、ショウの告白に対して時雨は自然と怒りや悲しみと言った感情は抱かなかった。

ショウがずっと追いかけていたジョーカーの存在の事を考えると、自分を置き去りにするというのも決してわからない選択肢ではなかったと思えたからである。

するとそれに対し、ショウは時雨に目線を合わせてこう言うのだった。

 

「本当に迷惑をかけてしまったな…時雨。俺は本当は病院とかに運ぶべきだったというのは分かっている…だが病院から抜け出した俺に、そこや警察に駆け込むという事を考える余地はなかった…本当にすまなかった」

「ショウさん…」

皇帝…ショウ直々の謝罪だった。

時雨にとっては「事情を察しているからそこまで罪悪感を抱くほどのものではない」とは思っていたが、ショウは明らかに時雨に対して申し訳なさそうな態度をとっているのは、ベッドに寝ている時雨でもわかったのだった。

すると謝罪したショウに対し、トオルがある質問をぶつけた。

 

「しかし、だったら他の病院に連れていくのもありだったんじゃねえか…?なんでそこまで病院に連れて行かなかったんだ?」

その質問に対し、ショウはトオルに目線を合わせてこう回答するのだった。

 

「…俺は、葦柄病院が他の病院に既に連絡して包囲網を形成していると思っていた…もし葦柄病院から別の病院に連絡が入ってしまった場合、時雨共々病院に駆け込んだら俺は強制的に入院対象となって、ジョーカーを追いかけることができなくなってしまう…そう考えたんだ。その時ジョーカーへの怒りと復讐で心が満たされていた俺は、絶対に病院に行く事は出来なかったんだ…」

するとその言葉に、事情を察したかのようにソウイチがこう言った。

 

「私たちが他の病院に、君の事を伝えていると思っていたのか…」

「ああ…だが実際は病院の不祥事がバレる事を恐れて情報が洩れる事はなかったというのは聞いた。今考えてみれば、本当に病院に連れていくべきだったとは俺も後悔している…」

「ショウさん……」

「そ、そんなことがあったのかぁ…」

「本当に…本当にすまなかったな、時雨…」

ヒロシの言葉を気にしないかのように、ショウは時雨に顔と目を向けてそう言うのだった。

その顔はそれまで以上に罪悪感に溢れていた。

 

 

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「僕は…怒っていませんよ」

「時雨…」

すると、ショウを許した時雨はある持論を展開した。

 

「結果論にはなるけれど、皇帝が…ショウさんがあの小屋に僕を置いて行ってくれなければ、僕は…奈美子やハルカさん、ヒロシやトオルと言った…みんなに会う事は、絶対にありえなかったと思うんだ」

「ーーー!」

「そう考えると、僕がゼロからやり直す大きな切欠になったと…僕は思っているんだ」

「時雨…」

そんな持論を伝えた時雨は、直後にこう言うのだった。

 

「ショウさん……砂浜に倒れていた僕の事を助けてくれて、本当に…ありがとう」

「……」

にこやかな顔でショウに感謝の言葉を伝えた時雨。視線をそらしたショウは無言だったが、どこか照れ隠しをしているのは時雨でもわかった。

どうやら意外とショウは素直になれない人間なのかもしれない…そう思うのだった。

するとそのまま、ショウはこう言うのだった。

 

「しかし…俺もまさか、俺が命を助けた奴に『皇帝』の座をかけたバトルで負けるとは思っていなかったよ」

「僕も…本当にここまでこられるとは、思わなかった。でも、僕はとっても満足しているんだ。あの時の真実をみんな知れて、それに僕自身のことも色々向き合うことが出来たからね…」

「フッ……そうか。お前さんが満足しているなら…俺としては何よりだ…」

ショウはどこか表情が緩んだかのようにそう言って席を立ち、ソウイチに目線を向けたショウはこう言うのだった。

 

「ショウ君?」

「…先生、時雨、もういいか?俺が話せることはこれくらいだ…」

「あ、ああ…私は確かに。君が時雨君を助けた真相も明らかになったからな…」

「僕も、十分だから…」

「…ショウさんよぉ、何処に行くんだ?」

去り際にヒロシがそう質問する。

するとどこか受け流すかのように、ショウはこう言った。

 

「フッ…少し、外の風を浴びてくるだけだ」

「兄さん…」

そう言って立ち去ろうとするショウ。

するとある事を思い出したかのように、イズミが待ったをかけた。

 

「…忘れてたけどショウ、ここであったことについては誰にも口外するんじゃねえぞ?時雨はそれを条件に、あたい達にすべて話してくれたんだ。もし誰か他の奴に話したら…それこそあたいがシメてやるからな?」

「フッ…安心しろ。俺自身この秘密は墓場まで持っていくつもりだ…」

「…ならいい」

イズミはその言質を取ったことを確認し、帰る事を許すのだった。

すると時雨の目の前で立ち止まったかと思いきや、彼は静かにこう言うのだった。

 

「時雨…迷惑をかけて本当に済まなかった。今はゆっくり、休んでくれ…」

「ショウさん……」

ショウの姿を見守る時雨。すると、最後の最後に彼女はこう言うのだった。

 

 

 

「ありがとう…僕を、助けてくれて…」

 

 

 

「……」

軽く微笑んだ時雨の感謝の言葉を聞いた直後軽く表情が緩んだかと思いきや、ショウは一人病室を後にしたのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――葦柄病院地下駐車場へのエレベーター内。

見舞いを済ませたショウは、一人悶々とした気持ちでこう思っていた。

 

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「(結局、俺から彼女に真実は言えなかったな…俺が時雨を助けた本当の理由を…時雨が何故、俺の前に現れたのかという推測を…)」

下に降りていくエレベーター内で、ショウは少しだけ後悔していた。

 

「(だが、俺の話というのは…時雨がこれまで話していたこと以上に、とても信じられないものなんだ…公の場で話す事なんてできまい)」

 

「(時雨……お前はいつも俺の前に立ちはだかってくれたよな。そして俺から皇帝の座を奪ったお前は、過去と向き合い…艦娘という鎖から解放され、新たな人生を始めようとしている)」

そう、ショウにとっては先ほど話した時以上の深い因縁があるのである。

だがそれに関しては、今書くべき内容ではないので割愛させていただく。

 

「(お前がそういう奴であるというならば…俺は、お前を助けたい。お前の望みを…叶えてあげたい。奈美子が…妹が世話になった以上、俺は…そう思っているんだ……そしてそれが、俺自身がその過去から逃げて向き合わなかったことによる原罪への罪滅ぼしになるというのならば…)」

目的の階に止まったエレベーターから降りたショウは、愛車のMY24GT-Rの元へと向かって乗り込み、そのまま駐車場を去るのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――同時刻、時雨が入院している病室。

 

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「時雨君…改めてだが、これから君はどうするんだ?しばらくは箱根にいたいとは君は言っていたが…」

ソウイチは確認を取るために時雨に対してそう質問していた。

その質問に対して、時雨の答えは既に明確なものとなっていた。

 

「しばらくは、『ピット』の従業員として働いていきますよ。僕自身が全てに向き合うまでは…僕にとっても、まだ時間がかかるかもしれませんが…」

「時雨さん…」

するとソウイチはある事も伝えるのだった。

 

「君も忘れているかもしれないが、あのRZ34はどうする?私はもう、君に譲っても構わないのだが…」

「せ、先生…あのRZ34、本気で時雨ちゃんにあげちゃうのかよぉ!?」

「ああ…あの車を操れるような人間は、時雨君しかいないと思っているからね」

すると、時雨はその事に対してこう言うのだった。

 

「…先生、病院と僕の共有のものにしていただく事って、出来ませんか?」

「ん?というと?」

「あのRZ34は、僕が皇帝と戦う1週間だからなんとか維持する事が出来ました…でも、それが終わって僕に譲るという事は、僕が全て維持費を見る必要があるという事ですよね?」

「ああ…そうなるな」

「知っての通り…全てを失った状態で箱根にやってきた僕には、まだ数か月しか経っていない以上そこまで維持できる余裕がありません…ハルカさんの下で住み込みで働いている以上お金自体は多少はありますが、僕にはただでさえワンエイティもある…それ以上に工面する事の出来るお金はないように、思うんです。どちらかを維持する以上、どちらかを手放す必要がある…でも、あのRZ34も素晴らしい車なのは…僕が一番分かっています」

「む、そうか…」

「僕は出来れば、普段の生活ではワンエイティの方に乗っていきたいなって…思ったんです。あのRZ34は、僕が本当に必要になった時に…それこそまた、ジョーカーの時みたいに箱根に何かしらの危機が起きた時に…それこそ、最後の切り札にしておきたいんです」

「時雨さん…」

「そうか…わかった。では、あのRZ34は我々葦柄病院の財産という事にしておこう。だが…時雨君にはスペアのキーを渡しておく。あのRZ34は、もはや君のものであるとと思ってくれていて構わない…何時でも、使いに来なさい。だが使う際は事後でもいいので、私やマシンヘッズの幹部陣に一言だけ使う旨を伝えておいてほしい…」

「先生…!」

「…ありがとう、ございます。もし…僕があの車を維持できるくらいになったら…それこそ、僕が引き取ろうと思います」

「うむ、わかった…」

 

だが、そう言ったところでところで時雨はさらに言葉を続けた。

「先生…もう少しだけ、僕は話したいことがあるんです…いいですか?」

「む?別に構わないが…何かね?」

 

そう言って時雨は軽く呼吸した後、自分のことを話すかのようにこう言葉を続けた。

「…僕は箱根において何百回、下手したら千回近くバトルをこなしてきて…ずっと車に乗って走り続けてきて…色々と考えた事が、あるんです」

「時雨…?」

「ほう?それは一体…」

ジュンの言葉に答えるように時雨はこう言うのだった。

 

「ずっと走り続けてきて…僕は、車を走らせる事が、車を知る事が、車を弄る事が…好きなんだなって、僕は思えたんです」

「時雨…」

車を走らせることが心から好きであるという気持ちと、ようやく向き合えたかのような表情をする時雨。

その顔…特に瞳はどこか達成感と共に、新たな目標へと挑戦したいという意志を秘めていた。

そして時雨は、病室にいる仲間たちに対してこう明言するのであった。

 

「その気持ちがある以上…僕は、自分の走りが…ここまでずっと磨いてきた自分の技術が…どこまで通用するか…僕自身で、試してみたいなって、思ったんです」

時雨の目ははっきりした状態で、まるで宣言するかのように確かな願望を口にしたのだった。

 

 

 


 

 

 

―――入院4日目。午前11時34分。

検査入院も兼ねて1週間の入院となった時雨。

窓の外の景色を見て茫然としているだけだった。

外の景色は晴れ渡っており、太陽の光が部屋にも差し込んでいた。

 

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「(全てが終わって、まるで張り詰めた糸が切れたかのようにボーっとしている…それにまともになったとはいえ、体を動かすとまだ少しは痛みがある…)」

筋肉痛は収まりつつあったが、時雨の意識はボーッとしていた。

文字通りの燃え尽きとも言ってもいい状態であった。

すると白い天井だけを静かに見ていたのだったその時だった。

 

「…はい」

誰かがドアをノックしたことに気がついた時雨は、それに対して入室を許可するように返事をした。

 

「時雨!」

そう言って現れたのは、時雨もよく知る相棒だった。

 

「奈美子…来てくれたんだね」

「ええ、勿論!それに今日はね、時雨に会わせたい人がいるから連れて来たの」

「え…僕に?」

「ええ……入って良いよ」

すると奈美子が視線を向けた先から、白髪のダンディな男と…見舞いの花束を持った奈美子と同じ髪色をした女が現れたのだった。

 

「ほう、コイツが奈美子の、ねえ…」

「あらダメよ、そんな言い方しない!」

男が時雨に興味を持ったかのように思いきや、奈美子に容姿が似た女性が突っ込みを入れる。

どうやら、奈美子の関係者のようだが…?

 

「紹介するわ、私たちのお父さんのヒュウガと、お母さんのミナコよ」

「初めまして、ヒュウガだ…奈美子と翔が世話になったな。ま、俺達の事もよろしく頼む」

「ミナコよ。奈美子と翔の件は色々とありがとう。よろしくね」

「あ…西野、時雨です。宜しくお願いします。」

「よろしくな…とりあえず先に、この花束はそこの花瓶に入れればいいか?」

「あ…はい」

「ちょっと失礼…」

そう言ってヒュウガが時雨のそばの机に置かれている花瓶を取りに向かい、美奈子が持っていた花束を花瓶に入れて再び机に置いたのだった。

 

「よし、これでいいか…」

「あ、はい」

「奈美子から色々あった事については聞いているわ。その節は本当にお世話になりました」

「いえ…僕は、大したことは…」

「謙遜することないわよ、時雨!あなたは私たちの大切な兄さんを連れ戻してくれた…本当に感謝してるんだから」

「そ、そうなのかな…」

時雨は照れ隠し気味にそう右手人差し指で頬をポリポリさせて言った。

 

「しかしまー、こんな突然現れた女の子に『皇帝』の座を奪われるとは…アイツもまだまだだな」

「そうねえ…伊達に『皇帝』なんて名乗っていてそれで敗れるなんて、こんなカワイ子ちゃん相手に油断でもしてたのかしら?」

「(お父さんもお母さんも兄さんに対して辛辣だなぁ…まあ、一人家を出て勝手にやっていて多少は心配させたところもあるから、そこらへん恨み節の一つや二つ仕方ないところもあるのかもしれないけど…)」

奈美子が呆れ気味に思っていると、時雨はショウの事をフォローするようにこう言うのだった。

 

「いや、その…僕は、ショウさんに勝ったなんて思っていませんから…」

「ん?バトルの結果はお前さんがギリギリの戦いを制したって聞いたんだが?」

「それは…そうなんですが、僕が乗っていた車は…いろんな人の助けがあっての車だったので…」

「…お前さんの力で勝ったという訳じゃない、って事か?」

「僕は…そう思いますね」

時雨は謙遜するようにそう言うのだった。

 

「そうなのね…」

「んで?お前さんの体調はどうなんだ?ケガで入院したって聞いてはいたけど…」

「あ、僕の怪我自体はもう経過観察だけで…あと2、3日もすれば退院できるみたいなんです」

「そうか、なら怪我も大したことが無かったのか。そりゃ何よりだ」

「フフ…意外と怪我の治りも早いのね。流石『皇帝』の座を掴んだだけはあるかしら?ハハハ!」

「あ、はは…」

「もう、母さん!冗談言わない!時雨が困ってるでしょ?」

ミナコが冗談を言う中、ヒュウガは部屋の壁の時計を見てある事に気が付いた。

 

「おっと…3人とも悪いが、俺はもう行かないといけない」

「え…もうですか?」

「全く…相変わらず時間に余裕が無い人なこと!」

「…やっぱり、行っちゃうの?」

「ああ…もうあと1時間もしないうちに富士スピードウェイに行かなくちゃいけなくてな…」

「そうなんですね…忙しい中、ありがとうございました」

ヒュウガの事を察した時雨が、そう礼を言った。

そう言ったところでヒュウガは既に去る準備をしていたのだった。

 

「じゃあ、邪魔したな。体を大事にして、奈美子とうまくやってくれよ!」

「あ……はい」

そう言ってヒュウガは急ぎ足で病室を出ていったのだった。

 

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「全く…少し時雨に声をかけたからって、すぐ行っちゃうなんて…」

「まあまあ、あの人も走る事が好きなんだから…」

奈美子が呆れ気味にそう言ったのに対し、ミナコはどこか「あの人の事だから」と達観しているように言うのだった。

部屋には時雨、奈美子、ミナコの3人が残された。

すると時雨が奈美子に対してヒュウガの事を質問する。

 

「ヒュウガさんは…何時もあんな調子なのかい?」

「ええ。いつも世界中からひっきりなしに仕事が入ってくるから、本当に忙しいのよ…」

「忙しい?…何者なんだい?ただ者じゃないっていうのは、僕でも何となくわかったんだけどさ…」

「すごく腕利きのテストドライバーなのよ。詳しくは知らないけど、まあ世界中から引く手あまたってところよね」

「走り屋、なんですか?」

「元走り屋、というべきかしら。今は企業に属さないフリーのテストドライバーって言ったところね」

「テストドライバー……」

「お父さん、正式販売前の車に乗れるからって、そう言う理由だけでテストドライバーになって…でも、かなり腕利きだって話も、私は聞いてるわ」

奈美子はどこか説明するようにそう言った。

すると、夫婦仲を気にするかのように時雨はこうミナコに質問した。

 

「あの…ミナコさんは、寂しかったりしないんですか?」

するとその言葉に、ミナコはどこか分かっているかのようにこう答えた。

 

「そりゃあ、時々寂しくなる事もあるけれど…奈美子がいつも近くにいるから、ずっと寂しいって訳じゃないわ。それに、約20年間同じ感じの生活だからもう慣れちゃった」

 

「え…20年……!?」

20年も前から似たような生活だったという事に時雨は驚きを隠せなかった。

結婚しているとはいえ、やっている事は殆ど遠距離恋愛。

そう考えるとよく夫婦永を維持できるなと思わざるを得なかった。

すると、ミナコは自分たちの過去を話すようにこう切り出した。

 

「私とヒュウガは元々同じ会社に勤めていて、それでヒュウガがテストドライバーとして独立する、っていうから…私もついていっちゃったのよ」

「同じ会社に勤めていたんですね…」

「ええ。最初の仕事で物凄い実績を挙げたヒュウガは、その後世界中から依頼が殺到して…前の家の敷居を1歩も踏まなかったわね。今の家の敷居も1回踏めてるか踏めてないかくらいなんじゃないかしら?」

「そんなに多忙なんですか…?」

「ええ…帰ってくるのも年に1回あるかないか。まあ仕事の報酬のお金は常日頃から入れてくれるし、生活に困る事は何もないわ」

「本当、心配をかける人よね…呆れちゃうわ!」

奈美子はヒュウガに対して呆れ気味にそう言うのだった。

するとミナコは言葉を続けた。

 

「でもそんな旦那に対して私は、10年ほど前にある提案をしたのよ」

「提案?」

「箱根に移住しよう、って」

するとその言葉に、時雨はある事を思い出していた。

 

「それは…富士山の噴火があったから、ですか?」

「ええ、そういったところね」

「…!」

10年ほど前の富士山の噴火。

被害自体は大したことが無かったが、それでもやはり自分たちが通い詰めていた箱根の悲惨な状況に心を痛めたという。

 

「当時ヒュウガは、電話越しだけど…富士山が噴火して、被害を受けていた箱根に胸を痛ませていたわ。それで旦那は『俺たちに何かできる事はないだろうか』って、伝えてきたの」

「10年前の富士山の噴火が、ここにも…」

時雨としてはここでその話を持ってくるのかと驚きを隠せなかった。

 

「そこで私は、『私たちが出会うきっかけにもなった箱根の地に移住しよう』って、提案したのよ」

「え…じゃあ、箱根への移住は、ミナコさんの提案だってんですね!」

「ええ。元々ショウと奈美子を生む前までは箱根に住んでいて、翔と奈美子を生むことを切欠に今後の事を考えて東京に移住していたけど、富士山の噴火の際にはもう彼女たちもある程度の年齢になったからね…翔がインターナショナルスクールの寮生活をするからって家を離れて、奈美子も小学校を卒業する丁度いい節目だったからね。困ってはいなかったとはいえ家賃もそれなりに高かったし…」

ミナコはつらづらと自分たちの過去について話すようにそう言った。

嘗てショウと奈美子を生む際に環境の事を考えて東京へと移住していたが、そのショウがインターナショナルスクールで寮生活を初めて奈美子もある程度の年になった為、キリよく箱根へと移住したのだという。

 

「箱根の方もインフラが復興と共に充実し始めていたって言うのもあるからね。あとは車とかも補助が付いて安く買える、って思えたのもあるわ」

「色々な事を考えて、箱根に移住したんですね…」

「ええ。まあ旦那も箱根には色々と思入れがあるからその提案は快諾してくれたし、あとはそこからはトントン拍子ってところかしら」

「お母さん…でも今何で、その話を?」

奈美子はここでどうして自分の過去を語っているのかが疑問でしかなかった。

 

「え?まあ…話題が思い浮かばなかったからね。ま、たまには自分語りもしたいって気分でもあったし!アハハ!」

ミナコはどこか苦し紛れ気味にもそう言うのだった。

 

「は、はは…」

「んもう、時雨が困っているじゃない!全く…お父さんもそうだけど、お母さんも先走りすぎなのよ…」

奈美子は呆れ気味にそう言うのだった。

 

「僕は…気にしていないよ。僕も何で箱根に奈美子たちが住むようになっていたのか気になっていたから…」

時雨は軽く微笑んでそう言うのだった。

 

「時雨ちゃん、色々と話してごめんね。もし何かあったらうちに来てほしいわ」

「ミナコさんの家に…ですか?」

「ええ!ショウを連れ戻してくれた分何かしらのお礼がしたいのよ」

「あっ、そうだ!だったら退院祝いも兼ねて軽くパーティしましょ!」

「それいいわね!時雨ちゃん、あなたも来るでしょう?」

そうして奈美子とミナコは意気投合するかのようにそう言うのだった。

 

「そ、そうですね…では、退院してちょっとしたら…是非」

「ええ、待ってるわよ!お母さん、料理にも自信があるからね!」

そうミナコは自信ありげに言うのだった。

 

 

 


 

 

 

―――数時間後、Dr.ソウイチの自宅自室。

推奨BGM

 

『僕は―――』

 

机に向かいつつ椅子に座り、時雨の証言の録音を聞くソウイチ。

イヤホンで聞いていたが、一度外してノートに様々な考察を立てていた。

「(時雨君の話はにわかに信じがたいが、支離滅裂というわけではない…彼女の話に破綻はなく、一本の線で結ばれているのは私でもわかる…)」

 

ソウイチはインターネットでの検索結果をパソコンで確認しつつ、一人こう呟いた。

「駆逐艦時雨…スリガオ海峡海戦に参戦し、戻ってくることが出来た唯一の軍艦…幸運艦とも呼ばれている…」

 

幾多の戦いを乗り越えてきた幸運艦、佐世保の時雨こと駆逐艦時雨。

それと同じ名前を持つ少女が、今自分の近くにいる。

だがその話は一部が史実と異なるものであった。

 

「(時雨君の話では…スリガオ海峡海戦においては、我々の史実においては轟沈した、最上が無事に戻ってくることが出来たという。いやそれだけではない。僚艦である満潮、朝雲、山雲、扶桑、山城…皆、スリガオ海峡に沈んだとされているが、時雨君の話では…『戦えなくなったが戻ってはこれた』という…これは一体、どういう事だ…?)」

史実では時雨以外誰も戻ってくることが出来なかったスリガオ海峡海戦。

その史実と時雨の話を重ね合わせて分析する。

 

「(1944年、10月………枢軸連合両海軍共に多大な数の艦艇が参加した戦い、レイテ沖海戦があった年。そして時雨君が参戦したであろうスリガオ海峡海戦も…その1つ。年月も、戦闘海域もほぼ一致しているが、主力艦隊が間に合った、生きて帰ってこれたなど結果は異なる……一体どういうことなのか?)」

現実においてスリガオ海峡海戦では、西村艦隊は時雨以外誰も戻ってくることが出来なかった。

だからこそ違和感しかないのである。

 

「(そして1945年4月、坊ノ岬沖海戦…戦艦大和が沈んだとされるあの戦いに、本来そこにいないはずの時雨君がいた…さらには、異国の救援部隊の存在)」

史実ではそれ以前の1945年1月、史実の時雨は潜水艦の魚雷を受けて沈んだ。

だが、艦娘の時雨はそれを乗り越えて輸送作戦を成功させた。

それでも最終的に坊ノ岬沖海戦と思わしき戦いで時雨は…いや、多くの艦娘たちが命を落とした。

 

「(我々の歴史ではアメリカを中心とした連合国と戦っていた以上、連合国軍の支援なんてものは…そんなことは有りえないはずだ…だがやはり、相手が深海棲艦だったということもあるのだろうか?だがそうだった場合、深海棲艦は…連合国軍の艦艇をもしたものではないということだろう。しかし………だとしたら、深海棲艦は本当に何者なのか?深海棲艦の正体は…一体?)」

謎が謎を呼んで止まなかった。

 

「(艦娘や深海棲艦という存在がある以上……我々が信じる事の出来ぬ兵器がある以上、彼女がパラレルワールドの人間だといえばそれまでかもしれないが…時雨君は、本当にパラレルワールドの人間なのか?それとも…精神的な病なのか?)」

パラレルワールド理論。

時雨はもしかして自分たちが知らない他の世界や次元からやってきたのではないか?

そんな考えもよぎった。だが実際その考えはありえなくはなかった。

深海棲艦や艦娘の存在。そんなものは現実にいるはずがないのである。

だが、実際に現実にいないからと言ってパラレルワールドと決めつけるのはあまりにも安直な発想であるという事についてはソウイチ自身が嫌というほど理解していた。

そして安直に精神異常者と決めつけるのは、パラレルワールドの人間と決めつける以上にソウイチにとっては嫌だった。

 

「(はたまたひょっとして、我々が知っている常識は上書きされたものなのか?)」

遂にソウイチは自分が知っている常識や歴史すら疑い始めた。

もし、自分が知っている情報が全て間違えだったとしたら…

だがそれでもそれはソウイチにとっても更に信じられないものであった。

 

「彼女のことを信じないわけにはいかないが、どうすればいい…?どう言えば良い…?」

史実を疑えない、パラレルワールドの人間と決めつけることも出来ない、精神異常者と決めつける事はもっとできない…

もはや一人自分の世界…袋小路に入りかけていたその時だった。

 

「パパー?いるー?」

ノックの音がドアの向こうから聞こえた。

その声の主は、自分の息子であるアラタであるのは明らかだった。

渋々ソウイチはドアを開けた。

 

「アラタ…何だ?私は仕事中なのだが…」

「ごめんごめん、実はちょっと気になる話があってさ…5分だけいい?」

「気になる話?」

そう言ってアラタはポケットのスマートフォンを取り出して操作し始める。

 

「実はパパ、ネットの掲示板を眺めてたら興味深いトピックが見つかってさ…」

「興味深いトピック?」

そう言ってアラタがスマートフォンの画面を見せると、そこにはあるものが映っていた。

 

推奨BGM

「え……?これは、一体……」

ソウイチが愕然とするのも当然と言えば当然だった。

何せそこに映っていたのは、自分がよく知る…箱根の皇帝になったあの人物だったのだから。

 

「これ…どっからどう見ても時雨さんなんだよ…」

「この画像は一体……?」

アラタはその画像に映っていた人物が時雨であると決めつけていた。

まあ当然と言えば当然だろう。ショートヘアに三つ編みに先端にリボンを付けている黒髪の、アホ毛を付けた少女なんて滅多にいない。

ソウイチ自身、そのキャラクターの正体は時雨だと疑わなかった。

するとアラタは再びスマートフォンを操作し、あるサイトを表示させるのだった。

 

「アーカイブって形なんだけどさ、もう十年程前にこんなゲームがあったみたいなんだ…」

そう言ってアラタは再びスマートフォンの画面を見せた。

そこには…そのゲームのロゴが表示されており、それを見たソウイチはそのゲームの名前を静かに口にしたのであった。

 

 

 

 

「艦隊、これくしょん………?」

 

 

 

 

そうソウイチは呟いて愕然とするのだった。

そのサイトに複数載っていたキャラクターのうち、その1つに映っていたのは…文字通り異形の存在と戦う、時雨の姿そのものだったのだから。

(Epilogue1End。Epilogue2へ続く。)

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