ルナちゃん「トレセン学園をぶっこわす!」――絶対全員を幸福にする皇帝と絶対改革を完遂する地方ウマ娘――   作:帝都ウマピヤヰ倶楽部

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第0期:会長選挙をぶっこわせ
同志〈なかま〉を探そう


「それで、トレーナー君。教室の使用許可はとってくれたんだろうね」

「ええ、バッチリよ」

 

 紙ペラ一枚の使用許可証を掲げるサブトレーナー。ルドルフは満足顔。

 

「でも、作戦会議をするならチームの部室でもよかったじゃない」

「隙あらば部室に連れ込もうとするな、君は」

 

 部室は冗談としても、作戦会議をするためにわざわざ教室を抑える必要はない筈である。

 

「積み重ねが必要なんだよ。今はね」

 

 口を挟んできたのはホープだ。実績と言っても、一体何の実績だろうか。

 

「ルドルフがちゃんと活動している、って実績」

 

 そう言いながら、サブトレーナーの掲げた許可証をひょいとさらうホープ。彼女はその一カ所を指でつつく。

 

「清掃用具を無制限に借りるのが目的だったんだろうけれど、ルドルフが同好会を作っておいてくれたのは僥倖(ぎょうこう)だったよ。考えたのはトレーナーさん?」

「そうよ。私を顧問ってことにしておけば、この子の無理を止められるしね」

 

 なにせ門限ギリギリまで清掃活動しようとするのがルドルフである。自主トレで門限を破る生徒は多いが、ルドルフのオーバーワークは学園生徒のため。方向性が見当違いである。

 

「でも。どうして実績を作っておく必要があるのかしら?」

「ルドルフは分かってるよね?」

 

 サブトレーナーの質問を、ホープはそのままルドルフに流す。

 

「ああ。生徒会を骨抜きにされないため、だな」

「そのとおり。選挙に勝つのは当然として、総務会議はそこからでも巻き返してくる」

「そうなの?」

 

 首を傾げるサブトレーナーに対して、ホープはもちろんと指を立てた。

 

「例えば生徒会執行部。今の生徒会則だと執行部員が選挙で選ばれる決まりはなくて、つまり会長に任免権があると解釈できる」

 

 じゃあそこで、総務会議がなんらかの譲歩と引き換えに執行部員の地位を要求してきたら?

 そんなことになれば、生徒会執行部が第2の総務会議になるだけである。

 

「結局、本気で学園業務を維持するためにはマンパワー、つまり総務会議の協力が不可欠だ。本当は、ルドルフを奇襲的に『お飾り生徒会長』にして、総務会議が油断したところで堀を埋めていくのがよかったんだけれど……ま、総会であそこまでケンカを売ってしまってはね」

「君だって楽しそうだったじゃないか」

 

 苦笑いするルドルフに、笑い事じゃないからねとホープは釘を刺す。

 もっとも、顔は正直なようだ。

 

「コホン……とにかく、ルドルフは総務会議と真正面からやり合わないといけなくなった。総務会議(マンパワー)を活用するために執行部役員(マンパワー)が必要だ」

 

 要は増員ということである。となればサブトレーナーの疑問は1つだ。

 

「アテはあるのかしら?」

「ないわけではないが、彼女は応じてくれないだろうな」

 

 肩を落とすルドルフ。

 そもそもアテがあれば、ルドルフは孤独に清掃活動をしていないワケで。

 

「え……なんでこっち見るのトレーナーさん」

 

 なんでと言われても、この場にはルドルフ以外にはホープしかいないのだから。消去法的にも仕方ないだろう。

 

「いっとくけれど、今回ばかりはルドルフにやってもらうしかないよ」

「無論だ、分かっているとも」

「その言い方だと、出せないわけではないのね?」

「家の伝手を頼ればね……でもそれは」

「ああ、生徒会執行部が総務会議と同じような場所になってしまう」

 

 総務会議を構成する常設委員会が「旧レース場付属校」の縁で結ばれているように。

 家門だの血族だのといった縁で作られた組織は、いずれ腐敗する。

 

「志を共にしてくれる友。そう、同志が必要だ」

「利害関係の一致でも、なんとかなるとは思うけれどね」

「言いたいことは分かるが、よりよい学園作りのためには利害の一致だけでは難しいこともあるとは思わないか?」

「言っておくけれど、ルドルフ。どうしようもない理想論だよ、それは」

「ん? 今のはよかったな。()()()ようもない()()……ふふっ」

「なんて???」

 

 なにはともかく、仲間を集めないといけないと話をまとめるルドルフとホープ。

 選挙に勝つこと自体は既定路線なあたり、なかなかの自信ではあるが……実際、選挙後を見据えた準備はしておくにこしたことはないであろう。

 

 なにせ時間がないのだ。

 

 生徒会長選挙は現在立候補受付中、その後に候補の公示、選挙活動期間があり、最後に全校生徒の投票をもって生徒会長が決定する。

 

 つまりたったの数週間。この間に同志を集め、新しく誕生する生徒会の執行部をつくる――――――間に合うだろうか?

 

「ん?」

「おや。これは……」

 

 ピクリとウマ耳を動かすホープとルドルフ。

 ワンテンポ遅れてサブトレーナーの耳にも微かな音色が届く。

 

「バイオリン?」

 

 管弦楽同好会の活動だろうか。それとも、誰かが個人で教室を借りて練習しているのか。ルドルフは良い音だと顔をほころばせる。

 

「邪魔にならないよう、あまり議論に熱が入らないようにしないとな」

「ルドルフは細かいなあ……ま、ドアを閉め切れば問題ないと思うけど」

 

 そう言いながら目的地のドアへと手を伸ばすホープ。ガラリと扉が開かれると、バイオリンの音色がより一層強くなる。

 

「え」

 

 そして目の前には、机の上に腰掛けてバイオリンを牽くウマ娘の姿が。

 

「やあ、思ったより早かったね」

「……誰かな、君は」

「部屋を間違えた、という訳ではなさそうだね」

 

 演奏が止まり、掛けられる言葉。途端に臨戦態勢に入る2人。

 サブトレーナー驚きで目を丸くする。

 

「シービー!? どうしてここに?」

「やあ、サブトレーナーさん。部屋、ちょっと借りてたよ」

 

 バイオリン奏者はミスターシービー。サブトレーナーが所属するチームのウマ娘である。

 彼女の担当は同僚である別のサブトレーナーなので、関わりはそこまで多くないのだが……。

 

「ごめんね? サブトレーナーの書いてた教室の使用許可、見えちゃってさ」

 

 ひょいと机から降りて、シービーはバイオリンを持っていない方の手をひらひら振る。

 

「さて、邪魔したね。私はこれで失礼するよ」

「待ってくれ。ミスターシービー」

 

 立ち去ろうとするシービーを呼び止めたのは、ルドルフ。

 

「素晴らしい演奏だったよ。しかし、君ほどの腕の持ち主が、どうして独りで練習を?」

「いや、練習はひとりでするものでは……?」

 

 シスカノホープが小さく漏らす。呼び止め方としては少し稚拙かもしれないが、しかし今回に限っては正解だ。

 ミスターシービーは自分の生き方を()()()()()。そんな彼女が、まさか練習風景なんてものを他人に見せるはずがない。

 

「さあ? どうしてだと思う、生徒会長候補のルドルフさん?」

「ま、まさか! 総務会議からの刺客……!?」

 

 ホープが再び臨戦態勢に。ルドルフは表情こそ微笑みを湛えたままだが、尻尾の動きから緊張しているのが見て取れる。

 3人の間に沈黙が走り、それから。

 

「……ふふ、アハハッ!」

 

 シービーが吹き出した。もう耐えられないと言った様子で。

 

「あー、ダメだダメだ。おかしくてしょうがないや。本当に面白いことをしているね、君たちは! ふふふ、あははっはは! ははっ、はっ。お腹痛いや、はは!」

 

 唖然としてシービーが腹を抱えて笑い転げる様子を見る2人。いやサブトレーナーも加えて3人。

 そんなシービーの後ろから、もう1人ウマ娘が現れる。

 

「気は済んだかよ、シービー」

「うん! もう十分ね、やっぱりアタシには向いてないって事もよーく分かった」

 

 目尻に涙を浮かべながら息を整えるシービーの代わりに、そのウマ娘は勢いよく頭を下げた。

 

「すまねえ! うちのシービーが迷惑をかけた」

「『うちの』って、エースのものじゃないでしょ」

「モノの例えだよっ!」

「……あの、いまいち状況が理解できないのだけれど」

 

 周りを置き去りにして漫才でも始めようかというシービーたちに、サブトレーナーはどうにか質問を繰り出した。

 

「ああ、ごめんごめん。ルドルフたちの本気がどのくらいなのかを知りたくってさ」

 

 でも想像以上に本気でビックリしちゃった。急に殺気立つんだもんとシービー。

 

「ったく。マジで殴り合いでも始まるのかと思ってヒヤヒヤしたんだからな、こっちは」

 

 そしてそんなシービーを小突きながら、もう1人のウマ娘が手を差し出してくる。

 

「カツラギエースだ。ルドルフのトレーナーさんだよな?」

「ええ……いえ、まだトレーナーではないけれどね」

 

 握手に応じるサブトレーナー。へえとエースはルドルフの方に視線をやる。

 

「じゃあ、今はルドルフの顧問ってところか?」

「顧問?」

「ああ、生徒総会の『脚本』を書いたのはアンタじゃないかって、もっぱらの噂だぜ?」

「……なるほど」

 

 むしろ自分が部外者ならそう思うだろう、とサブトレーナーは独りごちる。

 

 生徒総会の、総務会議の体たらくを暴露しつつの立候補宣言は()()()()()()()

 子供が自分で考えて実行したなんて、誰も信じないことだろう。

 

「ま。ルドルフが本気なのはよく分かった。それだけ分かりゃ十分だ。迷惑掛けて悪かったな、帰ろうぜシービー」

「待ってよエース」

「まだなんかあるのかよ」

「アタシ、2人の音色が聞いてみたいな」

 

 そう言いながら、シービーは一歩前へ。

 

「おい、もう義理は果たしたって」

「いいじゃない。それに、確かめるだけじゃもったいないよ」

 

 止めようとするエースを無視して、ルドルフへとバイオリンを差し出したシービー。

 一連の流れを眺めることしか出来ていなかったルドルフは、困ったように口を開いた。

 

「これは、どういうことかな」

「どうって、見ての通りだけど?」

 

 

 君がどんな音色を奏でるのか、聞いてみたいんだ。

 

 

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