「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で- 作:カービィ改二
アフロのヒロシを倒した直後、その上の存在に勝負を仕掛けられた時雨。
タイヤ交換をするという条件の上で、時雨はバトルをすることになる。
その姿には疲労という疲労がほとんど見られなかった。
奈美子は不安になりつつも、彼の車の調整を行うのだった。
「……これでいいかな」
「ええ。最初のうちはタイヤが温まっていないから気を付けてね」
「…うん」
ワンエイティの履き替えたタイヤを見て二人が話した。
最初の最初はどうやら温まっていないので注意が必要であることを共有し、二人は男たちの方に向かっていった。
「準備できたよ」
「よし、始めるぜ。カモン!!♪俺の名は『DJサイゴ―』愛車はRX-8、走りはサイコー♪チェケラ!!」
「アニキ、マジカッコいいっす~!おい!まぐれが重なって俺様には勝てたかもしれないが、連合一のラッパー、サイゴー兄貴には逆立ちしても勝てねえぜぇ!?」
男たちの中心にいたラッパー。その名の通りラップで自己紹介を行った。
そしてヒロシがそれを囃し立てる。
「…ラッパー?」
「ラッパーって車でのバトルと、関係あるの…?」
「YO!YO!いい気に合ってるんじゃねえYO!♪俺こそ箱根一最速のラッパー、ヒロシは所詮連合じゃ下っ端♪お前らと俺じゃ、ソウルが違うんだYO!」
「は、はぁ…」
「うわー、うざっ…」
二人の顔を気にせずラップ調で話す。時雨と奈美子はその姿にすっかり呆然としていた。
「何時聞いても惚れ惚れするラップだぜぇ!そんな華麗なラップに合わせハンドルをさばく兄貴の『ラッパー走法』は無敵だぜぇ!ざまぁみろ!」
「YO!YO!まずは俺のチーム『ラップトップ』がSO 相手してやるYO!そうだな…ヨシヒコ!お前行けYO!」
そう言ってラッパーはチームメンバーの一人を指さした。
「よっしゃあ、行くぜ!」
そう言うと男が早速車に向かっていき準備をしだした。
「…私たちも準備しましょ」
「う、うん」
そう言って時雨と奈美子もワンエイティに乗り込み、スタート地点へと移動していくのだった。
―――vsヨシヒコ
相手の車種は白のFTO。
コイントスの結果、左レーンはワンエイティ。右レーンはFTOだった。
推奨BGM:NOBODY KNOWS(from SUPER EUROBEAT vol.39)
互いのエンジン音が響く中、早速カウントが始まる。
「どんな奴だか知らねーけど、相手は女だしな…」
ヨシヒコはどこか高を括ったかのように言った。
「……」
一方の時雨もワンエイティの中で静かにハンドルを握っていた。
アクセルを踏み込んでエンジンを回転させる。
そしてそんな中でカーナビのカウントが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
FTOのエキゾーストが赤く光り、一気に加速する。
しかしワンエイティのスタートはどちらかといえば遅めだった。
スタートダッシュに失敗したのだ。
「時雨!?」
「…任せて」
「えっ?」
奈美子は動揺したようだったが、時雨は全くもって動揺していなかった。
先ほどから戦い続けていて、彼女には自然と自信がついていたのだ。
こんな相手なら僕でも勝てる…そんな自信が、見え隠れしていた。
ぐんぐんと離されるワンエイティ。
しかしすぐに最初の左コーナーがやってきた。
FTOはどちらかといえばドリフトに向かない。
そのこと前提で、FTOのドライバーはサイドブレーキを引いて強引にタイヤを滑らせた。
ハンドルを一気に左へ切ってタックインを発生させ、コーナーの内側のオレンジ棒…ラバーボールギリギリまで車が迫った。
ハンドルの曲げすぎによるオーバーステアが発生していたのである。
結果として速度は落ち、失速気味になる。
「っ…やっぱりFTOでドリフトは――えっ?」
FTOのドライバーがそう呟いた時だった。
まるで風が切り裂いたかのような感覚だった。
内側のワンエイティが、まるでFTOを眼中にないように追い抜いていったのだ。
「なっ…!?ニトロ使いやがったか、アイツ!?」
だが、そんな声を気にしないかのようにワンエイティはコーナーを突破し一気に加速する。
すぐ次の右コーナーに迫るが、お得意のフェイントモーションも最低限のフェイントで慣性を付けて一気に車を右に捻じ曲げる。
「ゼロカウンター…!?」
FTOのドライバーがそう錯覚させるかのような最低限のフェイントモーションだった。
コーナーでも殆ど速度が落ちない、完璧なライン取りだった。
そしてハンドルも一定角度をキープしたままドリフト状態をキープし続けている。
そのまま立ち上がって更にワンエイティは加速する。
「っっ…!」
FTOのドライバーも必死に追いすがる。
だがコーナーワークというコーナーワークで負けている以上、この時点で勝負は決まっているも同然だった。
多少スタートダッシュに差があったとしても、コーナーワークと立ち上がりで一気に差がつく。
それも、スタートダッシュでロスがあったとしてもあっという間に取り戻せるくらいに。
それくらい、実力差は歴然だった。
FTOがゴールを駆け抜けたのはワンエイティがゴールして3秒と0.5秒に満たない程だった。
所要時間30秒、3つのコーナーしかないこのコースでは圧倒と言ってもいいだろう。
その圧倒ぶりを見てサイゴ―が狼狽する。
◇ ◇ ◇
「ヨシヒコが、負けただと?」
その速さに驚愕したサイゴー。だがすぐ平然を取り戻して時雨たちの相手をするように促す。
「YO!YO!誰かこいつらを叩きのめしやがれ!まだライブは始まったばかりだYO!」
しかし時雨たちはその言葉に対して特に気にしていないかのようにこう言い放つのだった。
「…相手になるよ」
「誰が来たって同じよ!返り討ちにしてあげるんだから!」
推奨BGM:YOU GOT ME GOING CRAZY(from SUPER EUROBEAT vol.20)
6人目。
相手は赤のアテンザ。
アテンザがスタートに失敗したこともあり、バトルが始まって早々に時雨がリードを取った。
葦柄峠のアウト側である左レーンを走る180SXだが、それをも意に介さないかのようにスタート直後のストレート区間でどんどんリードを付けていく。
「っう…速い…!」
最初の右コーナーをグリップ同然の低速で走るアテンザ。
しかしワンエイティはそれに反してほぼゼロカウンター同然でドリフトを決めていく。
一つのコーナーワークで一気に差が付く。
そしてコーナー終盤の立ち上がり。
アクセルを踏み込み、グリップを回復させて加速するアテンザ。
だが
「…いない?!」
その差はアッと言う間だった。
アテンザがコーナー脱出時点で、ワンエイティは既に次のコーナーに入っていた。
「っ…!」
奈美子はサイドシートでこわばった表情をしていた。
これは速い。初心者であるはずの時雨にとってはあまりにも速すぎるスピードだ。
なのに時雨は進入スピードを意に介さないようにコーナーに突入していく。
そしてハンドルを一定角度にキープしつつコーナーのほぼ中央を駆け抜けていく。
「……」
時雨はただ前を見ているだけだった。
正確に言えば前方のコーナーとコーナー出入口の黄色線だけをただ見るだけだった。
雑魚に興味はない…そんな目だった。
もはやここに時雨の相手になるドライバーはいない。
奈美子も心の底で何処かそう思っていた。
最終の右コーナー。
ここでも時雨はブレーキを一瞬かけたと思いきやハンドルを右にくいと曲げ、ワンエイティをドリフトの姿勢に持っていく。
持ち前の慣性ドリフト…というべきなのか。
車をハンドル操作だけで機敏に曲げてはドリフトしていく。
アクセルはとにかく踏み続ける。
ゴールに向かって、1秒でも速く走り抜くために…とは、時雨は思ってこそいなかったが、実際はそう思われてもおかしくない程アクセルを踏んでいた。
そして時雨のワンエイティはゴールラインを駆け抜けた。
結果からすれば3秒以上の差がついていたのだった。
◇ ◇ ◇
パーキングに戻り、停止するワンエイティ。
「圧倒的ね…!まだまだいけそうな感じかしら、時雨?」
「…どうだろう?僕はとにかく必死に走っているだけさ」
奈美子は時雨に話しかけた。
時雨はその言葉をあまり気にしていないかのように言った。
「それであんなに速く走れるんだから、本当に才能があるのね」
「そうかな…。まあ、僕たちに降りかかる火の粉は振り落とすだけ…それだけだよ」
「時雨…」
不思議な言葉だった。時雨の表情には軽い笑みもある。
時雨は自覚してはいないが、どうやら走る事を楽しんでいる…?
奈美子はそう思った。
すると前に現れた車を見て時雨がこう言った。
「…次のドライバーが来たみたいだ。行こう」
「え、ええ」
前に止まった黒の86GTがパッシングをして、運転席から腕を出して「速く行け」と合図を出す。
次の相手のようだ。
その様子を確認した時雨はそのままワンエイティを動かし、再びスタートラインへ向かった。
さらに30分後。
あっという間に時雨と奈美子は「ラップトップ」のドライバーたち10人近くを皆倒していた。
「どいつもこいつも情けねえYO!それでもお前ら『ラップトップ』かよぉ!たかだか女二人のはずなのにYO!」
「す、すいません…!」
「あいつら、トンデモなく速いですよ!」
情けないと言ったサイゴーの檄が飛ぶ。
「こうなれば…俺が直々に地獄のリサイタル、始めるYO!『ラッパー走法』の前にひれふせYO!」
遂にサイゴー自身が出撃するらしい。
「うひょ~っ!待ってましたー!」
ヒロシがそれを待っていたかのように言った。
「…いいよ、相手になるよ」
時雨は静かにそう闘志を漲らせて静かに呟くのだった。
◇ ◇ ◇
―――vsDJサイゴー
推奨BGM:NEW DAY(from SUPER EUROBEAT vol.44)
左レーン、サイゴーの灰色のRX-8。右レーン、時雨のワンエイティ。
コースは復路で、左ヘアピン→右ロングコーナー→最終左ロングコーナーと続く。
戦闘力自体はほぼ拮抗と言うべきだろうか。
だが、テクニックではどちらが上かはわからない。
「………」
ハンドルを握る前に、両手それぞれを軽く握った。
もはやドライビンググローブと化していた手袋に、熱がこもる。
その意志は、とても強かった。
だが、奈美子にはそれが時雨の緊張のように思えた。
「時雨…緊張している?」
「…少し、自信が付いただけさ」
「えっ?(まさか、時雨は今まで本気じゃなかったの…?)」
まさに底の知れない何かが、時雨の手足に宿っていた。
時雨の手足はもはや葦柄峠を最速で駆け抜ける為の義足と義手同然だった。
これまで20人以上相手にしてきていて、完璧に時雨はコツをつかんだようだった。
2台がスタートラインに並び、カウントが始まる。
アクセルを互いに踏み、互いのエンジンが共鳴同然に響き合う。
3
2
1
GO!
2台が一気にスタートする。
両者ともにスタートダッシュで一気に加速する。
「ほう…やるじゃないかYO」
サイゴーが一人呟く。
スタート自体はほぼ互角と言うべきだろう。
そう言ってるうちに木が複数垂れかかっている最初の左コーナーが迫る。
オーバースピード気味に迫るアウトのワンエイティ。
適正速度に調整してコーナーに迫るインのRX-8。
「あいつ、オーバースピードかぁ!?」
バトルの様子を見ていたヒロシが叫んだ。
だが、その言葉を気にしないかのようにワンエイティは右向きにノーズを向けていた。
そして次の瞬間。
「っ…!」
「(ここだ!)」
思いっきりフルブレーキング。そしてすぐにブレーキを離してハンドルをぐいと右に曲げたかと思いきや、アクセルオンと共にそれ以上の角度で一気にハンドルを左に曲げる。
「(走りが違う…!?」
奈美子が驚愕する。
お得意のフェイントモーションが通常以上に炸裂している。
先ほどまでは冷静なゼロカウンダー同然だったが、今回は思い切って車を振り回している。
高揚の表れ…時雨の感情が、ワンエイティに共鳴していた。
「(時雨のテンションが上がってる…!今までの相手にしていた時とは、全く違う!!)」
コーナー出口。ここで時雨はアクセルを一瞬抜いたかと思いきや、再びフルに入れる。
コーナーのアクセルオンのタイミングもパーフェクト。
「Excellent +0.13m」…カーナビがそれを示していた。
「引き離される…だがっ、こちらのラッパー走法におののくがいいYO!」
そう言ってサイゴーはハンドルに備え付けられているニトロスイッチに指をかけた。
そしてRX-8が第1コーナーの終わりの黄色ラインを踏んだ瞬間だった。
「チェケラ!」
そう言ってニトロスイッチを入れる。
RX-8が立ち上がりで加速し、先行するワンエイティに追いすがる。
一瞬だけワンエイティのノーズより数cmだけRX-8が先行したが、時雨は全くもって動揺していなかった。
何故なら
「……NO!」
ニトロを噴射して追いついたはいいが、コーナーで一気にアウトに膨れる。
次のコーナーは右コーナーであり、時雨にとって有利だったからである。
フェイントを決めたかと思えば、直ぐにドリフト体制に入ったワンエイティ。
しかしRX-8はドリフト体制に入るタイミングが遅れ、アウトにじりじりとマシンが膨れたのだった。
「ダメだ…タイヤがグリップしないでアウトに膨れる…!」
アウトに膨れるRX-8を尻目に、ワンエイティは適正速度でコーナーを駆け抜け、立ち上がりであっという間に10m以上引き離したのだった。
「くそっ…!だが最後の…」
最終コーナー。このカーブはやはりサイゴーにとって有利な左の直角コーナーだった。
ここでもサイゴーはワンエイティがフェイントで決めてくるのだろう、だとしたら失速を見込んだその瞬間にぶち抜く…そう思った。
しかし
「……?」
ワンエイティがコーナーに入った瞬間、披露されたのは典型的なサイドブレーキを活用したドリフトだった。どうやら高揚の感情が収まってきたようだ。
ここまで来るとほぼコーナーの中央を走る、レールの上を走るようなそんなドライビングだった。
しかし、コーナーの速度は速かった。
いくらインについているとはいえ、ワンエイティはあっという間にコーナーを抜けて立ち上がった。
RX-8もワンテンポ遅れてコーナーを立ち上がったが、第二コーナーでのワンエイティのリードとサイゴー自身のミスもあって、その差は歴然であった。
「俺が…ここまで…」
ドライバーシートのサイゴーの口調は、すっかり元に戻ってしまっていた。
そしてそう呟いた瞬間、ワンエイティはゴールラインを駆け抜けたのだった。
「ま、まさかサイゴ―の兄貴の『ラッパー走法』が負けるなんて…!」
「♪す…少しだけ油断した、もう一度勝負。また、明日♪チェ…チェケラ!」
パーキングの端っこでヒロシとサイゴーが車から出て話す。
RX-8の前にはワンエイティが止まり、時雨と奈美子も車から降りていた。
「悪名高い『神風連合』も大したことないじゃない。ビクビクして損しちゃった!」
「僕の走り…が少しは効いたみたいだね」
時雨が静かに呟いた。
「く、ナビ子め…!相変わらず生意気な口を利く小娘だぜぇ…だがそこが…たまらねぇ!それに時雨ちゃんも…カッけえよなぁ…」
ヒロシが吠え面を書いた瞬間、プルルルルとサイゴーの携帯が鳴った。
サイゴーが電話に出る。
「HEY、ブラザー?…あっ!?ま、マスジさんですか!?すすす、すいません。それが、ホンのですね…ホンのちょっとの差で…負けてしまいまして」
「…?」
時雨の目に見えてもその光景は異様だった。
ラップ口調が素に戻っている以上、電話相手のマスジとは神風連合の仲間…上層部のドライバーなのだろうか…と時雨は思った。
「あの、その、すいません!今!今すぐ伺いますから!…おい、ヒロシ、行くぞ!マスジさんがブチギレ…!」
「まままま、マジっすか!?行くっす!!すぐ行くっす!!」
急いで愛車に戻る2人。
すると振り向きざまにヒロシがこう言い放った。
「お、おい二人とも!この勝負は一度お預けだぜぇ!!」
そう言って二人は愛車に急いで乗り込み、RX-8とハチロクは大慌てで何処かへ去ってしまった。
パーキングには2人と倒されたチームメンバーたちだけが残された。
「行っちゃったね」
「一時お預けって、もう勝負ついてたじゃない…」
「あ、はは…でも、あの様子だと次の相手は更に速そうな気がするんだ…」
奈美子の発言に時雨は軽く苦笑いをした後、真剣なトーンでそう言った。
「そうね…今は一旦ピットに戻って車を整えなおしましょ。あとはこれから更に頑張らないとね」
「うん…じゃあ、戻ろうか」
そう言って二人も「ピット」に戻っていったのだった。
神風連合の傘下チームリーダーを二人も倒した奈美子と時雨。
次に待つ相手は一体…?
(第5話End)