「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

38 / 40
エピローグ2話です。
更に暴かれる時雨の真実。
そして物語は最終盤へ…


Epilogue.2「Someday At That Sea -The Past-(いつかあの海で -過去との対峙-)」

―――時雨は遂に記憶を取り戻し、皇帝と時雨の因縁は暴かれた。

過去と記憶に対して1から向き合った時雨は、箱根で生きていくことを決める。

その上で彼女は、「自分の実力がどこまで通用するのかを確かめてみたい」と語るのだった。

だが、そんな中で…皇帝ことショウが隠していた事が、彼自身の手によって明かされようともしていたのだった…。

これは、愛に生きた一人の男の物語の顛末と、それに翻弄された少女の1つの軌跡。

最終章、開幕。

 

 

 

推奨BGM

―――時雨が病院から退院してから数日後。

時雨は退院してからピットの従業員…正規店員として車の整備に携わっていた。

皇帝との勝負に打ち勝ち、相棒の兄を取り戻した先に待っていたのは…平穏無事な日々だった。

 

「どれどれ…えっと、これは…」

2柱リフトで上げられたアルトワークスを下から覗き込み、細かい部分の点検を行うツナギ姿の時雨。

整備士の資格はないものの、ある程度の部分までは時雨自身でも整備できるようになってはいたのだった。

 

「時雨さん、かなり仕事を覚えて来ましたね。もういっその事整備士の資格取っちゃいませんか?私も二級なんですが、三級くらいならあと半年くらいすれば取れちゃいますよ。でも、実務は必須ですけどね」

「そうなんだ…車の整備については、僕も興味はあるかな。きっと、役立つと思うからね」

ハルカのアドバイスを受けつつも自動車整備の仕事をコツコツとこなしていく時雨。

だが彼女が自動車整備をコツコツやるのにも大きな理由があった。

それこそが「自分がどこまで通用するのかを確かめたい」という事に深く関わる。

どこまでいけるか…という事については様々な意見があると思うが、時雨は自動車競技の事を色々と聞いていた。

その中でも公認されたサーキットで行われるレースには、時雨も興味があった。

そのレースというのは、大小さまざまなものが含まれるらしく、速さを競うものからドリフトの美しさを競うものまで様々。

時雨自身は現状最低限のライセンスしか持っていないので良くても草レース…所謂「サンデーカップ」や「アマチュア選手権」といったものくらいしか出られない。

それでも彼女がそれらの大会に出るというのであるならば、彼女は自分自身の車を自分自身でメンテナンスできるようにしておきたいと考えていたのだ。

実際にレーサーなどでも自動車整備が出来る人間というのは少なくはない。だからこそ時雨は、「自分の車は自分で整えるようにしたい」と願うのだった。

だがそれでも整備士の資格というのは車の免許の様にホイホイ取れるものではない。

高校、大学を卒業した者では最低限1年以上実務をこなす必要があるのである。

時雨はピットにおいて、その実務へとコツコツと取り組むのであった。

 

「(今までは、ずっと整備をハルカさんに任せているところもあったけれど…『皇帝』の座を継いでしまった以上そうはいかない。最低限自分のマシンは整備出来るようにしておかないと。やっぱり何から何までハルカさんや奈美子に任せる事は、出来ないからね)」

するとマシンを整備していたその時だった。

ガレージの呼び出しブザーが鳴った。どうやら客のようだ。

 

「…お客さん?」

「私出てきますね。ちょっと作業しててください」

そう言ってハルカが店先へと向かう。

時雨は一人取り残されたが、黙って作業を続けるのだった。

 

推奨BGM

「いらっしゃいませー!…あっ、あなたは!」

「…こんにちは。時雨さん、いますか?」

ピットの店先にいたのは…時雨もよく顔を知る顔なじみの赤髪の少年だった。

 

「いますけど、何か用ですか?」

「ちょっと話があってね…もしいるなら、少し話があるから呼び出して欲しいだけど…」

「いいですよ、ちょっと待っててくださいね」

そう言ってハルカは整備ガレージの方へ戻ってきた。

 

「時雨さん、アラタさんが…」

「えっ?僕に用が?」

「はい…」

「…すぐ行くよ」

そう言ってツナギを着た時雨はそのままショップの入口へと向かうのだった。

 

「アラタさん、連れて来ましたよ」

「やあ、久しぶりだね」

「時雨さん!ご無沙汰してます」

そう言って赤髪の少年…アラタは深々と頭を下げた。

 

「僕に用があるって聞いたけど、何かな?」

すると時雨のその言葉に、アラタは頭を挙げて要件を話し出した。

 

「実は…どうしても、時雨さんに見てもらいたいものがあって来たんです…でも今は仕事中ですよね?」

「うん…そうだね」

「じゃあ、今日の6時以降って空いてますか?」

「6時以降?別に問題ないけど…」

「そうか、よかった。ならまたあとで伺いますね」

「え、行っちゃうの?」

「ええ、大学のサークルもあるので…あ、奈美子さんも呼び出しておいてほしいです!」

「奈美子も?う、うんわかった」

「じゃ、またあとで!」

時雨の同意を取れたところで、アラタは足早にピットを去っていったのだった。

 

「何だったんだろう?」

「さあ…」

足早にDC5インテグラに乗って去っていったアラタに対し、時雨は疑問しか浮かばなかったのだった。

一体何を見せようとしてたのだろうか?

ともあれ約束の時間まではまだ時間がある以上、二人は再び仕事に取り組むのであった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――夕方6時半、カーファクトリーピット。

推奨BGM

 

「…で、アラタ君が来るって約束だけど」

「もう時間は過ぎてるね…」

時計は既に6時半を過ぎており、約束の時間は過ぎていた。

店先で既に仕事を終えていた時雨、ハルカ、奈美子の3人が待つ。

 

「…本当に来るのかな」

「どうでしょう…あの人も大学生なんですよね?」

「たしかそうだったはず…あら?」

3人が話をしている中、VTECのエンジン音が響いてきて駐車場で止まった。

どうやら当の本人が現れたようだ。

 

「…来たみたいだ」

そう時雨が言ったところで、店先に当の赤髪の少年がやってきたのだった。

 

「こんばんは、遅れてすいません」

「アラタ君!」

「来たね…僕に用って?何か見てもらいたいものがあるって、聞いたけど…」

「ええと…そうなんです。実は、これを…」

そう言ってアラタがカバンの中から取り出して3人に見せたのは、1枚のDVDケースだった。

 

「これは…」

「DVD?アラタ君、これは一体?」

時雨と奈美子が疑問に思い、質問する。

するとアラタはこう言うのだった。

 

「実は…3人にはこのDVDの映像を見てもらいたいんです」

「これの…?」

「一体、何が映されているって言うんですか?」

「それは…ちゃんと説明しないと、色々と訳が分からなくなってしまうと思うんです」

「訳が分からなくなる…?どういうこと?」

「説明すると長くなるので…DVDプレイヤーとかありますか?」

アラタはどうやらこのDVDの映像を3人に見てもらいたいようだ。

 

「えっと…DVDプレイヤーならありますが」

「あります?よかった、じゃあそれをお借りして一緒にご覧になって欲しいんです」

「は、はあ…わかりました。じゃあ、私についてきてください」

そう言ってハルカは時雨、奈美子、アラタをプライベートスペースへと連れていくのだった。

 

 

 


 

 

 

―――カーファクトリー・ピット、居住スペースリビングダイニングキッチン。

推奨BGM

 

 

リビングには、机1台と椅子4脚が置かれていた。

当のDVDと、水が入ったコップが4つ置かれたで時雨とアラタが横並び、そしてそれぞれの向かいに奈美子とハルカが向かい合うように座った後、アラタが話し始めた。

 

「アラタさん、このDVDは一体…?」

「その前に…ちょっとお伺いしたいことがあります」

「お伺いしたいこと?」

奈美子が疑問に思ったところで、アラタは時雨の方を向いてこう言った。

 

「パパから聞いたけれど…時雨さんは、色々と複雑な過去を持っていたんですってね」

「ソウイチ先生から…?」

時雨が疑問に思う中、その言葉に奈美子が食らいつく。

 

「まさかあの人、時雨のことをばらしたの!?」

「いえ、違います…ちょっと事情の説明が必要です」

「事情?それって一体…?」

「1から話します…」

3人がそれぞれ疑問を抱く中、アラタは冷静にこう話し始めた。

 

「…数日前の事です。僕はいつものように暇つぶしのネットサーフィンをしていた」

「ネットサーフィン?」

「僕がいつも見ているのはネットの大手掲示板サイト。なんだけど…そこでどうしても、気になる画像を見ちゃって…」

「気になる画像?」

「それって…一体?」

そう言ったところでアラタは再びカバンをいじくり出し、スマートフォンを出した。

スマートフォンを出したアラタは、お目当ての画像を画面に表示させるのだった。

 

「こちらです…」

そうアラタが言ったところで映っていたのは、ある画像だった。

 

3人が見た画像

 

「これは………えっ…?」

「……し、時雨!?」

「時雨さん…!?これは一体…!?」

両腕に武器らしきものを持ち、背中にも武器を担ぎ、足には武器を装備している時雨の姿だった。

 

「…皆さん、見ての通りです。この画像は…僕が偶然見つけだした、時雨さんらしき人物の画像なんです」

「なんで、こんな画像が…?それに、この画像は一体…?」

そう、まごう事なき時雨の姿だった。

だが、時雨自身こんな写真を撮った覚えは一切ない。

かといって峠で盗撮されたにしてはあまりにも鮮明すぎるし、何よりその手に持っているものやら足に付けているものやらが信じられない。

一体どういうことなのか?

そう言ったところでアラタは言葉を続けた。

 

「僕はこの画像が気になって更に情報収集をし、その画像や調べた事をパパに伝えたんだ…」

「調べた事…?」

時雨の質問は一旦スキップするようにアラタは言葉を続けていく。

 

「そしたら、パパは…時雨さんの事について色々と話してくれて、その上で…僕の考えを聞いてくれた。そしてその後、僕はこのDVDを手に入れて、時雨さんの元にやってきたんだ」

「そ、そうだったのね…」

「それで、君の考えって…?」

時雨がアラタに質問する。

するとアラタは更に神妙な面持ちでこう時雨に言うのだった。

 

「時雨さん…あなたのお辛い過去については、色々と伺っています。その内容と僕の調べた結果とこのDVDの内容から…」

「このDVDの内容から…?」

そう時雨が言ったところで更にアラタは言葉を続け、こう断言するのだった。

 

 

 

「時雨さんは、『艦これ』の世界から…僕達の世界へ、次元を越えてやって来たんじゃないのか…って、思ったんです」

 

 

 

「え……?」

「じ、次元を超えてって…どういうことですか!?」

「そもそも艦これって、一体…!?」

ハルカと奈美子が机越しにアラタに詰め寄る。

時限を超えて、時雨がやってきたとはどういうことなのか?

そもそも艦これとは一体何なのか?

それらの疑問がアラタにぶつけられた。

 

「奈美子、ハルカさん…落ち着くんだ。…それでアラタ君、その『艦これ』っていうのは…一体…?」

「あ…ごめん、時雨」

「…すいません」

時雨が制止を促したところで、アラタが言葉を続けた。

 

「時雨さん、すいません。…じゃあ、『艦これ』について説明しますね」

そう言ってアラタはポツポツと話し始めた。

 

「そもそも、艦これ…『艦隊これくしょん』っていうのは、インターネット上で遊べたゲームなんです」

「ゲーム?」

「はい。嘗ての艦船を擬人化した少女たち、艦娘を育成して…異形の敵である『深海棲艦』を倒していくんです」

「艦娘と、深海棲艦…!?」

「じゃあ、時雨は……!」

ハルカと奈美子は何かを思い出したかのように驚いていた。

艦娘も深海棲艦も時雨の言葉から聞いた言葉だ。

ファンタジーの話だとは思っていたが、まさか本当に存在するとは?

あまりにも衝撃的だった。

 

「はい…時雨さんは艦娘の一人、『駆逐艦時雨』だったと思われます…」

「―――――!」

「じ、じゃあ…僕はその、『艦これ』の…登場人物の一人に過ぎなかったってことかい!?」

今度は時雨が驚き、アラタに顔を寄せる。

時雨自身も冷静さを完全に失っていた。

 

「そういうことに…なりますね」

「………」

時雨自身唖然としなかった。

自分は確かに艦娘であり、深海棲艦を倒していったが…まさかこの世界においては、その「艦これ」の登場人物の1人に過ぎないとはあまりにも予想できない衝撃的なものだった。

だがアラタから肯定された事で、時雨の顔は再び元の位置に戻っていった。

 

「艦これ自体は、インターネットのゲームだけじゃなくて…グッズ販売やらアニメやらをしていたそうなんです」

「メディアミックス、ってものでしょうか?」

「メディアミックス?」

ハルカがアラタに質問する。

するとそれに食いついたのは時雨だった。

 

「ええと、そういうことになりますね…1つのゲームを幅広い媒体で展開していく、って言いましょうか」

「は、はあ」

時雨にとってはあまり意味が分からなかったが、そう言うしかなかった。

だがそこで、アラタはこんな言葉を続けた。

 

「でも…アニメの放送終了から2週間もしないうちに、『艦これ』はサービスを終了したんです」

「……え?」

「じゃあ、時雨は…!」

「はい…デジタル世界の彼方に去ってしまった、と言ってもいいでしょう」

時雨が茫然とし、奈美子が驚く中でアラタは顔を下に向けて首を横に振った。

 

「元々艦これのキャラクターは、かつての艦船を擬人化したものだったのですが…そのジャンルはかなりマイナーな類で、グッズ展開とかが上手くいかなかったそうなんです。アニメ化したとはいえ、それはゲームのリリース前から決まっていたようで…人口は大して伸びず、ニッチゲーの域にとどまったそうなんです」

「ニッチ…?」

「隙間、って意味です。今回の場合はあまり遊んでいる人がいなかった、というべきでしょう」

そう言ったところでアラタは机上のDVDに視線を向けた。

 

「そして…今日僕が持ってきたDVDは、『艦これ』のアニメ版で…時雨さんを主人公にした作品、『いつかあの海で』の最終回が、録画されたDVDなんです…」

「何ですって!?」

「じ、じゃあ…!時雨さんの…!?」

「……でも、そんなDVD…を、どうやって手に入れたんだい?」

すると時雨の質問に対し、アラタはこう答えた。

 

「僕の知り合いのさらに知り合いで『艦これ』の元ユーザーがいて、このDVDを持っている人に依頼して借りて来ました。そして時雨さんにはこのDVDの映像を見て欲しくて…来たんです」

「そ、そうだったんだ…」

「わざわざ映像を見せに…?」

アラタは決心がついたかのようにそう言ったが、時雨にとってはやはり疑問だった。

わざわざそこまでやらなくてもよろしゅうものを…と思っている節もあった。

するとアラタはこう言葉を続けた。

 

「時雨さんにとってもお辛いものであるというのは覚悟の上です。それでも僕は、先ほどの話した事…『時雨さんは次元を超えて箱根にやってきた』という考察の裏付けを見ていただくて、そして時雨さんが経験なされたことが本当の出来事であることを理解していただきたくて…ご覧になって頂きたいと思うんです」

「アラタ君…」

奈美子が不安に思う中、当の本人はこう言葉を続けた。

 

「…わかった。見せてもらうよ」

そう言葉にしたのは時雨だ。

どうやら自分でも「なぜ箱根にやってくることが出来たのか」についてははっきりさせたいようだ。

 

「時雨…いいの?」

「無理に見ない方が、いいのでは…」

奈美子とハルカは身を案じるようにそう言った。

だがそれでも時雨にとってはお構いなしだった。

 

「いや…いいんだ。僕も僕自身がこれまで話したことが…これから流される映像で、2人に本当に信じてもらえるというのであるならば…怖くは、ないさ」

「時雨さん…」

「…わかりました。早速始めましょう。皆さん、テレビの前へ…」

そう言ってアラタは3人をテレビの前へ移動するように誘導した。

そしてその中でハルカにも話しかける。

 

「ハルカさんはDVDプレイヤーを操作してもらっていいですか?」

「あ、はい…」

時雨の決心に対し、奈美子とハルカも同意した。

そしてその上で4人は椅子から移動し、近くのテレビの前へと移動して座るのだった。

テレビにはDVDプレイヤーが備え付けられていた。

アラタが、リモコンを使ってテレビを立ち上げたハルカにお願いするようにこう言った。

 

「DVDを入れれるようにしてもらっていいですか?」

「はい」

そう言ってハルカがリモコンでプレイヤーを操作し、ディスクを入れられるようにする。

そこでアラタは持っていたDVDを入れ、ディスクをDVDプレイヤーの中に入れるのだった。

青画面だったテレビは直ぐにブラックアウトしたかと思いきや、チャプター画面が表示された。

そのタイトルには「艦これ最終回」とだけ書かれていた。

 

「…では、始めます」

そうハルカがう言ってDVDプレイヤーの映像を再生し、本編が始まろうとしていた。

 

「一体、何が始まるって言うんですか…?」

「……それは…時雨さんが言っていた記憶と、殆ど一致する内容、と言えばいいのでしょうか」

「僕が、言っていたことが…?」

3人がそれぞれ言ったところで、DVDの読み込みが開始された。

 

 

 


 

 

 

再生された本編、ブラックアウトから最初に映ったのは、佐世保の光景だった。

 

「これが…」

「佐世保…!?」

「―――――!!!」

一瞬佐世保の光景が映し出されたかと思いきや、映像に映ったのは……まごう事なき、時雨の姿だった。

 

「時雨!?」

「し、時雨さん!!」

「……僕、なのか…!?」

そしてそれを見た直後、映ったのは佐世保の鎮守府の様子だった。

 

「これが……」

「佐世保だ…!佐世保の、鎮守府だ…!」

時雨は目を大きく見開いて動揺し、全身は明らかにがくがくと震えていた。

自分が思い出せる光景そのものだ…そう思うと驚きで全身が震えるしかなかった。

そして次に写し出されたのは…第二水雷戦隊の看板。

かと思いきや、時雨の横に彼女の仲間たちの少女が横並びに並んだのだった。

 

「みんな……!」

「じゃあ、これ…みんな、艦娘なの…!?」

「うん…!」

「この人たちが…!」

時雨にとってはあまりにも衝撃的な光景でしかなかった。

自分が嘗て共に戦った仲間たちが、こう言う映像という形で残っている。

それ自体があまりにも衝撃的過ぎた。

どうやら最後の撮影のようだったらしく、撮影をした後にタイトルロゴが表示された。

そしてその後、モノクロだった映像はカラーになった。

時雨は空に向けて右腕を伸ばしていた。

 

「……全て、僕だ…」

そうやったことも、決意を固めた事も…全てが覚えている。

場面が変わり、自室。カバンに荷物を積めて蜜柑をカバンの横に置き、どこかへと去っていった…

タイトルロゴは「『艦これ』いつかあの海で」、話の題名は「いつかあの海で」だった。

 

「艦これ、いつかあの海で……」

そう時雨が言ったところで、映像は提供スポンサーが表示された。

その直後にはCMが流れた。

 

「…コマーシャルは飛ばしますね」

ハルカがそう言って映像を飛ばす。

次に画面に映ったのは…

 

「3か月前、呉鎮守府……?」

次に映ったのは、無線室で伝令を受信した青葉、そして近海にいた榛名だった。

 

『敵機来襲、対空戦闘用意!!』

「…榛名!」

「この人が、艦娘…!?」

「ああ、戦艦榛名…この時彼女は、呉にいたはずだ!」

「じゃあ、時雨さんの記憶は…!」

「間違えない、でしょうね…」

榛名の近くで同じく対空戦闘用意に備える重巡利根。

そして次の瞬間、大空に映ったのは大量の敵艦載機だった。

 

「これが…深海棲艦!?」

「いや、これは深海棲艦の艦載機だ…空襲の為の飛行物体だ」

「で、でも、多すぎる……!!」

「僕からしても、信じられない光景ですよ…!」

「一体、何体いるっていうんですか!?」

「少なくともこの時、千機はいたはずだ!!」

「そ、そんな……!!」

「…勝てるわけが、ないわ………!!」

奈美子、ハルカ、アラタの3人は明らかに絶望していた。

一方の時雨もある程度分かっていたとはいえ、こんな状況ではもう絶望するしかない。

4人が会話する中、映像の榛名が砲撃を開始する。

 

「榛名さんが!」

「三式弾で対空戦闘を行っているんだ」

「で、でも…この数じゃ…!」

「(そう、足りないんだ…そんなことは、僕達が一番分かっていたんだ…!)」

映像では艦載機が爆弾を投下していく。爆弾が投下される中、爆発が呉の至る所で発生していた。

 

「爆弾…!?」

「焼夷弾、ですか!?」

「呉の町が…!」

映像が変わり、水上の榛名と利根が対空戦闘している。

利根の額には既に血が流れていた。

一方の青葉も対空戦闘を実施していた。

そして青葉の近くに爆弾が投下し、水中で爆弾が炸裂する。

 

「今の、やられたの…!?」

「いや、間一髪と言ったところだ…でも絶望的状況には変わりない!」

「時雨さんは、この空襲は知っていたんですか…?」

「後々、こんな事が起きたという事は聞いていた…でも、映像で見るとなると…初めて知ったよ!」

「やっぱり、伝令で聞いてはいたけれどということですか…」

「うん…」

 

『そうじゃ、ここはわしらと343で何とかするのじゃ!』

利根が榛名に佐世保へ移動するように命令する。

空中では第三四三海軍航空隊による援護攻撃が行われている。

 

「援軍…!?」

「第三四三海軍航空隊…当時でも精鋭と呼ばれていた部隊だったはずだ」

「でも、この数じゃ…!」

「…ああ、足りないよ。あまりにも、物量作戦すぎるんだ…!」

映像が変わり、利根が榛名に佐世保へ行くように再三指示する。

 

『残存艦隊は佐世保に集結、そこで大和や二水戦と合流して、最後の作戦じゃ…!』

そう利根が言ったところで、榛名は呉を脱出していく。

 

「榛名さんが…!」

「(そう、榛名は僕達と合流したんだ。でも…呉は……!)」

最後の抵抗と言わんばかりに、利根、青葉、北上が対空戦闘を続けていく。

だが抵抗も虚しく、呉鎮守府に空爆が実行されるのだった。

鎮守府の施設は空爆によって壊滅していく。

 

「ああっ…!!」

「呉の、鎮守府が…!?」

「(来る前に前もって見てはいたけれど…やっぱり、辛い…!)」

「…わかっていたとは、いえ…!」

奈美子、ハルカ、アラタは驚きの言葉しか口にしない。

時雨自身も覚悟は付いていたとはいえ、やはり胸を抉られるような感覚だった。

呉の町が壊滅したという話は聞いていたが、やはり時雨にとってもきつかったのだった。

するとそんな最中、奈美子は時雨に対して質問した。

 

「…時雨、あの後……彼女たちは…」

「……残った艦娘は最後まで抵抗したとは聞いたけど、呉は壊滅。艦娘についても…情報不足により、生死不明になってしまったんだ」

「やっぱり…」

「……あの物量では、もう僕も何も言えませんね」

そう映像を見ている4人が言っているうちに、映像には「三日前、佐世保鎮守府」と表示された。

そして映し出されたのは、二水戦の各人員が現れた。

 

『遂に来たか!』

「矢矧…!」

「矢矧?」

「軽巡矢矧…二水戦の旗艦だ。一言で言えば、艦隊の中心的存在だ」

「この人が…」

映像が変わり、海を見つめる赤髪の大きな服装を纏った女性が映し出される。

 

『我が南西諸島に、敵機動部隊を伴う侵攻部隊が…』

「……大和」

「今の人が…大和!?」

「大和って、戦艦の…!?」

「ああ…そうだよ」

「あんな美しい人が…」

 

そのまま映像は進み、最終決戦の作戦会議が実施されていた。

「(最終作戦…)」

「この人は…」

「軽巡大淀だ」

「大淀…」

 

黒板には、南西諸島絶対防衛線の文字と、それに参加する人員の隊列が記載されていた。

佐世保についていた榛名が状況を説明する。

 

『既に、南西諸島方面においては赤色化が始まっている模様です』

「時雨さんの言ったとおりです…!」

「敵機動部隊を邀撃して、一縷の望みに賭けて敵主力艦隊へ肉薄する…ってこと…!?」

「…ああ、そうさ。それでここでたしか…」

 

『提督、入られます!』

提督が入ってきたかと思いきや、作戦情報について説明が始まった。

 

『我々第二水雷戦隊は、最後の第二艦隊、大和、最上と共に、第一遊撃部隊を編成。大和、最上、そして我々第一遊撃部隊は前一文字に…」

「ここも、時雨さんの言ったとおりだ…」

「(僕が言っていたことは殆ど間違っていない…!作戦の方法も、敵輸送船団や後方輸送船団を撃滅する事も!)」

そしてそのまま映像が変わり、映し出されたのは…白い制服を纏った「提督」の姿だった。

 

『鍛えてきた兵装と練度は、今…この時の為にある!』

「提督…」

「提督、さん?」

「この白い制服の人が…!」

「うん…!」

「司令官とも言うべき人ですか…」

 

『信じている…未来を。……帰って来てくれ。頼むぞ!』

「提督…」

「(でも、その戦いで時雨は……)」

「(時雨さんがどうなってしまったのかがわかっている以上、辛い…!)」

「(嫌だなあ…正直止めてしまいたいくらいだよ…)」

4人が互い互いに嫌な予感を感じつつも、映像は「三時間前、九州坊ノ岬沖」と記載された。

そこに映っていたのは…多くの艦娘の数々だった。

 

「これ、何人いるの…!?かなりの大所帯じゃない…!?」

「12隻の連合艦隊だ…残った残存戦力で、2段階に分けて敵を邀撃しようとしたんだ…そのうちの第一段階だ」

「大所帯、なんですね…」

「ここまでたくさんの人がいるとなると…迫力しかありませんね」

「って、そうだ時雨は?」

「ここに僕はいないよ。もう片方の方さ」

「そ、そうなのね…」

映像では艦載機を発艦し、敵を寄せ付ける作戦に出ていたようだ。

そして映像は「一時間前、南西諸島喜界島北方」と表示された。

艦載機での邀撃には成功したようだったが…

 

『続報…但し未帰還機多数、残存勢力に伴う第二次攻撃隊発進。敵艦載機大編隊、当艦隊に接近中!所艦隊の健闘を祈る…って!』

「今の子は…?」

「最上。僕と共に…スリガオでも同じ艦隊にいた人さ」

「今の人が…」

「本当に色んな艦娘がいるんだね…」

映像では大和が航空戦の指揮を執る中、艦隊の陣形を変更していく。

 

『グレ!』『ユキ!!』

「……ユキ!」

「今のが!?」

「まさか、雪風さん…?」

「ああ…やっぱり僕の記憶通りだよ…!」

そして映像はアイキャッチとなり、艦隊は敵機動部隊へと突入していくのだった。

するとここでハルカは映像を早送りにし、CM明けまで飛ばした。

 

アイキャッチと共に映し出されたのは「十分前、南西諸島喜界島沖」だった。

「(この十分前って…一体何なのかしら…)」

奈美子がそう思いつつも、前衛の深海棲艦を倒した艦隊は敵機動部隊へと肉薄していく。

だが同時に映し出されたのは、超大量の深海棲艦の数々だった。

 

「っ…!」

「な……!?」

「…多すぎる!!」

「(まるで、史実の坊ノ岬沖海戦…いや、それ以上じゃないか…!!)」

そんな中でも大和の砲撃によって前衛の深海棲艦たちを倒していく。

 

「いける…?」

「(いや…まだだ!)」

奈美子とアラタが互いにそう思った瞬間、後方にいた朝霜が戦艦の砲撃を食らってしまう。

 

『がああああああっ!!』

「朝霜っ!!」

画面内の初霜、時雨と共に映像を見ていた時雨もシンクロするように画面に食い入るかのように叫んだ。

 

「そんな!!」

「嫌ああっ!!」

「(いや…まだ彼女は!)」

何とか朝霜は立ち上がるも、圧倒的不利な状況に何も変わりない。

 

「(闇の海……不気味すぎるわ…!)」

「こんな状態じゃ…!!」

「(いや、時雨さんの事を考えると…!)」

「(そうだ、朝霜が最初に落伍して…)」

時雨自身過去の記憶と映像の状態を対比させていた。

やはりあの時も朝霜は最初に被弾していたのだ。

 

『二水戦、見参!突撃する!!食らえっ!!』

「時雨と雪風が…!」

「そうだ…僕はここで付いて行って…」

だがそう思っているうちに雪風の近くに画面が映る。

そして至近弾を浴びたかと思えば…

 

『ユキっ!!』

『…平気っ!!』

「(ゆ、ユキが……っ!!)」

「血…!?」

「今のは…!」

「(ダメだ…敵の攻撃が激しすぎるんだ!!)」

敵の砲弾が近くに迫る中、何とか二水戦のメンバーたちが魚雷を発射していく。

護衛の戦艦群についてはある程度撃破する事が成功したようだ。

 

『抜けたぞ!前方、敵輸送船団!!二水戦、各個に撃滅せよ!!」

「(分離する…!)」

「輸送船団を…倒しに!」

「これは…いけるんですか……!?」

「(チャンスではあるはずだ…だけど!!)」

映像はどんどんと流れ、二水戦の各人員によって輸送船団については撃滅できたようだ。

 

『やっつけたね?』

『これで敵の侵攻は……うわああああああっ!!』

「霞!!」

「な、何!?」

「どこから弾が!?」

「(いけない…!)」

そう言って映像に現れたのは、敵機動部隊。

その深海棲艦の姿には…文字通りの人型も含んでいた。

 

「そ、そんな……!!」

「人型の、深海棲艦…!?だとしたら…!」

「(こんな状態では…!!)」

奈美子が驚愕する中、ハルカは時雨から聞いた「人型の深海棲艦」のことを思い出していた。

こんな状況ではもはや絶望しかないのはハルカでも理解するのは簡単だった。

 

「ダメだ…霞と朝霜はもう、戦闘不能なんだ…!」

映像は霞と朝霜を援護する初霜が映し出される。

 

『時雨さんは先に行ってください!!』

「黒い髪の子が…!?」

「そう…先に行けと言われたんだ…!」

「このまま敵機動部隊を撃滅に…!?」

だが、状況は一向に好転せず機動部隊の艦娘たちはダメージを受けていく。

 

『くうっ!!』

「大和さんが!!」

「そんな!!」

「(いけない、このままじゃ…!)」

更に映像は流れ人型の深海棲艦が2体。さらに追加で2体…空母群である。

 

「(艦載機を放つ深海棲艦…やはりこんな状態では……!!)」

アラタは敵情報についても少しはリサーチをしていたので、この状況では絶望的過ぎる事は嫌でもわかっていた。

さらに空母によって大量の敵艦載機が発進されてしまう。

 

「敵の飛行物体があんなに…!?」

「そんな…っ!!」

「(ダメだ…いくら何でも防空駆逐艦が二人だけでは!!)」

「(この時はもう…絶望しか僕の目にはなかった…それはきっと他の人たちも同じだろう。その時は本当に、怖かった…そして安全な第三者視点で改めて見返しても、やっぱり怖い……!!)」

この時点で奈美子たちは当然だが、時雨の血の気も完全に引いていた。

顔面蒼白の状態になる中で、時雨は黙ってその映像を見届ける事しか出来なかった。

体中から汗が出てやまなかった。

それこそが、己の記憶と改めて向き合うための手段であるという事は嫌でもわかっていたからこそだった。

映像の冬月、涼月はおろか浜風や磯風たちも被弾してしまう。

矢矧に至っては顔面血まみれであった。

 

『ここまで、か……!』

「このままじゃ、皆……全滅しちゃいます…!」

「もう、もうやめて……」

「………」

「(僕も、ここまでだと思っていた…)」

映像は矢矧の視界に移る。

彼女もどこか諦めたかのようだった。

だが、次の瞬間だった。

 

『Enemy Fleet is Insight.これより友軍を援護します』

「え……?」

「この、声は…?」

「英語…!?」

「(僕も、ここでの出来事は……とても信じられなかった)」

映像に映し出されたのは…異国の地の友軍。

イギリス海軍…ロイヤルネイビー所属の艦娘たちだった。

 

「あの艦娘は一体…!?」

「英語をしゃべっていたって事は…アメリカ側の…!?」

「(そう、信じられない事なんだ。そして彼女たちは…ゲームには登場していない…)」

 

『Ah, Of Course!やらせはしないわ!!』

『アイオワ…さん…!!』

「アイオワ…!?」

「アメリカの艦娘、ってことですか…!?」

「(本来の戦争では…この国とアメリカは対立していたからこそ、ありえないんだ!!)」

「(そう…全てが信じられなかった。僕は幻覚の様にしか思えなかった…)」

思いもよらぬ援軍に奈美子やハルカ、アラタはおろか時雨ですら動揺していた。

何故…異国の艦隊がここに?

だが一方で、時雨の言っていた記憶に偽りがなかったという事も明らかになったのだった。

 

『お前前に出るなよ!』

『アンタが前に出たんでしょーが!!』

「この戦いが私たちの国の戦争をテーマにしていたら、この友軍は…」

「絶対にありえない、はずです…!」

「でも…助けが来たのは、事実なんだ。あの時、助けに来たのは…」

 

画面の中の艦隊は再集結し、「三分前、深海機動部隊本隊前衛部」と表示された。

『この夜戦で敵本陣を突く!機動部隊本隊を殺るぞ!最後の突撃だ…!』

「さ、最後……」

「そう、最後だったんだ…」

「時雨さん…!雪風さん……!!」

「(わかってはいる…でも……!)」

最後の突撃と言わんばかりに艦娘たちは敵本陣へと突撃していく。

 

「(そんな、もうやめて…!)」

勝ち目のない戦いであるという事は奈美子たちでも理解はした。

だからこそ、死んでほしくないという思いが強くなっていく。

 

だが…画面内の艦娘たちは攻撃を受け、そして…次々と斃れていく。

生死こそ不明だが、あの状況ではもはやどうしようもない事は映像を見ていた4人でもわかっていた。

「いやっ…!!」

「(磯風…涼月も冬月も…!!)」

「ああっ、あああっ……」

「(辛い…正直逃げ出したい……!)」

そして画面が変わり、最後の突撃として時雨と雪風が敵本陣へと駆け抜けていく。

 

『うおおおおおおおお――――ッ!!!』

「ゆ、雪風さん!!」

「時雨っ!!」

「―――っ!!」

「あっ…あああっ……」

ハルカと奈美子、アラタと時雨が各々の反応を表す。

最後の突撃と言わんばかりに突進していく時雨と雪風。

敵旗艦近くで最後の最後まで取っていた砲弾と魚雷をぶっ放した。

 

「ど、どうなるの…!?」

そう奈美子が口にした瞬間だった。

画面上に映った雪風と時雨は…血涙と共に涙を流しながらも……どこかやり遂げたかのような顔でありながらも、被弾し……

海へと沈んでしまったのだった。

深い深海へと落ちていく時雨。

そして深海へと落ちていく中で映像はブラックアウトするのだった。

そしてブラックアウトしたところで…画面はブルースクリーンとなったのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

 

「……………」

「……映像はここで終わっている。本当はこの後にエンディングもあるんだけど、録画機器のトラブルで録画されてなかったみたいでね…」

「そ、そんな…」

「あの、あの…時雨さんたちは、艦隊はどうなっちゃったんですか!?あと、この国は……海は!?」

「描写的には……残念だけど……両方とも………」

「生きて帰ってこれなかったって事……?!」

「明確に生死やその後が描かれているわけではありません…だから、僕にも何とも言えないのですが…」

「ああ、ああ……」

時雨は何もかもが合っていたことに慟哭するかのように、ただ口を抑えていた。明らかに過呼吸気味だった。

 

「時雨…!」

「本当に、すいませんでした…心中お察しします。でも、時雨さんの事を知るためには…時雨さんが仰っていたことを信じるためには…これしかなかったんです…」

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……っうっ……!」

時雨は過呼吸気味になりながらも、両手を床について涙を流していた。

奈美子はその様子を見て慌てて介抱する。

 

「時雨…」

「……まさか、まさか……僕が経験した事ばかりだ……全部……あの日の全部が…!」

「あれは本当に…全部、時雨が経験した事だったなんて…!」

「ううっ…うん……」

「時雨さん、しっかりしてください!!」

「うっ…だ、大丈夫だから…」

「大丈夫じゃありません!一旦深呼吸を…!」

「う、うん…」

そう言って時雨は奈美子とハルカ、アラタの声掛けもあって深く深呼吸をするのだった。

衝撃のあまり過呼吸気味であった時雨の呼吸は、深呼吸で徐々に落ち着いていくのだった。

 

「あの、お水を…」

「うん……」

そう言ってハルカはコップ一杯に入れたお水を手渡すのだった。

それを受け取った時雨は勢いに任せてそれを一気に飲み干した。

 

「はあ………はあ………も、もう大丈夫…だから」

「そ、そう…よかった…」

水を飲み干した時雨はそれでも心配されていた。

するとアラタとハルカがこう言葉を口にする。

 

「でもまさか、時雨さんがあそこまで過酷な経験をしていたなんて…思いませんでした」

「時雨さんの話、私は信じるって私は言いましたけど…あんな映像の経験を実際にされていたのなら、もう絶対に信じますよ…」

「…やっぱり、僕の過去について少しは信じていないところはあったんだね」

「…ごめんなさい」

ハルカは頭を下げてそう言ったが、時雨は決して悪い気分は抱かなかった。

 

「いや、仕方ないよ…僕も全部が全部、信じてもらえるなんて端から思っていなかったさ」

自分はこの時代の人間ではない。

そう考えると常識も時代も何もかもが違いすぎる以上信じてもらえるはずがないのであるという事は、時雨自身覚悟は付いていたのだった。

だが、その時だった。

 

「時雨…」

「な、何…?」

すると奈美子は思いっきり時雨をハグ…抱くのだった。

 

推奨BGM

「「な、奈美子さん!?」」

その姿に動揺するハルカとアラタ。

咄嗟の行動ではあろうが、奈美子の目には涙が流れていた。

 

「奈美子…?」

「時雨……本当に、本当に……ごめんなさい…!!」

「…奈美子、何で…泣いているんだい…?」

「時雨の事は聞いていたとはいえ、実際にあんな経験をしていたのがわかった以上、私はやっぱり…初めてあなたが峠に来た時、とんでもないことをしてしまったと改めて思ったわ…!!」

「奈美子…」

「本当に…本当に、ごめんなさい…!!大変、だったね……!!」

奈美子は心からそう時雨に対して謝罪するのだった。

 

「……もう、いいんだ」

「時雨…やっぱり、許してくれないよね…?」

奈美子の言葉に対し、時雨はこう言うのだった。

 

「…僕はもう、怒っていないよ。あの時の事を君は、今でも悔いているんだろう?」

「ずっと後悔していたわ…だって、時雨は何もわからない状態で…!心に深い傷を負っているのを知らずに、私がバトルに付き合わせたから…!」

「いや、僕はもう…」

「時雨…あの日私を助けてくれて……本当に、ありがとう……!!ああああっ……」

「な、奈美子…落ち着いてくれ…」

すると、抱き着かれたままの状態の中で時雨は、奈美子と目を合わせてこう言うのだった。

 

「僕も言いたいことが、一つだけあるんだ…」

「…えっ?」

すると抱き着いていた手を離した奈美子に対し、時雨はどこか吹っ切れたかのような顔で…こう言うのだった。

 

「こんな僕を、受け入れてくれて本当にありがとう」

「時雨…!」

それは奈美子にとっては予想外の言葉だった。

 

「僕は、自分の記憶のことを話した時…本当に怖かったんだ。自分自身の事を振り返ると共に…奈美子から突き放されるんじゃないかって、見捨てられるんじゃないかって、最悪病院とかそう言うところに送り込まれちゃうんじゃないかって…」

「時雨さん…」

「でも、君は…奈美子は一番に、僕の事を信じてくれた…」

「時雨…」

「僕は、とっても嬉しかったんだ。僕は、見捨てられなくて…僕がずっと、箱根にいていいって言われて…本当に…」

そう言う時雨の瞳からも静かに涙が流れていた。

 

「時雨…!私はもう、あなたの事を絶対に見捨てたりなんてできないわ!私は…ずっとあなたと共にいたいの!!」

「僕と……?」

「お願い…!私は、ずっとあなたと一緒にいたい!峠の走り屋という関係だけじゃなくて…箱根に共に生きる、仲間として…!!」

「奈美子さん…!」

「お願い…!」

奈美子の涙の量はさらに増していた。

そう言う奈美子に対し、時雨は静かにこう言うのだった。

 

「奈美子…ありがとう。僕は、今とっても…幸せなんだ」

「時雨…!!」

抱き合う二人の涙には、涙が流れていたのだった。

 

「時雨さん…奈美子さん…!」

するとハルカの言葉に気が付いた二人は静かに離れ、ハルカとアラタの方を向くのだった。

 

「ご、ごめんねハルカちゃん…つい感極まっちゃって…」

「いいんですよ、お二人ともこれで涙を拭いてください」

そう言って手渡したのはティッシュボックスだった。

 

「は、ハルカさん…ありがとう」

「私も…奈美子さんと同じ気持ちですからね。奈美子さんと同じく、時雨さんと一緒にいたいなって、思いました」

「ハルカちゃん…」

「それこそ、ずっと箱根に…ピットにいてくださいよ。私、それがとっても嬉しいです…!」

奈美子の言葉を聞いたハルカも案の定涙を流そうとしていた。

やっぱり奈美子もハルカも情に脆いというべきなのだろう。

 

「二人とも……ありがとう…!」

時雨の話を聞いただけの「信じる」と、あの映像を見た上での「信じる」には説得力が違った。

あの時はとっさの判断で奈美子は「信じる」と言ったが、あの映像を見た上での「信じる」というのは、心の底から自分の事を信じてくれているように…時雨は思えたのだった。

するとそう安堵していたところ、アラタがこう言葉を通すのだった。

 

「お取込み中ですが…ちょっとよろしいでしょうか?これは水を差すような事になって申し訳ないと思うので、あまり言いたくないのですが…」

そう言って3人は揃ってアラタの方を向いた。

 

「…何だい?」

時雨の言葉に対し、アラタはこう言葉を続けた。

 

「何回かあの映像を見た僕の解釈になるのですが…今ここにいる時雨さんは、『箱根の時雨』…は、一度あのアニメで…『いつかあの海で』で、海に沈んだ時雨さんだと、思ったんです」

「じゃあ、やっぱり、本当に時雨は…!?」

「僕の見解では、残念ですが…あの状況ではとても、戻ってこれたとは思いません…」

すると奈美子はその見解に対しこう言った。

 

「…でも、ここに時雨はいる」

「ええ…ここに時雨さんは、あの戦いの記憶を持った時雨さんは、ここにいるんですね」

「…ああ、そうさ。あの戦いを超えて…僕はここにいるんだ」

4人は時雨の存在を認め合う様に…そう言うのだった。

だがそんな中で、時雨はある疑問を口にするのだった。

 

推奨BGM

「でも、だとしたら…何で、僕はここにやってこれたんだろう?」

「……」

「もしあの世界で死んだ僕が…転生したというのであるのならば、きっと何かしらの理由が…あるはずだと思うんだ」

そう。確かにあの作品で時雨は死んだ。

では何故、この箱根の地に足を付けているのか?

何故時雨は、あの日砂浜に打ち付けられていたのか?

それについて何か理由があるのではないか?

そう時雨は疑問に思ったのだった。

時雨が更に言葉を続ける。

 

「確かに僕は、あの戦いで自分の力の限りを尽くして、海の底へ…死んだ。でも、死んだのはきっと僕だけじゃなくて…あそこにいた艦娘の多くが、死んでしまったんだと思うんだ。ユキも、最上も、矢矧も、大和も…でも、この僕…時雨だけは今、この箱根にいる」

「…ええ、確かにあなたは…時雨はここにいるわ」

奈美子が同意するように言うと、時雨は更に疑問を口にした。

 

「だとしたら何故、僕だけがこの箱根に来れたのだろう?」

「……」

「時雨さんがそう疑問に思うのも、無理はないですね。僕もやはり、偶然時雨さんが箱根にやってきた…とは思えません」

アラタも時雨が疑問を抱いたことに納得をしつつもそう言った。

だがそれでも答えはそう簡単には出るようなものではないようだ。

 

「だとしたら、どうして…どうして僕は命を落としたのに、生き返れたんだろう?走り屋になる上で必要な度胸とかはともかく…どうして、あの日砂浜に打ち付けられていたのだろう?なんで、箱根に来た際に車の免許を持っていたんだろう?」

その言葉に3人は押し黙ってしまった。

やはり時雨は自分が何故生き残ってしまったのか…軽度とはいえ、サバイバーズギルトとも言うべき状態になりかけていた。

それでも決して彼女の精神に支障をきたす、というほどではなかった。

悪化しなかったのはやはり、奈美子やハルカに自分の存在を心から受け入れられたのが大きかったのだろう。

しかし沈黙の状況に変わりはない。

するとその状況を見かねた奈美子は、アラタにこう質問するのだった。

 

「ところでさ、アラタ君は時雨の正体を、知っていたの?」

すると奈美子の質問にアラタは首を横に振った。

 

「いえ…僕もさっき見せた時雨さんの画像を知るまでは、艦これの事は全くもって知りませんでしたし、時雨さんのことは全く知りませんでした。何より『いつかあの海で』は、幻の作品と言われているみたいですし…」

「幻の作品…?どういうこと…?」

「放送後、DVDやブルーレイは発売されなかったそうなんです。10年という時間の間で公式サイトなども削除されて、全然情報も見つからず…それでも何とか収集しまくって…偶然、知り合いにこのDVDを持っている「アスキーアーツ」のメンバーがいて、借りてきたんです」

「そ、そうだったんだ…」

アラタは己の調査で何とか「艦これ」の情報を探し出したのだった。

そしてそれを時雨や奈美子、ハルカの前に披露した。

やはり彼なりに情報網はあったのだろう。

だが、時雨が納得の言葉を口にした瞬間だった。

 

ピンポーン。

インターホンの音が部屋に響いた。

「……お客さん?」

「こんな時間に?ちょっと出てきますね」

時雨が時計を見ると既に、19時15分を表していた。

ハルカは訪問者の応対をするべく玄関へと向かうのだった。

 

「いらっしゃいませー…えっ…あなたは!!」

「……時雨は、いるか?」

「え…時雨さんなら…今、いますが…急ぎですか?」

「…急ぎではないが、頼む」

そう言ってハルカに連れられて、その人物は時雨たちがいる部屋へとやってくるのだった。

 

「時雨さん…お客さんです」

「えっ…僕に…?」

そう言って現れたのは、時雨もよく知るあの人物だった。

 

推奨BGM

「フッ…時雨、久しぶりだな。退院おめでとう」

そう言って現れたのは、革ジャンを羽織った男…先代の皇帝こと、ショウだった。

突然の予想だにしない訪問者に、時雨も奈美子もアラタも驚きを隠せなかった。

 

「シ、ショウさん!?」

「兄さん!?どうしてここに?」

「退院したと聞いて、時雨の様子を見に来たのだが…」

「僕の事を…?」

あまりにも唐突な訪問者に、実の妹である奈美子ですら動揺するしかなかった。

だが次の瞬間、ある物を目にしたショウはそれに大きく動揺するのだった。

 

「―――――!?」

「えっ、兄さん!?」

「ショウさん!?」

驚いた顔をしたかと思いきや、ショウは部屋の中に入ってテレビの方向へ向かったのだった。

テレビには、先ほど停止して再度再生されていた「艦これ『いつかあの海で』」の最終回の映像が流れていた。

どうやら最後の決戦の前のブリーフィングの状況だったようだ。

あまりに食い入るショウの姿に、4人は唖然とするしかなかった。

ここまで食い入る姿は、時雨や奈美子ですら見た事が無かったのだった。

 

「あの…ショウ、さん…?」

時雨が多少動揺しながらもそうショウに声をかける。

 

「この映像は…!?」

「えっ…?」

ショウの声は明らかに深く動揺していた。

 

「リモコン、あるか?」

「えっ?はっ、はい」

「貸してくれ!」

そう言ってショウは映像を早送りで映像を確認していく。

 

「(まさか映像が…残っていたなんて……)」

ショウにとってはあまりにも動揺するしかなかった。

本来存在するはずのないそれが、いまここにある。

だとしたらどうしてこの映像が?

そう思ったショウは、時雨たちを見てこう質問するのだった。

 

「この映像は、誰が?」

「あっ……えっと、僕が借りてきたDVDです」

その言葉に、アラタは緊張しながらもそう軽く手を挙げて言うのだった。

 

「…そうか…赤髪」

「は、はいっ!!」

ショウは睨むようにして新たに声をかける。

 

「このDVDを…3日借りてもいいか」

「え?3日ですか…?」

「…悪いようにはしない。頼む」

予想だにしない要望だった。

他人から借りたものをさらに箱根の元皇帝が借りるなんて予想だにしていなかったのだ。

だがアラタにとってもショウは命の恩人。

そんな命の恩人の要望を拒否できるはずもなかった。

 

「は、はい…いいです」

「ショウさん…」

「兄さん…?」

その姿に疑問に思う時雨と奈美子に対し、次にショウはハルカに目を合わせてこう言った。

 

「ハルカとやら、メモと鉛筆を貸してくれないか」

「え?は、はい」

そう言ってハルカはメモと鉛筆、消しゴムを持ってきた。

それを持ってきたショウは、そこに何やら書いていく。

そして書き終えたかと思えば、ショウはそれを時雨に手渡すのだった。

 

「ショウ、さん…?」

「時雨…3日後の午後2時に、このメモの住所に、お前の事を知っている奴を数人引き連れて来い…あと、連れてくる時は来る時間も前もって何人いるかも、この番号に電話しておいてくれ…電話は当日でいい」

「えっ?は、はあ…」

「兄、さん…?」

「奈美子…お前は必ず、時雨と来い」

「え…?」

「…来てくれ」

「………」

自分の兄とはいえ、要望するその姿に奈美子は黙ってこくりと頷く事しか出来なかったのだった。

 

「し、ショウさん…」

そう言ってアラタは、既にDVDプレイヤーから取り出したDVDをケースに入れてショウに手渡すのだった。

 

「…すまない。3日程借りるぞ。そして時雨、奈美子…お前たちが来るのを待っている」

「ショウ、さん…」

「兄さん…?」

そう言ってDVDを受け取ったショウは、静かにその場を後にした。

何やらただならない状況の中、ショウは突如現れアラタが手に入れたDVDを拝借していくのだった。

 

 

 


 

 

 

―――3日後13時、東名高速道路下り。横浜町田インターチェンジ付近。

推奨BGM

 

時雨と奈美子は約束通り、仲間を引き連れて約束された住所に向かっていた。

引き連れたのは…時雨と深い関係のある奈美子、ハルカ、トーコ、ヒロシ、更にはトオル。

合計6人の中、時雨と奈美子、ハルカとトーコ、トオルとヒロシがそれぞれ同じ車に乗って移動していくのだった。

なお、車はそれぞれS30Z、GRS205クラウン、BRZである。

 

「時雨…本当に大丈夫?あれから体調は悪くない?」

S30Zを操縦する奈美子は、助手席の時雨を心配するようにそう言うのだった。

 

「過呼吸はあの後落ち着いたし…もう大丈夫だよ。でも、よかったのかな…わざわざ奈美子に運転してもらって」

「いくら時雨が大丈夫と言っても体が大丈夫じゃない時だってあるのよ。無茶しちゃダメよ!」

「…そうだね。あの映像はあまりにも、衝撃的だったというべきかな」

この時、時雨は運転せずに助手席にいた。過呼吸になった事を見かねた奈美子なりの配慮だった。

運転手は言うまでもなく奈美子だった。

奈美子の車は戦闘力自体は低いが、普段のドライブくらいは問題ないものであったので支障はなかった。

 

「あの映像が…僕が経験したこととほとんど一致するなんて、信じられなかったよ」

時雨は3日前の映像を思い出していた。

まさか自分の経験したことがあのような形で映像として見れるなんて予想できるはずもなかった。

しかしあの映像を教えてもらったからこそ、時雨自身の経験は奈美子たちへ説明する事に対して十分な証明になったのだが…同時に証明できることなんて思ってもいなかった。

そして、自分が「次元を超えてきた」という推測についても驚く事しか出来なかった。

自分は確かにこの時代の人間ではない。だがそれを証明できるものはない。

しかしあの映像が、「次元を超えてこの世界にやってきた」という証明になった。

そんな事態になるとは、時雨自身思ってもいなかったのだった。

そしてそれに関して今日、奈美子の兄であり元皇帝…ショウからも、何かしらの話を受ける事になっていた。

だがその道中において、時雨はずっと奈美子に聞きたいことがあったのを思い出し、それを話そうとしていた。

 

「ところで奈美子…ショウさんの事について、教えてくれないかい?」

「兄さんの事を?」

「あの人は…一体、何者なんだ?皇帝と呼ばれていたこと以外、何も僕にはわからないんだ。だから…ちょっと気になってね」

「…そうね。この際話しちゃった方がいいわ。兄さんの過去も、私との事も…」

そう言って運転する奈美子は、自分の愛であるショウについてぽつぽつと話し始めた。

 

「兄さんは…幼少期から神童と言われていそうなの」

「神童…?」

「ええ。兄さんは2歳でインターナショナルスクールに入学して、12歳で同時に家を出て…そこから飛び級して、東京大学に入学したの。それだけじゃないわ、17歳の時と、大学時代には柔道でも全国大会に出場した事もあるわ」

奈美子の兄…ショウは幼少の頃から神童と呼ばれていた。

幼少期にインターナショナルスクールへと行って、12歳で一旦家を出た。

だがその後飛び級で1年早く高校卒業資格を取得、そのまま東京大学へと入学したという。

 

「飛び級で東京大学に行って、柔道で全国大会に!?文武両道じゃないか…すごすぎる!」

「大学在学中は時々実家にも戻って来ていたわ。でも段々と頻度が減って、あと就職もあって…そこから実家にはもう戻っていなかったの」

「そっか、就職したことで疎遠になったんだね…」

「ええ。就職先は外資系の金融機関に勤務していたそうよ…」

「お金に関わる仕事を?」

「そうらしいわ。でも、数年前に退職、箱根の近くにいたそうだけど…」

「…連絡はあまり、とってなかったんだね」

「うん…実際寮生活を始めた後から疎遠になっちゃってね」

「そうなんだ…」

奈美子の兄は東京大学に進学、卒業後は外資系の金融機関に勤めていたという話を奈美子は聞いていた。

だが勤めて数年して、彼は突然仕事を辞めてしまったという。

するとここで時雨がある質問をする。

 

「ねえ奈美子、ショウさんは何時から『皇帝』と呼ばれるようになったんだい?聞いている限りあまり『皇帝』の話題は出てこないけれど…」

「えっと…大体3年くらい前、兄さんが外資系金融にまだ勤めていたくらいかしら…?」

「そうなんだ…」

「でも、以前シゲルが言っていたと思うけれど…兄さんは、R32GT-Rに乗っていたって聞いたと思うわ」

「あ…そうだね、たしかショウさんは…あの時のR35の前は、R32に乗っていたんだっけ…」

「ええ。でもその時点で既に私と兄さんはあまり接点がなくなっててね…少なくともR32は東大に入ってから買ったんだろうけど、色々と勉強や研究もあったそうだし、卒業してからは外資系金融に勤めていたから…」

「そうなんだ…だから、知らなかったんだね。でも、ショウさんは仕事を辞めて…今は何をやっているんだろう?」

「うーん…多分個人で何かをやっているとは思うけれど…」

「自営業、ってことなのかな…」

「うん…私も今日、色々聞いてみたいわ」

「僕も気になるよ。是非後で質問してみようか」

「ええ」

そう言って奈美子はS30Zを目的地へと走らせていくのだった。

 

 

 


 

 

 

―――東京都世田谷区、成城。14時前。

東名高速道路東京インターから20分ほどの所に存在する、私鉄駅に近い住宅街。

目的の家は、隠れ家の様に…大通りの入り組んだ先の路地にあった。

近くの駐車場に車を駐車させた6人は、その目的の住所を探して歩いていく。

現在の場所は、大通りから少し入り組んだ住宅街だった。

 

推奨BGM

「えーっと…ここらへん、かな…」

「ええ、多分このへんだと思う」

時雨と奈美子が住所を探す。

奈美子はスマートフォンで当の住所を確認し、場所を探す。

するとその様子を見ていたトーコが時雨にこう質問した。

 

「そういえば…関係者を呼び出してもいいと言われていたそうだけれど、本当に良かったの?時雨…」

「皆には…本当に色々と助けてもらったからね。でも平日だから四天王の人は…トオル以外呼び出せなかったのは残念かな」

そう時雨が言うと、トオルがこう言った。

 

「仕方ねーだろ、ジュンはジュンで仕事があるし。イズミも最近はアイドルキャラが人気になって、ソウイチ先生は医者だしな…」

「でもトオルさん、良く来れましたね…」

ハルカが感心するようにそう言った。

 

「本当っすよ…しかしまあ俺も、まさか時雨ちゃんから呼び出しを受けるなんて…思ってもいなかったぜぇ」

「まあ、ヒロシはともかく俺も何とかスケジュールが開いていたって感じだがな」

時雨が連れてきたのは、奈美子、ハルカ、トーコ、ヒロシ、トオルの5人だった。

トオル自身偶然にも予定が空いていたのでやってきたが、本当に来れるとは思っていなかったのだ。

6人は目的の家を探していくが、そう易々とは見つからない。

だがその時、時雨が偶然目に入ったある家を見てこう言った。

 

「皆、あれを見てくれ!」

「えっ…?…あれって!!」

住宅街の中において、近くの家々と比べても一際土地を取った比較的広い土地。

明らかに横に広い、高級住宅街においては他の住宅よりも大きい一軒家だった。

横に幅広いその家は、まるで車を整備するためのガレージが備え付けられているかのようだった。

実際家の入口はゲートで封鎖されており、厳戒態勢の中で車が止められているのではないか…と時雨自身も推測できたのだった。

6人が家の入口ゲートに詰め寄る。

 

「この家なのかな…」

「表札は…相楽。ここのようね…」

「い、いよいよ奈美子の兄貴…皇帝の家に潜入かあ…」

「潜入じゃねえしもう皇帝じゃねーだろ…だが、どうなるんだ…?」

ゲートの端にはインターホンと表札が備え付けられており、「御用の方はインターホンでお呼び出しください」「(警備会社名)」のシールが張られていた。

するとインターホンの方に移動した時雨が一度みんなの方を振り向き、こう言った。

 

「いいかい、押すよ…」

その言葉を聞いた一同は、皆こくりと頷くのだった。

そして次の瞬間、時雨はインターホンを押すのだった。

 

ピンポーン。

インターホンの音が鳴った。

するとその音から数秒して、返答と言うべき声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「…時雨だな?」

「あ、はい…」

「ちょっと待っていろ。すぐ行く」

そう言った後、時雨たちはただ入口ゲートの前で静かに待った。

ショウの声から10秒ほどして…鍵が開錠され、ゲートが横に動いていく。

そしてゲートが開くのと同時に、時雨たちの前に現れたのは…まごう事なき元皇帝こと、ショウだった。

 

推奨BGM

「―――時雨」

「ショウさん…!」

「兄さん!」

するとショウは時雨の前にやって来て、予想だにしない行動をとったのだった。

 

「よく来てくれたな、時雨……遠いところご足労をかけてすまなかった」

「え……ショウ、さん…?」

ショウがとった行動、それはまさかの片膝をついて彼女への敬意を示すかのようだった。

傍から見ればプロポーズの時のそれのようにも見えた。

それまでの毅然とした態度とは異なり、明らかに時雨を饗しているかのような態度であった。

 

「兄さん……?」

「な、何やってるんだよショウさん…?」

すると立ち上がったショウはこう言った。

 

「…お前を特等席へエスコートしよう。さあ、俺についてきてくれ。勿論お前たちもな」

そう言ってショウは時雨たちに敷地内へ入るように促した。

ゲート内に入ると一番に飛び込んできたのは、シャッター付きのガレージとショウの自宅。

目の前にはガレージが存在し、備え付けと言わんばかりに2階建ての大きな家が存在していた。

 

「ひ、広い…」

「こんなところに住んでいやがったのか…」

ヒロシやトオルが驚くのも無理はなかった。

ゲートの目の前のガレージだけでなく、住居の方にもガレージが備え付けられている。

どうやらショウ自身複数台の車を所有しているようだ。

ショウは時雨たちを引き連れて、住居の右端の居住スペース…の玄関に時雨たちを導いていく。

玄関自体は両開きの洋式ドアであり、多くの客を招き入れても問題ないようになっているようだった。

 

「さあ、入ってくれ」

「…お邪魔します」

ドアを開けて入り、時雨たちに入るように促すショウ。

玄関で靴を脱いだ時雨は、そのまま居住スペースの中にエスコートされていくのだった。

それに合わせて他の5人も玄関で靴を脱ぎ、部屋の中に入っていく。

ショウに付いて行くように、時雨は一室に…リビングダイニングキッチンに招待されるのだった。

部屋は綺麗に整えられており、文字通り客人を持て成すことがいつでも可能な状態になっていた。

窓からは眩しすぎないくらいには光が差し込んでいた。

 

「よく来てくれたな…まずこれは、俺からの歓迎の気持ちだ」

そう言ってショウが時雨に手渡ししたのは…羊羹が入った紙袋だった。

 

「これは…羊羹?」

「…間宮羊羹、って書いてあるわね」

「間宮羊羹…!ショウさん、これって!」

「…ああ、俺が取り寄せた。お前の為にな…」

ショウから時雨に手渡しされたのは、何と間宮羊羹だった。

嘗て海軍でも人気だった羊羹だが、それをわざわざショウは取り寄せたのだ。

 

「…椅子を用意してある。座ってくれ」

「……」

用意されていた円卓には、既に客人を持て成すためのカステラと餡蜜、更には煎茶が入った湯呑がそれぞれ置かれていた。

椅子はちゃんと6人分用意されているようだ。

 

「もし足りないのならば言ってくれ。和菓子洋菓子何でも用意できる」

「……」

「時雨と奈美子は俺と向き合うように座ってくれ」

7つの椅子は西、南、東の方向に2脚ずつ、そして北の方向に1脚だけ置かれていた。

方角にして南の方向にある2脚に時雨と奈美子が座る。

西の方角にはハルカとトーコ、東の方角にヒロシとトオルが座り、時雨の真正面にショウが座ったのだった。

 

 

 


 

 

 

 

推奨BGM

「よく来てくれた。改めて歓迎させてもらおう」

椅子に全員が座った事を確認したショウは、口を開いてそう言った。

 

「兄さん…」

「ショウさん、今日僕達はあなたに『来てくれ』と言われて来た…一体何のために、僕を呼び出したんだ?」

「…そうだな。俺も何故呼び出したのかについてはあえて言っていない。だがそのことを話す前に…3日前にはいなかった人が3人ほどいるな」

そう、あの時ショウが見たのは奈美子と時雨とハルカの3人。

トーコ、ヒロシ、トオルの3人はあの場にいなかったのだ。

なのに時雨は3人を呼び出した。それは時雨と深いかかわりがあったからだと時雨自身が判断したからだ。

 

「ショウさんよぉ、俺達は時雨ちゃんに『来てほしい』って言われるがままに来たんだ…何で時雨ちゃんを呼び出したんだぁ?」

「…時雨、あの時のことは話したか?」

「いや…どう説明すればいいのかがわからなかったんだ」

「…無理もない。あれはとても現実離れした出来事だったからな」

時雨に質問するショウ。どうやらあのDVDを時雨たちが見た事は話していないようだった。

 

「一体どういうことだ?3日前に何があったって言うんだ?」

「…私が説明するわ」

トオルが質問すると、口を開いたのは奈美子だった。

 

「トーコさん、ヒロシ、トオル…皆、時雨が入院して記憶を取り戻した後、時雨が話していたことを覚えている?」

「あぁん?確か…1944年やらスリガオやら深海何たらやら…だったか?」

「そんな事、時雨ちゃん言ってたわね」

「それがどうしたんだ?」

するとトオルの質問に、時雨が口を開いた。

 

「実は3日前…アラタ君が僕たちの元を訪れて、ある映像を見せてくれたんだ」

「ある映像?」

「…僕が話していたことが、事実であるという裏付けになるものだったんだ」

時雨がそう説明するも、3人にはイマイチ伝わっていないようだった。

 

「時雨ちゃんが話していた事…?」

「時雨さんは1920年代後半に生まれて、時雨さんは艦娘になって深海棲艦と戦って、それで命を落として…って一連の話です」

「…話していたわね」

するとハルカの話に対し、ヒロシがこう食らいついた。

 

「てことは、あれか…!?深海何たらやらが、実際にいたってことかぁ!?」

「オイオイ冗談だろ?この世界にそんな奴らが本当にいたのか!?」

「よくわからないわね…どういうことかしら?」

「ともかく…DVDを見た後に兄さんが現れて、そのDVDを借りて行って、それで…」

「…俺はお前たちを呼び出した」

「DVDを見た事と、今日呼び出した事がどう関係あるんだ?」

「というかそのDVDの内容って、一体?」

そうトーコが質問したところで、時雨はショウにこう提言した。

 

「ショウさん、あなたが3日前に現れた時にヒロシ、トオル、トーコさんはいなかったんだ。あの時の映像を見せてあげてくれないか?」

「…そうだな、わかった。それを見せながら説明したほうが、わかりやすいだろう。だがお前はあの映像をもう一度見ることになるが、それでいいか?」

「うん…僕は、いいよ」

「こっちにテレビがある…来てくれ」

そう言ってショウは55インチの液晶テレビの前に誘導する。

テレビにはDVDプレイヤーが横付けされていた。

するとショウがテレビの前に立ってこう言った。

 

「俺は3日前、赤髪の少年からこのDVDを借りてきた…」

「…一体、そのDVDに何が映っているっていうんだ?」

「僕が経験してきた事の…一部だよ」

「えっ?じゃあ…」

「……時雨ちゃんの映像が?」

「そうだ…とりあえず、一度全部流すから見てくれ…」

そう言ってショウは当のDVDをプレイヤーに入れて再生するのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

―――20分後。

 

「…………」

「時雨、ちゃん…」

「嘘だろ……」

「……」

映像を初めて見た3人は愕然としていた。

確かに時雨が戦っている姿は、時雨自身が語った事の通りだった。

深海棲艦の存在、艦娘の存在。そして時雨の最期。

それらは嘘偽りのないものだった。

そしてそれを改めて見るショウたち4人も辛いものがあった。

結末がわかっているとはいえ、やはり時雨が死んでしまうという結末はとても悲しいものだった。

時雨が沈んだ後、画面はブルーアウトしたのを確認して、時雨がヒロシたちに話しかける。

 

「どう、思ったかな」

「……信じられねぇよ、時雨ちゃんが言っていたことのまんまじゃねえか!!敵の深海…なんとかにやられて、それで海に沈んだって…!!」

「全くだ。時雨があの時最後の方で話していた…最後の抵抗で死んだって話のまんまだな」

「とても驚かされたわ…」

3人はただただ茫然とするしかなかった。

時雨が話していたことを半信半疑で聞いていたとはいえ、今ずっと見ていた映像の内容とほとんど一致している。

そう思うとトオルたちは驚くしかなかった。

 

「その上で…アラタ君は、時雨の正体は『艦これ』で死亡した時雨が、次元を超えてやってきたのではないか…って言っていたの」

奈美子が説明するようにそう言った。

 

「次元を、越えて……」

「信じられねえよぉ…言ってることが殆ど、どっかの転生モノのそれじゃねえかよぉ!!」

「ありえないわ…!」

「でも…実際あの映像は、僕が経験してきた事と殆ど同じだったんだ」

「……」

時雨自身あの映像自体信じる事は出来なかった。だがそれでも、自分が経験してきたこととほとんど同じだったあの映像には異様なまでに臨場感があった。

 

「…時雨ちゃんはあの映像を見て、どう思ったのかしら?」

「物事を、俯瞰で見ているような気分でした。でも、やっぱり…見ていて辛かった…」

「…だろうな。自分が経験してきた事を振り返るとはいえ、やっぱり死んじゃあな…」

「…それでも僕自身に何が起きたかをもう一度確かめる事は…とても重要だと思ったから…」

「我慢して見ていた、ってことかぁ…時雨ちゃん、大変だったな…」

「…僕はもう、気にしていないよ」

「時雨ちゃん……」

ヒロシたちが身を案じる中、時雨はショウの方向を見てこう言った。

 

「それでショウさん、ここからはあなたの出番だ…あなたは今のDVDを借りて、僕達を呼び出した…」

「…そうだな。俺はあの映像を見て、お前たちを呼び出そうと思ったのは事実だ」

「でも、それだけじゃ理由が足りない…僕を呼び出した理由が、あると思うんだ」

「………」

時雨はどうしてもショウが自分を呼び出したのには何かしらの理由があると思っていた。

そして時雨は、その理由を知りたいとも思っていた。

 

「教えてくれ。僕達を呼び出した本当の理由は何なんだ?」

時雨は問い詰めるように、ショウへそう言ったのだった。

その姿にショウは、負けを認めたかのようにこう言いだした。

 

 

推奨BGM

「…全て白状しよう。今日お前達を呼び出したのは…時雨や奈美子が先ほどまでの映像を見てしまった以上、今まで話していなかったこと…全てを話す必要があると思ったんだ」

「全て…?」

「…全て、って一体何だ?」

トオルの言葉に答えるように、ショウはこう言葉を続けた。

 

「俺は…時雨を助ける前までの数年間に、俺の身に起こっていた事…時雨を置き去りにした本当の理由…そしてなぜ時雨はなぜこの世界に転生し、俺の前に現れたのかという俺なりの考察…その『全て』を時雨に告白したくて、お前たちを呼び出した」

「僕を助けた事の真実を…話してくれるというのかい?」

「それに、時雨ちゃんと出会う前の…数年間の出来事を?」

「そうだ…そして先ほどの映像も、この話にはとても深く関わってくる…」

そしてショウは一呼吸おいて、こう言うのだった。

 

「そしてお前達にはそれらの話を…俺が話す事を聞いてほしくて招待した。長く重い話になると思うが…時雨と俺に何があったのかを、聞いてくれないか」

 

「―――!」

「…わかった。教えてくれ…僕とあなたにどんな関係があったのかを」

「兄さん…お願いね」

「……」

時雨たちに次いで、トオルやヒロシたちも軽く頷くのだった。

 

「よし…じゃあ一度机の方に戻ってくれ。この話は長い…座って聞いた方がいいだろう」

「あっ…うん」

「わかったわ」

そう言って皆先ほどまで座っていた椅子に戻るのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

推奨BGM

「では始めよう…早速だが、お前たちは俺と時雨が偶然出会った、って思っていないか?」

「……?」

「どういうこと…?」

「ショウ、お前は確か病院から逃げ出してジョーカーを追う為に小由原にいたんだろ?それでお前は偶然、砂浜に打ち付けられていた時雨を…」

トオルがそうショウと時雨の関係を話していると、ショウは横槍のようにこう言った。

 

「…今、偶然と言ったか?」

「え?…言ったな」

「ショウさん…?」

するとトオルに対してショウは、思いもよらぬことを言い出した。

 

 

 

「俺は、時雨と出会えたのは…偶然じゃないと思っている。必然だったと思っているんだ」

 

 

 

「は…?」

「し、ショウさん…まさかあんた、時雨ちゃんとの出会いは、仕組まれたものだったって言うのかよぉ!?」

「フッ…そうなるな」

「ど、どういうことですか…!?」

ヒロシとハルカは明らかに動揺していた。

ショウと時雨の出会いは偶然の出会いではなく、仕組まれた出会い。

一体どういうことなのか?全くもって理解が出来るはずもない。

 

「俺が山奥の小屋に時雨を置き去りにしたという話を……お前たちは覚えてるか?」

「…ああ、確かに言ってたな。ジョーカーを追いかける為に置き去りにしたって…」

トオルが反応する。

 

「そうだ…俺は確かに、そう言った。だが…その言い方は正しい事ではあるが、多少の誤りがある」

「誤り?それって…?」

時雨が質問すると、一息ついてショウは次の様に言った。

 

「…お前を置き去りにしたのには……ジョーカーを追いかけたこと以外にも、理由があったんだ」

「…え?」

「一体、どういう事…!?」

「…時雨とは、あの砂浜で出会っただけの関係ではないんだ」

 

「え…?」

「ど、どういうことだよぉ、時雨ちゃんを助ける前に、面識があったって言うのかよぉ!?」

ヒロシが焦るようにそう言ったが、ショウはそれへの解答を後回しにしているようだった。

 

「……時雨」

「な、何…?」

突如としてショウは時雨に目線を合わせて言った。

 

 

「ここからの話は、あの戦争を超えてきた時雨であっても…いや、ここにいる全員が…到底信じ切れることのない話だと思う。だがどうか…信じてくれるというなら…俺は0からすべてを話したい」

 

 

「兄さん…」

「わかった…」

時雨は覚悟を決めたかのようにそう言った。

そしてその間にも、ショウと時雨のそれぞれにオーラのようなものが見え隠れしていた。

 

「俺と時雨の間に…何が起きたのかを全て話す。だから皆、しっかりと聞いてほしい」

ショウの言葉に対し、時雨を初めとした6人はゆっくりと頷くのだった。

それを確認したショウは、ポツリポツリと話始めるのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

「―――10年程前の話だ。当時俺はインターナショナルスクールに在学し、実家を出て寮生活をしていた…」

ショウは幼少期からインターナショナルスクールへと入学。

中学校卒業となる年で実家を出たという事については既に時雨も奈美子から聞いていた。

 

「その時俺は、勉強も部活動である柔道もそつなくこなしていた。傍から見れば十分な生活ではあったが、それでも俺はその日常に対して、どこか退屈さを感じていた…」

「……」

「空虚な日常を悶々と過ごす日々。周りの人間がハキハキとしているように見える中、俺はなぜかコンプレックスを抱いていた。確かにモータースポーツなどで熱くなる事は出来ていたが、それでもこんな悶々としていいのか、俺をもっと熱くできるものは何かないのか…と思っていた」

そう言ったところでショウは一呼吸置き、言葉を続ける。

 

「だがそんな中、自習や授業で用いるべく支給されていたパソコンで…俺はある出会いをする」

「ある出会い…?」

時雨が疑問に重い言葉を口にする。

ショウは言葉を続ける。

 

「俺は…普段から使っていたパソコンのインターネットで、あるネットゲームに出会った」

「ゲーム?それって…?」

そう奈美子がいうと、ショウはその口を開いてそのゲームの名前を挙げた。

 

「そのゲームの名前は『艦隊これくしょん』…通称、艦これだ」

「……!」

「てことは、さっきの映像の『艦これ』って…!」

「そう、艦これは元々ゲーム原作だったんだ」

「それじゃあ、お前は…!!」

ヒロシとトオルが驚くように互いに反応する。

 

「ああ…俺は艦これユーザー…通称『提督』だったんだ」

「て、提督…!」

時雨にとっては驚きでしかならなかった。

確かにあの戦いにおいても提督とは複数存在するものだった。

だがまさかこの世界で、自分が戦うことのない世界で、こんなにも自分の近くに提督の経験者がいるとは。

そう思うと時雨にとっては驚きでしかなかった。

 

「…当時はリリースから数日しか経っていない新作ゲーム。知名度も低かったのか人口も少なく、周りでやっている奴は…全くと言ってもいい程いなかった」

するとここでヒロシがふと疑問を口にした。

 

「でも気になったんだけどよぉ、支給されていたパソコンでゲームなんてやって怒られなかったのかぁ?」

するとショウはその質問にもしっかりと答えた。

 

「俺が通っていたインターナショナルスクールはよっぽど変な事をやること以外全てが自由だったからな…パソコンで遊んでいて成績が下がったら当然叱られたりフィルタリングがかけられたりはしたが、当時の俺は文字通りのクラストップの特待生としての成績を維持していたこともあり、誰も俺の事を咎める人間はいなかった…」

「そ、そうだったのか…」

「それまで俺は、一人暮らしをする中ではゲームに触れた事はなかった。だがそうだったからこそ、俺は自然と『艦これ』の少女たちが好きになったのかもしれない…まるで俺は、どこか足枷が外れたかのようにそのゲームにのめり込んだ…」

「兄さん…」

一息ついて、ショウは言葉を続ける。

 

「艦これにユーザー登録をしてから先はあっという間だった。俺はものの数日であっという間に戦果を挙げていくことが出来た…」

「…ショウ、結局艦これってどういうゲームだったんだ?艦娘を指揮して戦っていくゲームだったのか?」

ショウが提督であるという事を聞いたトオルが、艦これとはどういうゲームだったのかを疑問に思って質問した。

するとショウはこう言うのだった。

 

「…艦これとは、一言で言えば装備と出撃するキャラクターを決めた後…敵の主力艦隊を探しつつ、敵の攻撃が当たらないようにお祈りするゲーム。今考えてみればそれをゲームと言えるのかどうかは分からないが、俺は異様なまでにそのゲームにのめり込んでいった。それはキャラクターの完成度の高さか、それとも艦娘が成長していくのを実感できたからか…」

「お祈りのゲーム…じゃあ、当の深海棲艦との戦闘中は全く操作できねぇのか?まるで放置ゲーみたいなもんだなぁ…」

ショウの大胆な説明に対し、ヒロシは「放置ゲーみたいだ」と言うのだった。

 

「俺は毎月の様に行われるイベントにものめり込み、そのイベントを一番速くクリアする…所謂RTAにも何度も挑戦し、上位に食い込んだこともあった…」

「イベントを誰よりも早くクリアする…」

「はっきり言って、達成感は物凄く大きかったよ」

トーコが質問すると、ショウは静かに答えるのだった。

ショウの話は続く。

 

「そしてそんな『艦これ』にのめり込んだ俺は…着任後、最初の建造…つまりキャラクターの入手をした時に、ある艦娘に出会ったんだ」

「ある艦娘…?」

「まさか!」

奈美子がハッとして声を出す。

ここでまさか、彼女と出会ってしまうのではないか。

そう奈美子も思ったのだった。

そしてショウはもうわかっているだろうというかのように、時雨に視線を合わせてこう言ったのだった。

 

「もうわかるだろう……時雨、お前だ」

「……僕?」

「それが、兄さんと時雨との最初の出会い…なの?」

「ああ…出会いは本当に偶然だ。今考えれば、一目惚れだったよ」

「……」

時雨にとってはあまりにも予想外の出会いだった。

自分が知らない「ゲーム」とやらで、自分はその中の「キャラクター」の一人。

そしてショウは、そんな自分に一目惚れしていた。

 

「艦これにおいて、俺は様々な艦娘と出会い、艦娘たちや装備、艦隊全体を育てていった。だがその中でも、俺は時雨に首ったけと言ってもいい状態だった。海域への出撃の際は出来る限り彼女を編成するようにし…日常生活でも常日頃から時雨の事ばかりを考えるようになっていた…頭から離れなくなっているほどだった」

「……!」

「だが、相手は二次元の存在。俺に反応すると言っても、それは決まった反応ばかり。それでも俺は、時雨の過去の事や…ここ一番で活躍してくれる姿に心を打たれていた…そして時には出撃の際、旗艦に指定するほどにな」

その言葉を聞いて時雨は驚くしかなかった。

本来旗艦の役割は重巡洋艦、正規空母、あわよくば戦艦の場合が多い。

だが駆逐艦の旗艦なんてものは、よっぽどの事態でもない限り聞くない。

確かに自分の場合輸送作戦などでも旗艦になる事はあったかもしれないが、敵船との戦いにおいて自分が旗艦になるとは…信じられない事だった。

 

「僕が…艦隊の旗艦に?」

「ああ…」

「ショウさんは…時雨さんに、そこまで心惹かれていたんですね」

「…時雨が成長していくのは、戦闘を何度も重ねていくうちに実感できるようになった。俺が好きになればなるほど、そいつは戦場で戦果を出してくれる…それくらいに」

ハルカの言葉に対し、「彼女はまるで自分の意思に答えてくれたようだった」というようにショウは言った。

だが次の瞬間、ショウは突拍子もない言葉を言うのだった。

 

「そして時雨と出会って1週間もしないうちに俺は…時雨と、結婚した」

「……えっ!!?」

「け、結婚!?!?!?兄さん、時雨と結婚って…!?」

「おいおいショウさん、あんたそん時はまだ高校生だろぉ!?何を言って…」

時雨、奈美子、ヒロシがそれぞれ反応する。

彼が当時高校生だったという事を考えると、出るはずもない言葉だった。

だがショウは全くもって冷静だった。むしろそんな反応を待っていたかのようだった。

ショウは説明するように言葉を続ける。

 

「落ち着け…ケッコンカッコカリという、レベルキャップ解放のシステムがあったんだ。それを行うと、特別なボイスを聞く事が出来た…」

「あ…そ、そうなんすね…」

「誤解させんなよ…」

ヒロシとトオルが互いに反応する。

 

「すまないな。だがその当時、結婚したいと思うまでに心惹かれていたのは…言うまでもない事実だ。その後俺は、その時までに実装された全ての艦娘と、俺はケッコンを果たした…が、ケッコン後の最大レベルまで育てたのは…時雨、お前だけだ」

「………」

時雨にとっては驚くしかなかった。

自分は知らなかったが、まさか「結婚」をするほどまでに自分を…異世界のとはいえ、自分の事を愛していたとは思わなかったのである。

だがその一方で、ショウは自分に対してどこか甘い一面があるのではないか…そして玄関で自分を迎えた時のあの対応は…その裏返しだったのではないか…そう思うと、時雨は不思議と納得したのだった。

すると、言葉を発したのは時雨ではなくトーコだった。

 

「…ちょっと待って!ショウ、あなたは以前…先代の皇帝、女性ドライバーがいたって言っていたわよね?」

「と、トーコさん?」

「…そうだな」

「まさか、その女性ドライバーの正体って…!」

トーコはショウの口から「先代の皇帝がいた」という事を聞いていた以上、「もしその存在が実際には、時雨がその正体だったのではないか?」と邪推したのだった。

 

「…いや、それは違う。それ自体は別の女性だ…」

「あ…そうなの」

ショウの真意を突かれたかと思ったかもしれないが、実際は全くもってそんな事はなかった。

だがトーコの考えは、ショウにとってのある思いとニアミスしていたのだった。

 

「確かに俺の前にいた先代の皇帝も、俺にとっては大切な存在だ。だがそれ以上に…俺は、時雨の存在が心の中にずっと残り続けていた…」

「え……」

「そしてそれが…後々俺の運命を大きく変えたと思っている」

そうショウが断言すると、ハルカがある質問をするのだった。

 

「あの…さっきのアニメの方も、見ていたんですか?」

「ああ…見ていた。それもリアルタイムでな」

「そうだったんですね…」

ショウはやはり「艦これ」のアニメを見ていたのだった。

だがそれだけでは、あのアニメを見た時に何故動揺したのかという説明にはなっていなかった。

 

「俺は心から艦これを愛し、そして育て上げた艦娘たち…その中でも俺が身も心も捧げた艦娘…時雨といつまでもいたいと、ずっと付き合い、共に戦火を乗り越え続けたいと心から思っていた」

「ショウさん…」

時雨がそう言うと、ショウの口調は冷血なモノへと変わりつつあった。

 

「しかしそれ以上に…運命というのはあまりにも非情だった」

「非情だと?」

「何が…何が起きたの?兄さん…」

ショウはそこで軽く下に視線を向け、それを話すことが辛いと思うようにこう言った。

 

推奨BGM

「艦これはアニメ化において、先ほど見せた結末を迎えたのは事実だが…それと同時にアニメの放送終了から1週間程して…ゲームの『艦これ』は、サービスを終了してしまったんだ」

「え……?」

「サービス、終了…!?」

サービス終了。

そう、ショウが遊んでいた「艦これ」はサービスを終了してしまったのである。

その言葉を聞いたヒロシとトオルが食い入るように質問する。

 

「何だと!?じ、じゃあ…」

「時雨ちゃんや他の艦娘とアンタの関係は…」

「ああ…それまでだった。俺は絶望するしかなかったよ」

「そんな…」

「まさか、そんな事が…」

皆茫然とするしかなかった。

心を奪われる程の愛した存在との突然の別離。

その悲しみは計り知れないものだった。

 

「俺はサービス終了の最後の最後まで艦これを遊び続けたが…結局サービスは終わってしまった」

「……」

ショウは冷静でありながらも、その言葉には明らかに嘆きも含まれているように時雨は感じ取っていた。

 

「俺が心から愛した存在との2度の別れ…とてつもない虚無感に襲われて絶望した俺は、戦いのことを忘れ、艦娘は勿論のこと…時雨の存在を心の底から消し去ろうと、録画していたアニメのDVDやゲームのキャプチャ映像を全て処分した。そして艦これにのめり込んだことで失った時間を取り戻すかのように…艦これのサービス終了直後から受験勉強や柔道にそれまで以上に打ち込んだ…」

するとその言葉に対し、トーコがこう質問するのだった。

 

「…それは、艦これを遊んでいたという過去や、艦娘たちを忘れたい為?」

「ああ…そうだ」

トーコの質問に対し、ショウは同意するようにそう言った。

やはり思い入れのあるゲームがサービス終了となると、ショウの心にはそれなりの傷が残ってしまったのだろう。

彼はその傷を埋めるべく、勉強や部活動にさらにうちいこむようになっていった。

 

「だがそう簡単に、その存在は消えない。時雨の存在は、俺の心の中に残り続けて…俺の障壁となり続けた」

「障壁?」

軽く下を向いていたショウだったが、元に戻って言葉を続ける。

 

「俺は更に勉強に対し熱心になった甲斐もあり、インターナショナルスクールを飛び級で卒業した。そしてそのまま大学受験に合格し東大へ入った」

「と、東大…!」

「俺は大学在学中も勉学やサークル、研究活動に精を出し、走り屋としても峠で皇帝と呼ばれるようになり、就職してからも仕事に一辺倒になった。それぞれで評価や表彰を得た事もあった……」

ショウは自分自身の事をどこか自慢するように言ったが、その言葉にはどこか哀愁交じりでもあった。

 

 

推奨BGM

「それでも結局、今日この日まで時雨の存在は…俺の想い人として、そして俺を惑わす存在として…ずっと心の中に残り続けていた…」

「想い、人………!」

「惑わせる、存在…!?」

ショウの心を惑わせる存在、それと同時にショウ自身の想い人。

確かに先ほどショウは「艦これ」において時雨と最初にケッコンカッコカリをしたと言っていたが、艦これのサービスが終わってから10年近くが経った今も、時雨の存在はショウの心の中に残り続けていたのだった。

 

「そうだ…俺は実際、それくらい時雨に対して愛着や愛情、いや…それらを超えた何かを持っていたんだと思う」

「兄さん…」

ショウの顔は暗めだった。だがそれでも彼は言葉を止めない。

 

「俺は、受け入れられない現実からずっと逃げ続けるために様々なことに挑戦してきた…だが、約10年前から今日この日まで、お前の存在を忘れ去ることは結局出来なかった」

「……でも…ショウさんは確か、ジョーカーとの戦いで」

時雨はショウが記憶喪失に陥った事を思い出しつつそう言った。

もし記憶を失ったのなら、自分の存在の事を忘れていても当然だったのではないか?

あの日、病院から抜け出したショウは記憶を失っていたのだから、自分を助ける動機にはならなかったのではないか?

そう思っていたのだった。

するとショウは言葉を続けた。

 

「ああ…確かに俺は記憶を失った時期もある。だが俺がジョーカー団と出会い、入院して記憶を失っても……俺にとっての想い人の存在は、心の中に残り続けた」

「時雨ちゃんの事が、そこまで深く残っていたのか…」

ショウの状況に、ヒロシは驚くようにそう言った。

するとショウは、時雨に目線を合わせてこう言うのだった。

 

「そしてあの日…小由原方面にジョーカーを追っていた際、砂浜に打ち付けられていたお前を……時雨を、俺は見てしまったんだ」

「それが…僕と、ショウさんの、ここでの出会いだったのか…」

「…ああ」

「兄さん…まさか、そんな過去があったなんて…」

「驚くしかありませんね…」

「まさか時雨ちゃんとそんな面識があったなんてね」

「そんなの…ありえるのかよぉ…」

「やっぱり信じられねえな、お前と時雨にそんな深い関係があったなんて」

6人は各々に反応したが、やはりショウと時雨の関係については信じられないという意見が大多数であった。

それでもショウはそれも仕方ないという覚悟は付いていた。

何せ自分が経験した事はあまりにも現実味がなく、ただの空想や妄想と言われても仕方のないような出来事だったというのは、彼自身が一番よく理解していたのだから。

 

「……ショウさん、僕とあの砂浜で出会うまでに…そんな過去が…」

時雨がそう言うと、ショウはその時の状況をポツリポツリと話始めた。

 

推奨BGM

「砂浜に打ち付けられているお前を見た時、俺は愕然としたよ。そして同時にあまりにも都合が良すぎる夢…幻だと思った。俺は目の前で起きている出来事を信じられるはずもなかった」

「…だよな、だってそんな…ゲームの中とはいえ、ずっと一途に愛していた存在が、現実に現れるなんて……」

「そんなこと、本当にあり得るのかよぉ…」

トオルとヒロシが反応する中、更にショウは言葉を続ける。

 

「俺が時雨を助けた後、山小屋に置き去りにしたも同然になってしまったのは…俺の目の前で起きている出来事が、とても現実の出来事であるのを信じる事が出来なかったからでもあるんだ。あの日……10年も前に心から愛した、そのゲームのキャラクターの1人が、次元を超えて自分の目の前に突然現れた…そんなことを言われて、信じる人間がいるだろうか?」

「………」

皆、唖然とした。

かつてゲームとはいえ愛した存在が、いきなり次元の壁を越えて自分の目の前にいるとなったら、到底信じる事なんてできない。

それは時雨を除いた5人にとっても共通の認識だった。

 

「時雨を目の前にした時の俺は、人を助けたいという気持ちとこの場から逃げ出したいという気持ちで板挟み…そんな中でも、最低限命だけでも助けたいと、お前を背負ってGT-Rに乗せたんだ…」

「僕を助けたい、って気持ちはあったんだね」

時雨はショウの気持ちを確かめるようにそう言った。

 

「ああ…だが南足柄方面へジョーカーを追跡する中、時間が経つに連れ、俺は段々と現実を受け入れられなくなった…ドライビングにも影響が出る程、滅茶苦茶動揺していて下手をしたら事故を起こしかねないと思った俺は、これが夢だと思いこむようになった」

「……」

「夢なら彼女も死なない、夢ならこの記憶も忘れられる…そう思い込んでいた。俺は、そんな夢が早く覚めることを願って、偶然通りかかった場所にあった山奥の小屋に、時雨を置き去りにしたんだ…」

「……つまり、目の前の現実を到底受け入れられず、迷った挙句に時雨さんを山奥の小屋に…」

ハルカが内容を要約するかのようにそう言った。

 

「ああ。今考えてみると、俺はお前のことをずっと忘れようと…サービス終了やアニメでの死による別離という、悲しい出来事から目をそらして現実逃避していた…だが、世界というのはそういう事を易々とは許してくれなかったようだ…」

「それで小屋に置き去りにされた時雨ちゃんは、箱根に来て名を上げて、ショウさんと再会したと…はあ……」

ヒロシにとってもショウに起きた出来事は信じられずにいた。

確かに二次元のキャラクターも嫌いではないが、実際にこの世界にやってくるなんてことは考えた事が無かったのだ。

そしてそれはあり得ない事であるという事は彼も理解はしていた。

しかしそれが、ショウの目の前で起きてしまった。そう言われると驚くしかなかったのだった。

 

推奨BGM

「ここからは俺なりの考察だ。時雨…お前がこの現実で俺の前に現れ、俺と戦い、そしてお前が俺に勝ったのも…俺にとっては運命…過去としっかり向き合わなかった罪と罰なのだと、俺は考えている…」

「罪と…罰…?」

ショウは、自分が時雨に敗れたのは…自分が時雨との別れという悲しい過去と真正面から向き合わずに現実逃避してきた結果であると彼は考えていたのだった。

 

「俺は…お前がこの世界にやってきたのは、過去から逃げ続けたという罪を持っていた俺への、罰を与えるのと共に…俺がお前に与えていた愛情を、引き換えた結果だと思っているんだ…」

「ショウさん…」

時雨はただ話を聞くだけだった。

過去に自分の事を狂うほどまでに愛した結果、次元の壁を越えて時雨にとっては面識のない彼と再会した。

だがそれは時雨にとっての話であり、ショウにとっては己の過去と向き合わなかった結果だと考えていたのだった。

それでも本心ではずっと時雨の事を愛していた。

そしてその愛が、10年という長い時を経て具現化してしまった。

その愛によって生み出されたのが…彼自身心から愛していた艦娘、時雨であるのだと彼は思っていたのだった。

 

「でも聞いてるだけでも何もかもが無茶苦茶だな…お前一人の時雨への愛情が、結果として次元の壁を越えて時雨を箱根にやって来させる要因になった、っていうのかよ…!?」

「トオルさん…」

「……俺はそれを否定しない。寧ろ俺も、そう思っている……俺の一方的な狂愛や、共にいられなくなるといった絶望、悲嘆が10年という期間を経て具現化したもの…それが、あの海からここに時雨を導いたと、俺は思っているんだ」

「………」

あまりの内容に一同は愕然とするしかなかった。

結論を言うとショウと時雨は、あの砂浜で出会う前から一方的ではあるものの面識があった。

だがサービス終了という形で縁を切ったかと思いきや、時雨の存在はショウの心の中に残り続けて彼を惑わせ続けた。

時雨の存在は艦これがサービスを終えても心に残り続け、結果としてショウと時雨を引き合わせる大きな要因になったとショウは考えていたのだった。

しかしショウ自身は過去や目の前にいる時雨の存在を到底受け入れる事が出来ず逃避した結果、その結果として皇帝の座を時雨に譲る事になってしまったと考えていたのだった。

すると椅子を立ち上がったショウは、時雨の目の前に来て片足の膝をつくのだった。

 

「ショウさん…」

時雨がそう言うと、次の瞬間にはショウは頭を深々と下げていた。

 

「本当にすまなかったな…時雨……お前には、苦労も世話もかけて申し訳なかった…」

だが次の瞬間、ショウの口からは思いもよらぬ言葉が告げられたのだった。

 

「そして……俺の前に現れてくれて、困っていた奈美子を助けてくれて…本当に、ありがとう」

そう言って顔を上げたショウの瞳には、涙が流れていたのだった。

それはまるで、自らの後悔を示すかのように。

だがその一方で、今までずっと素直になれなかった気持ちをやっと吐露する事が出来た…その喜びもどこか通っていたのだった。

 

推奨BGM

「…僕は、何も言えないよ」

「時雨…」

「確かに、僕は…あの映像の通り、あの海で凶弾に倒れて命を落とした、そう思ったんだ。でもいつの間にか、あの日僕は砂浜に打ち付けられていた…」

「……」

「僕は朧気だった記憶から…ショウさんに命を助けられたと思ってたけど、あの時本当にショウさんが助けてくれなければ…僕は、間違えなく死んでいた…」

「時雨…」

「僕が言えるのは、もしあの日ショウさんの助けが無ければ…僕が箱根にやってくることも、皇帝の座をかけてショウさんと対峙する事も、そして走り屋になる事も…絶対にありえなかったと思うんだ。そして、僕は…走り屋になって、全くもって後悔はしていないよ」

そしてショウに対して時雨は、こう言葉を続けた。

 

「だからこそショウさん……僕が言えるのは、一言だけなんだ」

「…それは?」

 

「あの日…砂浜に打ち付けられていた僕を助けてくれて……本当に、本当にありがとう」

時雨の口から放たれたのは、感謝の言葉だった。

時雨自身、あの日助けてもらわなければどうなっていたのか分からなかったのである。

そう考えると、時雨の口から感謝の言葉が出るのは自然と言えば自然だった。

 

「…フッ、俺も、お前には…色々と救われたんだ…こちらこそ本当に、ありがとう。そして俺の前に現れてくれて…本当に…ありがとう」

ショウはどこか照れ隠ししながらもそう言うのだった。

すると時雨は、ある事を思い出したかのようにこう言った。

 

「そうだ…ショウさん、これからあなたはどうするんだ?走り屋は、引退すると言っていたよね」

「ああ…そうだな。これから先は一人、トレーダーとして生計を立てていくよ。いや、退職してからずっとトレーダーだからそこの部分は大して変わらない」

するとショウのその言葉に食らいついたのは、誰を隠そう妹の奈美子だった。

 

「トレーダー…!兄さん、会社を辞めていたのは聞いていたけど、トレーダーの仕事を!?」

「ああ…」

「奈美子、トレーダーって?」

「一言で言えば、株を売り買いしてお金を稼いでいく投資家のことよ…」

「投資家…そうだったんだ…」

「…俺は会社員時代に元金をかなり稼いでいてな…それを運用していけば、普通に生活していく…いや、贅沢だっていくらだってやろうと思えばできる」

「そ、そうだったんすね…ナビ子の兄貴…いや、ショウさんって、経歴もそうだが…すげぇんだな…」

するとショウは時雨に対して改めて視線を向け、こう言った。

 

「時雨…俺は、奈美子が世話になった分何かしらのお礼をしたいと思うんだ」

「お礼?」

「それって…」

奈美子がそう言うと、ショウはこう断言した。

 

「俺は…お前の望みを、叶えてあげたいと思うんだ」

「僕の、望みを?」

時雨の望みを叶えたい、それがショウの要望だった。

新たなる皇帝になった以上、時雨には何かしらの目標があるのではないか?

そうショウは思っていた。

そして可能であれば、彼女の夢を叶えてあげたい…それが自分自身の罪滅ぼしであり、奈美子が世話になった分のお礼になると考えていたのだった。

 

「俺は、お前を助けたい…そしてそうすることが、俺自身の贖罪でもあると考えているから…」

「兄さん……」

奈美子が案じる中、ショウの言葉に対して多少困惑気味に考える時雨。

だがそれでも、時雨には「どうしてもやっておきたい事」がある事をすぐに思い出した。

そしてその上で、時雨はショウにこう言うのだった。

 

「ショウさん…」

「何だ?」

「僕は…1つ、質問があるんです」

「言ってみろ…」

ショウがそう言ったところで時雨は呼吸を整えてこう言うのだった。

 

「ショウさんに聞き返す形になりますが…僕はあの映像の中で、あの海で凶弾に倒れて、ショウさんと関係があったからこそこの箱根にやってきた。それがショウさんの考えですよね?」

「…ああ、そうだ」

「どうしても僕は、聞いておきたいことがあるんです」

「…それは?」

時雨は改めてこう言うのだった。

 

 

推奨BGM

「もし、あの映像の僕たちが…『艦娘』が、仮に全滅してしまったのであるならば…今現在、ショウさんの前に一人現れて生き残る形となった僕に出来る事は…何なんだろう?」

「時雨ちゃん…」

時雨は確かにあの戦いで命を落としたものの、結果的に時雨は箱根にやってきた。

正確に言えば、命は落としたものの復活した。

だが時雨は、それは自分自身だけに起きたと思っており、他の仲間たちは皆壊滅したのではないかと思っていた。

そしてその上で…時雨はあえてショウに対し、「自分に出来る事は何なのか」と問うのだった。

ショウは10秒ほど考えていたが、すぐに自分なりの見解を示すのだった。

 

「俺は…弔う事、そして過去を忘れない事だと考えている」

「弔う、こと…と、忘れない…こと」

「そうだ…俺としては、やはり己の過去と向き合う事が、大切だろうと考えている」

ショウは、時雨に対して「過去を忘れない事」と「弔う事」であると説いた。

あの戦いで唯一生き残った以上、時雨はその戦いの事を忘れてはならない…そうショウは思っていたのだった。

そしてそれと同時に、亡くなった人間を弔う事も大切であるとも考えていたのだった。

するとその言葉を聞いた時雨は、こう言葉を告げた。

 

「ショウさん、今の僕には2つ…どうしても、やりたいことがあるんです」

「時雨…」

「言ってみろ…それは何だ?」

奈美子が身を案じる中、時雨は自分がやりたいことを口にしようとしていた。

そして皇帝はそれらに対してお金を出すことを約束するのだった。

 

「1つは…箱根で培った実力がどこまで敵うのかを試すという事」

「時雨、それって…!」

「お前自身がどこまで走りを極めていけるかを試したい、という事だな?」

「…はい」

時雨自身、何百回峠を走り続けてきて「自分の実力がどこまで敵うのか」という事についてはとても興味があった。

そしてその事を時雨は、ショウに対しても打ち明けるのだった。

だが、それと同時に時雨はもう一つの願望を打ち明けるべく言葉を続ける。

 

「そしてもう1つ…僕は、自分自身の過去の経験と…もう一度、しっかりと向き合いたいと思うんです」

「ほう…」

 

 

「その上で僕は――――――――――」

 

 

「えっ!?それは…」

「やることは出来ると思いますが…ショウさん、どうなのでしょうか?」

「いいだろう…喜んでお金を出させてくれ。協力したい」

その要望と言うのは時雨にとってもそれなりにお金がかかる事は分かっていた。

だがその要望に対して、ショウは喜んでお金を出すことを告げるのだった。

 

「…本当かい?これもお金が必要だとは思うけれど…」

「俺もそれについてはやりたいと思っている…是非付き合わせてくれ」

「…だったら、私も付き合うわ」

「ああ、俺もだ」

「おおお、俺もっすよ!!」

ショウの言葉に連れられ、時雨の言葉を聞いていた他の仲間たちも「付き合いたい」と声を挙げるのだった。

 

「…みんな、じゃあ決まりだね」

時雨はにこやかな顔で、そう言うのだった。

こうして、時雨の要望の1つを叶えるためのある計画が始まろうとしていた。

(Epilogue2前半End。Epilogue2後半へ続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。