「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 2023 -いつかあの路で-   作:カービィ改二

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第6話です。
夜の峠で、葦柄の双剣の片割れが時雨に迫ります。


act.6「Twin Blade -First Half-(葦柄の双剣(前編))」

ヒロシ、サイゴーたちと戦って数日が経った。

すっかり仕事も様になり、今や初期的な事務や会計といった仕事だけでなく、車の整備にも時雨は手を出し始めていた。

仕事の呑み込みは早く、手先もそれなりに器用だったために徐々に幅を広げていくのだった。

カーファクトリーピットには既に時雨の個別ルームが出来、最低限のベッドとちゃぶ台が用意されているのだった。

 

 

 

―――夜。

ピットに併設されている住居スペースのダイニングにて。

仕事が終わった時雨とハルカは夕食を食べていた。

この日の料理は…ホッケの開きを焼いたものと野菜炒めとみそ汁と漬物、そして白飯。

机の上に用意された食事を食べ、時雨が箸をおいた。

「ごちそうさま」

「お粗末様です!どうでした?」

「うん、美味しかったよ。ありがとう」

時雨はカーファクトリーピットに住込みで働いている。

給料はアルバイト並みではあるが、衣食住のすべてに加えて車が宛がわれている事を考えてみると明らかにそれ以上の給料をもらっていると言ってもいいだろう。

何より、生活に必要なものも一色そろえてもらったのだから頭が上がらない。

そんなことだから、時雨に今できる事はピットで一生懸命働いて尽くす事だった。

すると、時雨が食べ終わった食事の食器を洗っている時だった。

 

「あれ…?」

「お客さんかな…見て来ますね」

何処か聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきた。

旧型のL型のエンジン音。

その顔は時雨もよく知る顔だった。

「こんばんはー!時雨いるー?」

「あ、奈美子さん!どうしたんですか?」

「時雨を夜の峠に誘おうと思ってね…いる?」

「いますよ、ちょっと待ってくださいね」

そう言って居住スペースに戻り、時雨を呼び出す。

 

「…どうしたの?こんな遅くに」

「ねえ、時雨。折角だし夜の峠にも行ってみない?」

「えっ…今から?」

時雨にとっては意外な展開だった。

今までがずっと昼のバトルばかりだったという事もある以上、夜のバトルというのを考える事は出来ていなかったのである。

 

 

「あっ、いいですね!峠のバトルは夜も結構盛んなんですよ」

奈美子の提案を聞いたハルカが勧めるように言った。

 

「…でも、近所迷惑じゃないかな?」

流石に夜間のドリフト行為は騒音などの問題があるのではないか?

時雨が疑問に思うのも当然と言えば当然であった。

だが、奈美子はその疑問をわかっていたかのようにこう言葉を続ける。

 

「そこについては、大体時間が決まっているの。夜はどんなに遅くても0時までがドリフト走行は許されているわ。それ以降は翌日の11時くらいまではもう一般道路と同じ感じになるけど」

「ああ、そうなんだ…やっぱり、走り屋もいるのかな?」

再び時雨が質問を口にすると、それに応えたのはハルカだった。

 

「箱根という場所が特別なこともありますが…走り屋って言うのは基本的に夜の方がメインなんですよ。峠で腕比べをしに、皆走りに行くんです」

「…じゃあ、いるんだね」

そう言うと奈美子が言葉を続ける。

 

「今日は週の中日だから何とも言えないけれど…一人で走るなら、あまり相手はいない方がいいと思うの」

「あ…そうかもしれないね。試しにだけど、僕も行こうかな」

「決まり!じゃあ早速ワンエイティで行きましょ!助手席に乗るわ」

「う、うん…わかった」

時雨がそう言ったところで奈美子はワンエイティが止まっているガレージの方へ向かい、S30Zを駐車させるのと引き換えにワンエイティの助手席に座った。

奈美子が助手席に座った後、時雨もそれに続くかのようにワンエイティの運転席に座るのであった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

 

―――1時間後、葦柄峠往路スタート地点パーキング。

―――1時間後、第一葦柄峠往路スタート地点パーキング。

第一葦柄峠を数回往復で走り込み、徐々に時雨も夜の峠になれ始めていた。

この峠のドリフトラインというのは発光機能があるらしく、夜の峠にも不慣れな時雨にもタイミングだけは分かるようにはなっていた。

そして二人はエンジンとライトを止めたワンエイティのすぐ左横で、休憩がてら会話していた。

奈美子から差し出されたペットボトルのお茶を軽く飲み、ペットボトルの蓋を締めたところで奈美子が話しかける。

近くにはそれなりに走り屋がいたが、彼女たちがあまり気にするものというほどではなかった。

 

「以前は1度BNワークスのチューンドカーとバトルした時に、1回だけ夜のバトルをしたけれど…改めて夜の葦柄峠はどうだった?」

「うん…夜の峠も、不思議なものを感じたよ」

「やっぱり新鮮かな?」

「…なんだか、僕にとっては夜の方が向いているかもしれないね」

それは奈美子にとっては意外な返事だった。

今までは昼のバトルばかりではあったが、まさか夜の方が意外と速く走れるのではないか?

そう奈美子は思った。

 

「そっか…でも気を付けてね。いくらコースが封鎖されているとはいえ、暗いから危ないこともあるし」

「ありがとう。気を付けるよ」

そう時雨が軽く微笑むと、聞きなれたエキゾーストノートが聞こえてきた。

駐車場に2台の車が入ってきたのだった。

 

「あれって…」

「あの2台は…?」

見慣れた赤黒ツートンのハチロクと灰色のRX-8。

駐車スペースに止まり、それぞれの車から出てきたのは…

 

「チーッス…」

「HEY、シスターズ…」

よく見慣れた二人だった。

2人が奈美子と時雨の元へやって来て話しかける。

 

「ヒロシ…と、サイゴー?」

「あれ、アンタたちどうしたの?随分しょぼくれてるじゃない、アハハ!」

「ちょっ、奈美子…」

軽く笑い飛ばす奈美子。

しかし2人の反応は暗いものだった。

 

「笑い事じゃねえよ、ナビ子。今日は忠告に来たんだよ、忠告。」

「忠告?それって?」

奈美子が聞き返す。

 

「お前ら、まずいことになっちまったぜぇ…」

「どういうことだい?」

まずいこと、が気になって時雨が軽く聞き返す。

 

「YO、YO。『神風連合』には『葦柄の双剣」と呼ばれる凄いドラテクを持った2人の実力者がトップにいるんだYO」

「双剣…?」

「その中の1人、「ドラゴンのマスジ」って人はブチギレると何しでかすかわからない、ニトログリセリンみたいな人なんだYO。その人に、目をつけられたみたいだYO…」

「僕たちが…?」

「で、そのヤバいマスジって人がバトルを挑みに来るって事?」

マスジと呼ばれる男がどうやら自分たちに注目しているらしい。

するとその時だった。

ヒロシとサイゴーの後ろにいつの間にやら立っていた、金髪のTシャツを着たチンピラ風の男がこう言い放った。

 

「…ヒロシにサイゴー、お前らこんなところで何油売ってんだ?あぁ?」

その声に振り返って顔を見たかと思いきや、二人は恐怖で腰をすくませてしまった。

 

「ひぁあああ!!ま、マスジさぁぁぁん!!丁度今あなたの話を…って、す、すいませーん!!」

「…てめぇら、使えねぇだけならまだしも敵にチクりか?…いい度胸してんじゃねえか!」

「ひょええええ!!ち、違うんですYO!ちょっと、その、忠告に…!」

チッ、と舌打ちするとマスジが時雨たちの方を見て言った。

 

「…あんたらかい?ヨソモノの分際でうちのチームの看板に泥塗ったってのは?あぁ?」

「…そうだけど」

「な、何なの?いきなり押しかけて脅迫まがい?そんなんじゃ私、ちっとも怖くないんだからね!」

その言葉に、軽く口をつぐんでいた時雨もじろりと睨み返した。

金髪のチンピラ風男の近くには、いつの間にやら黒いハッチバックが止まっている。

 

「な、ナビ子ー!いかすぜ、惚れ直しちまうぜぇ…じゃねえ!おい、悪い事は言わねえからやめろ!いくらナビ子がいるからって、時雨ちゃんもマスジさんには勝てねえよ!」

するとヒロシの発言にしびれを切らしたかのように、ヒロシをにらんだマスジが一喝した。

「…ヒロシ、サイゴー、おめえらいつまでもウロチョロしてんじゃねえよ!ひっこんでろ!!」

「ひゃああああああああ!」

「ほよえええええええぇぇぇぇぇ!!」

2人は大慌てで車に飛び乗り、去っていってしまった。

 

「さて、本題だが…うちら『神風連合』は界隈ではちょっと名の知れたチームでな。ぽっと出の連中にやられちゃ示しがつかねえってわけよ」

「…だから、僕たちとバトルをしてほしいって?」

「ま、そういうことだ。逃げたりはしねぇよな?」

その言葉を聞いて、時雨はこう言い返した。

 

「…いいよ。バトルするよ」

「時雨…」

「いい度胸だ…倒し甲斐があるってもんだな…」

そう言うとマスジはチラチラと周りを見渡し、チームメンバーがいる事を確認した。

 

「まあ、まずは俺のチーム『毒含竜』が相手になってやらぁ。そうだな…よし、ハルキ、おめぇ行け!」

「よっしゃあ!車を用意しやがれ!!」

マスジの号令に対し、チームメンバーの一人が威勢よく時雨にバトルを促すのだった。

 

「…誰だっていいさ。相手するよ」

「時雨、本当に大丈夫?さっきは言い返してたけど…」

「…任せて」

「時雨…」

奈美子は時雨の返答に不思議な違和感を感じていた。

 

 

 


 

 

 

―――vsハルキ

推奨BGM:MAHARAJA NIGHT(from MAHARAJA NIGHT VOL.14)

 

 

対戦車両は時雨と同じワンエイティ。だが、カラーは青。

左レーン、時雨のワンエイティ。右レーンは相手のワンエイティ。

コースは復路。

 

「(ふん…俺と同じクルマなら、まだいけるだろ)」

男は青のワンエイティの中でそう静かに思っていた。

 

「……」

もう一方のワンエイティに乗る時雨の手に、自然と力が込める。

ハンドルを握る力は、普段よりしっかりしていた。

互いに車をスタートラインに止め、互いにアクセルを踏み込んでエンジンの空ぶかしを行う。

そして自然とカーナビのカウントが始まる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

アクセルを踏み込む時雨の足に一気に力が入る。

昼間でもアクセルを踏むことは多いが、今の自分にはそれ以上にアクセルを踏んでいるように感じられた。

スタートダッシュを決め、一気に加速する。

あっという間に第一コーナーの右直角コーナーへ。

 

「(い、いけない!ブレーキを…)」

そう奈美子が思った瞬間、一気に時雨はフルブレーキを掛ける。

タイヤがロックされる感覚。

タイヤは完全に空転し、ハンドルを左に傾けて一気にドリフト姿勢へ。

アンダーステアに膨れるマシンを、ハンドルをこじらせて限界スレスレで制御する。

 

「(―――時雨の走りが違う!夜になるとこんなに攻めた走りをするなんて…)」

昼間の時とは違い、時雨の走りにはマージンが存在していなかった。

いや、マージンが完全に無いのは間違え。

正確に言えば、昼間の走行時よりも更にキレた走りになっていたのである。

もしこの走りにフェイントモーションのような走りになっていたらどうなっていたことか…奈美子は想像したくなかった。

 

「(―――――見える)」

時雨には自分の車が向かうべき進路…走行ラインが完全に目に映っていた。

脳裏に浮かぶベストライン。

それは、走行レーンのコーナーの外側から一気に内側に曲がっていく…文字通りのアウトインアウトであるのが時雨でもわかっていた。

 

「(何度も走ってきたからかな…もうこの峠の走りは、わかったような気がする)」

視界に浮かぶその一本の線をなぞるようにワンエイティを走らせるべく、時雨はハンドルとアクセル、ブレーキを操作する。

第二コーナーは右直角コーナー、コーナーの入口から出口までリアを流しっぱなしでアクセルを踏む。

ハンドルを一定角度にキープして、コーナーの終点で更にカウンターを当てて立て直す。

コーナーのロスを最低限にするように、ワンエイティは加速していく。

 

「速い…!」

相手はただ驚愕しているだけだった。

そしてそのままの勢いで最終の左コーナーへ。

ロングコーナーを失速が少ないまま突入し、リアを振り回して一気にインへ。

多少の失速こそあれど、ラインこそほぼ完ぺきでコーナーを突破した。

コーナー出口で再びカウンターを右に当て、態勢を整える。

視線を車内ミラーに向けると、そこには何とかコーナーを突破したワンエイティのフロントライトが見えた。

だが、この時点で既に1秒以上の差があるのは時雨でもわかっていた。

アクセルを踏み込み、そしてゴールラインを駆け抜ける。

 

「(ダメだ…負けた…!)」

ワンエイティの車内で男は諦めの表情を露にしたのだった。

結果的に2秒近くの差が出ていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

復路スタート地点の駐車場まで戻ってきた2台のワンエイティ。

駐車場の端っこにワンエイティは駐車していた。

その車内で時雨は一息つく。

 

「ふう」

「ざっとこんなもんって感じ?」

「…どうだろう?でも、まだいけるかな」

そう軽く時雨と奈美子は会話して車を一旦降りてマスジの元へと向かう。

それと同時に、敗北したチームメンバーを見てマスジが檄を飛ばす。

 

「す、すいませんマスジさん!負けました…」

「ハルキが負けただと?…俺の可愛い手下に土をつけるたぁいい度胸してんなぁ?」

そういうマスジに対して時雨は多少プライドを込めて言った。

 

「僕たちを倒したいんだろう?…誰だっていいさ。僕も譲れないからね」

「…おい、誰でもいいからこいつらをぶっ潰せ!!」

マスジは潰される前提で刺客を送ったが、どうやらそれでも実力はそれ以上だったようだ。

一方の時雨はどこか挑発するかのように言い返した。

 

それは自信の表れか、過信か?

それを知る者はいないが。

 

 

 

 


 

 

 

推奨BGM:TOKYO TOKYO(from SUPER EUROBEAT vol.58)

 

 

7人目。

コースは往路、相手の車は黄色のMR2。

MR2は右レーン、ワンエイティは左レーン。

スタート直後のストレートを駆け抜け、早々に第一コーナーに2台がほぼ横並びの状態で突入する。

右コーナーなのでMR2が多少有利だ。

 

ドリフトラインの黄色線で一気にブレーキを掛け、後輪をタイヤロックさせて態勢をわざと崩す。

だが

評価は「Good! +1.12m」。

夜の闇に油断したのか、どうやら少しタイミングが遅かったようだ。

MR2は少しタイミングが早かったのか、逆にコーナー内側に寄り過ぎていた。

 

「(外に膨れる…!)」

これまで何十回も走ってきていて、時雨は感覚をほとんど掴み始めていた。

それに何より、数戦走ってきていてタイヤの状況も把握できるようになっていた。

アクセルを半分ほど抜き、速度を数キロではあるが調整する。

すると速度が若干低下し、自分の手中に収められるほどの速度になっている事に気が付いた。

今まではブレーキを踏んで一気にハンドルを大きく曲げていたが、小刻みに曲げる事で速度の低下が少ない事に時雨は気が付き始めていた。

ハンドルをさらに調整し、車をレーンの中央から少しだけ左にずれた位置まで補正することが出来ていたのだ。

完璧とまではいわないが、十分にリカバリーは出来ていた。

 

「……わかった」

「え?」

時雨の一言に奈美子が軽く反応したが、その事に時雨はほとんど気が付かなかった。

ドリフトラインで一気にカウンターを当て、車を通常走行に戻して加速させる。

前を走るMR2を追いかけ、すぐ第2のコーナーに迫る。

ここで時雨はブレーキをドリフトラインのさらに手前から念入りにかけるようにした。

速度は80キロ台まで低下。

そしてその状態で、ドリフトライン通過時にハンドルを左に曲げる。

だが、その角度は先ほどまでとは異なり浅いものだった。

 

「(角度が浅い…!?)」

奈美子は時雨のハンドルさばきを見てすぐに感じた。

しかしワンエイティは時雨のやり方に答えるかのように、先ほどの第一コーナーの時より速度が速く感じられた。

0.数秒差ではあるが、その差はこのコーナーで一気に詰められた。

 

「…っ!?」

左サイドを見て、MR2のドライバーは動揺したかのように思われた。

コーナーを向こうのワンエイティが速く駆けている。

こちらは軽くサイドブレーキを掛けてドリフトしているが、向こうも同じ手段…というわけではないようだ。

ラバーポールが中央にあるのでブロックは出来ない。

あっというまにコーナーで差が付いた。

 

「嘘だろ…!?」

そのままコーナー出口で一気に立ち上がるワンエイティ。

そのスピードに乗ったまま、最後の右ヘアピンコーナーも半ば勢い任せでワンエイティはコーナーをクリアしたのだった。

1つのコーナーで勢いが付いたのを維持して、一気にコースを走り抜けた。

 

「信じられねーくらい…マジで速い!!」

 

MR2のドライバーはただ驚愕するしかなかったのだった。

結果は言う間でもなくワンエイティの圧勝だった。

 

◇ ◇ ◇

 

15人近くを倒したところで、マスジがしびれを切らしたかのように言った。

 

「チッ、どいつもこいつも…仕方ねえ。この『ドラゴンのマスジ』が相手だ。俺の『黒い龍』ことシビックの咆哮、とくと味わいやがれ!」

シビックの前で、マスジが言い放った。

 

「…わかった。始めようか」

時雨は軽くそれに言い返すだけに過ぎなかった。

 

 

 


 

 

 

―――vsドラゴンのマスジ

 

推奨BGM:MUSIC IS THE FREEDOM FOR THE NATIONS(from SUPER EUROBEAT vol.62)

 

マスジの車はライトチューンの黒いEK9シビック。

緑の線…ステッカーが縦に描きこまれていた。

左レーンにシビックが止まり、右レーンにワンエイティが並ぶ。

コースは往路なので、右→左→右とコーナーが続く。

 

「……」

スタートライン前に停止したワンエイティの中で時雨は手をグーとパーにして感覚を確認する。

多少の疲労こそあれど、この相手位なら大丈夫そうだ。

すると時雨の様子を見た奈美子が身を案じるかのように話しかけた。

 

「時雨…貴方も分かっているとは思うけれど、今日の走りはこれまでの昼の走りとは違うわ。」

「……」

そう言われてみた奈美子の顔はどこか「抑えてほしい」と言いたげだった。

言われてみれば今まで自分の特訓の結果の勘を生かしたものだった。

奈美子自身時雨に任せていたところがあるとはいえ、やはり最低限はアドバイスをする必要はあると考えたようだ。

 

「でも私はあえて…あなたにアドバイスはしない。この峠はもう何度も走っているから…きっと、あなたのやり方ならいくらでも速く走れるわ!」

その言葉に時雨ははっとした。

どこか自分のやり方が認められたかのような…そんな気がしたのだった。

 

「……わかった。やってみるよ」

そう言って時雨は頷き、再び前を見た。

 

カーナビにカウンターが表示される。

それに合わせてアクセルを踏んでエンジン回転数を上げる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

アクセルを互いに踏み込み、一気に加速する2台。

加速に関してはほぼ互角だった。

最初はロングの右コーナー。

二台のライトがコーナーを照らす。

マスジがサイドブレーキに左腕を伸ばす。

 

「(FFのドリフトを見せてやるぜ…)」

サイドブレーキをぐいと上げ、ハンドルを曲げてタイヤを滑らせる。

FF車であるシビックは本来ドリフトに向かないが、マスジはそれをFドリフトという形でドリフトに持ち込んだ。

 

「……!」

だが、ここは右コーナー。

時雨のワンエイティに分があった。

徐々に差が広き始める2台。

そして差が開く中でマスジはある事に気が付いた。

 

「(あいつ…あまりハンドルを曲げずにドリフトしてやがる!?)」

そう、十分なブレーキングを仕掛けてハンドルの操作を少なくする。

そしてコーナーでの立ち上がりでアクセルを踏みこんでマシンを加速させていく。

ドリフトのやり方としては十分すぎるほどだった。

コーナー出口に近づく。

 

「(だが…こちらにもやり方はあるんだよ!)」

コーナー出口に近づいてハンドルをカウンターを当てに少しハンドルを曲げる。

そしてその間にマスジの右手親指がハンドルのニトロスイッチに動いた。

ニトロが発動して一気に加速する。

しかも次のコーナーは左カーブ。

コーナーのアウトに少し膨れつつも、なんとかドリフトで突破する。

 

「っっ…アウトに…!」

自分の想像以上にアンダーステアが出て失速気味になる。

必死になってハンドルをこじらせ、アウトに膨れないようにギリギリまで修正する。

そしてコーナー出口のドリフトラインでカウンターを当て、加速する。

だが、その瞬間だった。

 

「(追いついて来やがる…!?)」

アクセルを踏みこむ瞬間、右サイドミラーが光った。

明らかに向こうが速い。

ニトロを使うタイミングを間違えたのか…そう思ったが、次の瞬間には黄銀色のマシンがシビックの右サイドを駆け抜けていった。

そして最終コーナーは右ヘアピン。

2台はほぼ互角の位置で、コーナーに突入した。

サイドブレーキを掛け、アウトに膨れないように調整するマスジ。

だが、言う間でもなくワンエイティに有利だった。

ワンエイティが一気に減速したかと思えば、コーナー途中では完全にシビックよりドリフトが速かった。

 

「(まさか…!)」

コーナーをシビック以上の速さで突破するワンエイティ。

コーナー出口で軽くカウンターを当て、そこからさらに加速していく。

ワンテンポ遅れてシビックもコーナーを抜けるが、ここまでやられるともう追いつけない。

スローインファストアウトがFドリに勝った瞬間だった。

ここからはアクセルをどんなに踏み込んでも絶対に追いつけない。

勝負はあまりにも呆気ないものだった。

 

「う、嘘、だろ……」

マスジはぶっちぎられた結果あっさりと戦意を喪失していたのだった。

 

勝者、ワンエイティ。

時雨はこれで「神風」の3人目の幹部を倒したのだった。

 

 

 


 

 

 

―――第一葦柄峠復路スタート地点パーキング。

推奨BGM

 

バトルを終えた2台が駐車場に停車していた。

周りには結末を見届けたギャラリーたちもいる。

周囲は大きくざわついていた。

まさか葦柄の双剣の片割れが敗れるとは。

その事はギャラリーたちもざわついていた。

 

「ま、まさか俺の『黒い龍』が、負けただと…?こんな、どこの馬の骨ともわからねぇ連中に?」

マスジはそう呟くと、膝を落としてがっくりと落ち込んだ。

 

「ま、マスジさん…」

そう言ってマスジに近寄ったサイゴーが慰めるかのように言った瞬間だった。

 

「お、俺は認めねえ…俺は認めねぇぞォォォ!!!」

そう言って暴走しようとするマスジを必死にヒロシとサイゴーが抑え込む。

 

「お、落ち着いてくださいっす、マスジさん!!」

「そ、そうですYO!落ち着いてください!!」

その様子を見て時雨が怪訝な顔をして反応する。

 

「ま、まだやる気かい?」

そう時雨が呟いた瞬間だった。

 

「…あー、『アフロ』の言うとおりだぜ、『ドラゴン』。少しは落ち着こうや。敗者は敗者らしく大人しく、な」

バトルを陰で見ていたのか、ターバンを巻いた男がゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

マスジのそばに近寄った後、男は時雨と奈美子を見てこう切り出す。

 

「あー、すまなかったな。アンタたち。こいつは見ての通り血の気が多いもんでね。」

「はぁ」

そう時雨が言うと、ターバンを巻いた男がマスジを説得するかのように切り出した。

 

「…おい、『ドラゴン』よ。あの結果からしてどう見てもお前の負けだ。素直に認めろ」

「あぁ…?俺が負けを認める?ふざけんじゃねぇぞォ!!」

納得がいかず反抗するマスジ。

すると、ターバンの男がマスジのシャツの胸元をぐいと巻き上げて静かにこう言った。

 

「…なんだその反抗的な態度は?お仕置きされたいのか?」

「うぐっ…わ、わかった。ケン。ここは一旦お前に預けるぜ」

どうやらターバンの男はかなりの威圧感を持っているようだ。

マスジが観念したかのように言うと、ケンと言われた男は掴んでいた手を離した。

 

「よし、それでいい。」

そう言うと男は、再び奈美子と時雨の方を見てこう言った。

 

「…あー、というわけで次は俺とバトルをしてもらいたい。」

「あなたは、一体?」

疑問に思った時雨が話しかける。

 

「あー、俺は『ターバンのケン』、『葦柄の双剣』の1人だ。このままじゃ俺達『神風連合』は形無しなんでな。連合の名誉にかけて、アンタたちを倒す」

そう言って腕時計を見るケン。

本当なら直ぐバトルに入ってもおかしくないのだが、ある事に気が付いたケンはそれをあえてしなかった。

 

「…だが、今日は時間制限もあるし、一旦引き下がらせてもらう。」

「時間?」

「あ…いけない。もう日が変わる時間よ。これ以降はバトルは出来ないわ」

奈美子が時計を見てそう言った。

時刻は既に0時近くだった。

ケンがバトルを延期した理由も納得できるものではあった。

 

「『ピット』にいるということは情報が出ている…数日もしないうちに呼び出すから、待っていてくれ」

男はどうやら時雨たちの情報を掴んでいるようだった。

その言葉に対して、時雨と奈美子は軽く頷いてこう返事をする。

 

「…わかった。車を整えておくよ」

「のぞむところよ!」

時雨と奈美子が互いに反応したところで、ケンは要件を終えたかのようにその場を去っていく。

時間制限の事を把握していたその場にいた走り屋たちも次々と解散するのだった。

そして言う間でもなく…時雨と奈美子も、ワンエイティに乗って峠を後にした。

 

ドラゴンのマスジを倒した時雨たちの前に姿を見せた、もう1人の『葦柄の双剣』ことターバンのケン。

不気味な雰囲気の男だが、何にせよ彼を倒すことが次の目標となったのだった。

(第6話End)

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