「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第4話です。
遂にアフロ男との戦いが始まります。


act.4「Return of Afro(アフロ再び)」

時雨が箱根に現れて1週間近くが経過した。

仕事も順調にこなし、少しずつ車のパーツにも触れる機会が増えてくるころ。

経験も知識も順調に増えつつある中で、時雨は少しずつ走りへの知識も蓄えつつあった。

 

 

そして…この日、時雨たちは「神風連合」に太刀打ちできるように、最終調整のために第二葦柄峠にいたのだった。

 

 

推奨BGM

 

―――カーファクトリーピット。

 

「ん~?おっ、ここだ。この工場だな!」

赤いAE86トレノに乗ったアフロの男が、「ピット」に車を横付けするように止めた。

車から降り、店の中に入る。

 

「おい!誰かいねえのか!?ああ~ん!?」

店の中を見渡すが、誰もいない。

と思いきや

 

「はーい、いらっしゃいませ!『カーファクトリー・ピット』へようこそ!」

繋ぎを着たメカニック風の女性が店の奥からやってきた。

 

「どのようなご用件ですか?」

「なっ?か、カワイイぜぇ…!」

アフロ男は一瞬でメカニックにデレデレになってしまった。

 

「ね、ネエちゃん!おお、俺様と一緒にドライブを……」

しよう、と言いかけたところで彼は正気を何とか取り戻した。

今はそんなドライブどころの話ではないのだ。

 

「はっ、そうじゃねえ!ゴホン…な、ナビ子とかいう女と、時雨って新参者はいるか?」

「奈美子さんと時雨さん…?お2人とも、ちょっと前までいたのですが…」

メカニックの女性が答えた。

 

「ちっ、行違ったか…。まあいい。姉ちゃん、今から言う事を奴らに伝えろ!」

そう言ってアフロの男は伝言をハルカに伝え、どこかへと去っていった。

 

 

―――十分後、第二葦柄峠。

二人はスタート/ゴール地点の駐車場で休憩して、車外でペットボトルのお茶を飲んでいた。

 

プルルルル、と奈美子の携帯が鳴る。

「もしもし…ハルカちゃん?うん、さっきはありがとう。どうしたの…?えっ、ついにあのアフロが!?」

それを聞いた時雨の顔が少しだけこわばった。

 

「…ふむふむ。自称『精鋭チーム』の…『アフロディーテ』ね。「逃げるなら今のうちだぜぇ!」…か」

どうやらあのアフロ男はチームのリーダーらしい。

しかし奈美子はそれをあまり意に介さないかのように言った。

「大丈夫、なんてことないわ!うん、わざわざ電話ありがと!」

そういって電話を切った。

電話を切った奈美子に時雨が話しかける。

 

「奈美子、ついにあの時の人が…?」

「ええ。時雨、ついに来たわ…私たちの練習の成果を見せてやりましょ!」

奈美子のその声はどこか自信に満ち溢れていた。

しかし一方の時雨の反応は

「う、うん…頑張るよ。」

どこか緊張しているかのようだった。

 

「…それで、何処に行けばいいんだい?」

「第一葦柄峠よ。さ、行きましょ!」

「うん…わかった」

そう言って2人はワンエイティに乗り込み、駐車場を後にしたのだった。

 


 

 

5分後。

第一葦柄峠と第二葦柄峠は車で行けばモノの数分で着いてしまう距離にあった為、例のアフロ男が指定した第一葦柄峠の往路スタート地点駐車場には5分もかからず辿り着いた。

そこは、奈美子たちと時雨が初めて出会ったあの場所だった。

そして駐車場にいたのは彼を筆頭にした10人ほどの男たちだった。

 

推奨BGM

 

 

「この人たちが…?」

「ええ、この人たちみたいね」

集まった男たちを見て時雨と奈美子が言った。

男たちの前でワンエイティが止まり、エンジンを切った。

そしてドライバー二人が車から出た時だった。

 

「お、おいおい…こりゃあ…」

「女…?」

「コイツらが?」

「冗談だろ」

「かわええ…」

男たちの反応はどちらかと言えば驚きに満ち溢れたものだった。

ざわめきが嫌でも聞こえてくる。

そりゃそうだろう。

基本的に男社会である走り屋の世界において、こうも美人な女性2人が走り屋として走っているなんて、異端児と言っても当然だ。

 

「…僕たち、とんでもないところに来ちゃったんじゃないかな」

「大丈夫よ時雨、落ち着いて。あなたなら何とかなるわ」

時雨がぽつりと呟いた。

周りの男たちの反応に困惑していたのだ。

しかし奈美子は時雨を落ち着かせるようにそう言い返した。

 

そして、群衆の中心にいたリーダーのアフロ男がワンエイティの方に近寄ってきた。

「よく来たな!度胸だけは褒めてやる!今日は俺達のチーム『アフロディーテ』が…って、あぁん?」

アフロ男は何かに気が付いたかのように口を止めた。

セミロングの黒髪を後ろで一つ三つ編みにし、先っぽを赤いリボンで括っている。しかもご立派なスカート、更に胸もそこそこある。

その姿はまごう事なき女の姿だった。

 

「おめぇ…あの時は気が付かなかったが、まさか女だったのか!?」

軽く時雨はこくりと頷いた。

アフロ男はどこか動揺したかのように言った。その声はどこかデレているかのようだった。

あの時は気が付かなかったが、まさか自分が負けたのがこんな女だとは。

男社会のイメージが強い走り屋の世界において、女の走り屋というのは希少価値が高いのは既に書いた通りだが、では実際に女の走り屋に出会った場合どうなるのか…はアフロ男の反応が一例だった。

 

「何よ、あの時気が付かなかったの?」

「……」

奈美子が呆れるかのように質問する。

時雨もヒロシを見て立ち尽くす。

 

「ち、ちょっと待て……(可愛いな)」

「えっ?」

「…?」

フラフラとどこかへ向かおうとしたアフロ男…アフロのヒロシを仲間たちが逃がすまいと取り囲む。

「どうしたんですかヒロシさん?なんか顔赤いですよ」

「まさかあんな女相手に喧嘩売ったんですか…?」

「い、いや別に……ち、ちょっとトイレ思い出したんだ!(くそ~~~っ、俺様のバカバカバカァ~~っ!!ナビ子の強引もあったとはいえあんなカワイ子ちゃん相手に喧嘩売るなんて、俺様も大人げねえってもんだぜぇ…!!どうする…?ここは事を穏便に済ませて帰ってもらうか…?でもチームメンバーの前で今更撤回するわけにもいかねーしなぁ…)」

そういってあどけない足取りでヒロシはトイレに向かったのだった。

ヒロシの内面はすっかり時雨に対して恋心を抱いていた。

完全に一目ぼれだった。すっかり時雨から毒を喰らい、勝機を保つのが困難なくらい、顔が赤くなっていた。

自慢のアフロからは汗がにじみ出て、とんでもなく緊張しているのはメンバーたちからでも一目瞭然だった。

 

 

 

推奨BGM

「(よし!何度か顔を鏡で確認したから大丈夫なはず…だぜぇ!)」

数分後、ヒロシがトイレから戻ってきた。

しかしその足取りはどこかおぼつかない。

すると「アフロディーテ」のメンバーたちがざわざわしながらチームメンバー同士で声を出し始めた。

「ヒロシさん、この女相手に負けたんですか…?」

「あんな奴に負けるとか…」

「だらしねーな…」

「よりにもよって女とは…しかもかわいい」

それらの言葉を制止するかのようにアフロ男はメンバーたちにこう言い放った。

 

「うぐぐ…お前らうるせえよ!黙ってろ!」

その言葉にチームメンバーたちはピタリと静まり返った。

 

「…まあ、せいぜい負けて吠え面かくんじゃねえぜぇ?」

時雨たちを向いてアフロ男は言った。

しかし奈美子はその言葉に気強くこう言った。

「それはこっちのセリフよ…聞いたわよ?実はアンタたちただの『神風連合』の傘下チームなんでしょ?」

「カッチーン!た、確かに俺たちは傘下チームだが心意気は『神風連合』そのものだっつーの!ナビ子、バカにすると痛い目見るぜぇ!?」

「いや、彼女は…」

「もう!私の名前は『ナビ子』じゃなくて、「な・み・こ」!間違えないでよね!?」

時雨の言葉を遮るかのように奈美子は言い返した。

しかしアフロ男はその言葉に対して気強く言い返した。

 

「ふん、威勢がいいのも今のうちだぜぇ?」

「……」

「こうなったら…よし、ツネヒコ!お前行け!こいつらへのつもりに積もった恨み、今こそ晴らす時だぜぇ!」

「えええ俺っすか!?」

「あたぼうよ!女子供相手でも容赦するなよなぁ!?」

「…は、はい!ヒロシさんの恨み、晴らさせてもらうっつーの!車をスタートラインに準備しやがれっつーの!」

そう言って、ヒロシの仲間の一人が車を用意するように指示した。

 

「…まあ、いいさ」

そう言って時雨と奈美子はワンエイティに乗り込んだ。

 

 

 


 

 

 

―――vsアフロのヒロシの舎弟、ツネヒコ

 

推奨BGM:DARK IN THE NIGHT(from SUPER EUROBEAT vol.7)

 

第一葦柄峠、往路スタート地点。

コースは第1コーナーの右直角ロングコーナー、第2コーナーの高速左コーナー、最終右ヘアピンと続いてストレートを駆けたらゴールとなるコース。

コイントスの結果は右レーン、時雨の180SX。左レーンはツネヒコの青い86 GT(ZN6)。

新型の車ではあるが、性能は決して高いとは言い切れない1台。

やり方次第では時雨には十分勝機はあった。

 

「久々のレースだ…ここで勝ってヒロシさんにいいとこみせるっつーの!」

「時雨、遂に実戦よ。準備は良い?」

「……」

「時雨?」

「…ああ、大丈夫。僕としても、譲れないものがあるから」

「…?」

そう言って時雨はハンドルをしっかりと握るのだった。

カーナビのカウントが10を示す。

それを見て時雨はアクセルを踏み込んでエンジンを吹かす。

一方の86側も呼応するかのごとくエンジンを吹かした。

メーターは常に8000回転近くを維持し、いつでもロケットスタートを決めれるようにする。

 

「………」

前方に視線を集中させ、心臓の鼓動を整える。

何回も走った道だが、何が起こるかはわからない。

誰が相手であろうと絶対に油断をしない…そんな心意気だった。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

カウントがGOを示した瞬間、アクセルを全開で踏み込んでミッションをDドライブへ。

一気に加速してスタートダッシュを決めるワンエイティ。

一方で青の86もスタートダッシュに成功したようだった。

 

「ふん…加速では少し向こうが速いかもしれないけど、こっちだって加速だけが全てじゃないっつーの!」

ストレートではワンエイティがボンネット分だけ先行するが、86も加速では負けていない。

第一コーナー、ドリフトゾーンの長い中速右コーナー。

時雨には多少分がある。

ドリフト開始のラインに迫る時雨のワンエイティ。

だが、ある事にツネヒコは気が付いていた。

 

「あいつ、オーバースピードか!?」

ほとんど減速せずに飛び込みかけるワンエイティ。

 

「っっ…無茶だ…!」

だが、その瞬間だった。

一瞬ブレーキランプがフラッシュしたかと思ったら、タイヤが左から右にぐいと向きが変わり、次の瞬間には旋回状態に入っていた。

一気にカウンターを当てつつ1車線の真ん中を線でつないだかのよう…まるで定まったレールの上をスライドするかのごとく、ドリフトして言った。

 

「う、うめぇ…!」

相手も感嘆するほど綺麗なドリフト。

何とか自分もドリフトを決めるも、その速度差は歴然だった。

アンダーに膨れつつある車を何とかハンドル調整で一定のラインに収める。

「た、立ち上がりなら…って、え?」

 

そう言った瞬間にはワンエイティはさらなる加速を得ていた。

86との差はぐんぐんと広がる。

 

「速えぇ…!」

第二コーナーである左カーブ。

このカーブは速度の乗る直角カーブだった。

このコーナーでもワンエイティはブレーキを一瞬踏んだと思いきや、一気にマシンを左に振り回した。

「っ…!」

負けじとこちらもサイドブレーキを引いてドリフトを決めようとする。

だが

「うわっ…!やっちまった…!」

コーナー進入のタイミングは良かったが、こんどはカウンターを当てるのが遅くアウトに膨れる。

スピードは落ち、みるみる差がついていった。

 

「くそ…!」

最後の右中速コーナー。

ここでもなんとかドリフトを決めるが、この時点でワンエイティは既にゴール直前のストレートに到達しアクセル全開だった。

 

「全然歯が立たない…!」

そう言っている間に、ワンエイティはゴールラインを駆け抜けていたのだった。

その差は歴然だった。たった数十秒のコースで3秒近くの差。

時雨の実力はとんでもないものだった。

 

◇ ◇ ◇

―――第一葦柄峠、往路スタート地点駐車場。

 

「つ、ツネヒコが負けた!?」

ヒロシはその結果に慟哭したようだった。

「す、すいませんヒロシさん…。アイツら、速いっす…!」

「…おい、何ぼさっとしてやがる!誰でもいいからこいつらをぶちのめしてやれ!」

ヒロシは多少動揺しつつも、チームメンバー達に時雨を何が何でも倒すように促す。

そしてその声に応じて、次のチームメンバーがバトルするように時雨をスタート地点へ移動するように指示するのだった。

 

「…まあ、いいさ。誰でも相手になるよ」

「誰が来たって同じよ!返り討ちにしてあげるんだから!」

そう時雨と奈美子は言い返すのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM:SOUND OF MY HEART(from SUPER EUROBEAT vol.24)

 

―――5人目。

ここでも時雨は第二コーナーの時点で1秒以上の差をつけて相手のNCロードスターをぶっちぎっていた。

 

「―――ここまでワンエイティのペースが全く落ちてない?」

ヒロシは驚愕していた。

なにせこれで5連チャンのバトル。

いくらスプリントレースだとはいえ、5回も走れば流石に疲れてくるだろう。

しかしワンエイティのドライバーたちにはその疲労の様子は全くもって伺えなかった。

それどころか、バトルを積めば積むほどさらに速くなっているのではないか?

そう思わせるほどの実力だった。

そしてそうこう言ってるうちに、2台はゴール。

ここまでの5戦は、ワンエイティがほぼ2~3秒の差をつけての圧倒だった。

 

「つ、次だ!次のヤツ、倒しに行け!!」

ヒロシはそう言うことしか出来なかった。

 

「―――ふう」

「お疲れ時雨、どう?疲れてない?」

「ありがとう、奈美子。僕は全然平気。まだ戦えるさ」

ワンエイティの車内。

時雨はそう言って奈美子から手渡されたペットボトルの水を飲んだ。

表情からしても、まだまだ余裕綽々と言ったところだろう。

 

「(時雨、走れば走るほど速くなってる…何て才能なの…)」

奈美子がドライバーシートの時雨を見て、そう確信するのは時間の問題だった。

 

◇ ◇ ◇

 

さらに30分近くが経過した。

この時点で時雨は既に10人以上打ち破った。

「アフロディーテ」のメンバーたちは誰も時雨の180SXを倒すことが出来ず、名乗りを挙げなかったドライバーたちもみな萎縮して彼女とのバトルを拒むようになっていた。

 

「ひ、ヒロシさん…」

「あの2人、滅茶苦茶速いっすよ!!」

チームメンバーたちがヒロシに憔悴しきった顔でそう言い放つ。

すると、遂に本丸が動き出す時が来た。

 

「うぐぐぐ…こうなったら、俺様が直々に相手するぜぇ!!ついてこれるのか?あぁん?パワーアップした俺様のハチロクと必殺のドラテク『アフロ走法』に、恐れおののきやがれ!勝負だぜぇ!!」

ヒロシが時雨たちに宣戦布告するかのようにそう言い放った。

 

「…いいよ。僕も譲れないものがあるから」

時雨は何かを察したかのようにそう言った。その瞳はもはや経験を積んだ兵士のような…そんな目だった。

だがその瞬間だった。

 

「(…ん?何だぁ?この感覚…)」

不思議と悪寒がヒロシの背筋をぬぐった。

彼女の言葉にはどこか迫力があった。

何かは知らないが、歴戦の修羅場を乗り越えて来たかのような…そんなものがあるように、ヒロシは感じていた。

 

「(…何でもないか)」

だが、経験不足のヒロシにとってはそれはあまりにも理解しがたいものでもあったのだった。

 

 

 


 

 

 

 

―――vsアフロのヒロシ

推奨BGM:ARE YOU READY(from SUPER EUROBEAT vol.14)

 

 

遂に並んだ2台のマシン。

左レーン、赤のAE86トレノ。右レーン、黄色がかった銀色のワンエイティ。

コースは往路で、既に記載した通り右直角ロングコーナー→左コーナー→最終右ヘアピンと続く。

遂にアフロディーテと時雨の戦いに終止符が打たれようとしていた。

 

「ここが正念場よ、時雨!頑張って!」

「…!」

奈美子の言葉に時雨はこくりと頷いた。

アクセルを踏んでエンジンの回転数を上げる。

カーナビのカウントが10を示す。

 

「ふふ…今回のためにオレは…!」

ヒロシはハチロクのエアコン部分に取り付けられていたスイッチを見て言った。

急加速装置…ニトロ。

この為になけなしの金を投げて買ってきたもの。

何が何でも勝つために買ってきたらしい。

「さあ行くぜ、あんなヤツに負けることなく頑張ってくれよハチロクちゃん!!」

2台のエンジンがうねりを挙げる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

「いくぜえええ…ってあれ?」

両者ともにスタートダッシュ。

しかしワンエイティがスペックの差もあって頭一つ抜きんでた。

 

「ちっ、前に…!」

だがまだ始まったばかり。

2台は互いのレーンを走りつつ直ぐに第一右コーナーに近づく。

 

「―――!」

当のワンエイティは左に一瞬ハンドルを曲げたかと思いきや、ブレーキを踏んでハンドルをすぐに曲げて車を滑らせる。

 

「…っ!」

「(うまい…!練習したとはいえ、フェイントモーションをこうも決められるようになるなんて…!)」

フェイントモーション。

コーナーとは反対方向にステアリングを切ることで、一度イン側のサスペンションを縮め、その復元力でアウト側により大きな荷重をかけてコーナリングするテクニック。一言で言えば振り子の原理の応用である。

時雨はどこか四苦八苦している部分もあったが、それでもフェイントモーションを決めるほどの実力になっていた。

傍から見るとトンデモない天才肌である。

 

 

「(うぐぐ…アウトじゃ不利だが…ここは我慢だぜぇ…!)」

ハンドルを何度もこじって修正するヒロシ。しかしそんな走りをしていれば少しずつ速度が下がるのも目に見えていた。

それでも気づかずに必死になってハチロクを前に進める。

何とかコーナー出口の立ち上がりも悪くはなかった。

そのまま第二コーナーの左カーブ。

このコーナーの突入も、ワンエイティはフェイントをきかせてコーナー内側まで迫るようにドリフトしていく。

 

「このときのために、だぜぇ!!」

ヒロシはエアコン部分のニトロスイッチに指を近づける。

タイミングは近かった。

そしてコーナーに突入し、サイドブレーキでドリフトをし始め、ハンドルを一旦ニュートラルにしてコーナー出口に差し掛かった瞬間だった。

 

「今だ!」

そう言ってニトロスイッチに手を伸ばし、スイッチオン。

後方から一気に押し出される感覚に襲われたかと思いきや、減速しかけていたハチロクは一気に加速しかける。

 

「って、あれ?」

だが、その瞬間だった。

彼は誤ってカウンターを当てすぎてしまったのだ。

 

「しまっ…!」

そして何より本来適切な場所でニトロを使うべきだったが、これを逃してタイミングがずれてしまった。

本来は可能な限り車が安定した状態でニトロを使わないと、車の後輪は大幅に暴れてしまう。

しかし彼のハチロクの場合、カウンターを当てていたハチロクはニトロを使った事で一気に後輪が不安定に。

結果としてあっという間にドリフトのバランスを崩してしまった。

必死になってブレーキを踏むが、車の後方部分が暴れ馬と化していたハチロクはそのままグルンと左回りにスピンしてしまった。

 

 

「うおおぉぉぉおおわぁーーーー!!!」

ハチロクの車内に悲鳴が木霊する。

アクセルを思いっきり踏み込んでいた為にマシンは一気にオーバーステアに。そしてオーバーステアを超えてハチロクは一気に右に回転してスピンしたのだった。

 

「ひ、ヒロシさーーーん!!」

レースを見守っていたチームメンバーたちも一斉に声を上げた。

そして結果としてハチロクは、右レーンに飛び出て路肩に乗り上げる形で停車したのだった。

 

「あ、ハチロクが!」

「……」

ハチロクがスピンした時、ワンエイティは既に最終コーナーの右コーナーの中間にいた。

奈美子のその声に、コーナー出口の立ち上がりで気が付いた時雨は軽くバックミラーを見た。

しかし一切動じることなくアクセルを踏み続け、ワンエイティはそのままゴールラインを駆け抜けたのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

推奨BGM

 

バトルの結果は誰がどう見ても明らかだった。

ものの三十秒で済んでしまうコースにおいて、ゴールでのタイム差は数十秒以上。アフロのヒロシの完敗だった。

 

ゴール地点の駐車場で駐車スペースにワンエイティを止めた奈美子と時雨は、ハチロクの帰還を待っていた。

そしてハチロクが何とか戻ってきた。しかしそのタイヤには路肩の雑草を踏んだのか草がこびりついていた。

事故とまではいかなかったが、その姿は見ている側からしても無残そのものだった。

そうしているうちに、ヒロシが車から出てきた。

 

「う、うぐぐ…」

その表情はサングラスに隠れていてもわかる涙目だった。

完璧にプライドをズタズタにされたようだった。

 

「ヒロシ、さん…」

ツネヒコが慰めるかのように声をかける。

すると時雨と奈美子がヒロシを見てこう言い放った。

 

「残念だったね。この勝負は僕たちの勝ちってところかな」

「何度やっても無駄よ、ヒロシ!いい加減負けを認めたらどうなの!?」

「くそー、ナビ子!ほえ面描くなよ!?」

奈美子の言葉に対し、負け犬の遠吠えの如くぎゃんぎゃん騒ぐヒロシ。

しかし時雨を見るとその態度は一変した。

 

「それに時雨ちゃん…だっけか。正直、悪い事しちまったと思うぜぇ…」

「えっ?」

すると時雨がそう言った瞬間だった。

 

「だから…だからこそ!詫びも込めて、いつか俺達3人でドライブに行こうぜ~!」

そう言って土下座するヒロシ。

チームメンバーたちもドン引きしていた。

ほぼ初対面の女性たちにいきなり求愛活動となればドン引きされるのも半ば当然だろう。

 

「……え、3人?」

「ぜっっったい行かないわよ!って、なんで時雨も巻き込んでるのよ!!」

「あ…僕も含んでるんだね…」

最初こそポカンとしていた時雨は苦笑いをするしかなかった。

すると、奈美子はヒロシに対しある質問を投げかけた。

 

「…ところであんた、『皇帝』について何か知ってる?」

「……皇帝?」

奈美子の質問に、時雨が疑問を抱いたかのように軽く聞き返す。

 

「…『皇帝』って、伝説の走り屋のか?そんな雲の上の存在な人、俺様はあった事も見た事もねえぜ!」

どこか自慢するかのような口調でヒロシは断言した。

なぜそうも自信満々なのかはわからなかったが。

だがそんな中でも時雨に対してメロメロだったヒロシは、まるでナンパしたいかのように時雨に声をかける。

 

「それより時雨ちゃん、これからドライブでも…」

「だーっもう!!なんでこうも時雨にデレてんのよアンタは!!」

「…あれ?」

すると、その声を遮るようにロータリーエンジンの車が3人の近くにやってきた。

比較的丸みを帯びたボディは白色の…車だった。

 

「誰だろう?」

「♪見苦しいぜヒロシ、まかせろ、こいつら俺が皆殺し♪チェケラ!」

そう言って車から出てきた、薄ら髭を生やしたラッパーの男がヒロシの方に迫った。

 

「あ、兄貴!来てくれたんですね!?」

「兄貴…?」

そうヒロシと時雨が言ったところで、兄貴と呼ばれた男が時雨と奈美子の方を向いてこう言った。

 

「YO!YO!お前らか、俺達『神風連合』をディスったってのは…。ちょっと噂になってるYO!バトルしたがってる奴らも多いYO!しかし潰すのは俺だYO!」

「うわー、何この人…」

奈美子はウザいと感じつつも、その男は言葉を続ける。

 

「YO!YO!次はこの俺が相手をやるYO!お前らにもソウルがあるなら、今からかかってきやがれYO!チェケラ!!」

「さすが兄貴、マジでカッコイイっす~!!」

どうやらこのサングラスをかけ、帽子を付けてヘッドホンを首に巻いた男は…ヒロシの上の存在らしい。

そして、ロータリー車に続けと言わんばかりにまた車たちが入ってきた。

どうやら人数にして10人くらいいるようだ。

すると、ふと奈美子は何かを思い出したかのように言った。

 

「…ちょっと、待ちなさいよ!こっちは今10人以上相手をしてきたのよ!?なのにまだバトルしろって言うの!?」

「走り屋なら車でバトル!どんなに有利不利があろうとバトルするのは礼儀と言ってもいいじゃないかYO!」

どうやらこの相手は直ぐバトルしたいようだ。

だがそれでも時雨はここまで10人以上バトルをし続けている。

あまり奈美子としてはバトルをしたいとは思わなかった。

 

「だからって……え?」

「………」

するとその声を遮るように、時雨が奈美子の前に左腕をかけて奈美子を制止させた。

 

「………」

「時雨…?」

腕を下げた時雨が奈美子の方に顔を向けて言う。

 

「奈美子…僕のことを、気遣ってくれてるんだね?」

「だって、あなたは…」

「ありがとう。でも、僕はいいんだ。」

その声は、どこか覚悟を決めたかのような声質だった。

 

「え…?」

「僕は、僕はこの人たちと戦いたい。走りたいんだ」

「でも…!」

「今は…譲る気はないんだ。走る事で…何かが、見えるような気がするから」

「時雨……」

その後姿はどこか闘志とやる気に溢れていた。

先ほど10戦以上こなしているのに全くもってタレていない…。

その姿は、初心者ドライバーとしては異様と言ってもいい程だった。

 

「お願い」

「~~~っ、わかったわ」

半ば時雨の言葉に押し出される形で、奈美子は止む無く了承した。

 

「でも、最低限マシンセッティング調整とタイヤ調整だけはさせて!不利な条件じゃ戦えないわ」

時雨の闘志を理解した奈美子は、せめてもの猶予をサイゴーに対し要求した。

 

「…OK、だがさっさと準備するんだYO!」

奈美子の言葉を聞いたサイゴ―も最低限の猶予自体は与えるのであった。

それを聞いた奈美子は、時雨に次の指示を促す。

 

「スペアのタイヤに変えるわ。私のS30Zのトランクに積んであるから、時雨も手伝って」

「う、うん…」

一瞬「いけないことをしたのではないか?」と言う顔をした時雨だったが、それは奈美子に気づかれることはなかったのであった。

 

アフロのヒロシを破り、次の相手に挑むことになった時雨。

果たして、時雨の進む航路はいかに……?

(第4話End)

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