「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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番外編です。

もし書いてほしいという声が複数あれば、もう一つの物語も書いてみたいと思います。


エキストラエピソード
Ex「Someday At That Road(いつかあの路で)」


―――自身が斃れた場所へと向かい、過去と向き合いつつも鎮魂の祈りを捧げた時雨。

時雨の鎮魂の物語は、過去と向き合うまでの旅は終わりを迎えた。

だが、彼女にはまだやるべきことがあった。

その「やるべきこと」とは何か。

あの場所から戻ってきた時雨は、ある行動を取るのだった。

 

 

 

―――慰霊の旅から数週間後のその日。

 

 

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箱根全体のモータースポーツ文化の高まりと共に、遂に箱根にもサーキットが設立された。

今日はそのこけら落としとも言えるイベント、「D1地方戦」の開催日であった。

今回のD1地方戦では予選の単走を行い、その後トーナメント方式での決勝が行われる事となっている。

箱根サーキット西コースの中間地点には、既に例の参加者のマシンたちが今か今かとスタートを待ち望んでいたのだった。

 

「続いては、地元箱根の若手ドライバーが登場です」

ロケットバニーエアロを装着した青色のワンエイティがスタートラインの前に停車する。

SR20エンジンを轟かせながら、アクセルを踏み込んでエンジンの回転数を確認する。

 

「(…緊張するけど、いつもの自分の走りをすればいい。さあ、行こう!)」

レーシングヘルメットをかぶったその人物はそう思っていた。

今回はナビシートには誰もいない。

だがそれでも、これまでの間でも何回か自分一人で走り込んできた。

だから問題はないだろう…そうその人物は思っていた。

目の前の赤いシグナルが増えていく。

そして5つ点灯し、それらのシグナルが一気に緑色に変わるのだった。

 

「―――!!」

「さあスタートォ!!」

ギアを切り替え、タイヤを少し空転させつつも加速していくワンエイティ。

透き通るような音を響かせながら、その車は最初のコーナーに向かって駆け抜けていくのだった。

 

 

 


 

 

 

「―――――」

予選の単走を終え、ピットレーンに入ってくるワンエイティ。

自分のブースに合わせるように入ってきたワンエイティは、ブースの手前に止まった。

エンジンをかけたまま、黒と青のレーシングスーツを着たドライバーがドアを開けて車を降り、ドアを締めた後に黒色のヘルメットを脱ぐ。

そしてそのまま、汗だくになっていた黒色のフェイスマスクも脱ぐのだった。

 

「ふう……」

もはや書くまでもないだろう。

その人物は…紛れもない、時雨だった。

彼女は「自分の実力でどこまで行けるのかを確かめたい」という願いを叶えるべく、D1グランプリの中でも下位のカテゴリである「D1地方戦」にエントリーしたのだった。

D1地方戦のエントリーの敷居自体は低い。

必要なライセンスに関しても比較的容易に取れるものであり、マシンの改造の幅も制限があるからだ。

彼女は、自分の実力を確かめるべく…そのファーストステップを歩むのだった。

 

「時雨!」

「!」

ヘルメットを脱いだ時雨に、相棒である奈美子、それにハルカとトーコが話しかけにいく。

 

「いい走りだったわ、予選は今3位よ」

「3位…」

初出場にして3位。下位カテゴリであることを配慮しても、初の公式レースであるという事を考えれば十分上出来な結果だろう。

だが、時雨にとってはもっと上に行けたのではないかと思うのだった。

 

「すごいですよ時雨さん!初めてでこんなに上の順位になるなんて…!」

「そ、そうかな…」

「とりあえずマシンの再調整のために、もう一度ガレージに入れましょう?」

「あ…はい」

ハルカが時雨の事を褒めるが、時雨にとってはあまり嬉しいという感情はなかった。

自分の実力を確かめるいい機会だとはいえ、どう反応すればいいかが正直分からなかった。

もっと上に行けたのか、それとも上出来なのか?

その部分はいまいちわからなかった。

時雨はエンジンが動いたままのワンエイティに再び乗り込み、ブースにワンエイティを入れるのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

推奨BGM

「最終コーナーはもう少し攻めれたんじゃねえか?やっぱり公道とサーキットじゃ色々違うからな。腕を磨かないと」

ブースに車を入れている間、ピットとサーキットの本線の間の部分…ピットウォールスタンドで時雨はスポンサー…神風のトオル、Dr.ソウイチ、そして相楽翔と会話していた。時雨は休憩のために蜜柑を食べていた。

トオルは最後のコーナーはもっと攻められたのではないかという事を指摘するのだった。

 

「そうだね…でも、大丈夫。すぐに慣れるよ」

レーシングスーツを纏った時雨は指摘に対して明るめに、軽く微笑んで答えた。

最初だから緊張しているということ自体は時雨でもよくわかっていた。

だからこそ、慣れればすぐに出来るようになる…そうも思っていたのだった。

するとその言葉を聞いたショウが、こう質問してきた。

 

「こういう公認のレースに出てどうだ?時雨…峠とサーキットでは、色々勝手が違うだろう?」

ショウはどこか時雨の事を心配するようにそう質問した。

やはり全てが整っているサーキットと、今まで走ってきた峠では何もかも勝手が違うのである。

 

「うん…初めてという事もあるけれど、やっぱり難しいね」

時雨にとってはやはりサーキットはまだ不慣れだった。

路面のうねりやギャップが多く存在する公道に対し、こちらは整備が十分施されたクリーンなサーキット。

路面だけでもやはり違和感があった。

 

「ショウさんに追いつくために必死で走ってきた時以上に、もっと必死にならないといけないんだなって思ったんだ。そう簡単に上位入賞が出来るとは…限らないんだね」

「うむ…そうだろうな。まあ、焦らずにじっくりやっていくと良いだろう」

時雨の感想に対し、Dr.ソウイチも理解を示すようにそう言った。

 

「今のお前さんは峠で一声上げたとはいえ、サーキットでは今日デビューしたばかりの新人。じっくりステップアップしていけばいいさ」

「そうだね…でも、僕の力とみんなの助けが合わされば…遅かれ早かれ、もっと上まで行けると思うんだ」

「上位カテゴリー、ってことか…ハッハッハ!まあショウとのバトルの時のような、あの走りを常に発揮出来るようになれば…お前さんには十分その可能性はあるぜ」

「ふふっ、そうかな…」

トオルが感心する中、時雨は決心を明確にするようにこう言った。

 

「僕自身の粘り強さを、そして死線を何度も乗り越えてきたその走りを…一人でも多くの人に、見せつけるくらいの気持ちでいたいね」

「フッ…お前なら、きっとできるよ。俺達も応援しているぞ」

すると、ショウがそう言った瞬間だった。

 

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「フフフ…いい覚悟よ。あなたがD1の世界で頭角を現すのも、時間の問題ってところかしら」

「ん?」

「誰だ?」

時雨の言葉に感心してそこへ現れたのは、時雨と同じくレーシングスーツを纏った、ロングヘアーのモデル体型の女性と…同じくレーシングスーツを纏った、髭を生やした金髪の男性だった。

時雨は女性の方には見覚えがあった。

 

「ナナミさん!」

「まさか、あなたが…」

「あの三刀流ドライバー、塚本奈々美か!?」

「それに隣の人は…まさか?」

塚本奈々美…もとい、”三刀流のナナミ”。

時雨をD1の世界にスカウトした、張本人だった。

時雨たちが九州・沖縄から戻って来てから1週間後、偶然峠を走っていたナナミに時雨と奈美子は出会っていた。

そして何度か共に走り込むうち、彼女は時雨に対して高い才能を見出し…D1の世界へとスカウトするのだった。

どうやら今日は連れの人物もいるようだ。

するとナナミが時雨に顔を合わせて、饗すようにこう言った。

 

「時雨、よく来てくれたわね。改めて歓迎するわ」

「こんにちは…まさか、来ていただけるなんて」

「フフ…やっぱりスカウトした以上、見に来ないとね。そちらの方々は?あなたのサポーター?」

「ああ、えっと…」

すると、軽く戸惑う時雨に対し彼らは各々に挨拶を始めた。

 

「初めまして、塚本さん。私は時雨君のチーム…『Time Rain Racing with GodWind Union』の代表、兼メカニカルアドバイザーの高島ソウイチです。『Dr.ソウイチ』と呼ばれています」

「同じく、メカニック兼レース監督の大久保トオルです。どうぞよろしく」

「…チームマネージャーの相楽翔です」

「ソウイチさんに、トオルさんに、ショウさん…ですか。皆さんが時雨のサポートを、ということですね。よろしくお願いします」

時雨のスポンサーとも言うべきドライバーたちが皆頭を下げた。

やはり塚本奈々美というネームはかなり大きいようだ。

まあ相手がホンモノのプロレーサーという事もあり、大人の対応という事もあるのだろう。

 

「時雨もいい人たちに恵まれているのね」

「えっと…そうですね。皆、とってもいい方ばかりです」

「フフ…いい姿勢よ。謙虚なのはいい事だわ」

「あ…はい」

「あっ、ナナミさんだー!お久しぶりですー!」

すると、マシンの整備を終えた奈美子たちが時雨たちの方へやってきた。

 

「あら、奈美子ちゃん。よく来てくれたわね」

「はい!ナナミさん、見に来てくれたんですね!トオルたちに挨拶を?」

「ええ。それと時雨に紹介したい人がいてね」

「紹介?」

すると、時雨たちに対して、ずっと話を聞いていた金髪の男性が口を動かした。

 

「塚本から話は聞いてるよ…お前さん、峠上がりなんだってな?」

「あ、はい…」

「あの、あなたは?」

「紹介するわ。私の先生とも言うべきレーサーの、日比野哲也さんよ。時雨と皇帝のバトルを、私と共に見ていたの」

「あのバトルを…ですか?」

そう時雨が言うと、日比野が自己紹介をするように口を動かした。

 

「日比野哲也だ、よろしくな。お前さんと皇帝のドリフトバトル、確かに見させてもらったぜ」

「…西野、時雨です。よろしくお願いします」

「相楽奈美子です」

「よろしく。皇帝とのバトルであれ程の走りが出来るなら、塚本がD1の世界にスカウトするのも、わからなくもないな」

「…ありがとうございます」

すると、日比野はふと疑問に思ったことを口にした。

 

「そういえば今回は、ワンエイティなのか」

「ええ、RZ34だとレギュレーションに引っかかるので…」

「それであのワンエイティってわけか…なるほど」

今回、時雨はRZ34ではなくワンエイティで出場していた。

レギュレーションという事もあるのだが、やはり時雨にとってのお気に入りはあのワンエイティだった。

ドリフトマシンとしても最適解に近いワンエイティだが、同時に自分自身が乗りこなす自信があるとも考えているのだった。

やはりあのRZ34は時雨にとっても明らかな暴力的スペックなものだった以上、時雨にとっては「本当に必要な時だけ引っ張り出したい」というのも半ば当然と言えば当然だったのだった。

 

「あの、ナナミさん」

「何?」

「今日は…このレースの観戦に来たんですよね。あとは日比野さんの紹介も?」

「それもそうよ。でも、それだけじゃなくてもう一つ目的があってね…」

「目的?」

するとナナミは改めてこう言うのだった。

 

「実はね時雨、あなたにどうしても会いたい、って人が…もう1人いるのよ」

「えっ?」

「ああ、そいつも塚本のスカウトを受けてな…今日のレースは参加しないそうだが、観戦には来ているらしい」

どうやら日比野側もそのドライバーの事についてはよくわかっているようだった。

 

「そうなんですか?」

「その人って…何者なんですか?」

時雨とハルカが口々に質問する。

 

「その人はね、ゼロヨングランプリで現在1位のチャンプなの。日比野さんとチャンピオン決定戦を見に行ったけど、とても凄い走りだったわ。あ、勿論ゼロヨン以外でも活躍できそうな素質は十分にあるわね」

「ゼロ、ヨン……?」

「ゼロヨンって言うのは、一言で言えば車の400m走のことです。全部話すとかなり長くなりますけれど、これがとても奥が深いんですよ」

「車の400m走…?そんな競技があるんだね」

ハルカが時雨に対して、説明するようにそう言った。

 

「紹介したい人って言うのは、そのゼロヨンで今一番速い奴だ」

そう日比野が言うと、遠くからあるエンジン音が近づいてくるのがわかった。

 

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「この音は…?」

「例のドライバーが来たようだな。行ってみるか」

「例のドライバー?」

「ええ。皆さんも来て!」

「え、俺達もですか?」

「…わかりました」

そう言って日比野が先頭で、ナナミ、時雨と一同が付いて行く。

日比野がピットレーンの停車スペースの前に立つ。

すると、ピットレーンの方に音を響かせながら1台のマシンが入ってきた。

そのマシンに対して日比野が手を振り、こっちに来るようにジェスチャーする。

そのマシンはどうやら先ほどまでテスト走行を行っていたのかもしれない。

一方でマシンの正体についてはソウイチやショウ、トオル、ハルカが口々にこう言うのだった。

 

「…V37、スカイライン?」

「いやまさか…スカイライン、ニスモじゃないか?」

「マジかよ…!」

「リリースされたばかりの新車が、もうここに…!」

ステルスグレーのV37スカイライン、それもニスモ。

それは、V37スカイラインの究極系とも言うべきマシン。

その車が今、サーキットにやって来ていた。

速度が30キロという速度だが、ゆっくりと近づいていく。

そして日比野が停止するようにジェスチャーして、彼の前でV37スカイラインニスモは停車するのだった。

なおその時点で日比野、時雨、奈美子、ハルカ、ショウ、ソウイチ、トオルなど…皆が既に待っていた。

そしてV37スカイラインニスモのライトが消えてエンジンが止まった後、マシンの運転席側ドアと助手席側ドアが開く。

そして次の瞬間にはドライバーと整備士の男が足を地に付けるのだった。

 

「さあ、紹介するぜ。このドライバーが、俺達が紹介したかった人だ」

「えっ…?」

「……!!」

「―――!!」

「―――!?」

「―――――!!!」

「!?!?!?」

「―――!!!!」

驚きの感情を浮かべる時雨たち。

時雨だけでなく、奈美子やハルカ、トーコやトオル、ソウイチ、さらにはショウまで驚きの顔をしていた。

皆が驚く中、車から降りたそのドライバーは、時雨に目線を合わせるかのようにこう言うのだった。

 

 

 

「やっ!…『また』、会えたね!!」

 

 

 

時雨たちが驚きの感情を顔にするのも無理が無い話だった。

助手席側の整備士の男はともかく、何せV37スカイラインニスモから降りてきたそのドライバーは…

 

時雨たちがよく知る、ショートヘアの…セーラー服に赤色の上着を着た、あの幸運な『風』の少女だったのだから。

 

 

だが彼ら、彼女たちは…いや、誰もがその瞬間である事はわからなかった。

この『再会』が新たな伝説の始まり…

後に「浜の雪風、箱根の時雨」と称される「伝説の2人組女性ドライバー」が主軸となるレーシングチームの誕生の瞬間、となる事は…誰も知らないのだった。

 

 

 

 

雪風ゼロヨン編に続く…?




ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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